【明城学院】シンジとアスカの学生生活5【LAS】at EVA
【明城学院】シンジとアスカの学生生活5【LAS】 - 暇つぶし2ch2:名無しが氏んでも代わりはいるもの
15/12/21 21:18:35.77 .net
★前スレまでに投稿されていた職人の方々★
「予告の人」さん
「台本屋」さん
「265の人」さん
「シンジとアスカは結婚する」さん
「方言エヴァ」さん(東北弁も) (仮)
「ごくたまに小ネタを投下してた者」&「大学生LAS」さん
「もうダメポ…_(┐「ε:)_無理書けない」さん (仮)
「勢いで書いてしまった後悔はしてない」さん (仮)
「フユツキ」先生
「短編」さん
「386」さん (仮)
「ATLAS」さん
「◆arkg2VoR.2」さん
「需要もないのに勝手に供給」さん
「通りすがり」さん
「脳内ポエムシンジ君」さん (仮)
名無しさん達
(漏れや間違いがあればご指摘ください)
(仮:筆名が確認できていない方の仮称)
素敵な作品をありがとうございます!!

3:名無しが氏んでも代わりはいるもの
15/12/21 21:55:59.20 .net
★前スレまでに投稿されていた職人の方々★
★4スレ目からの新職人さん
前スレ271からの「侵入社員」さん
前スレ436からの「22話分岐」さん(仮)
素敵な作品をありがとうございます!!
------
付け足すの忘れてすみませんでした… orz

4:名無しが氏んでも代わりはいるもの
15/12/21 23:24:29.85 .net
>>1
スレ立て乙です!

5:名無しが氏んでも代わりはいるもの
15/12/23 15:54:25.70 .net
こんにちは、通りすがりです
前スレ埋めお疲れさまでした…というか一人で随分消費してしまってすみません
特に職人さん方、スレを早期に流してしまって書きにくいと思います、申し訳ありません
前スレ>>613 1さん
いつも嬉しい感想をありがとうございます、励みになります
読んでくださった方々には感謝です
現在暇人間なので無駄にがんばっております…少しでもお楽しみいただければ幸いです
文化祭編、また少し続き行きますね

6:1/8
15/12/23 15:55:03.63 .net
「ほんまに上手く行くんか…?」
危ぶむ顔でケンスケのを追いかけるトウジ
指の先で眼鏡を直し、さらに大股になってずんずん進むケンスケ
「上手く行かせる。だって他にいい方法、あるか?
 シンジの性格からして、策を弄して搦め手から行っても拒絶される。上っつらじゃ感づかれる。
 だとしたら外堀埋めて、正々堂々、正面から民主的に頼むしかないだろ」
「…民主的なぁ」
ますます疑惑の目になるトウジ
「立派に民主主義だよ。ちゃんと多数決の形態を取ってるだろ。しかも企画が全て通れば、
 やりたい奴は誰でも参加可能。ラストを盛り上げるにはピッタリだろ。
 この作戦、毎年フィナーレ失速で悩んでる実行委員会が蹴るはずがない! 異論反論は
 俺がその場で却下する! 見てろ!」
「…めっちゃ策を弄しとるやん…」
聞いてないケンスケ
眼鏡を光らせ、急ごしらえの企画書(ルーズリーフの束)を掴んで怪気炎をあげる
「いいか、だから援護頼む! 行くぞ! …頼もーう!」
溜息つくトウジを従え、勢いよく『文化祭実行委員会臨時本部』の扉を開く
「投票、ありがとうございまーす」
「皆にもどんどん話して、広めてねー。私たちのバイト代もかかってんの。お願いっ!」
あえてぶりっ子キャラ全開で笑顔を振りまくミドリ
友人たちが面白半分で立ち止まる
「よそのクラスのバイトしてんだ?!」「あはは、何やってんのー。まあ自力でガンバレ」

7:2/8
15/12/23 15:55:47.53 .net
「えー、なんか皆冷たいー。私がんばってるじゃん!」
ぽってりした唇を突き出すミドリ
「でも面白いよ、これ。部活の方にもついでに広めとこ」「バイト代までは知らないけど!」
「これ2-Aで渡せばいいんでしょ? じゃ、無料ドリンクもらいにいこー。ラッキー」
「午前中は衣装チェンジもしてたし、よく考えるよね」「成功するといいね」「ファイトー」
「ありがと、よろしくぅ」
手を振るミドリ
片手の看板を見上げて、ふうとひと息
冷静にポイント集計するスミレ
残りのワッペンを数えながら歩き出す
横目で見ながらぶーたれるミドリ
「あー、思ったよりめんどくさーい。
 やるなんて言わなきゃ良かったかもー。結局、あたしたち二人だけだし。だいたい、
 謝りに行こうって言ったときすでに皆やる気ゼロだったよね。ふこうへーい」
「渚のあれで済んだ気になっちゃってたからね。今更謝るなんて気が重いんだよ、皆」
緩くウェーブのかかった前髪を顔の前から払いのけるスミレ
「もう関わりたくないって思うのも仕方ない。個人の気持ちの問題だし、強制はできないよ。
 それより、あたしはミドリがやるって言ってくれたことの方が不思議だな」
「あ、何それ傷つくー」
また唇をとがらせるミドリ
目を逸らして看板を持ち上げる

8:3/8
15/12/23 15:57:17.47 .net
「だってカッコ悪いじゃん。そりゃめんどくさいのは嫌だけど、言われっぱなしも嫌だし。
 …碇君のあの怒った顔見せられて、それで何もしないとか、あたしどんだけ嫌な奴?って」
顔を向けるスミレ
ちょっと口元に笑いを含む
照れまじりに怒った口調になるミドリ
「惣流のこと全部認めるのは、まだ無理。だって態度でかいのはホントだもん!
 同じハーフで帰国子女なら、ちゃんと周りに溶け込んでるスミレを見習えっての」
「あたしとはタイプが違うよ。それにあれはあれでキツイと思うよ、…そのキツイ原因を作っといて
 言うのは矛盾してるけど。…どうかしてた。今わかっても遅いけどね」
「ほらまたー。頭にくるならくるでいいじゃん。私まだ生理的には納得してないよ?
 だからただ謝るだけってのはちょっと…でも何かリアクションしたいとして、仕返し方向が絶対
 嫌なら、あとはできる形で応援する側に回るしかないじゃん。もちろん文化祭限定でだよ。
 …それと、これでまた堂々と渚君と話せるしっ」
跳ねるように階段を下り、つやつやした髪を弾ませるミドリ
苦笑するスミレ
「結局そっち? まあ、いいんじゃない。義務感とか開き直りで『やってあげる』になるよりは」
「そーゆうこと。まー、要するに、私なりにやってみたいことあった、だからやる、ってだけだよ。
 お祭りだしさ。私はもう資格ないけど、せめて惣流たちには、笑顔で終わってほしいじゃん?」
振り向いて、制服の胸に留めたワッペンをつっついてみせるミドリ
頷いて追いつく�


9:Xミレ 二人でまた看板を掲げて呼びかけを始める そろそろ勢いの落ちてきた文化祭の人波



10:4/8
15/12/23 15:58:23.53 .net
食堂で遅い昼食をとるシンジとアスカ
隅のテーブルの端っこで向かい合う
近くの体育館や多目的小ホールでは午後の部が始まり、音楽や演劇の声が洩れてくる
これが見納め!とばかりに声を嗄らしていた呼び込みの姿も今はない
人はほとんど見物に流れて食堂は閑散としている
目立たずに済むことに安堵しつつ、ちょっと苦笑いのシンジ
「『行くよ』って戻ってきたつもりなのに、こんなとこで呑気にしてていいのかな」
「何言ってるのよ。腹が減っては戦はできぬって言うでしょ。
 ほら、この私がおごってあげたんだから、ちゃんと食べる!」
「うん、ありがと…」
購買部に残っていた一番安いおにぎりのパックを開き、素直にかぶりつくシンジ
もぐもぐやりながらもう一度溜息
両肘ついて身を乗り出すアスカ
「何よ、まだ何か不満があるわけ」
「…不満って言うんじゃないけどさ」
飲み込んで、アスカをじーっと見据えるシンジ
「お昼食べるのも、ちょっとぐらい息抜きしたいのもわかるけど…
 でも、『どうせなら』って文化部の展示全部回ったり、空いてるからって普通にお化け屋敷
 入ったり、茶道部でお茶とお菓子もらって寛ぐのはどうなのかな、って思うかな、さすがに」
「な、何よ」
ぐっとつまるアスカ
上体を戻して軽く腕組みしてみせる

11:5/8
15/12/23 15:59:45.50 .net
「別にいいじゃない。私たち、昨日はバタバタして結局お昼休憩しかなかったし、今日は今日で
 午前中ほとんど接客だったし。働きづめでまともに文化祭楽しめてなかったもの。ちょっとぐらい
 羽根伸ばしたって、罰は当たんないわよ」
「…罰はともかく、皆に悪いと思うんだけどなぁ」
「何か言った!」
再びテーブルに乗り出して、ほとんど額と額がくっつきそうに距離を詰めるアスカ
突然迫ったアスカの髪の匂いにうろたえるシンジ
思わず笑ってしまう
「言ってない。…でも、ありがとう、アスカ」
「なにがよ」
まだむくれた顔のままのアスカ
覗き込まれた体勢のままで見上げるシンジ
「すごく楽しかった。…隣で笑ったり驚いたり、一緒に楽しんでくれる人がいるだけで、こんなに
 文化祭が楽しく思えるなんて、知らなかった。…初めて、人に囲まれるのが嫌じゃなかった。
 ありがとう。一緒にいられて、良かった」
たじろぐアスカ
言葉に迷い、結局いつもの台詞にする
「…ばーか。
 自分で壁作ってないで、もっと早く気づきなさいよね」
おでこをこつんと当てる
反射的に目をつぶるシンジ

12:6/8
15/12/23 16:00:27.78 .net
閉じてちょっと震えるまぶたを間近で見つめるアスカ
ひそかに微笑む
口調だけは強気で付け足す
「…絶対に避難するなって言ってるんじゃないの。怖かったら、逃げても隠れてもいいの。だけど
 楽しいことだってあるんだから、諦めちゃったら、もったいないでしょ」
額を離し、柔らかく見開いた目で見つめ返すシンジ
「…うん。…君といる方がいい。
 そうだ、ねえ、これからはさ、…いつもとは言わないけど、もう少しこうやって、皆の前でも
 普通にしてみない? もちろん、アスカが嫌なら、今まで通りでいい」
ほんのわず


13:かシンジを見つめるアスカ すぐに大きく笑う 「ま、少しならいいわ。…だけどキスは当然駄目、手を繋ぐとかもなしよ? そういうのは、  誰も見てないところでするから特別になるんだもの。大勢に見せつけて自慢する趣味もないし」 「そうだね」 一緒に照れ笑いするシンジ 安心したように身体を戻すアスカ 食堂を見渡す 軽音楽部か管弦楽部の公演が終わったのか、ぽつぽつ人が戻ってきている 「そうね、こんなふうに一緒にお昼食べるくらいなら、いいかもね。…そういう意味では、今日は  嬉しかったな。シンジと堂々と一緒に食事できたんだもの。しかも普通のカッコで」 制服の袖を引っぱるアスカ 着てたら休憩にならないというケンスケの一言で、コスプレ衣装は荷物と一緒に教室の中 他のコスプレメンバーも二人が抜けるのを文句も言わず承諾してくれた 「うん。…あとでケンスケや皆に、そのこともお礼言わなきゃ」 穏やかに笑うシンジ



14:7/8
15/12/23 16:01:18.25 .net
いろいろな人の配慮に囲まれていることを改めて実感する
時にはうとましいし、一方的に押し付けられたり、見返りを期待されることもあって、
優しく有難いだけでは決してない
それでもとどのつまり他人の間で日々を送っているということ
(自分で慣れて、馴染んでくしかないんだ。僕なりに。…一人じゃいられないってことに)
得体の知れない他人という不特定の塊
それでも一人一人は親しい人になりうるし、繋がっていける
その中で一番近い一人として今傍にいてくれるアスカの存在
一緒に同じ方向へ歩いていける人
シンジの微笑に戻った落ち着きに、自分も解放されるのを感じるアスカ
はにかみ混じりに笑い交わす二人
向き合っているだけでたわいないほど嬉しい
目と目で確かめ合い、どちらからともなく一緒に席を立つ
明るい色の髪を広げてくるりと振り返るアスカ
思わず見とれたのを隠さないシンジ
アスカも自然に微笑む
「休憩、終わり」
「うん。戻ろっか、皆のところに」
頷くシンジ
歩き出そうとしたところに声がかかる
「アスカ、碇君! 良かった、ここにいたのね」
「ヒカリ? どうしたのよ」
急ぎ足で近づいてくるヒカリ
はっとなるシンジ
「もしかして、教室で何かあった?! ごめん、いつまでもサボッちゃってて。すぐ行く」

15:8/8
15/12/23 16:02:27.01 .net
笑って首を振るヒカリ
「ううん、違うわ。大丈夫だから、二人はゆっくり戻ってきて。それを伝えたかったの。
 あ! そうそう、必ず中央廊下、通ってきてね」
「え? 遠回りになるじゃない」
けげんそうなアスカになぜか悪戯っぽい笑顔を向けるヒカリ
「いいから。それと、私、このまま実行委員本部に戻るからって、鈴原たちに伝えておいて
 くれないかしら」
「あ、うん。わかった」
「いい? 二人とも、必ず通ってきてね」
何度も念押しして去っていくヒカリ
訳がわからず顔を見合わせるシンジとアスカ
「…どうしたんだろう。僕らがいない間に、やっぱり何かあったのかな。それに中央廊下って、
 何のことだろ」
気にせず先に立つアスカ
「いいじゃない。行ってみれば済むことよ。百聞は一見に如かず、ってね」
「…そうだね。クラスの方とも関係あるのかな」
とりあえず食堂を後にする二人
徐々に人の流れが戻ってきている校舎
あちこちのクラスではぼちぼち片付けも始まっている
早々に解体されている大道具や仕切り壁、山積みされた元・飾り付け�


16:竄ィ品書きの類 祭が終わっていくというのに、妙に張りきって片付けている連中も見えるのがおかしい 種々雑多な賑わいを眺めながらゆっくり歩いていくシンジとアスカ



17:名無しが氏んでも代わりはいるもの
15/12/23 16:05:03.67 .net
*追記
途中に登場した「ミドリ」「スミレ」は
Qのヴンダークルー、北上ミドリ(ピンクの子)と長良スミレ(操舵士)です(ただし女子高生)
自分は顔がわからないと動かしづらいので無理やり出演してもらいました
ではまた、通りすがりでした

