19/05/30 22:16:20.99 gN8EMOvf.net
浪速歯科大学・歯内療法科准教授・財前五浪は大いなる野望に燃えていた。
財前の目の前には、目下鋭意建築中の浪速歯科大学新病棟が、大きな槌音を立てながらも徐々にその雄姿を現しつつある。
この巨大な新病棟が竣工する来年、歯内療法科の主任教授・吾妻貞三が定年退官し、新たな教授が生まれる。
浪速歯科大学の権威の象徴たるこの新病棟で、教授の椅子に座るのは、当然この俺だ
という強い自負が財前にはあった。
事実、近年の財前の活躍には目を見張るものがあった。
抜髄・感染根幹治療において、どんな難症例でも奇跡のように治癒に導くその臨床手技は「神の手」とも呼ばれ、
名声は近畿地方内を越えて東京まで伝わり、在京マスコミの取材を受けるまでになっていた。
自信に満ちた財前の態度に、多くの患者、教職員、学生が魅了され
もはや財前は浪速歯科大学一の寵児と言っても過言ではない。
来年は俺が教授となり、歯内療法科の陣頭指揮をとっているのだ。
財前はそう信じて疑わない、と言いたいが、懸念材料がないわけではなかった。
それは現主任教授・吾妻貞三の財前に対する態度である。
どちらかと言えば地味で内向的、臨床はそこまで得意ではなくむしろ学究肌で生きてきた吾妻にとって、
もはや己の権勢をも凌ぐような勢いで派手に注目される財前を快く思わない、
そんな嫉妬に似た感情を近年は隠すことができなくなっていた。