京極堂と前原圭一を同じ部屋に閉じ込めてみたat MYSTERY
京極堂と前原圭一を同じ部屋に閉じ込めてみた - 暇つぶし2ch400:名無しのオプ
09/08/23 19:44:08 NUTaI9aS
憑き物落としの対象がたくさんいて大変だなこりゃw

401:名無しのオプ
09/08/24 02:01:00 +OvDSAWL
>>398
そうするとどうにかして雛見沢と宇治か伊勢を関連付けたいね。
綿流しは伊勢神宮から来た云々って。

雛見沢は白川郷付近がモデルだし調べてないけどそこらになんかありそうと無責任に言ってみる。



なんとなく上に出てた話の大筋に肉をつけてみた

木場の管轄で一家惨殺事件が起こる→唯一の生き残りが雛見沢だのオヤシロだの言うけど意味不→雛見沢をよく知る大石に聞く→オヤシロ様が鍵となるが住民の話がよくわからない→京極堂へ

一家惨殺の事件で足音が余分に聞こえるオカルト現象と某村の呪われた祭についてカストリ誌→京極に聞く→関鳥取材で雛見沢へ

霰もない噂で全国から注目を浴び、村人は村八分が怖くて口にはしないが失踪について園崎が絡んでると疑う→園崎家、榎に依頼

402:名無しのオプ
09/08/24 02:12:35 +OvDSAWL
今川→公由家になんかを鑑定→こういうのは中禅寺さんの管轄なのです→京極

朱美→生家の恩人だがなんだかが雛見沢付近に越す。旦那が岐阜あたりに今いるようだし待つ間にでも尋ねてみっか。→園崎に捕まる

多々良先生のくだりは詳しく書いてるし、こんな感じならはじめられるかと妄想した。
不備が沢山あるけど

403:名無しのオプ
09/08/24 05:28:10 XUXfkBXM
京極大忙しだなw
それだけ引っ張り出そうとする奴がいれば
尻も重たくなるってもんだ

404:名無しのオプ
09/08/24 12:22:22 GhLDJAoK
それだけ多いとラストに一回の憑き物落としでは無理だなw
鉄鼠みたいに中盤で何人かは落とした方がいいかも。

405:名無しのオプ
09/08/24 14:00:46 Bzw1IHrf
蛇足だが後神はどうも岡山に関係がありそう
水木御大が後神の目撃談として岡山での話を挙げているし
どうやら「後神」と書いて「ごかん」と読む姓の人が多いのも岡山らしい
もしかしたら泥田坊同様、後神は実在の人物を示したものなのかも

406:名無しのオプ
09/08/24 14:19:10 +OvDSAWL
>>405
後神の目撃談kwsk

木場はスレの前の方に多々良先生と出会ってる書き込みがあるし、オヤシロ様については多々良先生の協力を仰ぐ方がいいかもね。

407:名無しのオプ
09/08/24 15:39:47 Bzw1IHrf
>>406
妖怪漫画家・水木しげるは「後ろ髪」と「後神」とは関連性のないものとし
岡山県津山地方に後神が現れた話を述べている。それによれば
臆病な女が夜道を歩いていたところ、突然現れた後神がその女の束ねた髪を
くしゃくしゃに乱し、火のように熱い息を吹きかけたという
また、風を起こして傘を飛ばしたりして驚かしたり
冷たい手や熱い物を首筋につけたりするものともいう

wikiより

408:名無しのオプ
09/08/24 18:16:09 BVgyZLzo
京極堂は高野一二三と面識があり、雛見沢症候群を知っているため関わらないように警告するとか

409:名無しのオプ
09/08/24 18:35:46 lUEs/JBX
研究者時代の知り合い?>>一二三
美馬坂や堂島とも面識あった設定にすると色々繋がってくるか。

410:名無しのオプ
09/08/24 23:03:51 BVgyZLzo
雛見沢症候群の研究を大佐が放っておくとは思えない。

411:名無しのオプ
09/08/25 01:59:52 YApyQmy8
>>408
匣の時と違って、知ってる人間が全ての元凶で
その真相もすぐ看破できるだろうから
最初から京極が症候群を知ってる設定だと
全部知ってて動かない榎木津並に胸糞悪い

412:名無しのオプ
09/08/25 09:30:36 JEYU77T2
同じ研究チームだと名前は知っているが面識はないし、鷹野は一二三と関係があることを隠して改名してたから、
一二三がある特定の地域にあるウイルスについて研究していることは知っていてもその地域が雛見沢で鷹野が一二三の養女ということは知らない、でいいんじゃないかな。

>>407
ありがとう。Wikiに乗ってたことか。
林真理子だったかな。江戸時代に女性の髪をばっさり切る凶行(それは妖怪というか曖昧にお化けという感じだったと思う)が流行ったっていう話があったから昔から後ろから髪に悪戯することはよくあったのかもしれないね。

413:名無しのオプ
09/08/26 16:42:12 4xboORQ3
水木御大は良くも悪くも発言力がでかいから、
伝承や文献といった裏付けが無い言説もあるので注意。

414:名無しのオプ
09/08/26 17:05:28 57+icy1D
ひぐらしの檻
おやしろの夏
綿流しの宴
けいおんの澪
ギー太の恋


415:名無しのオプ
09/08/26 17:19:33 wPosARSJ
中禅寺「父さん、僕の顔をお食べ」

416:名無しのオプ
09/08/26 17:29:44 /XyYTrDH
>>414
おい途中から関係ないの混じってんぞ
>>415
なwwwぜwwwwww

417:名無しのオプ
09/08/28 00:19:46 K6NbS7VQ
久しぶりに来たら、すごいことになってんのねw
ってゆうか、ここの職人さん達、今度立ち上げるコンビニ本で書いてくんねーかなー。
許可さえとれれば絶対面白いと思うんだけどね。


418:名無しのオプ
09/08/28 22:11:52 T1xqMfyX
京極側・ひぐらし側、双方これだけ登場人物がいても、
キャラが被ってる奴がほとんどいないってのもすごい話だなw

ああ口調が被ってる奴ならいるか・・・。
(マチコと梨花と羽入)

419:名無しのオプ
09/08/28 22:19:43 jIek3uSl
>>418
作者の精神年齢が違うからな

420:名無しのオプ
09/08/29 00:17:27 hYW+YWX1
竜騎士は良くも悪くも同人的だからね

421:名無しのオプ
09/08/29 12:57:31 s7zO3QVO
京極のキャラもかなりキャッチ―だとは思うんだが

422:名無しのオプ
09/08/29 13:07:59 hANnO5N7
分厚いラノベみたいだもんな

423:名無しのオプ
09/08/30 00:03:10 uY3lDjI7
すべては決まっていることなのです―少女は静にそう告げた。
山深い寒村で起こる、毎年一人が死に一人が消える祟り。
疑心に駆られ、鬼に魅入られる物達。
誘われるように雛見沢村を訪れる文士・関口、探偵・榎木津等に迫る事件の跫。村に潜む憑き物を、京極堂は落とす事ができるのか?



人か、祟りか、偶然か―。
京極堂、蜩の鳴く村へ。

424:名無しさん@そうだ選挙に行こう
09/08/30 18:24:59 2djbnKoT
うめぇなw

425:名無しさん@そうだ選挙に行こう
09/08/30 18:43:39 xnslWg15
>>423
GJ

426:名無しのオプ
09/08/30 22:43:15 UFjePwJE
>>423
読みたくなるなるw

しかしここの職人達みんなクオリティ高くて
ワクワクするわ

427:名無しのオプ
09/08/31 09:54:56 6r0hzSkN
>>413
邪魅と魍魎のビジュアルが逆なのは何か意味あんのかねぇ。

URLリンク(f.hatena.ne.jp)

428:名無しのオプ
09/08/31 18:37:32 q1kIsMNU
>427
それ水木先生が「間違えた」とか言ってなかったっけ

429:名無しのオプ
09/09/03 07:17:22 hNfBdHYo
>>428
間違えたのかw
石燕の絵なんかにもそういうのあるかもなあ
歴史的に重要視されてる文献の中にも書き間違いで意味が
全く違ってるものってけっこうあるし

430:名無しのオプ
09/09/03 07:54:36 qHauHLe2
石燕は創作妖怪も多かったはず。

431:名無しのオプ
09/09/03 21:41:29 pgPO2f/m
         _,,.. -─-- 、.,_/⌒ヽ        / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
       ,.::'"´::::::::::::::::::::::::::::::_;:,! i  ノ'-、     /. 何. 道. あ .大
    /:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::i´ _,ゝ+‐'- _ノ     |.   と. 端. な .丈
   /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::[_'ーァ' |`ヽ ),     |.   も. の. た 夫
   ,':::::::::;::::::::::::::/|::::::::::::::::::::;:::::!、__,ハ、_ノ、_,.>.    |.  .思. 石 の で
   |:::::::;'::::::::/_/__|:::::/´|:::::::ハ:::::::';:::::::::::';::::|.〉     |   っ. こ 存 す
   |:::::::|::::::/|:/__ |:::/  |::::/‐!-:::::i::::::::::::|:::|.     .|.   て. ろ. 在 よ
   レ、__|ハ_| ' ̄`ヽ'   レ',.==、/|:::/|:::::|:::|.     .|.   い. の な
    |:::::::|:|""          `i/:::|_ハ|:::|....    |.   ま  よ ん
    |::::::从      '     "",ハ|::::|ノ::::::|.     .|.   せ. う. て
   ノ::::/|:::|ヽ、  「 ̄`i   ,/::::|::::|::::::i::::',.   <.   .ん に
  ∠、:::::|:::|へ|`ヽ、.,__‐'_,,. イ/::::/|:::|::::::ハ::::|..    .|.   か 誰
    レヘ、|_,>イ  |  /`レ'、/:;ハイ::::|/      ',   ら  も
       ,..‐''/ .|  |/  /  /`' 、ハ'"      ヽ、
     /_,r/  |/  /   /_  とヽ.         ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   〈Y (_,イ  /  /   Y___)    ',
   _ハ.',  |. / /      |       |
 ,.r''"ヽア`r」、__/____    ___!  ,.-、  |
/ 、 ヽ._|、ノキ (><) ̄´ュ7  ヽ-'   ',
 、 ヽ,.イヘ〉、へ、.,________,,.ァ'"-‐ 、_    ノ-‐ァ、
:アー'´:::| ヽ!ー'^ヽ-ヘ-/_)        /|:::::/7


432:名無しのオプ
09/09/06 18:40:41 OW8Jzqye
ほしゅ

433:名無しのオプ
09/09/07 03:16:23 HlBvLJW3
おいおい、久しぶりに来てみたらなんだこの魑魅魍魎どもは
いいぞもっとやれ

434:名無しのオプ
09/09/09 02:49:06 86s7zs9I
ほしゅ

435:名無しのオプ
09/09/12 01:21:04 Ejt3q6/o
ほしゅ

436:名無しのオプ
09/09/12 02:13:21 sp+H+EYI
普段どこの板にいるのか知らんが
ミス板じゃ数ヶ月は保守なんて必要ない

437:名無しのオプ
09/09/24 23:42:33 N71LL6w7
保守必要ないってレスがついてから
とんと進まなくなったな
やっぱり神職人が投下してくれて初めて機能してるのか…
俺も文章力があればなんか貢献したいんだがなあ

438:名無しのオプ
09/09/26 23:40:38 jDppWmD8
――初めに――

この物語は以下の作品を用いた2次創作です

京極夏彦著 「京極堂シリーズ」
竜騎士07作「ひぐらしのなく頃に」

そして以下の作品の概要や真相に触れています、ご了承ください

京極夏彦著 「姑獲鳥の夏」
竜騎士07作「ひぐらしのなく頃に」

また、文中の誤字・脱字・言葉の誤用・文法的な誤りなどは仕様もとい、指向です
決して、推敲の不足や文章力の欠如等によるものではございません、重ねてご了承ください

439:名無しのオプ
09/09/26 23:43:30 jDppWmD8
我はオヤシロさま。
我こそはオヤシロさまの祟り。
我を祟めよ、讃えよ、そして畏れよ。
我が紡ぐは祟りにあらず、死にあらず。

我が紡ぐは歴史なり。
歴史は祟りを語り、我が存在を
永劫に語り伝えるであろう。

我こそは祟りなり、
肉で出来た身を超越し者なり。
この身が例え朽ち果てようとも、
我が紡ぎし歴史は
永遠に残り続けるであろう。


「ひぐらしのなく頃に」より

440:名無しのオプ
09/09/26 23:45:42 jDppWmD8
目覚めた、目覚めてしまった。
目が覚めなければよかったのに―少し思う。

けれど、今日も陽(よう)として日は昇り、陰として月は沈む。

今日はいつ? 歳を取ると月日の早さに目がくらんでしまう。

時刻は平等ではない、そう思う。
5歳にとっての1年は人生の5分の1である。
50歳にとっての1年は人生の50分の1である。
生きれば生きるほど、速度が早くなる。

まるで、同じ事を何度も繰り返しているように。

今日、目にする陽と、昨日の陽は何かが違うのだろうか?
去年の今の陽と、今年の陽は何かが違うのだろうか?

今日はいつ? 昨日? 明日? それとも?

ただ、それでも、時刻は刻刻と過ぎていく。

何かが泣いている、鳴いている、啼いている。

ああ、あれは・・・せみ?・・・ひぐらし?・・・とり?・・・とり!?

