09/03/13 12:49:52 ET6ihFfs
「ゴムの指」
左手の小指がない男。
かつて
どこかの自由に向かうための
切符代わりに差し出したのだ。
これは回数券だ。
まだ四枚残ってる。
つまり俺はまだ、旅の途中なのさ
と
男は呵呵大笑する。
文字通り
身を投じて生きてきた、その男を
しかし世間は冷たく無視する。
指がないのを見てとると
ほんの数センチの欠損が
途方も無い溝となる。
だから男は、偽りの指をつける。
ゴムで出来た小指。
すると
世間はいつもの表情を取り戻す。
男を仲間として迎える。
人は男の顔を見ずに、指を見る。
だから男も、ゴム製の仮面をつける。
暇をもてあました時
男はゴムの指を転がす。
ころころと、指で弄んで。
ころころ、ころころ
虚ろな表情で
転がす。