18:名無しが氏んでも代わりはいるもの
15/12/23 21:56:44.45 .net
>>14


19:名無しが氏んでも代わりはいるもの
15/12/25 00:01:52.34 .net
>>14
乙乙乙ー!
調子よさそうだねー
どんどん書いてってな




続きはよ

20:侵入社員
15/12/25 07:03:50.92 .net
クリスマスネタ…書きたかった…

21:名無しが氏んでも代わりはいるもの
15/12/25 08:42:30.65 .net
アスカに叱られたい

22:1/5
15/12/25 21:15:54.04 .net
こんばんは通りすがりです
今日は文化祭の続きではなく、番外としてクリスマスネタ一本行きます
一日遅れですがイヴの話として読んでいただければ嬉しいです
--------
終業式の夕方
街灯がともり始める時刻、並んで街を歩くシンジとアスカ
少し渋い顔のシンジ
「さっきはびっくりしたよ。昼間に終業式終わって別れたばっかりだっていうのに、突然家まで
 迎えに来いだなんて言ってくるから」
「どんな一大事かと思った?」
平然と微笑んでみせるアスカ
ちょっと頬をふくらませて頷くシンジ
「うん。…で、何かと思えば」
両手を見下ろす
手袋の指に食い込む大量の買い物
自分のバッグだけ持って前を行くアスカを眺めるシンジ
「…要するに、荷物持ちして欲しかったの?」
「違うわよ」
マフラーをなびかせてくるりと回るアスカ
後ろ向きになって歩きながら答える

23:2/5
15/12/25 21:16:45.73 .net
「ちゃんと言ったでしょ。クリスマスの買い出しに行くからエスコートして、って。
 マリが仕事遅くなるって言うから、急に私一人で済ませなきゃならなくなったのよ。で、
 どうせなら」
まだむすっとしているシンジを上目遣いに覗き込む
「…荷物持ち?」
「ううん。あんたと一緒に歩きたかったの」
ストレートに言われて、とっさに何も返せなくなるシンジ
茶化すでもなく真顔で見つめてくるアスカ
「…そんなの、いつもやってるじゃないか」
「冬休み中はいつ会えるかわかんないでしょ。あんたは年末年始にまた帰省するだろうし、
 こっちにいる間くらい、一緒にいる時間、増やしとこうかなって思ったのよ」
うろたえてしまうシンジ
勝気な笑顔から一転、睨むアスカ
「何よ、嫌だったら来なきゃいいじゃない」
「そんなこと言ってないだろ」
背を向けてずんずん行くアスカに追いつくシンジ
ちらりと視線だけ投げてくるアスカ
少し黙り、正直に言うシンジ
「…僕だってそうだよ。学校終わったばかりなのに、もう寂しい。…みっともないけど」
隣で上下するアスカの頭を見つめるシンジ
明日からは、何もなくても毎朝並んで歩けた学期中のようにはいかない
口にして改めてその事実を噛みしめるはめになる
小さく溜息をつくシンジ
突然、横からぶつかってくるアスカ

24:3/5
15/12/25 21:17:35.47 .net
「うわっ」
両手がふさがっていて防げないシンジを素早く抱きしめ、ぐいっと顔を近づける
「え、アスカッ、…ちょっとっ」
周りの視線を気にして焦るシンジ
腕を緩めないアスカ
逃げられないシンジを間近でじいっと見つめる
小さく笑う
「…


25:正直に言ったから、許してあげる」 頬に軽くキスしてぱっと身を離す 真っ赤になるシンジ アスカの唇が残したかすかに湿った感触 頬が燃えるように熱いまま、置いていかれまいと人の流れに乗る 振り返るアスカ 悪戯っぽい笑顔で周囲を指さす 「馬鹿ね、誰も気にしやしないわよ。今日は」 つられて見渡すシンジ まばゆいイルミネーションの下をせわしなく、けれど楽しそうに歩く人々 ショーウィンドウに見入る二人連れ、繋がれた手と手、ツリーの下で堂々とキスする一組 言いながらも照れているらしく、自分も顔を上気させているアスカ にっこりするシンジ 「…そっか。クリスマスだもんね」 「そ」 頷くアスカ さっきより少しお互いの距離を縮めて、また歩き出す二人 「そうだ、クリスマスケーキは? まだ見てないけど」



26:4/5
15/12/25 21:18:11.59 .net
「あ、ケーキはいいの。ママがね、ドイツからシュトーレン送ってくれたから。
 今年は一緒に祝えないから、ってね。お詫びに、今年仕事先で見つけた中で、一番
 おいしいお店のやつ予約してくれたんだって。小さい頃から毎年恒例だったの、ママは忙しくて
 手作りは無理だから、クリスマスシーズンまでに必ずいいお店を見つけて、そこのシュトーレン
 買ってきてくれるの。アドヴェントには届いて、もう飾ってあるのよ」
少し幼い笑顔になって喋るアスカを見つめるシンジ
「ナイフを入れるのは今夜が初めて。マリの味見も阻止したし。あー、食べるの楽しみ!
 …そうだ、シンジ」
熱っぽい笑みを残したままの顔を向けるアスカ
自然に目で微笑むシンジ
「ん?」
「帰ったら、少しうちに寄ってかない?」
きらきらした目で覗き込んでくるアスカ
大いにうろたえるシンジ
また耳たぶまで熱くなる
「…それって」
笑うアスカ
「何変なこと考えてんのよ。お茶淹れて、特別に最初の一切れ、ごちそうしてあげる。
 今日付き合ってくれたお礼と、約束守って毎日帰り送ってくれたことへの感謝ってとこ。…すぐに
 マリが帰ってきちゃうから、それ以上の何かを期待しても無駄よ」
怒ったふうを装って顔をそむけるシンジ
「…別にっ、期待とかそういうのはしてないよ」

27:5/5
15/12/25 21:19:01.29 .net
「嘘ばっか。期待もシタゴコロも、顔に全部出てるわよ」
「え…嘘っ、ホントに?!」
「ばーか。すぐ本気にするんだから」
「ええ?! 何だよそれっ」
心底おかしそうに明るく笑い声をたてるアスカ
むくれながらも結局許してしまうシンジ
天を覆っていた薄い雲が晴れ、冴えた夜空が覗く
イルミネーションの向こうを指さすアスカ
「あ。見て」
アスカの指の先に金色の円い月
にぎやかな街の灯りにも負けずに滴るような輝きを放っている
「きれい」
素直に呟くアスカ
頷いて、重い荷物を持ち直すシンジ
「…じゃあ、帰りはずっとあれを見ながら歩いていけるね。一緒に」
「うん」
シンジの笑顔を見てくっついてくるアスカ
腕に抱きついてしっかり掴まえる
その手の強く引っぱる力に身を預けるシンジ
「今日、来られて良かった。ありがとう、アスカ」
「馬鹿ね。お礼ならちゃんと家についてから言いなさいよね」
ますます混雑を増して行き交う人波の中、しっかり寄り添って歩いていく二人
しだいに高く昇る月が金色に地上を照らしている

28:名無しが氏んでも代わりはいるもの
15/12/25 23:48:02.26 .net
>>23


29:名無しが氏んでも代わりはいるもの
15/12/26 23:20:30.99 .net
>>23
乙乙乙ー!
両手が荷物で動かせない状態のキスとか
最高のシチュエーションだぁーね



次の作品はよ

30:名無しが氏んでも代わりはいるもの
2015/12/27(日


31:) 22:33:04.71 ID:???.net



32:名無しが氏んでも代わりはいるもの
15/12/27 22:47:07.72 .net
シンジ「アスカに年賀状書こうかな。ミサトさん、これ」
ミサト「自分で出してきて。はじめてのおつかいじゃないんだから」
シンジ「はい」

33:名無しが氏んでも代わりはいるもの
15/12/28 22:52:29.52 .net
>>27
宛名が「惣流·明日香·蘭格雷」と全部漢字

34:名無しが氏んでも代わりはいるもの
15/12/30 00:12:26.73 .net
はぁ~やっと帰ってこられた~
>>14
おおっ、通りすがりさんの文化祭編の続きが来てる~嬉しい!
お、ケンスケ作戦開始、トウジは助太刀というより巻き込まれ?
どんな作戦立てたのか、文化祭の行方をも変えてしまいそうな予感にwktk
おや、シンジ達の教室に現れた例の女子二人がカフェの宣伝を…
オトシマエは滅私奉公でつける、ってところかな
反省して謝罪しているだけ残りの女子達よりはまだマシなのかな…?
この二人、ミドリとスミレなのか、面白いポジションだなぁ
シンジとアスカ、カフェに戻ってないのか~
お化け屋敷、茶道喫茶でお茶、ランチもって、まるっきりデートだなぁw
アスカが一緒にいてくれるおかげで、人の中でもストレスを感じる事無く
文化祭を楽しめる様になったシンジの姿がとても嬉しい!
そして、それはアスカも同様、シンジといることで素直に嬉しさを感じられるんだね
ヒカリが二人のもとへ、なにか誘導しているね~ケンスケの作戦が発動しているのかな?
二人にとって、いや、文化祭を楽しむ皆にとって嬉しい事だといいなぁ
続き、めっちゃ期待してます!
>>17
侵入社員さん、リアルタイムじゃなくてもいいじゃないですか~
ぜひ、クリスマスネタを投下してください~
>>23
終業日の午後、アスカの買い物、シンジは荷物持ち?
アスカ、シンジと一緒に歩きたかったの、ってデートしたかったのね~
シンジ、午前中ずっとアスカと過ごしたのにもう寂しい、ってシンジの心の全部はアスカで出来てるんだなきっとw
そんな姿にキュンと来たアスカ、シンジを抱きしめて頬にキスを…温かくて柔らかくて…悶絶!
月明かりのもと、じゃれ合って歩く二人、この後はアスカの家でキョウコさんが送ってくれたシュトレンを頂きながら
二人でイヴを過ごすのか~ …マリが帰ってくるまではw
いやぁ~じゃれあう二人の姿が愛に溢れていて、読んでいるオイラも幸せな気分で悶絶です!
とっても温かいステキなお話を有難うございます!次回も悶絶させてください!

35:名無しが氏んでも代わりはいるもの
15/12/30 00:17:54.03 .net
>>27
おっ、これは分岐師匠ですか?
ドイツで家族と暮らしているアスカに年賀状を送るのね
シンジが描く年賀状、どんなのだろう
新年の挨拶の他に、どんな事を書き伝えるのかなぁ
続き期待してます!

36:名無しが氏んでも代わりはいるもの
15/12/30 02:42:28.09 .net
はよ

37:名無しが氏んでも代わりはいるもの
15/12/31 23:53:21.23 .net
通りすがりです
ぎりぎりになっちゃいましたが走り描きを一枚
今年、このスレに出会えて本当に幸せでした
何より「幸せな子供たちを書きたい」という願いをどうにか形にできて、しかも他の方にご覧頂けたのが嬉しかったです
皆様どうかよいお年をお迎えください
URLリンク(www.pixiv.net)

38:名無しが氏んでも代わりはいるもの
16/01/01 00:46:07.51 .net
>>32
おおっ!通りすがりさん!
4人の笑顔がステキです!
とても嬉しい光景を有難うございます!
そして、スレ住人の方々、
明けましておめでと


39:うございます! 今年もステキな出会いがありますように!



40:名無しが氏んでも代わりはいるもの
16/01/02 02:39:11.00 .net
新年あけましておめで






はよ

41:名無しが氏んでも代わりはいるもの
16/01/03 01:06:46.36 O2Nwh9Ix.net
あけおめー
やっとるかねー?

42:小ネタですいません
16/01/04 19:20:33.87 .net
「もしもし、…えっと、あけましておめでとう、アスカ」
『何よ、ちゃんとこっちに年賀状送ってきたじゃない。
 …でも一応、おめでと。馬鹿シンジ』
「…あは」
『?! 何よ?』
「あ、いや、別に。アスカの初『バカ』が聞けたなって思って」
『え…、ばーか、『初』かどうかはわかんないでしょ。あんたがこっちにいない間に、
 もうマリに言った後かもよ?』
「あ…そっか…」
『…、ちょっと、もう、何しょぼんとした声出してんのよ。嘘よ。初よ、初。今のが』
「ごめん。でもアスカこそ、声が慌ててる」
『うっさいわね。で、何の用よ』
「用っていうか…遅くなったけど、今年もよろしく、って言いたくて。
 それと、明日の夕方には寮に戻ってられると思うんだ。…ごめん、おばさんたちが思ったより
 引き止めてくれてさ。お世話になってるから強くは断れなくて」
『何言ってるのよ。恩義のある人に情と礼を尽くすのは当ったり前でしょ。でもそうね、夕方なら
 …ちょっとぐらい、顔見せに来てくれても、いいわ。家にいるから』
「! うん、行く。遅くなっちゃうかもしれないけど、必ず行くから」
『ばーか。あんまり待たせるんじゃないわよ』
「わかってる。最善を尽くすよ」
『よし。…あ、そうだ、シンジ、ついでにもう一個、『初』をあげる。いい?』
「え、何…?」
回線越し、耳元で意外なほどリアルに聞こえるキスの音
「…、…、あ、アスカッ」
『あ、今、顔真っ赤になってるでしょ! 馬っ鹿ねー。本番は、帰ってくるまでお預け。じゃね」
「え、うん、じゃあ東京で…って、もう切れてる…
 まあ、アスカらしいか。…ん? うわッ」
(……初膨張…)

43:名無しが氏んでも代わりはいるもの
16/01/04 22:18:01.61 .net
>>36


44:名無しが氏んでも代わりはいるもの
16/01/05 08:05:35.83 .net
>>36
おおっ!新年の挨拶編ですね!
シンジ、年賀状は送ったけどやっぱりアスカの声を聞きたいよね~
アスカの発する初バカは自分だけのものって感じのシンジ、
アスカのフェイントにショック受けるなんてカワイイのぅw
期待してるシンジをあしらったつもりなのに慌て声のアスカも萌える!
アスカの初キス(音)は二人会って本当のキスまでの約束ですね
アスカ、さっさと電話切っちゃったのは照れてるからなのかなぁ、カワユスw
シンジ初膨張乙!w
いやぁ~新年からとても嬉しいお話に出会えて超幸せですね~幸先良し!
有難う御座いました!
続編も期待してます!

