08/12/16 16:46:40 vW2nfwCa
「ライム」
夏の日、僕はライムの苗木を2本持って帰った
彼女はコロナビールが好きだったし
ソムタムにもライムは欠かせないから
苗木を見て、バカだと彼女は言った
サボテンも枯らしてしまうのに育てられるわけがない
それなのに一度に2本も買うなんて、バカだと言った
土曜日に大きな鉢を2つ買ってきた
土を入れて、狭いバルコニーに並べた
カラになった焼酎のガラス瓶に水を汲み
毎日熱心に水をやって
枝がまだ細いからと蕾を丁寧に摘み取り
白い花がライムの香りだと言ったのは彼女だった
友達を呼んだ時には鉢を部屋へ入れ
コロナビールを飲みながら
来年はたくさんライムが出来ると自慢したのは彼女だった
欲しがっていたデジタルカメラを買ってきて
腰をかがめて不器用にピントを合わせ
彼女が最初に撮った写真は、少しねじれた長細い葉っぱだった
沢山の旅行と沢山の写真を夢見ながら
彼女は結局、ライムの葉っぱを1枚撮ったきり
折角のカメラは旅行に行くことはなかった
狭いバルコニーに、また夏がめぐり
少し太くなった枝に2つ、深い緑の小さな実がついて
まぶしい光の中、影を落としている