06/10/31 01:12:06 Eh1feTkd
「かつてここは・・・モナギコ蜘蛛の会という、日頃肩身の狭いミステリマニアたちの聖地だった」
『名探偵』はステッキを突くと、辺りを見回ししゃがれた声で云った。
「聖地?―ここが?」
『ワトソン役』は信じられない、と云った貌をする。
荒涼とした廃墟だった。
かつては荘厳な屋敷であったであろうそこは、今やトリッキーかつくだらない
技巧を凝らした数々の部屋も、床に染みつくあり得ないダイイングメッセージも、
天井に付いたみかん汁の染みさえも色あせ、朽ちていた。
そして累々と積み重なる、白骨死体の山。
「なぜ、ここはこんなに荒れてしまったのです?」
『ワトソン役』は『名探偵』の小さな背中に尋ねる。
「なァに・・・『スレを殺すにゃ刃物はいらぬ、荒らしが一人あればよい』とな。
ありがちな話、夏休みだ」
『名探偵』はパイプの灰を足下に落とし、寒そうにインヴァネスコートの袖をたぐった。