09/04/29 20:59:59 KKHnxoy3
『初恋』
「相槌ばっか打ってないで何か言ったらどうだい?」
目の前の帽子屋はそう言った
僕が帽子屋のかぶってる帽子が欲しいだなんて言えるはずないだろう
僕は帽子屋のかぶってる帽子と同じものを探す旅に出た
そうしたらどうにもこうにも見つからなくて苦しくなった
雨ばっか降ってびしょびしょにもなった
歩いたこともないような道すら歩いた
そうしてやっと見つけた帽子
けれど馬鹿な僕は現実を忘れていた
来た道を戻ることしか僕には出来ない
「相槌ばっか打ってないで何か言ったらどうだい?」
目の前の帽子屋はいつもの調子で言った
僕が帽子屋のかぶってる帽子が欲しかっただなんて言えるはずないだろう
言えるはずないだろう
言えるわけないだろう
言えたなら
帽子屋の手が僕の頭を撫でる
寒かった体があたたかくなってく
きっとこれからも僕は相槌ばっか打つのだろう
いつの日か僕の言葉が帽子屋に届くように
いつの日か僕も帽子屋と同じ人間に成れるように