09/01/27 10:16:41
貴方からの電話を待ってます。死んだ小鳥みたいに小さくなって。ずっと待ってます。アパートは私から伸びた荊で覆われて、壁も窓も塞がれたのでもう今が昼なのか夜なのかも分かりません。でもうるさい大家さんも来なくなったのでそれは助かりました。
テレビは点けっぱなしにしてあります。なにがやってるのかはわかりませんが。点けないよりはいいと思って。
食欲はありません。食べ物より貴方の声が聞きたい。
雨の音がします。外は雨なのでしょうか。それともこれは受話器から聴こえる音でしょうか。私が感傷的になっているのでしょうか。今目の前に青い水滴が垂れ落ちました。やはり雨のようです。
ああ、声が聞きたい。そして叱って欲しい。そして出来れば… 許して欲しい。後悔……。 もう終わりなのでしょうか?元に戻らないのでしょうか?ああ、声が聞きたい……。
雫の単調なリズムに少し眠たくなってきました。でも眠りません。いつかかってくるか分からないから。一秒でも早く取りたいから。誠意の気持ちを知ってほしいから。
気付けば雨の音は止んでいました。床の水たまりもすっかり乾いていました。私はふと思いました。この電話は貴方と繋がってるのかしら?
171:名無し物書き@推敲中?
09/01/27 10:18:42
携帯から失礼しました。
お題は継続でお願いします。
172:名無し物書き@推敲中?
09/01/30 21:09:24
足元には、青い箱と赤い箱が並べて置かれている。今、P子は、夜の闇のなかに立ち尽くし、迷っている。
どちらの箱を選ぶのが正しいの?
団子虫をひっくり返したような、死神の顔。揺るぎない無表情に手掛かりになるものは
何もない。いや、答えは自らの内にしかなく、どちらの箱を選んでも、後悔を背負うことに
なる。日頃、お頭(つむ)の弱いと侮られ続けてきたP子だが、それは、わかる。
どうどう廻りの思考、何か抜け道はないものか。P子の脳裏に『紫』という言(ご)が
戯れに浮かぶ。常人ならば、何故、自分一人、このような理不尽な選択に立ち向かわねば
ならないのかと、身悶えるところであろうか。或は、パラノイアなら、尊大かつ得意げに
嬉々として選びおおせるものなのかもしれぬが。いずれも、P子とは無縁な感情だ。
多くの者は、彼女を愚かで無知で感情に溺れ易い性質(たち)だと評する。
それなのに、今、ここに至り、誰も異議を唱えない。全ての者が彼女の選択に身を委ねる
覚悟であった。向こうの者も、こちらの者も、皆、過去を振り返り、未来を仰ぎ見、そして、
最後に己の内を見詰め、必然の選択者に思い至ったのだ。
彼女の片腕が振り上げられ、世界は固唾を呑んだ。
彼女に選ばれた箱は開かれ、未熟で小さな希望が世界に放たれた。神々は消えた。
(ふ~、どこがどう必然なのでしょうか?)
次のお題は『箱,希望,世界』でお願いします。
173:名無し物書き@推敲中?
09/02/06 23:54:37
そのエコに関するワークショップの警備をやっているとき僕は
仕事を忘れ壇上にいる科学者に目を向ける。
「…であるから地球は言ってみれば大きな箱舟のようなものなのです。
資源は無限に産出するわけでも空気の汚れが自然に無くなる訳でも
ありません。これは私たちが消費を謳歌し生活をしてきたことへの、地球からの
メッセージといっても差し支えないのでしょうか?」
僕は胸の中に小さな違和感を感じる。何か違うという思い。
それを言葉にはできないが間違っていると叫びたい。
でも僕は途方にくれるばかりだ。
「世界をこれから希望をもって生きていくためには温暖化対策こそが
大事なのではないのでしょうか?」
僕は数年後にエコバブルと言う名で呼ばれる現在のことを思う。
間違っているのはあるいは僕なのだろうか?
いや僕だって温暖化が違っているというわけじゃない。
ただ……
174:名無し物書き@推敲中?
09/02/06 23:56:37
僕の目の前に赤ん坊を抱いた若いお母さんがいた。
熱心に科学者の言葉を聴き手にはパンフレットが握られている。
僕には分からない。地球のことなど世界のことなど
分かりたくも無かった。赤ん坊は母親の手の中で深く深く眠っている。
僕に必要なのはこのアルバイト代の七千円だ。
僕個人の現実。考えるのはそれからにしろ。
それでも悲しみは去っていかなかった。答えなど
無いのかもしれない。今はそれでいいじゃないか?
科学者が大きな声を上げたとき
赤ん坊が目をあけ泣き始めると僕は微笑んだ。
次は東京、男の子、ニートで
175:名無し物書き@推敲中?
09/02/08 09:54:23
「男の子だったらよかったな」
鏡子はつぶやいた。ボサボサの髪でも、部屋が散らかってても。男の子だったらあまり気にしないでもいいような気がする。ニートだって、少しは冗談にもなりそうだし。
でも性別が変わったって根本的な解決にはならない。分かってる。かといって状況を劇的に変えるような意志も出来事もない。だから現実から離れる。
「一人っ子だったらよかったな。」
鏡子は考える。長女は小さいけれど自分のカフェをやっている。次女は東京の有名な大学にいった。私はずっとパソコンに向かっている。嫌でも浮く。
変えたいって気持ちはある。でも気付けばいつもこうだ、妄想とネットで一日が終わる。
ふと横を見るとカーテンの隙間から光が差し込んでいる。もう朝なのか。カーテンを開ける。眩しい、責めるような朝日。通りは早いからか人も車もいない。
静寂。世界からみんないなくなったようだ。そう思ってると道を小学生が横切った。それを合図に往来が増え、町は何事もなく日常を再開した。
涙がこぼれた。理由は沢山ありすぎて分からない。全部かもしれない。膝をつきさらに泣く。泣いてる事に泣く。部屋を冷たい朝日が満たした。
176:名無し物書き@推敲中?
09/02/08 09:56:37
次は 「脳」「ニュートリノ」「孤独」でお願いします。
177:「脳」「ニュートリノ」「孤独」
09/02/10 15:47:37
深夜のファミレスで物理学科の友人にニュートリノについて説明してくれ
と頼んだらそいつはわざわざウェイターにボールペンを借りて白い紙ナプキンに
なにやら難しそうな数式を楽しそうにニヤけながら書き出した。
会話が尽きて気まずいときはこれに限ると思いながら、急に明るくなった
友人の声にいい加減に相槌を打つ。紙ナプキンの上を走るボールペンをぼんやり
眺めたまま悟られないようにあくびをした。涙でぼやけた目が次第にはっきりしてくると、
紙の上に並んだ数式がいつの間にか形を変えて、違うもののように見え始めた。
なんだか人の横顔のように見えるが、友人の口からは相変わらず楽しそうな声で
自分の脳みそでは理解できない単語が続々と零れ落ちている。しかし紙上に輪郭を作っていく
どうみても人の横顔で、孤独そうな、またそれを耐えているような卑屈な笑いを
口の端に浮かんでいた。友人は素粒子がどうのこうの、とか言いながら、
最後にその横顔に黒い瞳を書き加えた。どこかで見たような男の顔だがどうしても
思い出せない。なんとか思い出したくなって瞬きもせずにその絵に見入っていると、
友人が突然そのナプキンをクシャクシャと丸めてしまい、また新しいナプキンを
取ってそこに数式を書き始めた。
今度はいつまで見ていてもただの数字しか紙の上に並ばなかった。
次は「刀」「絵画」「雨雲」でお願いします
178:名無し物書き@推敲中?
09/02/10 15:56:41
すいません、めんどくさくて推敲抜きました
九行目の最後「作っていくのは」
十行目の最後「卑屈な笑いが」
に脳内訂正しといてください
179:名無し物書き@推敲中?
09/02/15 13:09:00
友人が絵画を出展した展覧会の帰りに、
絵に描いたような雨雲の広がる空を見ながら、
友人の絵のことを思い出していた。
その絵は風景画だったのだが、その空もまた曇った空だった。
私は普段絵を見ることはほとんどないのだが、
絵画の中の空はいつも曇っているように感じる。
でも、もしかしたらそれは気のせいかも知れない。
そう思った私は図書館に立ち寄った。
画集の棚の前にいた学生に手を刀のようにして
棚の前に入り込み、いくつかの画集を取り出した。
その中の絵には曇った空もあったが、青い空も描かれていた。
なぜ私は絵の中の空は曇っていると思っていたのだろうか。
その理由は翌日澄み渡る青空を見た時に理解した。
雲は雲の表面を反射しているが、青空は表面を反射しているわけではないのだ。
それゆえ、絵の中の青い空に青空を見ることがなかったのだ。
180:名無し物書き@推敲中?
09/02/15 13:12:55
いかん、久々に書いたら書いただけで終わってしまった。
次のお題は「新聞紙」「交差点」「消防車」でお願いします。
181:名無し物書き@推敲中?
09/02/17 00:14:13
あの日、僕らはこの交差点ですれ違った。
それだけで、僕が君を好きになる理由は充分だった。
だが、一目ぼれの恋を成就させるのは想像以上に難しい。係わり合いの無い男女が恋を実らせる時、これ程のパワーが必要になるなんて思ってもいなかった。
再会を果たすべく交差点を何十往復もし、それとなく顔見知りになろうと通勤電車を合わせ、便利屋を雇い酔っ払いとして彼女に絡ませ、僕が助けた振りをし、恩を買い…。
こうして、僕はようやく君と知り合いになれた。
もちろん、毎日こまめにメールもしたよ。会社へも迎えに行ったよね。
だが、君はそんな僕が気持ち悪いと言う。
―毎日、メールも電話してこないで。
―毎日、玄関のチャイムを鳴らさないで。
―お願いだから話しかけてこないで。
僕はただ、君が好きなだけなんだ。君の顔を見て、声を聞いて、話をする。僕はこれだけで幸せなのに。こんなささやかな幸せすら、望んでもいけないことなんだろうか。
君は、やがて、僕の前に姿を現さなくなった。
だから、僕も行動に出ることにしたよ。
この丸めた新聞紙に火を灯し、このアパートの庭先に置けば良い。
そうすれば、一目だけでも、君の姿を見ることが出来る。早く、君に逢いたい。
消防車の音が、僕らの再会を祝うジングルのように夜空に響いた。
久々に考えたら疲れた。期間が空くと文章力もなまるんですね。
次「2月29日」「先生」「埃」で。
182:お題「桜」「逆光」「駆け抜ける」
09/02/17 13:10:46
「2月29日にトリックがある」
ホテルの一室に備え付けられた安楽椅子に腰掛けながら、録画テープを検証していた探偵Aさんは、唐突に語り始めた。
「グレゴリオ暦の定義はちゃんと把握しているか?」
Aさんに問われて、私は思い出す。
「4年に一度、一年の日数を366日として数える。ただし、100年周期は例外とする、だったかな」
「足りない」
「え、嘘?」
突っぱねられて慌てる私。落ち着け私。そうだ。
「あ、そうだ……えーと400年周期は更に例外で、一年が366日になるんだっけ?」
先生の顔色を窺いながら問題を解く教え子の気分で、私はAさんを上目遣いに見やる。Aさんの表情は微動だにしていなかったが、否定されなかったので、おそらくそれで正解なのだろう。
「そこでだ。この録画テープを見ろ」
言われるがままに、テープの内容が映し出されたモニター画面を眺める。
「うん? あれ?」
「気付いたな」
「うん、これ、おかしいよ……タイマー表示の切り替わりが2000/2/28から2000/3/1になってる」
「そうだ。ここに、空白の一日が発生している。被害者の部屋が分厚い埃に覆われていたせいで、気温の低下が防がれ、死後硬直の時間帯が遅延したせいもある。が、これは明らかに人為的な時間のトリックだろう」
Aさんはおもむろに立ち上がると、廊下へ続くドアへと向かう。
その唐突さに一瞬、呆気にとられて立ち尽くす私に、Aさんは首だけで振り返るとこう告げた。
「アリバイは崩れた。この館には、探偵に挑む人間が居る。聞き込み再開だ」
次は「砂」「壁」「空」でお願いします。
183:名無し物書き@推敲中?
