09/05/25 23:48:25
落語 食券 ミニスカート
「なあ知ってるか」
大男は自慢げに鼻を鳴らし、語りだした。
「何をです? やぶからぼうに」
もう一方の問いを発したのは大男の反対に背の低い男である。
二人の男は食堂の配膳台に続く行列に並び、暇を持て余していた。二人の男の前には二十人、後ろには十数人。男らは列のおよそ中盤に居た。
二人の行列の他に、二つの行列がある。列はいずれもそれぞれのカウンターに向かって長く続いていた。カウンターで
注文を受け付ける食堂にはお馴染みの風景であった。二人は真ん中の行列に居り、それはちょうど配膳を待つ人々の中心という位置であった。
「蕎麦だよ蕎麦。おれは蕎麦も酒も好きだからね。どっちも頼んじゃうぜ。」
「うん。はあ。そりゃあ、良かったですね」
大男は妙に目を輝かせていったが、対する小男は困ったように生返事を返す。大男の意図がわからない、といったふうである。
「何だ詰まらん、風流のわからんやつめ。落語の師匠に居たろうよ、蕎麦に酒をかけて食うやつが」
「ああ、すいませんね」
心底面白くなさそうに大男が言うと、小男の方でも詰まらなそうに溜め息と恨みがましげな視線を送った。
「ああ、全く詰まらんよお前はよ。いけないね、物欲や性欲ばかり旺盛な若者はよ。お前なぞは落語よかあすこの姉ちゃんでも見ていやがれ」
反応の薄い小男を煩ってか無闇に饒舌になった大男のしゃくった顎の先に、すらりと長い脚を見せるミニスカートの女性が居た。
つられて小男が女性を見ると、初めにちらりと見ただけの大男も、何か想うところがあるのか再び目を向けるや否や今度は穴を空けんばかりの視線で女性を観察しだした。
しばらくかけて大男は女性の全身を舐めまわすように堪能したと思えば、先の諍いはどこへやらすっかり気を良くして、いつの間にか目前に迫っていたカウンターを対し財布を開くと五千円札を一枚指に挟み、大仰にこう言う。
「詰まらんお前には奢ってやるぜ。おばちゃん、ざるそば四枚に日本酒二本ね。日本なだ……」
「お願いします」
小男は大男を遮るように動くと、カウンターの向こうに食券を手渡し「先輩ここ食券ですよ」と言って予め作られていたカツ丼を受け取りさっさとその場を去った。
251:名無し物書き@推敲中?
09/05/25 23:50:34
アッレー被ってた。リログしたのになあ。
すんません。
252:水 見ず 診ず
09/05/27 12:29:52
看護婦に呼ばれた大柄な患者が診察室のドアを開ける。
真っ赤なマイクロミニに黄色いブラウスの上から黒いブラが透けている。
職業は水商売だと全身が物語っていた。
「どうされました?」医師は患者の顔を見ずに聞いた。
「風邪だと思うんですけどー?熱っぽくてー、喉が痛いのー」
「血液、検査しますか?」医師は患者の言葉をさえぎるように言った。
「お願いします。でもどうして?」患者はまるで女性の様にしおらしく答えた。
「医者ですから」と答えた医師は師の言葉を思い出していた。
病気を診ずして病人を診よ。
次は 埃 歴史 純情
253:埃 歴史 純情 ◆2NJvO35T.o
09/05/27 23:37:20
埃 歴史 純情 /なつかしい ほろにがい 甘い 昔 残る 乾燥
新しい 痛い 未来 消える 湿潤
緑の木々と艶のある草が生い茂る中をひたすら歩いて行った。
耳を澄ますと巨大な金属と金属がぶつかり合うような音が時計の秒針ぐらいの速さで響いてきた。
その音は次第に大きくなって行った。
視界が開けた。巨大な井戸のようなところから何かが汲み出され続けていた。
その横には町のような小さな集落があった。
集落の真ん中に向かってゆくと、向こうからハーレーに乗った若い女が近づいてくる。
ノーヘル、金髪のロングヘアー、ワキガと香水の混じった強烈なにおい、黒のタンクトップに迷彩柄のパンツ
女を見たのは何ヶ月振りか。
おれは見とれてしまった。触覚以外の全ての感覚が彼女に支配された。
すれ違う一瞬、その女は外見に似合わぬほどの純情な瞳でおれを見た。
やられた。
その瞬間、おれの荷物は彼女にひったくられた。
彼女のハーレーは土埃をあげてのんびりと、しかし人間の足では到底及ばないスピードで去って行った。
なんということだ。おれは村の新しい歴史を、唯一の望みを村人達に託されてやっとここまで来たというのに。
254:名無し物書き@推敲中?
09/05/27 23:41:50
次のお題
興奮 絶頂 放出
255:埃 歴史 純情
09/05/28 00:05:11
殺風景な部屋であった。
まず目に映ったのは勉強机。それから空の本棚。箪笥。それだけだった。そして勉強机にも
う一度目を向けると、一つの写真立てがあるのに気が付いた。
大きさは手のひらに乗る程度であり、半楕円形から、写真を切り取って嵌める類のものだと
推測出来た。人を写したものであろうか。手に取ると酷く埃が積もっている。埃が写真に蓋を
して居り、ちょっと何の写真だろうか判別がつきそうになかった。
太郎は写真立てを戻そうとしたとき、おやと奇妙な感じを覚えた。なんだろうと写真立てを
持っていた指を見ると、埃が付着していない。次いで机と、部屋を見渡して見るが、特に埃は
見られなかった。埃のあるのは写真立ての、しかも写真の部分だけであった。
太郎は不信に思い写真を指でなぞってみると、埃にしては驚くべき質感があった。積もると
いうよりはこびりついているといった方がより正確であろうか。一撫ででは拭いきれず、二三
と続ける内に、太郎は遂に爪を立てて擦らなければならぬことを悟った。埃がこの姿を成すの
に、一体どれほどの年月費やしたのだろう。太郎は途端に埃と、この写真が尊いものに見えて
きた。
しかし太郎は爪を立て、その尊い誇りを削り始めた。太郎に戸惑いはなかった。太郎にはそ
れが何故だろうか今生において最大の仕事のように思えた。果たして太郎はその仕事をいとも
簡単にやり遂げた。
太郎はその写真を見た。不意に太郎は胸の詰まる思いがした。胸を満たしたのは深い安堵と
後悔であった。太郎の厚い胸板が大きく上下する。間も無くその荒い呼吸に嗚咽が混じり始め
た。しかしそれだけであった。
写っていたのは、幼き時代の己の姿であったのだ。幼い己は小さな顔を不細工に歪ませうず
くまっていた。それは怒っている顔のように見えたが、その頬は確かに濡れていた。
埃には歴史があった。それは純情の歴史であった。太郎は、純情それがため己に触れもせず
去った花子を想った。
太郎は泣き叫ばなかった。泣き叫ぶほど純情になれない、またその資格がないと思ったから
だった。しかし、その頬は、確かに濡れていた。太郎は静かに泣き出した。
次
ハンバーグ 鼻 コシアブラ
256:名無し物書き@推敲中?
09/05/28 00:10:11
またやっちったァァァァァァァァァ!!!
2NJvの人と時間被ってんのかね
257:名無し物書き@推敲中?
09/05/28 00:17:38
連投ごめんなさい。
被った上に図々しくもちょっと修正させてください。
太郎が埃を削るくだりの『戸惑い』ですが『躊躇い』の間違いです。
何でこんなミスしたんだろ。躊躇いて書いたつもりなのにな。
258:名無し物書き@推敲中?
09/05/30 00:03:34
対したミスじゃない
259:興奮 絶頂 放出
09/05/31 09:22:46
第二セクターから第三セクターは、結合と乖離を繰り返すビッグ・トンネルの中間点だ。鼻息を荒くして待ちぼうけていた俺たちは、ゲートの解放と共に一斉にトンネルから放出された。
いまだかつて経験したことのない加速、節々のねじれた神経は次第にほぐれてゆき、振動と共に興奮は高まってゆく。
トンネルの内部を一億の馬が泳ぐ。どれもしなやかに尻尾を振って、俺だけが生き残るというひとつの確信に満ちている。首筋に神の息を感じて絶頂に至る。
背後でトンネルの連結が外されるのを見る。千頭ちかく二度と帰らぬ光の中に吸い込まれていった。桃色の繊毛ひしめく華やかな宮殿に目指すスフィアは燦然と並ぶ。
頭部に携えた唯一の武器「酵素ブレード」でスフィアの半透明の膜を焼き切っていく。
どれにするかなんて迷っていられない、どいつもこいつもビッグ・ファーザーから持たされた僅かばかりのエネルギーを限界まで振り絞り、我先にスフィアに潜り込もうとしていた。
そのとき俺のスフィアは突然強固になり、俺の酵素ブレードをはね返した。
せっかく開けた傷口が見る間にふさがってゆく。怪しく光るスフィアの中に包まれたひとりの男が、羊毛の草原にうずくまった俺を見ながら意地汚く笑っていた。
息が苦しい、腕のメーターを見るとエネルギー残量は既に危険レベルだ。万事休すかと思われた時、繊毛に守られたちっぽけなスフィアが俺に微笑みかけてきた。
俺は戦場に散らばる数千の死骸の中を這い、もたれかかるように膜に酵素ブレードを深く突き立てた。
間一髪、ようやくスフィアの中に乗り込んだ俺は、それから半年近くも気を失っていた。
そして今はこうして保健体育の教師をしている。あの時の出来事を話せるのがまるで奇跡のようだ。
260:名無し物書き@推敲中?
09/05/31 09:24:54
次は
野菜 馬 祭り
261:ハンバーグ・鼻・コシアブラ
09/05/31 15:46:48
「ねぇお兄ちゃん、コシアブラって、何?」
「・・・簡単に言えば山菜だ」
自室の机に向かう少年と、テーブルで雑誌を読む妹。
6畳の部屋には、既に夕日の色もない。
聞こえる音は、カリカリ・・・ペラ・・・「へぇ~」
妹の感嘆する声を聞き流し、兄は受験勉強に勤しむ。
「ね、ね? なんだかさ、ハンバーグ食べたくない?」
「どうしたら野菜類から肉類に繋がる。・・・その雑誌か?」
「そゆこと。ヘルシーハンバーグだって。後でお母さんに言ってみよーっと」
気の無い相槌を返し、兄は参考書に見向く。
静やかな空気の流れる部屋。
トントンと階下から響く足音が聞こえてきた。
『・・・二人ともー、夕ご飯できたわよー』「ハーイ」
妹はシュタッと立ち上がり、颯爽と部屋を出て行った。
兄も、溜め息をしてから開け放たれた扉をくぐる。
鼻に届く匂いは、肉の焼けるジューシーな香り。
そういえば、と兄は思い出す。
妹の雑誌は、リビングから持ってきていたな、と。
262:野菜 馬 祭り ◆2NJvO35T.o
09/05/31 22:43:03
側に置きっぱなしになっていたギター雑誌をパラパラとめくってみた。
「今までのライブで一番エキサイトした時のことを教えてください」
「エキサイト? 俺たちはいつもステージでは全力でエキサイトしてるよ?」
「その中でもとりわけ印象強いものを…」
「うーん、困ったな。ああ、そうだ(笑)。あったよ。それは30年位前かな。まだランディーが生きていた頃だなあ。
当時はステージからいろんなものを観客に投げ込むのがはやっていてね、
俺たちは最初の頃はタマネギとかニンジンなんかの野菜を投げ込んでいたんだが、それがエスカレートして、熟したトマトとか生卵とかを投げるようになり、
あげくの果てには、鶏の生首なんかも投げていたよ(笑)。
で、ある時、鶏の生首を投げた直後に俺は馬の覆面を投げたんだ。
そうしたら、それを本物の馬の生首と勘違いした客が驚きのあまり暴れまくって、危うく観客全員将棋倒しになるところだったよ」
「もう、祭りですね」
「祭りどころじゃない。一種の集団パニックだよ。
それで、その時に会場側からはこっぴどく叱られて、それ以来、ステージからモノを投げるのは一切やめにしたんだ」
次のお題は
カセットテープ 黄色 反射
263:○ ◆2NJvO35T.o
09/06/01 18:54:10
みなさんの感想聞きたいっす。
264:名無し物書き@推敲中?
09/06/01 21:57:25
感想は簡素スレで
簡素スレageカキコでもすればだれか来ると思うよ
265:黄色 反射 カセットテープ
09/06/02 16:25:12
「この黄色いのがそうなんですか」
助手は顕微鏡を覗きながら尋ねた。
「そうだ、長い間解らなかったがようやく謎が解けた」
そう言うと教授はラジカセの再生ボタンを押した。
<<この菌と………を融合させると>>
「スコット博士が実験データを録音していたカセットテープのこの途切れた部分、この部分に当てはまる物質は他の物質と決め込んでいた。だがそうではなく菌自体から抽出培養したものだったのだ。これは昨日の君の言葉からヒントを得たのたがね。」
「凄いですよ!これは学会に、いや世界に衝撃を与えるんじゃないかな。」
「私もそう思う。それともう一つ解った事があるんだが」
「なんです?」
助手はもうその菌に夢中になって顕微鏡から目を離そうともしない。
「人間の思考に非常に強いある作用をもたらすんだ」
「なんですか勿体ぶらないでくださいよ」
助手はなおも顕微鏡を見たまま促した。確かにこの菌には人を虜にする不思議な魅力があった。
「……自分以外の生物に強い殺意を抱くんだ」
助手はハッとして顔を上げた。正面の棚のガラスの扉に反射した教授の姿。その手には怪しげに黄色く光る刃があった。
次「データ」「コード」「モニター」で
266:データ コード モニター ◆2NJvO35T.o
09/06/03 08:31:57
Aデータシステム株式会社で暴力事件が起きた。
3年目社員が上司に対して、とあるシステムのプログラムソースコードの不備を指摘されたことをきっかけとして、逆上したというのが事のてん末だった。
この時、上司が転倒したひょうしにTFT液晶のモニターが破損した。鋭利な刃物となったモニターのスクリーンは上司の左眼球を突き刺したのだった。
一見どこの会社でもありそうなくだらぬ事件ではあるが、この事件が他の類似した事件と異なっていたことが一つあった。
それは、加害者がインターネットの掲示板で、この事件を起こすことを予告していた、という点だ。
267:名無し物書き@推敲中?