45:名無しが氏んでも代わりはいるもの
16/01/05 22:54:21.04 .net
はよ

46:名無しが氏んでも代わりはいるもの
16/01/06 23:36:07.59 .net
遅れたけどあけおめ

47:1/8
16/01/07 23:26:54.83 .net
こんばんは
世の中明日から新学期だというのに未だに文化祭書いてる通りすがりです
まとまらないのは平常運転ということで、続き行きます orz
-------
文化祭終了まであと一時間
最後の熱気で賑わう校舎を通り抜けていくシンジとアスカ
食堂でヒカリに言われた通りゆっくり2-A教室に戻るつもりが、だんだん調子が狂ってくる
知り合いという知り合いが二人を見るなり声をかけてくる
普段ほとんど接点のない他学年からも気さくな言葉を向けられる
そこまでせずとも、視線や目配せ、興味深そうな表情になるだけなら軽く倍はいる
「お、ほんとにコスプレしてない」
「じゃあマジなのか!」「マジだろ、よその女子も巻き込んでたし」「やべ、ちょっと投票してくるわ」
「宣伝見たよー。すごいね、がんばるね」「部活の皆で票入れといたから!」
「お願いしますよ碇君、惣流様のあのお姿をもう一度拝みたいんですよ」
「そうだよ、俺、まだ改造バージョン見てないんだよ。頼むよー」「実行委員指名なんてやるぅ」
「あーもう解散ムードだったのに、これじゃ早退できないだろ」「責任取れよ? いや、冗談」
「これで企画倒れなんてことないよね?」「今年はサボんないで閉会式出るつもり」
「行ってきたぜ2-A。がんばれよ」「票、入れといたからな」「楽しみにしてるよー!」
怪訝ながらもとりあえず受け流していく二人
少しこわばってきた顔を見合わせる
ほとんどくっつきそうな互いの肩
硬く眉間に力がこもるシンジ
「やっぱり何か起きてるんだ。僕らがいない間に、どうなってるんだろう…?」

48:2/8
16/01/07 23:27:28.56 .net
同じくぎゅっと眉をひそめるアスカ
が、不快そうではない
「行けばわかるでしょ。ほんとに大ごとなら、さっきヒカリが言わないわけないわ。
 …まあ、知らないところで自分たちがネタにされてるらしいってのは、気に食わないけど」
不敵に微笑む
「どうせあのメガネ馬鹿がなんか愚かなことたくらんでるんでしょ。
 …平気よ、私。だから、あんたも」
言いさした横顔に一瞬だけたゆたう願いの色
受け止めて、頷くシンジ
素直に笑う
「うん。平気でいられる。…と思う」
「ばーか、彼女の前でくらいカッコつけなさいよ」
軽くシンジのおでこを弾くアスカ
そろそろ本館と別館を繋ぐ中央廊下
実行委員会の出張所や何個も並んで設置された臨時掲示板の列が見えてくる
その手前、直行する別の廊下からどこか耳慣れた声
相前後して立ち止まってしまう二人
「…ねえ、あれって」
「うん。もしかして」
目と目を見交わして覗いてみる
奥の教室の前に人だかり
人混みの真ん中から不思議に張りのある声が届く

49:3/8
16/01/07 23:28:01.70 .net
「…私たちが活躍できるかは、皆さんにかかってるんです。
 賛成してくれる人が多ければ本当に二人も戻ってきてくれるかもしれない。そのために、
 私たちに、皆さんの声を貸してください。…あっ」
突然声を呑んだレイの視線を追って振り返る一同
その注視を集める恰好になって慌てるシンジとアスカ
「おおー」「あれが問題の」「ヤラセじゃないっぽい」「へえー」「なるほど」
好奇心を隠さないたくさんの目
たじろぐ二人
「…な、何だよ」
とっさにアスカを背後にかばうシンジ
と、前方でも同じように、手にした看板を背中に隠すコスプレ姿のレイ
「あ…駄目、まだ秘密なの。言わないで」
慌てた素の声で周囲を見回し、後ずさる
「…ごめんなさい。続きは別の場所で、説明します」
そのまま看板を抱えてぱたぱたと走り出すレイ
「え?!」「ここで切るの?」「何何ー?」「待って!」「よしきたー」
面食らった数人と面白がった何人かがレイを追いかけていく
残り数名も二人を気にしつつ撤収する
取り残されるシンジとアスカ
「…? 何がどうなってんのよ」
「今の、綾波だよね…? 秘密って言ってたけど、僕らに秘密ってことかな」
小さく鼻を鳴らすアスカ
「それしかないでしょ。ったく、ますます怪しいったらないわ」
困惑するシンジ
「どうする? まあ…ここまで来たら、言われた通り中央廊下通って戻るしかないけど」

50:4/8
16/01/07 23:29:28.18 .net
「そこが癪なのよね、上手いこと乗せられてるって感じが」
ケンスケ辺りを思い浮かべているのか、一種険悪な目つきになるアスカ
ふっと表情を緩める
「…けどいいわ。ここまで来て尻込みするなんて、主義じゃないし。
 それに、ヒカリとレイが中身を知った上で乗せられてる�


51:セもの。きっと大した面倒じゃないわ」 きっぱり言い放った語尾ににじむ別の配慮 何となく通じてしまうシンジ 「委員長や綾波のこと、信じてるんだ。…僕のことなら心配しないでよ。アスカがいるなら、  どこにだって、僕は行くしかないから。でなきゃ僕は僕でいられない。もう、そうなってるんだ」 ぱっとシンジを見るアスカ 一瞬揺れる瞳の深さ 微笑 「…大げさね。…行きましょ」 「うん」 改めて中央廊下に踏み込む二人 無意識に警戒しつつ進んでいく 実行委員の駐在席は空っぽで、片付けに入ったのか広い廊下そのものが閑散としている 何となく掲示板を一つ一つ眺めていく二人 実行委員会からのお知らせ、注意事項 体育館などの主な公演日程表 全体のイラスト地図 やがて、真ん中の掲示板の前で二人の視線が固まる どちらからともなく立ち止まる



52:名無しが氏んでも代わりはいるもの
16/01/07 23:31:17.56 .net
一応支援
はよ

53:5/8
16/01/07 23:31:35.05 .net
『文化祭写真コンテスト 一般投票ランキング中間発表』
模造紙にマジックの文字列の下、文化祭の時間を切り取った幾つもの写真が貼られている
スマホ撮影のいかにもな記念写真風から、写真部が撮ったらしい本格的なスチールまで
多数の応募写真から特に得票数の多かった十数点が大きく上部に掲示されている
「…なんで」
袖口を引っぱられるシンジ
見下ろすと、ぎゅっと捕まえているアスカの白い指
無防備に目をみはった横顔
「私たちが、こんなにいるの…?」
答えられず、ただアスカの手をほどいてちゃんと握りしめるシンジ
見つめる二人の目の前に並ぶ写真の群れ
その大半に写ったシンジとアスカの姿
接客中の二人 看板構えた校内巡回の二人 コスプレのまま休憩する二人
不思議と、どちらか一人ではなく、必ず二人のところを捉えているものが大多数
得票が多い写真には必ずしっかり二人が揃っている
訳がわからないアスカ
コスプレ姿の自分を嫌らしく写したものや二人を揶揄したものぐらいは覚悟していたつもり
なのに、どう受け止めていいのか全く掴めない
真っ白な事実の怖さ
「…ほんとだ」
傍らでほっと息をつくように呟くシンジ
視線だけ向けるアスカ
「きっと、あの子たちも言ったんだよね。アスカに」
「…え」
理解した瞬間、全身の血が逆流するような悪寒を覚えるアスカ
女子トイレで向けられた顔のない悪意たち
(いいよね公認のオトコがいる人は)(愛しの碇君)(見せつけちゃって)

54:6/8
16/01/07 23:32:39.55 .net
(誰も見てないとでも思ってたの?)(いい気になりすぎ)(陰じゃ皆がそう言ってるんだよ)
顔をそむけ吐き気をこらえるアスカ
(嘘。シンジには何も話してないはずなのに…違う、もしかして、本当は聞こえてて)
自分でも驚くほどの強烈な拒絶感
両膝からくずおれそうになる
見開いた両目を前に据えるだけで精一杯のアスカ
悟る
(ああ、私、やっぱり、最低だ。
 偉そうなこと言ってシンジを諭したりして。…なのに信じてない。あの時と、何も変わってない)
(抱きしめてくれたのに…それだけじゃ、変われないんだ、私は)
(シンジはずっと私を見てたくて、苦しいくせに変わろうとしてくれてるのに)
「…アスカ」
はっとなるアスカ
凝集していたような周囲の空気が融ける
シンジの方を向くのが怖い
が、シンジが続けたのは別の言葉
「行くのが遅くて、あの子たちが何を言ってたのか、僕も渚も聞いてないけど…
 これ見てたら、なんか少しわかる気がするんだ」
思わず、きっと向き直るアスカ
ちょうど向けられたシンジの


55:眼差に脆い虚勢が崩れる 頼りないくせに芯の強い目 それに値する存在になりたいと願ったのは自分 その自分自身で、傷つけるだけの情けない甘えの言葉を今は呑みこむアスカ シンジの目が気遣う 一度まぶたを閉じるアスカ 意識して開いて、見つめ返す



56:7/8
16/01/07 23:34:35.78 .net
とまどったように揺らぐシンジの表情
「…先。言いなさいよ」
「…え」
もう自分を取り戻しているアスカの勝気な顔
「そんな言い方されたら気になるでしょ。ほら、聞いてるから」
あんたの傍で、という言葉は声に出さない
でも願いはもう目に満ちている
微笑むしかないシンジ
少しうつむく
「当たり前だけど、…皆、僕たちのこと見てるんだよ。幾らこっちが気をつけてたって、
 ずっと一緒にいるんだから、どこかで誰かが見てる。見て…何か思うっていうか、感じる」
やや翳る声をじっと聞いているアスカ
「別にいいかって受け入れてくれる人もいるし、どうしても違和感あるって人もいる。
 アスカが昨日出遭ったのは、結局は、そういうことじゃないのかなって。
 …だからアスカが自分を責めたりすることない。だって、それはその人たちだけのことだ。
 それに、その反対だって、こうしてあるんだから」
言いながらいつか顔を上げているシンジ
見つめるアスカ
少し仰ぎ見る角度なのが、今はひそかに嬉しい
でも言葉ではそう言わないでおく
「…ばぁーか。もっと堂々と言いなさいよ。
 『その反対』じゃなくて、『あの二人、なんかいいな』って思ってる奴も多い、ってことでしょ。
 ううん、むしろそっちが圧倒的多数ね」
「え、ちょっとアスカ、それは」

57:8/8
16/01/07 23:35:14.83 .net
反射的に周りを気にしてしまうシンジ
「何よ? 論より証拠、これを見れば一目瞭然よ。文句なんか言わせないわ。
 要は私たち、好感度高いってこと。自信持ちなさいよね」
「だから、…普通、自分でそんな風に言わないってば」
改めて照れた顔になるシンジ
血の昇った頬をちょんとつついてやるアスカ
「ヒカリが言ってたのはこれだったのね。…昨日のことがあってフラフラしてた私たちに、
 自信とか自覚を、取り戻して欲しかった」
「うん。そうだね、きっと」
頷くシンジ
ふふんと笑うアスカ
いろいろと疑問が氷解したという表情
何となくぎくりとするシンジ
「…となれば、この先に待ってることは一つしかないじゃない。行くわよ、シンジ!」
繋いだ手を握り直し、引っぱって大股に歩き始めるアスカ
慌てるシンジ
「急に何?! 一つって何だよ、ねえ、アスカ」
何かと不穏な予感がするが、結局、抵抗もなく引きずられていくはめになる
それを嫌だと思っていないことの安堵
「あんたもいい加減覚悟できたでしょ。他人なんてどうってことないのよ。向こうは見てる、
 けど見てどう思ってるかなんて、あんなふうに、案外簡単なことだったりするんだから。
 あんたはあんたでいればいいの。…たまに昨日みたいにフラつくけど、私もそうするから」
腕を引っこ抜きかねない勢いでずんずん行くアスカ
「…わかったよ。でも、待ってるっていうのは」
やっと歩調を揃えたシンジを振り返り、鮮やかな笑顔を見せるアスカ
「決まってるでしょ。主役の復活よ」

58:49
16/01/07 23:49:26.56 .net
>>45
うおわ?!
支援ありがとうございました

59:1/7
16/01/08 22:52:32.95 .net
こんばんは今夜も文化祭の通りすがりです
まだもう一回はないと終わりません…
すみません、まず前回投下分の訂正から
前回冒頭(>>41)の「終了まであと一時間」コピペミスで消さないまま書き込んでしまいました
シンジとアスカ、残り一時間までダラダラしてるなんて幾らなんでもサボりすぎ…
二人にあんまりなのでなかったことにくださると有難いです orz
-------
2-A教室の前に佇むシンジとアスカ
入り口に飾ってあったはずの地球�


60:h衛カフェの看板がなくなっている 代わりに、閉じた扉にものものしく貼られた『地球防衛戦隊作戦室』なるコピー用紙 「…あからさまに怪しいわ」 不信丸出しのアスカ ガラッと扉が開く 顔を出したのはヘルメット以外コスプレ衣装のトウジ 「お」 二人を見てにかっと笑う 振り向いて、教室内に声をかける 「おーい、来たで!」 おおーとかええーというざわめきが中で膨れ上がる 「…え」 思わず身を引くシンジ その手を掴んで自分から前に出るアスカ 躊躇なく教室に踏み込んでいく 一歩引いて道を空けるトウジ 二人が入った後でまた元のように扉を閉める



61:2/7
16/01/08 22:53:05.00 .net
緊張した顔でざっと周囲を見渡すシンジ
すっかり片付けられた教室
中央の机を囲んで集まったクラスメートたちの生き生きした表情
注目されると見るやすかさずシンジの手を離すアスカ
机に広げた紙面から顔を上げ、眼鏡を直して立ち上がるケンスケ
トウジに突っつかれて彼らの前に立つシンジ
既に仁王立ちで腕組みしているアスカ
「やっぱりあんたね」
睨みつけるアスカの肩に軽く触れ、ケンスケを見据えるシンジ
小さく溜息
「一体、何なんだよ、これ。皆まで…
 …僕らが朝から迷惑かけてたせいなら、謝るよ。遅くまで時間もらったことも。…ごめん」
頭を下げようとするシンジを遮るケンスケ
「いや、違うって。謝るのは…というか、頼むのは俺の方だ」
「え?」
不穏な感じに光るケンスケの眼鏡
「シンジ、惣流。俺の、今文化祭…いや、高校生活最大の頼みだと思って聞いてくれ」
「…は」
あからさまに嫌そうな顔をするアスカ
困惑しながらも苦笑するシンジ
「何だよ、そんな大げさなこと言わなくていいって。何?」
言いつつ、もう半分は予想している表情
やや勢いをくじかれるケンスケ
「…要するにまあ、今朝、一度断られたことなんだけどさ」