09/02/21 18:00:02
生には壁が無数にある。その壁を乗り越える事のできる人間も少なからずいると思う。
だが大多数の人間は一度は乗り越えようとするが、結局あきらめ壁を迂回していく。
僕はそのどちらでもない。壁の前で絶望し立ち止まり、迂回しようとも思わずそこで眠りにつく
そうやって生きてきた。ある時ふと思った。
もう人生を歩む必要などないのではないか―もっともその時には歩みを止め
眠りについてから10年以上過ぎていたが―そして自分で人生というものを停止させてもいいのではないか。
僕は窓を開けベランダに出た。雲ひとつ無い空から光が降り注ぐ。
まるで太陽まで僕の決断を歓迎しているようだった。「I can fly!!!」
そう叫んだ僕は空に向かって身を投げ出した。
子供の頃砂漠に行きたいと思っていた。そんな事を思い出したときに視界が暗くなり、意識が飛んだ。
次 軍手 虫眼鏡 ホチキス でお願いします
184:「軍手」「虫眼鏡」「ホチキス」 ◆iicafiaxus
09/02/22 04:58:28
畑地に囲まれた農家の瓦屋根がぽつぽつと散在する平野を郵便屋のバイクが走る。
露地栽培の支柱が何十本となく立つ家の前で、ぎしっとブレーキをきしませて止まると、
郵便屋はバイクのエンジンをふかしたまま畑の中へ声をかける。
「富田さんー。エクスパックですー。小包ですー」
おばあさんと呼ばれても怒らない齢になった富田さんが、曲がりかけた腰を上げて
畑地の入り口まで郵便屋の重雄を迎えに出てくる。
「はいお世話さま、だれからだい」
「東京のユキさんですよー。お孫さん東京の大学に行ったんでしたよねえ」
また今度お茶でも、と言い残して重雄のバイクが去り、富田さんは軍手を外すと、
古い園芸用のはさみでひっかけるようにしてエクスパックの封を開ける。
昨春に就職した孫娘から届いたのは、ホチキスで止めた十枚ばかりの紙の束だった。
「担当した記事が初めて誌面になったので送るね。このリード、私が書いたんだよ。
拡大コピーしたから、おばあちゃん、このくらいの大きさなら読めるよね?」
何度か目をすがめてみてから、こりゃだめだ、また眼が遠くなったな、と呟き、
富田さんは畑に面した八畳間の縁側から虫眼鏡を取りに上がる。
そろそろ休憩をしてもいい時間だ。
#お題は「傘立て」「耳」「レタス」で。
185:「傘立て」「耳」「レタス」
09/02/24 23:29:53
うちの父親の話、してもいいかな。
私の親父は耳が不自由で全く聞こえない人間なんだけど、一人でレタス農家やっててさ。
「耳が聞こえなくてレタスなんか育てられるの~?」
って聞いたら…あっ、この『聞く』は手話で聞いたってことだからね。そしたらね
「ばかやろう。レタスの声は耳じゃなくて心で聞くもんだ!」
とか言う、頑固で熱い親父だったのね。
その日も雷が鳴っているのに気づかないでそのまま仕事にいっちゃってね。
傘立てに傘が刺さっているもんだから、母親が心配してハウスへ様子を見に行ったら、
母さんに雷が落ちて、あっけなく死んじゃってさ。
当の親父はカッパ羽織ってケロっとしてんの。
あの時はさすがにこたえてたみたいだけどね。
それでもへこたれることなく、私が大学を卒業するまでは…って、
毎日毎日レタス作りに精を出していたわけよ。
だから、やっぱり親孝行したいな。と思っていたんだけどさ……。
親孝行、したい時に親は無し、ってことわざ、本当なんだね。
なんか今頃になって泣けてきたよ。
次「羽田」「毛玉」「レポーター」でおながいします。
186:「羽田」「毛玉」「レポーター」
09/03/01 12:21:41
「羽田」「……毛玉」
激しく人が行き来して、消毒液と外の空気が入り交じっていく。
今日の新聞を境に、先生の一人息子と、その手術の終わりを待っていた。
部屋に遊びに行ったときに面識を得たが、さほど仲良しになった覚えはなかった。
おちあったのもここで、約束もしてなかった。
たがいに小さく頭を下げて、わずかに空いた長いすに腰を下ろす。言い出す言葉が見あたらなくて、手持ちぶさたに新聞を手に取った。
先生が救急車で運ばれたのに、こうして普通に夕刊がやってくるのが不思議だったが、すぐに当たり前なんだと思い直した。
「古今東西しよう」と私が口火を切った。ルールは「あ」音で終わる単語。
先生が私とよくやっていた遊びだった。二人きりで、手持ちぶさたな夜にした、たあいのない遊び。
「『羽田』で覚醒剤押収」の裏には、「セーターの『毛玉』上手な取り方」の記事があった。
初めのうちは「なにやってんだか」という気持ちも、十回もラリーが続くと夢中に変わる。あ。あ。意外とないもんだなあ。あ。
下の雑誌広告が、ぎゅっと向う側から掴まれた。
「あっ」という前に、嗚咽が新聞越しににじんでくるように聞こえた。
自分の父親を亡くした時を思い出す。
泣くまい、といういくつもの関所をぶっ飛ばして、悲しみの波が体の奥から膨れあがってくる。こぼれる涙はその一端にすぎないのだ。
その時、ああ、先生は亡くなったのかもしれない、と胸にきざすものがあった。
張り詰めていた気持ちが、急に心細くなって、私は新聞ごと、その子の体を抱きしめた。体が悲しみと戦っているのか、小刻みに震えていた。
男の子だ。すこしでも、そのつらさが消えてくれたらいい。私は思った。
顔を上げると、誰も見ていないテレビのレポーターが、おいしいラーメン屋を紹介している。あっ、「レポーター」。
先生は死んだ。クモ膜下出血だった。
次は「チューリップ」「インフレ」「ユーロ」でお願いします
187:「チューリップ」「インフレ」「ユーロ」
09/03/04 13:21:18
エレンの母は交通事故で骨折し入院した
父親と祖母の話を盗み聞きしてエレンが知った話では、後一ヶ月は入院しなければいけないらしい
エレンの母はチューリップが好きだと以前エレンに告げていた
その事を思い出したエレンは母親のお見舞いにチューリップを持っていこうと思った
父と祖母には内緒にするつもりだった
自分の金で買ってこそ母に対する愛情を証明することが出来るし、
母も娘の行動を成長の証とうけとめ、ほめてもらえると思ったからだ
エレン貯金箱からお金を取り出し、家を出た。
5ユーロも無かったが、チューリップを買うには充分な金額だろうとエレンは思った
エレンは花屋に着くと、髪を後ろで束ねた30ぐらいの女性の店員に「すいません、チューリップ一つ下さい」と言った
店員は「あら、可愛いお客さんね」と言い、店の奥に行きチューリップを一つ持ってきた
エレンは不安そうに自分の持っている全財産を手のひらに乗せて「すいません、これしかないんですけど足りますか?」と聞いた
店員は困った顔をして「ああ、こんな事話してもわからないかもしれないだろうけど」と言い一息ついた後
「最近ねインフレって言うのが起こって物価が上がっちゃったのよ」
それを聞きエレンは「これじゃあ足りないですか?」と先ほどと同じ事を聞いた
店員は「花の値段も上がっちゃってねえ、、、お嬢ちゃんなんでチューリップがほしいの?」
エレンは「お母さんが病気で、チューリップが好きだったから、あげたいの」と言った
店員は斜め上に視線を動かし、少し間をおいて「わかった、まけてあげるわ」と言いエレンにチューリップを渡した
「ありがとうございます!!」エレンがそういうと店員は「お母さん喜んでくれるといいわね」と言った
挨拶をすませるとエレンは走って母親のいる病院に向かった
少しでも早く母親にチューリップをみせて喜んでもらいたかったし、褒めてもらいたかったからだ
次は「長州力」「工場」「金髪」でお願いします
188:名無し物書き@推敲中?
09/03/20 23:06:08
長州力は見るからにプロレスラーだった。ずんぐりとした体型には
筋肉が張り付き,長い髪はうねり徒者でないことは誰にでも分かっ
た。ところがそれはもう何十年も前の話だ。今では誰も知るものは
なく,例え紹介されたとしても信じる者はいなかった。がりがりに痩
せ細った体に長州力の面影は残っていなかったのだ。そこで彼は
再び栄光を勝ち取るために,自分の体を改造することにしたのであ
った。“究極の体”を与える老人がいると聞き,長州力が訪れたのは
町外れの,看板も何もないただのちんけな工場だった。手入れもさ
れておらず人がいる気配も何もない場所だ。長州は不審に思いな
がらもカンカン,と小枝でシャッターを叩いた。するとしばらくして老
人が現れた。『何用だ』。まさに職人といった風貌で長州は喜んだ。
『na neun gang hae ji go sip seup ni da』。老人は一瞬戸惑ったが
すぐに,思いついたように『geum bal lo hae ra』と短く叫び,倉庫の
中へと消えて言ってしまった。取り残された長州は小枝を握り俯き
ながらつぶやいた。「金髪……か……」
次の題「場末」「広末」「末広」
189:名無し物書き@推敲中?
09/03/27 23:32:20
薄暗い町外れを歩き彼は任務を思い出していた
広末涼子を見つけ出し射殺する事。それが彼の任務だった
理由は知らされなかった。彼のような末端の人間は命令された事を実行するのみ
自分の行動にどういう意味があったかなど、知らされる事はない。
昔はそんな現実に疑問を課感じていたがいつのまにかなくって
道にはゴミが散乱し電柱には糞がついている
銀バエが糞の周りを飛び交っていた
彼はため息を吐く。こんな場末にあの広末が住んでいるとは信じられない
最近はブラウン管に写る事もなくなったが、
彼が学生の頃は一世を風靡したアイドルだったからだ
道に転がった糞を避けながら盛者必衰という言葉を考えていると、
右手にドアが開きっぱなしになった木造の家があった
中を
190:「場末」「広末」「末広」①
09/03/29 18:31:33
『末広』という狂言をご存じだろうか。
ある男が長老に対し末広(扇)を贈ろうと思い、太郎冠者へ良質な地紙で骨に磨きがかかり、戯れ絵が描かれている末広を買い求めるよう命じる。末広が何なのか知らない太郎冠者は詐欺師に引っ掛かり、古ぼけた唐傘を売りつけられるのだが―……。
「広末優子」
「誰だそれ」
「僕の同級生ですよ」
他人に無関心なこの男が同級生の話をし始めたことに、田口恭平は驚いた。竜也に視線を移してみると、当の本人は特に表情を変えることなくカクテルを飲んでいる。
顔色を変えたのは、恭平の方だった。
「マスター!」
「んだよ。俺は竜也の話の続きが聞きたいんだけど」
「高校生にアルコール出してんじゃねぇよ!」
「大丈夫。こんな場末のバーに来るの、お前らくらいだから」
「いや、そういう問題じゃなくて」
「今時、中学生だって飲んでるやついんぞ」
「こういう大人がいるから日本はだめになっていくんだ!」
「チャラいお前に言われたかねぇわ。……で、その広末優子がどうしたんだ?」
ちゃっかりカクテルを飲んでいる竜也に話を続けるよう促す。
「その人、突然僕のところに来て『メアドを教えて』と言ってきたんですよ。一度も話したことないのに」
「で、断った」
「当たり前です」
顔立ちの整っている竜也は学校でもてていた。恭平にはよく分からないが、いつも無表情で話しかけても冷たい言葉しか返ってこないところが、逆に女子にとっては燃えるらしい。
191:「場末」「広末」「末広」②
09/03/29 18:33:07
「そうしたら、『竜也君のメルアドを教えてもらえないと、先輩たちに何されるか分からないの』と涙目で訴えてきて」
「演技じゃねぇの」
「いえ、彼女いじめの対象になっていることで有名なんですよ」
そんなことで有名でもなぁ、とマスターは苦笑いする。
「しょうがないから、適当なアドレス書いて渡したんです。そしたら、ものすごく喜ばれて……」
「罪悪感を感じたと」
「まぁ、そんなところです。だから、『僕の友達のメルアドも教えますよ。今、メル友募集中なので』と言って、もうひとつ僕のじゃない本物のメルアドを教えといたんです」
「ほぉ。竜也も考えたな」とマスター。
「で、誰のを教えたんだ?」
……―詐欺師は、あまりの騙されぶりに罪悪感を感じ、太郎冠者におまけとして主の機嫌が悪い時に舞うと良い、と囃子物を教示する。
「竜也くん。まさかそれって、恭平さんのメルアドとか言わないよな?」
「よかったですね。友達増えて」
「よかったですねじゃねぇよ!さっきからメールの着信音が止まんねぇよ!」
「女子高生か。羨ましいなぁ」
「何が羨ましいだ、マスター。内容が全部『竜也くんのメルアド教えてください』っていうメールが羨ましいのか?え?」
―結局、太郎冠者が持ち帰った傘を見るや、男は激怒したが、太郎冠者が詐欺師に教わった囃子を舞うと男はたちまち機嫌を直し、太郎冠者と共に舞い踊ったのだ。
[長文許せ。次は、『センター試験』『生物』『前科』]
192:名無し物書き@推敲中?
09/03/29 23:16:06
刑期を終えたとて、迎えに来るような知り合いなどいなかった。
証拠に、この14年の服役中に面会に来た人間など、弁護士を除いては
誰一人いなかった。
出所する者のみが通ることの出来る鉄の門は、私の姿を確認した看守によって
重々しく開かれた。
「もう馬鹿なことするなよ」
そう言ってボストンバッグを押し出してきた看守の顔が微笑んだように見えたのは
晴れて前科者になった私の晴れやかな気分が見せた幻だったのか。
刑務所の中で、私は高校の検定を取り、いつでも大学を受験出来る資格をもってはいた。
しかし、今の私の学力で大学試験に受かる自信はなかったし、
第一受かったところで通えるだけの金を工面できるあては無かった。
その年は仕事に追われて暮れた。
私が刑務所に紹介された仕事口は、名古屋港の中にある海産物の梱包を扱う店で
当然主は私の事情を熟知していたので、妙な気を遣う必要は無かった。
しかし、事あるごとに私の育った環境や、学歴を小馬鹿にすることには閉口した。
要するに、彼は社会の代表という顔をして、私の前科を非難し、許さないスタンスで
あるらしかったのだ。
私は、貯金が二百万円貯まるのを待って、その店を辞めた。
出所して三年目の秋だった。
大学に行こうと決意してはいたものの、受験生としての準備らしい準備をしていなかった
私は、その年のセンター試験を、小手調べとして受験してみることにした。
英語、現代文、数学、物理……ほとんどの科目で平均点を下回った私は唯一生物のみが
高得点をたたき出していることに目を見張った。
しかし、考えてみると合点がいった。
今年は、人体解剖学の出題が多かったのだから。
「ネズミ、丸太、カーテン」
193:名無し物書き@推敲中?
09/03/31 16:26:42
「ネズミ、丸太、カーテン」1/2
今日はお城のパーティー。シンデレラはため息をついた。
「私も行ってみたかったなあ」
父と義母が仕事で出かけたので、シンデレラは留守番だった。シンデレラの父は王様お抱えの庭師で、家は王宮の端。行こうと思えば行ける距離だった。
華やかな音楽が城の中から漏れ聞こえて、シンデレラの気持ちは浮き立った。
「えーい、こっそり出かけちゃえ」
シンデレラは決心すると、地下の物置へと向かった。そこには亡くなった実の母のドレスや靴がしまってある。新しい母を迎えてからは、ほとんど行かない場所だった。
「ごほん、げほん・・・あった」
埃まみれの箱を引っ張り出して、シンデレラは蓋を開けた。中には懐かしい母の持ち物。シンデレラは布を引き出した。
「なによ、これ」
しまい込まれた古い服はすっかり色あせ、虫に食われてぼろぼろだった。
「うーん。想定外だったわ。あ、でも大丈夫」
シンデレラは思い出した。困っていれば親切な魔法使いが登場するはずで、今がまさに、そのときだった。
「シンデレラや、どうしたんだい・・・げほげほげほ、こりゃあひどい」
思った通り、魔法使いが杖で埃を払いながらやってきた。
「お城の舞踏会に行きたいの」
「ふむ、まあ、なんとかなるじゃろ。虫食いは使えん。こっちにしよう」
魔法使いは、青や黄色、色とりどりのドレスを放り投げると、側にあったカーテンを引きちぎって手渡しました。
シンデレラは躊躇しました。どう見てもカーテン、しかも埃にまみれてねずみ色にくすんでいます。
「・・・本当にこれでいいの?」
大丈夫大丈夫と魔法使いは杖をふり、美しいドレスに変えました。シンデレラは大喜びです。
「馬車はいらないわ、走っていくから」そう言って駆けだしたシンデレラに、魔法使いは声をかけました。
「午前0時には帰ってくるんだよ、魔法が解けるからね」
194:名無し物書き@推敲中?