09/06/04 00:00:40
データ コード モニター
空調設備だけ見れば快適な空間ではあるものの、窓の無い四畳部屋に軟禁されることのつ
まらなさといったらこの上ない。マッサージチェアにもたれつつこの部屋唯一の動物(但し予
想外に動く物体)に注目し、当然眼球にのみ平生全身体を動かすべく蓄えられたエネルギーや
ら何やらを動員するので、視神経に集中されたる疲労といえば眼を押し込んでもこめかみを
叩いても到底解消されるものではない。今もぼくは左のゆび先でこめかみをトントン叩きな
がらぬるりと光るプラズマテレビを眺めこれから我が分身を如何に動かしてこの眼玉を盲目
の危機から救出せんと悩んでいる。
ぼくが今時珍しいポン引きの紹介にも関わらずこの仕事を請け負ったのは、物語の主人公
の得たるが如き大それた理由があるわけではなく、かと言って特別に暇というわけでもなく、
ただもし、どうしても言わんとするなら現代の、しかも経済的にも社会的にも恵まれた家の
子の武者修行というか、生活からは全く想像し難い未知なる世界の見学といった風の、まあ
端的に言えば犬でも見いだしそうな好奇心のためなのだが、時給こそ高いもののビデオゲー
ムのモニターがこれほどまでに辛い仕事だとは思わなかった。
画面上に這い蹲るぼくの分身はこれでもかというくらい貧弱で、進めば進むほどに強化が
必要になってくる。強化というのは敵を倒すの一辺倒であり、正直面白くも何ともない。初
めのうちは我慢出来たが、目の奥に重くのし掛かる鈍痛にもそろそろ限界のようだった。
これでも与えられた任務には忠実なつもりなのでちょっと気は引けるものの、背に腹は代
えられまい。改造コードでも打ち込んでセーブデータの主人公を二倍くらいに強くしてやろ
う。
次のお題
蟻 トウモロコシ 飛行機
268:蟻 トウモロコシ 飛行機
09/06/04 22:56:40
蟻がとうもろこしを運んでいる。飛行機の中で。飛行機は今、空を飛んでいる。水中を自由に泳ぐ飛行機なんてもう飛行機ではないし、
土中を掘り進む飛行機なんてものは現代の科学技術では作れないオーパーツだ。モグラでも確か一時間に数センチしか地面を掘り進められなかったはずだから。
これらのことから推測するに、今見ている光景はそれほど現実離れしたものではなく、そして俺は多分現実のなかにいる。
蟻の種類は何だ? ヤマトクロアリか南米産のシロアリか。いやきっとシロアリはとうもろこしを食わない。
胚芽の白い部分が自分達の色にそっくりだから、勘違いしてしまうんだな。それにあの蟻は黒い。寒い。
寒い。とうもろこしの種類までは分からないけど、とうもろこしの生産量世界一の国は知っているんだ。地理の時間に習った。アメリカだ。
だからこの飛行機はきっとアメリカから飛び立ったんだろう。地震がないけどきっとそうだ。でも、中に居るのは日本人みたいだ。
寒い。髪が短くて金色だけれど、もう一人は少し禿げているけど、あいつらは日本人だ。きっとこの飛行機の行き先は日本だ。
声は聞こえないけど彼らはこちらを見て口を動かして喋っている。ずっと瞬きしていなければ眼球の上に氷のレンズが張ってしまう。
瞬きと窓越しに見える男の口の動きがシンクロした瞬間は、彼らの唇が読めない。
アニキヤツワラッ、テウ。ホットケ。エモオトシアエツケサセナキャ。トウセシムンダ。
蟻が窓枠から見えなくなって、運んでるとうもろこしの先端だけが見える。寒い。とうもろこしの先端が揺れている。
蟻はあきらめてないみたいだ。飛行機が飛んでいった先にお前の巣穴なんてあるわけがないのに。
救急車の中と新幹線の屋根の上と飛行機の翼に一度は乗ってみたかった。こうして死ぬのはバカみたいな気分だ。なんでこんなところに居るんだろう。ひょっとしてあれかな?
ありがとう、誰だか知らないけど中のアニキさん。蟻にとうもろこしをやったのもきっとあんただな。
次、ウチワ、ラーメン、タバコ
269:蟻 トウモロコシ 飛行機
09/06/04 23:48:17
訂正 地震がないけど→自身がないけど
さすがに判りにくいか
アニキ、ヤツ、ワラッテル。ホットケ。デモ、オトシマエ、ツケサセナキャ。ドウセ、シヌンダ。
270:ウチワ ラーメン タバコ
09/06/06 06:14:06
タバコお断り、の貼り紙が目につく。タカシはカウンターテーブルを指でコツコツと鳴らしながら、待っていた。
遅い。いつもなら長くても15分。タカシは待つのが好きな方ではない。待ち合わせの5分前にはその場所に居る男だ。
―それが今日は30分。何かあったのだろうか、と心配になるが、それを口に出して辛抱のない人ね、と思われるのも嫌だった。もう少し我慢するか。ポケットのライターに手をやる。
ふと、シオリのことを考えた。ヘビースモーカーのタカシに、シオリは言う。
「もう若くないんだから、そろそろ禁煙も考えたらどうかしら。体を悪くしたら、何にもならないでしょう。」
分かってはいるんだが。15年も共に歩んだ相棒を手放すのは、容易いことではない。機嫌の悪い時には、シオリはウチワで煙をタカシの方へと追いやった。
「嫌なのよ、この臭いが。私はね、嗅ぎたくないの。」
もし禁煙したら、俺はもっと他の匂いを敏感に嗅ぎ取ることが出来るのだろうか。シオリの白い首元が思い出される。
目の前の水をグイと飲んだ。店に入って、35分。今更ビールを頼むのもおかしい。こう貼り紙をされては、タバコを吸う訳にもいかない。タカシはテーブルの上で腕を組み、木目を数えた。
ふと、目の前に人の立つ気配がした。頭を上げると、よく見慣れた顔がそこにある。やっと来たか。タカシと目が合うと、男は申し訳なさそうに笑った。「すんません、塩ラーメンお待ちどうさま」
キッチン 空 電波
271:名無し物書き@推敲中?
09/06/07 02:42:56
キッチン・空・電波
午後六時の日課。空が赤くなったら屋根の上からメッセージを送る。お父さんに。お母さんに。おじいちゃんに。おばあちゃんに。学校の先生に。クラスの皆に。隣のおじちゃんおばちゃんに。向かいのお姉さんに。道行く犬に。日向ぼっこをしている猫に。
びびび。電波っぽい声に出したら届くような気がした。恥ずかしくなってすぐやめた。
大きく手を広げる。アンテナの真似をしたら届く気がした。アンテナは受信するものだと気づいてすぐやめた。
六時一分にはもうあきらめた。僕には漫画に出てくるような不思議な力はないようだ。でもいつかできるかもしれない。昔、頑張れば何でもできるようになるよ、とお母さんに言われた。僕はそれを信じている。
午後六時。いつものようにキッチンから夕食を作る音が止まり、仏間から鈴の音が聴こえてきた。今日はメッセージを声に出してみようと思った。
ぼくはここにいるよ。
ぼくはここにいるよ。
次のお題「鰻」「クーラー」「大豆」
272:名無し物書き@推敲中?
09/06/07 10:06:16
「鰻」「クーラー」「大豆」
夏の暑い日に太郎は鰻を食べようと思った。なぜそう思ったかというと、土用の丑の日であったからではない。
その日の出先に美味い鰻を出す店があったからだった。
時間は午後一時を過ぎたところだった。
出先の所用を済ませた太郎は、駅前にあるその店に向かって歩いていた。
太郎がその時、店への近道でもない暗く狭い路地裏へ入って行ったのは、大通りの日差しが辛かったからだ。
太郎には影の差した路地裏はいかにも涼しそうに思えたのだった。
太郎が路地裏を歩いていると、突然に靴裏が滑って彼は転んだ。
後ろのめりになり仰向けに倒れていく間に、太郎は多くの人がするように、とっさに顎を胸につけて後頭部の激突を避けようとしたが、
その努力は報われなかった。コンクリートブロックでも転がっていたのか、路面にあった硬質のでっぱりに頭を強くぶつけて太郎の意識は飛んでしまった。
次に太郎が起きたのはクーラーの利きすぎた部屋の中だった。
いや、違う。太郎は思った。彼の体は強すぎるクーラーのせいで冷え切っていた。
それに加え、エンジン音が響いていたので太郎は冷凍トラックの貨物室にいるのだと考えた。
太郎はそれに気づき、殆ど考えもしないまま、まこと直情的に行動した。
ガンガンと貨物室の壁を殴ったり蹴ったりしたのだ。
十分ほどそうしていると、太郎は強い衝撃に見舞われ吹き飛び、ふたたび意識を失った。
太郎は起きた病院のベッドで、自分が路地裏で、ある商店が誤って路面にばら播いたまま放置した大豆を踏んで転倒し気絶したこと。
その商店の主が、太郎にとって不幸なことにパニック障害を患っていたこと。
そして頭部から血を流し気を失っている自分を発見し、死体と誤認してパニックを起こし自家用の冷凍車を使って海に捨てに行ったこと。
その間に自分が貨物室の中で目覚め、暴れたので、更にパニックをエスカレートさせて車を対向車と正面衝突させてしまったこと。
その事故で商店の主と対向車の運転手は即死したことなどを知った。
次のお題「角砂糖」「一味唐辛子」「電卓」
273:名無し物書き@推敲中?
09/06/07 19:56:05
「角砂糖」「一味唐辛子」「電卓」
紅茶には角砂糖が三つ、さすがに三つは多いよ、普通に。
同僚だった頃、甘いコーヒーを飲んでいたのを覚えていたのかな。
部屋には同期と僕の二人きり、同期は死んじゃってる。
仕事が終わり、連絡があり、すぐに顔を出す、お通夜は明日かな。
紅茶を出してくれた同期の嫁さんはどっか行っちゃった。
顔はあんまり見なかった、見れなかった。
とりあえず君は冷えて硬くなってると思うよ、ドライアイスが乗っかってるし。
僕が甘いのが好きなように、君は辛いのが好きだったな。
なんにでも一味唐辛子、カプサイシン、当時のはやり、流行。
まるで女子のように痩せたがっていた、全然デブじゃないのに。
デブじゃない君は、結婚し、仕事をやめた。
君の忘れ物の関数電卓、なんとなく、持ってきた。
何年も勝手に使っててごめんね。
でも、いいだろ、次の職場じゃ使わないってわかってるし。
今はなんとなく、わざと置いていったのかなと思うけど、そうじゃないよな。
思うに、ただ、いらなかったんだ、君には。
ただ、電卓自身には君が必要だったんだと思うよ、間違いなく。
君が自殺して、いろんなものを置いていったけど、たぶん。
とりあえず電卓は引き受けるよ、うまく使うよ、どうにか。
後のものは僕にはわからない、ほんとに、あんまり、わかりたくもないし。
お嫁さんは戻ってこないし、君は半分凍っちゃってるし、もう帰るよ。
実はほとほと疲れてるんだ、そうは見えないかもしれないけど、正直に。
わかってるかもしれないけど、お通夜とか出られないと思う。
だから、これで最後か、じゃぁ、これだけ持っていくよ。
次のお題「消毒液」「父」「自由」
274:名無し物書き@推敲中?
09/06/07 23:56:56
消毒液・父・自由
「別に自由になりたいとかではなかったんです。手が汚れたから手を洗う、みたいな。そんな、感じ。死刑なら火あぶりにして
ください。私、汚いから」
****
「消毒用のエタノールを買ってきたから、ちゃんと使いなさい」
父はそう言うと手を洗い、エタノールを吹きかけていた。
「ちゃんと手を拭かないと意味ないよ」
そして父の無言の返事から逃げるように、私は浴槽に向かった。
私はいつからか父がばい菌にしか見えなくなっていた。汚いもの。それは父だけではなく、客もそうだった。
同じような姿形をしている異質なもの。それが私の上に覆いかぶさっている。荒い息を立てて。気持ちが悪い。
「85度」汗で冷えた体で私は小さくつぶやいた。
「消毒液として使いたいならそれぐらい濃いほうが良いよ」―嘘だ。
次の日、75度のエタノールが置いてあった。少し薄いが、なんとかなるだろう。
最後の客が帰った。私はいつものように体を洗い、イソジンでうがいをする。そして寝室に向かう。
大きなばい菌がベッドに横たわっている。促されるまま私は顔を近づけ、―口に含んでいたエタノールを吹きかけた。
目を押さえてばい菌は叫んでいたが、股間を蹴り上げたら少し静かになった。私はテーブルの上に置いてあるエタノールを手
に取り、半分かけて、布団をかけて、残り半分をかけた。察した父がもがいていたが、火の手が上がるとおとなしくなった。
私は自由だ。あとは精一杯同情を引く供述をするだけだ。
次のお題「ガム」「はさみ」「飛行機」
275:274
09/06/08 00:02:13
ガタガタで読みづらく、申し訳ないです
276:「ガム」「はさみ」「飛行機」
09/06/11 06:06:05
バスジャック発生から一時間。犯人は一人。武器は自動拳銃一丁。
乗客の一人が言った。
「飛行機の時間に間に合わなくなるんです。行かせてください。」と
犯人はこの言葉に苛立ち、乗客の口に銃口を捻じ込んで言った。
「飛行機に乗り遅れるのと、ここで死ぬのとどちらか選べ。」
口の中に銃口を捻じ込まれた乗客が黙って首を振ると犯人は吐き捨てた。
「大人しくしてろ。」 その時
「暴発しますよ。銃口にガムが」 間近に居た男が犯人に話しかける。
あわてた犯人が銃口を覗き込んだ時、男は犯人の銃を蹴り上げた。
衝撃で自分に向けた銃の引き金を引く犯人。銃声と同時に悲鳴が起こる。
真後ろに倒れ動かなくなった犯人を見下ろしながら、男は呟いた。
「バカとはさみは使いよう・・・」
次は 「駅」 「天使」 「大人」
277:心もとない天使 ◆ANGELSmpgM
09/06/12 12:04:28
「駅、天使、大人」
主人公Aは三十歳を過ぎても大人になれない、アダルトチルドレンのニートであった。
ある日、Aはテレビで踏切事故から老人を助け出し、表彰された男のニュースを見る。
「これだ」とAは思った。
Aもこの男のように踏切事故から誰かを救い、ニュースに出て有名になろうと思った。
これが巧くいけば、ニートから一転、周りは天使として自分を見てくれるだろう。
Aはさっそく最寄の駅に足を運んだ。駅近くの踏切であれば、人通りも多い。
事故が起こる確率も高いであろうとAは踏んだのだ。
来る日も来る日も、Aは踏み切りの前で待った。雨の日も。風の日も。
春が過ぎ、夏が過ぎ、秋が過ぎ、冬が過ぎ、とうとう一年が経った。
ところがいつまで待っても踏切事故は起こりそうにない。Aはすっかり汚れて真っ黒になってしまった。
足元に飲み終わったビールの空き缶を置いていたら、通行人が小銭を入れ始め、結構な額が貯まった。
乞食と思われているのだ。
そんなAに、ついに千載一遇のチャンスが訪れる。
踏切内で、老人が小銭を落としてしまい、もたついている間に踏切が閉まってしまったのだ。
(―この時を待っていた!)
