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とある魔術の禁書目録 著:鎌池和馬 絵:灰村キオスク
この作品を一言で言うなら、読者のための文章、ということだろう。
主人公の設定は非常にシンプルかつ最強で、若年層の共感を呼びおこしてやまない。
彼の持つ能力は幻想殺し、その名の通り全ての超常現象を殺すことができる。
本作に出てくる敵は全て、超能力者か魔術使いである。ビバ主人公。彼に敵などいない。
だがそれでは展開に起伏が無くつまらない話になってしまう。そこで作者は、主人公の
身体能力を大幅に下げることにより、その問題を解決した。つまりオカルトは消せるが、
リアリティ溢れる暴力には弱いということである。この事により、オカルト現象に対して
最強っぷりを発揮して読者の自尊心を満足させつつ、分かりやすい暴力に傷つく主人公を
通して、読者に、何度でも立ち上がることの大事さを教えているのである。
もちろんこの物語はバトルだけで構成されているわけではない。
ライトノベルにおいて最も重要とされるヒロインにも、作者はその深謀遠慮を用いている。
要は昔のヒロインなどに拘らないのである。読者に新鮮な「萌え」を提供するためには、
メインヒロインを部屋の片隅に追いやることすら躊躇しない。
もっとも入れ替えるだけではなく、人気のあるヒロインには多く出番を設けるという、
とてもバランス感覚に優れた采配がされている。そのおかげで、読者は特に興味のない
キャラクターに時間を費やされることなく、充実した読書時間を過ごせるのだ。
とはいえ深謀遠慮は時として堅苦しさを生むことがある。
だがこの作品に、そういった堅苦しさを感じることはない。
設定そのものがとても柔軟にできていて、読者一人一人の精神にフィットするからである。
またその柔軟さが、作品の垣根を越えた感想さえも、読者に書かせる。
これだけの大作はそうお目にかかれるものではないだろう。
そこで作者は、なるべく多くの時間読者がこの「とある魔術の禁書目録」の世界に
浸れるよう、とても話の進みを緩やかにしている。そのおかげで、読者は長い間楽しめ、
そしてまた、作者も丁寧に世界観を書け、両者共に万々歳というわけである。
「読者のための文章」。この書を手に取った方は、そのあまりの思いやりに感動するであろう。