62:3/7
16/01/08 22:53:58.08 .net
「…、うん。閉会式の話だよね」
弱く笑うシンジ
敏感にシンジの躊躇を察するアスカ
ケンスケにくってかかる
「何よ、今朝って!
 私、何も聞いてないわよ。勝手に人のいないところで話進めておいて、いざ本人が
 来たら都合よく頼むなんて、無責任。無神経にもほどがあるわ。いい加減にしてよ」
「う、いや、そりゃ…」
歯切れよく言い立てるアスカに押されるケンスケ
迷った目がトウジを見つける
皆の後ろから、しっかりせんかい、と小声で叱りつけるトウジ
思いきりへの字口になるケンスケ
ここで引く訳にいかず半ばやけくそで一気に吐き出す
「わかってる! だが敢えて頼む!
 朝話した、ただフィナーレに出演協力するってのとは全然違う。むしろお前らが主役だ。
 目立つなんて程度じゃ済まないと思う。だけどお前らを推したいのは俺だけじゃない!」
横に片手を突き出すケンスケ
笑って看板やポスターらしきものの束を手渡すクラスメート
ぽかんとするシンジとアスカ
地球防衛カフェのものを改造したらしき急ごしらえの宣伝
『文化祭実行委員会公認! 地球防衛戦隊最後の戦い!』
『文化祭フィナーレを完遂するため、戦隊メンバーがあなたのクラスを駆け抜ける?!
  …現在コース設定中!』

63:4/7
16/01/08 22:55:47.88 .net
『ゴール:校庭中央をめざす戦隊メンバーを妨害する挑戦者(グループ可)を募集!
 対戦相手はコース次第! 我こそはという猛者を待つ!
 大道具等持ち込み可(ゴミはやめてください。by実行委員会)』
『映画部全面協力によるライブ撮影決定!(後日編


64:集して上映会開催予定)』 唖然とするだけの二人 何人かがくすくす笑いながら別の立看板を運んでくる 顔をしかめるアスカ 「あ! また人の写真、勝手に…」 途切れる声 段ボールつぎはぎで拡大した一面いっぱいに躍る文字と、昨日撮った二人の写真 下方には大量のシールがべたべた並べて貼ってある 息を止めるようにして文字を読むシンジ 『セカンドレッド&サードパープル再登場なるか?!  二人の復活はあなたの一票にかかっている(かもしれない)!  投票結果により参加メンバー変動あり! 2-A他にて投票受付中(ドリンクサービス付)   現在の投票数↓』 アスカの手がはね上がり、口元を押さえる ざっと数えただけでも全校生徒の半数分以上はあるシール 途方に暮れたような顔で振り返るシンジ 引き結んだ口を緩めて笑ってみせるケンスケ 「何ていうか…こういうことなんだ。  面白がってるだけの奴もいるだろうけど、結構な数の連中が、お前らのこと待ってるんだよ。  だから頼む! もう一度、クラスの代表役やってくれ!」



65:5/7
16/01/08 22:56:31.61 .net
喉がつまったようになるシンジ
アスカと目が合う
瞳の奥で少女の心細さが一瞬だけ揺れる
自分でそれを振り払って、シンジが心を決める前に、いつものように先に立つアスカ
勝気に微笑む
「上等じゃない。いいわ、受けて立つ。…あんたもよ? シンジ」
答えようとするシンジ
教室の後ろの戸が勢いよく開く
全員の注視を浴びてちょっと嫌な顔をするカヲル
シンジとアスカがもういるのを見つけて、更に顔をしかめる
「…なんだ。もう来ちゃってたのか」
呆れ顔で声をかけるトウジ
「当たり前やろ。集合時間決めといたやないか。毎回変なタイミングで顔出すやっちゃな」
「うるさいなー…委員長さんも回収してきたんだから仕方ないだろ」
後ろから遅れて入ってくるヒカリとレイ
コスプレ姿のレイはさっきの看板を抱えている
集計用紙の束を掴んだ手を上げて皆に振ってみせるヒカリ
「ごめんなさい! 職員室寄ってきたの。
 フィナーレの許可、正式に通りました! この投票数見せたら、先生たちもいいって!」
「サンキュー委員長っ」
級友たちを押しのけてヒカリから用紙を受け取るケンスケ
そのまま戻ってきてシンジの目の前に突き出す
「どうだ! 現在の最新の投票結果! 頼む、シンジ!」
無言で文字列を目で追うシンジ
集計数はさっきの立看板の分を越え、生徒数の四分の三近くに迫っている

66:6/7
16/01/08 22:57:19.72 .net
小さく息を吸い込むシンジ
教室を見回す
クラスメートたち、意気込むケンスケ、腕組みして頷いてみせるトウジ、心配そうなヒカリ
いつもと同じ無心な信頼の目で見守っているレイ、めんどくさそうなカヲル
軽く両手を腰に当てて待っているアスカ
シンジにだけ見て取れる気遣いのたゆたい
静かに一つ呼吸して、力を抜いて笑うシンジ
「…そこまでされて、今さら、断るなんてできないだろ。
 やるよ。こっちこそ、よろしく」
アスカの目がきらっと光る
わっと盛り上がる教室
「うおお、ありがとうシンジ! くそ、みんな最高だ!」
既に感極まりそうなケンスケ
いつものごとく水を差すカヲル
「…最高はいいけどさ、どうすんの? あんな大見得切って、妨害チームなんか募集して、
 しかもコースも何も決めるのこれからだろ? これで失敗したら目も当てられないんじゃないの」
聞こえてないふりのケンスケ
ヤケ半分で張り切って采配を始める
結構本気で面白がって、活発な意見交換を始めるクラスメートたち
取り残される恰好で集まる当事者こと戦隊メンバー五人
それぞれ顔を見合わせて苦笑する
「…ほんま、どないなるんやろうな、ワシら。
 何や? 要はアドリブ障害物リレー、みたいなもんでええんか? …不安材料満載やな」
頭を掻くトウジに不機嫌顔するカヲル

67:7/7
16/01/08 22:57:35.41 .net
「同感だね。はぁ…実際走るのは僕らだからって、作戦立てる方は気楽でいいよね」
ちょっと笑ってカヲルをつつくレイ
「駄々こねないの」
「そうよ。こんな大役、私たち以外に誰ができるっての? ここまで来て手を引くなんて論外よ」
「…君の『私たち』って、なんとなく君とシンジ君しか入ってない気がするけどね」
「はぁ?! どういう意味よそれ!」
「やめんかい、戦う前にワシらが仲間割れしてどうするんや」
レイが困った顔を向けてくる
本気で怒り出しそうなアスカを抑える形で、仕方なく口を開くシンジ
「まあ、きっと、何とかなるよ。
 確かに危なっかしすぎるけど…できたらさ、楽しんでもらおうよ。賛成してくれた学校の皆に」
騒ぐのをやめて、それぞれに頷きを返してくれる四人
今もさっきも、ごく自然に、構えない普通の笑顔になれていたことに気づくシンジ
アスカの目が笑う
背後でまたどっと盛り上がる教室
大きく傾いた午後の陽射し

--------
今回はここまでです
長くて非現実的な話にお付き合いさせてしまって申し訳ありません(こんな高校生いねーよ)
あと一回で終われる…と思いますので、どうか生温く笑ってご寛恕ください
通りすがりでした

68:名無しが氏んでも代わりはいるもの
16/01/08 23:25:41.58 .net
>>57


69:名無しが氏んでも代わりはいるもの
16/01/11 22:03:42.65 .net
はよ

70:1/19
16/01/11 23:59:21.60 .net
通りすがりです
遅くなってしまいましたが、ラスト行きます
すごい量になってしまったので、どなたかいらしたら支援をお願いします
--------
明城学院高等部文化祭最終日
外部からの参加客は帰り、夕闇に校舎の明かりがこうこうと並ぶ
否応なくみなぎる期待の雰囲気
位置に向かいつつ、想像以上のプレッシャーに肩をすぼめるシンジ
「…なんでこんなことになっちゃったんだろ」
「成り行きだよ。単に」
簡潔に言い捨てるカヲル
嫌な顔をするシンジ
補修した自分のコスチューム姿を見下ろしてさらに溜息
「つまりさ…無駄な抵抗は諦めろってこと?」
「まあね。考えても仕方ないことは考えない。動いた方が楽だよ。状況も変わるし」
「そりゃそうだけどね…」
「何だよ、腹を括ったのかと思ったらまだ恥ずかしがってんの? しょうがないなぁ君は」
やや意地悪な目で笑うカヲル
むっとしてそっぽ向くシンジ
「…悪かったな」
「じゃあさ、こう考えてみなよ。皆に見せるつもりで行かなきゃいい」
「何言ってるんだよ、そんなの無理だって」
「だからさ。皆に見てもらおうとしなきゃいいんだよ。君はただ…」
目を向けてちょっと黙るシンジ

71:2/19
16/01/11 23:59:47.00 .net
悪戯っぽいような、けれどひどく優しい表情をしているカヲル
「…アスカさん一人に、見せに行けばいいのさ。君なりのカッコ良いところってやつを。違う?」
言い返そうとして、結局笑ってしまうシンジ
頷く
「…わかったよ、渚」
目元だけで素早い笑みを返すカヲル
「じゃ、僕はこっちだから。がんばりなよ」
軽く肩を突いてシンジから離れる
少し笑って見送るシンジ
根深い不安と困惑を振り払うように一人で小さく気合を入れる
「どう? どっか変じゃない?」
身体を伸ばし、背後のレイに訊くアスカ
補修に使った赤テープを手に、一歩離れてみて頷くレイ
「平気。綺麗よ」
ちょっと睨むアスカ
「…って、そういうことサラッと言わないでよね」
「だって、本当だもの」
「んもうっ」
軽くぶつ真似をするアスカ
微笑むレイ
自分も支度する
真顔になってその少女らしいしぐさを見つめるアスカ
「…ありがと、レイ」

72:3/19
16/01/12 00:00:50.22 .net
「何?」
不思議そうに顔を上げるレイ
ぱっと目を逸らすアスカ
「今回。いろいろ。…昨日、シャワー終わるまでいてくれたこと、とか。
 レイが傍にいてくれて…シンジのこと、一緒に見送ったり、話したりできて、良かった。上手く
 言えないんだけど、すごく安心できたもの。馬鹿シンジとはまた違う感じで、ね」
軽くうつむくレイ
かぶさる髪を指先でそっとよける
「私も同じ。二人を見てると安心する。…何か、願いが、叶った気がして」
「え」
ふと不安げな表情になるアスカ
時たまレイが見せる底知れない深さ、いたたまれないほどの優しさ
素早く覆ってわざと無造作に言い返す
「なーに言ってんのよ。あんたの願いはカヲルとでしょ。まだ先は長いんだから、こんなとこで
 安心しちゃ駄目。油断大敵!よ」
「うん。そうね」
真面目にこっくり頷くレイ
にっこりするアスカ
急に踏み込んでレイの頬をつっつき、つかまる前に笑って教室を逃げ出す
『さあやって参りました今年度文化祭フィナーレ!
 今年はなんと現場参加型イベント開催! 戦場はキミの教室だ!
 果たして、2-A地球防衛戦隊は、校内に控える数々の障害を突破し、閉会式会場である
 校庭へたどり着くことができるのか?!
 …放送部・映画研究会による独占実況&生収録でお送りいたします!』

73:4/19
16/01/12 00:01:20.62 .net
アップテンポのBGMとともに始まる校内放送
うわーっとどよめく校舎
スタート地点の2-A教室前
とんとんと靴のつま先で床を打つレイ
くすっと笑う
(きっと今頃、碇君、困ってる。大ごとになっちゃったなって。アスカは、きっと平気な顔してる)
『ルールは簡単!
 本番まで非公開のコースに沿って走る戦隊メンバーを、応募した各チームは事前申請した
 地点にて妨害。突破されるまでに最も時間を稼いだチームには、文化祭実行委員会より
 豪華商品が授与されます!』
身体をひねって黄色のコスチュームをチェックするレイ
手には陸上部提供の赤いバトン
胸を静めるようにひとつ深呼吸
周囲には見物の生徒たちが壁を作り、興奮気味に出発を待っている
『走者がいつどこに現れるか、そしてバトンタッチのタイミングは本番に初めて明かされます!
 また各妨害チームの用意した作戦は、走者たちには知らされていません! 展開は
 全く予想できません! 一体どうなってしまうのかっ!』
人垣の前にはハンディカメラ二台他機材を構えた映研部員たち
マイク片手に実況する放送部員
時間計測のためストップウォッチを持って立ち会う文化祭実行委員
校内各所に、ヒカリを含め他にも実行委員たちが待機している
『スタート地点はここ2-A前! 最初の走者はファーストイエロー!』

74:5/19
16/01/12 00:02:20.71 .net
スタッフの少し後ろに、何だかんだで一番心配そうな顔をして立つケンスケ
戦隊メンバーと一緒に回るつもりらしい
ちょっと笑いかけるレイ
すぐ床にテープで描かれたスタートラインに屈みこむ
実行委員が放送部に耳打ち
『はい? …おっと、では準備が整ったようです!
 それではいよいよ開始です! …3! 2! 1! スタート!』
全身で飛び出すレイ
「?! はやっ」
ざわめいて輪を解く見物



75:Qてて追いかけるスタッフ一同 廊下にむらがる生徒たちが驚いた顔で道を空けていく 階段を駆け上り、最初の教室に飛び込むレイ 「え?! もう来たの?!」 驚きの声には取り合わず、喫茶店のセットを流用した机と椅子の迷路を抜けていく 教室出口でばさっとカーテンが目の前に落ちてくるが、対して動揺もせずに突破 しなやかに廊下をまた駆け抜けていく 茫然と後ろ姿を見送る最初の妨害チーム 実行委員会がストップウォッチを示して、首を振る 『…なんと最初の妨害地点はわずか14秒で陥落! 強い! 強すぎるぞ防衛戦隊!  女子だからと甘く見てはいけなかったー!』 実況しながら次の地点へショートカットする撮影班 俄然盛り上がる校内 走るレイの前後を歓声とどよめきが一緒に移ろっていく



76:6/19
16/01/12 00:02:49.52 .net
次の教室を突破し、息を弾ませて走るレイ
ショートカットを使いながらも必死の面持ちで後を追う撮影班と実行委員、およびケンスケ
三階連絡通路で立ちふさがる管弦楽部チーム
各自重いか大きい楽器を持ってバリケード代わりにする構え
ちょっと迷うレイ
『おーっとこれは難問だ! 何と全て学校楽器だから傷つけるとオケ部の責任問題に!
 セコいぞオケ部チーム! そして楽器を傷つけず通るにはどうすればいいのか!
 さあどうする?!』
さすがに困るレイ
通路幅的にすり抜けるのは難しい
時間がどんどん経っていく
と、管弦楽部員たちの先の人垣をかきわけてコスプレ姿のカヲルが顔を出し、叫ぶ
「レイ! 上!」
驚くレイ
「…どうして、交代、まだ先なのに」
笑うカヲル
「大変そうだから迎えに来たんだよ。当然だろ。…ほら、投げて」
はっとして手のバトンを見るレイ
すぐ頷いて身構える
オケ部員たちが対応する間もなく、楽器群の上を弧を描いて飛ぶ赤いバトン
見事通路の先で受け止めるカヲル
やっと事態を呑み込んで、猛然と文句をつけるオケ部の一人