Aが勇んで救助に入ろうとすると、何と周囲の店や物陰から、男たちが一斉に老人に群がっていった。
その中で最も長身の、いかにも運動神経抜群に見える男が、一番に老人を助け出した。
長身の男は手際よくTV局と新聞社に連絡を取り、彼は報道陣に取り囲まれてインタビューに応じはじめた。
その模様を、老人を助けそこなった男たちが、舌打ちしながら眺めていた。
呆然と立ち尽くすAに、男たちの一人が囁いた。
「あんた、一年くらいここにいる人だな。この世界の競争率を甘く見るなよ。
この周りにはもう十年以上、天使になるために張り込んでいる兵が何人もいるんだ」
Aは雷に打たれたようなショックを受けた。天使への道はAの想像以上に険しかったのだ。
278:277 ◆ANGELSmpgM
09/06/12 12:10:49
次
「選挙」「地球」「予防接種」
279:名無し物書き@推敲中?
09/06/12 20:03:30
駅 大人 天使
大人になったら何になりたい―
頭の中で誰かが呟くのを聴いて、太郎は登山鉄道のゆるやかな振動の中、静かに目を覚ました。
僅かに軋む身体で瞼を擦り、目を開けると、車窓の外すぐ下方に雲海が広がっている。雲海は白
いパンを捻ったような雲で厚く埋め尽くされており、下界の大変に気候の荒れている事を表してい
た。
対して雲の上は透き通った空気に充ちている。思えば随分遠くまで来たものだ。仕事を捨て、家
を捨て、女を捨て、風の向くままに身を任せた。しかし異国の文化に触れ世界の広さに感激したの
も束の間、再び目の前に現れたのは非日常という名の日常であった。確かに自分は俗世間に活きて
はいなかった。しかし、どこに居ても変わらず、己というものが常にあったのだ。
『間もなく**駅』
異人の言葉でスピーカーが告げた。先を見ると遠くに小さく駅のホームが見えている。用途不明
の小屋以外には何もない、寂しい駅であった太郎は荷物を纏め、腰紐に括った財布から紙幣を何枚
か出し、再び前方を見やった。
<おや?>
僅かに近づいたホームに、金色のものが見えた。金色は静かに、だが力強く輝いていた。太陽
をそのまま地に下ろしたとしてもこのようには輝くまい。それは黄金の川のように流れ、金の筋の
一本一本が見て取れるようであった。
遠くにあったその輪郭が、少しずつ明らかになってくる。次に白が見えた。眩いばかりの白だ。
その白に金が被さっている。
とそのとき、一陣の風が吹いた。車内の太郎は確かにその透明な風を見た、否、ホームに立つ金
色を見たのだ。金色の清流は透明な風を受け、ふわりと軽やかにその流れを変えた。太郎は流れの
奥に居たものを見た。
それは一人の天使であった。黄金の川と見たのはその頭髪であり、あの眩い白は彼女の着るワン
ピースであったのだ。少女はその服に、白い肢体に、極小の汚れを着けることなく、そこに立って
いた。この余りに場違いな少女に、太郎は目を奪われた。
そして太郎はついに、その駅を乗り過ごした。少女もまた、その電車に乗ることはなかった。
こうして太郎の短い旅は終わりを告げ、何事も無かったかのように帰国した彼は捨て去った筈の
全ての者に謝罪し、平凡な暮らしへと戻った。
280:「選挙」「地球」「予防接種」
09/06/14 01:18:23
「Aさん、どうぞ」
私が名前を呼ぶと、初老の紳士が「はい」と言って、目の前の椅子に腰掛けた。
私専用の診断用ディスプレイに表示された、生体データを素早く確認する。間違いなく本人だ。
「ではAさん、予防接種を行います。こちらのアームに左腕をのせて下さい」
「いやあ、注射というのは、いくつになっても慣れないものですな。でも、今度の私は運がいいですよ」
A氏はゆったりした口調で答えながら、何の疑いも抱かずに私の指示に従った。
「どうしてですか?」
注射の準備をしながら(といっても、自動注射装置の操作をするだけだが)、私は尋ねた。
「あなたのような美人の女医さんに処置してもらえるからですよ。前回は私と同い年ぐらいの無愛想な男でしたから、この数分間が苦痛でね。
あんな睨めっこは二度と御免です」
私は苦笑した。年に似合わず達者なものだ。
「ありがとうございます。でも、あの先生の腕は保証しますよ」
「ほう、どうして」
「私の恩師ですから」
「こりゃあ失礼。一本取られましたな」
A氏はこのやり取りを楽しんでいるようだ。まあ、「美人の女医」なる者との会話は、多くの男性にとっては嬉しい事なのだろう。
何も知らないあなたは幸せですよ。特に、今行われている「予防接種」が、巧妙な洗脳システムである、などという忌まわしい真実は。
ワクチンには、催眠薬が含まれていて、暗示をかける薬効がある。そして、選挙で選ぶ候補者を無意識に誘導しているのだ。
ある意味、現在の地球における、最も成功した支配体制といえるだろう。
私が真実を知り得たのは、この催眠薬の開発に関わった医師の1人で、その人が書いた手記を読んだからだ。
手記には「何者か」によるシステム構築の過程と、家族を人質に取られ屈服した自分を弾劾する、懊悩に満ちた記述があった。そして、最後にこう書かれていた。
「いつか真実を公開できる日まで、この記録を保管して欲しい。それが自分にできる唯一の贖罪だ」
まったく、簡単に言ってくれる。「正義の味方」だと悟られずに生きろというのか。
だが、私は喜んでこの使命を引き受けようと思う。
何故なら、私が「家族を人質に取られ屈服した」医師の娘だからだ。
次のお題「みそ汁」「プリンタ」「天気」
281:「みそ汁」「プリンタ」「天気」
09/06/14 09:26:05
うまい!と彼は唸った。「みそ汁の腕が上達したなあ」
「えへへへへ・・・」
彼女の声が台所から聞こえる。照れているらしい。
まだ拙いウグイスの声が、水を打ったばかりの庭から聞こえる。
いい天気だ。もう春なんだなあ。
「デイジーの球根、植えますね」
ウグイス型監視カメラが送る、縁側の二人の緩やかさに比べ
埃臭いコントロールセンターの慌しさは相変わらずだった。
「カタカタ・・・」とプリンターが中間レポートを印刷する。
「新妻役ロボット、チェック完了!」と、オペレーターが報告する。
「彼女」の動作は完璧だ。完璧な大和撫子型アンドロイド。
構わず司令官の命令がきた。「次は、新夫役ロボットのおはよう機能だ!」
「地球自転装置作動!日本時間を<月曜・午前7時>にセット」と、答える。
(でも・・・何のために?)
オペレーターはふと思った。でも、気にしない。
※:気にしない気にしないw
次のお題は:「納豆」「半紙」「光子」で、お願いしまふ。
282:名無し物書き@推敲中?
09/06/19 00:10:06
納豆、半紙、光子
墨の代わりに、じとりと汗が滲む。
朝の涼しいうちに宿題はしておけと釘を刺されていたので、律儀にそれを守る朝五時。
汗でよれた半紙は、字ではなく落書きで消費した。もうあとがない。
汗を拭い、もう一度半紙に被さる。
「光子、」
ごはんできたよ、と母が呼ぶ。
はあい、と返事をすると、また汗がぼたりと落ちた。
「また納豆あるの」
「好き嫌いはやめなさい」
次のお題「椅子」「ロケット」「あぶ」
283:名無し物書き@推敲中?
09/06/20 11:09:35
「だから、キャンプなんて嫌だったのよ!」
僕はヘラヘラしながら何かを答え、彼女の機嫌をとる。
なんとなく、ヘラヘラぐらいしないと参っちゃうよね。
あぶに指されて赤くなったクルブシを大事そうに擦っている、彼女。
健康食品で具合が悪くなる、美用品が肌に合わない、新しい財布が使いづらい。
なんか、いつもそんな感じ、文句ばっか、あーあ。
ロケットの打ち上げが見たいって言ったのも、たぶん、忘れてる。
せっかく種子島なんだからアウトドアがいいって言ったのも、忘れてる。
その前はゴッホの絵が見たいと言っていたのも、忘れてる。
彼女が座っている組立て椅子、カタカタ言ってるし。
たぶん、うまく組めてない、倒れそうだ、うん、倒れるね絶対。
ワクワクというか、ハラハラというか、なんというのか、期待、かな?
彼女の期待を裏切ることが起こり、「どうにかしてよ!」って目で僕を見る。
看病したり、違う財布買ったり、炎症気味の顔も悪くないよって言ったり。
君の機嫌が良くなり、なんでもないことで笑って、隣にいて、それでいいよね。
僕は感情の起伏が無いほうだから、足して2で割ればちょうどいいよ。
もう椅子はカタカタ言ってない、彼女は座りながら、ただクルブシを見つめてる。
静かだ、心地よいひと時、次のアクシデントが起きるまでの、わずかな、やすらぎ。
NHKで見た「フィンセントの椅子」、ゴッホの油絵、今がその状態、質素だが鮮やか。
大丈夫、十分座れるさ、勿体無いくらい。それに、ゴーギャンよりはマシだろう?
静かさに慣れてくると、何か起こらないかと思ってしまう、自分を戒めながら、そっと隣に座ってみた。
『わるくない?』って目で彼女を見ると『60点ね』って目で返された。
打ち上げまで時間はある、とりあえず、落第点は避けられそうだと雲ひとつ無い空を見つめた。
参照
URLリンク(park10.wakwak.com)
次「ロウソク」「タマネギ」「絵具」でおねがいします
284:名無し物書き@推敲中?
09/06/20 21:26:21
ロウソク、タマネギ、絵具
男は家の庭で、ロウソクを溶かしていた。沸騰した水の中にロウソクを入れ、
火をかけながら、液体になるまで混ぜた。その後、溶けた蝋を絵具代わりに使って、
数枚絵を描いた。描いた線の凹凸が分かるように、ロウソクを筆にたんまりと付けた
ので、男は描きにくかった。
次の日、男は描いた絵を持って病院へ行った。娘が入院している部屋は3階にあった。
「熱は下がったか?」「うん、もう大丈夫。元気だよ。」男は描いた絵を取り出し、
娘に手渡した。娘は絵に掌を当てたり、指でなぞったりして、凹凸を探った。
「う~ん、何だろう?」「わかるかな?」「え~と、タマネギみたいな形してる、」
「そのとおり、正解!」娘は笑った。目がハの字になり、唇の両端がつり上がる
娘の笑い方が、男は好きだった。ただ内心は、瞼が開くことを望んでいた。
次は、扇風機、母、刑事で。
285:名無し物書き@推敲中?
09/06/20 23:40:19
7月○日
扇風機が止まらなくなった。スイッチを押しても、コンセントを抜いても、一向に止まる気配はない。
それどころか、徐々に強くなってきている気がする。
母は気味が悪いと言って不燃ごみの日に出した。
7月×日
ゴミ捨て場を通りかかると風を感じた。ちょっとよろめくほどの強風。見ると、やはり扇風機があった。
収集してくれなかったようだ。何かシールが貼られている。
怖かったので、知らん顔して通り過ぎた。
7月△日
翌日、刑事が家に来た。ゴミ置き場の扇風機の風に煽られて子供が吹き飛ばされ、大怪我をしたとのことだ。
何か知らないかと聞かれたが、知らないと言ってやりすごした。
扇風機は警察が持って行ったようだ。ほっとしたが、指紋をとられると厄介かもしれない。
7月□日
あれから一週間が過ぎた。扇風機は相変わらず動いているらしい。
××警察署が謎の強風で吹き飛んだと聞いた。死者も出たそうだ。
全国ニュースにもなってしまった。母も不安げだった。
☆にち
みんなふきとばされた。だれもいなくなった。
ここもそろそろだめだろう。なにもわからないままとばされるのはいやだが、もうどうしようも
「和服」「昨日みた」「肝試し」
286:「和服」「昨日みた」「肝試し」
09/06/22 00:15:23
「ねぇ!この服とかどう?」
その元気で女の子らしい声に振り向くと、彼女が男モノの和服を片手に立っていた。
「だから、別に服とか買う必要ねーって」
強引に服屋に連れてこられたが、やはり乗り気にはなれない。
前を向き、再び前へ歩き出す。
「ねぇ!でもさ、やっぱりせっかくの肝試しなんだしさー」
再び足を止め、振り向く。
「どうせ暗くて何着てるかわかんねーよ」
前を向き、歩き出す。
「ねぇ!それじゃ明日着てく服どんなのかわからなくなっちゃうの?」
足を止め、振り向く。
「どうせ昨日みた浴衣着てくるつもりだろ。もう見てるから気にすんな」
素気ない返事をした後、再び歩き出した。
ねぇ!待ってよー!と遠くから声が聞こえてくる。
そんなどうでもいい彼女の声が聞こえる度に足を止め、振り返ってしまうのは、
向日葵が太陽の方を振り向く原理と一緒なのかもしれない。
「太陽みたいなヤツだな、お前は。」
冗談みたいな本音を、つい呟いてしまった。
お題「あり得ない」「メガネ」「風」
287:名無し物書き@推敲中?
09/06/22 21:39:44
ジジィージジィー・・蝉しぐれがこだまする暑い昼下がりの路面。
汗をぬぐった一区のSさんはフト、電柱を見た。
「今年もまた、夏祭りの時季が来たな・・」
去年のコトを彼は思い出した。子供会の神輿の時、あの時はコドモらの
あつまりがワルく、遊びに来ていた親類のこを、誘って引っ張りだしたのだ
そのこは6年生のおんなのこで背は高く、メガネをかけててSさんには
あまり懐いていなかった。いつもこちらに来てからひとりでつまらなそうに
していたので、お祭りと子供神輿に参加させようと思ったのだ。
おんなのこはシブシブとだがSさんと共に神輿に参加してみたが、
トモダチもいず、図体の大きめの彼女はコドモらから浮いてしまい、
しまいには「こんなの、もぉイイ!帰る」と泣いて抜け出してしまった。
Sさんはなんとかなだめてその時はおさめてやったけど・・
「ワルイことしたな、あのこには。今年はもう、こちらには来ないかもな」
そう思っていた彼のわきを、ありえない程の大きな蝶が通り過ぎて行った。
Sさんはしばらくそれをボンヤリと眺めていた・・・
蝶と共にふと、爽やかな風も流れて行った。
お題 「カブトムシ、むしかご、ぼうや」
288:名無し物書き@推敲中?
