05/09/21 16:20:48 a2VToLhs
「女だ、女なら楽勝だ! 真梨・辻村・日明・高里。この四人なら充分いける!
特に婆二人なら体力もなさそうだし、若い二人なら以外とムフフフ」
脳内で相手の外見を勝手に補正してしまうのは、作家としての不幸な習性だった。
「まずは真梨だ」佐藤は生物化学の実習室に向かった。
放課後になると以前は高田一人の場だった生物・科学の実習室に、入校以来、真梨も入り浸っている。
いっときは「二人は怪しいのでは?」という噂も流れたりしたものだが、高田が救急病院に担ぎ込まれ、
その搬送中に「俺だから助かった」と言ったことから、その噂は消滅した。
ドアにはめ込まれたガラスから中を覗くと、確かに真梨がいた。
「よーし、これならチョロイ! 一人ゲットォォォ!」
腹の中でそう叫ぶと同時に、佐藤はドアに手を掛けようとしたそのときだ。
「開けられるものなら、開けてご覧なさい」
中から響いてきた真梨の声が、佐藤の手を止めた。
鍵でも掛けたというのだろうか? でも所詮は学校のドア。開けることは容易い。
佐藤は再びドアに手を伸ばした。あとわずかで手が触れるというところに来て、
その手を止めたのは、やはり真梨の声だった。
「開けられる、じゃないわね。触れるものなら、触ってごらんなさい、の間違いね」
佐藤は大きく一歩、ドアから飛び退いていた。頭に過ぎったのは、救急車に運び込
まれる担架の上、の顔と言わず手と言わず、紫の発疹が散っていた高田の姿だった。
「あら、残念。色白の佐藤クンには紫の発疹はきっと似合ったでしょうに」
急に近くなった声に驚いて顔を上げた佐藤が見たのは、いつの間にかドアの前まで
来ていたガラス一杯に広がる真梨の丸い顔だった。
ひいいいいっ!と、情けない悲鳴を上げながら、佐藤は全速力でその場から逃げた。