07/06/03 14:48:05 hBypIYhd
新田次郎「蒼氷・神々の岸壁」を読んだ。
俺は、新潮文庫と文春文庫でこの作者の作品集を読み漁った時期
(現在よりも刊行点数が多かった)があるが、
HMCの識者のひとり曰く「新田氏は山上の松本清張である」という評は
まさに言い得て妙である。
4作を収録した本作品集は、表題作は、前者は冨士山頂の気象観測所をメーンな舞台とし、
後者はロッククライマーを主人公とした、いずれもリアルな描写が光る冒険小説として
読める作に仕上がっている。
「疲労凍死」は遭難死を巡る山岳ミステリ、「怪獣」はホラータッチの作である。
いずれも恋愛絡み(「怪獣」は相当過去のエピであるが)、この点が俺の新田文学渉猟期と
でも称すべき時期に本作品集をオミットし、今日まで未読であった因である。
ストイックに徹した「強力伝」(直木賞受賞作)から新田作品に親しんだ者としては、
山岳小説に下界の俗、かつ、甘過ぎる要素を物語のメーンに持ち込んで欲しくないと
いう個人的気分が強いのである。