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某民法ディレクターが開口一番、こういいました。
「昼間っからテレビを見ている視聴者って、どういうひとかわかりますか?
まともな人間は仕事をしているからテレビの前になんかいません。暇な主婦とか、
やることのない老人とか、失業者とか、要するに真っ当じゃないひとたちが僕らの
お客さんなんです。彼らをひとことでいうと、バカです。僕らはバカを喜ばせるために
くだらない番組を毎日つくっているんですよ。あなたの役に立つ話ができるわけないでしょ」
彼はテレビ局のエリート社員ですから、この偽悪ぶった言い方がどこまで本音かはわかりません。
私が驚いたのは、その言葉の背後にある底知れぬニヒリズムです。
彼によれば世の中の人間の大半はバカで、1000万人単位の視聴者を相手にするテレビ(マスコミ)の
役割はバカに娯楽を提供することです。その一方で、テレビは影響力が大きすぎるので失敗が許されません。
そこでテレビ局はジャーナリズムを放棄し、新聞や週刊誌のゴシップ記事をネタ元にして、お笑い芸人や
アイドルなどを使って面白おかしく仕立てることに専念します。
これだと後で批判されても自分たちに直接の責任はないわけですから、番組内でアナウンサーに謝らせればすむのです。
「バカだって暇つぶしをする権利はあるでしょ」彼はいいました。「それに、スポンサーはバカからお金を巻き上げないと
ビジネスになりませんしね」いまではこうしたニヒリズムがメディア全体を覆ってしまったようです。
近代の啓蒙主義者は、「バカは教育によって治るはずだ」と考えました。しかし問題は、どれほど教育してもバカは減らない、
ということにあります。だとしたらそこには、なにか根源的な理由があるはずです。