77:7/19
16/01/12 00:04:12.44 .net
「ちょっと待ってくれよ! 今の、突破になってないじゃん! ずるいって! 無効!」
他部員も後について無効を言い立てる
観客サイドからはオケ部セコい!のブーイングの嵐
両者を見比べて慌てる実行委員
一つ息をつくカヲル
バトンを手にオケ部リーダーに歩み寄る
「な、何だよ! 違反は違反だろ、一応! ほら、バトン戻して!」
憮然と答えるカヲル
「ひどいなぁ。二日も公演、手伝ったのに」
「…そうだけど! それとこれとは別だろ」
やや焦るオケ部リーダー
どうでもよさそうに視線を投げるカヲル
「…もしこのまま通してくれたら、来月の地区コンクール予選も手伝うけど?」
固まるオケ部一同
かたずを呑んで見守る実況班と観客
実行委員がそっと訊ねる
「…どうするの? オケ部、ほんとに無効要求します?」
「…有効でいいです」
わっと沸く観衆
じゃあねとレイ一人にバトンを振って走り出すカヲル
スタッフと見物人が追う
一人通路に残されるレイ
アスカを真似て、小さく、ばか、と呟いてみる

78:8/19
16/01/12 00:05:36.88 .net
化学準備室(化学部+地学部有志連合)を突破し、折り返して階段を下るカヲル
踊り場で立ち止まる
階段全面に広げられた野球部のネット
あちこち丸められてうず高くなったネットが下までの段を覆っている
『野球部チーム、とにかく時間を稼ぐ手に出たぞ! これはかなり注意して下りないと
 危ない! というか明らかに危険だ! 実行委員が代表に文句をつけている!』
大騒ぎの下の階をよそに周りを一通り見回すカヲル



79:下までの距離を測り、ちょっと戻って助走をつけるなり一気に跳ぶ 目を剥く野球部員 悲鳴があがる 床に絡まったネットの溜まりの上にきれいに受身を取って着地し、立ち上がるカヲル 悲鳴が主に女子の歓声に変わる 騒ぎが大きくなる前に走り出すカヲル 通り過ぎる一瞬、観衆の中にアスカをトイレに押し込めていた女子たちの何人かを認める もう忘れたのか無責任に周りと一緒にはしゃいでいる楽しそうな顔 呆れるのも嫌になってさっさと後にするカヲル 走りながらふと気づく (…しまった。今の、どうせならレイが見てる前でやれば良かった) カヲルから無言でバトンを受け取るフルフェイスメットの怪人ことフォースブラック 無言で走り、無言で障害を突破し、無言で手を上げて歓声に応える 担当分ラストの教室に入って立ち止まる お化け屋敷を解体途中のままバリケードにし、段ボールの壁を巡らせて視界を塞いでいる お化けの恰好で寄ってくる妨害チームの生徒たち 身構えるフォースブラック



80:9/19
16/01/12 00:06:06.42 .net
外の廊下、へろへろになって追いついてきたケンスケ
様子がおかしいのに気づく
立会い役のヒカリがここのクラスらしい生徒を詰問している
「事前申請した以上に人数増やしちゃ駄目って、最初に通達したでしょう!
 妨害するだけで通すのが前提っていうのがルールなのよ。よそのクラスの大道具まで
 持ち込んで!」
「いや、だってさ、いろいろ入れた方が盛り上がると思って…」
「だからって何してもいいわけじゃないでしょ!」
ずれた眼鏡を掛けなおすケンスケ
教室に踏み込んでいきそうな勢いのヒカリ
出口側の扉を開けようとして、簡単に開かないようガムテープで何箇所も留めてあるのに気づく
慌てて駆け寄るケンスケ
本気で怒り出すヒカリ
「やりすぎよ! もう駄目、ここで中止にします!」
「委員長、落ち着け。とりあえず中の奴らに知らせて…」
ガタガタッと大きく揺れる扉
無理やり中から開けようとしているらしい
反射的に扉から離れる一同
ガムテープがちぎれ、段ボールやら資材やらを巻き込んで一気に開く
無言で肩で息をしているフォースブラック
廊下の観客がおおーっとどよめく
『何と強行突破! 常人離れした腕力を見せつけた! しかしかなり無理しているようだが、
 ここからさらに走れるのか?!』

81:名無しが氏んでも代わりはいるもの
16/01/12 00:06:33.87 .net
支援はいいねえと脳内天使が囁いたので支援します

82:10/19
16/01/12 00:06:34.00 .net
「…大丈夫?!」
駆け寄るヒカリ
と、強引にこじ開けられた引き戸が溝から外れ、ヒカリの上に倒れかかる
一斉に悲鳴
かなり重い音を立てて倒れる教室の扉
水を打ったように静まる一同
続いて教室から出てきたもののどうしていいかわからない撮影班
我に返った見物の男子数名が扉にとびついてどかす
下からヒカリをかばった姿勢のフォースブラックが現れる
大騒ぎになる廊下
『やったーっ! 巻き込まれた実行委員を身を挺して守った! かっこいい、かっこよすぎるぞ
 フォースブラック! お前なら本当に地球を防衛できると思う!』
両肘をついて、恐る恐る顔を上げるヒカリ
がぽりとヘルメットを取るトウジ
「大丈夫か、委員長!」
泣きそうになってその顔を仰ぐヒカリ
「す、鈴原…」
「何や、ワシなら大丈夫やで。
 これかぶっとったお陰やな。コスプレがほんまに役に立つとは思わんかったわ」
ヒカリに手を貸して一緒に立ち上がるトウジ
人垣の中からバスケ部員が指さす
「あーっ! 鈴原!」
一拍おいて『しまった』の顔になるトウジ
ヘルメットをヒカリに押しつけ、床に転がったバトンを掴んで慌てて走り出す
「待てこら! お前、中の人だったのか!」「何度も教室行ったのに黙ってやがって!」
「…中の人などおらんわい!」
駆けていくトウジと


83:バスケ部員数名を追いかける観衆



84:名無しが氏んでも代わりはいるもの
16/01/12 00:12:09.13 .net
支援

85:11/19
16/01/12 00:19:03.97 .net
>>71 ありがとうございます!
長くて馬鹿馬鹿しい文化祭編、お付き合いいただきありがとうございました
それでは、ラストです
-------
ヒカリに歩み寄るケンスケ
「委員長、本当に大丈夫か? 怪我とかないよな?」
茫然とヘルメットを抱えているヒカリ
「うん…大丈夫…」
「…そっか。あー、じゃあ俺、追っかけるからさ」
既に聞こえてないヒカリ
頬を染めてうつむく
「…守ってもらっちゃった…」
何ともいえない表情をしてやけくそ気味に次の地点に向かうケンスケ
へばる寸前の顔で走るトウジ
ふと気づくと、前方から走ってくるシンジの姿
安堵でへたりこむトウジ
慌てて駆け寄るシンジ
「助かったー…すまんな、シンジ…」
「ちょっと、大丈夫?! …さっきの放送聞いて来たけど、何があったんだよ?!」
床に座り込んでしまうトウジ
「まあ、いろいろな。何でもあらへん。それより、ほんまはまだワシの担当なのに、すまんな…
 けど、ワシの戦いはここまでみたいや…」
「…ほんとに大丈夫?」
危ぶむ表情で覗き込むシンジ
バトンを押しつけられる
「あとはお前らに託す、頼んだで…!」
親指を立てた右手を天井に突き上げ、そのまま大の字に寝転んでしまうトウジ
「え?! ちょっ…トウジ?!」

86:12/19
16/01/12 00:19:29.30 .net
三々五々歩いてきて、動かないトウジを囲むバスケ部の面々
シンジに首を振って苦笑いする
「平気平気。張り切りすぎたんだよ」「あとは俺らで面倒見るから」「尋問もあるしな」
尋問のひとことに無言で逃げ出そうとし、バスケ部に捕獲されるトウジ
犯人検挙のようなシーンを面白がって映す撮影班
「えっと…じゃあ、お願いします」
とりあえず立ち上がるシンジ
追いついてくるケンスケ
「おいシンジ、勝手に出てくるなよ! 投票で期待させた意味ないじゃないか」
「ごめん、実況聞いてたら事故みたいなこと言ってたからさ。心配で」
膝に両手ついて息をつくケンスケ
「まあ、今さら仕方ないか…惣流は?」
前方を指して頷くシンジ
「配置について待ってる」
「よし。じゃ、このまま走れ。撮影班と実況がそこで追いつくことになってる」
「わかった」
行きかけてきびすを返し、声をひそめて訊くシンジ
「…けど、最後なのに、僕とアスカが一緒でいいの? リレーにならないんじゃない?」
わかったわかったと手で宙を払うケンスケ
「いいんだよ。お前らが一緒に走るのが最終目的なんだからさ。…あ、言っちまった」
素直に目を見開くシンジ
ばつの悪そうな顔になるケンスケ
シンジが何か言い返す前に、両手で追い立てる
「ああ、くそ、早く行け! 皆を待たせてんだぞ!」

87:13/19
16/01/12 00:20:00.55 .net
「あ…うん」
慌てて走り出すシンジ
一度振り返って叫ぶ
「…ありがとう、ケンスケ!」
照れた顔でさっさと行けと手を振るケンスケ
『さあついに最後の走者となりました!
 ラストはもちろん、全校の熱き声援に応えて復活! サードパープルと、男子人気絶頂!
 我らがセカンドレッドだぁー!!』
「うおおお!」「待ってたぞー!」「惣流様ぁあああ」「並んで走るのかコノヤロウ!」
始まった実況および男子主体の大歓声の中、微妙な表情で走ってくるシンジ
すでにコースに出て待っているアスカ
シンジが追いつくのにタイミングを合わせて走り出す
並びながら、揺れるアスカの横顔を覗き込むシンジ
ちらっと視線を返すアスカ
微笑をひらめかす
「この私を待たせるなんて、いい度胸してる。…さっさと行きましょ!」
理屈でなく胸がいっぱいになるシンジ
笑みだけを返し、一緒にスピードを上げる
息が上がるせいだけではなく頬がほてってくる
周りの視線が痛い
でもよく見れば、皆が文化祭のラストを盛り上げようとして声援を向けてくれている
気づくとアスカの顔も赤い
思わず微笑んでしまうシンジ
両足に力がこもる
お互い抜きつ抜かれつする恰好で駆けていく二人
最後の盛り上がりを逃すまいと人の流れがその周りを大きく囲む

88:14/19
16/01/12 00:20:44.45 .net
「どぉりゃあああああっ!」
長い出番待ちのストレスを爆発させる勢いで、次々妨害を粉砕していくアスカ
宙に舞う段ボール、すっ飛んでいくホウキ、中身をぶちまけるバケツ
上からかぶせられた暗幕を逆に引っぱり、マントのようにさっとなびかせて投げ捨てる
あっけにとられて見とれる妨害役の生徒たち
アスカのキレのある動作のいちいちに盛り上がる観衆
バトンの運搬役に甘んじるシンジ
「アスカッ、ちょっと…その、やりすぎじゃない?」
「いいの!」
生き生きした表情で言い切るアスカ
「派手な方が、見物のしがいがあるってもんでしょ! それにあんたの障害は、全部私が
 殲滅するって決めてるんだから!」
「え?!」
「嫌なことは、全部、ずっと、私が傍でやっつけてあげるって、言ってるの!」
答えられず、ただ息を弾ませるシンジ
きゃーと歓声を上げる女子たち
「碇君、かわいー!」「惣流ちゃんよく言ったー!」「もう二人で爆発しろー!」
「…もうっ、何言ってるんだよアスカッ!」
「いいでしょ! 本気なんだもの!」
二人を囲んだ観衆が膨れ上がり、いつのまにかかなりの人数の生徒が一緒に走っている
必死で並走しながら撮影を続けるスタッフたち
行き会った先生がぎょっとした表情で道を空ける
弾けるように明るく笑うアスカ
肩をすくめながらも一緒に笑うシンジ
「えっと、あと何だっけ!」
「後は校庭に出るだけ! もうちょっとだ!」

89:15/19
16/01/12 00:21:29.37 .net
「了解! このまま行くわよ!」
昇降口に向かう一同
外はもう暗い
青い宵闇の降りた校庭に走り出る二人
後に続く撮影班
そのさらに後ろにたくさんの生徒たち
とにかく走るシンジとアスカ
最後のスパート
刺すような寒気が肺の中で暴れる
黒い影になった樹木や植え込み
グラウンドに出たところに、昼間の模擬店や屋台を片付けた一角が仕切ってある
その横に三角コーンを並べて作られたゴールが見えてくる
アスカを見るシンジ
暗い中でも見返してくるアスカ
同時に手を繋ぐ二人
昇降口に溢れた生徒たちを後ろに、一気にゴール
「でやぁっ!」
三角コーンの一つをアスカが思いきり蹴っ飛ばす
そのとたん、破裂音とともに白い光が宙に弾ける
「?! 何っ」
「アスカッ!」
再び破裂音
その場に座り込んで、固くまぶたをつむっているアスカ
風のざわめきが戻ってくる
はっと目を開く

90:16/19
16/01/12 00:22:10.37 .net
アスカに覆いかぶさるようにしてかばっているシンジ
抱きしめている両腕は力強いのに、触れた胸はまだ息を抑えて震えている
思わず抱きつくアスカ
破裂音は続いている
周りがぱあっと明るくなり、すぐに暗く沈み、また明るむ
背後の屋台を振り返る二人
資材置き場の陰からまた光の筋が暗闇に走り、頭上で色とりどりに弾ける
「…花火?」
ぽかんとして呟くアスカ
「…みたいだね」
同じく呆然と答えるシンジ
市販のものらしい花火が、最後にまとめて宙に打ち上げられ、きらめいて散る
うわーっと生徒たちの歓声
『以上をもちまして、今年度文化祭は終了となります! 皆さんお疲れさまでした!
 そして、見事フィナーレを飾ってくれた2-A地球防衛戦隊に、今一度盛大な拍手を
 お願いいたします!』
どよめきが弾けるような拍手に変わって響いてくる
少しそのままぼうっとしている二人
ふと気づいて驚くシンジ
「って、今の、ケンスケ…? いつのまに実況�


91:ワで」 「あの仕切りたがりが、ラストの締めを外すわけないじゃない」 予想済みという顔でべーっと舌を出すアスカ マイクがキーンと鳴ってトウジの声になる 『…そして、今回の言いだしっぺにして名監督、2-A相田ケンスケにも拍手を!』



