09/06/18 14:28:44 OVh8sVez
「しかし解らないのは、」医務官は続ける。
「現場が密室状態にあったということだ。収納室の出入り口は、デッキへの扉の
他には脱出用ハッチだけだ。しかし、その外は宇宙空間であり、二階と三階にある
この船のエアロックは内側からしか開くことが出来ない。犯人が逃げたところで、
船に戻ってくるのは不可能だと言うことさ。また、犯人がどうにかして防火ロックを
外側から掛けて逃げることが出来たとしよう。しかしその場合においても状況は変わらない。
一階と二階、一階と三階をつなぐ非常通路はあるが、ミドルデッキにはロリータ君、
フライトデッキには艦長殿とアントニオ君がいた。第二の密室というわけだ。
ロリータ君、キャビンスキャニングのデータは残っているね?」
「は、はい」
いきなり水を向けられたロリータは慌てて操作パネルでスキャン記録を呼び出した。
スキャンが行われたのは17:45。この時、クルーたちがそれぞれ自己申告通りの場所に
いたことが記録されていた。
キャビンスキャニングは、本来は火星や月のコロニーとの行き来の際に密航を
防止するために使用されるもので、このような短期・非居住地往復のミッションで
使われることは皆無なのだが、今回は思わぬ役割を担ってしまった形である。
「けっこう」
レクターは頷いた。
「二階は五時二十分以降、二回だけ密室でなくなっている。すなわち、ロリータ君が
ミドルデッキに着く前と、フライトデッキに行ったときだ。どちらも時間にして
二分足らずだろうから、その間に被害者を撲殺し、一階と二階もしくは三階を往復するのは
不可能だ。だから可能性としては、第二の密室が完成する前に一階に潜り込み、
ロリータ君が三階に行った隙に二階に上がる―つまり、私がガンディ君が犯人であると
した上での仮定だが、それもこのスキャニングデータで成り立たないことが解った。
生死は解らずとも、五時四十五分の段階で一階には被害者一人しかいなかったんだから。
つまりだね、」
レクターは眼を怪しく煌めかせた。
「この中に犯人が確実にいるはずなのに、私はこの中に犯人は確実にいないという結論に
達してしまったのだよ」