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サージャント・グリズリー (ファミ通文庫) 著:彩峰 優
―次のドラマは「熊女あづさゆみ」で決まりだな。
問答無用で頷いてしまう、そう、これこそは流行のハイエンド。
本書は「美形の覆面レスラー」「首なしの美女」などで有名な一連のジョークに
インスピレーションを受けたのか、「クマの着ぐるみを纏った美少女転校生」
をテーマに、読者の常識を破壊するダダイズムに満ちたストーリーを紡ぎ出す。
哲学的な問いの一つとして「誰もいない山奥で木が倒れたとき、音は鳴ったのか?」がある。
常識に縛られた人々は「誰も聞いてなくたって音は鳴っただろ」と白けた顔で答えるだろう。
そこに、作者は隙を見出した。鋭い筆先は容赦ない舌鋒となって読者の認識を襲う。
「ならよ、美少女がクマの格好して生鮭にかぶりついたって、そいつは美少女なんだよなぁ?
たとえ主人公がその顔を見ていなくたって、無人の山奥で倒れる木の音くらいには確実なわけだ」
類希な、というより、彼岸を見詰めているとしか思えない眼差しが作品の根底を支えている。
単に「シュールだ」「意味不明」で片付けるのは、見識が浅いと言わざるをえない。
情報と知識に飽和し、精神的な肥満児に陥った現代人を苛酷なシェイプアップの道へと誘う、
これは真正のフィロソフィー。「知の化け物」として君臨するからこそ、峻険な山岳にも似て安易な理解を阻む。
さあ、知のアルピニストたる読者たちよ、怯むことはない。
もし君たちが足を踏み出し、道半ばで果てたとしても、後続の者たちが遺志を継ぐ。
そしていつか、誰かが遙か高みへと辿り着くはずだ。私でも君でもない、きっと誰かが……