09/03/31 16:30:53
「ネズミ、丸太、カーテン」2/2
王子はため息をついた。パーティーで会った娘のことが忘れられないのだった。
「ダンスの時に体に電流が走って、これだ、と思ったんです。運命の出会いというか」
「王子よ、それは靴の踵で足の甲を踏まれたからだろう。あれは痛い」
王子が言い返そうとすると、王がまあまあと手で制した。
「おまけに娘はかなり太っていたではないか。あれではお姫様だっこは無理だ」
王子はうなだれた。式は横抱きと決まっている。確かに無理だと思った。
王は傷心の王子の肩を抱き寄せ、背中をぽんぽんと叩いた。
「勉強ばかりで疲れが溜まったんだろう。しばらく外遊してくるがいい」
「罰として今日は食事抜き」
義理の母は腰に手を当てて、シンデレラを睨んだ。横で父がおろおろと取りなしを述べる。
「いいえ、だめ。言いつけも守れないなんて・・・心配して早めに帰ってくれば、留守番もしないでパーティーに出かけてるなんて」
「ごめんなさい」
「料理もたくさん食べたでしょ、食事制限が水の泡だわ」
義母は美しい眉をひそめて、目の前のシンデレラを見た。樽のような丸い体、丸太のような太い足。
ダイエットが無駄になってしまった。また一からやり直しだわ、義母はため息をついた。
「夕焼け、花束、制服」
195:ナナシ
09/04/01 22:39:13
「夕焼け、花束、制服」 二分の一
「どういうことだよ、これは」
嫌気のさした口調で俺は言う。
目の前にいるのは制服姿のとても親しかった人。夕日に射されたその顔を見る。苛立ちが生まれた。
「どうして隠してたんだよ。いつまで騙すつもりだったんだ」
本当なら嘘だと言って欲しい。だが目の前には動かない証拠がある。
ずっと騙されてた。そう思うとダメだ。人を信じられない。
今までは毎日顔をあわせていた仲なのに。
はぁ。夕焼けのせいでナーバスになっているのかもしれない。
「いい加減話したらどうなんだ!」
196:ナナシ
09/04/03 21:42:55
「夕焼け、花束、制服」二分の二
俺は視線を制服に向ける。仕立てのいい感じの良品だ。その辺で売っているような物ではない。
手には花束が握られている。何のつもりだろうか?
そこから視線を下に滑らせる。太く、毛深い足が見える。
再び制服の方を見る。がっちりした肩幅。短めのさわやかな髪。
さぞもてることだろう。男としてなら……。
「どうしてそんな格好してんだよ。兄さん」
「それは、今日お前の誕生日だったから。今まで黙っていたことも話そうと思って……」
自分の誕生日すら忘れるほど憤っていた様だ。
そして兄からもこの事実を肯定されたのが悲しかった。
「こんな兄さんを許しておくれ。今までどおり仲のいい兄弟でいようぜ」
そういって花束をこちらに向ける。俺はその花束を……兄の気持ちを……。
全力でぶん投げた。ごめん、やっぱムリだわ。
こうして俺ら兄弟には大きな溝ができた。
めでたくねぇな。
「陸上競技、チョコ、髪留め」
197:名無し物書き@推敲中?
09/04/04 13:21:50
夕焼け 花束 制服
卒業式の帰り道。花束を持つ学生達。卒業式に来なかった彼女は川沿いの土手に寝転がっていた。
「ここにいたんだ」
彼女はそのままの姿勢で頷いた。
「制服じゃないんだ」
「あたしのは…… 汚れちゃったから」 見上げたまま彼女は言った。
「そう」
僕は彼女の横に寝転び同じように空を仰いだ。夕暮れの空のグラデーションに僕はとても胸が苦しくなった。
「手、握っていい?」
不意に彼女が呟いた。
「………うん」
突然の言葉に戸惑いながらも僕は彼女に応えた。彼女の手は冷たくも温かくもなく僕と同じ温度だった。
夕焼けは河原を染めて、川面をきらきらと輝かせていた。
「どこかの国では好きな人と一緒に夕日に洗われると生まれ変われるんだって。」
「都合良すぎない?」
「駄目かな?」
「ううん、駄目じゃない」
そこで初めて彼女は少しはにかんだ。
橙色の波はゆっくりと街を沈めて、その優しい琥珀の中で僕らは微睡んだ。僕は目を閉じて強く彼女の手を握った。
次に目を開いた時にはきっと………
198:名無し物書き@推敲中?
09/04/04 13:27:57
>>197です。すみません。既に>>195さんがこの題で先に投稿されていたんですが、私も載せたかったので載せました。
お題は引き続き>>196の三つでお願いします。
失礼しました。
199:名無し物書き@推敲中?
09/04/04 22:00:38
陸上競技、チョコ、髪留め
日曜の昼下がり、近所の大学を散歩していると、運動場に人が集まっていた。
なにをしているのかと覗き込んでみると、陸上競技が行われているらしく、ゼッケンをつけた大学生達が血気盛んに
グランドを走り回っている。ほとんど男だったが、中にひとり女がいた。
赤い髪留めを頭に光らせて走りまわる彼女を見ていると、なにか日曜の鬱屈した気分が晴れていく気がした。どうせなら、と近くのコンビニでビールとつまみを買い込み、
芝生のうえに座り、じっくり鑑賞するすることにした。
関東地区予選、と横断幕には書かれている。今行われている競技は中距離走か。
男達は何周かグランドを走っている。やがて先ほどの赤い髪留めの女がスタートラインについた。
ビールをごくりと飲み込む。ドン。ピストルが空に打ち上がり、みな一斉に走り出した。
一週目の終わり頃になると女は集団から遅れ、ひとりポツンと取り残されていた。けれども、その走りに諦めている様子は見られず
むしろ他の選手達よりも懸命に走っている。時折、赤い髪留めが反射し、きらりと光った。
半周くらい差がついた。女は他の誰よりも足をかいているが、歩幅が短いせいだろう、スピードがあがらない。
その姿がもどかしく、つまみのチョコを口に入れた。先頭集団がゴールをした。女は一周ほど遅れていた。
みんなの視線が女に集まる。頑張れ、と声援を送っている。チョコを噛み砕くことさえ忘れて、自分も応援する。
疲れてきたのかスピードが落ちてきた。みんながそばに駆け寄り、声をかけている。
倒れるほどではないが、足に力が入っていないのが分かる。
ふらふらしながら女がゴールをしたところで安心し、チョコを噛み砕くと口の中に一斉に甘さが広がった。
みんなに囲まれた間から、女の赤い髪留めがちらりと見えた。
お茶、桜、車
200:「お茶、桜、車」
09/04/06 14:52:47
良太は視線を感じて振り向いた。
……いた。
いつもの場所に、小さな女の子の姿があった。病院の門の陰からそっとこちらを窺っている。
良太は左右を見た。小雨の降り始めた道に人通りはなく、しんと静まりかえっている。
「なあ、病院の子なの?」良太が話しかけると、女の子は頷いた。
近くに寄れば顔の色が青白い。細い体もいかにも弱々しかった。
「乗せてあげようか」良太は人力車を指さした。
子供が目を輝かせて言った「いいの?」うん、良太は頷いた。内緒だよ。
無料で乗せるのは禁止だが、倉庫に戻すついでに、病院の裏門までならバレないだろう。
「出発」子供を乗せて、人力車は動き出した。
細かな雨が頬に当たる。かたかたと軽い音をたて、良太は車を引いて走った。
病院の塀が切れる。「その先の門で下ろすからね」良太は言いながら、角を曲がった。
えっ?
道を入った途端、いきなり視界が開けた。「なんだこりゃ」
遙か一面に、緑の草原が広がっている。左右にそよぐ草を分かつように、真っ直ぐに伸びた一本の道。
その道を、良太の人力車が風を切って走る。
踏みしめる足元から草や土の香が漂い、蜂がすいと目の前を横切った。
小山の向こうでノウサギが跳ね、ヒバリが舞い上がる。その先に見事なしだれ桜が見えた。
「ここは知ってる」良太は懐かしさに空を仰いだ。「おれのふるさとだ。この先に家がある」
小川のせせらぎ、音の割れた有線放送、小学校の鐘の音。もうすぐ家に着く。
「あっ」道端から飛び出たウシガエルを避けて、良太は体をひねった。受け身を取って尻餅をつく。
「いてえ……あれ?」
目の前にあるのは病院の門だった。
「もっと遊びたかったけど、喉が渇いちゃってもうだめ」女の子の声がした。
座席には誰もいない。
何処で拾ったのか桜の花がひとひら、足元に落ちていた。良太は花を手に取った。
「夢でも見たのかな」良太は首を傾げながら病院の門を覗き込んだ。そして、彼女を見つけた。
「こんなところにいたんだ」
萎れかけた桜の鉢植えが転がっていた。良太は鉢を立て、持っていたペットボトルのお茶を注いだ。
「ありがとう」女の子の声が聞こえた。
「おきにいり、駅、めがね」
201:名無し物書き@推敲中?
09/04/07 00:14:22
「おきにいり、駅、めがね」
女の子が媚びた声で準備そっちのけで話をするのを、ほら準備準備と急かしながら、
糊のきいたカッターシャツに駅員の制服を着た矢崎は朝五時五十分、眼鏡をかけて改札
横の窓口に座った。入社三年目、仕事ができて見目もよい矢崎に好意を寄せる女性は先
の女の子を含めて何人かいた。しかし興味はなかった。矢崎は気がきいて自分の邪魔に
ならない美女が好みなのだ。好みではないし面倒な彼女らは上手くかわしていた。
駅の通勤ラッシュの時間、時折矢崎の窓口を覗き込む客の乗り越し清算に対応しつつ、
女の子とも雑談しつつ、業務は進んでいく。雑談中に矢崎はよく窓口に背を向けた。し
かし人が通るのを見逃したことはない。そういう要領のよさが矢崎にはあった。その時
も目の端を白いものが通るのに気付いて窓口から身を乗り出した。切符を持たずに改札
を抜けようとしている客がいる。
「お客さん、ちょっと」
声をかけながら目に映ったのは長い黒髪に真っ白な”袖のない”ワンピース、その服
装は後から思い返してみれば4月としては違和感があった。振り返った少女の胸に、向
かいの壁に貼ってあるポスターが”見える”。少女がにこりと笑うのに思わず笑顔を返
してしまったのは、後で気付くのだが一生の不覚であった。適当に勉強して女の子とも
適当に遊んで適当にいい会社に就職した後、気の利く美女と結婚して子どもを作って……
という人生設計が崩壊した瞬間である。このときの矢崎はまだ気付いていない。
少女が窓口へ引き返してくる。ここは彼女にとってお気に入りの場所になるのだった。
次のお題「八分咲き、学生、青」
202:名無し物書き@推敲中?
09/04/07 22:40:33
「八分咲き、学生、青」
「兄ちゃん兄ちゃん、女の子、安く紹介しまっせ」
夜道で客引きに声をかけられた。普段なら無視するところだが、酒が入っていたこともあり
つい立ち止まってしまった。
「まだ入店したての新人さんが、今日から出勤ですがな」
男が声を潜めた、サービスが違いまっせ。
「ここだけの話、まだ学生さんで―桜で言ったら八分咲きの、そりゃあべっぴんさんですがな」
半信半疑だったが、丁度店から出てきた二人組が「大当たりだった」「良かった」と
笑い合いながら前を横切ったので心を決めた。給料日後なので懐は温かい。
ああそうだ、俺はスケベでエッチな男だ。まだ若いんだし、健康な証拠だ。いいじゃないか。
「ささ、どうぞどうぞ」
男に押し切られるままに、俺は店へと押し込まれた。新人女性を指名して、部屋で待った。
「いらっしゃいませ」
女が現れた瞬間、俺は激しく後悔した。
現れたのはパンチパーマの巨大な女で、あまりの迫力に一気に酔いが醒めてしまった。
「お客さん元気ないねえ」
元気になれるはずもない。俺は早々に切り上げることにした。
勉強代だと思って黙って代金を支払い、俺は店を出た。客引きに一言文句を言おうと
辺りを探すと、「大当たりだった」「良かったよなあ」と、再びさっきの二人組が店を出てきた。
なるほど、サクラか。俺は苦笑した。見事に騙されるなんて、俺もまだまだ青いな。
「ジュース、ラブレター、プライスレス」
203:ラブレター、ジュース、プライスレス1/2
09/04/18 00:26:21
まぁ、飲めよ。
そう言って出されたのが、野菜ジュースだった。
何を飲めって?野菜ジュース?野菜ジュースに合うおつまみって、何だ?
つまんねぇぞ、恭平さんよ。
「ビールよこせ」
「何言ってんの、お前。明日仕事あんだろ」
「ビールないと、話が弾まないだろ」
「話を弾ませる気だったのか?残念だったな。お前のせいで、俺のテンションは急下降だ」
恭平は鼻で笑って、床に大量に散らばっている手紙のひとつを手にとる。
「何だこのラブレターの大群は。自慢か、高校教師。俺に何か恨みでもあんのか?」
なるほど。これを羨ましい状況だと解釈するのだな、貴様は。
どうやら、脳みそが腐っているらしいな。
204:ラブレター、ジュース、プライスレス2/2
09/04/18 00:27:18
「馬鹿言え。こんなのもらったって、迷惑なんだよこっちは」
「今時、ラブレター書くやついんだな。まだラブレターの時代は終わってなかったのか」
「恭平、無視か」
「贅沢だな、本当にお前」
手紙を放り投げ、俺にまた向かい合った。あれ?君の片手にあるのはビールじゃないか?あれ?何、悠々と飲んでんの?俺への当て付けか畜生。
「愛はプライスレスって言うだろ。貰えるものは、もらっとけ」
何を言う、貴様。
誕生日だからって、やれチョコだのクッキーだの。いらないといえば、じゃあせめて手紙だけでも受け取れと。
恭平、これを本当に愛だとお前は言い切れるのか?
手紙をきちんと見てみろ。
PSなんてあったって、本題は絶対にこっちだぞ。
『お返しは三倍でよろしくお願いします』
………これだから嫌なんだよ、女子高生は。
次→リラックマ、先生、ゲーセン
205: ◆DinfA5bnxE
09/04/18 00:50:55
億トレーダーの俺様、今月だけで一千万の利益をあげてる。
サブプライム? リーマン破綻? 百年に一度の経済危機?
そんなの関係ないね。儲けるヤツは地合いを選ばないのさ。
しかし、この先生きのこるために、もっと成長したい。
俺は目隠しをして、ヤフーの値上がり率ランキングにマウスを当てた。
クリックして出た銘柄を弄ることにする。
弘法筆を選ばず、専業銘柄を選ばず、無造作に二度クリック。
ディー・エヌ・エー……モバゲー
セントケア・ホールディング……?
