09/09/12 11:30:52 Uko3MSDJ
歌野晶午「長い家の殺人」を読んだ。
作中に比喩で登場するベルリンの壁が存在していた頃に書かれた作であり、
今読むと「時代」を感じさせるものあり、
マリファナ浸りの反社会的・反倫理的な探偵キャラは、いかにも世紀末的である。
人魂に関する薀蓄も紹介されるが、大槻教授のプラズマ説が衆知になる前でもある。
従って、第2の殺人のトリックに使用されるのも、まだカセットテープレコーダー、
レコードも健在だったりする。
さて、本格ミステリとしてはシマソウの賛辞(「ミステリー史上に残ってしかるべき大胆なアイデア、
ミステリーの原点」)が、読者にはかえって仇になったか、彼氏の斜め屋敷級のトンデモ大トリック
を期待すると外される。
かなり強引な壁作りトリック(ペンキ塗りたてで人払いするという小ネタは面白いものの)、
しかも、連続殺人に2回同じトリックが使える状況設定というのには、
やはり無理を感じざるを得ない。
本筋ではないが、学生バンドメンバーによる青春群像劇めいたシーンもわざとらしく鼻につく感
あり、この辺は創りものに徹して高評価だった後年の「葉桜の・・・」あたりと比べると、
若書きの感は拭えないものがある。
シマソウ大好きな作者なのに、次作「白い家の殺人」も同様だが、怪奇性を強調出来る舞台
設定(ガイシャの亡霊目撃を思わせるシーン等もあり)でありながら、この点は軽く流し、
合理的な推理に徹する方向に行くのは「スタイル」とでも称すべきものであろうが、
怪奇探偵小説好きな筆者にはちと残念な感あり。