君のセンス五段階+αで評価するよ[vol.77] at POEM
君のセンス五段階+αで評価するよ[vol.77] - 暇つぶし2ch352:雨森 ◆yjVBsR9W2A
08/12/10 06:33:44 467xl/Wv
偶には投稿してみます。宜しくお願いします。

「本を売る日」

父親が亡くなって広かった一階の書庫は主を失った
少年は泣いたりしなかったが外出する事はめっきり減った

父親の死から半年が過ぎたころ
少年は父親の書庫から 少しずつ少しずつ
本を部屋に持ち帰るようになった

書庫から多くの本を迎えに行き
おびただしい数の物語を自室へと連れ帰っては
寂しく親交を深めた

少年の部屋はやがて物語で賑わった
異邦の少年たちや遠い過去の男女が
少年の前で仲良く談笑する

父親の書庫から全ての物語を連れ帰った日
とうとう少年の部屋は彼のものではなくなってしまった

おびただしい物語に埋もれ少年は部屋の隅で膝を抱え
やけに耳に遠い悲喜劇を聞いていた

ある時父に似たロシアの男が
少年に尋ねた

私達の話はもういいから
今度は君の物語を聞かせてくれ





今日
少年は部屋にあった全ての本を売り払った
父の本を 全ての物語の故郷を
いくばくかの金に代え
そして彼は一冊の分厚い地図帳を手に入れた

少年は地図帳を大きなバッグにしまい
長く閉じこもった部屋を後にした
彼の後を数多い物語たちが続いていった

地図帳に描かれた世界は果てしなく広かった
少年は かつて父が連れ帰った物語を
自らの物語とともに外の世界へと連れ出す

目の前にはただただ平凡な街の風景があった
異邦の草原も 幻想の城もない ただの街だった
しかし確かな一歩目の足跡が
少年の地図帳には記されていた



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