どちらも弄ったことないが、何とかなるだろう。
その二銘柄を寄りで買ってみたその時、
爆音がして俺の部屋の窓ガラスが割れ、暴走族が突っ込んできた。
徹夜で走り続けて居眠りしていたらしい。
響くラッパの音─パラリラパラリラッ
クマーと俺は叫んで、背中にバイクの前輪が食い込む瞬間に成売、
専業魂でノーポジにした。
観想はいりません。
お題は継続でよろしこ。
206: ◆DinfA5bnxE
09/04/18 00:56:07
ゲーセンを入れ忘れました。
しかし、この先生きのこるために、もっと成長したい。
の下に、この一文を追加します。
ゲーセン感覚で売買するのはもうやめだ。
すみませんでした。
お題継続で。
207:名無し物書き@推敲中?
09/04/23 03:33:31
「なにそれ?」
「えへへ~、かわいいでしょう」
お姉ちゃんはゲーセンによくあるような大きなリラックマを抱きしめていた。
「くまパンチ!」
ふにゅふにゅとくまの右腕をわたしの脇腹におしつける。
「私キック!」
「くまー」
お姉ちゃんはくまと一緒にころがった。
「お姉ちゃん?」
そのまま起きあがってこない。
「すーすー」
寝ちゃったみたいだ。わたしは毛布を掛けてあげる。
「先生……」
お姉ちゃんの目から涙が一筋こぼれた。わたしはお姉ちゃんの涙をぬぐった。
壺、オレンジ、芸
208:名無し物書き@推敲中?
09/04/23 13:42:00
今のおまえのざまぁ見ろよ負け犬残飯ククク
209:名無し物書き@推敲中?
09/05/06 00:14:20
「ご注文はお決まりになりましたか?」
「牛丼並み大盛りのネギダクと玉子ね。」
「当店には牛丼はございませんので……」
「なら、サザエの壺焼とビールっ」
「海の家じゃありませんので……」
「ん、と。じゃぁ、スパイシーチキンとライスバーガー。」
「それは他店のメニューです。」
「あぁ、店によってメニューが違うのね。じゃ、日替り定食でいいや。」
「あの……」
「あと、ご飯は大盛りにしてね。」
「…ウチはマクドナルドです。三流芸人みたいなボケは止めてください。」
「分かった。ハンバーガーとみかんジュースにする。」
「ご注文はハンバーガー一つとオレンジジュース一つでよろしいですね。」
「いや、ポンジュースで頼む。」
……バイトの面接は不合格だった。こんなに接客業がハードなモノだとは、
あたしは世の中をなめていました。ごめんなさい。
210:209
09/05/06 00:17:05
次のお題は「雨」「傘」「空き缶」でお願いします
211:名無し物書き@推敲中?
09/05/06 17:35:53
街中の銅像の前に、傘をさした男がいた。1時間前からそこにいた。
自分から誘っておいて、勝手に帰るのは悪いと思い、帰るに帰れなかった。
しかも、女性を待つことは初めてだった。
雨の音が大きくなってきた。男の頭の中では、「待つ」と「待たない」の
2つの言葉が、ぐるぐる回っていた。その時、右の足元に置いてあった空き缶
が目にはいった。待っているときに飲み干したものだ。
男は閃いた。この空き缶が雨水でいっぱいになるまで待とう、と思った。
雨は激しかったので、空き缶は数分でいっぱいになった。待つことを
諦めた瞬間、男は突如、裏切られたと感じた。瞬く間にその感情は大きくなった。
男は缶を蹴飛ばした。
転がっていった缶は、息を切らしてこちらに向かっている女性に当たった。
次は森、熊、パソコンで。
212:名無し物書き@推敲中?
09/05/09 03:43:32
叩きつけるような雨を、彼は予期していた。
周りに人影は全くない。
ほかの観光客達は皆、矢の如く速さで流れる雲を見上げながら
宿泊先への帰路を急ぎ、次々彼を追い越して行った。
この自分にはお似合いだろう、彼はしばしそんな感傷的な気分に浸ったが、
豆鉄砲のような勢いの雨粒をいつまでも全身に浴び続けるわけにはいかない。
彼は背を屈めながらうねった坂道を走り降りていった。
自ら恋人を振った挙句、自己嫌悪と後悔と空虚さに苛まれる。
世間一般で腐るほど発生していると思われるこの状況を
的確に指す言葉が日本語に存在しないことに彼は疑問を抱いた。
しかし、仮に呼び名がついたところでなんだというのだろう。
彼はひとり旅をすることにした。
早速パソコンで手ごろな国内の観光地を探した。
森がいい、森が見たい、ドイツの森みたいに霧がかって薄暗いところがいいな。
どこまでも類型的。
もし自分の境遇に呼び名がありさえすれば、案外すぐ立ち直っていたのかもしれないと彼は考えた。
崖にせり出した格好の小汚い喫茶店に駆け込もうとした彼は、
存外に広い店の前の平地の片隅に目を留めた。
そこには犬を飼うには大きすぎ、頑丈すぎる鉄製の檻があった。
闇の奥に熊がいた。
一般的に人間に寄り添う動物とはまず思われないその生き物は、
驚くほど毛並みがよく、獣臭くもなく、聞き分けよさげにちょこんと座っていた。
そして彼とは、決して目を合わせなかった。
213:212
09/05/09 03:45:17
次のお題も
「森・熊・パソコン」でよろ
214:名無し物書き@推敲中?
09/05/09 15:28:12
>>213
パソコンのディスプレイは相も変わらず白いときていた。
字など一つもない。あるのは明滅する縦棒が一本。
急かすように原稿は俺を待っていた。『さあ、書いてよ』と。
俺は息を呑んだ。頭の中には漠然としていながらもイメージはある。
靄でもかかったかのような思考が今まさに手元にあった。
しかし、これではまだダメだ。俺は鍵盤に指を乗せるようにキーに触れた。
徐々にだがイメージははっきりと現れた。真っ白な原稿から視界は別の場所へと移る。
葉から雫が滴り落ちる寸前の光景だった。
瑞々しい新緑の樹の先から玉のような水を乗せている。そうして、今まさに、一滴が落ちようとしていた。
俺はじっと魅入られるように思考に夢中になっていた。
このあと、嫁―いいや、一人の若い女か少女の一人が見えるはずだと決め込んでいた。
粒は瞬く間に落ちる。
茶色い硬い毛皮に水は染み渡った。羽毛か? ファンタジーは絵になる。
しばしの間、下にいた『何か』は動かなかった。呼吸するように僅かながら上下に動いている。
のそりと『何か』は動いた。視界が急激に広がる。
俺は目を疑った。あまりにも生々しい森の姿が鼻の先にあった。
コケくさく泥くさい広大な場所だ。じっとりとしているかのように湿っていた。
まるで雨後か何かのようだった。だからだろう、CPUの音すらも忘れてしまうほど静かでもあった。
けれども、俺が我が目を疑ったのはそれだけじゃない。
『……ん』
巨体がゆっくりと立ち上がった。黒い瞳を葉先に向けている。
毛に覆われている。人ではなかった。
二度か、三度瞬きしつつ『何か』は葉の先を不思議そうに見つめていた。
『―冷たい』といいながら枝に向かって『何か』は手を伸ばす。
その姿は紛れもなく大熊であった。
「ふざけんなあああああああ!!」
ぶちぎれた俺は折角手にしたイメージを振り払った。
嫁は野獣だった。
215:214
09/05/09 15:30:47
次のお題
「桃茶・鈴虫・女学生」
216:桃茶・鈴虫・女学生
09/05/11 00:23:34
テレビをつけると朝から晩までインフルエンザ報道のオンパレードだった。
それも「バカ」がつく騒ぎぶり。日を追う毎に報道は過熱して行った。
感染者と思われる旅行者が入院している病院の前で、ガスマスクに防護服の
リポーターが中継を行い、感染者を犯罪者のごとく報じていた。
マスコミに踊らされるように根拠の無い情報が流され、人々は右往左往した。
「炭酸飲料がウイルスに効く」とテレビが報じればコーラからメッコールまで
ありとあらゆる炭酸飲料が店頭から姿を消し、「漢方薬が効果的」と報じれば
龍角散から養命酒、月桃茶からカレー粉までが争奪戦になる過熱振りだった。
鈴虫の餌を「特効薬」と称して売りつけるなどの悪徳商法が蔓延する一方、
「ウイルスに感染すると顔に一生跡が残る」という噂により思春期の女学生達は
外出を拒んだ結果、学校は休校となった。
人々は家に引きこもり、テレビの視聴率は上昇を続ける。視聴率競争は
激化し、報道もヒステリックさを増してゆく。
だが、ある日を境に過熱報道は急速に鎮静化して行った。
それはWHOのインフルエンザ流行の終息宣言などではなく、
巨額の広告費用を提供しているスポンサーからの一言によってであった。
次は、「金」「銀」「バール」で
「映像メディアは、場合によってはインフルエンザより恐ろしい」(6日朝刊)
実際、世界を見てもこんなに大騒ぎしているのは日本くらいだ。帰国ラッシュの6日の成田国際空港。
感染者が出た米国や、お隣の韓国からの帰国客は「現地でマスクをしているのは日本人だけ。
恥ずかしかった」と口をそろえていた。
「ニューヨークやシカゴはもちろん、感染源のメキシコでさえ、マスクをしている人はほとんどいません。
おカミから、手の洗い方やマスクまで強要されるいわれはないと考えているし、欧米人はそもそも
マスクをするくらいなら外出しない。テレビが政府の伝達係となって不安をあおっている日本の
パニックぶりは、奇異な目で見られています」(在米ジャーナリスト)
217:「金・銀・バール」
09/05/11 01:23:31
「刑事さん、いい加減にして下さいよ。俺はやってないんだって」
完全犯罪を確信した俺は黙秘を続け、ついに勾留期限が明日にせまっていた。
ここを乗り切りさえすれば、大手を振って放免されるのだ。
やったことなんてたいしたことじゃない。町工場の社長が一人殺されたってだけのこと。
「どこに連れてくんです?足が疲れて病気になりそうですよ」
車に乗せられて、町外れの藪の中を歩かされた。
どこに行くのかはわかっている。
俺が凶器を捨てた場所だ。だが、見つかるはずはないのだ。
「ここだ」
刑事は言って、あごで沼を示した。
淀んだ茶色の水が揺れる。底に積もった泥の中を探すのはさぞ大変なことだろう。
「ここがなんなんです?」
見つかるわけはない。凶器だけじゃあない。
近くにあった同じモノを全て投げ捨てたのだ。
万が一、引き上げたとしても、どうせダミーだ。無駄足ふんでほえ面かくがいいさ。
と、沼の水面が泡だった。ごぼごぼと沸き上がる泥の中から、女神が現れた。
女神は両手にバールを抱えて微笑みながら、俺に問いかけた。
「あなたが落としたのは、金のバールですか? 銀のバールですか?」
俺は口ごもった。隣の刑事が勝ち誇った顔でこちらを覗き込んでいる。
正直に答えたら、金銀のバールの他に凶器のバールを戻されてしまうだろう。
だが、金のバールだと答えたら、女神は嘘つきだと怒ってそのまま消え去るはずだった。
「金のバールです」
俺は答えた。
女神はにこやかに頷いた。
「お前は正直者です。お前が落とした、この金のバールを返しましょう」
足元に金のバールが転がってきた。べったりと血が付いている。
「これは、犯行現場の金工場からなくなっていた品だ。―お前を逮捕する」
刑事がそっと布を被せて拾い上げ、俺に道を戻るよう促した。
次「子供、夜明け、水」
218:子供、夜明け、水
09/05/12 01:16:28
そのロボットは凶悪だった。
未来から来たそのロボットは便利な道具で人々の歓心を買い、
疑うことを知らない子供たちに取り入ることに成功した。
やがて、とある少年の家に居候することになったロボットは
家族の一員となり、穏やかな暮らしに溶け込んでいった。
しかし、それはロボットが送り込まれた目的の第一段階に過ぎなかった。
夜明け前、部屋の一部を改造したベッドの上から少年を見下ろし、
水色の体を揺らしながら声を押し殺して笑う。
「君はじつに馬鹿だなぁ・・・」
次は「駄菓子」「バッチ」「約束」で
219:駄菓子 バッチ 約束
09/05/12 23:27:25
おれは高速道路の高架下にあるトイレに駆け込んだ。チャックを緩めながら小便器を探していると、大便器の横でうずくまる初老の男性が目に入った。
「おっちゃん!そんなとこで寝てたらバッチイだろ!」
肩を揺するが全く反応がない。顔を見ると白目をひんむいている。やばい。119番だ。おれは携帯で119番にかけた。
「はい。119番です。火事ですか?救急ですか?」
「救急です。ドリフに出てくるような公衆便所でおっさんが白目ひんむいて倒れてます」
「いたずらじゃないって約束しますか?」
「は?」
「いたずらじゃないですよね。いたずらだったら通報しますよ」
「いいから早く来て下さい!」
場所を説明してからおれは電話を切った。すると、うずくまっていた男性はひょっこりと立ち上がった。
「おっちゃん大丈夫か?」
「ああ大丈夫だ。よく寝た」
「今救急車呼んだよ。じっとしてなよ」
「は?」
「救急車。おっちゃん倒れてたから呼んだよ」
「か、勘弁してくれ!そんなとこに行く金なんかない。おれは平気だ。もう行く!」
「それは困る!」
おれは男性の手をつかんだ。彼は嫌そうに離し
「これやるから勘弁してくれ!じゃあな?」
おれに、真ん丸い駄菓子の包みを手渡すと走っていった。
「げんこつ飴」
五分後、救急車が到着した。
「いたずらしないって約束しましたよね?困りますよ」
「これあげるから許してちょ」
おれは救急隊員にげんこつ飴をあげた。
「バカモンが!救急なめんな!」
救急隊員はお返しにげんこつをおれにくれた。
次
フルフェイス 皮 セブン
220:フルフェイス 皮 セブン
09/05/15 00:08:30
レース開始まで、あと三十分。
俺は緊張でカラカラになった喉を潤そうとスポーツドリンクを手に取った。
この皮ツナギってやつはレース中の風圧や転倒時の保護のために分厚く重い。
通気性は最悪でじっとしてると汗だくになっちまう。
どんなに体調管理に気を配っていても脱水症状の危険性はつきまとう。
だから、俺はこまめな水分補給を心がけているのだ。
だからと言ってスポーツドリンクなら何でもいいってわけじゃない、
最近のジュースまがいに甘い清涼飲料水は長丁場のレースでは疲労の元に
なることを経験的に知っている。
俺はお気に入りのスポーツドリンクを手に取った。
「ちょっと、お客さん。」
振り向くとセブンイレブンの制服を着た男が立っている。
「店内ではフルフェイスのヘルメットは禁止です。脱いでください。」
ちぇっ、レース場内のコンビニなのにうるさい奴だ。
俺はヘルメットを脱いでドリンクの金を払い、ペットボトルをぶら下げながら
ピットへと足早に向かった。
次は「軽石」「朝顔」「石鹸」で。
221:軽石 朝顔 石鹸
09/05/15 01:14:11
男は絡んだ縮れ毛を気にも留めず軽石を石鹸に泡立てると、続いてそれを己の腕に体に力一杯なすりつけた。
軽石は上半身から下半身へ、肛門をも逃さずつるつる下降し最後にひとつ上昇すると、男は先程の縮れ毛は
勿論己の肛門を這ったことすら失念してしまったかの如き軽石遣いを持って顔もごしごしやってしまった。
男は今や顔も指先も余さず決して純白ではない泡に包まれたが、やはりと言うべきか泡の中で三白眼を
いっぱいに見開いた後、顔だけ泡まみれの手のひらでつるりと撫でるとろくに泡も流さず振り返り様薬湯の中へと飛び込んだ。
男の如き成人男性が湯の中へ勢い良く飛べば当然湯は飛沫となり四方八方へ滅茶苦茶に飛び回り、他の客は
大層迷惑に表情を曇らせたが、男は全く平気な様子である。薬湯で全身の泡をすっかり濯いだ男は満足そうに鼻を鳴らすと、
飛び込んだ勢いをそのままに今度は水中から一足に飛び上がって浴場を出て行った。薬湯には大量の泡と、朝顔の花が一輪浮いていた。
次『ネギ』『じゃがいも』『バター』
222:ネギ じゃがいも バター
09/05/15 08:42:55
夏だというのに暖房をガンガンたいたラブホテルの室内。
カーテンは開けられていて太陽の光がまぶしい。
おれは反り返ったチンコにバターを塗り、仁王立ちになった。おれの前でひざまづいている女に「なめろ」と目で合図をした。
女は汗だくになってなめつづけた。
次第にネギのような香りが強くなってきた。女の体臭だ。たったまらんっ
ふっと気が緩んだそのとき、おれは果てていた。
女は勝ち誇ったような上目使いでおれを一瞥すると、おれをシャワーにいざなった。
お互いの体を洗った。
おれの坊主頭をシャンプーで泡立てた両手でごしごしとこする彼女は言った。
「じゃがいもみたいでかわいー」
ううっ、言われてしまった。
次は マスク トタン 紫
223:名無し物書き@推敲中?
