07/08/10 17:32:40 EeEJDc7H
「ギャ!グッワ!待ってくれ!待ってくれ!」
オヤジは、叫んだ。
彼の頭蓋に張り付いたその惨めで穢らわしい顔肉が、それと対蹠的な天離る月の清澄な光を受けて歪んでいる。
「許してくれよ!入れたかっただけなんだから」
「バキッ!ボコッ!」
ケンはかまわず殴り続ける。中断することなく、あるいは断続的に。
醜いものへの力の行使が、愚かなる者への制裁が、彼に与えられた一つの天命であるかのように。
「ヒッー!助けてー!助けてー!」
オヤジが悲鳴に近い叫び声をあげた。その声は醜く不細工で、虐げられた憐れな餓鬼か、死を前に生を渇望する獣達のそれを連想させた。
「お前みたいな奴がいるからいけないんだ!」
ケンが叫びながら殴り続ける。その偏執は、その過剰な偏執さは、人工の暴力の不自然さの象徴であろうか。
「ギャー」
オヤジの血があたりに飛び散った。ケンのコブシも血で染まっている。
飛沫は街頭の下に星空の反転の様にも見える。
「世の中!狂ってんだよ!狂ってんだよ!」
ケンの形相は、もうフツウではなかった。その様子を見ていた、ミクも従業員も言葉を失ってしまっていた。
理性の箍から脱した、しかし自然のそれとも異なる、誤謬に満ちた行為を前にして、言葉が何の意義を持とう。
思わずミクが言った。
「店長!それ以上やったら死んじゃう!」
「ガッシ!ボカ!」