09/06/29 17:55:59
お題「五線譜」「クレープ」「初恋」
小学生の時分、唄の発表会が嫌で嫌で仕方がなかった。
私は根っからの音痴で、ひとたび歌い始めると、必ず誰かを不快にさせた。
そんなわけで私は、音楽の授業が大嫌いになった。ことごとくボイコットした。
そっちが嫌いなら、こっちも嫌いになってやる理論だ。
「てなカンジに幼少期を過ごしてきたので、五線譜が読めません」
「…………(一同唖然)」
以上が軽音部に入部した時の、私の宣言だった。
……矛盾している。それは分かっている。
分かっているけれど、私の恋心は、私の理論を捻じ曲げた。
初恋だった。しかも一目惚れ。
その日から、私の心は、私の歌声のように、どこかおかしな転調を繰り返し始めた。
フラれる時が来る、その日まで。
「分かってたんです。でも、言わずに居られなかったんです」
「…………」
何もかも分かっているから、やる気が失せる。
そんな風に人間ができていたら、さぞ便利だろうに、と思う。
でも、とも思う。そうじゃないから、私は、告白したのだ。
あの告白は、初恋の彼を不快にさせただろうか?
夕暮れの河川敷を、クレープ片手にトボトボ歩きながら、ちょっとだけ歌ってみる。
五線譜が読めるようになっても、私の歌声は、相変わらず調子っぱずれで
誰かを不快にさせてしまうに違いない。
それが、何だか本当に可笑しくなって、私は大声で歌いながら帰り道を歩いた。
遠くで罵声が一つ聞こえる。それもまた可笑しくて、ひとしきり笑ってから、ようやく涙が少しこぼれた。
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