09/05/17 21:48:19
犯人を見たんです!会社帰りに見たんです!
人通りの少ない路地で、近くにトタン屋根の家がありました!そこで、
はっと、犯人と目が合っちゃったんです!マスクをしてて、
オレンジ色の帽子で、紫っぽい服でした!
レンチみたいのを持っていて、襲われると思って、すぐに逃げたんです!
だから本当ですって!信じてください!
224:名無し物書き@推敲中?
09/05/17 21:50:33
次は、殺人、鶏、アイスで。
225:マスク トタン 紫
09/05/17 22:30:56
「今日も善き一日でした。アーメン。」
月明かりに照らされた部屋の中、最後のお祈りはベッドの上で。
見上げた月は朽ちたトタン屋根の端で齧り取られたギザギザ模様。
流行り病を患った人々が集められた町外れの教会は日を追うごとに
狭くなっていった。有効な薬も見つからず、マスクも手袋も感染を
押し留めることは出来ずただ、怯えながら過ぎ去ることを祈るのみ。
教会に閉じ込められた悲しみの数だけ紫水晶のロザリオが揺れる。
「願わくば世界中の人たちが等しく公平で在らんことを。アーメン。」
次は「光」「ライト」「球」で
226:名無し物書き@推敲中?
09/05/19 21:42:53
嘘をついてる、そう思い知らされているようで実に鬱陶しい。
頭上にある球体のライトに、祐之はそういった嫌悪といら立ちを向けていた。
狭く、小汚く、まるで閉じ込めるかのようなこの部屋に、余計な光はいらないものだとでも
言いかけられているのがわかった、目の前の男も、そういった眼をしている。
「悪いな、覚えがない」
そう言葉を投げ返して、男の眉はまた皺を増やせていらだちを現した。
震えるかのような掌の動きに、いよいよその拳を持って何か説教でも吐くのだろうかと
半ば楽しみながらに、祐之は唇を舐める素振りをした。
次は「海賊」「ロボット」「部下」で
227:「海賊」「ロボット」「部下」
09/05/20 00:33:31
右腕に巻かれたブレスレットは初めての部下を持った記念だった。
毎日、毎日汗まみれの訓練の果ての実戦は海上警備と言う名の海賊退治。
海賊か漁師かなんて気持ち次第で変わるものを見分けろと言う方がどうかしてる。
昨日と同じ今日では目の前を通り過ぎる品々の一つさえ手に入らない。
だから、彼らは危険を冒して昨日と違う今日を手にしようとしている。
気持ちは分かる、しかしそれを受け入れることはできない立場なのだ。
船は向きを変え、左舷の窓から彼らの船が良く見える位置へと移動する。
私は、片手をコンソールの上に乗せたまま彼らの船を見つめた。
ブレスレット型のIDタグによる認証を受けて自動索敵追尾機銃、通称
ロボット弾幕は海賊の小型船を一瞬で残骸に変えた。
つぎは「縦」「横」「斜め」で
228:名無し物書き@推敲中?
09/05/20 01:20:28
お題の質が劣化してる
縦横斜とかなめてんの?
229:名無し物書き@推敲中?
09/05/20 01:37:38
んーむしろ使いようによっては面白いと思うけど。
文字列として含まれていればよい、っていう解釈が
こういうときにこそ生きてくる
いいお題だと思うよ
そして感想は簡素スレへ
230:たて横ナナメ
09/05/20 02:41:16
俺は、何のためらいも無く、縦に一閃、握り締めたそれを振り下ろした。
刹那、好奇心に一握りの不安をにじませた鮮やかな表情が、横でわっと沸いた。
どこからか流れ着いてきた、古く適当な太さの松の枝。茶色い肌から、すれて滑らかになった
腕がのぞき、幾本もの黒い筋が、斜めに模様をつけていた。
俺は、肩の力を抜き、開放感に満ちた笑顔を見せた。
サークルの奴らは、わあわあ言いながら、俺の目の前に群がっている。
スイカは、無残に割れていた。しかし、みずみずしい果肉は、太陽の光をいっぱいに浴びて、
目の前の海のように、俺たちにきらめきを投げかけていた。
俺は、群れのなかに立つ、優子を振り返った。彼女は、ピンク色のフリルのビキニを着て、
誰よりもまぶしく、俺に笑いかけていた。
231:名無し物書き@推敲中?
09/05/20 02:42:15
お題忘れてました。
次は、りんご、バナナ、白雪姫で。
232:りんごバナナ白雪姫
09/05/20 03:29:20
さて白雪姫は林檎を食べてくれるのか。
真っ赤に熟れて美味そうだが、あのわがままな娘は。
「林檎嫌い」
「だまらっしゃい、いいからお食べ」
「いやだっつってんだろ、この婆あ」
仮にも継母に向かって、なんてことを言うんだこの小娘。
だから嫌いなんだよ、いっつも逆らってばかり。
おまけに、最後に必ずとんでもないことを言うんだ。
「バナナだったら食べてもいいけど、フィリピン原産の」
この年寄りに、海を渡れというのかい。
そんなものはコロンブスにでも頼んでおきなさい。
これ書きやすいな
次「チョーク」「学級会」「セーター」で。
233:チョーク 学級会 セーター ◆2NJvO35T.o
09/05/20 08:23:14
おれは学校の教室でイスに座った状態でかなしばりにあっていた。
教壇では生徒が何かぎこちなさそうにしゃべってる。その横で教師が見守っている。
トイレに行きたい。しかし立てない。
おれはしょんべんをもらした。
「こいつ、しょんべんもらしてるー、チョークセー」
後ろから聞こえたその声におれはとっさに反応した。
声の主の首に指を食い込ませるとそいつは白目をひんむいて動かなくなった。
「こら!学級会の最中でしょ!何ですか!」
教師の怒号が飛ぶ。
気が付くとそれは夢だった。
部屋から出て台所に行くと母親が言った
「おまえ、セーターけえな。小学生の背丈じゃねえぞ」
は?
おれは大人の背丈のまま小学生に戻っていたようだ。
次は
茅野 さんま コリ
234:名無し物書き@推敲中?
09/05/20 15:27:13
茅野(ちの)って地名だろ、固有名詞に当たらんのか?
そんな事を思いながら食卓に箸を伸ばし、黒々と光るサンマを頬張った
コリャ旨い。良く脂が乗っている
ところで>>223>>224のお題は皆スルーかね
マウスホイールを転がしながら気付いた事実に首をかしげる
コケン、鶏の鳴き声みたいな音がしやがった。凝ってんなぁ
食後のデザートはアイス。ぬとぬと君ゴーヤ入り味噌スープ風味・ドリアンスペシャル…。
殺人的な不味さだった。もう二度と買わんぞ
次のお題は
「ある日」「森の中」「熊さんに」
235:名無し物書き@推敲中?
09/05/21 00:09:30
ふーん、それがあんたの言う「劣化してない」上質なお題ってやつなのか
236:名無し物書き@推敲中?
09/05/21 00:20:42
人違い乙
237:名無し物書き@推敲中?
09/05/21 08:52:57
遅れた方のお題は基本スルーでいいんだよ
自主的に6語使いたければ使ってもいいけど
そして雑談は簡素スレへ池
238:殺人、鶏、アイス、ある日、森の中、熊さんに ◆TzmjaOEYls
09/05/21 14:08:19
ある日、男は殺人について考えていた。完全犯罪を目論んでいるわけではなかった。犯人はいてもいい、と思っていた。
時効が成立するまで逃げ切ればいいだけのこと。男はその手立てを模索しているのだった。
遺体の処理方法は決まっている。深い森の中は海よりも安全に思えた。テレビが教えてくれた知識である。
同様にミステリー小説で仕入れた凶器はアイスの刃。証拠は簡単に水に流せる。洒落のつもりはなかったが、男は独り口元を歪めた。
「ごろごろしてないで、ちょっとは手伝いなさいよ。鶏を丸ごと、さばくの大変なんだから」
自分がさばかれることも知らないで呑気なものだ、と男は嗤いを深めた。
キッチンに向かう前に冷蔵庫に立ち寄り、用意したアイスの刃を手にした。凄惨な料理の始まりだった。
意外に戸惑った。男は額を手の甲で拭った。顔は汗と泥に塗れていた。
埋めた場所は周囲と比べても遜色がない。事前に土を持ち帰り、保存していたものを使用したのだ。完璧と言える。
そのためなのか、帰りは軽快な足取りで口ずさむ。童謡の熊さんである。まさか、それで呼び寄せたのか、黒い物体に出くわした。
ウソだろ、その声は振り下ろされた凶悪な一撃で掻き消された。
熊は保存食として土に埋めることにした。すると、もう一体、出てきた。熊は純粋に喜んだ。
そして、スタコラサッサと森の奥に帰っていった。
次のお題は「結婚」「初めて」「その果て」でお願いします
239:殺人、鶏、アイス、ある日、森の中、熊さんに ◆TzmjaOEYls
09/05/21 14:26:11
すみません、訂正です
上から十行目、>意外に戸惑った× 手間取った○
十二行目 >童謡の熊さんである× 童謡の熊さんに、である○
240:結婚 初めて その果て ◆2NJvO35T.o
09/05/21 18:54:59
えー、新郎は今回が初めての結婚でありましてぇー、経験豊富な新婦に比べていささか頼りない印象もないわけではありますがぁー、私はー新郎とは大学時代からのお付き合いさせていただいてますがー、彼の人を見抜く目というのは全く確かなものであります。
ですからーお二人はきっと、新婦の涼子さんにとっては今度こそ、立派な家庭を築いて行けるものだと断言させていただきます。
涼子さん。耕一君は必ずあなたを一生守り続けます。
これからの長い人生。人生百五十年とはつい最近言われるようになってばかりですが、これからきっといろんなものが二人に立ちはだかるでしょうがお二人ならきっと乗り越えてゆけます。
ささやかではありますが友人代表の挨拶とさせていただきます。
次は
蛍光灯、融合、虚無
241:名無し物書き@推敲中?
09/05/21 18:55:43
↑ごめん。「その果て」忘れた。
242:結婚 初めて その果て ◆2NJvO35T.o
09/05/21 18:59:03
えー、新郎は今回が初めての結婚でありましてぇー、経験豊富な新婦に比べていささか頼りない印象もないわけではありますがぁー、私はー新郎とは大学時代からのお付き合いさせていただいてますがー、彼の人を見抜く目というのは全く確かなものであります。
ですからーお二人はきっと、新婦の涼子さんにとっては今度こそ、立派な家庭を築いて行けるものだと断言させていただきます。
涼子さん。耕一君は必ずあなたを一生守り続けます。
これからの長い人生。人生百五十年とはつい最近言われるようになってばかりですが、これからきっといろんなものが二人に立ちはだかるでしょうがお二人ならきっと乗り越えてゆけます。
これから残り100年あまりですか。100年先のその果てまで私はお二人を応援しています。これからもよろしくお願いします。
以上、ささやかではありますが友人代表の挨拶とさせていただきます。
次は
蛍光灯、融合、虚無
243: ◆DinfA5bnxE
09/05/21 19:38:48
蛍光灯、融合、虚無
「はい、ありがとうございました。
ええー、続きまして、新婦の涼子さんの、高校時代の部活、物理部、
その部長でいらした、蘭取理沙さんのスピーチです。どうぞ」
(拍手─パチパチパチパチ)
「結婚生活は、皆様もご存知のように、三次元の世界での出来事です。
しかし私はあえて、結婚生活とは五次元であると、提唱しましょう。
まず、耕一くんという一本の線と、涼子さんという一本の線が、出会い、世界はそのぶん広がり、二次元となりました。
二次元、いわゆるフラット、平面であります。わかりやすく正方形をイメージしていただきましょうか。
そこに愛という次元が生まれ、三次元、わかりやすく箱のような立方体としましょう。
箱、つまり愛の巣ができあがりました。そこに、これから彼らが育む時間を加え、四次元。
(野次─帽子にヒゲ面のガンマンは?)