09/06/22 22:56:21
「いまどき珍しいな」
そういう君に、そうだね、と答えた。
君の手の中でうごめくそれを摘みあげて目の前に持ってくると、やはりそれはカブトムシだった。
「こいつも子供産むのかなぁ?」
「…それは、新手のジョークかしら」
冗談にしても低レベルなその問に鼻で笑って答えると、私は虫をそっと両手で包みこんだ。
「え…カブトムシ、だよね、これ」
「そうよ?」
「カブトムシってこれ以外にいるの?」
「…だから、それは、新手のジョークかしら?」
きっと私を笑わせようとしているんだと思い表情を読み取ろうとするが、君はいたって真剣な顔だった。
…男の子というのは幼少時に蝉やカマキリ、カブトムシ等々の虫を大量に捕まえるものではないのだろうか。
大量につかまえたそれをむしかごに入れて、母親に見せて叫ばれたりするのが普通ではないのか。
そしてそれを子供特有の無邪気な残酷さをもって首を切り落としたり鉄格子で串刺しにしたりするのではないのだろうか。
それを君に尋ねると
「だって、俺、夏は父ちゃんと家でゲームしてたもん。」
と一蹴された。
その言葉に、いろいろ言い返したくなったが、いろいろありすぎてなにも口から出なかったので
「…カブトムシのメスはツノが無いのよ、ひとつお勉強になったわね」
それだけ言っておいた。
なにそれ気持ち悪いゴキブリじゃんやだ気持ち悪いやだやだとわめく君を無視して前を見た。
「まあ、せめて産まれてくるぼうやにはお父さんを反面教師にして
カブトムシの雄と雌の区別ぐらい付けられる子に育ってほしいわ」
少し膨らんだおなかにそっとカブトムシを乗せたら、ぶぅん、と羽を広げて夏の空に飛んで行った。
お題「ぬいぐるみ、羅刹、水鏡」で
289:名無し物書き@推敲中?
09/06/23 01:10:12
題 : ぬいぐるみ、羅刹、水鏡
布団の中で溜息を付きました。
お父さんは毎朝怒ります。お母さんは疲れた顔で首を振り、何度も溜息を付きます。
私は今日友達とケンカしました。ノート見せてって言われただけなのに。
この家に越してからずっとそうです。何も上手く行きません。溜息が出ます。
枕元にある牛さんのぬいぐるみを手に取り、頭を撫で、抱きしめました。目を閉じました。
この子は小さいとき、私が親にねだった子です。ひとつだけ売れ残ってて可哀想だったんです。
それからずっと、私と一緒にいます。
頭の中は考え事と夢の境、ぼんやりと寝てるのかどうか、そんなときに声が聞こえました。
「裏の井戸をお祓いして閉じろ」
ぬいぐるみを抱いたまま飛び起きて壁の時計に目を向けました。三時二十八分。
「こりゃ夢だぜ。水鏡とか蜃気楼、ああいうのさ。だから井戸以外は忘れちまえ」
ぬいぐるみは震えて声を出しています。私は悲鳴を上げて牛さんを放り出してしまいました。
牛さんはからからと笑いながら「ガキはとっとと寝ろ」と呟きます。瞼が重くなってきます。
「牛っつったら羅刹よ。でもな、抱いてくれる人にはちゃんとするぜ? 井戸は忘れンなよ?」
その言葉に心が軽くなったような気がしました。瞼がすとんと落ち、私は目を閉じました。
次の題 : 「鳥」「リハビリ」「甘納豆」
290:名無し物書き@推敲中?
09/06/23 12:40:15
ピチピチピチ・・籠の中のピースケが鳴いている。
Sさんは、痛い左足を引きずるように廊下を出た・・
なんでも足のリハビリのため、なるべく「杖」にはすがらないように、と
心がけているのだ。それでも思うように行かずつい、イラついて
ピースケにあたってしまい、自己嫌悪におちいってしまうのであった。
「そうだ、まだ冷蔵庫に昨日の甘納豆があったハズ。」
アシを引きずりつつ彼女は、台所へと向かった。
お隣さんからいただいた、好物の甘納豆のことを思い出したのだ・・
291:名無し物書き@推敲中?
09/06/23 12:41:41
・・お題は「名物、お祭り、うちわ」です
292:名無し物書き@推敲中?
09/06/23 21:30:57
「名物、お祭り、うちわ」
…今日も疲れたな。
電車が来ると同時に腕時計で今の時間を確かめる。
短い針は11の数字を指す手前だ。
この時間になると電車の中も閑散としている。
クーラーが効いてるにも関わらず大股開きでシートに座り、うちわを煽いでいる太った男が目に付いた。
なんとなく不快な気分になりその男とは離れたドアの前で手擦りにもたれかかった。
座ることも出来たが、やはりなんとなくあの男と同じ行動をとりたくないと意識してしまう。
ドアの窓から外を覗いていると、デカデカと「○×祭り」と書かれた巨大な提灯が目に付いた。
「もう、夏のお祭りの季節か…」
そんな小言を呟くと同時に小さい頃、姉に連れられた地元の夏祭りのことを思い出した。
右も左も人だらけでわけがわからず、姉の後ろに付いていくのが精いっぱいだった。
名物と書かれた「苦虫饅頭」は、今でも思い出すだけで吐き気を催す。
…でも、楽しかったな…。
電車はトンネルの中に入り、目の前には疲れ切った顔をした男が映し出された。
ふと、自分の頬に冷たいモノが流れるのを感じた。
次は「天国」「蓋」「囁き」でお願いします。
293:名無し物書き@推敲中?
09/06/24 00:11:05
名物 お祭り うちわ
かつて幾度となくよじ登っては天辺から小便を垂れた鳥居に座して凭れかかり、太郎は絶え
間なく行き来する人々を眺めていた。
誰もが何かに急かされるように歩いていた。そのくせ人の流れは一向に遅く、足踏みばかり
が響く。前の人に殆ど密着して押し合いへし合い、思うように行かない人々は出店で気を紛ら
わすことで、自ら更に流れを遅くしていった。
<相変わらずだな>
いつの間にかザックに刺さっていたうちわを見る。名物日本三稲荷駒竹神社とある。幼少時より
慣れ親しんだせいか、その響きに何らありがたみを得ることは出来なかった。三稲荷とは正確な意
味を知るところではないが、まさか日本中で三指に入る神社、というものではなかろう。
再び雑踏へ目を向ける。殺気立ったみたいな人々の顔を見て、太郎は少年時代この神社のお祭りへ
たった独りで出掛けた時の事を思い出していた。
いつも勝手知れたる境内は、そのときばかりは嫌に暑苦しく、また無闇に広く感じたものだった。
友人たちとかくれんぼをするでもなく、父の肩に跨り往来を掻き分けるでもなく、ひたすら人に揉
まれ足蹴にされたのだった。 鳥居に凭れ掛かった太郎の視点は人よりずっと低かった。見上げた人々の目は、何かに追わ
れているように、狂気を孕んでいた。太郎の胸に、懐かしい感情が湧きあがってきていた。
太郎は立ち上がった。ザックを背負う。太郎そのまま、鳥居を振り返ることなく歩き出した。
次『紙飛行機』『コーン』『すずかけ』
294:名無し物書き@推敲中?
09/06/24 00:15:32
すまんリログ忘れてた。
295:「天国」「蓋」「囁き」文体実験
09/06/24 00:24:18
フリーマーケット会場 異彩を放つ出品者
小さな箱 曰く 天国の詰まった箱 洒落た蓋 耳を当てる
………不思議な音 声 これは 歌?
否 それは 囁き 微笑する出品者 あなたへの 囁き
家 部屋 目を閉じ 耳を澄ます
言葉 未知の言葉 落ち着く 意味? 分からない
開けたい けれど 恐ろしい
何度も手をかけ けれど やめる
今も 木箱は 机の上 相変わらず 囁いている
誰にも分からぬ 天国の言葉で
296:295
09/06/24 00:26:21
>>294 そういうこともあるさ。
お題は>>293の[紙飛行機][コーン][すずかけ]でよろ。
297:名無し物書き@推敲中?
09/06/24 21:26:43
すずかけのイメイジが、わかんよ・・
298: ◆DinfA5bnxE
09/06/25 01:27:13
[紙飛行機][コーン][すずかけ]
数時間後には高校を卒業しているんだなぁ。
そう思ったらじっとしていられなくなり、卒業式まっ只中、わたしは体育館を出た。
出口のドアで先生にトイレが我慢できないと断って、そのまま下駄箱へ。
外履きに履き替えて、校舎裏の森に入る。
森といっても木々の建ち並ぶ山すそで、よく授業をサボって一人で過ごした。
放課後に行っても駄目で、他の生徒が授業を受けているのに自分はここにいる、
そんな状況でないと、心地良さを感じられなかった。
卒業式が終われば、もう授業はない。
あんなに面倒だった授業が終わってほしくないとさえ感じる。
制服を着てここに来られるのは最後になるのか。
変な皺(しわ)がつかないようにスカートに手を添えて、地面に腰をおろす。
太い幹に背中を凭(もた)れ、目を閉じたまま高校での三年間を振り返っていると、足音がした。
目をひらくと正面に、クラスメイトの創介が立っていた。
そんなに親しいわけでもなかったので、こんにちは、と、他人行儀に挨拶してみると、
こ、ここ、コーンニチワと、まるでつたない日本語で話す外国人のように、緊張した声で彼は言って、
「す、すずかけ、けけっ、結婚してほしい」と続けた。
「え?」
「それくらい、す、涼香が好きだ!」
体育館を出るわたしを見かけて追ってきたのだろう。彼は彼なりに、卒業する前でなければならなかったようだ。
さて、どう答えたものか。わたしの後ろにある木がスズカケノキであることをいいことに、
木が好きなの? と誤魔化すか。返答に迷って空を見上げると、旅客機が目に入った。
告白されたせいで心が浮ついていたせいか現実感がなく、まるで紙飛行機に見えた。
ああ、そうだ、一時の感情や雰囲気に流されたくない、すこし離れたところから見ていたい。
彼は、卒業前の告白という状況に酔っているだけで、わたしへの思いは卒業すれば冷めるだろう。
そうわかっていて、わたしは、ごめんなさいとすぐには返事をしない。うん、青春も、悪くない。
上空の飛行機雲が消えるまで、もう少しだけ、浸りたい。
長くなってスマソ。次は「政策」「金利」「紫蘇」でよろしこ。
299:名無し物書き@推敲中?
09/06/25 02:27:09
「政策」「金利」「紫蘇」
ある男がジッと紫蘇を見つめながら呟いた。
「これ・・本当に必要なんかね?」
対面に座った男が「はぁ?」という顔をして見る。
「いや、紫蘇ってのはご飯時に本当に必要な物なのかね?ということだよ」
「つまり・・?」
「だってそうだろ?まっとうなオカズさえあれば日本人は白ご飯で充分なんだ
むしろオカズ本来の味を阻害し、こんな余計な味を出す紫蘇なんてものを振りかける必要性がどこにも見当たらないということだよ」
「それは確かにそうですが・・。しかし、その紫蘇をオカズ代わりに白ご飯を食べるという人は?」
「じゃ、君に聞くが、今まで何回この紫蘇だけをオカズに白ご飯を食べた?え?」
「いや、それは確かに1度あるかどうか・・」
「だろ?世の中そんな紫蘇だけをオカズにご飯を喰う奴なんてまず存在しないし、
いたとしても、それは本人の心から望むべく現状じゃないということだよ。え?君には分るか?」
「ええ、それは。大体は仰られることは分ります。しかし・・それと今回の政策に何か関係でも?」
300:名無し物書き@推敲中?
09/06/25 02:29:06
「関係?大有りだよ。つまり、私の言っている、日本国総金融機関金利0政策とは
この紫蘇と同じようなことだと言うことだよ。」
「は?」
「日本国民が金融機関へ預ける5千兆円とも言われる総資産が熱々の白ご飯だとして、国民は熱々の白ご飯だけあれば満足なんだよ
そこから発生する僅かな金利なんてものは、この紫蘇と同じようなもの。ならば無くせば良い。と言っているのだよ
銘うって紫蘇法案だよ!君!」
「そんな無茶な・・」
その後、総選挙に臨んでこの政策をマニフェストに掲げた、この党は惨敗に終わった。
しかし意外にも紫蘇業者からの大きな反発行動は見られず、また国民の紫蘇へ対する見方も別段変わった風にも見られない。
もしかしたら、その男が言っていた通り、紫蘇とはその程度の物だったのかも知れない。
そして月日が流れて、その次の総選挙前
「これ・・本当に必要なんかね? 君? この酢豚の中に入ってる、パイナップル」
次のキーワードは【FBI】【暖簾わけ】【ジャムおじさん】
301:名無し物書き@推敲中?
09/06/25 15:24:47
どーゆー組み合わせだ
302:名無し物書き@推敲中?
09/06/25 18:28:49
【FBI】【暖簾わけ】【ジャムおじさん】
「小堺クン!小堺クンはおらぬか?」
「なんだいツトム」
「ほう、アメリカのビジネスマンみたいだな…ってキチンと呼びなさい!」
「失礼しました、関根編成局長」
「キミ、今朝出したアニメ枠の秋編成、何だねあれは」
「TV東京からの暖簾分けで開設した、我らが有川TV、アニメは生命線と考えてます」
「それはいいが、この『FBI心理分析官』というのは、どういうアニメだね?」
「局長もナイトヘッドや時かけのアニメ化とヒットをご存知でしょう、今、時代は過去名作のインスパイアじゃね!」
「ナイトヘッドはともかく、FBI心理分析官は確かにヒットした、それで、権利者との折衝は?」
「無許可です」
「こら!」
「大丈夫です、ウチは地上デジタル移行までの期間限定TV局ですから、やっちゃったモン勝ちです」
「じゃあ、この『アンパンマン・スピンアウトムービー・ジャムおじさん・オブ・カリビアン』ってのは」
「あ、それは当日版権でいけるかな…と」
「馬鹿者!放送免許取り上げられるわ!」
「あ、それ大丈夫です、ウチの局、ニコニコ限定配信ですから」
「うへぇ」
次のお題は「いいちこ」「ランエボ」「ipod」で
303: ◆DinfA5bnxE
09/06/29 03:31:13
「時空を越えるなんて無理じゃね?」
生徒の漏らしたその一言を背中で聞いた蘭取理沙先生はブチ切れて、
右手に持ったチョークで黒板に火花を散らした。その火花に気づいた三人の生徒、
プライバシーを考慮して実名ではなくアダ名で記すが、いいちこ(女・19)、ランエボ(男・25)、ipod(男・19)
は安政5年の江戸に飛んだ。
両国西広小路の見世物小屋では、エレキテルを両手から発する謎の男、手素裸が、
刺青の入った腕をした客の持つ国芳の猫が描かれた団扇へ、念力を込めていた。
「燃やせるものなら、燃やしてみねぇ」と、客はにやにやしながら煽る。実は
サクラなのだが、腕の刺青を見てまでイチャモンをつけてくる客は稀。
団扇の柄と、柄を持つ指は、火打ちの石の仕掛けそのまま。
サァサァ、火がつくか否か、そんなところへ、いいちこ、ランエボ、ipodが、落雷のような光とともに現れた。
仕掛けを使う間もなく発火した団扇、ざわめく客席、狼狽する手素裸とサクラの客。
未来から来た三人も驚き、ワケもわからぬまま見世を出て、気づけば両国橋の中央に来ていた。
「じ、時空、越えちゃった?」といいちこ。
「FBIのモルダーでもそんなことわからねぇよ」とランエボ。
「やっべ、今週のコサキンの録音できねぇじゃん。早く未来へ戻れとガイアが俺に囁いている」とipod。
「まだ慌てるような状況じゃない。ジャ、ジャムおじさんなら、なんとかしてくれる」とランエボ。
「ランエボ、落ち着きなよ。これ、たぶんドッキリだから、お江戸でおじゃるとか、その手の」といいちこ。
そこへ手素裸が追いかけてきて、「おめぇたち、すげぇな。暖簾わけしてやるから、浅草で見世、出さねぇかい?」
と言いながら、右手をいいちこの肩に、左手をランエボの肩に、ポンと乗せた。発光、そして、時は動き出すっ。
「時空は越えられるのよー! 気合で!」と蘭取先生が振り向きざま放ったチョークは手素裸の額に直撃……。授業は何事もなく再開。
手素裸は蘭取先生の協力へ経て再び時空を越えたが、江戸に戻ること叶わず、チキンと言われるとキレる少年と友達になった。
いいちこはその翌年、亜墨利加人や英吉利人との通訳として活躍することになるのだが、それはまた、別の、話。
次は「五線譜」「クレープ」「初恋」でよろしこ。
304: ◆DinfA5bnxE
09/06/29 04:22:05
間違えました。
右手をいいちこの肩に→右手をipodの肩に、
蘭取先生の協力へ経て→協力を得て
305:めいどう ◆plpEJpnx3w
09/06/29 17:55:59
お題「五線譜」「クレープ」「初恋」
小学生の時分、唄の発表会が嫌で嫌で仕方がなかった。
私は根っからの音痴で、ひとたび歌い始めると、必ず誰かを不快にさせた。
そんなわけで私は、音楽の授業が大嫌いになった。ことごとくボイコットした。
そっちが嫌いなら、こっちも嫌いになってやる理論だ。
「てなカンジに幼少期を過ごしてきたので、五線譜が読めません」
「…………(一同唖然)」
以上が軽音部に入部した時の、私の宣言だった。
……矛盾している。それは分かっている。
分かっているけれど、私の恋心は、私の理論を捻じ曲げた。
初恋だった。しかも一目惚れ。
その日から、私の心は、私の歌声のように、どこかおかしな転調を繰り返し始めた。
フラれる時が来る、その日まで。
「分かってたんです。でも、言わずに居られなかったんです」
「…………」
何もかも分かっているから、やる気が失せる。
そんな風に人間ができていたら、さぞ便利だろうに、と思う。
でも、とも思う。そうじゃないから、私は、告白したのだ。
あの告白は、初恋の彼を不快にさせただろうか?
