07/11/27 17:48:30 Duv/HM21
子供向けの本も雑誌もろくにない時代だった。仕方なく、地方公務員だった父の書棚から本を取り出してみるものの、
さっぱりわからない。
そこで3つ年上の姉と一緒に、手づくりの雑誌をつくり、近所の友達にも回覧してみせた。
文学少女だった姉が、昔話などの物語を書き、彼が絵をつけた。『地球SOS』の小松崎茂や『少年王者』の山川惣治
が彼にとってのヒーローだった。
上京を決意した。しかし、マンガ家が将来のない浮草稼業でしかなかった時代のことである。当然のことながら、
周囲の猛反対にあった。その中でただひとり、姉だけが彼の味方をしてくれた。
「好きなことをおやりなさい。それが一番、幸せになれる道だから、と」
美しい女性だったという。
石ノ森の描く少女はいずれも、透き通るように美しく、可憐で、どこか儚い翳りを宿しているが、それはこの姉の面影を
うつしているからである。
その姉が、突然、この世を去った。
彼女に治療を受けさせるために東京へ呼んで、トキワ荘で数ヶ月ばかり一緒に暮らしていたある日、突然発作に見舞われ、
急死した。24歳の誕生日、石ノ森はまだ20歳だった。