「アニメのキャラクターですから二次元です。ゴホンッ、話を戻しますが、問題の五次元は、では何でしょう?
私は、物理学的には『重力』であると思っているのですが、結婚力学としては『許し』だと思います。
つまり、怒らないこと。怒ると、心の中が真っ黒なダークマター、虚無でいっぱいになります。
もっとも、部室の電灯を交換した時、新郎新婦は蛍光灯を向け合ってスターウォーズごっこするくらいですから、
心配無用でしょう。この二人が融合して生み出す素晴らしい愛の熱量に、本日、独身のわたくし、あやかりたく存じます」
「揺らぎ」「自爆」「開眼」でよろしこ。
244: ◆DinfA5bnxE
09/05/21 19:56:25
スターウォーズごっこするくらいですから、
↓
スターウォーズごっこするくらい ラブラブ ですから、
に訂正。
>>242さんの作品の二次創作ですので、観想はいりません。
245:揺らぎ 自爆 開眼
09/05/22 16:51:10
「先輩…」
呟くだけで胸が高鳴り、頬に朱が差し込む。
踏み出さなければ―そう思うのに心は揺らぎ、膝が崩れそうになった。
嗚呼、行ってしまう。柱の陰から覗く逞しい背中が、小さくなっていく…。
…駄目! 勇気を出せ自分!
お師匠様も言っていた。恋の極意は当たって砕けろと。それは即ち―、
『特攻!』『自爆!』『神風万歳!』
開眼した刹那、気が付けば脚は駆け出し、口も思いの丈を吐き出していた。
「先輩、好きじゃぁぁぁぁあああああっっっ!!!」
「ぬぅ、うぬの気持ちは嬉しいがそれは困る。だがどうしてもと言うのであれば我を倒して見せよ!」
振り返った厚い胸板が、膨大な汗の臭いと熱気を発して迎え撃たんとする。
だがもう臆したりはしない。二人の戦はこれからだ!
聞け、天よ、地よ、人よッ! 次回披露するのは
『鬼神』『伝承』『そして愛』
の三撃なり! 刮目して待て!
246:『鬼神』『伝承』『そして愛』
09/05/22 17:43:06
あらすじ
敏夫は不思議な伝承のある山村へやってきた。
美しい姉妹、怪しげな老婆、何かを隠しているような村人たち。
そこで、世にも恐ろしい鬼神伝説に沿った殺人事件が発生する!
たがいに惹かれあう敏夫と美由紀。
殺されるのは三人。犯人は姉妹の父。
最後には火山が噴火するという恐ろしい事実の連続。
そして愛の行方は?
衝撃の真実があなたを襲う!!
その他の著作
『腐乱』『猿回し』『片栗粉』
新進の奇才の描く壮大な三部作!
247:腐乱 猿回し 片栗粉 ◆2NJvO35T.o
09/05/22 19:07:02
腐乱 猿回し 片栗粉
「おっ!あったぞー大きなマツタケが」
武男がそう喜び勇んで近づいた先にあったのは、半分ほど野鳥に食い散らかされたと思われる、人の腐乱死体だった。その横には武男が今までに見たこともないようなとてつもない大きさのマツタケが生えていた。
「しかばねを乗り越えて行け!」
武男が以前勤めていた会社の朝礼で毎朝復唱していたフレーズが彼の頭に響いた。
「うひょー、まさにおれはこのしかばねを乗り越えて、こんなすごいマツタケを手にすることになったんだ!」
武男はマツタケをそっと大地からむしると、家路を急いだ。
家に着くと早速このマツタケをどう料理しようか嫁のナツミと話し合った。
「唐揚げにしたら美味しいと思うな」
ナツミの一言で答えは決まった。
料理は二人で作った。ナツミがマツタケを片栗粉に漬けようとしたその時、武男の両手がナツミの背中から伸びた。
「やっぱ料理はあとにして、先にこっちにしようぜ」
生温かい武男の舌がナツミの首筋を這う。
そう誘ったのは武男だったはずなのに、いつのまにか主導権はナツミに移っていた。
「いい?たけちゃんは猿回しの猿なのよ。じゃなきゃあたしが気持ちよくなんかなれるわけないでしょー?なんで先にいっちゃったのー?だめでしょー」
ナツミが上目使いで武男をみる。またしても先に逝ったのはナツミではなく武男だった。
さっきのマツタケは水分でふやけた片栗粉に包まれてどこか待ちくたびれた様子だった。
次は
インセンティブ 互換 ゆず
248:インセンティブ 互換 ゆず
09/05/25 14:47:08
「あのねぇ、インセンティブの意味、わかってます?」
俺は相手が上司にも関わらず、横柄な言葉を投げかけていた。思わず言葉が乱暴になってしまうくらい苛立ち、失望、悲嘆、怒り、無情…、とにかく気持ちが整理できない状態になっていたからだ。そんな複雑な表情をした俺を、上司はきょとんとした顔で見つめていた。
「知ってるよ。社員のやる気をアップさせるための報酬だろう?」
「それがわかってるなら」そう言って、俺は自分の机を指差した。「これは何ですか、一体」
机の上には段ボール箱が一つ置かれていた。
「農家と直接契約して新鮮な果物を提供するのが、うちの会社の仕事なのはわかってますけど、インセンティブがどうして『ゆず』なんですか!」
「ゆず嫌いか?」
「そういう問題じゃありません!」
「じゃあ、かぼすにしてもらおうか。ゆずに近いし、互換性もあるだろ」
上司は総務部に内線をかけた。俺は絶望の表情で机の上の段ボール箱をただずっと見つめていた。
次のお題 落語 食券 ミニスカート
249:落語 食券 ミニスカート ◆2NJvO35T.o
09/05/25 22:47:37
お茶の水駅を下りると師弟食堂におれは急いだ。
バンドの仲間と待ち合わせだ。
時間きっかりに着いたが他の奴はまだ来なかった、
先に食ってることにした。
券売機でカツ丼を選んだ。
ここはクソまずいからカツ丼以外に食えるもんがない。
食券がひらひらとステンレスの囲いからはみ出した。
拾おうとかがむとまたヒラヒラ、食券は風に舞った。
さらに食券を追った。薄茶色い裸足が食券を踏んだ。
見上げると全裸の男がニタニタしながら立っていた。
なんだまた落語研究会か。勘弁してほしいもんだ。
「てめえ服着ろや!」
そいつの腹に思いっきりパンチを食らわした。
奴は後頭部から地面に転がり落ちた。
ところが、その瞬間にそばを歩いていた女子学生が奴に足首をつかまれた。
奴は彼女のミニスカートの中身を見てニタニタしていた。
転んでもただではおきないとはこういうことか、全くあきれたもんだ。
奴の股間を思い切り蹴っ飛ばしてやった。
そして食券を拾うとさっさとおばちゃんに渡した。
次は 水 見ず 診ず
250:名無し物書き@推敲中?
09/05/25 23:48:25
落語 食券 ミニスカート
「なあ知ってるか」
大男は自慢げに鼻を鳴らし、語りだした。
「何をです? やぶからぼうに」
もう一方の問いを発したのは大男の反対に背の低い男である。
二人の男は食堂の配膳台に続く行列に並び、暇を持て余していた。二人の男の前には二十人、後ろには十数人。男らは列のおよそ中盤に居た。
二人の行列の他に、二つの行列がある。列はいずれもそれぞれのカウンターに向かって長く続いていた。カウンターで
注文を受け付ける食堂にはお馴染みの風景であった。二人は真ん中の行列に居り、それはちょうど配膳を待つ人々の中心という位置であった。
「蕎麦だよ蕎麦。おれは蕎麦も酒も好きだからね。どっちも頼んじゃうぜ。」
「うん。はあ。そりゃあ、良かったですね」
大男は妙に目を輝かせていったが、対する小男は困ったように生返事を返す。大男の意図がわからない、といったふうである。
「何だ詰まらん、風流のわからんやつめ。落語の師匠に居たろうよ、蕎麦に酒をかけて食うやつが」
「ああ、すいませんね」
心底面白くなさそうに大男が言うと、小男の方でも詰まらなそうに溜め息と恨みがましげな視線を送った。
「ああ、全く詰まらんよお前はよ。いけないね、物欲や性欲ばかり旺盛な若者はよ。お前なぞは落語よかあすこの姉ちゃんでも見ていやがれ」
反応の薄い小男を煩ってか無闇に饒舌になった大男のしゃくった顎の先に、すらりと長い脚を見せるミニスカートの女性が居た。
つられて小男が女性を見ると、初めにちらりと見ただけの大男も、何か想うところがあるのか再び目を向けるや否や今度は穴を空けんばかりの視線で女性を観察しだした。
しばらくかけて大男は女性の全身を舐めまわすように堪能したと思えば、先の諍いはどこへやらすっかり気を良くして、いつの間にか目前に迫っていたカウンターを対し財布を開くと五千円札を一枚指に挟み、大仰にこう言う。
「詰まらんお前には奢ってやるぜ。おばちゃん、ざるそば四枚に日本酒二本ね。日本なだ……」
「お願いします」
小男は大男を遮るように動くと、カウンターの向こうに食券を手渡し「先輩ここ食券ですよ」と言って予め作られていたカツ丼を受け取りさっさとその場を去った。
251:名無し物書き@推敲中?
09/05/25 23:50:34
アッレー被ってた。リログしたのになあ。
すんません。
252:水 見ず 診ず
09/05/27 12:29:52
看護婦に呼ばれた大柄な患者が診察室のドアを開ける。
真っ赤なマイクロミニに黄色いブラウスの上から黒いブラが透けている。
職業は水商売だと全身が物語っていた。
「どうされました?」医師は患者の顔を見ずに聞いた。
「風邪だと思うんですけどー?熱っぽくてー、喉が痛いのー」
「血液、検査しますか?」医師は患者の言葉をさえぎるように言った。
「お願いします。でもどうして?」患者はまるで女性の様にしおらしく答えた。
「医者ですから」と答えた医師は師の言葉を思い出していた。
病気を診ずして病人を診よ。
次は 埃 歴史 純情
253:埃 歴史 純情 ◆2NJvO35T.o
09/05/27 23:37:20
埃 歴史 純情 /なつかしい ほろにがい 甘い 昔 残る 乾燥
新しい 痛い 未来 消える 湿潤
緑の木々と艶のある草が生い茂る中をひたすら歩いて行った。
耳を澄ますと巨大な金属と金属がぶつかり合うような音が時計の秒針ぐらいの速さで響いてきた。
その音は次第に大きくなって行った。
視界が開けた。巨大な井戸のようなところから何かが汲み出され続けていた。
その横には町のような小さな集落があった。
集落の真ん中に向かってゆくと、向こうからハーレーに乗った若い女が近づいてくる。
ノーヘル、金髪のロングヘアー、ワキガと香水の混じった強烈なにおい、黒のタンクトップに迷彩柄のパンツ
女を見たのは何ヶ月振りか。
おれは見とれてしまった。触覚以外の全ての感覚が彼女に支配された。
すれ違う一瞬、その女は外見に似合わぬほどの純情な瞳でおれを見た。
やられた。
その瞬間、おれの荷物は彼女にひったくられた。
彼女のハーレーは土埃をあげてのんびりと、しかし人間の足では到底及ばないスピードで去って行った。
なんということだ。おれは村の新しい歴史を、唯一の望みを村人達に託されてやっとここまで来たというのに。
254:名無し物書き@推敲中?
09/05/27 23:41:50
次のお題
興奮 絶頂 放出
255:埃 歴史 純情
09/05/28 00:05:11
殺風景な部屋であった。
まず目に映ったのは勉強机。それから空の本棚。箪笥。それだけだった。そして勉強机にも
う一度目を向けると、一つの写真立てがあるのに気が付いた。
大きさは手のひらに乗る程度であり、半楕円形から、写真を切り取って嵌める類のものだと
推測出来た。人を写したものであろうか。手に取ると酷く埃が積もっている。埃が写真に蓋を
して居り、ちょっと何の写真だろうか判別がつきそうになかった。
太郎は写真立てを戻そうとしたとき、おやと奇妙な感じを覚えた。なんだろうと写真立てを
持っていた指を見ると、埃が付着していない。次いで机と、部屋を見渡して見るが、特に埃は
見られなかった。埃のあるのは写真立ての、しかも写真の部分だけであった。
太郎は不信に思い写真を指でなぞってみると、埃にしては驚くべき質感があった。積もると
いうよりはこびりついているといった方がより正確であろうか。一撫ででは拭いきれず、二三
と続ける内に、太郎は遂に爪を立てて擦らなければならぬことを悟った。埃がこの姿を成すの
に、一体どれほどの年月費やしたのだろう。太郎は途端に埃と、この写真が尊いものに見えて
きた。
しかし太郎は爪を立て、その尊い誇りを削り始めた。太郎に戸惑いはなかった。太郎にはそ
れが何故だろうか今生において最大の仕事のように思えた。果たして太郎はその仕事をいとも
簡単にやり遂げた。
太郎はその写真を見た。不意に太郎は胸の詰まる思いがした。胸を満たしたのは深い安堵と
後悔であった。太郎の厚い胸板が大きく上下する。間も無くその荒い呼吸に嗚咽が混じり始め
た。しかしそれだけであった。
写っていたのは、幼き時代の己の姿であったのだ。幼い己は小さな顔を不細工に歪ませうず
くまっていた。それは怒っている顔のように見えたが、その頬は確かに濡れていた。
埃には歴史があった。それは純情の歴史であった。太郎は、純情それがため己に触れもせず
去った花子を想った。
太郎は泣き叫ばなかった。泣き叫ぶほど純情になれない、またその資格がないと思ったから
だった。しかし、その頬は、確かに濡れていた。太郎は静かに泣き出した。
次
ハンバーグ 鼻 コシアブラ
256:名無し物書き@推敲中?
09/05/28 00:10:11
またやっちったァァァァァァァァァ!!!
2NJvの人と時間被ってんのかね
257:名無し物書き@推敲中?
09/05/28 00:17:38
連投ごめんなさい。
被った上に図々しくもちょっと修正させてください。
太郎が埃を削るくだりの『戸惑い』ですが『躊躇い』の間違いです。
何でこんなミスしたんだろ。躊躇いて書いたつもりなのにな。
258:名無し物書き@推敲中?