441:名無しのオプ
09/09/26 23:47:58 jDppWmD8
「鳥!!」
 思わず叫んでしまった。
「何ですか先生!、いきなり!!」

 ここは・・・夕暮れに染まった世界のどこに自分がいるのか、わかるまで一刻かかった。

「寝ぼけたんですか、僕は鳥ではなく鳥口ですよ」
 ごめん―そう答えて、私は私を取り戻す。
「もうすぐ雛見沢につきますよ」
 時刻は4時を大きく過ぎていた、朝の8時前に出たのだから8時間以上も過ぎている。
5・6時間で着くと予定だったはずだが、思ったよりも時間を喰ってしまったようだ。
私は窓を大きく開けた、東京とは違う匂いがする。

ああ、ひぐらしが鳴いている。


「後神の刻(とき)」~神降ろし編(出題編)~

442:名無しのオプ
09/09/26 23:49:58 jDppWmD8
六月十六日(木)

「ご免ください、ご免ください」
 無粋な声によって私の静寂は打ち砕かれた、あの声は多分鳥口だろう。
鳥口は所謂(いわゆる)カストリ誌の「月刊實録犯罪」の編集者である。
私は文筆業で身を立てようと、志を立てたのだが、
何箇月もかかって面白くもない短編小説を送り出しているようでは、今のご時世生活ができない。
とはいえ、私のような人間に他の商売など最初(はな)からできないわけで、
已む(やむ)を得ず、小説以外の雑文の執筆を引き受けざるを得ない羽目なのである。
確か、原稿の依頼を受けていたのだが、あの締め切りはいつだったろうか?
今日・・または昨日か・・・だが一枚も書いてはいなかった。

 ここ3日ぐらい持病の鬱を再発してしまい寝込んでいたのだ。
私は学生時代に神経衰弱に陥り鬱病と診断されている。
鬱病は治らない病気ではない、だが再発しない病気でもないのだ。
なぜ再発したのかは―――だがこうなってしまった以上仕方がないのだ。
妻には夏風邪と言い張った、妻も心得ているらしく詮索はしないでくれた。

 この3日間私の家は水を打ったように静かだった、静寂はいい。
結局私は思考を停止している。
あの日私が妻に何を言ったのか、何を忘れているのか、そんな事はどうでもよくなっている。
 私において日常を生きるというかとは何も考えないという事と同義であるようである。
考えるのを止めれば、大方の日常は平穏で生暖かく心地がよいのである。
 進歩がない事は素晴らしい事だ。
そう思うと、まるで膜が一枚剥がれたように、世間が明るく思えてきた。
これでいつものつまらない日常に戻る事ができる。
そう思った
その時――「ご免ください、ご免ください」――私の静寂は打ち砕かれた。

443:名無しのオプ
09/09/26 23:51:44 jDppWmD8
それでも――
 私は襖を閉めて蒲団を被った、会いたくなかった、
原稿を書けなかった言い訳するのが辛かった。
 そんな私の様子を察して、妻が玄関に向かう。
 蒲団を被っていると妻の声が聞こえる。
 多分私の状態を説明しているのであろう。
私は蒲団を被ったまま、客が帰るのを凝乎(じつ)と待った。
しかし――客は帰らなかった。
 どたどた言う跫音が聞こえて襖がすらりと開いた。

「何だ先生―困ったな」
 鳥口守彦(とりぐちもりひこ)は私の隣に座った。
「聞きましたよ、奥方から、夏風邪ですか、大変ですな、
 ところで先生締め切りてのは、いつだったか覚えてますか?」
 鳥口は巫山戯たように聞いてきた、答えられない私は鳥口に背を向けたまま狸眠りを決め込んだ。

「わっはっはっは、先生やめてください、いいんですよ、暫くうちの本は出ないですから」
「出ない?」
声が掠れた。
「引っ掛かりましたね、起きてるじゃないですか」
「う、嘘か」
 ところが嘘じゃありません、鳥口は眉をへの字にして神妙な顔をつくったような顔をして
「―ネタがなくて、雑誌が発行できないんですよ、うちは猟奇事件一辺倒ですから」
「―そうか、なら書かなくていいのか」
私は胸をなで下ろした、
「しかし、雑誌が出ないなら原稿は不要だろ」
「廃刊になった訳じゃないんですよ」
鳥口は憮然とした顔で発売の目途が立たないだけですと云った。
「同じ事じゃないか」
「違います、お稲荷さんと狐憑きぐらい違います」
どういう比喩なんだろう、私は思わず失笑した、鳥口はにやにやしている。

444:名無しのオプ
09/09/26 23:55:34 jDppWmD8
 そこに妻が茶を持ってきた。妻はちらりと鳥口を見た。
―なるほど
 私は鳥口のような、調子のいい男に引きずられる癖がある、これは妻なりの治療法なのだ。
妻は私が茶を飲み終わるのを待って買い物に行ってきます、と出て行った。
この3日間家を空ける事ができなかったのであろう。
妻がいなくなるといっそう鳥口はにやにやした。
「何だ―気持ちが悪い」
「いや―寛い(くつろい)だんですな」
「君は最初から寛いでいるじゃないか」
人の気も知らないで
私は照れ隠しで精一杯虚勢を張った。
「ああ―君の寛いだ顔を見ていたら、緊張が抜けて、夏風邪まで一緒に飛んでいったよ」
「うへえ。夏風邪は何とかしかひかないとも云いますもんね。おっと失礼。
 ―それより先生いけませんよ。生意気なような事を云うようですが」
「いけない?」
「奥さん泣かすようなことしたンじゃないですか?奥さん、ありゃだいぶ疲れてますぜ」
「そんなこと―」
していないと―と云うのを私は口の中で噛み砕き、飲み込んだ。
確かに私はある意味では最低の配偶者だと思う。
 妻は疲れているだろう。
「ま、先生のことだから浮気や博打ってこたァないでしょうが―どうもねェ」
「いくら夫婦でも、ひとつ屋根の下で朝から晩までずうっと一緒にいるってェのはどうなんですかね。
 そりゃ先生も気が鬱ぐ(ふさぐ)でしょうが、奥さんだって―」
「解っているよ」
 取材にでも出りゃいいんですよ、と鳥口は云った。
「取材って―」
「いいじゃないですか、小説でも取材は必要でしょ。犬も歩けば打たれまいと云うじゃないですか」

445:名無しのオプ
09/09/26 23:56:45 jDppWmD8
「だからって―僕の小説は」
「ですから―そう、うちの記事の取材してくださいよ。気晴らしになりますよ、陰惨だし。
 兎に角、その、締め切りは延びただけでですね―」
「しかし―君の依頼は海外ネタじゃないか」
「そこはそれですよ」
「どれなんだよ。まあ確かに僕は僕なりに考えたんだが、どうもね、海外の猟奇事件の記事なんかを
書くのは―僕には無理のようだよ。今回もそれで根を詰めて躰を壊したのだから」
「根を詰めたってほど、升目は埋まってないようですがね―」
 鳥口は伸び上がって文机(ふづくえ)を覗き込んだ。
「―何枚書いたんです?」
 一枚も書いていなかった。
 悪かったよ――私はぞんざいに云った。
 困ったなあと鳥口は腕を組む。
「――そうだ先生、明日から僕は取材旅行に行くんですけど,
一緒に行きませんか?気分転換にもなるでしょうし」
「取材旅行?一体どこに行くんだい?」
 鳥口が取材に行くところなんかは、犯罪現場に決まっているのだが。
「いやぁ、変な手紙が届きましてね、雛見沢っていう美濃じゃなくて岐阜の方の寒村らしいですけど、
 空気が美味くていいところですよ」
「鳥口君、君はそこに行った事がないだろう?」
 うへえ、鳥口は云い―ま、田舎の空気は美味いに決まってますよと笑った。
「どうです先生、行きませんか、旅費はこちらが持ちますから」
 気を付かせていると思った。―鳥口にも―妻にも、私は少し逡巡し、
――よろしく頼むよ、と答えた。
「本当ですね先生、本当は1人で取材に行くのが心細かったんですよ」
鳥口はうそぶいた、―私に気を付かわせないためだろうか?―考え過ぎか?
「ところで鳥口君、その変な手紙ってのは、どんな内容なんだい?
『實録犯罪』の記者が取材に行くような事件なのかい?」
それが・・変な手紙でして、と前置きをして鳥口は鞄をまさぐり1通の手紙を見せた。

446:TIPS「月刊實録犯罪 編集部 御中」
09/09/26 23:58:30 jDppWmD8
4年前の綿流し祭の日にダム現場の監督が殺されました
3年前の綿流し祭の日にダム反対派の住民が殺されました
2年前の綿流し祭の日に神社の神主が殺されました
1年前の綿流し祭の日に2年目の被害者の親戚が殺されました

そして今年は私が殺されます

これは、計画殺人? それともオヤシロ様の祟り?

OO県 鹿骨市 雛見沢

447:名無しのオプ
09/09/27 00:00:37 7cYTUVHA
六月十七日(金)

「タツさん、タツさん、起きてください」
 妻の・・雪絵の声だ、妻は2人の時は私の事をそう呼ぶ。
私は頭を振り時計を見る、7時半前、鳥口は8時前には向かえに来ると云っていた。
いつも昼近くまで自堕落に寝ている為か、頭が重かった。
鳥口が来たのは事実8時前だった、妻から旅行道具一式を受け取り、私たち2人は車を走らせた。
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「もうすぐ雛見沢につきますよ」
 時刻は4時を大きく過ぎていた、朝の8時前に出たのだから8時間以上も過ぎている。
5・6時間で着くと予定だったはずだが、思ったよりも時間を喰ってしまったようだ。
私は窓を大きく開けた、東京とは違う匂いがする。
「思ったよりも遅くなっちゃいましたね、今日は取材は無理ですかね―先生が居眠りするからだ」
「誰のせいだよ、いきなり東北に向かって走り出そうとしたり、同じところをぐるぐる回ったり」
鳥口のただ1人の上司、妹尾氏の云っていた通り、
鳥口には目的地に行くという能力が欠如しているようだった。
「うへえ、まあ、今日は下見という事で取材は明日からにしましょう、
 ああ、ちょうどいいあれが多分古手神社ですね、今日はあそこを下見しておきましょう」
鳥口は車を路肩に止めた。

448:名無しのオプ
09/09/27 00:03:32 7cYTUVHA
 あれが古手神社、端から見ているうちは普通の神社のようだが。
鳥口はカメラを持ち出し俯瞰の写真を撮っている。
鳥口は元々カメラマン志望があり、雑誌の写真は全て自分で撮っているらしい。
幾段かの階段を上がり、鳥居をくぐる
そういえば、友人によると、鳥居とは外の世界と内の世界の境を示すものらしい。
その中の世界の中央、もう一つの鳥居の奥に本堂がある。
左手には別の棟があり、右手にはかなりの敷地の境内がある。
「先生、1人で先に行っちゃうなんて酷いじゃないですか」
鳥口が追いついてきた。
―こうして見ると普通の神社ですね、鳥口は私と同じ感想を述べた。
この2人で来たのは間違いだったのかもしれない。
「こんなのどかな所で、今年も事件が起こるのかな」
「ま、起こってくれれば大スクープなんですけどね」
鳥口によると―3年目の事件までは裏付けが取れたらしい。
けれども4年目の事件は何も報道されていなかったようだ。
「そんな、不謹慎な考え方の君が被害者にならない事を祈るよ」
「うへえ、死人に口なしですか、先生」

そんな馬鹿な事を話しながら境内を後ろに回ってみた。
少し歩くと視界が開けて、村全体が見渡せる所にでた。この神社は村の中で高台に位置しているようだ。
―うへえ、こりゃ凄いや、鳥口がファインダーを覗く。
夕日に照らされて、輝いている古風な住居と田園地帯はまさに一枚の絵のようだ。
思わず言葉を無くし、鳥口のシャッター音だけが響いていた。
その時――後ろから跫音(あしおと)が聞こえてきた。

――振り向くとそこには1人の少女がいた。

少女は微笑みかけた――この顔を私はどこかで見ている――
いつだろう―いつだろうか―

449:名無しのオプ
09/09/27 00:05:44 jDppWmD8
「ここは私有地なんですよ」
少し幼さが残った声が聞こえた。
「うへえ、すみません、実は僕たちは雛見沢の取材に来てまして」
「そうなのですか、お仕事なのですか」
「こっちは作家の関口先生で、僕は―」
鳥口と少女の会話が頭の上を滑っていく、やはり私は彼女に会った事がある。

―白いブラウス。黒い色のスカート。そこから覗いている2本の白い脛。―

「せっかくだから、一緒に遊びたかったのです」

―うふふ。

―あそびましょう。

夕日が世界を赤く染めている、赤く、赤く、赤く・・・




私は意識を失った。




450:名無しのオプ
09/09/27 00:08:59 7cYTUVHA
目が覚めた、目が覚めてしまった。
目の前には白い天井がある・・・ここは・・・
辺りを見回すと病院のベッドの上のようだ。
腕に違和感を感じる、腕から線がでている、その線は上の液体に繋がり

「気が付きましたか」
白衣を着た眼鏡の優男風の男性がカーテンを開けた
「ダメですよ、きちんと食事していますか?」
―はぁ、そういえばここ3日ほど、きちんと食事をしていなかった。
「旅疲れってヤツですかね、気を付けないと」
男は入江と名乗った、年は30代中盤ぐらいだろう、風袋のせいかもっと若く見えるが。
―はぁ、私の気の抜けた顔を見て入江は軽く笑った。
―30分ぐらいで点滴が抜けますから、と云い入江は出て行き、入れ替わりに鳥口がやってきた。
「先生、吃驚するじゃ、ないですかいきなり倒れて、これじゃ命がいくらあっても足りませんよ」
―はぁ、私の気の抜けた顔を見て鳥口は大きなため息をついた。
「栄養失調らしいですけど、大丈夫ですか?」
「大丈夫、大丈夫、ちょっと目眩がしただけだよ」
―後、30分ぐらいで点滴が抜けるらしい、と告げると―飲み物でも買ってきますと出て行った。
小1時間後病院を出た、ここの名前は入江診療所というらしい、
外から見てみると寒村の診療所としてはかなり立派だった。

451:名無しのオプ
09/09/27 00:10:13 7cYTUVHA
宿泊所は雛見沢から車で15分ほどの興宮(おきのみや)という隣町らしい。
鳥口によると雛見沢には宿泊施設がないとの事である。

「何か精のつくものを食べていきましょう」
時刻はもう8時近くだったが点滴のおかげか食欲は無かった。
―食欲が無くても、食べなきゃダメですよ、鳥口は車を駅前の食事処に止めた。

―うへえ、うへえ、先生、うへえ、
中に入ると、鳥口は得意の感嘆符をなぜか連呼していたが、私の頭には入ってこなかった。
私は、彼女の事を―少女の事を考えていた。
私は彼女と会った事がある。それは間違いないと思う。それはいつだろうか?
自分の意識を探るのだが、見つからない。
いや正確には、あるのだが、開ける事ができない。

・・・檻・・・・いや匤か、
存在は認知できても中身が認識できない、鍵のかかった匤・・・
これは開けてはいけないものなのだろうか?

