08/12/02 14:59:48
次のお題「レシピ」「10代」「ビニール傘」で!!
101:お題「レシピ」「10代」「ビニール傘」
08/12/02 23:42:19
「幸せになりたい?」
今朝の登校時。
玄関で靴を履いていた僕の背中に、姉はそんな言葉を投げかけた。
僕が素直に「なりたい」と言うと、彼女は「なら、今日は傘を持っていきなさい」と、一番安上がりなビニール傘を手渡してきた。
主にディスカウントショップで取り扱われている、非常に小さく安っぽいそれを受け取った僕が「雨、降るの?」と問うと、彼女は肯いた。
「レシピ通りならね」
それは返答になっていない。
通学路を歩きながら、通りすがる人の手元を追う。しかし、誰一人として傘を持っていない。今日の降水確率は10代。降らない可能性は90%近くもある。
どことなくきまりの悪さを覚えながら、胸のうちで姉の言葉を反芻する。
『その傘、旧校舎の玄関にさして置くのよ。良いわね』
現在、旧校舎は利用されていない。その上、本校舎からそれなりに距離があるため、いつも無人の気配が漂っている。果たして、なにか意味があるのだろうか。
(……もしかして、からかわれただけ?)
そんな杞憂も実際に雨が降る頃には、胸のどこかへ流れて消えた。
ついでに、傘も消えてなくなっていた。幸せになるどころか、逆に不幸が浮き彫りになっただけの結末に、己の不運を嘆きながら雨の街をひた走る……僕の背中にかかったのは、雨粒よりも柔らかな少女の声。
「あの、もし良かったら、傘、入っていきませんか?」
「というのが、事の顛末です」「そう」
濡れた髪の毛を拭きながらの報告に、姉はそっけない。
「女の子の持ってた傘が、今朝さして置いたヤツだったってのは、どういう理屈?」
「ああ、それは『七夕の日に、旧校舎にさしてある傘で相合傘すると両想いになれる』っていう、ジンクスがウチの学校にはあってだな。
……アタシがその口だったから、どっかの誰かのために恩返しでもしてやろうかなー、と思ってさ。いやまさか、アンタにお鉢が回ってくるとはねー」
そう言って意地悪く笑う姉は、最後に一言付け足した。
「な、レシピ通りだったろ?」
起承転結付きで15行は難しい・・・orz >>74さんのように綺麗にまとめてみたいものです。
長すぎたので、お題は継続でお願いします。
「レシピ」「10代」「ビニール傘」
102:「レシピ」「10代」「ビニール傘」
08/12/03 01:14:11
「先生、うちの息子、どうしてこんなことになってしまったんでしょう? レシピ通り育てたのに!」
遠山(母)は悲痛な表情で訴えていた。僕が高校教師になってからの六年間で培った、
二者面談のパターン分けで言うところのBパターン……必要以上にナイーブな母親というヤツだ。
「はぁ……良い息子さんと思いますが……あの、遠山くんのレシピ、見せて貰ってよろしいでしょうか?」
「ええ、これです」
文科省発行のそのレシピによると、遠山は『10代になったら焦げ目が付くまで弱火でじっくり炒め、
裏返して砂糖を振りかけましょう』となっている。
「私、ちゃんとレシピ通りあの子が親の愛情に飢えるまでじっくり放置して、荒れてきたら手の平返して
甘やかしたのに……なのに、家に寄りつかないんです! 雨の中、公園のベンチで落ち込んでる
あの子をビニール傘持ってって、こう、こんな感じで迎えに行ったりもしたのに!」
「はぁ……それは感動的ですね(行動理由がレシピじゃなければね)」
とりあえず適当に相づちで流し遠山(母)には帰って貰い、翌日遠山(息子)を呼び出した。
「遠山、なんかお前、最近家に寄りつかないらしいじゃないか」と訊くと、
「お袋、同じ料理ばっか作るんだもん。婆ちゃんから貰ったレシピが三種類しか無いからって……」
遠山(息子)はゲロ吐きそうな表情でそう答えた。
次のお題は「尻」「穴」「致命的」でお願いします。
103:ケロロ少佐 ◆uccexHM3l2
08/12/03 02:16:15
「尻」「穴」「致命的」
「たいへんな事になった」
今日、何度、この言葉を口にしたことだろうか。
阿相総理は緊急事態と判断し、各方面にひそかに指示をだした。
原因はわかっていた。
そう、虫なのだ!新種の虫!
生物学者に言わせればコレは宇宙から飛来した異星の生物の可能性もあるらしい。
…べらんめぇ!そんな事はどうでもいいんだと心の中で毒づく。
日本中で突然現れた被害。
その…虫が…その…つまり人間のお尻に。
その…虫が…その…つまりお尻の穴に。
入り込んで大腸に住み付き寄生してしまう。
外科的に取り出すことは不可能、薬剤で始末も出来ない。
患者は特に命の心配もなく、病気になるわけでもない。
いや!むしろ取リ憑かれた人間は健康になるのだが…
…べらんめぇ!そんな事はどうでもいいんだと心の中で毒づく。
政治家には大問題なのであり、致命的になってしまうのだ。
そう!大問題!取リ憑かれた人間は、正直者になってしまうのである…
104:ケロロ少佐 ◆uccexHM3l2
08/12/03 02:19:00
このキーワードだとこうなるわな!
お題は継続で!
