09/05/16 20:18:50 2Rg0eHR2
「滝口康彦士道小説傑作選集2 拝領妻始末」を読んだ。
80年代まで相当数の作品が文庫化されていた滝口作品だが、絶版・品切れが多いのが無念や。
口当たりが良いハッピーエンド症候群が目立つ最近の時代小説とは一線を画した重厚
(だが文章は非常に読み易い)な作品集である。
従って、妖怪や怪人が跋扈する伝奇小説(アホなミスオタ好み)や正義の剣士が悪を叩き斬ると
いった単純明快な剣豪小説(単なるアホの好み)を好む向きにはおよそ無縁な作品集とも
言い得る。
収録作品14編全てが悲劇と言うてよく、(「上意討ち心得」のみはハッピーエンディングに持って
ゆける展開なのだが、作者は単純にそうはしない徹底さ)、中期・後期の藤沢周平作品の如き
爽快感・情感は存しないし、作者の九州の作家仲間であった白石一郎作品よりもダーク感は
殊更に強い。
表題作は映画化もされたが、拝領妻ねたという基本設定のみ使用したものであり、
後半のバトルは映画オリジナルであり、これを期待すると完全に外される。
他の収録作品では「切腹」も映画化されているが、こちらはわりと忠実な映像化であり、
滝口作品のムードを伝えるにはこの作品の方が適切である。