92:17/19
16/01/12 00:23:01.92 .net
『えっ? やめろって、俺はいいよ!』
『がたがた言っとらんで前に出んかい!』
笑い声と再びの好意的な拍手の渦
一緒になって噴き出すシンジとアスカ
と、近くの屋台陰から人のシルエットが現れる
振り返って息を呑む二人
花火の残骸と水のバケツを提げたミドリとスミレ
二人の視線に気づいて少しびくっとする
アスカの身体が固くなる
少し迷い、自分から口を開くシンジ
「あの、今の花火、君たちが…? もしかして、ずっとこの寒い中、待っててくれたんだ」
後ろめたげな目になり口を尖らせるミドリ
「…そー、寒かった。死ぬかと思ったもん」
「ミドリ」
低くたしなめるスミレ
すぐにでも立ち去りたそうなミドリを引っぱり、揃ってアスカの方に向き直る
黙り込んでいるアスカ
唇を噛むスミレ
「…惣流、ごめん」
それだけ言ってきっぱりと頭を下げる
しぶしぶそれにならうミドリ
二人が何か答える前に、きびすを返して校舎の方に戻っていく
何となく無言で見送る二人
そっとアスカの顔を覗き込むシンジ
「…大丈夫?」

93:18/19
16/01/12 00:24:58.71 .net
はっとしたように視線を戻すアスカ
痛みを思い出したように目を逸らす
「…平気よ。調子いい奴ら、わざわざ謝られても全然嬉しくないのに」
「…そうだよね」
少し黙るシンジ
もう一度穏やかに口を開く
「…だけどさ、そんなこと言わないでよ、アスカ」
「何よ、あいつらの肩を持つわけ」
首を振るシンジ
「そうじゃないけど。…何ていうかさ、…アスカが許しても許さなくても、同じ学校にいる以上、
 これからもしばらく、一緒の場所にいなきゃいけないんだなって思って。それって結構きつい
 ことかもしれない。それに、謝りに来てくれただけいいじゃない。あの子たちは、アスカから
 逃げなかったんだからさ」
「…ふーん」
シンジを見上げるアスカ
そのまましばらくじっと見つめてくる
うろたえるシンジ
隙を射抜くように告げるアスカ
「あんたなら?」
瞬きするシンジ
「え」
「あんたなら、逃げる? 私を傷つけたとき。…私から」
眩しいほどまっすぐにシンジを見据えるアスカ
小さく息を吸い込むシンジ
ゆっくりとかぶりを振る
見つめるアスカの頬をそっと両手で包む
「…逃げない。…誓うよ。絶対に、アスカをおいて逃げたりしない」
みるみるアスカの表情がほどけて、あどけないのに大人びた、不思議な笑顔になる

94:19/19 ありがとうございました
16/01/12 00:26:06.68 .net
「…ばか」
もう一度思いきり抱きつくアスカ
倒されそうになって危うく受け止めるシンジ
強く抱きしめる
「…アスカ、人前ではこういうことしないって言ってなかったっけ?」
「馬ー鹿、いいの、今日は。文化祭だもの、特例よ」
アスカの笑いを含んだ甘い声
花火の名残の煙も薄れ、濃さを増す宵闇
生徒たちがゆっくり各教室に戻っていくざわめき
急に戻ってきた寒さに気づいて身震いするシンジ
腕の中でアスカが身じろぎし、胸につけた頭をすり寄せるようにしてくる
黙ってじっとしている二人
明るい校舎の窓の列を見つめているシンジ
(そうだ、お祭りは今日で最後。
 ちょっと行き過ぎても許される特別な時間は、これで終わり。
 明日からはまたいつもの学校だ。嫌なことや困ることは、また幾らでも起こるかも
 しれないけど…そのときは、いつでも思い出せばいいんだ。近くで一緒に歩いて
 くれてる人たちのことを。
 隣にいてくれる、アスカのことを)
アスカの髪の匂い
細くて柔らかな身体をそっと抱きしめるシンジ
小さく笑い声を洩らすアスカ
「…私の、ばかシンジ」
くぐもって聞こえる優しい呟き
深く息を吸い込むシンジ
片づけで賑やかな校舎の方から近づいてくる人影
二人のコートを持って迎えに来てくれたらしいカヲルとレイのシルエット
顔を上げて軽く手を振るシンジ
頭上に瞬き始める星

95:80
16/01/12 00:28:13.78 .net
レス忘れ orz
>>69さんも支援してくださってたんですね! お陰で完走できました、ありがとうございました!

96:名無しが氏んでも代わりはいるもの
16/01/12 23:28:01.58 .net
>>80


97:名無しが氏んでも代わりはいるもの
16/01/13 23:29:40.49 .net
>>80
乙乙乙ー!
すげえ量の小説だw
これ一気に読めるのは読者としてはありがたい



新作はよ

98:名無しが氏んでも代わりはいるもの
16/01/14 23:50:57.02 .net
はよ

99:名無しが氏んでも代わりはいるもの
16/01/15 23:45:45.73 qq5DqLts.net
やっとるかねー?

100:名無しが氏んでも代わりはいるもの
16/01/17 21:04:47.62 .net
こんばんは、通りすがりです
1さんやポエム氏、265氏はお元気でしょうか? 最近お見かけしないので心配です
スレ住民の皆様、時節柄体調には十分お気をつけくださいませ
というわけで、寒いというだけの小ネタです
-------
寒気の厳しい夕刻
はやばやとともされた街灯や店の明かり
急ぎ足で行き交う人々
頭上には曇り空が重く垂れ込めている
「…さむーい」
マフラーとコートのフードに顎までうずめたアスカ
傍目から見てもわかる不機嫌顔
隣で白い息をついて笑うシンジ
「アスカ、それ今日十回以上は言ってるよ」
「うるっさいわねー。寒いもんは寒いの。
 ま、雪と湿気がないだけ東京はましね。マリがニイガタとかキョウトに
 住んでなくて助かったわ。…にしてもさむいわねー」
手袋の上から両手に息を吹きかけるシンジ
「今年はずっと暖かかったからね。身体がついていかないんだよ、きっと」
「何よ、自分だけ平気そうな顔して」
「そんなことないってば。僕だって寒いよ」
困ったように笑うシンジ
そのまま雪のちらつきそうな空を仰ぐ
その横顔をちょっと睨むようにするアスカ
今日はなかなかくっついていくきっかけが取れない
近づいても冷気とコートの厚みに隔てられた感じがして、何となく気に入らない
くすんと鼻を鳴らすアスカ
「なんか、ほんとに変。…風邪引いたかな」

101:2/4
16/01/17 21:05:31.84 .net
「…え」
慌てて覗き込むシンジ
思ったより間近まで踏み込んでしまって内心うろたえる
精一杯さりげなく身を引く
「…、大丈夫? 今日は早く帰ろう。ちゃんと、マリさん家まで送ってくから」
「…そうね」
動揺するでもなく素直に頷くアスカ
はぁーと息を吐いてまたマフラーに頬を埋める
自分だけ焦ったようなのが気恥ずかしくて、こっそり溜息をつくシンジ
傍らを歩くアスカをそっと見る
よほど寒いのか、すっぽり手袋に覆われ、さらにポケットに入ったままのアスカの手
今日は何となく繋ごうと言い出せないまま時間だけ過ぎてしまった
一応、冷たいのを我慢してずっと外に出しているシンジの両手
空しく握っては開きを繰り返してみる
アスカが小さく首をすくめる
「…寒い。すごく」
「…うん」
頷くしかできない自分が嫌になるシンジ
かといって肩を抱いたり引き寄せたりするのは慣れ慣れしそうで気後れする
「…やっぱり、早く帰ろう」
「…そう、よね」
もう一度隙を見てシンジを睨むアスカ
シンジももっと近づきたくて、でも遠慮しているようなのがもどかしい
承知の上でこっちから言い出せない自分はもっとずっと腹立たしい
ポケットの中で両手を握りしめる
うつむいて、それでもシンジの方に目をやってしまう
ふと気づく

102:3/4
16/01/17 21:06:15.46 .net
横を歩くシンジを見上げるアスカ
視線にたじろいでしまうシンジ
「な、何」
「…ねえ、あんたの手」
不思議そうに目をみはっているアスカの白い顔



103:さっきの手を動かしていたしぐさを見られたのかとぎょっとするシンジ 気持ち悪いと思われたのかもしれない が、アスカの顔に嫌悪感はない 「寒いなら、ポケット使えばいいのに。ほら、私みたいに」 ポケットに突っ込んだままの両手をぶらぶら動かしてみせるアスカ 「…あ、いや、大丈夫だよ」 「でも、そのまんまじゃ冷たいでしょ? まあ両手は使えなくなるけど、それは仕方…」 途中で声を呑み込む 息をつめて待つしかないシンジ 数回瞬きするアスカ 「…そっか」 ぽんと片手をポケットから出す シンジの手を掴む ちょっと微笑む 「これを待ってたのね、ずうっと。でしょ?」 とっさに何も言えずに、ただアスカを見つめるシンジ さっきまでの気持ちを全部読まれたようで頬が熱くなる 街の明かりを映してアスカの目が星を包んだようにきらきらしている そのままを口にしてしまうシンジ 「…綺麗だ」 言ってからはっとなる



104:4/4
16/01/17 21:07:35.22 .net
「え」
今度はアスカが息を呑む
一瞬ののち、怒ったようにぶつかってくる
危うく抱きとめるシンジ
そのままその場でぎゅっと腕に力をこめる
強く身体を押しつけてくるアスカ
周りを過ぎる人波
やめなければと思いながらもアスカを離せないシンジ
「…ごめん」
自分の腕なのに言うことをきかない
それとも、頭や心よりもずっとまっすぐに、シンジ自身の望みを知っている
「…ばーか」
腕の中でアスカが居心地よさそうに身動きする
「謝るようなことしてないでしょ。…最初から、もっと素直になりなさいよね」
私もだけど、と付け加えた声は小さくくぐもっている
ただ微笑むシンジ
「…そうだね。ごめん、アスカ」
「もう。ほんっと、馬鹿シンジなんだから」
「うん」
身体を離し、赤くなったシンジの顔を覗き込むようにして悪戯っぽく笑うアスカ
思わずその額に額を軽く触れさせるシンジ
くすぐったそうにするアスカ
もう言葉も要らない
改めて手を繋ぎ、並んで歩き出す二人
暮れていく街

105:名無しが氏んでも代わりはいるもの
16/01/17 21:26:38.35 .net
>>89


106:名無しが氏んでも代わりはいるもの
16/01/18 23:17:45.79 .net
>>89
乙乙乙ー!
寒いだけでこれだけ2828できるLAS書けるんだから天才だな




続きはよ

107:名無しが氏んでも代わりはいるもの
16/01/19 23:40:01.04 .net
はよ

108:名無しが氏んでも代わりはいるもの
16/01/20 01:00:02.27 .net
あけましておめでとうございます。
気がついたら年が明けてスレが変わってたのでサクっと
ポエったシンジくんを投下していきたいと思います。

「脳内ポエムシンジ君~パターン顔面蒼白・全力正座説得編~」
前編
スレリンク(eva板:399-405番)
中編
スレリンク(eva板:548-553番)
前回までのあらすじ。
 親元に呼び出された我らがシンジくんとアスカ。
 そのナチュラルな距離にアスカのご母堂、キョウコさんの目が光る。いつものような態度ではお母さんが黙っちゃいませんな。
 そもそも関係性を明確にしてないという致命的欠陥を抱え 
 果たして清く正しい変則的男女交際の許可は下りるのか。
 
 これは多分完結編だと思うから…、はじまります。
 
 10レス程度あるので、投稿制限に引っかかったら途中までで

109:⑭
16/01/20 01:00:45.10 .net
初めて出会った時の感想は「面倒そうな女の子」だった。
あの時から変わっていない。口に出してはいない。気づかれているかもしれないけど。
それはそれでかまわない。僕は満面の笑顔で彼女にそう告げる気でいる。

緊張感が僕を満たしていた。せっかく入れてもらった紅茶も味が半分飛ぶくらいに。
湯気の向こうで、キョウコさんが微笑んでいる。表情を変え


110:ないというのも恐いものだ。 僕達はリビングにあるテーブルで、猫足の椅子に座り、向かい合わせにしていた。 遅い朝食という時間でもあるので、ソーセージの乗ったパンなどの軽食が出てきた。 えらくマスタードが多い気がするのだけど気のせいだろうか。 アスカは懐かしそうにその味を頬張っている。ああ、こんな感じの朝食もいいな。 対してキョウコさんはあまり手をつけず、僕らの方を眺めているだけである。 僕はいつもの癖を出さないように気をつけているというのに。 アスカが食事の途中で手を伸ばしてきた。 時間が固まる。冷たいものを感じる。アスカも固まっている。 僕の部屋ではよくある仕草。手づかみで食べた時に僕に手を拭くものを要求する仕草。 キョウコさんの笑顔が恐かった。アスカの手が、しおれた植物のように縮んでいく。 僕はその指先を、そっとナプキンで包み、緩やかに撫でる。 キョウコさんの眉が跳ねるのが見えたような気がしたが、僕は固まったままのアスカの指先を そっとナプキンで拭い、そのまま僕の片手に持っていた紅茶を飲み干した。 「…ゴメンナサイね、無作法な娘で」 「いえ」 こういう時は笑顔だったほうが恐いというのが、僕の結論だ。僕も同じような表情をしてる。 僕の脳裏の中に焼きついている、ある女性のような笑顔で。 アスカが指先を見つめながら固まっている。そういや、直接拭いたのはコレが初めてか。



111:⑮
16/01/20 01:01:27.62 .net
「ずいぶんと仲がよくて驚いたわ、シンジくん」
食後の後に、出し抜けにそんなことをキョウコさんが語った。食器は片付けられている。
殊勝なことに洗い物を申し出たアスカは、台所のほうに皿を持っていった。
向かい合えば剥き出しになるかと思っていたが、柔らかい言葉だった。
「わざわざ来てくれてありがとう、一人娘だから色々と心配で、過保護かと思うかもしれないけど」
そうやって左手で自分の頬をなでる。どの指にも指輪は、なかった。
「そうですね、アスカ、さんは」
「さんづけで読んでるの?」
「いえ…」
「遠慮しないで。いい機会だと思ってるの。というか、本当に来てこっちの方がびっくりしてたし」
…。意図が読めない。キョウコさんは少し姿勢を崩し、足を組んだ。
黒ストッキングの脚線美の膝に、掌を置くようにして。
「あの子、いい子なの。私にとって」
睫が少し下がっただけ、それだけのハズなのに心臓に悪い。女性の機微には、やっぱりまだ慣れない。
「私の可愛いアスカ。自慢の娘。その愛情を注いで、あの子もそれに応えてきてくれた。
だからかしらね、外面(そとづら)だけはいい子に育っちゃって」
まあ、明城に入学した当初は猫被ってたからなアスカ。
それは高級品にかかった薄っぺらいビニールカバーのように彼女を覆っていた。
半透明のそれが、僕には気に入らなかった。それはどうやら、キョウコさんも同じようで。
「…ねえ、どうやってシンジ君は、あの子の化けの皮をはがしたのかしら。私はそれがとても気になってるの」
見えない銃口を突きつけているかのような圧迫感。上等だ。いつかはあるんだこんな日が。