遠くで鳥口の感嘆符が聞こえていた。

452:TIPS「見慣れぬ顔」
09/09/27 00:13:15 7cYTUVHA
「あれは一体誰なの?見た事無い顔よ」
「あうあう、多分観光客の人なのですよ、最近はお祭りも賑やかですから」
「観光客・・・そう・・・確かにそうかもね、でもあの人はなぜあんな風になったのかしら」
「僕には解らないのですよ、梨花」
「もしかして、あなたが見えたんじゃないの?」
「僕は梨花にしか見えないんですよ」
「じゃあ、あの人は何を見たの?」
「あぅあぅあぅ」

まあ、どうでもいいか、この世界はもう・・・
でも、変な顔だった、関口に、富竹3号か・・・

453:名無しのオプ
09/09/27 00:57:30 7cYTUVHA
六月十八日(土)


――
――
―――
――
――



――――騒々しい騒音によって目が覚めた、受話器を取る。

―先生、いつまで寝てるんですか。
―それとも調子が悪いんですか?
そんな事はないよと答えて、覚醒する。時刻は8時半だ。
―早く降りてきてくださいよ、待ちきれなくて朝飯食べてますよ。

 付属の食堂で鳥口は定食をがつがつと食べていた。
「先生、こっちですよ」
鳥口が立ち上がって手を挙げる。
「早起きだな、君は」
「先生が遅いんですよ、早起きは3円の得ですよ」
「いつもは、自堕落な生活をしているからね、朝は辛いよ」
「ダメですよ、体あっての物種って云うじゃないですか」
鳥口は巫山戯て(ふざけて)答え、一生懸命食事を取るのに戻った。
私は食欲がなかったので熱いお茶を貰った。
鳥口は綺麗に食事を平らげた。

454:名無しのオプ
09/09/27 00:58:32 smlSTJme

とんでもなくwktkするが、完結させようと思うと超大作になるなwww

455:名無しのオプ
09/09/27 00:59:29 7cYTUVHA
「さて、先生どうしますか?、僕は今日2年目の事件が起こった自然公園を見に行くつもりですけど・・」
 鳥口は人心地ついたのか、お茶を啜りながら聞いてきた。
ここから1時間ぐらいの所にその公園はあるらしい。
だが当然、1時間で着くはずもなく往復だとかなりの時間車に乗る事になる。
「あんまり、気乗りしないね。体調も悪いし・・・」
「そうですか―それじゃ、僕1人で行ってきますか、
 先生は雛見沢の観光でもしていてください、午後からそっちに戻りますから」

―そうさせて貰うよ、と答えると。
―じゃあ早く出発しましょう、光陰あざなえる縄のごとしですよ。

鳥口は何故必ず間違った慣用句を使うのだろうか?―よく解らなかった。

―ガタガタ―ガタガタ―ガタガタ―
 道路が舗装されていない道に入った。
宿泊所がある興宮から雛見沢までは車で15分ほどだ。
話によると、バスなどの公共機関は無いそうだ。
―住むとなったら大変だろうな。
―だが住めば錦ですよ。
―・・・

456:名無しのオプ
09/09/27 01:01:43 7cYTUVHA
 村の真ん中ぐらいで降ろしてもらう。
「先生これ、持っていってください」
そう云って鳥口は握り飯と水筒を渡してきた。
先ほどの食堂で作ってもらってきたらしい。
「ちゃんと食べないと、また倒れられたらこっちが困りますからね」
ありがとうと答えると、鳥口は嬉しそうに笑った。
―待ち合わせは夕方に古出神社でお願いします。
そう言い残して鳥口は去っていった。

 さてどうしようか、日はまだ低く時間はたっぷりある。
私は特に目的地も決めずにトボトボと歩き出した。
初夏の青空に澄んだ空気、遠くには蝉の声が聞こえる。
いくら私が偏屈な人間でも多少心が明るくなる。
下手に別れる道に入ってみた、何となく川の近くに行ってみたかった。
川原まで降りるとそこは最高の景観だった。

・・・東京とは違うな。

木陰に入って季節はずれの夏の太陽から身を隠し、木洩れ日を満喫する。
鳥口から渡された、握り飯を頬張る。

・・・とても美味い。

・・・

・・・来てよかった。

・・・

・・・

・・・

457:名無しのオプ
09/09/27 01:02:44 7cYTUVHA

――
――
―――ご
――ご免
――ご免な
―ご免なさ
―ご免なさい
ごめんなさい

誰かが・・・謝っている。
誰だ?・・誰が?・・誰に?

ご免なさい
ご免なさい
ご免なさい

誰かが・・・謝っている、それも泣きながら。

もう許してあげればいいのに、こんなに必死に謝っているんだから。

ごめんなさい
ごめんなさい
ごめんなさい

誰かが・・・謝っている。




458:名無しのオプ
09/09/27 01:04:12 7cYTUVHA
 目が覚めた、目が覚めてしまった。
川のせせらぎが聞こえる―頭を2、3度振る―
夢か・・あれは・・・そう・・・だろう・・・
変な格好でうたた寝をしたから、悪い夢を見たのか。
太陽は天辺(てっぺん)を過ぎた辺りにあった。
折角だから村の観光をしようと、私は立ち上がった。

 何の気なし小径を歩いていると、拓けた所に出た。
まるで私の小説のように、中途までが更地にされている。
どうやら鳥口が云っていた、中止になったダム計画の跡地だろう。
それを横目で見ながらさらに側道を上に進む、するとその脇に塵(ゴミ)の山が在った。
不法投棄されたのだろう。周りの自然とその不自然さの非現実感は何とも云いがたい物があった。

―カシャ、後ろの方で物音と人の気配がした。
振り向くとそこにはカメラを持った、青年がいた。
私の驚いた表情を見て彼は―すみません、と謝った。
「僕は富竹と云います、フリーのカメラマンをしてます。あまりに絵になっていたものでつい―」
―それは、私の顔が猿に似ているという事に対する嫌味だろうか―
「―雛見沢の人ですか?」
彼の言葉で、彼がここの人でない事がわかった。確かに訛りがない。
「いえ、僕も旅行雑誌の取材で来ていまして」
鳥口に殺人事件の取材ではそれこそ村八分にされると、身分を詐称するように云われていた。
―奇遇ですねえ、僕の専門は野鳥とかが主ですけど。
富竹と名乗り、青年は笑った。
年の頃は30代中盤辺りだろうか、穏和さがにじみ出たような顔だ。
頭には黒い野球帽を被り、黒い眼鏡に、黒い袖無し丸首シャツを着ている。
体格もガッチリしていて、私のような貧弱な体型ではない。
鳥口もそうなのだがカメラマンとはやはり肉体派なのだろう―少し嫌な気持ちになった。

459:名無しのオプ
09/09/27 01:06:15 7cYTUVHA
 富竹は7~8年前から、年に2・3回雛見沢には野鳥の写真を取りに来るらしい。
「それにしても、この塵は酷いですね」
「ええ、何でも都会の方から捨てに来るらしくて、それが上手いもんでこっちが警戒していない時を狙って、
 いつも来るらしいです。こういった自然の素晴らしさなんてわからないのかな」
そう云って富竹はカメラのファインダーを覗いた。
「もし雑誌に載る事になっても、こんな物は載せないでくださ―ん、誰かいるな」
富竹がカメラを向けている方を見ると確かに塵山の中腹あたりに誰かがいる―少女のようだ。
「はは、あんな所で何をしているのかな」
富竹が笑いながら聞いてきた。
「死体でも探しているんじゃないですか」
何の気になしに答えると。
「ああ、関口さんも知っているのか、悲惨な事件だったね」
富竹は急に真面目な顔になった。


何故かおかしな空気が流れ、言葉は失われてしまった。




460:名無しのオプ
09/09/27 01:20:48 7cYTUVHA
―悲惨な事件

 鳥口が云っていた過去の事件の事だろうか。
そういえば鳥口からまだ事件の詳しい内容を聞いてはいなかった。

―正確には聞いたのだが、記憶していないのかもしれない。

「ま、取材は僕がしますから、村の雰囲気だけ味わってもらって、後は小説家の創造力ってヤツで」
と云われて、それにこんな村で本当に殺人事件など起こらないだろう等とあまり気にしていなかった。

「しまった、もうこんな時間か、いけない待ち合わせに遅れてしまう」 
 奇妙な沈黙を打ち破るように富竹は、戯けた(おどけた)声を出し。
―じゃあ、また、と去って行った。

 私は少女が何をしているのかが無性に気になり、塵山を降りていった。
少女はあんな所で何をしているのだろうか?

―まさか本当に死体を探して―

そんな事を考えていると、注意が削がれたのか不意に足下の塵肌が崩れた。
私は塵山の上を滑るように少女の近くまで、落ちていった。



少女はこちらを振り向いた。
手には鈍く光る鉈を握りしめて。


461:TIPS「鳥口守彦(起)」
09/09/27 01:23:33 7cYTUVHA
 関口を降ろすと、鳥口は白川自然公園を目指した。
鳥口が調べたところ、北条某(なにがし)という夫婦が、
3年前の綿流しの日にそこから転落死したとの事だ。(それ以外はその日に雛見沢の住民は変死していない)
1時間ほどで着くらしい、時刻は9時半。―到着したのは12時近くだった。


 鳥口は白川自然公園で五平餅をがつがつと食べていた。―空振りかな。
事故があったという場所の写真は撮ったが、当然3年前の事件の痕跡はなかった。
また目撃証言を集めてたものの、どれも空振りだった。

―まあ、仕方ない。
鳥口は気持ちの切り替えがはやい、伊達にカストリ雑誌の記者をしているわけではない。
―よし、雛見沢に戻ってその家の近所の人から聞き込みだな。
鳥口は行動力に優れている、酔狂でカストリ雑誌の記者をしているわけではない。

―帰りは流石に速かった。

462:名無しのオプ
09/09/27 03:05:54 kMZKfCyz
おおう、すげぇのが来てるな。

463:名無しのオプ
09/09/27 10:01:23 pJoDS41Q
最初の部分まんま川赤子じゃねーかwww
何はともあれ乙w

464:名無しのオプ
09/09/27 23:10:32 kMZKfCyz
ほんとだ、読み返したら確かにそのまんまw
さすがにこれはちょっとw

465:名無しのオプ
09/09/27 23:53:55 7cYTUVHA
――中途に――

この物語の中には以下の作品の無断引用等が含まれます

京極夏彦著 「京極堂シリーズ(川赤子含む)」
竜騎士07作「ひぐらしのなく頃に」

京極先生ならびに竜騎士07先生、ごめんなさい


またそれに伴い(文学的な)文体の壊れ等がございますが、そちらは仕様です
決して、文章構成能力の不足などではございません、けれども・・・ごめんなさい

466:名無しのオプ
09/09/27 23:58:49 7cYTUVHA
少女はいる、少女がいる。

少女が振り返る、手には鉈を握りしめている、足下には人の様なモノがある。

少女は私を見留め(みとめ)近づいてくる、手に鉈を握っている。

少女は近づいてくる、手には鉈を握ってる、少女は―

「うわああああああ―」
私は悲鳴をあげ、後ずさった―転がった時に何処か打ったのか、腰が抜けたのか、立ち上がれない。
少女は近づいてくる、私は這った状態で離れる。
だが地面は這うより歩く方が速いのだ、―少女は近づいて―  
―私は――意識を失った





467:名無しのオプ
09/09/28 00:00:20 SesO3DJk





目覚めた、目覚めてしまった。
青い空、ここは―傍らを見ると少女がいる―少女が振り返る―手には鉈が―
「ひいいいいいいい―」

私は後ずさる―けれど腰が抜けたのか、立ち上がれない。

少女は「落ち着いてください」と云った。
何を云っているんだ、私は混乱した。
少女は「大丈夫です」と云った。
何が大丈夫なんだ、私は混乱した。


少女は私の視線が鉈に在るのを見留めて、鉈を置いて―落ち着いてください、と繰り返した。


私は何とか自分を取り留めた。



468:名無しのオプ
09/09/28 00:02:16 SesO3DJk
 少女は竜宮レナと名乗った。
私が何をしていたのか尋ねると、顔をほんのり手に染め。
「健太君人形が、かあぁいいの~だからお持ち帰りしたいの~」
と答えた、意味がわからない。
少女の暗号の様な言葉を纏める(まとめる)と、

―捨てられていた健太君人形が可憐だから、持って帰りたい、との事だ。

健太君人形というのは、全国に支店を出す大衆食堂の象像(キャラクター)である。
しかし、七福神の大黒様と恵比寿様を喚起して創られた物であるため。
力士体型に無理矢理洋服を着せた形で、また顔は朗らかだが無駄に陽気な中年男性にしか見えない。
しかも、その身長は6尺近くもあるため、とても私には可憐とは云えない代物である。

―何故鉈を?
私の問いに、少女は健太君を示した。
健太君の上に梁(はり)が乗っている、そして梁の先は塵山の中に埋まっている。
梁は半分ほど欠けていた―なるほど、彼を助けるために必要だったのか。

少女―中等学校ぐらいだろうか―の腕では大変だろう。

私は少女から鉈を借り受けると、思い切り梁に叩きつけた。
梁は意外と強固で、私は何度か鉈を振り落とした―まるで何か別の物を叩きつけるように。

469:名無しのオプ
09/09/28 00:03:44 SesO3DJk

めきい―嫌な音をたてて梁は途切れた。
私は日頃から運動をしないためか、汗をかきやすいので、体中びっしょりしていた。

少女は健太君人形に何かを呟きながら頬ずりしている―やはり意味がわからない。

乗りかかった船で、少女が用意した大八車で家まで送っていく事にした。
大八車に中年の男性を乗せ、それを(私のような)男と少女が運んでいる―非現実的だ。
少女の家に着くとさらに愕然とした。
庭には健太君だけではなく、信楽の狸、河童のパオ、蛙のげろ吉、郵便ポストなどが雑然と並んでいた。

意味がわからない。

少女は茶を奨めてきたが固辞した、やはり自分が理解しにくいものはある種の畏怖になる。

陽はもう傾きかけていた。

470:TIPS「鳥口守彦(承)」
09/09/28 00:06:33 SesO3DJk
雛見沢に戻ってると、今度は事故(?)にあった北条家を探した。
住民は(あんな事故があったからか)口がかたく一苦労した。北条家は村の外れにあった。
廃墟になっているのかも、と思っていたがそれほど荒れてはいない、
いや、むしろ生活感がある、これは今でも誰かが住んでいるのだろうか?

