05/09/21 17:01:20 a2VToLhs
「無駄って」
言葉に詰まる佐藤に、日明は肩に掛けていた黒革の地味なショルダー・バッグの中に手を入れると、素早く
何かを取り出し、佐藤の鼻面へとそれを向けた。
佐藤が目前にしたのは、どこまでも黒い穴、銃口だった。
「た、たちもりさん、これって、偽物ですよね? 新堂君や古処君じゃあるまいし」
「試してみましょうか?」
狙いを窓の外に向けた日明は、躊躇なく引き金を引いた。校庭の鉄棒のうしろに植えられた銀杏の太い枝が、
弾けた音のあと、ばさりと落ちた。同時に佐藤もどすんと音を立てて廊下にへたり込んでいた。
「立場上、簡単に撃てない古処君や、不法所持だから撃てるはずもない新堂君と違って、私はちゃんと許可
を持っているから」
日明は銃をバッグに納めると、替わりに取り出したものを座り込んでいる佐藤の鼻先につきつけた。
「公務員友の会認定証?」
その存在は佐藤も噂には聞いていた。公務員のイメージアップにつながる活動をしているものに与えられる
認定証で、それを得たものは色々なメリットがあるという。だが佐藤はあくまでそれをピーポ君のマスコッ
トを下げていれば、取り締まりを見逃してくれると同じレベルのデマだと信じていた。
再び鳴った携帯に「失礼」といちおう佐藤に断りを入れてから日明は耳に当てた。
「本当にご心配なく。まぁ、SATの皆さんまでご手配いただきましたの? あいすみません。それではご免
下さいませ」にこやかにそう言って通話を終えた日明は、「佐藤君、あなた、何を人に言うべきか、言わ
ないべきかも判らないほど愚か者ではないわよ」と言い残すと、廊下に座り込んだ佐藤には目もくれず、
背を向け、その場から立ち去った。