ヘイドレクの物語3at BUN
ヘイドレクの物語3 - 暇つぶし2ch1:名無し物書き@推敲中?
10/03/29 03:48:14
「あなたを主人公にした作品を書くわ…」
女はそう言うと、権田の逞しい腕の中で目を閉じた。
権田もまた、女のか細い身体を抱きしめ、その長く美しい黒髪の中に顔を埋める。
つややかな髪の中より薫り立つ、控えめな女の匂い…その新鮮さに、思わず権田も言葉を失う。

「私が権田さんを独り占めにできないことはわかってる。でもね…」
女は言葉を続ける。権田の腕の中で、目を閉じたまま。甘い囁き声で。

権田もまた無言だった。いや、言うべき言葉を見つけることができなかったのだ。
欲に塗れ、俗に染まり、それでもなお突き進む権田俊行。
だが、彼はここで生まれて初めてと言ってよい、本当の恋を知ってしまったのだ。

「でもね、権田さん。私はあなたの魂を受け止めることが出来るの。その生き様を…」
窓から優しい春風がたなびく。その生暖かい感触が頬を伝うのを感じた。
それは今まで感じたことの無い、本当の雅だった。権田が今日まで一度も感じたことの無い、美しい夢幻の調べ。

「だからね、権田さん。私はあなたのその魂の姿を、紙の中に封じてしまうの。そうやって私はあなたを手に入れる…」
それは真実の愛の告白だった。女の閉じられた目から真珠のような優しい涙がこぼれるのが見える。
決して結ばれてはいけない、別の世界の男と女。しかし、愛はそうした禁忌すら、飛び越えてしまう。

権田の頬にも涙が伝った。美しい月の夜、赤き月と青き月に照らされた、深い紫色の夜。
その幻想的な紫の如く、その女は美しかった。力強い権田の腕の中で崩れてしまいそうな朧。
十二単衣の重さの中で、まるで霞であるかのように、その実体は儚かった。

権田はその女、紫式部の細い顎の先に指を添えた。目を閉じたまま紫式部は権田の方を向く。
閉じられた目元は潤み、涙の流れたその跡が、月明かりを浴びて鈍く輝いている。
整った面立ちはあくまでも涼やか。だが、その表情の奥に、どんな男でも敵わないほどの激しい情熱があった。
狂おしいまでの激情が。それはしとやかで知的なこの女の中に眠る修羅だ。


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