もしかしたら証言が取れるかも、淡い期待を胸に鳥口が玄関に近づくと

「――――――!!」
もの凄い怒鳴り声が聞こえてきた、鳥口は思わず身を隠した。

「―――!!、―!―!」
耳をそばだてていた鳥口に、再び罵声と何かを殴りつけるような音が聞こえた。

―うへえ、これは何かの事件なのかもしれない―鳥口は思った。
―もしかしたら廃墟を隠れ家にしていた凶悪犯罪人かも―鳥口は考える。
―もしそれが本当だったとしたら、これはもの凄いスクープだ―鳥口は想像する。

鳥口がくだらない妄想に勤しんでいると、
―ガラガラと扉が開かれ中から少女が出てきた。
鳥口の予想は外れたようだ。

471:TIPS「鳥口守彦(承)」
09/09/28 00:08:01 SesO3DJk

少女は自転車で何処かに行くようだ。
鳥口の記者の感が様子がおかしい事を告げていた。

―まさか監禁しているのか?
―いや、それだったら1人で外に出す事はないか。

家の中からは何も音が聞こえなくなった。
鳥口は少し離れた所に身を移し少女が帰ってくるのを待ちかまえた。

―もし、戻ってきたら話を聞いてみよう。

15分ほどで少女は戻ってきた。
そこで、鳥口は話しかけてみたのだが少女の目の焦点が合っていない。
また話している内容も、支離滅裂の錯乱状態である。
少女の乗っていた自転車のカゴには一升瓶が入っている。

―これは、虐待だ。

鳥口は前に子供の虐待による親殺しの記事を載せた事があった。

―うへえ、これは厄介ですよ。

472:名無しのオプ
09/09/28 00:09:14 SesO3DJk
 少女―竜宮レナといったか
おかしな少女と別れて、私は古手神社を目指した。
日はもう暮れ始めていた、鳥口を待たせているかもしれない。

境内まで来たが鳥口の姿はなかった、代わりに老人達が酒盛りをしている。
辺りを見ると昨日来た時と違って天幕が張られ、椅子が準備されている。
明日の祭りの支度をしていたのだろう。
私は鳥口を待ち受けるために鳥居の所まで戻った。

「あれ―、関口さんじゃないですか」
すると誰かが声をかけてきた、見ると富竹と見た事がない女性が2人いた。
女性の1人は富竹より少し下ぐらいのの年齢で、もう1人は少女―さっきの少女と同じぐらいだろうか。

473:名無しのオプ
09/09/28 00:10:34 SesO3DJk
「いや~、奇遇ですね、こう何度も会うなんて」
富竹は人の良さそうな顔を綻ばせた。
「ジロウさんたら、隅に置けない人」
女性が笑った、とても艶っぽい声をしている。
「ええ、いや、そういう訳じゃなくて、え―紹介しようか、こちらは旅雑誌の作家の関口さん」
私は頭を下げた。少女も園崎魅音(そのざきみおん)と名乗って頭を下げた。
「私は―昨日―診療所でお会いしましたよね」
そう云うと女性は妖艶に笑った。
「――」
昨日会ったのだろうか、私の記憶の中には無かった。
「あら―」
女性は首を傾げて私を見つめ、云った。
「――」
顔が赤くなるのを感じる、私は鬱の他にも多人恐怖症に赤面症、失語症も持っているのだ。
「鷹野さん、いじめちゃダメだよ。こちらは診療所で看護婦をしている鷹野三四(みよ)さん」
私を見かねた富竹が助け船を出してくれた。
鷹野三四は嬉しそうな笑みを浮かべ―よろしく、と云った。


「旅雑誌の記者の方が来るって事は、雛見沢が載るんですか?」
少女が聞いてきた、何処か男児風(ボーイッシュ)な印象の少女だ。―ふくらみは大きいが―
「ええっと、まだいつ載るかとかは決まってないというか、まだいつ刊行されるかも―」
後半は嘘ではない。
―そうなんですか、少女は残念そうな表情を浮かべた。
―雛見沢は良いところだから、是非載せてくださいね、と笑った。
私は複雑な表情を浮かべた。

474:名無しのオプ
09/09/28 00:12:24 SesO3DJk
「おやおや、勢揃いですね、皆さんこんばんは~」
少し変な節回しの声がして、恰幅のいい中年の男がやって来た。
「ああ、大石さんこんばんは、明日の警備の話ですか?」
富竹が答える。
「んっふ~そうですね、今年こそ何も無いと良いんですがね」
そう云って大石と呼ばれた男は全員の顔を舐めるように一瞥(いちべつ)した。
少女は嫌な者を見るような目で、男を睨み、
―明日のお祭りには来てくださいね、と私に云って去っていった。
「おやおや、嫌われちゃいましたかね、ところでそちらの方は?」
大石は私に顔を向けた。
「こちらは、関口さんと云って、東京で旅雑誌の作家さんをなさっている方ですよ」
富竹が私よりも早く応答した、―どうも、私は頭を下げた。
「雑誌社の方ですか、いや雛見沢も有名になったもんですな。私は大石蔵人と云います。
 興宮、隣町で刑事をしています」
「大石さん、刑事さんですか」
「ええ、何なら蔵ちゃんでもいいですよ、んっふっふ」
大石はねちっこく笑った。
「さてさて、そろそろ行かないと、もうちょっと遅刻ですね」
―よいお年を。
大石はそう云い残して、警官達が集まった方へ向かっていった。

475:名無しのオプ
09/09/28 00:13:55 SesO3DJk
―今年も起こるのかしらね、オヤシロ様の祟りは。
―いやあ、君も好きだなあ。
鷹野三四が富竹に話しかけている。

―いいじゃない、こんな渇いた時代には潤いが必要だわ。
―でも、ほら関口さんもいるんだから
鷹野三四は私の方をちらりと見た。猫が鼠を確認するように。

―都会じゃこういった怪奇譚は喜ばれるのよ。
鷹野三四は富竹に云った。

彼女はこちらに向き直り。
「関口さんは祟りを信じるかしら」

―祟り―そういえばあの手紙にもオヤシロ様の祟りと―

「祟りですか、面白いとは思いますがあんまり信じていませんが―」
そう答えた私の目を彼女は少し非難の混じった視線で捕らえた。
「そう―でも、祟りを信じるかどうかは話を最後まで聞いてからゆくっり考えてください」
そういって彼女はくすりと嗤った。

476:名無しのオプ
09/09/28 00:16:05 SesO3DJk
そんな私たちを見て、富竹はヤレヤレという表情を浮かべ一度大きく息を吐いた。
「それじゃ、少し僕が話そう―関口さんは雛見沢ダムの事件はご存知ですよね?」
「ええと、実は詳しくは知らないんですよ、何かがあったらしいという話は聞いているんですが・・」

―そうか、と富竹は頷いて。
「なら最初から話しましょう、昔といっても数年前ですが、
 雛見沢ダム計画という、ここら辺一体がダムの底に沈む大がかりな国のダム計画があったんですよ
 そして、それに反対するために住民運動が結成されて国と激しい戦いを繰り広げたんです」

―確か―あの手紙にもダムの事は書かれていた―

「その雛見沢の人達が結束して旗揚げした、反対同盟の事務所があったのがこの神社なんです」
「ほらあの集会場がその名残よ、解散後は老人会のサークル活動にしか使われてないけど、
 当時はまさに最後の砦だったそうよ」
鷹野三四が本堂に向かって左の別棟を指した。

「そういった事務所とかは普通、村長宅等が兼務するものじゃないのですか?」
「通常はそうだろうね、けど彼らは雛見沢の守り神様である
 オヤシロ様を祀るこの神社に本陣を置く事で必勝を祈願したんだよ」
富竹が答えた。


・・・オヤシロ様・・・
――間違いない――
さっきオヤシロ様の祟りと云っていた。

477:名無しのオプ
09/09/28 00:17:41 SesO3DJk
「オヤシロ様というのはこの神社の祀る神様の名前です、雛見沢を守っていると伝えられている」
富竹は一呼吸置いて―ここからは鷹野さんの方が詳しいかな、と鷹野三四に視線をふる。

「平たく云えばそのままよ、オヤシロ様はこの雛見沢に伝わる古い神様で、
 神聖なこの地が俗世に汚される事がないよう、守り続けて来たと伝えられているわ」
「オヤシロ様崇拝は一種の選民思考の表れではないかと、研究されているわね。
 大昔の雛見沢の人達は自分たちが人間とは違う、格が異なる存在だと強く信じていて、
 下界との交流を『格が落ちる』として忌み嫌ったそうなの。・・・だから村に下界の人間が来ると
 不純が混じってオヤシロ様のバチが当たると強く信じ、何者も近寄らせなかったそうよ」

「よく推理小説に出てくるよそ者を嫌う村、そんな感じだったらしいです」
富竹が補足する。
「だから下界からやって来た穢れたダム計画に立ち向かう為にこの神社に本陣を置いたんだろうね」

富竹は続ける。
「縁担ぎも万端、村民達は死力を尽くしてダム計画に立ち向かうんだ・・・・その最中なんだよ。
 事実上あの事件でトドメが入ったと云ってもいい」
「雛見沢ダムの建設現場の監督がね―殺されちゃったの―」
鷹野三四が云う。

478:名無しのオプ
09/09/28 01:11:35 zkDamkbb
おお続きが。
頑張ってくれ。

479:名無しのオプ
09/09/28 01:23:26 SesO3DJk
「4年前だね、関口さんが見たのはこの事件だと思うよ、凄惨な事件だったから結構取り上げられたから」
富竹が云う。
―凄惨な事件?
「バラバラ殺人だよ」
富竹が答える。

―バラバラ殺人―
―4年前の綿流し祭の日にダム現場の監督が殺されました―

「その翌年にはね、雛見沢の住民でありながらダムの推進派のグループを結成していた男がね、
 旅行先で崖から落ちて死んじゃったの。これは事故だそうよ」
「何しろ雛見沢中から敵視されていたからね。警察も念入りに他殺の線を洗ったんだけど、
 結局、事故と断定したみたいだよ」

―これは今日鳥口が調べに行った、3年目前の事件―

「更に翌年、今度はね、この神社の神主さんが原因不明の病で倒れて急死しちゃったの」
「前の神主さんはちょっと日和見的な性格だったらしいね、何しろ本陣を構えている所の
 主だからね、反対運動の盛り上がっている村の中では不満もあったらしいね」

―2年前の綿流し祭の日に神社の神主が殺されました―

「しかもね、面白い事に、これらの事件や事故はみんな綿流しのお祭りの晩に起こるんだよ」
「ね、―ちょっと祟りっぽくなってきたでしょう?」

―という事は、やはりあの手紙―告発文は本当なのか?―

「さらに翌年。つまり去年だね。今度は、事故死したダム推進派のリーダー格の男の、
 弟夫婦の奥さんが撲殺死体で発見されちゃったんだ。もちろん犯人は捕まったけどね」
「ね?やっぱり祟りっぽいでしょう?」

―やはりあの手紙は真実なのだ、では一体誰があの手紙を―

480:名無しのオプ
09/09/28 01:26:32 SesO3DJk
「最近では、みんなオヤシロ様の祟りだと噂しているらしいね、
 実は何年か前までは綿流しのお祭りはそこまで盛況じゃなかったんだよ。
 不信心者にはバチがあたるかもしれない、だからお祭りには行こうって人も多いだろうね」
富竹はそこで一区切りつけた。

「さて、ここまで聞いて関口さんは祟りはあると思いますか?」
鷹野三四が語りかけてくる。

「まあその、それでも祟りなんかないと思いますけど、信じる人の気持ちはわかりますが・・・」
私は答えた。
「祟りでもなく、偶然のはずもないのなら、―これらの事件はどういう事になるのかしらね」
鷹野三四が尋ねてくる。

「――」
返答に困った私に、富竹が助け船を出してくれた。
「鷹野さんはね、これは人の仕業かもしれない、って云っているんです」
「だってそうでしょ?祟りでもなく偶然でもないなら、人の意志が働いているとしか考えられないもの」

―これは、計画殺人? それともオヤシロ様の祟り?―


481:名無しのオプ
09/09/28 01:28:36 SesO3DJk
「―でも人の仕業だとすると、村の中に犯人がいるという事になりますよね?」
私は問うた。

「そうね、警察の大石さんはそういう風に考えているみたいね、
 それに村の中ではオヤシロ様の祟りはダム計画抵抗運動の暗部じゃないかとも云われているわ」
鷹野三四は嬉しそうに答えた。
「まず、動機が村の内部の人間以外には無いもの、
 ―それにね関口さん、雛見沢の人間にはわかる、雛見沢の人間の犯行だという証拠があるんです」
鷹野三四は続けた。
「必ず1人が死んで、1人が消えるの―」

どういう意味だ?
「―消えると云うのは、失踪するという事ですか?」
新しい情報に私の頭はパニック寸前だった。


482:名無しのオプ
09/09/28 01:30:57 SesO3DJk
「そう、忽然と、跡形もなく―」
鷹野三四は私の目を覗き込む。
「実はね、雛見沢に伝わる古い古い伝統のひとつに
 オヤシロの様の怒りを鎮める為に生け贄を捧げた、というのがあるの」
鷹野三四は楽しそうに。
「それが、簀巻き(すまき)にされて、底なし沼に生きたままじわじわと時間をかけて沈めたんですって」
鷹野三四は更に楽しそうに。
「文献を調べた限りでは、3日3晩かけて本当にゆっくりと、じわじわと、沈めたそうよ。
 ほら昔の人って駄洒落が好きでしょう?、『沈める』と『沈める』をかけたんていたんでしょうね
 『時間をかけて鎮める』という意味があったんでしょうね―」

―くすくすくす
鷹野は嗤った。

483:名無しのオプ
09/09/28 01:35:18 SesO3DJk

3日3晩かけてじわじわと沈めていく、
想像しただけで、私は顔から血の気がひいていくのを感じた。



「鷹野さんは雛見沢出身じゃないけど詳しいでしょう、
 彼女は郷土史とか民間伝承が好きでね。全部独学で調べたんですよ」
呆然としている私に富竹が云った。
「そんなにかっこいいものじゃないのよ、単なる知的好奇心。
 ・・子供と同じよ、ただの怖い物みたさなんだから」
鷹野三四は恥ずかしそうに云って富竹と笑いあった。


「ちょっと待ってください、という事は人が1人亡くなる意外にも
 1人がいなく―生け贄にされているという事ですか?」
私は話を本題に戻した。

484:名無しのオプ
09/09/28 01:36:10 SesO3DJk
「うーん、生け贄にされているかは別にして、
 過去の事件では必ず1人が死んで、1人が消えているんだよ」
富竹はさらりと云う。
「例えば、一番最初のダム現場の監督が殺された事件も、
 複数犯の最後の1人がまだ逮捕されてないらしいんだ」
富竹は平然と続ける。
「で、次の年のダム推進派のリーダー格の男なんだけど、崖から落ちたね、
 その時奥さんも一緒に落ちたらしいんだよ、けどその奥さんが見つからなくてね。
 警察も懸命に捜査したらしいけど、増水していたらしくて奥さんの遺体は見つからなかった」
富竹は悠然と続ける。
「その次の年の神主の病死の時はもっとはっきりしている、奥さんが遺書を残していたらしい
 『死んでオヤシロ様の怒りを鎮めに行きます』みたいなのが自宅にあったらしい。
 その奥さんが入水自殺した沼は、さっき鷹野さんが話した底なし沼って事になっていて、
 警察が沼を調べたけど、遺品が見つかっただけで、遺体は見つからなかった」
富竹は忽然と続ける。
「その次、去年か、殺された主婦の義理の甥だっけ、
 確か2年目の祟りの事故に遭った夫婦の子供だったらしいんだけどその子が消えたんだ」