もっときれいな話を、どなたかこの3つで頼みます。
105:「尻」「穴」「致命的」
08/12/04 09:55:57
大学からの帰り道、齋藤浩一は悩んでいた。
夕暮れ時、薄暗い並木道の数歩先を憧れの河合洋子が歩いている。
授業の時と同じ、清楚な白いブラウスにカーディガン、紺のタイトスカート。
シンプルな服装だけに、スタイルの良さが際だって見える。
伝え聞いたところでは、財閥系の家柄で海外からの帰国子女だという。
そうした略歴も、庶民である浩一にとってはあまりに眩しく、
気後れからこれまで話をしたことはなかった。
が、二人きりの今、この場所でなら自然に話しかけられそうに思えた。
と、浩一の視線が洋子のスカートにとまった。
スカートの丁度盛り上がる辺りに何か白いものが見えたのだった。
ゴミかと思い、左右に揺れる丸い丘に視線を凝らす。
―穴があいている。
スカートの縫い目がほつれてちらちらと内側が見えていた。
最初目に入った白いものはゴミではなく、ブラウスの裾なのだった。
浩一は焦った。教えてあげなければ洋子が恥をかくことになる。
人通りの多い駅前の大通りまであと少しのところで浩一は声を上げた。
スカートのお尻に穴があいて、下着が見えてますよ。
おもいきって大声を出した。洋子が振り向く。
緊張しすぎてからからになった喉を通ったのは別の言葉だった。
尻の穴が丸見えだよっ!
驚愕と羞恥と怒りで洋子の顔が歪んだ。この変態っ!
浩一の頬にびんたを食らわせ、洋子は走り去って行った。
致命的な言葉のミスによって浩一の恋は終わってしまった。
呆然と立ちすくむ浩一の周りを静かに闇が包みこんだ。
「銀杏 狛犬 時計」
106:名無し物書き@推敲中?
08/12/06 07:38:15
少年が長い階段を上り切ると、境内は鎮まり返っていた。
はっきり聞いたわけでは無いが、声がしていたような気がしたのだが。
息を切らしながら、すっかり銀杏の葉で黄色くなった境内を見回してみる。
散々ねだって買ってもらったキャラクターウオッチを無くしたのに気づいたのは
昨日の夜のこと。落としたとすれば昨日ぎんなん拾いをしたこの境内の中だ。
ゴムバンドが緩かったから何かの拍子に外れてしまったのだろう。
多分この辺だろうとあたりを付け、二つある狛犬の台座の下を中心に捜索を始めた。
銀杏の葉をかき分け、懸命に探すが見つからない。半ば諦めかけたとき、
目の端できらりと何かが光った。はっと少年が目を見張る。
台座の上に目当ての腕時計はあった。だがどういうわけか、狛犬の前脚にそれは嵌っていた。
切れ目の無いゴムバンドは、台座にぴったり付いている狛犬の前脚から
どうやっても取れそうに無い。いったいどうしてこんなことになっているのだろう。
これを外すにはゴムバンドを切るしかなさそうだ。少年は悔しげに唇を噛んだ。
と、石の像がカタカタと動き出した。
ぱかんと口を開けた少年の前で、狛犬が申し訳なさそうにそーっと前脚を上げた。
次は「恋」「鯉」「故意」
107:「恋」「鯉」「故意」
08/12/06 09:56:35
「悩んでるんです……恋に」
「鯉ですか?」
ファミレスで不味いコーヒーを満喫する最中、背後の席から聞こえてきた深刻そうなその会話に、
僕は思わず聞き耳を立ててしまった。
それとなく背後の席を伺う。深刻そうな男と、真剣そうな男が向かい合って座っていた。
「ええ、恋なんです。彼女のことを考えると胸が苦しくなって」
「彼女、ということは、雌なんですね」
「や、やめてください、雌なんて言い方! で、ちょっとでも彼女のことを考えると胸が苦しくなって、
今だって、居ても立っても居られないです……どうしたらいいのかと」
「うーん……鯉ですか」
「恋なんです」
「…………食べちゃったらどうですか?」
「た、食べる!?」
「食べる前には泥抜きを忘れちゃいけませんよ。囲いの中で十日くらい餌を与えずにおくんです」
「な、なるほど……わかりました、やってみます!」
あのとき僕が故意に聞き流すことをしなければ、翌週の新聞地域欄に載った誘拐監禁事件を
未然に防げたかと思うと残念至極な話である。
次は「慈雨」「十」「汁」でお願いします。
108:ケロロ少佐 ◆uccexHM3l2
08/12/08 00:48:39
「慈雨」「十」「汁」
昨夜から降っている雨音で恭子は目覚めた。
2泊3日の休暇も今日で終わり。
「うーん、よく眠ったなぁー」
となりの部屋には、すでに旅館の朝食の準備が出来ているようで味噌汁(?)の香りがしていた。
食事を終え、身支度を済ませ、友人と旅館の玄関に立つと外気(?)は寒く用意していた長袖のシャツを着る。
なんて気持ちのいい雨なんだろう。
この雨は観光カタログに載っていた『慈雨(じう)』まさに草木をうるおし育てる命の雨。
もう十分に1996年の日本を満喫した。
失われた美しさを完璧なまでに再現したこの『日本(ニッポン)館』から現実に戻る時きたのだ。
幾重にも閉じられた扉をくぐり、外に出ると、むっとする熱帯化した東京のいつもの熱波の世界。
恭子達がさっきまで過ごしていた所は広大な敷地に建設し、再現された人工の20世紀の日本。
2188年の今、美しい四季につつまれた昔の日本の姿はすでに無かった。
日本は深刻な温暖化によって熱帯と化し異様な植物達が支配している。
今度の12月の休暇には、結婚するつもりの彼と奮発して、雪の降り積もる冬(?)の日本館を訪れるつもりだった。
雪の冷たさってどんなものだろうと考えながら恭子と友人はエアコンがフル回転している田園都市線の中に消えていった。
109:ケロロ少佐 ◆uccexHM3l2
08/12/08 00:49:28
次のお題は「せんべい」「日没」「手のひら」でお願いします。
110:名無し物書き@推敲中?
08/12/15 12:24:10
佐智子はワイドショーを見ながら茶の間でごろ寝していた。
レポーターの芝居がかった声色と、せんべいをかじる音が空虚に部屋を満たしている。
炊事、洗濯、掃除。
家事のことはなるべく考えない。平和な日常を享受するコツは、上手にフタを閉められるか、だ。
人生と同様に、一日には一回の日没が訪れる。
胸元に、せんべいのかけらが零れおちた。手を伸ばしかねている間に、それはコロコロと床まで転がり落ちていく。
やれやれ、と拾い上げながら、佐智子は20年の結婚生活を漠然と思った。
私の手のひらには、何があるのだろう?
