10/06/19 22:53:05 tdlGkUPT
ハードロックの大音響が耳をつんざくクラブで、
キヨシロウは強い酒を飲みながら愚痴をこぼした。
「年寄りにはいつでも席を譲れって、結構リフジンな話だよな。
いくら若いつったって、俺らだって疲れてるときはあるし、
なんかカッタルイときだってフツウにあるじゃん」
まつげにマスカラを塗りファンデーションをパタパタしながらハナは応じた。
「で、キヨシロウ、あんたはその爺さんに席譲ってあげたの?」
「どう見たってあん時の俺より元気100倍のカクシャクとした爺さんだったのによ、
上からジロジロ俺の顔を見るのよ。しばらく無視してたんだけどさ、
もうギンギンに席譲れオーラ出しまくりだったからよ、仕方ねえ、譲ってあげたよ。
なのにそのジジイ、アリガトウの一言も言わずに俺を押しのけるようにして座りやがった。
さすがにムカついたね、ったくイマドキの年寄りときたら」
「ハハ、キヨシロウ、あんたの口調もイマドキの年寄りっぽくなってるわヨ」
ハナのメークはやけに念入りだ。もともとナチュラルメークが魅力のコだったのに、
最近厚化粧に目覚めてしまったらしい。
「だいたい、イマドキの若者はっていう言い方も腹立つよなあ。
自分らだって若者だったときはあるくせによ」
「遙か昔だけどネ」パタパタ。
「超高齢化社会だか何だか知らねえけどよ、年寄りを甘やかしすぎじゃねえのか。
大体、俺らが稼いだ金で養ってもらってるくせによ」
「自分の稼いだ金くらい自分の老後に使いたいわよね」まだパタパタ。
「老後か。そんな先の先の話、考える気にもならんね。
俺らは今が楽しければそれでいいのさ。
おいハナ、お前最近化粧濃くなってねえか?」
「お肌の曲がり角なのよ」ハナは恥ずかしそうに微笑んでコンパクトを閉じた。
「キヨシロウの言う通りよ。私たちはまだまだ若いの。
もっともっと青春を謳歌しなくちゃね。だって私たちはまだ、
90歳になったばかりなんだから」
平均寿命367歳という超超高齢化社会において、
90歳なんてまだまだくちばしの青いヒヨッコに過ぎないが、
それでもこれまでナチュラルメークでごまかせていたハナの皺は、
さすがに厚化粧でないと隠せなくなってきていた。