「まあ、ざっとこんな感じね、1人が死んで、1人が消える」
鷹野三四が締めた。
 

485:名無しのオプ
09/09/28 01:37:58 SesO3DJk
 私は頭の中を整理しようと勤めた。
1人が死んで、1人が消える、それが事実なら、やはり村の内部に犯人(犯人達)がいる事になる。
それはオヤシロ様信仰というものに取り憑かれた、狂信者達という事になるのだろうか。
もちろん祟り等という非科学的な物を排除するならばだが・・・

―これは、計画殺人? それともオヤシロ様の祟り?―

「という事はやっぱり、オヤシロ様の信仰者、この村の中に犯人がいると言う事になっちゃいませんか?」
私は考えを述べた。
「そうね、そういう事になるわ」
鷹野三四が云った。
「それなら、一体誰が―」


今度の私の問いには回答はなかった。


暫く時間が止まった。鷹野三四は黙って私の顔を覗き込んでいる。




486:名無しのオプ
09/09/28 01:39:34 SesO3DJk


「鷹野さん、もういい加減にした方がいいよ、関口さんが本気にしてるじゃないか」
富竹が時間を破った。
「関口さん、あくまでもこの話はそういった符号があるというだけの、ただの噂話ですから」
富竹が明るく云った。
「まったく、鷹野さん悪い癖だよ、そうやって人を驚かして喜ぶのは」
「くすくす―ご免なさいね、関口さんが真剣に聞いてくれるからつい嬉しくなっちゃって」
鷹野三四は続ける。
「でも、明日のお祭りでは一体、誰が死んで、誰がいなくなるんでしょうね―」

―そして今年は私が殺されます―

「鷹野さん」
富竹が子供をしかる親の様な声を出した。
鷹野三四は―ご免なさい、と云ってペロリと舌を出してはにかんだ。

487:名無しのオプ
09/09/28 01:44:56 SesO3DJk
「関口先生ーー」
ちょうどその時、階段を上がりながら鳥口が声をかけてきた。

「さてと、それじゃ僕らも行こうか」
富竹が鷹野三四に声をかける。

―それじゃ関口先生、明日のお祭りで会いましょう。
富竹はそう陽気に云って去っていった。

その去り際、鷹野三四がこちらにやって来て。
「今日は話していてとても楽しかったです―是非また今度も聞いてください。
 雛見沢の昔話とかお伽噺(おとぎばなし)にも興味深いのがたくさんあるの。
 もちろん、薄気味悪いのがたくさん―」

そう云うとゆっくりと嗤った。


私は顔が赤くなるのを感じた。


488:名無しのオプ
09/09/28 07:30:45 YI3iP2KR
所々日本語が怪しいのが勿体無いな
>富竹は忽然と続ける。
とか。~然で韻を踏みたかったのかもしれんが文章としてはおかしい
あと台詞の間にそんな地の分を無理矢理入れようとしなくてもいいんだよ


489:名無しのオプ
09/09/28 09:44:03 YI3iP2KR
あれ?
誰かまとめサイト作ろうとした?
URLリンク(www12.atwiki.jp)

490:名無しのオプ
09/09/28 18:40:27 WweI+5sq
>>488
乙も言えないのに大口叩くなら自分でこれくらい書いてみろ

>>440->>487
職人乙!!すげええええええええええええ
ちょっと最初っから何回か読み返すわ
久しぶりにきて本当によかった

491:名無しのオプ
09/09/28 19:55:30 YI3iP2KR
乙は素で忘れてたごめん

492:名無しのオプ
09/09/28 21:37:15 SHgEL2On
面白い!頑張ってくれ

493:TIPS「鳥口守彦(転)」
09/09/29 00:16:23 DVgMrmgC

空が橙色(だいだいいろ)になる頃、鳥口は小学校の職員室にいた。
と云っても小さな分校の小学校だ、そんなには大きくない。

「それじゃ知恵先生、もし上手くいったら、こちらの取材に全面的に協力してもらいますからね」
鳥口が云う。
「はい、わかりました」
知恵と呼ばれた女性は頷く。
鳥口は云う。

「まあ、泥船に乗ったつもりで安心してください、義を見てせざるは優なきなりですよ」

後半は意味が通じても漢字が違う事に、鳥口は気が付かなかった。

494:TIPS「前夜祭」
09/09/29 00:18:40 DVgMrmgC

「皆さん、明日のお祭りの準備、遅くまでご苦労様です。
 近年連続して起こっている、所謂雛見沢連続怪死事件ですが。
 今年も昨年の様な、便乗した模倣犯の犯行などに十分注意してください。
 んっふっふ~まあ、と云っても多分事件を未然に防ぐ事は不可能でしょう。
 今年も1人が死んで、1人が消えます」

部屋内に苦笑の波が起きる。

「大事な事は、明日の晩に起きた事にしっかりと食らいついて、
 その裏側にあるモノを引きずり出す事です」

「今年こそオヤシロ様の祟りの化けの皮を引っ剥がしてやるぞ!」

―おおおおお!!

部屋内に野太い咆哮があがった。 

495:名無しのオプ
09/09/29 00:25:17 DVgMrmgC
基本的に週末に投稿しようと思っています
(今週は京極が登場予定)

長めの雑文になると思いますが、
「面白くない本など無い」の精神でお付き合い頂けたら幸いです

496:名無しのオプ
09/09/29 01:04:51 R9hMoWZ6
乙。結構な量になるとは思うが、頑張ってくれい。

497:名無しのオプ
09/09/29 10:27:11 EWbUvFWc
なんとなくでも最後まで構想できてる?
横からちゃちゃ入れたら困る?

498:名無しのオプ
09/09/29 19:26:54 4G76E0Qq
>>495
乙!あなたが神か…
京極キャラとひぐらしキャラが違和感なく絡んでるな
情景が目に浮かぶようだ
続きがものっそ楽しみだが無理はせず適当なペースでいいんで
陰ながら全力で応援してます!

499:名無しのオプ
09/09/29 21:31:31 zlAoBHQs
スレも半分にきて面白いことになってるよなぁ
最初はこんなことになるなんて露ほども思ってなかったw

500:名無しのオプ
09/09/29 21:35:02 fC8icgSd
乙!面白かった!
三四と京極の共演に期待してます

501:名無しのオプ
09/10/03 23:48:30 MQiFXX9z
六月十九日(日)


私は川を見ている。
水はやや濁っているが流れは緩やかで、
川音がしなければ止まっているように思える程である。
 
私は溜め息を吐いた。

水辺が―好きな訳ではない。

例えば海などは、広過ぎて、深過ぎて、激し過ぎて美し過ぎて、だからかえって厭になる。
海を眺めていると見ている自分の方が矮小で、浅薄で、自堕落で汚らしいモノだと思い知られる。
そんな気がするから、私は海がそれ程好きではない。

紺碧の天空。雄大な海原。そもそもそんなものが私に似合う訳はないのだ。
健康的なもの。真っ当なもの。熾烈なもの。整然としたもの。
私は元来、そうしたものが苦手なのである。

だから―この程度でいい。
―それだけか?
ふと、不安が頭を擡げる(もたげる)。

それは確かにそうなのだ。私はそう云う性質の人間なのである。
でも―




502:名無しのオプ
09/10/03 23:50:25 MQiFXX9z
目が覚めた、覚めてしまった。
ぼんやりとした頭で時刻を見る、11時半ぐらいだった。

「鳥口は・・・」
声に出して云ってみた―掠れた。

この時間まで寝ている事は、私としては普通なのだが―

身支度を整えて、下に降りてみる。
言づけをもらった、

―ちょっと出てきます、夕方までには戻りますので、その後お祭りに行きましょう。

だ、そうだ。

いきなり暇になってしまった。

「さて、どうしたものか」
声に出して云ってみた―浮かばなかった。

とりあえず、食堂に行って何かまずいものを食べた。
そして、腹が膨れたところで部屋に戻ってみる。
とはいえ、戻った所で何もする事がなかった。
よって、座敷に大の字になり天井を見つめる。


思い浮かぶのは彼女―あの少女―何て名前だったか―


私は思索の海に落ちていく。



503:名無しのオプ
09/10/03 23:54:02 MQiFXX9z
―まず、始まりは月刊實録犯罪に送られてきた1通の手紙からだ。

『4年前の綿流し祭の日にダム現場の監督が殺されました
 3年前の綿流し祭の日にダム反対派の住民が殺されました
 2年前の綿流し祭の日に神社の神主が殺されました
 1年前の綿流し祭の日に2年目の被害者の親戚が殺されました

 そして今年は私が殺されます

 これは、計画殺人? それともオヤシロ様の祟り?』

富竹と鷹野三四によると、この文面は真実らしい。
雛見沢では毎年綿流しの晩に人が死んでいる(殺されている?)
しかも、それだけではなく1人が失踪するという(拉致?)
オヤシロ様の怒りを沈めるには生け贄を捧げるらしい(失踪した人は生け贄に?)
オヤシロ様はこの村の守り神・・・(オヤシロ様の祟り?)

被害者の共通点・・動機?(反ダム運動にそぐわない者?)
ダム現場の監督・ダム反対派の住民(これはわかりやすい)
神社の神主・・・神主はダム反対運動に消極的だった(けれども)
ダム反対派の住民の親戚・・・最後の事件の理由は曖昧すぎる(曖昧になっている?)

昨日の夜、鳥口に確認したところ、
2年目の転落死は事故、神主は病死として報道されているらしい。
去年の事件は報道されていない(秘匿指定がかかったのかもしれないとの事―)

そして―今年は私が殺されます
今年は誰が死ぬんだ?―私とは誰だ?
本当に事件は起こるのか?―また1人が死んで1人が消えるのか?

それはいつ?―今日―でも―


504:TIPS「鳥口守彦(結)」
09/10/03 23:55:50 MQiFXX9z

男が2人いる。

「わかった、出て行けばいいんだな」
「ああ――」

1人の男の手には、映像記録媒体(えいぞうフィルム)が握られている。

「け、大体俺もこんなしけた村にいるのは飽き飽きしていたんだ」
「なら、ちょうどいいじゃないか」

答えた男はにやり、と微笑む。

「なぜそんな事をする」
「なぜ?、人助けに理由が必要かい?、義を見てせざるは優なきなりだぜ」



505:名無しのオプ
09/10/03 23:57:19 MQiFXX9z

でも―私が海を好まぬ理由はそれだけではないように思う。
何か自分にとって決定的な事柄を、私は失念しているのではないか。

そうなら―それは何だ。
―何を忘れてる?
何も思い当たる事はない。
―どうでも―いいことか。
多分、どうでもいいことなのだ。
例令(たとえ)何かを忘れているにしろ、私は取り敢えず日常生活を送れているのだから。

―でも。

私は何か忘れている事すらも忘れて、それで諾諾(だくだく)と暮らしていたのではないのか。
そう考えると少しだけ怖くなった。
私は精彩の欠いた景色を焦点の定まらぬ眸(ひとみ)に映し乍ら(ながら)ただ悶悶とした。

淙淙(そうそう)と川の流れる音がする。
―水の匂いがする
私はその湿り気を、胸いっぱいに吸い込む。
ああ、生きている、と思う。

まるで湿性類だ。ほとんどの人が額に汗して働いているであろうその時間に、
私はただ無為に、呼吸をすることで生を実感している。
そうして私は、社会の一部として機能していないへの背徳さ(うしろめたさ)を満喫する。
私はいつもそうだ。
無為だ。徹底的に無為だ。
草の間に水鳥がとまっている。

―鷺か。
違うかもしれない。
私は無心に鳥を見つめた―鳥を―

506:名無しのオプ
09/10/03 23:58:49 MQiFXX9z

―鳥を―

「鳥!!」思わず叫んでいた。
「うへえ」誰かが叫んでいた。

ここは―この天井は―

「関口先生ー吃驚(びっくり)するじゃないですか」
誰かが云う。
「大体、何度も云いますけど、僕は鳥じゃなくて鳥口ですよ」
鳥口が云う。
「それに先生、鍵もかけないで不用心ですよ―さあ早く起きてください、お祭りに行きますよ」

―ううーん
頭を振る、陽が低く色が変わりだしている。
もう夕刻だ。

「鳥口君、一体どこに行っていたんだい?」
「いやあ、僕は優しい男ですから、義を見てせざるは優なきなり、ですよ」
「鳥口君、その『ゆう』は優しいじゃなくて、勇ましい、勇敢の『ゆう』だよ」

「うへえ」



507:名無しのオプ
09/10/04 00:08:48 o5udKT5r
死体には乳房が無かった。綺麗に切り取られていたのである。
およそ素人の技量とは思えぬほどのわずかな出血量であるから、おそらく医術に心得があるものの所業であろう。
それにしても…臭い。死体とは斯様にも臭うものなのか。口で息をせぬと嘔吐するのは時間の問題である。
『クセエよ…』そう僕は呟きながら、作業に取りかかった。

508:名無しのオプ
09/10/04 00:10:27 OpiGXL/x

雛見沢に向かう途中、鳥口が仕入れてきた情報を聞いた。
「4年目の事件、去年の事件ですね。どうやら本当にあったみたいです。
 話によると被害者は北条玉枝、2年目の事件の、北条夫妻の親戚にあたるみたいですね。
 やっぱり秘匿捜査の指定がかかって報道はされなかったようです」

富竹と鷹野三四の話は真実だったのか・・・

「それで、これが凄い情報なんですけど実は全部の事件が被害者は1人だけじゃないんですよ、なん―」
「1人が消えるんだろ、一緒に」
鳥口が嬉しそうに語るので、突っこみを入れてみた。

「先生!なんで知ってるんですか!」
「いや、昨日鷹野さんと富竹さんに聞いたんだよ」
「なら、僕にも教えてくださいよ、大体文屋にとって情報は命の次に大事な―」

―悪かった、と謝っておいた。

「で、ですね、どこまで知ってるんですか」
「えーと、最初が殺人犯の犯人、次が一緒に落ちた奥さん、死んだ神主の奥さん、
 そして、えーと、2年目の夫妻の子供だっけ」