夕暮れの河川敷を、クレープ片手にトボトボ歩きながら、ちょっとだけ歌ってみる。
五線譜が読めるようになっても、私の歌声は、相変わらず調子っぱずれで
誰かを不快にさせてしまうに違いない。
それが、何だか本当に可笑しくなって、私は大声で歌いながら帰り道を歩いた。
遠くで罵声が一つ聞こえる。それもまた可笑しくて、ひとしきり笑ってから、ようやく涙が少しこぼれた。
次は「共犯者」「ロケット」「熱帯魚」でお願いします
306:ケロ
09/06/30 01:10:00
五線譜・クレープ・初恋
彼が姿を消してから3週間…
「彼はどこに行ってしまったの」とつぶやいた。
私は一人、JR町田駅を出て109方面へと歩いていた。
日曜日の午後、クレープ屋の周りには私より5・6歳は若いカップルが仲良くデートを楽しんでいる。
クレープの甘い香りが私の脳の中の彼との思い出を引っ張り出し涙を流させた…
「あの優しかった彼はどこへ行ってしまったの」とさらにつぶやく。
涙がやっと乾いた頃、携帯の着信メロディが聞こえてきた。
無意識にメロディの五線譜が頭の中に浮かび出て大粒の涙がまたこぼれてくる。
そう、このメロディは私が彼の誕生日に贈った自作の曲。
無意識にメロディの五線譜が頭の中に浮かび出て大粒の涙がまたこぼれてくる。
電話の相手は警察からで、懸命の捜索にもかかわらず、彼の消息は全くつかめていないとの報告であった。彼は私にとって初恋だった。初めての男性だった。
あんなに愛し合ったのに、あんなにやさしく大好きだった彼なのに…
「あの優しかった彼はどうして…あんなに…」と唇をかみしめた。
彼は私にとって初恋だった。初めての男性だった。
あんなに愛し合ったのに、あんなにやさしく大好きだった彼なのに…
307:ケロ
09/06/30 01:13:01
>>305さんに先越されてしまいました…せっかく作ったので載せさせてください。
次は>>305さんの「共犯者」「ロケット」「熱帯魚」です。
308:名無し物書き@推敲中?
09/06/30 01:20:20
共犯者 ロケット 熱帯魚
「ぼくのお父さんは爆弾で魚をとったんだ」
太郎は自慢気に語ると手に持ったロケット花火を鼻男に掲げた。
「でも、火は水のなかじゃ燃えないし、水の外で爆発してもしょうがないよ」
鼻男がそれにもっともらしい疑問をぶつける。一瞬鼻白んだ太郎だが、すぐに立て直すと
真っ赤になってライターを取り出した。
「父さんはこうやって取ったんだ。ほんとだって。それ、やるぞ」
「でも、えぇ、火遊びはだめだってお母さんが。やめよォよォ」
ぐずり始めた鼻男を尻目に、太郎は水槽に乗り出しライターに火を点ける。しかし、なか
なかロケット花火に点火しようとしなかった。太郎の目は水槽の中で窮屈そうに泳ぐ熱帯魚
に注がれていた。
「でも、ねえ、やめようよォ」
鼻男はそんな太郎を見て、尚行為の中止を催促した。
「ねえ、やめよ」
鼻男が、躊躇う太郎の裾を引く。太郎はまだ熱帯魚を見ていた。暫くこの問答が続くと、
いつしか太郎の目は腫れぼったく充血していた。
「お父さんは、爆弾で魚をとったんだ」
「でも、水だから燃えないよう。火遊びもだめなんだよお」
「やってみなきゃわかんないだろ。あとおまえも共犯者だぞ。ちゃんと責任とるんだぞ」
それを聞いて、鼻男までもが目に涙を溜め始めた。鼻男はもう止めるようには言わなかっ
たが、依然心細そうに、乗り出した太郎の裾を握っている。
ライターの火はまだ燃えていた。熱でライターの頭が変形してゆく。突っ張るように、熱
した金属に触れたプラスチックの部分が伸びてゆく。
「あちっ」
不意に太郎が喚いた。それに鼻男がびくりと反応する。喚いた本人も驚いた様子で、痛み
のあった手を見た。ライターはすでにその手を離れていた。
二人は水槽に沈んでゆくライターを見た。水の中のライターの火は呆気なく消えていた。
ライターの頭が微かに黒く焦げていた。
水槽の中で、熱帯魚がぽちゃりと音を立てた。
次 「クレヨン」「砂」「蛍光灯」
309:名無し物書き@推敲中?
09/07/04 22:17:44
クレヨン、砂、蛍光灯
部屋は四方だけでなく、天井と床もコンクリートの壁で覆われていた。1辺3m
程度の立方体の部屋だ。天井には蛍光灯が1本だけあった。男は部屋の中央で椅子に
座り、テーブルの上で絵を描いていた。棒を握るように黒のクレヨンを持ち、力を
込めて線を描いていた。
女の髪にとりかかった時、男の靴が崩れて砂になり始めた。靴の形をした砂の
像が崩れていくようである。男は描き続けた。
目を丁寧に描いている時、既に男の下半身は砂になっていた。上半身が浮いている
ような状態だ。手は動き続けた。男は変わらず描き続けた。
もう右腕しか残っていなかった。床と椅子には砂が積もっていた。残すは鼻だけ
だった。男は変わらず描き続けた。
手首まで崩れてきた時、男は描き終えた。握っていたクレヨンを手放した。その瞬間
右手は一度に崩れ落ちた。
紙には微笑む女性が描かれていた。蛍光灯の光が消えた。
310:名無し物書き@推敲中?
09/07/04 22:21:05
次は「ウミガメ」「ふくろう」「山」で。
311:名無し物書き@推敲中?
09/07/05 01:00:10
フクロウが山でウミガメを発見した。
312:名無し物書き@推敲中?
09/07/05 01:47:50
>>311
滅多に無い光景だなw
313:名無し物書き@推敲中?
09/07/05 07:00:10
フクロウが山で海亀を発見した。
「滅多にない光景だなw」
フクロウは興味を引かれ海亀に話かけた。
「おい海亀さんや、ここは山でっせ。あんたがここにおったら海亀やのうて山亀さんになるがな」
すると海亀は首を長く伸ばし、フクロウの大きな目をまっすぐに見つめた。
「そなたが森で有名なフクロウ殿か。お初にお目にかかる。
わしはもう海亀として充分に生きたがのう、やり残したことがあるんじゃ」
「それはなんぞ?」
「百年間ずっと山の遥か上からわしらを照らしてくれた御天道様と御月様にまだ礼を言うておらん」
「なるほど。しかし礼を言うだけならどこからでもよかろう?」
「皆まで言わずともわかっておる、少しでもそばに行きたいのじゃ。
そしてわしも山の上から子や孫達の住む海を永遠に見守ってやりたいんじゃ」
そう言って海亀は山の頂にたどり着き、感謝と祈りを捧げながら死んだ。
フクロウは死んだ海亀の背に乗り朝日の昇る海を見た。
「見てみぃ海亀さん…綺麗やで」
次「死体」「芸術的」「アイドル」
314:名無し物書き@推敲中?
09/07/11 21:14:27
フクロウが山でアイドルの芸術的な死体を発見した。
315:名無し物書き@推敲中?
09/07/12 00:55:57
またかよw
316: ◆DinfA5bnxE
09/07/12 02:13:19
─君のためなら僕はモンタギューの名を捨てよう。僕はロミオ。それ以外の名前はいらない。
ひらひらフリルのドレスを着て、体育館の舞台にわたしは横たわっている。
ジュリエット、ああ、なんていうことだ。言われて、いや文子ですから、内心つっこむ。
死体、といっても仮死なのだが、ロミオこと創介が後追い自殺するまで、わたしは横たわっている。
そもそも文化祭に出ることになったのは、わたしの居眠りが原因だ。
授業中、静かに眠るわたしを見て、演劇部の顧問である先生がジュリエット役に指名した。
でも、そもそも居眠りすることになった原因は、創介だ。
最後の通し稽古の後、カラオケに行くぞ。モンタギュー、本名は忘れたが劇団の団長、
隣のクラスの学級委員に誘われて、団員全員で、ついていった。エレベーターで七階にあがり、
扉がひらくとどう見ても居酒屋で、サワーで乾杯、焼き鳥、刺身をやっつけて、八階のカラオケフロアへ。
高校生なのに。思っても、帰るわけにもいかない。
文子も何か歌えよ。創介が隣に座った。下の名前で呼び捨てですか、そうですか。
曲目リストを手に取る。いまどきアイドルの曲なんて歌えない。アニソンも死ねる。得意すぎて……。
結局わたしは歌わずにひたすら呑んで、呑んで、呑んだ。
創介も負けじと呑む、呑む、呑む。好きな人とかいるの。聞かれて、
え、時間? そうねだいたいね。そんなふうに誤魔化した。
授業が始まっても、わたしはひどい二日酔い、仮死状態。
思うのだけど、ジュリエットはロミオがやってきたとき、意識があったのでは。
そして、ロミオが死ぬのをただ黙って見ていた。
なぜ? そのほうが芸術的だから? 否。
ジュリエットは、名前だけでは信じられなかったのだ。ロミオの死をもって、愛を確かめた。
これでロミオはジュリエットのもの。永遠に。
「パラシュート」「リミット」「サイズ」でよろしこ。
317:パラシュート リミット サイズ
09/07/12 14:37:27
パラシュートなしで人はどれだけの高さから飛び降りられるのか。
ジャッキー・チェンに憧れていた俺は1日1センチずつ高さを上げ、毎日飛び降りる訓練を続け、
今ではその辺のビル程度の高さからなら余裕で飛べる。
ジャッキーも既にどうでもよくなり、飛び降りることが俺の人生となっていた。
しかし、三十代半ばを過ぎるとリミットが近づいてきていることを感じざるを得なくなってきた。
このまま衰えていくぐらいなら死んだ方がマシ─そう、飛び降り自殺をしてやろうじゃないか。
俺はヘリを用意し、雲の上から全裸で飛び降りた。
今まで感じたことのない風と興奮で股間のサイズは人生最大となり、俺は空中に精液を撒き散らした。
俺は空をレイプすることに成功したのだ。
さぁ、次は大地だ─!
次は「妹」「猫」「マシンガン」で
318:ケロロ少佐 ◆dWk3tQvjAGCU
09/07/14 10:33:39
妹 猫 マシンガン
「もう!…」「あんたみたいな能無し…」「さっさとすませて…」
遠くの方で誰かがどなっているのが聞こえたような気がした。
私はテレビの中の画面のお笑いタレントが自分の鬼嫁から日夜受けている仕打ちを面白おかしく話す自虐行為を見つめながらクスッと一つ笑った。
相変わらず遠くでは、悪魔の姿をした嫁のマシンガントークも聞こえていた。
目の前の悪魔には決して視線を合わせないように細心の注意を払い立ち上がろうとすると可愛い猫の ぐるり と目線が合った。
何か言いたげなその目をみつめているとニャーと鳴き嫁の方へひょいと位置を変えた。
「そうかお前は悪魔の味方か…」そうつぶやき悪魔からの指令のお風呂掃除に向かう。
浴槽をゴシゴシ磨いていると、いつもの人格が姿を現した。
マサミという女の子で九州から上京して働きながら女優を目指している26歳の人格。
それは何となく九州の実家にいる優しく、兄想いの妹の姿に似ていた。
最近、奇妙な症例が報告されていた。
本来は、幼児期に親から極度の虐待を受け続けた際に発生する多重人格症。
それが今、30代から40代の既婚男性の中に現れているというのだ…
319:ケロロ少佐 ◆dWk3tQvjAGCU
09/07/14 10:35:52
次は「海岸」「のぞき窓」「手相」で
320:名無し物書き@推敲中?
09/07/25 05:41:44
海岸にそびえ立つ館で占い師の男がのぞき窓から手相を見て生活していた。
少々不気味だがものすごくよく当たるらしい。
彼に生命線が短いと言われた客は例外なく近々謎の死を遂げるという。
そして最近では中年夫婦の間でちょっとしたブームになっている。
次「殺し屋」「天使」「雷」
321:名無し物書き@推敲中?
09/07/25 13:03:29
無理やり流したなw
322:「殺し屋」「天使」「雷」
09/07/29 10:34:03
少年は殺し屋に狙われていた。
親切そうな顔をした中年の警察官に助けを求めた少年がドアの隙間から見たものは、
殺し屋に連絡する警察官の姿。警察官は少年を殺し屋に引き渡そうとしていた。
「もう誰も信じられない。」少年は思った。
メイド、肉屋、花屋、その後ろに殺し屋。少年は路地に追い詰められた。
町中が少年の敵だった。
「もうだめだ。」少年が諦めかけた時、上空から真っ白な姿の女性が現れ、指先から
雷を放った。バタバタと倒れる殺し屋とその仲間たち。
宙に浮かんだその真っ白な女性が少年を救ったのだ。その姿はまさに天使そのもの。
真っ白な女性は少年を見下ろし優しく微笑んだ。
「バケモノ!」少年が叫んだ。無理もない。その真っ白な女性はあまりに部細工だった。
少年は雷にうたれた。
「コタツ」「ジレンマ」「砂漠」
323:名無し物書き@推敲中?