09/05/30 00:03:34
対したミスじゃない
259:興奮 絶頂 放出
09/05/31 09:22:46
第二セクターから第三セクターは、結合と乖離を繰り返すビッグ・トンネルの中間点だ。鼻息を荒くして待ちぼうけていた俺たちは、ゲートの解放と共に一斉にトンネルから放出された。
いまだかつて経験したことのない加速、節々のねじれた神経は次第にほぐれてゆき、振動と共に興奮は高まってゆく。
トンネルの内部を一億の馬が泳ぐ。どれもしなやかに尻尾を振って、俺だけが生き残るというひとつの確信に満ちている。首筋に神の息を感じて絶頂に至る。
背後でトンネルの連結が外されるのを見る。千頭ちかく二度と帰らぬ光の中に吸い込まれていった。桃色の繊毛ひしめく華やかな宮殿に目指すスフィアは燦然と並ぶ。
頭部に携えた唯一の武器「酵素ブレード」でスフィアの半透明の膜を焼き切っていく。
どれにするかなんて迷っていられない、どいつもこいつもビッグ・ファーザーから持たされた僅かばかりのエネルギーを限界まで振り絞り、我先にスフィアに潜り込もうとしていた。
そのとき俺のスフィアは突然強固になり、俺の酵素ブレードをはね返した。
せっかく開けた傷口が見る間にふさがってゆく。怪しく光るスフィアの中に包まれたひとりの男が、羊毛の草原にうずくまった俺を見ながら意地汚く笑っていた。
息が苦しい、腕のメーターを見るとエネルギー残量は既に危険レベルだ。万事休すかと思われた時、繊毛に守られたちっぽけなスフィアが俺に微笑みかけてきた。
俺は戦場に散らばる数千の死骸の中を這い、もたれかかるように膜に酵素ブレードを深く突き立てた。
間一髪、ようやくスフィアの中に乗り込んだ俺は、それから半年近くも気を失っていた。
そして今はこうして保健体育の教師をしている。あの時の出来事を話せるのがまるで奇跡のようだ。
260:名無し物書き@推敲中?
09/05/31 09:24:54
次は
野菜 馬 祭り
261:ハンバーグ・鼻・コシアブラ
09/05/31 15:46:48
「ねぇお兄ちゃん、コシアブラって、何?」
「・・・簡単に言えば山菜だ」
自室の机に向かう少年と、テーブルで雑誌を読む妹。
6畳の部屋には、既に夕日の色もない。
聞こえる音は、カリカリ・・・ペラ・・・「へぇ~」
妹の感嘆する声を聞き流し、兄は受験勉強に勤しむ。
「ね、ね? なんだかさ、ハンバーグ食べたくない?」
「どうしたら野菜類から肉類に繋がる。・・・その雑誌か?」
「そゆこと。ヘルシーハンバーグだって。後でお母さんに言ってみよーっと」
気の無い相槌を返し、兄は参考書に見向く。
静やかな空気の流れる部屋。
トントンと階下から響く足音が聞こえてきた。
『・・・二人ともー、夕ご飯できたわよー』「ハーイ」
妹はシュタッと立ち上がり、颯爽と部屋を出て行った。
兄も、溜め息をしてから開け放たれた扉をくぐる。
鼻に届く匂いは、肉の焼けるジューシーな香り。
そういえば、と兄は思い出す。
妹の雑誌は、リビングから持ってきていたな、と。
262:野菜 馬 祭り ◆2NJvO35T.o
09/05/31 22:43:03
側に置きっぱなしになっていたギター雑誌をパラパラとめくってみた。
「今までのライブで一番エキサイトした時のことを教えてください」
「エキサイト? 俺たちはいつもステージでは全力でエキサイトしてるよ?」
「その中でもとりわけ印象強いものを…」
「うーん、困ったな。ああ、そうだ(笑)。あったよ。それは30年位前かな。まだランディーが生きていた頃だなあ。
当時はステージからいろんなものを観客に投げ込むのがはやっていてね、
俺たちは最初の頃はタマネギとかニンジンなんかの野菜を投げ込んでいたんだが、それがエスカレートして、熟したトマトとか生卵とかを投げるようになり、
あげくの果てには、鶏の生首なんかも投げていたよ(笑)。
で、ある時、鶏の生首を投げた直後に俺は馬の覆面を投げたんだ。
そうしたら、それを本物の馬の生首と勘違いした客が驚きのあまり暴れまくって、危うく観客全員将棋倒しになるところだったよ」
「もう、祭りですね」
「祭りどころじゃない。一種の集団パニックだよ。
それで、その時に会場側からはこっぴどく叱られて、それ以来、ステージからモノを投げるのは一切やめにしたんだ」
次のお題は
カセットテープ 黄色 反射
263:○ ◆2NJvO35T.o
09/06/01 18:54:10
みなさんの感想聞きたいっす。
264:名無し物書き@推敲中?
09/06/01 21:57:25
感想は簡素スレで
簡素スレageカキコでもすればだれか来ると思うよ
265:黄色 反射 カセットテープ
09/06/02 16:25:12
「この黄色いのがそうなんですか」
助手は顕微鏡を覗きながら尋ねた。
「そうだ、長い間解らなかったがようやく謎が解けた」
そう言うと教授はラジカセの再生ボタンを押した。
<<この菌と………を融合させると>>
「スコット博士が実験データを録音していたカセットテープのこの途切れた部分、この部分に当てはまる物質は他の物質と決め込んでいた。だがそうではなく菌自体から抽出培養したものだったのだ。これは昨日の君の言葉からヒントを得たのたがね。」
「凄いですよ!これは学会に、いや世界に衝撃を与えるんじゃないかな。」
「私もそう思う。それともう一つ解った事があるんだが」
「なんです?」
助手はもうその菌に夢中になって顕微鏡から目を離そうともしない。
「人間の思考に非常に強いある作用をもたらすんだ」
「なんですか勿体ぶらないでくださいよ」
助手はなおも顕微鏡を見たまま促した。確かにこの菌には人を虜にする不思議な魅力があった。
「……自分以外の生物に強い殺意を抱くんだ」
助手はハッとして顔を上げた。正面の棚のガラスの扉に反射した教授の姿。その手には怪しげに黄色く光る刃があった。
次「データ」「コード」「モニター」で
266:データ コード モニター ◆2NJvO35T.o
09/06/03 08:31:57
Aデータシステム株式会社で暴力事件が起きた。
3年目社員が上司に対して、とあるシステムのプログラムソースコードの不備を指摘されたことをきっかけとして、逆上したというのが事のてん末だった。
この時、上司が転倒したひょうしにTFT液晶のモニターが破損した。鋭利な刃物となったモニターのスクリーンは上司の左眼球を突き刺したのだった。
一見どこの会社でもありそうなくだらぬ事件ではあるが、この事件が他の類似した事件と異なっていたことが一つあった。
それは、加害者がインターネットの掲示板で、この事件を起こすことを予告していた、という点だ。
267:名無し物書き@推敲中?
09/06/04 00:00:40
データ コード モニター
空調設備だけ見れば快適な空間ではあるものの、窓の無い四畳部屋に軟禁されることのつ
まらなさといったらこの上ない。マッサージチェアにもたれつつこの部屋唯一の動物(但し予
想外に動く物体)に注目し、当然眼球にのみ平生全身体を動かすべく蓄えられたエネルギーや
ら何やらを動員するので、視神経に集中されたる疲労といえば眼を押し込んでもこめかみを
叩いても到底解消されるものではない。今もぼくは左のゆび先でこめかみをトントン叩きな
がらぬるりと光るプラズマテレビを眺めこれから我が分身を如何に動かしてこの眼玉を盲目
の危機から救出せんと悩んでいる。
ぼくが今時珍しいポン引きの紹介にも関わらずこの仕事を請け負ったのは、物語の主人公
の得たるが如き大それた理由があるわけではなく、かと言って特別に暇というわけでもなく、
ただもし、どうしても言わんとするなら現代の、しかも経済的にも社会的にも恵まれた家の
子の武者修行というか、生活からは全く想像し難い未知なる世界の見学といった風の、まあ
端的に言えば犬でも見いだしそうな好奇心のためなのだが、時給こそ高いもののビデオゲー
ムのモニターがこれほどまでに辛い仕事だとは思わなかった。
画面上に這い蹲るぼくの分身はこれでもかというくらい貧弱で、進めば進むほどに強化が
必要になってくる。強化というのは敵を倒すの一辺倒であり、正直面白くも何ともない。初
めのうちは我慢出来たが、目の奥に重くのし掛かる鈍痛にもそろそろ限界のようだった。
これでも与えられた任務には忠実なつもりなのでちょっと気は引けるものの、背に腹は代
えられまい。改造コードでも打ち込んでセーブデータの主人公を二倍くらいに強くしてやろ
う。
次のお題
蟻 トウモロコシ 飛行機
268:蟻 トウモロコシ 飛行機
09/06/04 22:56:40
蟻がとうもろこしを運んでいる。飛行機の中で。飛行機は今、空を飛んでいる。水中を自由に泳ぐ飛行機なんてもう飛行機ではないし、
土中を掘り進む飛行機なんてものは現代の科学技術では作れないオーパーツだ。モグラでも確か一時間に数センチしか地面を掘り進められなかったはずだから。
これらのことから推測するに、今見ている光景はそれほど現実離れしたものではなく、そして俺は多分現実のなかにいる。
蟻の種類は何だ? ヤマトクロアリか南米産のシロアリか。いやきっとシロアリはとうもろこしを食わない。
胚芽の白い部分が自分達の色にそっくりだから、勘違いしてしまうんだな。それにあの蟻は黒い。寒い。
寒い。とうもろこしの種類までは分からないけど、とうもろこしの生産量世界一の国は知っているんだ。地理の時間に習った。アメリカだ。
だからこの飛行機はきっとアメリカから飛び立ったんだろう。地震がないけどきっとそうだ。でも、中に居るのは日本人みたいだ。
寒い。髪が短くて金色だけれど、もう一人は少し禿げているけど、あいつらは日本人だ。きっとこの飛行機の行き先は日本だ。
声は聞こえないけど彼らはこちらを見て口を動かして喋っている。ずっと瞬きしていなければ眼球の上に氷のレンズが張ってしまう。
瞬きと窓越しに見える男の口の動きがシンクロした瞬間は、彼らの唇が読めない。
アニキヤツワラッ、テウ。ホットケ。エモオトシアエツケサセナキャ。トウセシムンダ。
蟻が窓枠から見えなくなって、運んでるとうもろこしの先端だけが見える。寒い。とうもろこしの先端が揺れている。
蟻はあきらめてないみたいだ。飛行機が飛んでいった先にお前の巣穴なんてあるわけがないのに。
救急車の中と新幹線の屋根の上と飛行機の翼に一度は乗ってみたかった。こうして死ぬのはバカみたいな気分だ。なんでこんなところに居るんだろう。ひょっとしてあれかな?
ありがとう、誰だか知らないけど中のアニキさん。蟻にとうもろこしをやったのもきっとあんただな。
次、ウチワ、ラーメン、タバコ
269:蟻 トウモロコシ 飛行機
09/06/04 23:48:17
訂正 地震がないけど→自身がないけど
さすがに判りにくいか
アニキ、ヤツ、ワラッテル。ホットケ。デモ、オトシマエ、ツケサセナキャ。ドウセ、シヌンダ。
270:ウチワ ラーメン タバコ
09/06/06 06:14:06
タバコお断り、の貼り紙が目につく。タカシはカウンターテーブルを指でコツコツと鳴らしながら、待っていた。
遅い。いつもなら長くても15分。タカシは待つのが好きな方ではない。待ち合わせの5分前にはその場所に居る男だ。
―それが今日は30分。何かあったのだろうか、と心配になるが、それを口に出して辛抱のない人ね、と思われるのも嫌だった。もう少し我慢するか。ポケットのライターに手をやる。
ふと、シオリのことを考えた。ヘビースモーカーのタカシに、シオリは言う。
「もう若くないんだから、そろそろ禁煙も考えたらどうかしら。体を悪くしたら、何にもならないでしょう。」
分かってはいるんだが。15年も共に歩んだ相棒を手放すのは、容易いことではない。機嫌の悪い時には、シオリはウチワで煙をタカシの方へと追いやった。
「嫌なのよ、この臭いが。私はね、嗅ぎたくないの。」
もし禁煙したら、俺はもっと他の匂いを敏感に嗅ぎ取ることが出来るのだろうか。シオリの白い首元が思い出される。
目の前の水をグイと飲んだ。店に入って、35分。今更ビールを頼むのもおかしい。こう貼り紙をされては、タバコを吸う訳にもいかない。タカシはテーブルの上で腕を組み、木目を数えた。
ふと、目の前に人の立つ気配がした。頭を上げると、よく見慣れた顔がそこにある。やっと来たか。タカシと目が合うと、男は申し訳なさそうに笑った。「すんません、塩ラーメンお待ちどうさま」
キッチン 空 電波
271:名無し物書き@推敲中?
09/06/07 02:42:56
キッチン・空・電波
午後六時の日課。空が赤くなったら屋根の上からメッセージを送る。お父さんに。お母さんに。おじいちゃんに。おばあちゃんに。学校の先生に。クラスの皆に。隣のおじちゃんおばちゃんに。向かいのお姉さんに。道行く犬に。日向ぼっこをしている猫に。
びびび。電波っぽい声に出したら届くような気がした。恥ずかしくなってすぐやめた。
大きく手を広げる。アンテナの真似をしたら届く気がした。アンテナは受信するものだと気づいてすぐやめた。
六時一分にはもうあきらめた。僕には漫画に出てくるような不思議な力はないようだ。でもいつかできるかもしれない。昔、頑張れば何でもできるようになるよ、とお母さんに言われた。僕はそれを信じている。
午後六時。いつものようにキッチンから夕食を作る音が止まり、仏間から鈴の音が聴こえてきた。今日はメッセージを声に出してみようと思った。
ぼくはここにいるよ。
ぼくはここにいるよ。
次のお題「鰻」「クーラー」「大豆」
272:名無し物書き@推敲中?