112:⑯
16/01/20 01:01:54.16 .net
「別に、大したことは。…そうですね、僕視点ですけど、ざっと今までをお話します」
疚しいことは何もない、してない、僕はただ、アスカに普通に接しただけだ。
明城学園の入学当初からアスカは耳目を集めていた。容姿と能力が華々しい彼女は、他人
との距離の取り方も心得ていた。他人と深く関わらないように、広く浅く。
僕も似たようなものだが、僕は先んじて相田ケンスケという趣味に


113:生きる男と友情を育んでいた。  進学校にも関わらず勉学そっちのけで趣味に没頭する彼に、色々と考えさせるものが多かったが、不思議と気が会った。  そのうち、彼と僕には共通の認識が生まれていた。  ケンスケは語っている。被写体としてのアスカは確かに素晴らしいが、何か違う、と。  要するに、アスカの猫被りは彼女の輝きを損なっているだけという意見が一致した。  で。  僕とケンスケはアスカを構い倒した。  ケンスケは「お前がこういう事にノッてくれるやつだとは思わなかった」と言っていた。  カメラ馬鹿の相田と、鉄面皮の碇と当初は呼ばれたものだが、事あるごとにアスカの仮面をはがすべく、色々とアホなことをしたものだ。  棒読みでアスカを賛美したり、そこかしこに皮肉を言ってみたり、そしたら鉄拳が飛んできた。堪忍袋の限界だとアスカは言っていた。  『何よあんたら、私のこと馬鹿にしてんの!?』  胸倉を掴まれながら、苛立ちを噴出している素のアスカを見て、僕は微笑んでいたらしい。  『シンジ、マジで殺意向けてきて僅かながらにビビったので俺はもう無理。後頼む。』  と、放課後のアスカの2人呼び出しを、メール一本で逃げた彼の友情には何も言うまい。



114:⑰
16/01/20 01:02:39.66 .net
茜色に染まった夕暮れの校舎裏で、僕とアスカは対峙した。
 のこのこと出向いた僕に対して、アスカは初めから眉を斜めにし、怒りを隠さなかった。
 ケンスケはいなかったが、ある意味僕にとっては好都合だった。
 顔を見るなり罵声を連ねる彼女に対して、僕はただ一言。
 『そういうのって、疲れない?』
  彼女は虚をつかれ、しばし呆然としていたように思う。視線が遠くなっていくのを感じ、
僕は言葉を続けた。どうして、何故、誰のために、何で。問いかけを羅列した。
 大人や他人の顔色を伺わなければならないほど、彼女は弱い存在なのか。
 そしてありのままの姿であることを、許されない存在なのか。
 特別と言えば聴こえがいいが、僕にとってはそうではない。
人の顔色を伺い演技をするのも、人から孤立するために距離を取るのも。
 どちらも寂しくて、心が冷たくなるだけで、痛くはないけど、暖かくはならない。
 一時期の僕がそうだった。両親ととある理由で疎遠になりかけた時の僕が。
 君もまた、普通の少女の一人に過ぎないんだ。
 ほっといたら遠くへ行ってしまいそうな彼女を、僕はそうして釘を刺し、留めた。
 我ながら、ひどい男だ。
 まあ、その後に酷い罵倒の連打を耳が痛くなるまで聞いた。
 今にして思えば、あれは破れた殻を捨てていくような、ストレスの発露だったのだろう。
 そして後日、アスカは今のように解き放たれた。
 ケンスケ曰く『いい表情をするようになって写真の売り上げが伸びたぜ!』と。
 僕は彼に手厚い友情を込めた関節技をキメた後、ただ満足していた。
 で。

115:⑱
16/01/20 01:03:12.25 .net
「…その後からなんですよ。今度はアスカの方から、僕に構ってくるようになって」
 
 彼女の行動力を侮っていたわけじゃないが、それはあっという間だった。
 曰く『あんたのせいで私の評判が地に落ちた。覚悟しなさい』だ、そうで。
 素を解放した彼女の評判は一変した。しつこい他方面の勧誘を文字通り一蹴し、
取り扱い注意品目として教師達に見られるようになった。
しかし生き生きとしたアスカはむしろクラスにより馴染んだような気がするし、
彼女が


116:起こす騒動に何故か巻き込まれる僕は、正直に退屈しなかった。 『シンジ…お前も表情柔らかくなったんじゃないか』 ケンスケ曰く、入学時の僕はトゲが多少あって、とっつきにくい部分もあったそうだ。 まあ僕も、外面を気にする風潮は、多少はあったし。  でもまさか、ある日いきなり、お隣に引っ越してくるとは思っても見なかったけど。  その後に僕の私生活が徐々に侵食されていくことを説明していく段になって。  キョウコさんが爆笑していた。口元を押さえても漏れる声で、案外と笑い上戸らしい。    「ちょっとあんた!ママに何吹き込んだのよ!」  珍しいエプロン姿のアスカが台所からダッシュしてきていた。台所で走るのは危険だと思うなぁ。  「ママは一度ツボに入ると中々笑いが止まらないの、マジで何言ったの!?」  未だに肩を震わせて笑うキョウコさんの揺れる背中に、泡が少しついた手でアスカが触れる。  キョウコさんが顔を上げる。大丈夫大丈夫と、アスカの手に触れながら。  「あらアスカ、丁度いい所に来たわね」  その言葉にアスカがギョっとするが、キョウコさんはそのままアスカを引き寄せ、胸に抱いた。  「あなたがとても楽しそうに過ごしている理由をシンジ君から教えてもらっただけよ。安心して」  



117:⑲
16/01/20 01:03:42.27 .net
「え?え、どういうことなの…」
 「ああ、私の可愛いアスカ。とてもとても可愛い私の天使」
 いまだ混乱の渦中にあるアスカに、柔らかい発音の言葉が囁かれていく。
 「遠い学校に行くと言った時からママはとてもとても心配だったけど、彼に出会うためだったのね」
 「え?」
 「ふふ」
 目を細めながらアスカの髪をキョウコさんが撫でている。アスカは、いつもより幼く見えた。
 「えーっと、洗い物まだ残ってるんだったら、僕がやってくるよ」
 僕はそう言って、アスカと入れ違いに台所の方面に向かっていく。
 半分くらい残っていた皿と、手付かずの鍋。他人のお宅の台所というのは緊張するな。
 リビングの方から、戸惑いが混じったようなアスカの声と、楽しげなキョウコさんの声。
 距離が離れて内容は聞き取れないそれが、自然と耳に入る。
 僕は、指先に触れる温水の冷感に少し驚いていた。
 火照った熱が指先から出て行く。耳も、熱い。
あんなことを口走らなければ良かった。話の流れとは言え、何で僕は言ったんだ。
深呼吸をする。鼓動が今になって、落ち着かない。
あの言葉が自然と口から零れ落ちた時、僕はどんな表情をしていたんだろう。

 『どうしてそこまで構ったかってのは、んー…
僕はたぶん、彼女の、ありのままの笑顔が見たかったんです』
 
頭の中が茹であがりそうな熱を放ちながら、僕は無心になるべく、入念に機械的に洗い物を片付けた。

118:20
16/01/20 01:04:44.04 .net
リビングに再び行った時には、にこにこと座っているキョウコさん。
その正面の席で、バツの悪い表情を浮かべたアスカがいた。
僕が視線を向けていることを察すると、アスカはぷいっと顔を背けた。
いたたまれない気になりそうになると、キョウコさんがまたクスっと微笑んでいる。
「大丈夫よシンジくん。洗い物をありがとう、お客様なのにね」
「…いえ」
着席を促される。僕はアスカの隣の席に、座っていいのだろうか。
一瞬の逡巡の際に、上着の裾を引っ張られて座らされた。無作法だよアスカ。
「もー、本当に無作法よアスカ」
「い、いいのよママ、シンジなんだから。シンジだからいいのっ」
どういう理由だよもう。でも、その態度に僕は安心してしまう。
「あらあら」
 親御さんの前だからなのか、何故か僕も死ぬほど恥ずかしい。
 向こうを向いたままのアスカは僕を見ない。僕はキョウコさんにとりあえず向き直る。
 「もー、今からちょっと面白い写真を見せてあげようかと思ってたのに」
 キョウコさんがニコニコとして、いつの間にか、一冊の本を手に取っていた。
 色あせかけた古いアルバム。日付は遠く、僕達の生まれる前。
 「何よママ、てっきりアタシの昔の写真でも持ってきたのかと…」
 「ふふ、シンジくんを少し驚かせようかと思って」
 嫌な予感がする。慣れた様子のウインクの仕草で、ぱらりとページを開く。
 アナログ特有の色あせ加減を持ったカラー写真。その一枚。
 その一枚、集合写真。その面影のいくつかに、強烈な見覚えを覚えた。
 「…あれ、これママ?こっちの人…え、なんかシンジに…」
 僕は頭を抱えた。そして、キョウコさんが僕に対して向けていた眼差しの理由を。
 写真の中に、僕にとってこの世界で敵わない女性が微笑んでいる。
 写真の端っこに、僕にとって、面影を追い求めている男性がそっぽを向いている。
 その2人の面影を足して2で割ると、丁度僕になる。
 「大学のころ、ちょっとね。これも運命のイタズラなのかしら」
 キョウコさんはまた一つウインクをした。僕はこの女性(ひと)にも敵いそうにもない。

119:名無しが氏んでも代わりはいるもの
16/01/20 01:06:16.10 .net
連投対策

120:21
16/01/20 01:06:43.38 .net
要するに、アスカもキョウコさんも、一度隙を見せてはいけない相手なのだ。
 緊張で満たされていた午前中とは打って変わって、僕とアスカの毎日を楽しそうに
聞き出していくキョウコさんの表情は母親と話好きの女性のそれだった。
 僕は学校からプライベートから根掘り葉掘り聞かされて、というかアスカに内緒に
していたはずのことも多く聞き出されていった。アスカはアスカで、自分の一番尊敬する
キョウコさんとその昔の友人に僕の両親がいたことに驚きながらも、妙に納得していた。
僕が常日頃から、両親は普通の人だと言っているのを明確に否定できて喜ばしいようだ。
でも僕にとって母さんは滅多に怒らないけど恐い人だし、父さんは滅多に笑わないけど
家族には優しい人なんだ。数年前に息子を放って『何かドイツ辺りにいる秘密結社が世界
を滅ぼしそうだからおしおきしてくるわね』と笑顔で妄言を吐いてそのまま本当に何年も
帰ってこないけど、時々は預け先の親戚宅に連絡もくれたし、高校進学も反対はしてたけど
最後には賛成してくれたし。
ということを苦々しくも言うと、キョウコさんは引きつった笑顔で
「あなたも大変ねぇ。彼女は…まあ、有言実行を地で行くから、ちゃんと帰ってくるわよ」
「え?本当にシンジのママ、何物なの。エージェント?ジェームスボンド?」
知らないよ本当に。どうせ昔の研究に関するものでもやってるんじゃないかな。
何を研究していたかは知らないし、父さんとは出国前に色々と話せて、だから旅立てたし。
『自分の足で地に立って生きろ。お前は、そうできるように育ててきた』
僕は拳を握る。この掌の中に、父と母の暖かい想いが残っている。だから、いいんだ。
「ふうん。帰国したら、大人びたあなたを見て、あなたのママは驚くかも」
僕は苦笑した。大人になんてまだ成れてもいない。夢を見つけても、どう生きていくかも。
ただ、今の僕は。僕はアスカの横顔を少しだけ見つめて、そのままキョウコさんに向く。
「あの、キョウコさん」
「なあにシンジくん。そんな強い瞳を向けないで。あなたの言いたい事、大体分かるから」
強い想いをぶつけられる。母親として、一人の女性として、想いの嵩が、僕にずしりと。

121:22
16/01/20 01:07:32.68 .net
僕が気圧されかけ、下っ腹辺りに気を込めて言い返そうとした時だった。
隣でアスカがぴくっと肩を揺らして、僕の裾を掴み、そこから掌を、僕の手の上に乗せた。
「マ、ママ!あの、私ね…あの学校で…ちゃんとや�


122:黷トるから。勉強だって、スポーツだ って誰にも負けないでいるの、楽しいの。クラスメイトとか、先輩とか、街とか、あの。 …だから、こっちに帰ってくるのは、少なくなったけど、それはママが嫌いになったわけ じゃなくて…その」 指先って柔らかいなあ。たどたどしい声のアスカというのも意外というもので。 僕はもう先ほどからの攻撃で脳みそが沸騰してしまってもう何がなんだから嗚呼。 ぐっとアスカが僕の身を引っ張った。んで、僕の片腕に抱きつくくらいに密着して。 「シンジは頼りないから、あたしが付いていないとダメなの!」 と、言い放った。え? 「こいつったら一人でいるとずっと一人でいるし、若者っぽいアグレッシブさもないし、 気が付いたらカップラメーンで済まそうとするからご飯食べに行って栄養バランスを考えさせたし!」 いやそれって君の事だよね?女の子の手料理に夢を見てもいいんじゃないかな? というかテンパって何を言い出すんだよ。僕は反論を脳みそが出力しないやわらかい というか、視界が ぐるぐるとして ああ 揺れるあすかの髪がきらきらして 「あらあら」 そんなキョウコさんの声が遠のいていく。前日からの寝不足だった僕の意識は左側に感じる アスカの柔らかな感触に沸騰し続け、脳みそのシンタックスエラーによって限界を迎え ぷつん、と途切れた。



123:23
16/01/20 01:08:19.22 .net
目が覚めた時は夕暮れだった。ソファに横たわりタオルケットがかかっている。
照明が抑えられたリビングの中に、僕の視線はまどろみながら誰かを探していた。
茜色に染まった空に、星が少しずつ輝き始めている。
庭先に2人が座っていた。僕は半身を起こさずにその声を聞いていた。
「ねえ、ママ。…私、変わったのかな」
呟くような、甘やかな彼女の声。穏やかな声がもう一つ、それに応えた。
「ええ、可愛い私のアスカ。あなたはもっと魅力的になったのよ」
「え…いやそうじゃなくて」
「違わないわ。あなたのまま、一つだけ進んだの。変わったわけじゃない。
新しい場所に行って、押し潰されることも歪むこともなく、狭苦しい場所にいるわけでもなく。
 シンジくんが、あなたをあなたのまま、こうして連れて帰ってきてくれたわ。
 少し悔しいけど、それよりも遥かに嬉しいことよ」
 「…ママ」
 「私は安心して、ここで待っていられる。あなたの変わらない笑顔が、魅力的になっていくのを、楽しみに待っていられる。
 ずっと、心は傍にいるわ。寂しくなったら、いつでも帰ってらっしゃい」
 「うん、ママ…」
 寄り添う二つの後姿を盗み見る。…僕の中で、重たいものが解けていく。
 その緊張感が、僕をもう一度まどろみの中に落としていく。
 「あ、でもシンジくん。自分から攻めないと上手いこと主導権握れなさそうね」
 「そうなのよ!アイツったらどうやっても反応が鈍くてアッタマきちゃうの!」
 …不穏な会話が聞こえたけど、僕は聞こえないフリをしよと思う。
…密室とか寝込みとかスマホに追跡アプリとか何か嫌なキーワードなど僕は聞いていない。
聞いていない…。…荷物には注意しておこう。うん、いや、何となく。