ガタガタ―と車が舗装されていない道路に入った。


509:名無しのオプ
09/10/04 00:11:20 OpiGXL/x

「最初の方はともかく、最後の事件の消えた被害者には関連性が見えないよ」
「最後の事件の失踪者は、北条・・・えー・・沙都子(さとこ)ちゃんのお兄さんだから、
 北条悟史 (さとし)君ですね」
鳥口が答える。
「悟史君は、2年目の事件の後、沙都子ちゃんと一緒に親戚の家に預けられたみたいですね。
 ホント北条家ってのは呪われているんですかね、沙都子ちゃんも大変な目に遭っていたし」
鳥口がぼやく。
「沙都子ちゃん?それは誰だい?」
「それは、ほら、さっき云った、今日助けた、少女ですよ」

そう云えば、部屋で鳥口が何か云っていた―
鳥口は私の横顔をちらりと見て、溜め息をついた。

「北条沙都子ちゃんは、義父の北条鉄平に虐待されていたんです。
 いや、実は北条鉄平は最近雛見沢に帰ってきたらしくて、そこで僕が人肌脱ぎまして―」

私の頭は処理能力を超えてしまったらしく、頭が痛くなってきた。

「鳥口君、もう『北条』が多すぎて、僕には何が何やら」
「関口先生、それは"順番が間違っているから、わかりにくい"だけですよ」

順番が間違っているから、わかりにくい―そうなのかもしれない。

「でも鳥口君、それは君の説明能力が足りないんじゃないのかい?」

―うへえ


510:名無しのオプ
09/10/04 00:12:51 OpiGXL/x

鳥口はゆっくり、丁寧に説明した。

北条家には2人の子供がいた、悟史と沙都子。
2人は2年目の事件で北条夫妻がいなくなると、親戚の鉄平・玉枝夫妻に預けられる事になる。
(北条夫妻は2年目の被害者、ダム推進派のリーダー格だった)
けれど、4年目の事件で今度は、玉枝と悟史がいなくなった。
残ったのは鉄平と沙都子だけ、だが鉄平は沙都子を残して雛見沢を離れていた。
そして、最近なぜか鉄平が戻ってきた。そして沙都子を虐待していた。―らしい。

「で、そこで、鳥口守彦様登場と云う事かい?」
「そうです、先生にも見せたかったな僕の雄志を」
鳥口は誇らしげに云う。

「でも、それで鉄平がいなくなったら、沙都子ちゃんはどうなるんだい?」
「これは、鉄平がいなかった間もそうなんですけど、
 古手神社で古手梨花ちゃんと一緒に暮らしていたそうです。だからその後も問題は無いですよ」
「古手梨花?」
「何云ってるんですか、一昨日会ったでしょう、ほら神社で―」

―ああ、あの少女だ。

「神社で暮らしているって・・・」
「古手梨花ちゃんは3年目の事件で両親を亡くしています、その後しばらくは村長の所でいたそうですが
 今は神社の中の家に1人で、沙都子ちゃんもいれると2人で住んでいるそうです」

―また、頭が痛くなってきた。


511:名無しのオプ
09/10/04 00:14:07 OpiGXL/x

「でも、まだ子供じゃないか、大丈夫なのかい?」
「まあ、ここら辺は田舎ですからね、そこらへんは大らか何でしょう」
鳥口は笑う。

「それにしても確かに北条家は呪われてるのかもしれないね、残された沙都子ちゃんには
 両親の他界、兄の失踪、叔母の殺害、叔父の虐待、不幸の大行列だ」
「そうですね、今は入江診療所に入院しているみたいですけど」
鳥口が告げる。
「入院してる?」
「ええ、虐待によって、ちょっと錯乱状態と云うか、おかしい感じで―」

―幼少期の精神的外傷はその後の人格形成に大きな影を落とす―

私は学生時代、自分の鬱病を克服するために神経医学や精神医学を志した時期がある。
そうして手に入れたのが―鬱病は完治する事はないという事実だった。

彼女、北条沙都子に共感を覚えた。
「それは・・・」

鳥口は私の顔を見て―明日にでもお見舞いに行きましょうよ、と陽気に云った。


少し気が滅入った。



512:TIPS「入江診療所にて」
09/10/04 00:15:43 OpiGXL/x

「入江、沙都子の病状はどうなのですか?」

「今は薬が効いてきて、落ち着いて来ています。もう大事にはならないでしょう」

「それは良かったのです、よろしくお願いするのです」

「はい―沙都子ちゃんは私の命に代えても守ってみせます」

「なら、もっと早く動いて欲しかったのです」

「それは・・・・」

「冗談なのですよ」

そう云うと少女はにぱー、と笑った。


513:名無しのオプ
09/10/04 00:19:01 o5udKT5r
『マンコをそのままにしておくなんてあり得ないのです』

514:TIPS「白馬の猿」
09/10/04 00:26:33 OpiGXL/x

「沙都子、良かったですね」

「そうね、何が起こるのかわからないものだわ」

「梨花・・・もしかして期待しているのですか?」

「・・・」

「梨花・・期待した分だけ、失望は大きくなるのですよ・・・」

「羽入(はにゅう)、それはそうだけど、でも今回は今までとは違うわ
 今まで関口や鳥口なんて、登場した事がないわ」

「でも梨花、あんな猿顔の男は主役には成れないのですよ」

少女は頬笑んで。

「でも羽入にはお似合いじゃないかしら、羽入が見えているかもしれないし―」

「あうあう、梨花がひどい事を云うのですよ」



515:名無しのオプ
09/10/04 00:31:35 /mM+3uyK
白馬の猿www

516:名無しのオプ
09/10/04 00:46:12 OpiGXL/x

「凄い人ですね」鳥口が云う。
「ああ、2000人はいるね」私は答える。

男2人で縁日を回る。
遠くで花火があがり、祭囃子が聞こえる。


―狂騒


やはりこうした賑やかなものが好きではないのだ。


―喧騒


やはりこうした華やかなものが好きではないのだ。


―陰陽


光があるから、影があるのか、明と暗は分かれていく。


気が滅入る。



517:名無しのオプ
09/10/04 00:47:47 OpiGXL/x

お祭り騒ぎの一層騒がしい方から、見た事がある顔がやって来た。
竜宮レナと園崎魅音そして、古手梨花だった。

「関口先生、楽しんでますか?」
園崎魅音が声をかけてくる。
「まあね」―嘘を吐いた(ついた)。

私は子供が苦手なのだと思う―嫌いではないのか?
あまり接触する機会がなかったせいなのだろうか?
多分子供が持つ性質が私には合わないのだろう。
生命力に満ち溢れて、未来に向かっていく、しかも純粋に。

やはり私は子供が苦手なのだと思う―でも理由はそれだけだろうか?

竜宮レナが云う。
「折角だから、関口さん達も仲間に入れてあげようよ」―いや
古手梨花が云う。
「そうなのですよ、3人では少し寂しいのですよ」―嫌
竜宮レナが云う。
「関口さんは健太君を助けてくれたし」―嫌だ
古手梨花が云う。
「鳥口は沙都子を助けてくれたのですよ」―厭だ
園崎魅音が云う。
「よーしそれじゃ、園崎魅音の名において関口巽と鳥口守彦を仲間に加えます」


さらに気が滅入る。



518:名無しのオプ
09/10/04 00:49:09 OpiGXL/x

少女達と射的をすることになってしまった。
しかも私が最後、トリを務める事になってしまった。

竜宮レナが云う。
「あの熊さんの人形かわいい~」
子供というのは、皆こうなのだろうか?、それとも女性とは、なのだろうか?

熊を目指して皆がコルク玉を弾いていく。
けれども、当然、軽いコルク玉では簡単には落ない。
少し位置をずらすのが関の山だ。

「関口先生、あとちょっとですから、落としてくださいよ」
私の前に撃った鳥口が云う。

私の順番が来てしまった。

少女達が盛り上がっていたせいか、少なくない野次馬達が私を見ている。

「関口さん、絶対、絶対、熊さんとってね」
竜宮レナが云う。
「関口、ふぁいと、おー、なのですよ」
古手梨花が云う。
「関口先生、決めてね」
園崎魅音が云う。


かなり気が滅入る。



519:名無しのオプ
09/10/04 02:00:38 OpiGXL/x

銃を手にした、手の平はびっしょりと濡れていた。
みんなの視線が痛い、みんなの期待が痛い。
私は何故こんな事をしているのだ?

――期待が大きいほど失態は大きくなる――

銃をかまえる、いつ以来だろうか?
多分あの戦場以来だろう。

私は戦争に行っている、それも将校として。
そもそも理系だった私は戦争には行かない事もできたはずだ。
私は何故、戦場に赴いたのだろうか?
もしかしたら、死にたかったのかもしれない―そう思う。
小隊長として南方の前線に送られた、結局私と木場修太郎以外は全員玉砕した。
私は戦ったのだろうか?―何故か必死に逃げまわっていた気がする。
―死にたかったのに?

銃口を向ける、手が震える。

がたがた―音をたてて、銃口がぶれる。

―ここは、何処だ?

指を引き金にかける、遠くで祭囃子が聞こえる。

私はためらいがちに―引き金を引いた。


520:名無しのオプ
09/10/04 02:01:38 OpiGXL/x





弾は―――はずれた―――






521:名無しのオプ
09/10/04 10:19:03 sqOpmaUP
おうふっ職人乙!
ほんとすごいわ
何も返せなくて悪いんだがマジで楽しみにしてる
これからの展開が気になってしゃーない


522:名無しのオプ
09/10/04 17:09:07 C3Mqo10k
段々京極の雰囲気が薄れていってないか?なんつーか読みづらい。京極シリーズに影響受けたラノベって感じ。竜騎士と京極の間の子のなりそこないみたいな

523:名無しのオプ
09/10/04 19:15:25 OowQeyow
読みづらいって言ったらお前の改行なしのレスも読みづらいけどな
まあ言いたいことはわかる

524:名無しのオプ
09/10/04 19:18:17 9Re39/+r
別に京極風に書くスレではないだろ、自分は素直にGJだ
ひぐらしを題材にしてるんだから竜騎士っぽくなってもおかしくないし、関口と女の子達の会話とか良かったぞ
ただ、(びっくり)とかは京極読者はルビなくても読めるんじゃないか
気になったのはそれくらいだ

525:名無しのオプ
09/10/04 20:15:07 OowQeyow
>>215-216みたいな意見もあるしなぁ。まあこれは極論だがね
どうせ読むなら京極風で、と思う人も少なからず居るだろうさ
むしろ自分は>>468のレナの台詞
>「健太君人形が、かあぁいいの~だからお持ち帰りしたいの~」
に違和感を覚えるな

526:名無しのオプ
09/10/04 20:38:47 /mM+3uyK
完璧に真似るのは無理だろ。
本人じゃないんだし・・・。
完結するまでは横槍入れずに見てろって。

527:名無しのオプ
09/10/04 21:39:16 RdtE02UJ
そもそもがネタスレだから、そこまでのクオリティを求めるのは酷だろ

528:名無しのオプ
09/10/04 22:35:24 UXASUtKU
逆に考えるんだ

> 京極シリーズに影響受けたラノベって感じ。竜騎士と京極の間の子のなりそこないみたいな


つまり2人のイメージがくっついた形態がこの小説と考えるんだ

529:TIPS「始末の支度(壱)」
09/10/04 22:53:04 OpiGXL/x

どこまでもだらだらといい加減な傾斜で続いている坂道を登り詰めたところが目指す京極堂である。
木場修太郎(きばしゅうたろう)は坂道を登っていく。
木場は真四角の顔に、目と口が申し訳なさそうに付いている男だ。
美丈夫というには無理がある、だがそのがっしりとした体躯に合わせるとなかなか風格があるのだ。


木場はためらわずに母屋の戸を開ける。

京極堂は古本屋だ。主(あるじ)は神主で、陰陽師である。

京極堂の細君―中禅寺千鶴子(ちゅうぜんじちずこ)が応対に出てきた。
色白の、大層目の大きな、一見西洋人風の顔立ちをした美人である。

「京極はいるかい?」
主である中禅寺秋彦(ちゅうぜんじあきひこ)は屋号の京極堂が通り名だ。

京極堂は座敷で呪いにかかった芥川龍之介の様な顔に、
太宰治を拗らした(こじらした)ような表情を浮かべ、古い和綴じの本を読んでいた。

「旦那、公僕たる国家警察には休日なんてものはないんじゃないのか?」
京極は木場を旦那と呼ぶ、それは木場が旦那にふさわしい風袋をしているからだ。
―うるせいや。木場は座敷にあがった。

「さてこんな、時間にやって来るなんて―飯でもたかるなら、もう少し早いほうが」
京極堂が憎まれ口を叩く。
「よせやい、仮にもこの木場修太郎そこまで落ちぶれちゃいねいぜ」
京極堂は口の角を少しだけ上げた。


530:TIPS「始末の支度(壱)」
09/10/04 22:54:14 OpiGXL/x

「今日は聞きたい事があって来たんだ、京極―未来予知ってのはできるのかい?」
「不可能だよ」
京極は眉根を寄せて、即答した。

「まあ普通はそうだが、ほら榎木津の馬鹿みたいな"未来が見える"奴がいる事はねえのかい?」

榎木津―榎木津礼二郎(えのきづれいじろう)は2人の共通の友人だ。
榎木津は戦争で致命的に視力を失ってから、"人の過去が見える"という能力を手に入れた。
今ではそれをいかして、神田で探偵をしている。

「いいかい、旦那、過去と未来というのはまったく違うんだ。
 確かに榎木津には人の過去を見るという、云うなら超能力がある。
 けれどもそれはそんなに難しい話でもないんだ、何なら科学でも推測できる」
「どういうことだ?」
「旦那、過去というのは確定した事柄だよ、記憶の積み重ねだ。
 仮令(たとえ)ば記憶というのはど何処にあると思う?」
「この脳味噌じゃねえのか、よくわかれねえけど」
木場にとっては理論など、どうでもいい。
映画は見て面白ければそれで良し、画が映る仕組みなど興味もなかった。

「所謂(いわゆる)科学の信奉者達もそう考えているね、脳の大脳新皮質がどうとか。
 科学的に推測するから、ここではその説を採用しよう。記憶は脳の細胞に刻まれたものだとする。
 だとすると、人の記憶・過去を見る事、観測は不可能だろうか?」
「見えるわけねえだろ、人には頭蓋骨があるんだから」
「確かに今の科学では不可能だろう、でも進んだ科学、進(しん)科学とでも云おうか。
 今から何百年も後、科学が発達して頭蓋骨の外側からでも脳の動きが観測できるようになったら?」
「そりゃ何百年も後なら可能だろうが」
京極堂は手で顎を撫でる。

