10/07/07 22:02:13 hwWo+bXy
いつもなら今頃運動場を真っ白に覆う雪も、今年は暖冬のせいで僅かに隅の方に溶け残る
だけだった。俺は野球に興じるみんなと離れ、ひとりどんよりした空を眺めていた。
三月になったらここともお別れだ。三年間俺を縛りつけあんなに逃げてしまいたいと
思っていたのに、いざその時が迫ると不思議と感慨深くなるものだ。
「もうすぐだな」振り向くと坂本先生が立っていた。
「先生…」先生は俺の隣に座った。
「どうした?浮かない顔して」先生の問いかけに俺は黙っていた。
「お前さ、こんな田舎の郵便局じゃなくて自分にはもっと派手でカッコいい仕事がある
とか思ってるんじゃないのか?」俺はかぶりを振った。
「逆だよ。去年からずっと先生と話し合って地元の郵便局に決めたけど…。
俺、自信無いんだ。俺なんかにちゃんとやれるかなって…」
「何言ってんだよ。そんな弱気でどうするんだ」先生は俺の肩を揺すった。
「いいか?初めから自信満々な奴なんかいないよ。俺だって最初の頃はビビったもんさ。
大事なのは自分に与えられた役割をきちんと果たすことだ。お前なら出来るよ。俺が保証する」
その時、雲間から顔を覗かせた太陽がぱあっと運動場を照らした。
「先生にそう言われると何だかやれそうな気がしてきたよ。俺、頑張るよ」
四月のある日、俺は郵便局のドアを勢いよく開け放ち走り出していた。
「ごめん先生…俺…俺やっぱり自分の役割を果たせなかった…」涙が止まらなかった。
「先日発生した郵便局強盗の続報です。警察は二人組の内、駆けつけた警察官に射殺
された男の身元を特定し逃走中のもう一人の男との関連を捜査中です。射殺された
坂本せんせ…失礼しました…サカモトユキオ容疑者は、先月県内の刑務所を出所した
ばかりで…」