111:名無し物書き@推敲中?
08/12/15 12:26:47
思考の過程に不自然さがありますね。読まないとわからない
112:名無し物書き@推敲中?
08/12/15 12:31:43
末尾の力もどっかで逃げてる
113:名無し物書き@推敲中?
08/12/15 20:32:49
三語しようぜ!
114:しん太
08/12/15 22:24:11
「せんべい」「日没」「手のひら」
「世界が終わる前の最後の日没って見たくない?」
イリルはテトラポットに座り、水平線の向こうを見つめながら言った。
「え?」
僕は言葉の意味が分からず、そう聞き返した。
「見たくない? 最後の日没……」
イリルはそう続けた。
「最後の日没……?」
僕は再び聞き返した。
「見れるよ。見せてやるよ」
イリルは齧りかけのせんべいをテトラポットとテトラポットの隙間の海へと
落とした。
「確かにもうすぐ日没の時間だけど、一体何が……?」
僕は戸惑って彼に尋ねた。
日没が始まった。眩しい光が僕等二人を照らす。僕等は手を目の前にかざして、
目を細めて光を見つめた。
「それはこういうことだ!」
イリルはそう言って僕の背中をドンッと強く押した。僕の体は遥か下の海へ
テトラポットに何度も体をぶつけながら落ちた。
イリルは両の手のひらを合わせてお辞儀をした。
虫の息になった僕が遥か上にいるイリルを見上げると、イリルの目は異様な色
を帯びてギンギンと輝いていた。
宇宙ステーション、屍、千年でお願いします。
115:名無し物書き@推敲中?
08/12/15 23:28:45
俺、源田廉介はいつものようにパブで黒ビールを飲んでいる。
独身だから稼ぎは全て自分に仕えるのが何ともありがたい。趣味といえば酒ぐらいか。
こうして酒を飲みながら、暗いこの世を千年一日の観を抱きつつ生きるのが俺の人生。
思えば20XX年の世界恐慌以来、失業率も犯罪発生率も自殺率も上がった。
大都会の公園や河川敷にはホームレスの屍が晒されているのも珍しくない。
科学の進歩だの福祉の向上だの、どれも胡散臭い言葉に思えて仕方のないこの頃。
宇宙ステーションの爆発で残骸が地球上に降り注ぎ、この日本でも被害が出て以来
不況による政府の財政破綻なども相まって宇宙開発もとっくに中止されてしまった。
もはや地方は無人の壮大な秘境に戻ろうとしており、残された都市部も限られた職や金、
娯楽を求めて人が多く彷徨い、ますます退廃と空虚と沈鬱に満ち満ちている。
冷えたフライドポテトを頬張って席を立とうとすると、女が近寄って来た。若い。20代か。
「あんたが廉さん?お願いなんだけど、私の姉貴を騙して捨てた男をお掃除してくれない?」
「代金は?」
「今から半分払うわ。残りは仕事後で。これでいいでしょ?」
「明日もう一度ここに来てくれ。顔写真を忘れるなよ」
俺はそう言って店を出た。4年前から始めたスイーパー(掃除屋)稼業も板に付いてきたかな。
風が吹くと桶屋が儲かるらしいが、不況になると風俗と殺し屋が儲かるんだよな・・・これが。 fin
116:アシュレー ◆r1if.ivhdg
08/12/15 23:51:06
あれなに? お星さまの間をぬって夜空をまっすぐに飛んでいる光。
ずっと同じ速さで進んでいる。すごく早いわ。時計の秒針より早いわ。
宇宙ステーションさ
へー。宇宙ステーションてなあに。
千年前に人の手によって作られた船だよ。夜空を飛んで星から星へと光を運ぶんだ。
じゃあ、お星さまが光っているのは宇宙ステーションのおかげなのね。
ああそうさ。でもまっすぐにすすんだら、その道から外れたお星さまには光がお届けできないわ。
ああそうさ。だからほら、見てごらん。天の河には、まだ光が残っているけれど、天の河から外れたところにはまばらにしか星がないんだよ。
まばらといってもいっぱいあるわ。
今はまだね。でもこれから消えてしまうんだ。
えっ。さびしい。涙がこぼれてきた。止まらないわ。
大丈夫。ボクがとめてみせる。
夜の森に屍がひとつ。
見開かれた瞳は星を映し、
頬を伝う涙の跡は固く乾いている。
未知 トリアージ つむじ風
117:ケロロ少佐 ◆uccexHM3l2
08/12/16 14:30:23
「未知」「トリアージ」「つむじ風」
数か月前、無数の巨大円盤群が突然出現し、これまで未知の存在だったエイリアンが現実のものとなり、世界中は大混乱に陥った。
国防大臣はその責任の重大さに表情がこわばり、膝の震えを何とか抑え異星生物、地球種管理総督の部屋にいた。
「では、どうしても全人類の30%以上の救済は考えていただけないのですね」
異様に背の高い総督ルワージイは無言の返事を返す。
銀河系規模の時空の転移現象の発生から人類を救済すべくあらわれた銀河連邦のエイリアン。
高度に発達した銀河連邦種族にとっては、つむじ風程の影響なのだろうが人類にとっては種の絶滅に等しい危機。
だが、救済には一つの条件が付けられていて、「ノアの箱舟」に乗船できるのは選ばれし人類のみというわけであった。
エイリアンはこの選出に、人類が大災害などの発生時の死傷者救済に採用している考え方、トリアージを使った。
つまり救うべき価値のある人類の選別方法として黒、赤、黄、緑の4つのカテゴリーにランク分けするというのである。
国防大臣ら、その国の指導者層のみに知らされたこの取り決めは銀河連邦種族側主導で数日中にも開始される。
「これは人類の未来にとって必要なものなのだ」と国防大臣は自分に言い聞かせながら総督の部屋からその他の各指導者とともに席を立った。
選別にはもう一つ、人類に知らされていない事がら、つまり、今回の第一選考基準は知的生命として基本となる倫理面が最重要とされていて、社会的地位は考慮されていないという事実があった。
退室する各指導者達の後ろ姿を見送る地球総督。
その視覚内の、総督のみに見える識別評価を示す色はすべて同色だった。