531:TIPS「始末の支度(壱)」
09/10/04 22:56:27 OpiGXL/x

「なら今度は、その脳の動きと同じ動きを自分の脳に行えばいいんだ。
 そうすれば、科学的に人の過去が見えた事になるだろ」
「けど、そいつはずっと先の話だろ?」
「旦那、重要なのはそれが可能かどうかという話だよ。
 榎木津には人の過去が見える、これは現時点では超能力さ、でも何百年も後なら不可能じゃない。
 榎木津は"見る事ができないものを見ているだけさ、見えないものを見ている"訳じゃない」

「まあ、あの馬鹿の話はそれでいいにしても、
 その進科学か、そいつを使えば未来だって見えるんじゃねえのか?」
「未来は過去みたいに一筋縄ではいかないんだよ、未来は可能性の塊で不確定な物だ。
 例令るなら旦那が昨日食べた晩飯と、明日食べる晩飯のような関係なんだよ。
 旦那が昨日食べた物は現在において確定していて変わったりしない、
 けど明日何を食べるかは現在においては未確定なんだ。
 もちろんある程度の予測や予報はできるけどね、
 男独身(おとこやもめ)が食べる晩飯なんて店屋物か何かに決まっているから」
「ほっとけよ、じゃあ何百年たっても未来予知はできないのか」
「基本的にはそうさ、もちろん高度の予測や予報はできるようになるだろうがね。
 ただ天気予報でも99.9%雨が降ると予報して、例令雨が降らなくてもそれは外れた訳じゃない。
 残りの0.1%は当たった訳だからね、未来とはそう云う曖昧模糊な物なんだ。
 未来は観測されて初めて現在、現実、今となる。云いかえれば未来は実存なんかしない」
京極堂は続ける。
「時間と云うものはね、1・2・3・・・と過去、現在、未来、
 という並びじゃなく。0・1・2・・・と未来、現在、過去と並んでいるんだ。
 そして、零―"ないものは見えない"」

532:TIPS「始末の支度(壱)」
09/10/04 22:57:21 OpiGXL/x

木場はうーんと唸った。
「なら、その高度の予測か、例令ばそいつが百発百中までいく事はねえのか?」
「もちろん可能性はあるよ、でもそれは下手したら何千年後とかの話になるよ、
 お釈迦様が弥勒菩薩になって56億7千万年後に人々を救いに来るのと同じような話さ。
 さっき云った過去を見る、こちらは後2百年か百年ぐらいでできるかもしれない、
 あるものを観測するだけでいい訳だから。
 けど、未来の場合は観測しなくちゃいけないものが多すぎる。
 旦那の明日の晩飯ぐらい短期的で限定的な物でも、さっき僕は店屋物だろうと予測したけど。
 同僚と飲みに行くかもしれないし、急な事件が起こって抜きになるかもしれない、
 飯をたかり損ねた帰り道に、拾い食いでもして腹を壊すかもしれない、可能性は無限に近い」
京極堂は仏頂面で笑った、そして―

「もし、森羅万象全てを観測し、それを理(ことわり)の中に入れ、確実な未来予測、いや予知か、
 それができるとしたら、それはもはや――神の所業だよ」

京極堂はそこで一区切りをつけた。
それを見計らったように千鶴子がお茶を持ってきた。

京極堂はお茶を一啜りすると。
―で、本題は何なんだい?、と聞いた。

木場もお茶を少し飲み。

「実はな―

533:名無しのオプ
09/10/04 23:09:30 OpiGXL/x
とりあえず今週はここまでです
(本当はもっと書きたかったのですが達成できず・・・)

この次ぐらいから後半戦に入ります
ここまでは明るい感じでしたが、
後半は暗い感じになっていきます(いくと思います)

なるべく京極成分を増やそうと思っていますのでよろしくお願いします。
(といっても、直木賞作家には当然太刀打ちできませんのでそこはご了承ください)

534:名無しのオプ
09/10/04 23:11:07 /mM+3uyK
乙。
やっぱ京極が登場すると面白くなるな。

535:名無しのオプ
09/10/05 09:53:56 D7W1T7Qz
>>533
乙!
これだけ書けるんだからたいしたもんだよ
できれば、もし後半グロイ場面があるなら、その辺は適当に描写してくれw

むしろ>>522>>528が言うようにこれを読んで
>京極シリーズに影響受けたラノベって感じ。竜騎士と京極の間の子のなりそこないみたいな
って思わせるのがすごいと思う

ちゃんと全く文章体が違う両方の要素を混ぜ合わせてるんだから
なりそこないじゃなくてこれこそが「なるべくしてなった形」なんじゃないか

536:名無しのオプ
09/10/05 09:59:31 wL4Yigz7
乙・・・
ってかもう後半?
まだ榎木津も出てないけど大丈夫か?

537:名無しのオプ
09/10/05 12:59:20 kJ90MSTK
大量投下乙

しかし、やっぱりなぁ……
関口あたりが喋っているならまだ良いが京極堂がおかしな日本語を喋っていると
猛烈に突っ込みたくなる
>>438で言う「指向」とやらが一体どこに向かっているものか見当もつかんが
少なくとも京極堂自身の台詞くらいは正しい日本語を使って欲しい

538:名無しのオプ
09/10/05 16:34:13 9cIVhhWA
>>535
楽しませてくれるんだから
礼を言って労うべきだとは思うが
それはさすがに甘すぎる

539:名無しのオプ
09/10/05 19:56:04 zmUIdo9w
>>537
趣向って書きたかったんじゃね?
>>538
でも京極レベルで書けるのなんて
本人くらいしかいないだろうよ

540:名無しのオプ
09/10/05 21:19:04 kJ90MSTK
指向だろうが趣向だろうが同じこと
どういった目論見かは判らないが果たして京極堂に
間違った日本語を喋らせるに足る理由があるのかが問題

541:名無しのオプ
09/10/05 21:25:58 eHxpVbAD
チトこだわりすぎじゃないか?
本人以外が書いてるもんにそこまで求めるなよ。

542:名無しのオプ
09/10/06 00:34:10 5r4rZ1c7
本編とのつながりを考えるのは野暮かも知れんけど。
時系列としては川赤子からつながってるから姑獲鳥の前後?
なんにせよ、楽しく待ってます。

543:名無しのオプ
09/10/06 00:45:06 UmP1AMoT
ひぐらしの時期と3~40年の開きがある時点で時系列を考えても仕方無い気がw

益田とかがいれば絡新婦の後、とか考えやすいんだけどね。

544:名無しのオプ
09/10/10 23:47:34 IBn9hUzq





―静寂、静粛、閑静、静かだ、水を打ったように音が溢れていない―
―静寂は素晴らしい。このまま、そうこのまま時間が止まってしまえばいいのに―


「り、り、梨花ちゃん、そ、そろそろ奉納演舞のじ、時間だよ」
園崎魅音の言葉によって静寂は打ち砕かれた。

私を取りまいていた人々が、蜘蛛の子を散らすように去っていく。

―ここは、何処だ?
そうだ、私は銃を構えていて・・・

「せ、関口先生、写真を撮らなきゃいけないから、先に行きますよ」
鳥口が云う。

―弾はどうなったんだろう?
よくわからない・・・

祭囃子が聞こえる。


―1人になった。



545:名無しのオプ
09/10/10 23:49:52 IBn9hUzq
本殿の方に三々五々、人が集まっていく。
私もつられるように、そう向かっていく。
人垣ができつつある、境内を目前にして。

何かが行われるのだろうか?
背の低い私には見えずらい。

歓声があがる―少女―古手梨花が巫女のような服で出てきた。
鍬(くわ)のような物を持っている―奉納演舞―何かの儀式か。

人混みはつらかった。
眸に入る光が厭だった。
もっと暗い所に行きたい。
私の脚は暗闇に向かってく。

月が輝いている。

私には輝かしい光などは似合わない、相応しくない。
太陽の光は生命の輝き―私には向いていない。
私には月光がちょうどいい、それでいい。

私がこんな風になってしまったのはいつからだろう?―考える。
鬱病が激しく発病したのは学生の頃だった。
何故発病したのだろう?―考える。
当然だが、なりたくて、なったわけではない。
私は生まれつき、そういった人間だったのだろうか?―考える。
元々そういった素養を持っていたのかもしれない。
だが何かを忘れている気がする。何か"きっかけ"があったような?―考える。
私が発病したきっかけ、引き金―思い出せない。
ただ何かがあった気がする、けれど内容がわからない。


546:名無しのオプ
09/10/10 23:56:41 IBn9hUzq
暗闇の中を歩いていると、それまでより少しだけ心が落ち着いてきた。

やはり私は日陰の人間なのである。
『蔭花植物』等という、ありがたくない仇名まで頂戴した事がある―命名者は榎木津だったか。
戦争からおめおめと戻ってきた後、私は大学に戻り粘菌の研究をしていた。

粘菌は走る黴、動菌とも云われ、面白い特性がある。
粘菌は葉緑素を持たず、動物のような栄養摂取をするのに、胞子をつくって繁殖する。
粘菌は動物と植物の合いの子の生き物なのだ。

私が粘菌の研究を辞めたのは、雪絵―妻と身をかためる事にしてからだ。
私はその時、副業にしていた、小説家などと云うものを職とした。
私のような社交性の欠片もない人間には、他の職業を選ぶ事などできなかった。

妻は私には勿体ない女性だ。気立ても、器量もどちらも優れている。
妻は何故私などと夫婦(めおと)になったのだろう?―考える。
妻は私の事を好いていてくれるのだろうか?―考える。

私は私の事がこんなにも嫌いなのに。

人間は考える葦だとは云うが、考えてはいけないものも、あるのかもしれない。
下手の考えは休むに似たりとも云うが、私の思考は物事をより良く捉える事ができないようだ。

考える事を止めるにはどうしたらいいのだろう?―考える。
ただ、考える事を止めた人間は、人間なのだろうか?―考える。
私は人間の範疇に入れてもらえるのだろうか?―考える。

私は葦―いや粘菌だ。
私は動物と植物の合いの子なんだ。

―粘菌は胞子をつくって繁殖する―

547:名無しのオプ
09/10/11 00:00:07 IBn9hUzq


月夜の凶人のように、月光の中をふらふらと歩いた。
何処に行こうとするのか、何をしようとするのか。

あてもなく歩いていく。

拓けた所に建物がある―倉庫―倉―蔵―
ちょうど少し腰を下ろしたいと思っていたので、近寄ってみる。
近づくと入り口に影がある―影―陰―人影―
瞬時に躰が緊張した、今の私には人と接するには準備がいる。

「―――あらあら。どなたかしら?」
聞いた事がある声を感じた。

―こんばんは、何とか声を絞り出した。

「あらあら、関口さんじゃないですか―今晩は」
声の主(ぬし)は鷹野三四だった、隣には富竹もいる。

これはとんだ出歯亀だったのかもしれない。
―え、ええと、上手く言葉にならなかった。

私の狼狽を察して富竹が答えてくれた。
「いや関口さん、そう云うんじゃないんだよ」
「くすくす――残念だけど、関口さんが覗き見したくなるような場面じゃないのよ。
 期待に添えなくて申し訳ないわね―」
鷹野三四は嗤った。


548:名無しのオプ
09/10/11 00:02:29 IBn9hUzq
―じゃあ、こんな所で何を?
「いやあ、これはね・・・」
富竹は言葉に詰まり鷹野三四を見る。
「ここはね。祭具殿と云ってね。祭具をしまっている倉庫なの。
 ――いえ、祭具を祀っている神殿と云ってもいいかもしれないわね」
鷹野三四の言葉に建物を見る、確かに古式ゆかしい佇まいの建物だった。
「今日、梨花ちゃんが使っていた、祭事用の鍬(くわ)もここにしまってあったの。
 雛見沢の神主の血筋、古手家の人間以外は『不浄』を持ち込むから立ち入り禁止の不可侵領域―」

―聖域なの。

「じゃ・じゃあ、こんな所で何をしているんですか?」
鷹野三四は稚気の混ざった口調で。
「私、雛見沢の昔語りや伝承を趣味で研究しているって云ったでしょう。
 私の知的興味の様々な答えがこの中に詰まっているの。
 この中に入れる機会(チャンス)を今日まで、ずっと待っていたの―」

どうやら、この祭具殿の中に侵入しようとしていたらしい。
確かに今の時間帯はみんなお祭りに気を取られていて機会なのかもしれない。
けどそれは許されない事なのでは―考える。

富竹が私の視線に気づき。
「いや僕も、いけない事だとは思うけどね、鷹野さんが『どうしても』って云うから」
「つき合わせてしまってごめんなさいね。でも、ジロウさんのお陰よ感謝してるわ」
「やれやれ・・・でも鷹野さん、こういうのはこれっきりにしてくれよ?
 こういう所に黙って入り込むのはやっぱり気が引けるよ」
「くすくす――やっぱりジロウさんはいい人ね」

そう云うと富竹は扉に付いている南京錠に手を加えた。
ゴトリ―神聖なる建物を護っていてモノが外れた。


549:名無しのオプ
09/10/11 00:04:15 R3AFmaLb

「いよいよね」
鷹野三四は唾を飲み込むと一呼吸して扉を押した。
中から黴(かび)くさいような歴史のにおいが漂ってきた。

「どう?関口さんも共犯なんだし、せっかくだから一緒に見学しません?
 雛見沢の秘史を埋める。貴重な文化遺産の見物会よ。―今日だけの限定会館―くすくす」
鷹野三四は嗤った。

―共犯なんて・・・上手く声にならず、むにゃむにゃとした言葉が出た。

富竹は階段部分に腰をおろして
「ここで見張りをしていますから、見てきたらいいですよ。
 僕はあまり趣味じゃないですけど、結構面白いかもしれませんよ―ふっふっふ」
富竹は笑った。

―この中に何があるのか、富竹さんは知っているのですか?
「まあね、鷹野さんに散々聞かされているからね・・・」
富竹は苦笑した。


結局私は反対の意志を示す事ができなかった。


550:名無しのオプ
09/10/11 00:06:59 R3AFmaLb
祭具殿の中は真っ暗で鷹野三四がもっている角灯(ランタン)の灯りで、そこが狭い前室だとわかった。
「真っ暗だね、転ばないように気をつけるんだよ」
「ご心配ありがとう、―じゃあ門番をよろしくね。ここ、閉めるわよ」
鷹野三四は嗤い乍ら(ながら)扉を閉めていく。
―やれやれ・・・、富竹の声が少しずつ遠ざかり

