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『いま、殺りにゆきます』 著:平山夢明
〈 『このミス』第1位作家が送るホラー小説の金字塔 〉
この本の帯に書かれたアオリ文句であるが、この帯からホラー小説やミステリー小説を期待
するのは間違いだ。この帯には大きな嘘がある。それは「小説」という部分であり、この本は
すでに小説などという枠を超えている。そこにあるのはただ純粋なホラー、あるいは大きなミ
ステリーそのものだ。
例えばこの帯からしてすでに、ひとつの脅威が掲示されている。先ほどの文言の上に輝く「
実話恐怖短編集」の文字。だが帯の背を見ると、そこには「リアル都市伝説」とある。実話な
のか都市伝説なのかいったいどっちなんだ、と思った時点で、すでにこの本はレジを通過して
いることであろう。言うなれば、この本の存在そのものがミステリーなのだ。
そしてひとたびページをめくれば、そこにはさらなるミステリーとホラーが待ち受ける。伝
聞の形で語られる、身も凍るようなエピソードの数々。しかし実話という文句は飾りではない、
そこには起承転結どころかヤマもオチもイミも存在しない。その無味乾燥さはまさしくリアル
の一言に尽きる。一見簡潔に見えるがしかし大胆なその独特の文章も、独特なホラーを感じさ
せてくれること請け合いだ。一行で一段が完結しており、なおかつそればかりが連続している
のは、読みやすさを考慮した見事なテクニックといえるだろう。
簡潔なのは文章だけではない。エピソードもだいたい似通っており、読者がスムースに内容
を理解できるようになっている。物語の肝であるグロテスクな描写などでは、その動作が複雑
なためか一体なにがどうなっているのかさっぱり読み取れないことが多い。しかしそんな場面
でも、なんかだいたい怖いらしいというのが伝わるのだからその技法は天才的としか言いよう
がない。なにより目を見張るのは叫び声や笑い声の表現だ。「ぐがぁ、ひぃぃぃぃ」「ひぇひぇ」
……一読しただけではまるで想像のできないその「リアル」は、人間の持つ計り知れない恐ろ
しさを如実に書き表している。