『矯正もしくは治療など可能性は見込めず、救命不可能、つまり必要のない人物』をあらわす黒色をしていた。
118:ケロロ少佐 ◆uccexHM3l2
08/12/16 14:34:39
次のお題は継続でお願いします。
119:お題「未知」「トリアージ」「つむじ風」
08/12/16 16:59:26
秋葉原通り魔事件で問題視された、トリアージについてのニュースが午後六時のニュース番組を適当に埋めている頃、隣の磯坂さん家では、未知の議題がお茶の間に持ち込まれていた。
豚の人権問題である。豚に人権はあるのか、果たして。
動物はそもそも機械である、とキリスト教を狂信する神部さんは、卓袱台をひっくり返し、人は天使にも豚にもなれるのに、どうして豚になろうとするのか、と訴える建部さんに、それは命中した。
しこたま。とても良い角度で。
クリティカルでアートな物理法則が頭蓋を砕き、脳漿を撒き散らし、建部さんはデスった。という夢をぼんやり見ていた藁小屋の豚は、風速二十メートル程度のつむじ風に飲まれて非常に残念な感じになった。
という現実逃避で、現実を逃避しようとした神部さんだが、夕暮れ空を切り裂くジェット機の羽の音に鼓膜をつんざかれて我に返った。
神部さんは救急トリアージを建部さんに試みたが、ただのしかばねがそこにはあった。仕方が無いので、神部さんは豚(山羊)のように建部さんを貪り、全てを無かったことにしてみた。
目を覆ってしまいたくなるほどの惨状ではあったが、誰一人としてそれを観ていないので問題ない。
竜巻のおよそ五分の一以下の速度で通り過ぎる、つむじ風のようなリアルタイムが、晴れた日の午後六時に磯坂さん家の庭先を掠めていった。
それだけだって言ってんの。今日のテレビが。メメタァ。
お題は継続でお願いします。
120: ◆iicafiaxus
08/12/17 01:25:09
#「未知」「トリアージ」「つむじ風」
二階の自室でくつろいでいると、中学まで一緒だった幼馴染の祥子から電話があった。
「あのさ、もし暇なら今から数学の宿題とか聞きに行ってもいい?
特進コースなんだから被服科の数学くらい余裕でしょう?」
懐かしい声の端々が、卒業から一年もたたないのにすっかり可愛くなった気がする。
「うん、じゃあ持っておいでよ。昔のようにちゃぶ台を出すから勉強しよう」
僕は電話を置くと立ち上がって、まず部屋の中を一望する。祥子が来るまであと十五分。
そう、これは祥子とよく遊んだころには無かったものを隠す、いわばトリアージだ。
まず机の上のロリコン漫画とパソコンラックのエロ同人ゲームは絶対「赤」、
こんな未知の世界をちょっとでも一般人に見せたら幼稚園以来の信頼関係が破綻する。
天井のアイドルポスターはまあ普通だし、黄色かな。余裕があれば片付けよう。
パソコンに入ってる動画はさすがに見られないでしょう。緑。
…と、優先順位をつけて押し入れや見えない場所に移動していく。
やがて呼び鈴が鳴り、応対した母に案内されて祥子が僕の部屋のドアを開けた。
「やあ祥子、久し振り。散らかってるけどいらっしゃい」
応対した僕の胸元に、祥子の視線が釘付けになっている。
あー、そういえばふたなり萌えTシャツを着たままだったっけ…。
背景の足元を、どこからともなく枯葉がつむじ風に乗って吹かれていく。
#次は「IT」「パスポート」「試験」で。
121:名無し物書き@推敲中?
08/12/17 23:08:20
#「IT」「パスポート」「試験」
仕事が終わり、一路家に向かって足を速める。
世間の人は私の実年齢を知ったら驚くかもしれない。ただ私はボケ防止と
家のリフォーム費用捻出のため、体を動かせるうちは仕事をして、何らかの
「社会貢献」というものをしようと思っているのだ。
「IT」というものにも少しずつだが慣れてきたと思う。はじめは飛び交う単語
そのものに右往左往して、息子にいちいち尋ねないとロクに使えなかったが、
今ではインターネットやメールの送受信を一人でこなせるようになった。
来月には英国に仕事も兼ねて出掛ける。この年齢にして、再びパスポートを
使うことになるとは夢にも思わなかったなあ・・・。
63年前に終わった戦争で、私は外務省付きの海軍スパイとして世界各地を
飛び回った。しかしあの頃は重い使命感と緊迫感に押し潰されそうな状態で、
楽しさなどほとんど感じられなかった。しかし今は違う。世界は一部紛争の
耐えない地域があるとはいえ、やはり全体には平和をひしひしと感じる。
死ぬまでにもっといろいろなところを見てみたいと思うようになってきた。
そういえば、来週は漢字検定の試験か。今年95歳、まだまだ安楽の余生は早い。
122:sou
08/12/21 02:00:19
薄暗い照明の下、俺は目覚めた。周囲を数人の男達と堆く積まれた機材が取り囲んでいる。
「麻酔が切れたようだね。喜び給え、手術は成功だ」白衣の老人が笑みを湛えて語りかけてきた。
霞がかった記憶を少しずつ呼び起こす。そう、俺はモルモットなのだ。
職を失い食うに困り、高額な報酬目当てに、奇妙な実験の被検体に申し込んだことを思い出した。
「世の中にはITという言葉が氾濫しているが、その実態は朧気なものだ。
だが、この技術は違う。人間を新たな地平へ導くパスポートとなり得るものだ。
……もう一度説明しよう。君の脳に埋め込んだチップは、無線でサーバーと繋がっている。
それを通して君は、好きな時に好きなだけ、無限の情報へ脳から直接アクセスできる。
何らの端末も介さずに、だ。逆に君の得た知識も自動的にサーバーに蓄積される。
この技術を全ての人間に施したとしたならどうなる? 完全なる集合知が完成されるのだよ!」
所長と呼ばれている老人は、瞳に薄暗い光を宿し、身振り手振りを交えて饒舌に語った。
「さあ、サーバーとの結合試験を始めよう」
合図とともに、俺の脳におびただしい量の情報が流れ込んできた。
歴史、世界情勢、哲学、文学、政治経済……。俺は気分が悪くなり、実験を遮った。
