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吉行淳之介「出口・廃墟の眺め」(講談社文庫)
文学的な評価は分かりませんので、専ら「奇妙な味」として読んだ感想。主に1960年代の短編を収録。
表題作の一つ「出口」は、どことも知れない町で見張りの男と暮らす主人公がウナギ屋に行く。だが
その店は固く鎖されており、出前しか応じないという。また店の主人は妹と近親相姦の噂が。主人公は
或る旅館に行って、そこからウナギの出前を頼むのだが・・・。説明し難いのですが、何ともイヤーな
気分になり、その後の惨劇すら予想される話。そもそも「見張りの男」という存在が、何かカフカっぽく
て薄気味悪い。傑作中の傑作。
「皿の苺」は総入れ歯同士のカップルが、苺の粒が歯茎と入れ歯の間に挟まるという話をするうち、ホテル
に行って入れ歯を外して・・・。これまたエロティックでありながら、何とも気味の悪い話。
「手品師」は手品師志望の青年が恋人の前で水槽から脱出する奇術に挑むが・・・。
傑作「子供の領分」も、谷崎潤一郎の名作「小さな王国」ほどではないが、子供の不気味さを上手く描いて
います。
「雙生」は、夫が朝寝していると、隣の部屋から妻とその双生児の妹が歌う声が聞こえてくる・・・。
「埋葬」は病院に入院中の男から女性が子猫を貰うが、男は自殺。その晩、女は・・・。これまたイヤな気分
になる話。
「曲った背中」はヘミングウェイ「殺人者」に言及し、終戦直後の闇市で、あの作品の主人公を連想させる
男と出会う話。その男は空襲で発狂した女のことを話すのだが・・・。
巻末の「廃墟の眺め」は終戦時の満州で起きた話。これは今ひとつ良く分からない話でした。
別のアンソロジーに採られた「追跡者」や「あいびき」で気になっていたが、やはりこの作家は「奇妙な味」
の名手だと思う。