09/08/08 21:05:41
コタツ、ジレンマ、砂漠
そういえば、昔エジプトに旅行に行ったときも、このぐらい暑かったなあ。
コタツの中に潜り込んでるみたいで、身体中が熱気に包まれているって、本当
に感じた。熱の服を着ているみたいだったな。ホント砂漠は地獄だね。ああ、
何であの時迷ったんだろう。砂漠を歩こうか、どうかなんて。砂漠なんて危険
過ぎる、でも行かないのはチャンスを捨てるみたいなもんだ、どうしようか、
なんて迷ったのが今はバカらしい。なんで地獄に行くかどうかで迷うんだ。な
んてアホなジレンマだ。そうだ、よくよく考えてみると、コタツと砂漠を比べ
ることもバカらしい。こうやってコタツの中に潜り込んでいることが、砂漠の
上を歩いていることと比べると、どんなに快適なことか。ちょっとぬるいだけ
じゃないか、コタツの中は。それをあんな地獄とくらべるとは……あれ、何か
暑くなってきたぞ。汗がにじみ出てきた。どうなってるんだ。ここはコタツの
中……のはず、あら、そうだったっけ、砂漠の上にいるんじゃなかったっけ。
いや、コタツの中だ、そのはずだ。だって砂漠のことを思い出していたんだも
の……んう、怪しいぞ。俺は砂漠を思ってたのか、それとも、コタツを、あん、
コタツは夢だっけ、砂漠は記憶だっけ、逆だっけ、どうだっけ、えと、俺
次は「バレー」「せんべい」「パトカー」で
324:名無し物書き@推敲中?
09/08/08 23:41:35
茅ヶ崎ではこの夏、SV(せんべいバレー)が流行っている。
SVのルールは非常に厳しく、原則を無視するものは地元警察による逮捕も辞さないというのが
SVを推進する米菓かたさ度表示推進委員会の総意であり、茅ヶ崎に名を連ねるサーファー達の総意でもあった。
そして、故郷を離れ鳥取から出てきた色白のキモカワ系レシーバー・貧太郎は、
来月の末にサザンビーチにて行われるアマチュア大会で優勝と栄光とを手にする野望を持って、
この日、きたちがさきのホームに降り立った・・・容姿が規律に抵触するともしらず・・・貧太郎の背後には、
今まさにダイハツテリオスの皮を被った覆面パトカーが迫っていた・・・
「肉じゃが」 「生霊」 「夢」で
325:名無し物書き@推敲中?
09/08/09 06:38:05
お題「肉じゃが」「生霊」「夢」
失言癖のある俺が彼女と付き合い始めたきっかけは飲み会の席でのことだ。
肉じゃがを摘まみながら隣に座った友達と談笑していた時、向かいの席で急に彼女が泣き出した
のだが、どうやら俺のその時の慰め方がいたく気に入ったらしい。特に第一声の、
「どした?生霊みたいな顔して」
というのは心底ツボに入ったらしく、今でも有り得ないとネタにされる。
結果的にそれが縁で彼女と付き合う事になったのでそれはそれで良いのだが、確かに大いに反省
すべき内容だ。
今日、彼女にプロポーズするにあたり、その点を踏まえて何度もシミュレーションをしたのだが
かなり不安でならない。あまりに不安になったので出かける前におさらいをする。
「君とずっと一緒の夢をみていたいんだ」
うん、このセリフはいいぞ。あとはどうやってそこまで漕ぎ着けるかだ。などとテンションを
上げた時、突如背後から物凄い笑い声が聞こえたので思わず飛びのいた。
振り向くと彼女がいる。思いっきり腹を抱えて笑い、大粒の涙を流す彼女が。
どうやら夢中になりすぎて玄関が開く音すら聞こえていなかったらしい。
実に気不味い。だが、気不味い空気を振り払い改めて聞くことにした。この際引くに引けない。
「いい?」
散々練習したセリフは既に何処かへと吹っ飛んでしまっている。
だが彼女はこくこくと頷いてくれた。笑うことなく大粒の涙をぽろぽろと流し、ただこくこくと。
15行って難しいな。スマンが少しオーバーしちまった。
では次の方「部屋」「ポロシャツ」「単語帳}でお願いします。
326:名無し物書き@推敲中?
09/08/09 16:55:29
ネット通販で買ったポロシャツが小さすぎた。
サイズ、MはMでも、どうやらレディース向けの商品だったらしい。
試しに着てみるとぴちぴちで、何か特殊なゴムスーツを身につけているようだった。
でも仕方がない。他の服は全て、洗濯して乾かしている最中だった。
それに筋トレが僕のマイブームでもあった。
他人に胸板の厚さや二の腕の太さを見せることが出来るので、この服はまんざら嫌でもない。
鏡の前に立つと、袖から脇毛がはみ出ていたので、それを剃ってから部屋を出た。
繁華街行きのバスに乗ったとき、セーラー服の女子高生が僕にちょっと目を遣ってきた。
しかしすぐ、何事もなかったかのように、手の中で開いている単語帳へ、視線を戻した。
どうだ。別に僕の服装は変じゃないのだ。
嬉しくなって、吊革につかまる腕に力を入れるなどし、周囲に筋肉アピールをした。
到着すると、うどん屋できつねうどんを食べた。唐辛子を山のように振りかける。特大。男は辛党で、大食いであるべきだ。
次に目的地であった服屋に行き、味を占めた僕は、今来ているのと同じくらいのサイズの服を買った。
プレゼントの包装を致しましょうか、と店員が聞いてきたが、自分で着ます、と僕は答えた。
店員の顔に理解の色が浮かび、なるほどという目をした。僕は誇らしくなった。
帰ると、ポケットの中に部屋の鍵がないことに気づいた。
ちょっと立ち往生していると、隣人の女性が、挨拶がてらに「ちょっと小さい服ですね」と言った。
隣人はすぐ部屋に引っ込んだが、彼女の我慢したような笑い声は聞こえてきた。
僕は汗が出てきた。歩いたせいか、昼間に食べたうどんの唐辛子が利いてきたのか……。
どうしよう。ぴちぴちの服でボンレスハムみたいになりながら、汗まみれの僕を、通りすがりの人はどう思うだろう。
どうしようどうしよう。買い物袋を抱えて、ずっとそこに突っ立っていた。
327:部屋・ポロシャツ・単語帳
09/08/14 23:09:12
1/2
突然のお手紙申し訳ありません。今から語る内容は御社の発行している週間雑誌に載せていただければと思い、筆をとりました。
もし興味をひかれたのなら下に明記している連絡先まで一報いただければと思います。
さて、今テレビなどで取り上げられてている悲劇のピアニストのことはご存知でしょうか? 年齢が十にも満たない盲目の少年のことです。
まだ未完成ながらも才能の片鱗を感じさせる音を奏でていると思います。私も昔はピアニストでしたので耳に自信はあります。
彼のスター性は演奏だけではなく、その生い立ちにあると思います。父親を亡くし、事故で視力を奪われ、まるでオペラの悲劇の主人公のように幼い身体に様々なものを背負っています。
しかし私はそこに疑問を感じます。彼は虐待を受けているのではないかと。
なぜなら私こそが彼の父親ですから。当然、虐待しているのは彼の母親です。
私が彼女と出会ったのは、私がピアニストとして名が売れ出した頃です。雨の日に彼女が運転する車に水を掛けられたのが初めての出会いだと私は思っています。
申し訳なさそうに謝る彼女の容姿は美しく、私もつい下心から連絡先を教えてしまいました。翌日に私の汚れたポロシャツとまったく同じ柄・サイズのものを持ってお詫びに来てくれたときは、なんと礼儀正しい子だと感動しました。
そこから親交が深まり、交際を通じて結婚に至りました。
婚約して一年経ち、順風満帆な結婚生活でついに子供ができたことを知りました。そんな幸せな日々の中、些細な衝突がありました。妻は子の将来はピアニストと決めている節がありました。
音楽の道を諦めた私は断固反対しました。せめて選択肢の一つであってほしかったのです。その翌日に妻はいなくなりました。書置きには一言「あなたはもう用済みです」
328:部屋・ポロシャツ・単語帳
09/08/14 23:13:15
2/2
私は妻と子を探すために日々を費やしました。そこで気づいてしまいました。妻の望んでいたものに。
妻の部屋の押入れにガムテープで巻かれた段ボール箱がありました。中には昔の日記や出会う前の私の写真、私の趣味を詳細に書いた単語帳などが見つかったのです。
日記帳には音大生のときに事故で指の腱を切ってしまい、ピアニストの道を諦めざるをえなくなった妻の悲しみがつづってありました。
ここまで書くともうお分かりかと思いますが、妻は子供をピアニストにするためには手段を選ぶような人間ではないということです。
私は子供のことが心配で仕方がありません。どうか、この事実を白日の下に晒していただきたいと願っています。
お題流しのついでに没作を。これ以上削れませんでした。
次、「ハンガー」「ガム」「カーテン」
329:名無し物書き@推敲中?
09/08/22 22:14:03
「今、何月だっけ?」
わざわざカーテンを開けて泣きやまない雨を眺めながら巴がぼやく。何度も繰り返す問いに呆れながら僕はしっとりと湿ったTシャツを手に取る。
「そろそろ夏休みだね。巴も手伝ってよ。それに雨なんだしカーテン閉じてね」
一人暮らしとはいえ、3日分の洗濯物を全てこの狭い部屋に干すのは骨が折れる。
「何。せっかく遊びに来たのに家事やれって? それにハンガー渡してるでしょ」
明日提出の宿題を写しに来た巴が、長い黒髪を畳に広げて言う。電灯の真下にいて尚、ツヤのある髪は黒く輝くだけだった。
家に唯一あるバスタオルをパッと広げると、ふわりと洗剤の香りが部屋全体に広がった。心地よさそうに巴が目を細める。
「最後……と。本当に何もしないよね、巴って」
小さな口を微かに動かしていた巴が片目だけを開いて、勢いよく立ち上がった。
「昔から私はハンガー担当で、あんたが干すって決まってるの」
髪をなびかせて台所に行く巴からは、洗剤の匂いとはまた違った甘い香りが漂ってきた。
昔、母さんに言いつけられた仕事を巴と二人でしていた時、良いところを見せたかった僕は背が届きもしないのに一生懸命ハンガー目指して手を伸ばしていたのだった。
ものぐさな巴に「僕が干すから巴はハンガー渡してね」と言ったはいいが結局どうしようもなくて二人で肩車をして洗濯棒に一枚一枚干していったんだっけ。
あの時は二人して喜んで、それから……。
「はい」
巴が一枚のガムを差し出していた。柔らかい笑顔に誘われるまま、紫色のガムを口にいれて何度か噛む。
もう今では甘すぎて食べなくなっていたのに、こうして何かが終わる区切りにはこのグレープガムと二人で食べるようにしている。
「ほら、晴れた」
開かれたカーテンの先に、久しぶりの青空が灰色の雲の隙間から広がっている。
こうして二人で味がなくなるまで顎を動かしていると、いつの間にか日溜まりの中にいたから。
15行難しい……
「公園」「風船」「手」
330:公園 風船 手
09/08/23 19:07:01
手を怪我したので仕事をやめた。万力で潰されたようにひしゃげてしまったのだ。それはさておき
夏なのに手袋をして外を歩くのは少しむさくるしい。だから日課である散歩は夜もあけやらぬ朝方
にすることにした。
誰もすれ違う者はいなかった。当り前なのだ。まだ丑三つ時をすぎて間もないといっていいくらい
だ。でも少し歩いただけで汗が頬をつたう。俺はベンチに座った。大きな蛾が灯りに舞っていた。
チリチリいってるそれに気をとらわれていると、薄闇のカーブのむこうから黒服の少女が歩いてき
た。闇と楕円に照らされた光のなかを交互に姿を現し消しながら。俺のわきに座った。
「おっちゃんけったいな手袋つけてんな。暑いやろ」
少女の目はとても大きくて涙をたたえたように艶があった。
「手を見られたくないからね。仕方ないんだ」
少女は笑った。「こんな暗いところじゃ誰も見られひんし、誰もいんわな」
「まあ、そうだね」と俺はいった。
すると少女はゴソゴソとポケットに手を突っ込んで薄い縦長のガムを取り出すと包み紙を丁寧に外
して口にさしこんだ。そして俺にもと指で押すようにして顔の前にひょいとちらつかせる。
俺はかたわだからもじもじした。すると少女はうれしそうにわかったというような笑みをして、俺の
片方のつぶれた手を仔細に検分しながら、またさっきと同じように丁寧に包み紙をガムから外して
俺の口にそれをさし込んできた。
「おっちゃん、手ぇ痛いか?」
「今は痛くない」
今にして気づいたことだが、少女は家電量販店の広告の入った緑色の風船を腰からぶら下げて
いた。
「おっちゃん手ぇ重そうや」
少女は紐で腰に複雑に結ばれていた風船を外して俺の手首に結びつけた。
「これで軽なった?」
俺はいった。
「軽なるわけないやろ」
それで少女は暗闇を直視したままガムをくちゃくちゃした。なるほど。だから俺もそうすることにした。
「ベルリン」「石畳」「声」
331:「ベルリン」「石畳」「声」
09/08/24 03:07:14
祈りの声、蹄の音、歌う様なざわめき。私を置き去りに過ぎていく白い朝。
石畳の街角を、ゆらゆらと彷徨う。「ベルリンの壁が崩壊したのは、いつの事だろう?」
時間旅行が、心の傷を何故かしら埋めていく、不思議な道。
「あなたにとって、私、ただの通りすがり?」悲しみを持て余す。
次
「ネット犯罪」「心霊現象」「ヒップホップ」
332:ネット犯罪 心霊現象 ヒップホップ
09/08/26 20:10:07
探偵Kはこのようにして犯罪にまきこまれたのである。
ある日、彼にもたらされた依頼はインターネット上で連鎖する心霊現象に関する調査だった。限り
なく公的な機関からの依頼であったのだが、内容はいささか霧につつみこまれたような、本質をつ
かみがたいものであった。実に心霊現象といいながら、具体的な現象はまったく示されずに、とに
かく調査をしてくれというものだった。雲を掴むような依頼なのだが、でも彼は金銭以上に乗り気な
のはいうまでもない。なぜならこれを成し遂げれば公的な依頼である以上、また次の仕事につな
がる可能性は高いからだ。
彼はネット上で偶然にも、ある匿名の女からこの謎を解き明かす鍵を私はもっているとの連絡を受け
この部屋にやって来たのだ。
彼が部屋の扉を開いたとき、目につくのはベッドに横たわる裸の女、そしてパソコンのディスプレイが
薄闇にうかびあがる光景だった。
彼は確信もなく女の臍のあたりに手を置いた。まだいくぶん体温が残ってはいたもののまったく微動
だにせず、もはや生命の感覚はそこに残されているとは思われなかった。パソコンからはひどく小さ
な音でヒップホップの軽やかなリズムが聴こえていた。彼は不思議に思う。この女が故意にそれを流
していたとは思えなかったのだ。どちらかといえば女の印象は古典的だった。
パソコンの履歴として残るものは彼とコンタクトをとったメッセージ(・・・あれは・・・ではありません
・・・悪意を持った人物による故意的なネット犯罪なの・・・)と、意外なことに残りはセクシャルなもの
ばかりであることがわかった。セクシャルな動画、閲覧履歴・・・。
彼はベッドに横たわる女をのぞきこむ。彼女からはまったく卑猥で、サドマゾチックな印象はやはり
受けない。
彼は女に触れた。やはり微かにあたたかかった。今度は手におさまるほどの胸を掴んで肉付きの
いい脇腹を撫でた。まったくの無反応。そうだ、この女は無なのだ。
彼は服を脱いだ。女とかさなりあう。そして何度も射精をした。
しかし、いつしか女は感じだす。あの女が感じ出しただと?ヒップホップは音量をましていた。彼らをま
るで励ました。いったい誰がこんなにも音をでかくしたんだ。部屋には俺たち以外誰もいないのに。
おまけにいったいどうして、これは、こんなにも俺を感じたりするんだ。
333:名無し物書き@推敲中?