情報で膨れ上がった脳と対照的に、心の中が急速に虚無に支配されていくのを感じながら。
「所長、大変です! 別室で休んでいた被検者が自殺を!」
「……そうか。予想はしていたのだ。知識を得るということは真実に近付くことだからな。
世界はどうしようもなく不確かで、救いようがなく、生きる価値がないという真実に」
123:sou
08/12/21 02:05:43
お題継続で書きました(IT、パスポート、試験)
次は「桜」「逆光」「駆け抜ける」でどうぞ。
124:お題「桜」「逆光」「駆け抜ける」
08/12/21 13:38:49
写真を撮られると、魂が抜かれる。
噂が現実になる街で、誰かがそんな噂を流した。お陰で街は大パニックに陥った。そして、二、三日もするとパニックは収まり、ほとんどの人間は自宅に引きこもった。以降の話である。
「噂の効力が消える七十五日目まで粘るつもりかな?」
「丁度、桜が散る頃ですね」
ほとんど無人の街を、俺とB子さんは両手をバンザイしながらフラついていた。理由はあるが割愛する。そんなホールドアップ姿勢のまま河川敷を訪れると予想通り居たぜ犯人。
街で一番大きな桜の木の下に陣取って一人宴会を開いてやがる。
「あながた犯人です」
B子さんが犯人(と思わしきリーマン風男性)に向かって、ズビシッと人差し指を突きつけると犯人(ryは早撃ちの要領で一眼レフカメラを俺たちに向け、シャッターを切った。
駆け抜ける逆光。抜かれる魂。しかし俺たちは余裕で無事。
B子さんは、その隙に犯人へと接近、腕を捻り上げ行動を抑止した。
俺は犯人の一眼レフを拾い上げ、種明かし。
「無駄です。俺たちは妖怪『猫又』なので魂が九個ぐらいあります。動機は花見の陣取りが面倒くさかった、とかその辺で良いですね」
俺とB子さんはその足で特殊対策本部に犯人を運搬し、事件は解決。いつも通りのパターンである。
その後、犯人がどうなったのかは知らないが街に平和は戻った。めでたし。
次は「子猫」「戦争」「宇宙」でお願いします。
125:名無し物書き@推敲中?
08/12/22 02:58:59
いびつな路地だとは前から思っていた。無駄に入り組んでいて、目的が見えない。
その日は学校帰りで、私は一人だった。周囲がやたら暗かった印象がある。
ただ、それは鳴き声で猫だと分かった。
私は、少し小走りで十字路へ向かい、導かれるまま右へ曲がった。
一車線の、狭い路地の真ん中にはまだ幼い灰猫がいた。
まるでコスモ。
意識する前に言葉に出ていた。
そう、コスモだ。言わば小宇宙。
黒猫のなまめかしい姿態に魅入られて、私は身動きが取れなかった。
正確に言うと、身動きが取れなくなっていた。
猫もとい宇宙が、格別なにかをしていたわけではない。
ただそこにあり、そこにいただけだった。
私は、ゆっくりと決意を固めた。居場所を勝ち取る戦争の決意。
そっと歩み寄り、おずおずと抱き上げる。私達の、新しい居場所。屋根の下の恵まれた生活。
「ちゃんと可愛くやりなさいよ」
腕の中で猫は鳴いた。
126:名無し物書き@推敲中?
08/12/22 03:01:03
散らかった文です
127:名無し物書き@推敲中?
08/12/22 11:33:19
「さっちゃん!さっちゃん!」
御主人が僕の名を呼んでいる。その切羽詰まった声色で酷く申し訳ない気持ちなってしまった。まだ帰れないんだ、ごめんね御主人。
御主人とはもう五年の付き合いだ。ガラスのゲージに入れられた僕を彼女が見初めたのだ。「この子猫、可愛いですね」御主人はそう言った。
僕はサクラと名付けられた。温かな季節に咲く花の名前と教えてくれた。近所のクロは「それは女の名前だ」と言ったけれど、それでも僕はその名前が好きだった。
でも、僕らの街に桜が咲くことのを、まだ見たことはない。
彼女は一人暮しで、僕と一緒に暮らし初めてから三度目の春がきても、やっぱり一人身だった。
そんなある日、彼女のお父さんがやってきた。穏やかな顔付きの御主人とは違い、凄く厳しい目をしていたのを覚えている。
「いい加減、亡くなった恋人のことなんて忘れなさい。彼だってお前が幸せになることを望んでいる」
その言葉に御主人はただ俯くだけだった。
128:名無し物書き@推敲中?
08/12/22 11:34:19
「私の恋人はね、この桜が大好きでね。死ぬ時はこの桜の下でゆっくり死にたい、なんて言ってたけど、事故でね――」
その夜、御主人は僕を抱きかかえて桜の木に来た。彼女は物憂げな表情で空を見上げ、僕も身をよじってその視線を追う。無機質な枝の編み目の向こうから、宇宙を何万年も旅した一際明るい星の輝きが僕に語りかけた。
『桜の花びらを彼女に見せてやってくれ』
「ならぬ。ワシは長く生きた。生きすぎた。だが見てきたのは人の悪業ばかりだ。終いに奴らは戦争などという愚行まで犯しよる!」
桜の木は掠れきった声でようやく喋った。昏々と眠り続ける彼を目覚めさせるのに、僕は一年以上を費やした。僕はただ語り続けたのだ。
「ワシはもう長くない。ただ眠りについたまま、ゆっくり死に行くつもりだ」
お願いだ。あなたの花びらがなければ、きっと御主人は前へは進めない。そのためなら僕はなんだってする。だから人に絶望しないで。彼らはそれでも美しいのだから。
「ならば、主が受け継ぐか、この歴史を。この桜となりて、人を見続けるか」
「さっちゃーん!……おかしいな、いつもならとっくに帰ってる時間なのに」
ただなんとなくサクラがこの辺に居る気がして、思い出の場所にやってきた。
結局、サクラを見つけることはできなかったし、以後帰ってくることもなかった。大切なものは存外すぐに無くなってしまうのかもしれない。
「……あっ」
結局、私が見つけたのは、ごく小さな桜の蕾が春を待ち兼ねている、命の息吹だけだった。
継続かな、と思って初投稿します。
行数オーバーしたし二つに別れたし書きたいことほとんど書けてないし……
稚拙だけどすんません
129:名無し物書き@推敲中?