09/06/07 10:06:16
「鰻」「クーラー」「大豆」
夏の暑い日に太郎は鰻を食べようと思った。なぜそう思ったかというと、土用の丑の日であったからではない。
その日の出先に美味い鰻を出す店があったからだった。
時間は午後一時を過ぎたところだった。
出先の所用を済ませた太郎は、駅前にあるその店に向かって歩いていた。
太郎がその時、店への近道でもない暗く狭い路地裏へ入って行ったのは、大通りの日差しが辛かったからだ。
太郎には影の差した路地裏はいかにも涼しそうに思えたのだった。
太郎が路地裏を歩いていると、突然に靴裏が滑って彼は転んだ。
後ろのめりになり仰向けに倒れていく間に、太郎は多くの人がするように、とっさに顎を胸につけて後頭部の激突を避けようとしたが、
その努力は報われなかった。コンクリートブロックでも転がっていたのか、路面にあった硬質のでっぱりに頭を強くぶつけて太郎の意識は飛んでしまった。
次に太郎が起きたのはクーラーの利きすぎた部屋の中だった。
いや、違う。太郎は思った。彼の体は強すぎるクーラーのせいで冷え切っていた。
それに加え、エンジン音が響いていたので太郎は冷凍トラックの貨物室にいるのだと考えた。
太郎はそれに気づき、殆ど考えもしないまま、まこと直情的に行動した。
ガンガンと貨物室の壁を殴ったり蹴ったりしたのだ。
十分ほどそうしていると、太郎は強い衝撃に見舞われ吹き飛び、ふたたび意識を失った。
太郎は起きた病院のベッドで、自分が路地裏で、ある商店が誤って路面にばら播いたまま放置した大豆を踏んで転倒し気絶したこと。
その商店の主が、太郎にとって不幸なことにパニック障害を患っていたこと。
そして頭部から血を流し気を失っている自分を発見し、死体と誤認してパニックを起こし自家用の冷凍車を使って海に捨てに行ったこと。
その間に自分が貨物室の中で目覚め、暴れたので、更にパニックをエスカレートさせて車を対向車と正面衝突させてしまったこと。
その事故で商店の主と対向車の運転手は即死したことなどを知った。
次のお題「角砂糖」「一味唐辛子」「電卓」
273:名無し物書き@推敲中?
09/06/07 19:56:05
「角砂糖」「一味唐辛子」「電卓」
紅茶には角砂糖が三つ、さすがに三つは多いよ、普通に。
同僚だった頃、甘いコーヒーを飲んでいたのを覚えていたのかな。
部屋には同期と僕の二人きり、同期は死んじゃってる。
仕事が終わり、連絡があり、すぐに顔を出す、お通夜は明日かな。
紅茶を出してくれた同期の嫁さんはどっか行っちゃった。
顔はあんまり見なかった、見れなかった。
とりあえず君は冷えて硬くなってると思うよ、ドライアイスが乗っかってるし。
僕が甘いのが好きなように、君は辛いのが好きだったな。
なんにでも一味唐辛子、カプサイシン、当時のはやり、流行。
まるで女子のように痩せたがっていた、全然デブじゃないのに。
デブじゃない君は、結婚し、仕事をやめた。
君の忘れ物の関数電卓、なんとなく、持ってきた。
何年も勝手に使っててごめんね。
でも、いいだろ、次の職場じゃ使わないってわかってるし。
今はなんとなく、わざと置いていったのかなと思うけど、そうじゃないよな。
思うに、ただ、いらなかったんだ、君には。
ただ、電卓自身には君が必要だったんだと思うよ、間違いなく。
君が自殺して、いろんなものを置いていったけど、たぶん。
とりあえず電卓は引き受けるよ、うまく使うよ、どうにか。
後のものは僕にはわからない、ほんとに、あんまり、わかりたくもないし。
お嫁さんは戻ってこないし、君は半分凍っちゃってるし、もう帰るよ。
実はほとほと疲れてるんだ、そうは見えないかもしれないけど、正直に。
わかってるかもしれないけど、お通夜とか出られないと思う。
だから、これで最後か、じゃぁ、これだけ持っていくよ。
次のお題「消毒液」「父」「自由」
274:名無し物書き@推敲中?
09/06/07 23:56:56
消毒液・父・自由
「別に自由になりたいとかではなかったんです。手が汚れたから手を洗う、みたいな。そんな、感じ。死刑なら火あぶりにして
ください。私、汚いから」
****
「消毒用のエタノールを買ってきたから、ちゃんと使いなさい」
父はそう言うと手を洗い、エタノールを吹きかけていた。
「ちゃんと手を拭かないと意味ないよ」
そして父の無言の返事から逃げるように、私は浴槽に向かった。
私はいつからか父がばい菌にしか見えなくなっていた。汚いもの。それは父だけではなく、客もそうだった。
同じような姿形をしている異質なもの。それが私の上に覆いかぶさっている。荒い息を立てて。気持ちが悪い。
「85度」汗で冷えた体で私は小さくつぶやいた。
「消毒液として使いたいならそれぐらい濃いほうが良いよ」―嘘だ。
次の日、75度のエタノールが置いてあった。少し薄いが、なんとかなるだろう。
最後の客が帰った。私はいつものように体を洗い、イソジンでうがいをする。そして寝室に向かう。
大きなばい菌がベッドに横たわっている。促されるまま私は顔を近づけ、―口に含んでいたエタノールを吹きかけた。
目を押さえてばい菌は叫んでいたが、股間を蹴り上げたら少し静かになった。私はテーブルの上に置いてあるエタノールを手
に取り、半分かけて、布団をかけて、残り半分をかけた。察した父がもがいていたが、火の手が上がるとおとなしくなった。
私は自由だ。あとは精一杯同情を引く供述をするだけだ。
次のお題「ガム」「はさみ」「飛行機」
275:274
09/06/08 00:02:13
ガタガタで読みづらく、申し訳ないです
276:「ガム」「はさみ」「飛行機」
09/06/11 06:06:05
バスジャック発生から一時間。犯人は一人。武器は自動拳銃一丁。
乗客の一人が言った。
「飛行機の時間に間に合わなくなるんです。行かせてください。」と
犯人はこの言葉に苛立ち、乗客の口に銃口を捻じ込んで言った。
「飛行機に乗り遅れるのと、ここで死ぬのとどちらか選べ。」
口の中に銃口を捻じ込まれた乗客が黙って首を振ると犯人は吐き捨てた。
「大人しくしてろ。」 その時
「暴発しますよ。銃口にガムが」 間近に居た男が犯人に話しかける。
あわてた犯人が銃口を覗き込んだ時、男は犯人の銃を蹴り上げた。
衝撃で自分に向けた銃の引き金を引く犯人。銃声と同時に悲鳴が起こる。
真後ろに倒れ動かなくなった犯人を見下ろしながら、男は呟いた。
「バカとはさみは使いよう・・・」
次は 「駅」 「天使」 「大人」
277:心もとない天使 ◆ANGELSmpgM
09/06/12 12:04:28
「駅、天使、大人」
主人公Aは三十歳を過ぎても大人になれない、アダルトチルドレンのニートであった。
ある日、Aはテレビで踏切事故から老人を助け出し、表彰された男のニュースを見る。
「これだ」とAは思った。
Aもこの男のように踏切事故から誰かを救い、ニュースに出て有名になろうと思った。
これが巧くいけば、ニートから一転、周りは天使として自分を見てくれるだろう。
Aはさっそく最寄の駅に足を運んだ。駅近くの踏切であれば、人通りも多い。
事故が起こる確率も高いであろうとAは踏んだのだ。
来る日も来る日も、Aは踏み切りの前で待った。雨の日も。風の日も。
春が過ぎ、夏が過ぎ、秋が過ぎ、冬が過ぎ、とうとう一年が経った。
ところがいつまで待っても踏切事故は起こりそうにない。Aはすっかり汚れて真っ黒になってしまった。
足元に飲み終わったビールの空き缶を置いていたら、通行人が小銭を入れ始め、結構な額が貯まった。
乞食と思われているのだ。
そんなAに、ついに千載一遇のチャンスが訪れる。
踏切内で、老人が小銭を落としてしまい、もたついている間に踏切が閉まってしまったのだ。
(―この時を待っていた!)
Aが勇んで救助に入ろうとすると、何と周囲の店や物陰から、男たちが一斉に老人に群がっていった。
その中で最も長身の、いかにも運動神経抜群に見える男が、一番に老人を助け出した。
長身の男は手際よくTV局と新聞社に連絡を取り、彼は報道陣に取り囲まれてインタビューに応じはじめた。
その模様を、老人を助けそこなった男たちが、舌打ちしながら眺めていた。
呆然と立ち尽くすAに、男たちの一人が囁いた。
「あんた、一年くらいここにいる人だな。この世界の競争率を甘く見るなよ。
この周りにはもう十年以上、天使になるために張り込んでいる兵が何人もいるんだ」
Aは雷に打たれたようなショックを受けた。天使への道はAの想像以上に険しかったのだ。
278:277 ◆ANGELSmpgM
09/06/12 12:10:49
次
「選挙」「地球」「予防接種」
279:名無し物書き@推敲中?
09/06/12 20:03:30
駅 大人 天使
大人になったら何になりたい―
頭の中で誰かが呟くのを聴いて、太郎は登山鉄道のゆるやかな振動の中、静かに目を覚ました。
僅かに軋む身体で瞼を擦り、目を開けると、車窓の外すぐ下方に雲海が広がっている。雲海は白
いパンを捻ったような雲で厚く埋め尽くされており、下界の大変に気候の荒れている事を表してい
た。
対して雲の上は透き通った空気に充ちている。思えば随分遠くまで来たものだ。仕事を捨て、家
を捨て、女を捨て、風の向くままに身を任せた。しかし異国の文化に触れ世界の広さに感激したの
も束の間、再び目の前に現れたのは非日常という名の日常であった。確かに自分は俗世間に活きて
はいなかった。しかし、どこに居ても変わらず、己というものが常にあったのだ。
『間もなく**駅』
異人の言葉でスピーカーが告げた。先を見ると遠くに小さく駅のホームが見えている。用途不明
の小屋以外には何もない、寂しい駅であった太郎は荷物を纏め、腰紐に括った財布から紙幣を何枚
か出し、再び前方を見やった。
<おや?>
僅かに近づいたホームに、金色のものが見えた。金色は静かに、だが力強く輝いていた。太陽
をそのまま地に下ろしたとしてもこのようには輝くまい。それは黄金の川のように流れ、金の筋の
一本一本が見て取れるようであった。
遠くにあったその輪郭が、少しずつ明らかになってくる。次に白が見えた。眩いばかりの白だ。
その白に金が被さっている。
とそのとき、一陣の風が吹いた。車内の太郎は確かにその透明な風を見た、否、ホームに立つ金
色を見たのだ。金色の清流は透明な風を受け、ふわりと軽やかにその流れを変えた。太郎は流れの
奥に居たものを見た。
それは一人の天使であった。黄金の川と見たのはその頭髪であり、あの眩い白は彼女の着るワン
ピースであったのだ。少女はその服に、白い肢体に、極小の汚れを着けることなく、そこに立って
いた。この余りに場違いな少女に、太郎は目を奪われた。
そして太郎はついに、その駅を乗り過ごした。少女もまた、その電車に乗ることはなかった。
こうして太郎の短い旅は終わりを告げ、何事も無かったかのように帰国した彼は捨て去った筈の
全ての者に謝罪し、平凡な暮らしへと戻った。
280:「選挙」「地球」「予防接種」
09/06/14 01:18:23
「Aさん、どうぞ」
私が名前を呼ぶと、初老の紳士が「はい」と言って、目の前の椅子に腰掛けた。
私専用の診断用ディスプレイに表示された、生体データを素早く確認する。間違いなく本人だ。
「ではAさん、予防接種を行います。こちらのアームに左腕をのせて下さい」
「いやあ、注射というのは、いくつになっても慣れないものですな。でも、今度の私は運がいいですよ」
A氏はゆったりした口調で答えながら、何の疑いも抱かずに私の指示に従った。
「どうしてですか?」
注射の準備をしながら(といっても、自動注射装置の操作をするだけだが)、私は尋ねた。
「あなたのような美人の女医さんに処置してもらえるからですよ。前回は私と同い年ぐらいの無愛想な男でしたから、この数分間が苦痛でね。
あんな睨めっこは二度と御免です」
私は苦笑した。年に似合わず達者なものだ。
「ありがとうございます。でも、あの先生の腕は保証しますよ」
「ほう、どうして」
「私の恩師ですから」
「こりゃあ失礼。一本取られましたな」
A氏はこのやり取りを楽しんでいるようだ。まあ、「美人の女医」なる者との会話は、多くの男性にとっては嬉しい事なのだろう。
何も知らないあなたは幸せですよ。特に、今行われている「予防接種」が、巧妙な洗脳システムである、などという忌まわしい真実は。
ワクチンには、催眠薬が含まれていて、暗示をかける薬効がある。そして、選挙で選ぶ候補者を無意識に誘導しているのだ。
ある意味、現在の地球における、最も成功した支配体制といえるだろう。
私が真実を知り得たのは、この催眠薬の開発に関わった医師の1人で、その人が書いた手記を読んだからだ。
手記には「何者か」によるシステム構築の過程と、家族を人質に取られ屈服した自分を弾劾する、懊悩に満ちた記述があった。そして、最後にこう書かれていた。
「いつか真実を公開できる日まで、この記録を保管して欲しい。それが自分にできる唯一の贖罪だ」
まったく、簡単に言ってくれる。「正義の味方」だと悟られずに生きろというのか。
だが、私は喜んでこの使命を引き受けようと思う。
何故なら、私が「家族を人質に取られ屈服した」医師の娘だからだ。
次のお題「みそ汁」「プリンタ」「天気」
281:「みそ汁」「プリンタ」「天気」
09/06/14 09:26:05
うまい!と彼は唸った。「みそ汁の腕が上達したなあ」
「えへへへへ・・・」
彼女の声が台所から聞こえる。照れているらしい。
まだ拙いウグイスの声が、水を打ったばかりの庭から聞こえる。
いい天気だ。もう春なんだなあ。
「デイジーの球根、植えますね」
ウグイス型監視カメラが送る、縁側の二人の緩やかさに比べ
埃臭いコントロールセンターの慌しさは相変わらずだった。
「カタカタ・・・」とプリンターが中間レポートを印刷する。
「新妻役ロボット、チェック完了!」と、オペレーターが報告する。
「彼女」の動作は完璧だ。完璧な大和撫子型アンドロイド。
構わず司令官の命令がきた。「次は、新夫役ロボットのおはよう機能だ!」
「地球自転装置作動!日本時間を<月曜・午前7時>にセット」と、答える。
(でも・・・何のために?)
オペレーターはふと思った。でも、気にしない。
※:気にしない気にしないw
次のお題は:「納豆」「半紙」「光子」で、お願いしまふ。
282:名無し物書き@推敲中?
09/06/19 00:10:06
納豆、半紙、光子
墨の代わりに、じとりと汗が滲む。
朝の涼しいうちに宿題はしておけと釘を刺されていたので、律儀にそれを守る朝五時。
汗でよれた半紙は、字ではなく落書きで消費した。もうあとがない。
汗を拭い、もう一度半紙に被さる。
「光子、」
ごはんできたよ、と母が呼ぶ。
はあい、と返事をすると、また汗がぼたりと落ちた。
「また納豆あるの」
「好き嫌いはやめなさい」
次のお題「椅子」「ロケット」「あぶ」