09/08/26 20:12:33
「女子高生」「雨」「アナウンス」
334:名無し物書き@推敲中?
09/08/27 11:21:47
十年ぶりの帰郷、実家まであと少しの踏切で突然の雨。土砂降りの雨。空はこんなに晴れているのに。
ふと気付く。踏み切りの向こう側に女子高生がたっている。全体が陽炎みたいではっきりしない輪郭。表情も長い前髪でよく分からない。だが微かに口元は微笑んでいるようにみえる。僕はもうそれから目を逸らす事ができなった。
少女の胸の辺りに黒い点が滲む。何かと思いじっと見つめると、それは徐々に広がっていきサッカーボールくらいの穴になった。
穴は貫通していて向こうの景色が見えた。それは僕の閉じ込めていた青い記憶だった。
必死に自転車を漕ぐ青年。杉林に響くアナウンス。
「今日S町の崖で女の子が転落しているのが見つかりました。……」
荒い息。白い肌。……人工呼吸。初めての口付け。人工呼吸。初めての……。
「カンカンカン」
警報の音にはっとして目を上げる。電車が音もなく流れて行く。最後が過ぎていった後彼女はもう向こう側にはいなかった。
蝉の声がボリュームを上げていき五月蝿いと感じるくらいでようやく我にかえる。ゆっくりと遮断機が上がる。僕はしばらくの間ぼーっとつっ立っていた。雨はいつの間にか止んでいた。遠くにあるはずの入道雲が今にも覆い被ろうとしていた。
僕は振り返り歩き出した。背中に次第に大きくなっていく入道雲を感じながら。
335:名無し物書き@推敲中?
09/08/27 11:24:24
次は 「シグナル」「エウロパ」「ブランデー」
でお願いします。
336:シグナル エウロパ ブランデー
09/08/28 10:58:50
惑星エウロパが〝張りぼて〟であったという事実は全人類に衝撃を与えた。エウロパはそもそも
半円球であり、木星の自転・公転にあわせ常に地球にその前面部分を向けていただけというのだ
から驚きである。歴史上一番の驚愕といっても間違いではない。そのような巨大な物体が造られ、
限りなく精緻に操作されており、また明らかに何かしらの目的をそこから感じられるとしたら、これ
は地球外生命体、しかも高度な知性を持った生命体からのシグナルやらメッセージが含まれてい
るに違いがないわけだからである。こうした発見はフィジー諸島でバカンス中であった素人の天体
観測家によって偶然発見された(なにせ惑星の表面に隕石によって穴が開き向う側が見えていた)
のだが、当初疑われたのは米露どちらかの宇宙計画の一端ではないかというものであった。もちろ
ん現代科学においてこのような事実は圧倒的優位性をもって否定されたのはいうまでもない。
となればやはり宇宙人による・・・。
「でも、これが宇宙人によるったって、俺たちに何の影響があるんだい?」
この文言は地球のどこかしこで聞かれたのもだ。何十年何百年、さらにずっと前からかも知れない
間こうした操作が行われているにもかかわらず、地球にはいっさい手を出されていないのだとしたら、
今更騒ごうがどうってことはないのだ。
「宇宙人も暇なんだな。こんなことして何んなるんだろね?」
世界の一歩先を行く日本国、秋葉では早くも天体観測喫茶が登場し話題をよんでいた。店内に設
置された大画面に映し出されたぼんやりとしたエウロパを眺めながらとあるサラリーマンがいった
言葉である。実際に彼はまったく宇宙の神秘になど興味はなく、興味本位のOLとひと晩をともに
したいだけであった。さらにいうなればOLでさえもう宇宙などどうでもよくなっていた。
「ねえ、なに飲んでるの?」
「これブランデー」
「は?ここ喫茶店だよ。でもおいしそう、ちょっと飲ませて」
OLは男に肩をよせながらグラスを手にとった。水滴のついたそれは熱帯夜のこの日、喉越しよく
OLの胃へとなだれ込んでいったが、何故かふにおちない表情を見せた。
(これがブランデー?)
OLが不思議がるのも無理はない。なにせ口にしたブランデーなるものは砂糖が微量に入った麦
茶の味のような気がしたのだから。
337:名無し物書き@推敲中?
09/08/28 10:59:57
「睡魔」「アナウンサー」「パスタ」
338:「睡魔」「アナウンサー」「パスタ」
09/09/13 01:49:46
「皆さん今晩は。眠れないひと時、いかがお過ごしでしょうか」……
小さな店を始めた頃、寝つきの悪い私は、ラジオから流れるこの
アナウンサーの声を聞くことだけが日課でした。
夜が明けるまで一晩中布団の上で声を出して笑い、そして泣き、
毎晩一睡もすることなく雨の日も風の日も、早朝から店へ出たのです。
辛かったこと?
昼に眠気が襲ってくるように店内で体を動かし、
コンディションを整えるのが、一番辛かったことです。
シェフの気まぐれパスタ。
睡魔に体を支配させることで可能になる、
尋常ではありえない隠し味と大胆なさじ加減が、
OLに大人気になった、味の秘密です。
次は「太陽」「ごみ箱」「憎いあいつ」で
339:名無し物書き@推敲中?
09/09/13 11:48:17
俺はふらつく足を片方ごみ箱に突っ込みながら、憎いあいつのことを思い出して太陽を見上げた。
次回:「夢精」「たらこ」「美術館」
340:名無し物書き@推敲中?
09/09/13 14:30:35
夢精したらこんな美術館になった
次は「太陽」「ごみ箱」「憎いあいつ」で
341:名無し物書き@推敲中?
09/09/13 16:35:28
俺はふらつく足を片方太陽に突っ込みながら、憎いあいつのことを思い出してごみ箱を見上げた。
次回:「夢精」「たらこ」「美術館」
342:「夢精」「美術館」「たらこ」
09/09/15 03:01:56
「無責任だよ、そんなの。」
あの日は何処に居たんだっけ…。そうか、確か美術館の前で入り口に飾られた魚の絵を見ていて、それから、口論になった。
柔らかそうなピンク色の魚がまるでタラコみたい、って。笑って言う顔が可愛くて、意地悪がてら「好きだ」って言った。
青臭い話だけど、その時は本当に、淡く描かれたピンクの絵も、それをタラコみたいって笑う君も、自然に見えて。
これじゃ恋みたいだから、「夢精って字だけ見ると綺麗だよね、まぁ女の子で言う気付かないでくる生理みたいなもんだけど。」とか、自分でもよく解らないしょうもないことを口にして、
気付いたら彼女は泣いてた。
怒ったように。僕を睨んで。ピンクの魚の絵まで冷えて萎んでいくみたいで。
「夢の中にまで呼び出しておいて、タラコの夢まで見せておいて、君が何をしたいのか分からない。美術館の沢山の絵も見ようとしない。夢精が字として綺麗だとか、確かにそうかもしれないけど、嫌なの。嫌だ、そんなの。」
…空が青くて。それが悲惨な暴力みたいで。もう一秒も彼女を見てられなかった。僕にも彼女が誰なのか、何なのか、分からなくなって居たんだ。
何がなんだか分からない言葉を選び出す、唇はすぐそこにある。
だけどもうそれが、ピンクの絵、タラコ、夢精の話、青い空、暴力、萎んだ日と魚…全部ごちゃ混ぜになっていて。苛々して、疲れて、逃げ出したかった。
「…無責任だよ」
その言葉だけ撃ち込まれた鉛みたいに冷えて。その場所がもう胸か頭か、僕の外側か内側かも分からない。
今じゃきっと僕ら、気付いてる。
僕らはただ手を繋いで美術館に入ればよかった。
「つまんなかったね」なんて言いながらアイスを食べたり、躓く彼女を馬鹿にして、君が怒って、その後に笑って。
普通に続きをして、つかず離れずや別れるをすればよかった。それをしたかった、多分。
硬化するコンクリート。青いだけの空。行き急ぐ人も美術館も実感を無くして、色のないタラコクリームだけここにある。
「愛してるよ」「無責任」「分かってない」「好きだよ」
あの日に取り残されたまま、無責任な美術館と街に追い立てられる。
―見つけて。探して。
虚ろな街で「好きだよ」って。もうあの日の前に、帰れたらいいのに。
時間に逆らえず、秋だけ落ちてくる。あの絵に取り残されたまま、僕らに。
343:名無し物書き@推敲中?
09/09/15 03:09:25
次は、「電卓」「待ち人」「痺れクラゲ」でお願いします。
344:「電卓」「待ち人」「痺れクラゲ」
09/09/15 03:44:40
「それ返せよ」
歩いていた私を呼び止める二十歳前後の若者。怒っている?なぜ?
「それだよおっさん」
私の鞄を乱暴に引ったくり中を開いている。
夕方の帰宅時間人通りは多い。
若者に絡まれている私を誰も助けてはくれない。
若者は電卓を取り出し、だぶだぶのズボンのポケットに無理くり入れる。
私は呆気に取られている。というより怖い。怖さがむず痒い。
鞄から私の万年筆、雑誌(SPA)、書きかけの手帳、何枚かの書類、痺れクラゲを取りだし両手一杯に持つ。
痺れクラゲ?なぜ?痺れクラゲが私の鞄に?
「いいよ、おっさん帰ってよし」
笑を浮かべる若者は抱えきれないほどのお菓子を一杯貰った時の幼子のようであり、
私は長いこと逢っていない息子を不図思い出した。
私は待っていた。長いこと待っていた。ようやく待ち人が現れたことに気付いた。
おかえり。健太・・・
若者はもういなかった。
私は中身の無くなった鞄を手に取りまた歩き出した。
次は「祈り」「不眠症」「鍵穴」で。
345:「祈り」「不眠症」「鍵穴」
09/09/15 06:43:14
「祈り?なぁに、それ。」
二人で体育座りをして薄明かりの中聞いてみた俺は、面食らわざるを得なかった。
彼女は誰よりも祈っているように見えたものだから。それを心配もしたし、見てもいられなかったし。寧ろ結構な度合いで俺だって悩んで疲れていたんだ。
「君は知ってると思ってたけど…」
恐る恐る、聞く。俺はこの子に、正直身構えてしまう。半分以上くらい怖い。あとは多分、興味。
察したように、小首を傾げ話し出す声。
「多分、不眠症だからだと思う」
…混乱するしかない。が、耳を澄ましてしまう。次にきっと答がくるから。
「眠れないとね、多分祈りに塗れすぎて分からなくなるの。過剰に摂取して嘘にされるのが、やなんだ。元々少ない方がいいんだよ。だからね、あんまり分かりたくない。」
よく解らないけど、なんとなく納得。探られるのが嫌なわけ。難しいな。
「ねぇ、アリスの本、読んで。」
どうしてかは図り知らないが、この子は真鍮の鍵穴に兎が小さな鍵を差し込む場面を気に入っている。
昔、兎が背を伸ばすのが可愛いし、アリスと時計男爵が「おかえり」って言うのが安心する、と言っていたような。
まぁ、どっちでもいいや。
「アリス、イン、ワンダーランド。昔々…」
子供のお守りは正直、面倒。だから多分余り考え過ぎない方がいい。
神様だとか、この子にしたら多分どうでもいいわけで、俺もホントは余り興味が無い。
「…おかえり。」
その場面で目を合わせて笑う。
不眠症の夢は続く、橙の明かりに体育座りで。
アリス、イン、ワンダーランド。
今この時間の方が、よっぽど祈りだと気付いてみたり。それはまた本筋とは、別のお話し。
「嫌い嫌い」「あまのじゃく」「ほうれん草のスープ」
346:ほうれん草のスープ 天の邪鬼 嫌い嫌い
09/09/18 13:53:07
ほうれん草のスープのような池から這い上がった天の邪鬼のグドンは辺りを見回した。
しかし景色はいつもと変わらず、空は厚い雲に覆われ、大地は荊と毒草で地面が見えない。うんざりするいつもの光景だ。
彼が別の世界の存在を知ったのは数週間前。芋虫の婆さんに死ぬ前に何か言うことはあるかと聞いたところ、信じられないようなことを語り出した。
「太陽が降り注ぎ花達が笑い咲き誇り、鳥達が楽しそうに歌う。そんな世界がわしらのすぐそばに存在する。」
それはどこにあるのか尋ねたが、婆さんは其処までは知らないと言った。
池に潜っていたのも悪友のグズが池に一時間潜って上がれば別の世界に行けると言ったからだ。だがどうやら担がれたみたいだ。奴は後で殺さなければ。
近くの岩に腰を下ろし溜め息をつく。
「もう嫌だ…… 嫌だ…… 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ…… うんざりだ……」
母さんに会いたい。ほとんど記憶はないが、とても優しかった気がする。父はどうしようもない奴だった。最後まで救えないくずだった。思い出したくもない。母さん。母さん……
グドンは泣いた。大声で泣いた。もう声が出なくなるというほど泣いた。しかし彼を慰めてくれる者はいなかった。大地はすでに悲しみで飽和状態だったので彼の鳴き声は空の雲に吸い込まれた。そして雷を起こし、激しい雨を降らせた。
グドンは雨のなかよろよろと立ち上がり、ぽーんと池に身を投げた。そしてゆっくりと、ゆっくりと沈んでいった。瞼の裏に浮かぶ朧気な母の姿に微笑みながら。
次「北極」「観測」「疑念」
347:名無し物書き@推敲中?