08/12/22 11:43:10
次のお題
「自転車」「運命」「ホームレス」
130:sou
08/12/23 17:46:45
「まいったな、賢者になるには経験値が足りませんてさ。仕方ないから僧侶になったよ」
「見ろよ、この鎖帷子。ニンジャになるのが子供の頃からの夢だったんだ」
ここは職業の神ハロワを祀る転職の神殿。今日も旅の勇者一行が立ち寄り、
己の運命を切り拓くため、志望する職を目指す儀式を行っていた。
「あれ、そういえば勇者はどこに行った?」「そういえば見ないわね」
そこに野球帽を被ったジャージ姿の男が近付いていく。片手にはワンカップ酒。
「うわ、なんだこの兄さん、酒くさっ! って、お前、勇者じゃねえか」
「おう、お待たせ。気が付いたらホームレスに転職してたんだよ。
何たって世捨て人だからさ、もう世界を救う旅とかどうでもいいんで。
後は勝手にやってよ。俺は鉄くずを換金する旅にでる」
元勇者はそう言い残し、壊れた自転車や家電製品、ダンボールなどが積まれたリヤカーを引いて
地平線の彼方に消えていった。
「……これからどうする?」
「仕方ない、神殿で募集でもかけておくか。勇者募集、時給千円以上委細面談、
交通費支給、社保完備、世界を救うやりがいのある仕事です、てな感じでさ」
131:sou
08/12/23 17:50:42
文中、偏見に満ちた表現がありますが、ご容赦を。
次は「久遠」「いつまでも」「おかえりなさい」でどうぞ。
132:名無し物書き@推敲中?
08/12/24 22:51:07
久遠 お帰りなさい いつまでも
お帰りなさい。これを読んでいるということはあなたは帰って来たのですね。たとえあなたでなくても…… いえ、この手紙はあなた意外には読むことは出来ない。だから、お帰りなさい。
こういう形であなたが手紙を受け取るということは、私達はもうあっちに行っていることでしょう。でも悲しむことはありませんね。少し遅い早いかの違いですもの。
はやく大きくなったマリをあなたに見せたいわ。マリはいつもあなたの話しをするの。顔も何も知らないはずなのに、あなたの口癖や仕草を真似するの。あなたのことが大好きなのね。
三人で行きたかった場所もやりたかったことも沢山あるの。だから急いでとは言わないけど…… 待ってます。いつまでも…… 待ってます。
手紙を缶にしまい私は空を見上げた。久遠に輝く星達。そのなかでも一際煌めく星に妻と娘を重ねあわせる。手紙と一緒に入っていたオルゴールを回すと懐かしい旋律がたどたどしく再生される。その音色と心地よい風が、優しい永遠を感じさせた。
133:名無し物書き@推敲中?
08/12/24 22:55:47
改行とかいろいろ滅茶苦茶ですみません。
次のお題は 「アイロニー」「サナトリウム」「コロイド」でお願いします。
134:人形師 ◆wa1a4mh476
08/12/28 07:45:36
「友だちと旅行を兼ねて」見舞いに来た孫娘に、幸造は話して聞かせる。
最近はいくらか状態が落ち着いたものの、自分の年齢を考えればこれが
最後かもしれないのだ。息子夫婦とはついぞ疎遠のまま、今後も会える
機会はないのだろう。親族らしい親族といえば、時々息子夫婦の元から
抜け出してくる、この奇妙な孫娘くらいしかいない。その孫娘には、、、
せめて、若くして死んでいったキヌ、彼の妻のことを覚えておいて欲しかった。
「結核検査をするのに、最近は簡単なミジット法ってのがあるんだが、
昔は卵にリン酸水素塩だのマラカイトグリーンだのを混ぜたコロイド液で
小川培地なんてのを作る必要があってなあ。次から次へと患者が
来るものだから、キヌは――お前のお婆さんは――毎日毎日
朝から晩まで卵割りさ。しまいにゃ自分まで感染してサナトリウムで
死んじまったがね・・・」
幸造はベッドの上で力なく笑いながら、ふと視線を落とす。
当時、医者として現場を指揮していた彼は、今でも時折、取り留めの
ない自責の念に苛(サイナ)まれた。あの時、看護婦たちの衛生状態を
改善しておけば・・・婦長であったキヌを死なせずに済んだかもしれないと。
キヌを含め、多くの看護婦たちが危険な労働環境にあることを、当時の
幸造ははっきりと認識していたのだ。それでも、結核の未曾有の流行と
あまたの死に行く人々を前にした時、彼には、検査効率を落としてまで
彼女たちの衛生環境を改善するという選択肢が取れなかった。
そして時を置かずに、彼の決断による犠牲者が出てしまった・・・
ただ最近は、どことなくキヌに似てきた孫娘の横顔を見つめながら、
己れの生涯を結核医療に捧げてきたこと、そしてそう遠くない未来に
キヌと同じ病、結核で死ぬだろうというアイロニーに、幾ばくかの
誇りと喜びを覚えることもある。
孫娘はもうすぐ高校を卒業し、この春からK大学の医学部へ進学するそうだ。
135:人形師 ◆wa1a4mh476
08/12/28 07:50:08
次のお題は、、、「青汁」「カメラ」「枕」で。
136: ◆DinfA5bnxE
09/01/06 03:36:51
通学途中の駅に立ち食いそば屋がある。
降りる用はないから、わたしは電車の窓の内側から見かけるだけ。
ホームにある店なんか安かろう悪かろうで、味もたいしたことないのだろう。
でも冬の寒い日に、券売機ののぞくドアから温かそうな湯気が見えると、
なんとなく入ってしまう気持ちもわからなくはない。
ある日、やはり通学途中に、ブシュンという音を聞いて、わたしはケータイから顔をあげた。
スプレーを吹きかけられたように、窓が緑色の液体を浴びていた。
そば屋の前に、出勤前だろうか、スーツを着たお姉さんが立っていた。
口の周りが緑色になっていても、きれいな顔をしていた。
そんな彼女と目があった。