124:24
16/01/20 01:08:58.56 .net
 2日間、早かったな。僕は再び赤いカマロの後ろの席で、そんな事を考えていた。
 結局あの後、キョウコさんは僕とアスカをいつもにこにこしながら眺めており、時折に
飾ってある写真の由来を語り、その都度アスカが話を逸らそうと躍起になっていた。
 僕はキョウコさんとメールアドレスを交換し、僕がケンスケから押収したアスカフォルダの
一部を解放する代わりに、惣流家秘伝レシピを教えてもらうという取引を結んだ。
 ありがとうケンスケ。君が売ろうとしていた写真は僕にとって有意義なものになったよ。
 友情って素晴らしいなあと棒読みを心の中で呟きながら、歌謡曲を聴きながら公道を行く
 キョウコさんの後姿を見ている。アスカは今日も、僕の隣に座っている。
 あの家の中にいるアスカは自然で、僕はその中で異物にならないか心配だったけど。
 心の中に生まれたその気持ちに驚きながらも、今この時間に満たされる。
 
 そんな思考が時間を進めていくかのように、駅のロータリーについた。
 帰りの新幹線の時間までは余裕があったけど、キョウコさんはからっとしていた。
 また、映画のポスターのようなハグをアスカに、ついでに僕にもして。
 頬にキスをされた時は心臓が跳ねたけど。悪戯な笑顔で、そのまま紅いカマロをかっとばしていった。
 僕はアスカに足を踏んづけられ、耳を引っ張られてそのまま帰路に着いた。
 よく知っている街へ。車窓で途中にまたあの遺跡を見たけど、僕の心はざわめかなかった。
帰りの新幹線の車内で再び眠る彼女の横顔と繋いだ手の暖かさが、僕の心を占めていた。
寒い季節が来るね。僕と君が出会ったあの季節だ。僕はあの寒空の下で。
掌の中で握っていた心を、君に触れさせて、そのまま離れられなくなっている。
僕の隣に、いつの日も太陽のような暖かさがあって、その傍でまどろんでいたい。
いつか、僕の母と父にも、アスカを会わせる日がくるのかな。
その時、僕は彼女のことをどのように、どれほどに、何て説明したもんかな。
                            
                         おしまい。

125:名無しが氏んでも代わりはいるもの
16/01/20 10:23:36.54 .net
>>105
ポエム氏だーーー!!!
ずっしり読み応えのある長編お疲れさまです!大満足の完結篇でした!!
ユイさんって何者…w
ポエム氏の書くシンジ君は何というか、すごく貞本版シンジ君なんだなと強く感じられて好きです
芯に確かなものがあって、人当たりはいいけど冷めていて、そのくせ内心は案外柔らかいというか
嫌いなものは嫌い、逆に好きなものには好きと正直にはっきり言いそうなところ等々
随所に見られる男の子らしいところも好感度高し!
アスカも貞本版の彼女らしさがしっかり踏まえられていて、時々見える少女らしさが可愛すぎです
これからもきらきらしたアスカとの日々が続いていくことを願います…
(いろいろと)がんばれ我らのシンジ君!!
本当に乙でした!
一方的に長文語りすいません、次回も超待ってます! ネタ切れの通りすがりでした

126:名無しが氏んでも代わりはいるもの
16/01/20 23:20:56.46 .net
>>105


127:名無しが氏んでも代わりはいるもの
16/01/22 00:15:04.83 .net
>>105
乙乙乙ー!
す、すげえわアンタはこんな量を投稿できるんだもんな
まさに名前通りのポエマーだわ





次作はよ

128:1/8
16/01/22 21:59:24.76 .net
こんばんは通りすがりです
書いてたら長くなっちゃいましたが、何でもない日常ネタ一本行きますね
--------
放課後の教室
ふっと目を覚ますシンジ
机に突っ伏して寝てしまっていたらしい
気恥ずかしさに自嘲しながら頭を起こすと、目の前にアスカの呆れ顔
こちらをじっと見つめている
「…うわっ」
全身で動揺するシンジ
ガタついた椅子が背後の机にぶつかる
「んー…?」
後ろの席で同じく居眠りしていたカヲルがおっくうそうに顔を上げる
ぼんやりした目で不思議そうにシンジとアスカを見比べる
「…何?」
慌てるシンジ
案の定アスカの両眉が吊りあがる
「何じゃないでしょうが! 何十分寝てる気よ」
「ごッごめん」
あたふたと壁の時計に目をやるシンジ
いつから眠っていたか全然記憶がない
尖った視線をよこすアスカにとりあえず平謝り
「ごめん、もしかして待たせ�


129:ソゃってた…よね? ずっと、ここで?」 「別にあんたなんか待ってない」 明らかに不機嫌な声で吐き出すアスカ



130:2/8
16/01/22 22:00:07.96 .net
首を縮めるシンジ
きっぱり目をそむけたアスカの横顔をただ見守る
「レイが図書委員の当番終わるまで、ここで荷物見てるだけ。もしレイが戻ってくるのが
 早ければ、あんたなんか放っといて二人で帰るつもりだったわよ」
「そんな…って、そうだよな…」
正直に情けない表情になるシンジ
気づいてやや眉を緩めるアスカ
しばらくシンジの顔を眺め、急に悪戯っぽい目になってぐっと身を寄せる
うろたえるシンジに囁く
「ねえ、あんたって…結構、かわいいのね。寝顔」
「えッ」
身構える余裕もなく素直に慌てるシンジ
「って、その、やっぱりずっと見てたの?! もしかして?!」
「そりゃそうよ」
あっさり身体を離すアスカ
重たい冬生地のスカートをひるがえして脚を組む
じろっとシンジを一瞥
「退屈だったもの。誰かさんたちのせいで」
「う…ごめん」
言い返せなくなるシンジ
援護を求めるべく振り返って、呆れる
机に両肘ついてまたうとうとしているカヲル
「…ちょっと、渚! いつまで寝てるんだよ」
照れ隠しついでに揺り起こそうとするシンジ
すかさずアスカの一言が刺さる
「あんたがそれ言うわけ?」
「…う」

131:3/8
16/01/22 22:00:41.83 .net
叱られたように小さくなるシンジ
自分のみっともなさに溜息
半睡状態でシンジの手をどけ、再び顔を横向きにうつぶせて寝息を立て始めるカヲル
もう一度大きく溜息をつくシンジ
「ごめん、アスカ。全然気がつかなくて。…授業終わるまでは、何とか起きてたと思うんだけど」
「別にいいわよ、そんなの。ほんとにここで待ってただけだし」
ひらひら手を振るアスカ
もうその顔はあっけらかんとしている
やっと少し笑うシンジ
満足げな微笑でそれを嘉納してやるアスカ
「にしてもどうしたのよ、二人揃って。夜更かしでもしたの?」
「…うん、まあ」
決まり悪いのを隠さないシンジ
「笑っちゃうと思うけど、先週のセンター試験の問題、試しに解いてみてたんだ。渚が
 予備校のHPかどっかからプリントアウトしてきてさ。何点くらいまで行けるか、ちゃんと
 科目ごとに時間計って、採点もして。…そしたら案外白熱しちゃって」
再び呆れ顔になるアスカ
「まさか、全科目やったんじゃないでしょうね」
「全部じゃないけど…まあ、今の時点で手を出せるところは、大体」
後ろめたげに視線を逃がすシンジ
思いきり溜息ついてみせるアスカ
「馬…っ鹿じゃないの? あんたたちって」
「…おっしゃる通り」
更に小さくなるシンジ
脚を解いて身を乗り出し、シンジの机に両肘ついてその顔を覗き込むアスカ

132:4/8
16/01/22 22:01:26.91 .net
「それでこの私やレイを待たせたわけ? そんな、どうでもいいことに二人して熱中しちゃって」
ばつの悪さに身じろぎするシンジ
それでもちょっと見返す
「…どうでも良くはないだろ。来年はたぶん、僕らも受けることになるんだから」
「だから何よ? あーもう、そこがわかんないのよね」
かぶさってきた髪の房をぱっと払うアスカ
口を結んでそのしぐさを見つめているシンジ
「試験ってのは、基本、今まで習ってきたことしか出ないんだから。普通に授業受けてれば
 何も困ることなんかないのに、ほんと日本人ってベンキョーが大好きよね」
「…好きってわけじゃないと思うけど」
苦笑いになるシンジ
本気で訳がわからないという顔で見つめ返すアスカ
「好きじゃない。試験対策とか夏期講習とか、どこの塾がいいとか予備校の模試がとか、
 いちいち大騒ぎして馬鹿みたい。あーあ、前から薄々は思ってたけど、あんたも同類とはね。
 別に自分の能力を高めるのが悪いとは言わないわ。でも、それしかないって悲壮な顔されると、
 もっと視野を広げて、ちょっとは自分に自信つけたら?って言いたくなるのよね」
「…自分に自信、か」
自分の手に視線を落としてしまうシンジ
「何よ」
暗く自嘲するような表情を見とがめるアスカ
机の脇から鞄を取り上げ、教科書やノートをしまい始めるシンジ
「別に、今のあんたがそうだなんて言ってないでしょ」
「…そう思ったわけじゃないよ。ただ、中学の頃の僕はそれに近かったなって、思い出してさ」
手を動かしながら答えるシンジ
じっと見ているアスカ

133:5/8
16/01/22 22:02:10.48 .net
寒々しいようなシンジの横顔
おとなしくて、意固地でも頑なでもないのに、どこかひどく投げやりで他人を突き放す目
昔のシンジの顔なのかもしれないと一人見つめるアスカ
「僕には特に才能とかとりえはなかったし、あそこを出て一人になるには、とにかく勉強して、
 文句のつかないだけの成績を出すしかないと思ってた。勉強が好きだとか、本気で何か
 学びたいことがあるわけじゃなかった。一人になれば…自由になれれば何か見つかるかもって、
 何となく期待だけはしてた。…アスカが一番嫌うタイプだったかもね」
ちらっと一度目を上げるシンジ
「ばか」
一蹴するアスカ
表情を変えずに促す
「で? 全部吐いちゃいなさいよ、ラクになるから」
今の顔に戻って笑うシンジ
帰り支度を終えた鞄を閉める
机の上に置かれた両手
「吐くも何も、それだけだよ。首尾よくいい成績修めて、ここの受験を許してもらった。
 それで、また受験勉強して…ここに来た」
「で、また勉強してる。次は大学? その次は?」
自分の内側を覗き込むような顔で苦笑するシンジ
「そこまでまだちゃんと考えられてないよ。…うん、だからやっぱり、勉強が好きでやってるんじゃ
 ない。ただ単に、今まで続けてきたのが勉強ぐらいだったってだけ。アスカに馬鹿にされても
 仕方ないよ」
「…そこまで萎縮することないでしょ」
「うん。でも、誇らしく思えることでもない。…それにさ、こんなふうに突き放して思えるように
 なったのは、ちゃんと理由があるんだ」
アスカを見るシンジ

134:6/8
16/01/22 22:02:50.34 .net
思いがけず強い眼差にとまどうアスカ
「…何よ」
寝ているカヲルの方を一瞬気にし、それからまっすぐアスカに向き直るシンジ
「ここに来て、勉強する以外にも、僕には続けていけることが一つ持てた。だから、少しは
 今までの自分を、冷静に振り返れるようになった」
瞬きするアスカ
痛いほど真剣なシンジの目
視線を合わせているのが眩しい気がして、馬鹿らしいくらいたじろいでしまう
勘づかれないようにさっさと訊き返す
「何よ、それは」
ごく静かにふっと微笑むシンジ
真摯な視線がそれだけでいっぺんに柔らかくなる
目を離せずにいるアスカに告げる
「アスカを好きでいること」
「…え」
今度こそ不意をつかれて声を失うアスカ
ゆっくり頬に血が昇ってくるのをどうにもしようがない
自分も照れた顔でもう一度笑うシンジ
「あの日、アスカの手を掴めて良かった。…たぶんあの駅のホームから、今の僕は始まったんだ。
 それまで自分が人を好きになれる奴だとは思えなかったのに、アスカのことは、考える前に
 好きになってた。だから変われた。…嘘みたいに聞こえるかもしれないけど、本当なんだ」
そっぽ向くアスカ
「…嘘だなんて思ってないわよ」
「…ありがとう。…ごめん、変な言い方しかできなくて」
「いいわよ、別に。…嫌いじゃないわ、今のも。でも」
今度はシンジが瞬きする
「でも?」

135:6/8
16/01/22 22:02:50.58 .net
思いがけず強い眼差にとまどうアスカ
「…何よ」
寝ているカヲルの方を一瞬気にし、それからまっすぐアスカに向き直るシンジ
「ここに来て、勉強する以外にも、僕には続けていけることが一つ持てた。だから、少しは
 今までの自分を、冷静に振り返れるようになった」
瞬きするアスカ
痛いほど真剣なシンジの目
視線を合わせているのが眩しい気がして、馬鹿らしいくらいたじろいでしまう
勘づかれないようにさっさと訊き返す
「何よ、それは」
ごく静かにふっと微笑むシンジ
真摯な視線がそれだけでいっぺんに柔らかくなる
目を離せずにいるアスカに告げる
「アスカを好きでいること」
「…え」
今度こそ不意をつかれて声を失うアスカ
ゆっくり頬に血が昇ってくるのをどうにもしようがない
自分も照れた顔でもう一度笑うシンジ
「あの日、アスカの手を掴めて良かった。…たぶんあの駅のホームから、今の僕は始まったんだ。
 それまで自分が人を好きになれる奴だとは思えなかったのに、アスカのことは、考える前に
 好きになってた。だから変われた。…嘘みたいに聞こえるかもしれないけど、本当なんだ」
そっぽ向くアスカ
「…嘘だなんて思ってないわよ」
「…ありがとう。…ごめん、変な言い方しかできなくて」
「いいわよ、別に。…嫌いじゃないわ、今のも。でも」
今度はシンジが瞬きする
「でも?」


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