10/02/10 23:35:11 9AeijMeg
<お茶が運ばれてくるまでに ~A Book At Cafe~ 時雨沢恵一>
始めにことわっておくが、本作品は掌編集である。
小説というより絵本っぽいと作者自身どこかで言ってたような気もするが、
そもそも「自分の作品は小説というより云々」というのはラノベ作家の常套句だから
あまり参考にならない。謙遜で言ってるのかもしれない。あるいは本気で言ったのかもしれない。
どちらにせよはっきり言えるのはこの作品、確かに小説というよりは絵本に近いという事である。どっちかと言えば。
しかしこれ読んでキャッキャッ言ってるちびっ子の姿は想像し難いと思われる。というかいたら怖い。
では、たまにあるオシャレっぽい大人向け絵本みたいな奴か! と身構えた方、どうか安心してほしい。
作者に絵本と言わしめるだけあって、本書は全頁に挿絵がついている。
黒星紅白氏が水彩で殴り書……流れるような筆致で描いたメルヘンチックな(なぜか)猫耳のついた
愛くるしいキャラクターは、大の大人が人前で読むのにちゃんと勇気を必要とさせてくれる。
なお、本作品のコンセプトはタイトル通り「注文したお茶が運ばれてくるまでに読める16のお話」であり、
てっきり一作一作がその位の長さなのだとばかり思っていたら、1冊読み終えるのに大体十分弱ぐらいだった。
読み易さが身上のライトノベルでも、この早さは随一といえるだろう。
同じ本を何度も読み返したいけど、忙しい! そんなタイプの読者にはこの本をお勧めする。
時雨沢氏独特の平易な文章で、平易な正論が平易に展開され、平易に終わっていく。何の話だか解らない内に終わるものもある。
一般文芸にも切り込もうと「電撃のメディアワークス」が自社の名を冠して旗揚げした新レーベル、メディアワークス文庫。
その第一弾を飾るにふさわしい、実験的なのに口あたりの良い作品である。
油断すると味わう暇もなく口の中で溶けてしまうので、御拝読の際は重々注意されたし。