ケータイのカメラで撮っていたのではないかと思われたかも。
電車が動き出した。わたしは想像する。窓についた液体は、おそらく青汁だ。
若くてきれいな女性が朝から駅のそば屋で青汁を飲む理由。
失恋……? だとすると、昨夜は枕を濡らしたのだろうか。
大人の恋は、わたしにはまだわからない。でも、とても苦そうだ。
次は「五月雨」「葉桜」「もう、戻れない」でよろしこ。
137:sou
09/01/07 01:06:12
あの日。見慣れた街並みが見る間に廃墟へと変わった、あの日。
人の持つエゴの最も愚かな形での発露、すなわち戦争は、突然に僕らへ降りかかった。
鳴り止まない爆撃と砲撃の音、そして悲鳴。肌も心も、そして未来さえも焼き尽くす炎の熱。
硝煙と焦げた肉の放つ異臭が混じりあう大気。何もかもが脳裏に焼き付いて離れない。
そして今、どす黒い五月雨の降りしきるなか、すべてが引き裂かれたこの街で、
僕はかつて愛した女性をようやく探しあてた。
とうに息絶え、泥水のなかに無残に打ち捨てられていた彼女を。
傍には、いつも僕らが見上げて過ごした桜の木が、幹だけを残し立っている。
僕はゆっくりと彼女を抱き起こし、胸に抱いた。
白い花吹雪くなかで夢を語り合った季節を、葉桜の隙間から漏れる陽光にまどろんだ日々を、
彼女と歩んだ無数の時間を反芻しながら。
なぜだろう。もう二度と笑顔を向けてくれることはないというのに、
かつてないほどに、彼女を愛おしく感じるのは。
なぜだろう。枯れたはずの涙がいつまでも止まらないのは。
僕は桜の木の根元に彼女を横たえ、携えていた銃を構えた。軍靴の音が近付いてくる。
「もう戻れない。わかってる。それでも僕は行くよ、奴らの血で贖わせるために」
希望に溢れた記憶を胸に、僕は絶望の戦場へ駆け出した。
138:sou
09/01/07 01:11:32
楽しんで書けたお題でした。ありがとう。
次は「雪」「凍てつく」「あたたかい」でどうぞ。
139:名無し物書き@推敲中?
09/01/07 06:22:35
ゴー。。。ゴー。ゴ―――。
深夜、ローカル単線路の上を雪上車両が掻き分けてゆく。
舞う粉雪のなか、凍てつく氷結を砕き、軋む雪を跳ね上げ……
煌々と照らし出せれた後ろの空間へ吸い込んでゆく。
ああ、帰って来ることが出来たんだ、この町へ。
懐かしさに胸が熱くなる。
もう、帰って来ることは出来ないものと、諦めていたのに。
……春になったら、君を埋めた桜の下で、きっと逢おう。
頬を流れる涙は、あたたかい命の慟哭。
140:名無し物書き@推敲中?
09/01/07 06:23:21
「ローカル単線路」って変ですが、、、駄文失敬。
お題は、継続でお願いします。
141:名無し物書き@推敲中?
09/01/07 08:30:26
降りしきる雪の中、私の声は届かなかった。
けど、私の方には聞こえていた。必死に私の名を呼ぶあの声が。
泣こうが喚こうが事態は変わらないと悟っても、
自分という存在のあまりの軽さに失望しても、ついに諦め切れなかった。
そして今日という日、私はようやく日本海に面したこの街に還って来た。
長かった……
停留所でバスを降りると、そこには懐かしい風景が広がっていた。
松林の向こうには眩いばかりに輝く蒼い海。
遠い昔、当たり前の日常と思っていたこの光景が、今は贅沢なもののように思える。
海岸に沿って歩いていると、崖の上に人影が見えた。
腰が曲がり、杖をついて彼方をじっと見ている。
ああ……
あたたかい春だというのに、あの人は凍てつく寒さの中に今もひとり立っている。
私は力一杯の大声で呼んだ。
お母さん、ただいま─
次は「演歌」「ライバル」「下水道」
142:sou
09/01/10 23:38:48
「ドブネズミのように美しくなりたい」そう歌ったロックスターがいた。
初めてその曲を聴いた瞬間、俺は涙を流した。言わんとしている意味は今でもわからない。
それでも、力強い言葉の響きは、胸の奥を深く抉った。
やがて俺は仲間達とバンドを組み、歌い始めた。誰かの心に深く届く曲を作りたい、その一心で。
大学は中退した。家も飛び出した。それだけの覚悟があったからだ。しかし現実は甘くなかった。
共にライブハウスを巡ったライバル達は、音楽性を世間の流行に順応させることで、
次々にメジャーへの切符を手にした。
対して俺達は音楽的な拘りを捨てられず、いつまでもうだつのあがらないまま。
いつしか現状を嫌ったメンバーは散っていったが、残された俺はギターを抱え、街角で独り歌い続けた。
「よう、兄ちゃん。演歌を一曲弾いてくれたら千円やるぜ」
酔っ払いの冷やかし半分の提案に、思わず乗りそうになる。そういえば今日は朝から何も食べていない。
空は今にも雪が降りそうな雲行き……寒い、ひもじい。これが自分に正直に生きた成れの果てか。
下水道で生きるために懸命にもがくドブネズミと、自分の姿が重なる。
「……そうか!」俺の中で何かが弾けた。心の中に点在していた言葉が、ひとつにまとまり溢れてくる。
無意識に、右手が勢いよく弦をかき鳴らし始めた。
「―迷わないで、志すひとよ。たとえ打ちのめされ、ドブネズミと蔑まれようと、君は美しい。
流されないで、誠実なひとよ。引きずり落とされ、ドブネズミと罵られようと、君の生は尊い―」
即興の曲を歌い終わり、周囲を見渡すと、今まで見たこともない大勢のギャラリーが並んでいた。
そして演奏の余韻が消えるやいなや、唖然とする俺を嵐のような拍手が包んだ。
「俺、間違ってなかったんだ……」人目もはばからず、俺は泣いた。
143:sou
09/01/10 23:48:50
長くなりました。
次は「カナリア」「思い出せない」「旋律」でどうぞ。
144:名無し物書き@推敲中?