―扉は閉められた。

扉が閉ざされる事で辺りには闇と閉塞感が漂いだした。
鷹野三四がもつ角灯の光で世界が揺れる。

前室の奥には古い乍らも頑丈そうな、厳かな装飾のされた、重そうな扉があった。
―奥にあるモノを封じ込める、最後の砦のようだ―

「ただの倉庫なのに前室があるなんて変わっているでしょう。
 ―1枚ずつ扉を出入りさせる事によって、中が外に見えないようにしているのよ」
鷹野三四が語る。

私は暗い壁ぞいにある切替(スイッチ)を見つけた。
―これは、何の気なしに入れてみると上に吊されている電球に灯が点り、世界は光に包まれた。
私の暗闇に慣れていた眸にはあまりに眩しかった。

すると鷹野三四は私の手に触れると、その上から切替を切った。
「関口さん、私たちは忍び込んでいるのよ、明るいのもいいけど―今は、ね―」
鷹野三四が私の耳元で囁いた。

雪絵―妻以外の女性の手に触れたのはいつ以来だろう?―考える。


彼女の手は白く、冷たかった。


551:名無しのオプ
09/10/11 00:08:38 R3AFmaLb

前室の奥には広い空間が広がっているようだった。
鷹野三四が角灯をかざすと、正面の一番奥には、仏像のようなご神体が立ち、
侵入者である私たちを見下ろしていた。

「あれが雛見沢の守り神、―オヤシロ様よ」

あれがオヤシロ様、雛見沢を外界の穢れから守り、祟りを起こしているという・・・。

「―想像していたより、たくさんの祭具が収められているようね。
 ―でも残念、どれもあまり手入れがされていないわ。
 ―状態が悪いのが悔やまれるわね」

壁や天井や棚に色々なものが並べられている。
どちらかと云うと、祭事的、芸術的な形のものはなく、大工や鍛冶屋の作業場のような、
そんな感じの木製や金属製のものがごろごろと並べられている。
美術品の様なものがあるのを想像していた私は拍子抜けしてしまった。

「―あら、面白くないかしら」
鷹野三四が声をかけてきた。
「ええ、まあ、こういったものに興味がある人には楽しいのでしょうが・・・
 僕にはよく価値が・・・」
鷹野三四は私の顔を覗き込むと、手帳の様な物を取り出すと。
「―それじゃあ、関口さんに昔話でも聞かせてあげようかしら。
 この地方では一般的な昔話よ。みんなが知っているくらい」
彼女はそう云うと
「いーい?じゃあ―読むわよ」
母親が子供に聞かせるように語り始めた。


552:名無しのオプ
09/10/11 00:12:16 R3AFmaLb

昔々、ある山奥の村にね、村があったの。その沼はね、底無しの深い―深い―沼でね。
地の底の、鬼の国に繋がっていたんですって、その沼は海よりも深いと云われて、
飲み込まれればそのまま黄泉の国まで沈んでいくと伝えられる、底なしの沼だったの。

その名を―鬼ヶ淵と云いました。

村人たちは鬼の国、つまり地獄のことね。―鬼の国と繋がるという沼を崇め乍ら過ごしてきたの。
でもね、ある日の事―

―沼の底から鬼が次々と現れたの。

村人たちは―地獄が溢れたと、怯えたそうよ。
そうして鬼たちは村人たちに襲いかかった、村人たちは隠れて怯えているしかなかったの。
鬼たちは残虐非道に村人たちを迫害していたそうよ、でも村人たちが本当に諦めた、その時―

―神様が―『オヤシロ様』が降臨したの。

天から降臨したオヤシロ様の力は鬼たちとは比べ物にならなかった。
鬼たちは戦うまでもなく、その威光の前に平伏したのよ。

けどね、オヤシロ様が鬼たちに元の鬼の国に帰るように諭したけど、
鬼たちは涙ながらに訴えたそうよ。鬼の世界にも厳しい戒律があって、
彼らは鬼の国を追放された鬼たちだったんですって。

鬼の国にも、もちろん人の世にも彼らの居場所は無かったの、
もちろん村を襲ったのは悪い事だけど彼らはそれを反省したの。

村人たちも話を聞く内にね、少しずつ気の毒になっていったわ。
それでね、村のみんなで話し合って、鬼たちと一緒に住む事を決めたの。

553:名無しのオプ
09/10/11 00:16:57 R3AFmaLb
鬼たちは村人が自分たちを受け入れてくれるという申し出に、
まず耳を疑い、次に感涙に咽びいたそうよ。
村人たちは鬼たちに生活の場を与え、
鬼たちは恩返しに自分たちの持つ様々な力や秘法を村人に授けたの。

オヤシロ様はその微笑ましい交流をとても喜んでね、
鬼たちが村人と分け隔てなく暮らせるように人間の姿を与えたの。
そして自らも地上に留まり、末永く両者の交流を見守る事にしたそうよ。


554:名無しのオプ
09/10/11 00:20:00 R3AFmaLb

「普通の御伽噺ならここで終わりなんだけどね。このお話は後世にだいぶ加筆されたみたいで、
 まだまだ続く、ずいぶんと長い話になっているわ」
鷹野三四はそこで、目線で感想を求める。
「なかなか・・面白いですね、神と人と鬼が共存する話なんて聞いた事がないです」
私は彼女に声で答えた。
「ここからは、もっと面白くなるわよ、その後鬼と人との混血が進み、もう何も区別がなくなったの」
「鬼の存在は結局村にとけ込んで消えてしまった、という事ですか?」
「いいえ、鬼の存在は半分はちゃんと、残ったそうよ。
 でも村人たちは鬼の持つ力が異端である事を充分に理解して、
 ふもとの人々に崇められ乍らひっそりと暮らしていたの―でも、その残った鬼の血が重要なのよ」

鬼か――ふと、友人が何時か(いつか)話していた話が浮かんだ。
「その鬼というのは、何か実際に起こった出来事が元になっているとか考えられませんか?
 例令(たとえ)ば、有名なのでは漂流異人説とか」

古代の日本で近海で難破した西洋人をあまりの風貌のちがいに『鬼』と呼んでいたなんて話だ。
当時の日本では西洋人の存在などは知られていなかっただろう、
その体格や顔のつくり、肌の色から、赤鬼や青鬼などと、そう呼ばれていたという説だ―確か・・・

「遭難した異人たちが流れ着き、言葉も通じないで鬼と呼ばれ排斥を受け、山に逃げ込む、
 彼らも生きるために山賊化して村々を襲撃して食料を奪ったとか・・・」
「確かに、実際に漂流異人説を唱える人はいるわ、でも実際にはどうだったのかは誰にもわからない
 山賊化した異人たちか、本当に地の底からやって来た鬼たちだったのか―ね」

鷹野三四は何故か少し嬉しそうに答えた―私は彼女に何故か親近感(好意?)を感じた。

555:名無しのオプ
09/10/11 00:28:13 R3AFmaLb

「さて、いよいよ、ここから面白くなっていくの―」
鷹野三四は語り出した。

「―村人たちに半分、鬼の血が流れているのは話したわね、実はその血なんだけど、
 鬼は鬼でも『人食い鬼』の血なんだ、って云われているの。
 その血は今でも村人たちに脈々と受け継がれていてね、―時折、目を覚ますらしいの」
彼女の言葉は、人と鬼の共存の美談を生々しく変えていく。
「鬼の血をひく者たちはね、周期的に『狩猟者』としての本能が目覚めて、
 獲物を求めて人里に姿を現すの、そうしてその際に行われるのが『鬼隠し』なの」
彼女の声は、女性としては若干低く、優しく、響く。
「『鬼隠し』はね、人としての理性を失って文字通り鬼と化した村人たちが大挙して、
 彼らが穢れた俗世と忌み嫌う村々に襲いかかって、まるで狩りをするように人を攫う(さらう)の」
彼女の唇は、妖艶に、淀むことなく動き続ける。
「しかもね、その『鬼隠し』はオヤシロ様も了承していたそうなの、
 『鬼隠し』は無差別でなくて、神様が認めた生贄以外には誰もさらわなかったそうよ」
彼女の瞳は、角灯の光の中で静かに揺れる。
「そうして生贄を攫ってきた夜にはね―『綿流し』の儀式が開かれたというわ」
彼女の息は、壁にふんわりと形を創る。


私は何かがこみ上げてくる気がした。


556:名無しのオプ
09/10/11 00:30:26 R3AFmaLb
「た、確か今日のお祭りも『綿流し』って云うんじゃ――」
「関口さん、ワタって云いません?―臓物(ぞうもつ)の事」
鷹野三四が聞いてくる。
「ワタ・・・そう云えば魚のワタとか・・・・『腸流し』・・・」
自分の声から連想されるものを、ここまでおぞましく感じた事はなかった。
「そう、関口さんが想像しているとおり、『わた』というのは腑(はらわた)の事なの―
 今でこそ綿流しは毎年6月に行われる、少し早い夏祭りに過ぎないけど、昔は違った―
 それは、祭囃子で賑わうものではなく、もっと違う身が凍るような、凄惨な宴だった―」

彼女はそう云うと、私の方へ1歩近づいた。

「今日行われた奉納演舞は見ましたか?」
鷹野三四が尋ねてくる。
「・・・少しだけ・・・さわりだけは・・」
「そう―じゃあ、あの奉納演舞が何を意味しているのかわかってくるでしょ?
 古手梨花―少女が持っていた祭事用の鍬(くわ)―あれは田畑を耕す鍬ではなくて―
 あの後、あの鍬で祭壇の蒲団からワタを取り出すの、そうしてそのワタを一人ずつ沢に流すの」

彼女は頬笑むと、私の方へ1歩近づいた。

「これで、ここ祭具殿の中にどういうものがあるのか、わかってきたかしら?」
鷹野三四が問う。

「人ってね、上手にやれば結構殺さずに済むものらしいの」

彼女は私の耳元で囁いた。


私は何かがこみ上げてくるのを感じた。


557:名無しのオプ
09/10/11 00:35:37 R3AFmaLb
知らぬが仏と云う言葉がある。この世には知らない方がいい事もあるという意味だ。
さっきまで大工や鍛冶屋の作業場のように見えたこの祭具殿も一つの情報で色が変わった。
これは、この祭具たちは、日常生活で目にする物ではない。ある目的のために造られた物だ。
壁に立てかけられた明らかに人型と見える匤(はこ)、天井に吊されている鉄格子の様な檻、
中にはどうしても用途が理解できない怪しげな物もあった―自分が理解できない物は畏怖になる。

鷹野三四は一つだけの灯りである角灯(ランタン)を持って、壁沿いに先導していく。
時折嬉しそうに解説を交えながら、嬉々としている。

私は先ほど彼女に親近感を感じた理由が理解できた。
―彼女も狂っているのだ。

―さて、これで軽く1週できたかしら、彼女はそう云うと、私を向き。
「これで関口さんも何となく信じてもらえた?この雛見沢に伝えられる、恐ろしい儀式の数々が」
こうして実物を見せられては否定する事はできなかった。

―どん、どん
その時何処か遠くの板の間で子供が跳ねているような音がした。
けれども、彼女は気に留めなかった。

「で・でも、それは中世の魔女狩りのように大昔の出来事だと思いますが・・」

彼女は再び顔を寄せ、私の耳元に囁いた。
「関口さん、私はその風習が現代でも残っているんじゃないかと思っているの」
彼女は私の近くで嗤って、云った。
「でもね、これは絶対に内緒にしていてね、知られたら私、オヤシロ様の祟りにあうか―
 生贄にされちゃうかもしれないから―そう云えば今夜、オヤシロ様の祟りがあるの―」
彼女は嬉しそうだった。


私は何かがこみ上げてくるのがわかった。


558:名無しのオプ
09/10/11 00:52:59 LKX00KeQ
乙!
やっぱ関口視点は鬱々としてんなw

559:名無しのオプ
09/10/11 01:46:19 R3AFmaLb

そして、彼女は手帳からある切り抜きを取り出し、私に見せた。
それは古い、新聞記事だった。
「これはね、実際にあったお話よ、明治の終わり頃にね。
 鬼ヶ淵、もう気づいているだろうけどこれは雛見沢の旧名ね。
 その鬼ヶ淵村でね、身元不明の惨殺死体が発見されたんですって。
 当時の警察の資料がほとんど残ってないそうだから、
 口伝(くでん)と記憶によるものだけどね。これが当時の新聞の切り抜きなの」

『――カクモ無惨且ツ残虐非道ヲ尽クサレタ遺体ハ嘗テ無ク―鬼ノ仕業カ』

「どういう事かわかるかしら?」
「・・猟奇的な事件が明治に入っても起こっていたっていう事ですか?・・」
「そう―1説には明治は元より昭和の始め頃まで、その因習は残っていたとも云われてるわ」

―どん、どん

再び、何処か遠くの板の間で子供が跳ねているような音がした。
矢張り、彼女は気に留めなかった。

「で・・でも、め・明治だってそうとう昔の話ですよ・・・」
私の声は上擦っている。

―ぎぃいいいいい

その時、いきなり扉が開き、富竹が顔を見せた。


私は何かがこみ上げてきた。


560:名無しのオプ
09/10/11 01:49:43 R3AFmaLb

「あっはっは、驚かせちゃったかな?」
「あら、ジロウさんも見たくて我慢できなくなったかしら?」
「僕は遠慮させてもらうよ。―あははは―生来ね、こういうのは苦手なんだ」
男のくせに、とでも云いたいのか、鷹野三四は押し殺した声でお腹を抱えて笑った。

「それより、演舞と祭典(セレモニー)が終わって、みんな沢の方に降りていったよ。
 後何分もしないでお祭りは終わっちゃう」
「あら、いけない、関口さんがあまりにも聞き上手だから、また話しすぎたわ。
 ジロウさんは表で待っていてくれるかしら、私はちょっと写真を撮るわね。
 本当はいくつか道具を持って帰りたいんだけど、流石(さすが)にそれは無理そうだから」
鷹野三四はそう云うとカメラを取り出し、写真を嬉しそうに撮り始めた。

私は鷹野三四を残して、祭具殿から出た。

「どうだい、面白かったかい?」
「・・・・・・・・」
「あっはっはっは!!」
富竹は私の顔を見て痛快に笑い転げた。

「鷹野さんは大人しく見ていたかな?ほら、彼女、子供っぽい所があるだろう?
 宝の山を前に、さぞや興奮してたんじゃないかな。特に何か持ち出したり、触って壊したりし―」
「・・・・・・・・」
富竹は喋っていたが、私は何も答えられずに藪の方へ向かった。


そして―



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