08/01/18 20:19:49 lJ0Jclji
>>315と>>316をみて
吾輩は馬である。名前はまだない。
どこで生まれたかとんと見当がつかぬ。何でも薄暗い干草に囲まれた所でヒンヒンと泣いて立ち上がろうとしていたことだけは覚えている。
馬といふものは元来仲間と共に自由に草原を走り回る種族であるからして、生まれた場所などを覚えているほど執着がないのであるからして時に気に病んだりはしていない。
幼少の砌には世間のことをとんと知りもせずただ母馬の後を追って天真爛漫に遊んでいた。
この頃の吾輩にとっては人間と言う種族は飯の干草や人参を運んでくるある種の従者でしかなかったが、それが長ずるにつれ吾輩に仕事を押し付けてくるのは不届き千万といふものであろう。
しかし吾輩もただ飯を貰い体を拭かせてやるだけでは馬の道に悖るといふもの、渋々ながらも人を乗せ、荷車を牽いてやっている次第である。
今吾輩に仕事を押し付けてくる人間はロレンスとかいふ名の雄である。
こやつとの出会いは人間どもが大勢集まってなにやら騒ぎ立てるとても五月蝿い場所であったのだが、初見の印象ではなんとも頼りなさそうな雄だと思ったものだ。
吾輩自慢の後足で蹴り上げれば簡単に折れてしまいそうな体であったのがその印象の原因であったのだが、
実はこやつは人間の中でも特に極悪非道な商人といふ種の人間であるらしい。
なんでも商人の中には吾輩たちに仕事を押し付けるだけ押し付けて、碌に飯も休憩も与えず使い潰してしまうという輩もいるらしく、
そのような商人に一度世話を任せれば長くは生きられないといふ話である。
しかしロレンスは飯も十分に与えてくれるし、体だって割りと頻繁に拭いてくれるので、商人の中でも幾分マシな方なのであらう。
敢へて文句をいふとすれば休憩の回数が短いといふぐらいである。