09/09/19 01:14:37
北丹後地震による死傷者は1万人を超えていた
極限状態で人は決して抗えない力を知り畏れ祈った
観念し呆然となる群衆のなか決して歩みを止めない者達がいた
測定結果は一つの答えを導き出す
疑点疑団は数あれど
念仏はもう聞こえない
次「タテ」「読み」「ごめんなさい」
348:「タテ」「読み」「ごめんなさい」
09/09/19 01:42:46
栄誉ある騎士である夫が、浮気をした。それだけなら、良い。私は夫を愛しているから。
でも、夫は私との離縁を裁判所に訴え、認められた。賄賂と、夫の浮気相手の公爵令嬢の力だった。
私は兄さんに縋った。私を、妹として以上に愛している兄さんは、頼み通り、夫に決闘を申し込んでくれた。
夫は御前試合さえ任されるほどの手練れで、青白い兄さんがかなうような相手ではない。
でも私は兄さんに、夫の癖、隙を教えた。踏み込みの後に、剣先がタテに動いたときは追撃はない、
その瞬間にこちらが踏み込めば勝てる、そう言った。兄はそれだけを頭と体にすり込んだ。
決闘。兄が防戦を続ける。夫は余裕を見せている。その背後であの女が声援を送っている。
私より若くて華やかな女。なぜ私の夫の後ろに、私の夫なのに、私は離婚なんて認めていない……
その瞬間、夫の剣先がタテに揺れる。その機を読み、兄さんが飛び出す。草が舞い剣が伸びる。
兄さんの剣先は夫の胸に突き刺さり、一瞬のしなりの残像を残して深々と、骨の隙間から命に届いた―
命を失い、夫が倒れる。同時に、夫の剣に胸を貫かれていた兄も、絶命して倒れた。
ごめんなさい、兄さん。夫の剣先がタテに揺れるのは、そう、得意の追撃に移る合図なの。
でも、兄さんの剣を夫に届かせるには、相打ちしかなかったのだもの。許して頂戴。
私は隠し持っていたナイフで自分の喉を引き裂いた。
何もわからず呆然としている女を視線で嘲りながら、私の夫の後を追った。
次は「金曜」「深夜」「一時」でお願いします。
349:名無し物書き@推敲中?
09/09/19 23:05:23
『金曜日深夜のフライトゥナイトエモーション!始まりましたねぇ~今夜は…』
…っせーな。苛立って左手でラジオを止める。嘘臭え喋り過ぎは苛々すんだよ。くそっ
目前に打ち付けられる雨。その一粒一粒までもが神経を逆撫でる。俺は一体何に苛立っている?思考の一つ一つが苛立ちの原因になるようで。
いっそアクセルを踏むのなんて止めちまえばいい。思う程踏み込むから笑えてくる。今の時速?知らねえ。200でも800でも出ればいい。
掻っ払ったポンコツの割りにはよく走る。ハハッ、上がってきた!
脳梗塞とゴミ屑みたいな毎日の上塗りにキレて、俺が選んだ犯罪は「窃盗」。盗んだのは高級でもねえ車一台だ。盗めりゃ何でもよかったんだ。理由?走りたかったからです。
犯罪者の手本みたいな思考にゾクゾクして口笛を吹く。ヒュー。俺ユートーセーだからね。
急カーブ!右!
勢いに任せてハンドルを切るとタイヤが擦れ軋み歪む感触。やべー窓閉めっぱなのにゴムの焼ける臭いまで感じるわ。アドレナリン止まんねー。
因みに銃も盗んだ。ポリが寝てたから使えたらラッキー位のついで。当前の事だけどポリは俺が寝かした。まぁそーだよね。
『そこの車止まりなさい!』
サイレンと共に聞こえる割れた声。そーそーそうこなくっちゃねぇ、面白くねえからもっともっ…
目を奪われる。今、深夜…1:00?ガキが突っ立って詰まらなそうに、俺を眺めてた。…俺を?
…っそ、左!
なんとか曲がり切る。けど2秒前とは違う。何もかも違う。汗。疑惑。少年。冷めた目。震える。盗み。助手席。女。
じゅ、銃、銃の使い方、ネットで読んだ、頭、平気、
倒した助手席から笑い声が聞こえる。
クスクス…クス…だから言ったのに…ふふ、可笑しい…クスクス
サイレン、赤、割れた音
「…っははは!」
どーせ死ぬんだ、やってやるよ!
銃に手を伸ばしたその時
――ドン!
衝撃と共に回転する視界。しょ…げき…後ろ?ポリ…違う、近く…
振り返ったそこには…
ピッ。俺はテレビを消した。横では人が死んでる。そう、死んでるね。
やっぱテレビなんてリアルねえなー。
死体の頬にゆっくり指を滑らせる。にこ、と笑いかけてみる。今回の世にもはイマイチだったな。
次は何を見ようか。ね?しーちゃん。
350:名無し物書き@推敲中?
09/09/19 23:08:04
「愛好家」「つがい」「無理心中」
351:名無し物書き@推敲中?
09/09/19 23:15:05
すいません、>>349の三語は「金曜」「深夜」「一時」でした。
次の三語>>350でお願いします。
352:「愛好家」「つがい」「無理心中」
09/09/20 07:29:18
「 ……世の中間違っている 」
連日連夜繰り返される、薬剤愛好家夫婦のテレビ報道を見ながら男は呟く。
虚ろな目をした男の妻は無言だった。
「 もう死んだほうがいいだろ 」
男は妻に問い掛ける。妻の表情は変わらない。
窓の外を赤とんぼのつがいが空を切る。飲み込まれそうな深い空。もう晩秋も近い。
どこでどう間違ったのか妻のポーチからも最近テレビで報道される白い粉の入った
小さなビニール袋が大量に出てきていた。
「 もう死んだほうがいいだろ 」
男は自分に問い掛ける。もう答えは出ていた。最後の一押しが欲しかっただけだ。
―薬剤に溺れた妻を苦に無理心中……
テーブルを踏み外し喉を締め上げられながらも男は
明日の新聞記事と世間体を気にしていた。
次「新米」「ぶどう」「運動会」
353:名無し物書き@推敲中?
09/09/20 22:55:49
運動会に母ちゃんが持って来てくれたのは
新米で作った煎餅と自家製の干しぶどうだった。
あの~弁当は?
次「かゆみ止め」「コーラ」「タイル」
354:名無し物書き@推敲中?
09/09/21 00:11:14
駄目だ。かゆみ止まらねえ。かゆみ止め効かねえ。
腹減った。もう食べ物無いし、コーラもねーし、家族もいないし、食べ物無いし、かゆい、かゆい、カユい、カユい、カユイ
外いって食べ物探そうかなぁーってさっきからうっせぇよ!!どっかいけっつーんだよ糞野郎がぁ
駄目だ。なんか意識が、なんか、なんかタイルの割れ目からなんかいっぱい虫が出て来た。なんだこれ。なんだ、なんかきあなんきあなんかゆいカユイか
あーはらへった……
次「ホモサピエンス」「アルファ」「オメガ」
355:「アルファ」「ホモサピエンス」「オメガ」
09/09/22 09:27:59
「……しにたい」
唐突にオメガは呟いた。一度口にしてしまうと心の暗黒素因を全て吐き出してしまわなければ気が済まないのか
「嫌なんだよもう疲れた、有り得ないよ本当に。真面目な話俺にこんな名前をつけた奴は今すぐ死刑になるべきだ。嫌だ嫌だ眠りたいなんで俺は人間になんか……」
自身がホモサピエンスとして生まれたことまで、悲嘆のメロディに変えてしまった。
吐き出すオメガの口元は猫のよう。文字通り“ω”といった感じでにゃんとも愛らしい。
「んなもんさぁ、オレさまみたくアルファー波出しときゃ無問題ですよ。」
オメガを励ますように言い放つアルファは、“オレ”なんて言っているが列記とした女の子である。賢そうな口元、聡明かつ野生的に輝(ひか)る瞳。
ふわっとした頭のてっぺんのオダンゴは、記号で表すとこんな形「Ω」。
ここまでかっちりと結われてはいないが、丸くて大きなオダンゴ、雰囲気で察して欲しい。敏感な読者の勘付いた通りアルファの可愛さは一級品である。
「アルファは疲れることとかないの?もう無理、ホント限界です。俺辛い……しんどいよう」
上目遣いで嘆いてみるオメガをアルファは呆れたように見下して八重歯を見せ言った。
「だーかーら、お前に足んないのはアルファー波だグズ。これでも食っとけ。」
ばらばらばら……
アルファはポケットいっぱいの野イチゴを、可愛い手でオメガに浴びせかけた。まん丸になってゆくオメガの目。
「……ッチ。全部食えよ!」
イライラしたようにピンク色の口で言い放つと、アルファは羽よりも軽そうな足でライオンのハクランのところへ走っていった。
オメガは最初の一つを口にした時点、半年分以上ものアルファー波を摂取し愕然としたという。
言われた通り全部なんて食べたらとても生きていられない。そう猫口で言うものだから、今その野イチゴを煮詰めてジャムを作っている。
私だって味見でさえ、甘すぎるアルファー波にすぐにでも死んでしまいそうだ。
魔女の私が何故こんな愛らしい材料でジャムを?
この家に住み着く赤ネズミのソルトでさえ桃色になって逃げ出す程、さわやかで甘美な匂いが森に充ちてゆく。
比例して募る溜息が、止むのは何時の日になるだろうか。
「ペンネ」「熊猫」「かく語りき」でお願いします。
356:
09/09/26 00:56:51
だれか感想スレも盛り上げましょうよ
357:名無し物書き@推敲中?
09/09/26 19:18:10
「大作家・大熊猫ペンネかく語りき」
……すまん、完全なる上げだ
358:名無し物書き@推敲中?
09/09/28 23:53:28
風呂上がりにビールを飲みながら15インチのテレビをつけて、「ああコイツ殺してえ」と思った。
有名な哲学者の名前を付けたらしい女二人組が醜悪な腹を晒している。
共演者達の愛想嗤いに、自分のプライドを満足させている。
熊猫だ。上野でのうのうと笹を喰らう、閉じ込められた世界の、女王気取りの。
絶滅させなくては。ぼくの目を、ぼくの世界を、これ以上汚染させないように。
ぼくは早速アルバイト情報誌でテレビ局の清掃の仕事を見つけて、電話をかけた。
始発で週に6日通ううち、見取り図を空で書けるほどに建物を覚えた。
どこにいても違和感のない衣装と入館証を手に入れた。ひと月のロケの予定は壁に貼られている。
清掃員として潜り込んでから三月もした頃、ある女優と熊猫との、おぞましいトーク番組の予定を見つけた。
ペンネのおいしいレストランについて、唾を飛ばして為されるトークを考える。
撲殺だ。動物には撲殺がふさわしい。
ぼくは初めて始発でない電車でテレビ局へ向かった。
清掃には不自然な時間だったが、ロッカーに忘れものをしたんです、と告げるまでもなかった。
獣だらけのくせに、ここは動物園より管理が甘い。
ぼくは『ツァルストラはかく語りき』を取り出して、Cスタに向かった。
つぎ、「4度」「兎口」「嫉妬」で。
359:「タテ」「読み」「ごめんなさい」
09/10/06 00:40:46
私にとって、家は不満の固まりだった。
薄汚いアパートの一室。愚痴ばかり多いくせに面と向かってはろくにしゃべらぬ両親。
息が詰まる。体の内側が気持ち悪い。不安になる。たまらない。
私は家での圧迫を解放するように、学校では花の女子高生らしく明るく元気に立ち回った。
うまくいっていたと思う。生徒も教師も私を認め、頼りにしているのを感じることが出来た。
だから私は調子に乗って、「妖怪人間」と呼ばれているあの子に話しかけたのだ。
上唇が縦に裂け、鼻にまで達している。兎口、と言われたりする病気らしい。
友達の少ない彼女の友達になってあげようと、話しかけ、遊びに誘った。断られた。
本や映画の話題を振ってみた。曖昧な返事しか返ってこなかった。次の挨拶は無視された。
こうなったら、リスクを承知で深いところまで踏み込んでみるしかない。
4度目に話しかけるとき、私は訊いた。「その口、手術とかしないの?」
「お金がないし、それに……」彼女の唇が不気味に伸びる。笑ったのだと、後から気づく。
「……お母さんが、手術させないと思う」
「……ど」正体のわからぬ威圧感に口ごもりつつ、なんとか訪ねる。「どうして?」
「だって……」彼女が笑う。いや。あれは笑っているのではないのかもしれない。
「だって、お父さんのペニスをくわえた私の口を裂いたのはお母さんなんだもん」
その瞬間、ああ、神様だか誰だか、すみません。私は彼女に、その家庭環境に、
自分でも思いがけず、理解できぬことながら、確かに激しく嫉妬をしたのです。
次は「科学的」「論理的」「神秘的」でお願いします。
360:359
09/10/06 00:42:33
>>359の名前、以前のものが残ってて変になってますが、上は「4度」「兎口」「嫉妬」の作品です。すみません。
361:1/2
09/10/06 23:49:33
高校三年の学校生活もだんだんと飽きてきて、それと一緒に気温まで上がってくる。毎日室内は蒸し暑くて勉強どころじゃないのにセンセイは受験のためだ、勉強しろ! と日課のように私に言う。
最上級学年になったら後輩からは尊敬されて快適な学校生活が送れるだろうと信じていたのに、実際は三年間のうちで最も強力な五月病にかかっていた。
毎朝待ち合わせをしてる友達と、一緒に通わなくなったら。勉強をはじめてセンセイを見返そうかな。
考えないこともないけれど実行には移せない。私はこれでも成績は良いほうで論理的に物事を考えられているとほめられた事もある。プライドが決意をさせないのかもしれなかった。
五月病が治る気配もなくて、この夏休みはどう過ごそう、先月振ったカレシとまた付き合おうかなっと悩んでいた所に救いの手を差し伸べてくれたのはお父さんだった。
夕食後すぐに部屋に引きこもってケータイをいじるようになってしまった私にお父さんは塾に入るための申込用紙を持ってきてくれた。
最初の一枚はゴミ箱へすぐに捨てた。翌朝には部屋の前に二枚目のそれが置いてあった。
学校で授業をやる気なく受けながら、つい退屈でその紙を見ると大きな文字で夏期講習! と書いてある。その下に小さな文字で料金について。
私はこんなものを持ってきた親父を困らせたやろうとだけ思ってその日の夕食後にそれを伝えた。
最近、科学的やら心理学的やらの本を読み漁っている親父は私の話を聞くと笑っていた。そして、次の日曜日に一緒にこの塾へ行こうとも。
当日、昼の二時に私とお父さんは塾へ到着しました。お父さんが内部の人と一言二言交わすと、私は自習室の一角に案内されいきなり入塾テストなるものを受けさせられました。
全く、問題が解けなかった。
現代文で論理に従って答えたはずが間違っていて残念だった。そんなレベルではまずありませんでした。問題用紙を開くと、何について問われているのかすら分かりませんでした。
悔しかった、です。