10/04/28 09:10:57
冬山シーズンもたけなわのころ、一人の男が山小屋に現れた。
青白い顔して「泊めてくれ」という。
小屋番は、その男の風体にまず驚いた。
男は上から下まで雪まみれで小刻みに武者震いしている。
しかもこんな時勢に・・熊の毛皮を身にまとって。
「失礼ですが、時代をお間違えではございませんか、お殿様」
小屋番は慇懃に尋ねた。
「何と、今は何年の何月だ」
「失礼ですが、恐らく四百年ほど後にタイムスリップなさっていらっしゃいます」
「では聞くが、あの猿風情は結局どうなった」
「結局、天下は徳川殿がお取りになられました」
「…そうか。ならば先を急がねばなるまい。者供、行くぞ」
踵を返すその後に、後ろに控えていたらしい屈強な男たち十数名が続く。
ざく、ざく、ざくという足音が遠ざかると、見習いがぼそりと呟いた。
「隠し金のありかでも聞いときゃよかったのに」
「何、奴らのお陰でここは今でも有名なのさ。それで十分だろ」