09/01/11 11:08:04
「宿題終わってるよね? 貸して!」
今日も彼女は悪びれることなくそう言った。
宿題くらい自分でやれとかねがね思っている。しかし私が彼女にノートを差し出さない日はなかった。
これは当然の流れである。人生という一つの曲において、彼女が旋律で私が伴奏なのだから。
容姿淡麗でいつも笑顔を振りまき溌剌な彼女。それにくっついている引き立て役の私。
私と彼女は幼なじみだが、物心ついた時から主役はいつも彼女だった。
仕方ない、私はブスで根暗なんだから。仕方ないんだ……。
「えっちょっとどうしたの!? 何泣いてんの!?」
彼女に驚かれ、私は涙が頬を伝っていることにようやく気付いた。
「あなたは良いよね、旋律で……! 私なんて、所詮あなたを引き立てる伴奏なんだから!」
気付いた途端、涙も言葉も溢れるように出てきた。ああ、惨めだな私。幼なじみに嫉妬して酷いこと言って。
145:>>144続き
09/01/11 11:10:36
「……何馬鹿なこと言ってんのあんたは!」
不意に彼女が叫んで私はびっくりした。彼女は目を涙で一杯にして、肩を震わせている。
「昔から、私は優しいあんたにずっとくっついていたの……今日も私はあんたにノートを借りて必死にくっつこうとしているじゃない。思い出せない? あんたと初めて会話した時話し掛けたのは私だったってこと。私にとって、あんたは優しいメロディーを歌うカナリアなのよ!」
抱きしめられた。力無きその腕では倒れてしまいそうだったので、私も抱きしめた。
携帯の事情で二つに分けました。規制死ね。
次は「朝食」「猫」「墨」
146:sm ◆ley8NheQbk
09/01/11 11:44:11
墨田猫吉が寝床からもぞもぞと起き出したのはまだ四つも打たない時分で、なぜ猫吉がそんな柄にもない早起きをしたかというに、お江戸で流行っているという霊験あらたかな“猫の墨煮”をば朝食へといたしなさらしめけんやと、
うつらうつらの猫めらをひっとらえんとしたわけで。
「あいや、いやった、これ猫め、神妙にいたせ」。
「にゃあ」とは猫。至極平然としている。
「うぬう、こやつめ、愚弄しおるか。いざや、さあ」。
猫吉がいさんで飛び掛かるも、猫は海中のイカが墨を吐くごとくぷわっと空中に空墨を吐いて遁走。
猫吉のたまうに、「超、ショック~」。
お題は「リンゴ」「ゴリラ」「ラッパ」。
147:名無し物書き@推敲中?
09/01/11 15:04:44
今、彼と正面から組み打てるのは赤道直下の密林に住む大猩猩ぐらいだろう。
肺を患って入退院を繰り返す私から見て、彼はまさにゴリラだった。
たとえ私ほど貧弱でないとしても、彼の剛体を見て一歩あとずさることがない同期生はいなかったと思う。
胸部から腹部にかけて巨大な板チョコレートのごとき装甲が並び、巨大に盛り上がる関節から
伸びる四肢には二重三重に蛋白質が巻きついている。稜線も極端に顕著であり、
したがってそれに付着する筋繊維は想像を絶するものと思われた。
外見に於いて、彼の音楽的才能を予測しえたものは皆無と言ってよい。彼の趣味は飲酒ぐらいしか
認知されていなかった。野外かまわずウヰスキーを瓶から一気飲みする姿の印象の強烈さと、
肩まで垂れるザンバラ髪が、耳元にあるIpodをほぼ完全に覆い隠しているせいもあるだろう。
彼の喇叭飲みがその恐怖を煽り、その向けられる恐怖の眼差しが彼を酒に追い込む。
全く理不尽なことに、こうして彼は文武両道にも関わらず文武双方からアウトサイダーであった。
運動が嫌いではないのだろうが、体育会系の騒々しい連中と長くともにあるには、感受性を少々過剰に持ちすぎていた。
僅かでも操作が狂えば弦など簡単に掻っ切ってしまうだろう鋭硬な爪が、今日も
楽譜を辿りはじめ、奏でるのだろう。
耳元からながれこむ調べと同じ、彼が置かれた境遇と同じ、センチメンタル・ジャーニーを。
148:名無し物書き@推敲中?
09/01/11 15:05:48
「アイスコーヒー」「洗濯物」「犬小屋」
149:名無し物書き@推敲中?
09/01/11 23:31:10
「暇ですね。」
心地よい昼下がり。風にはためく洗濯物。バルコニーのテーブルで私と娘は穏やかな時間を過ごしていた。
「暇ですね。」
犬小屋から見える前足と鼻。愛犬のクロも暖かい陽気にのんびりしている。
「アイスコーヒーでも飲みますか?」
テーブルに持たれていた娘が急に起き上がりそう言った。
「賛成。」
ちょうど何か冷たいものが飲みたいと思っていた私は直ぐに娘の意見に同意した。
しかしそのときだった。私の頭の中を何かがよぎった。何だろう?この感覚?既視感。そうだこの場面は以前にもみた事がある。どこでだろうか?思い出せない。ここで起こった事?いや、そうじゃない気がする。とても似てはいるがここでじゃない。じゃあどこで?
次第に言いようのない不安に駆られる。形のないものほど、理由のないものほど恐ろしいものはない。
「大丈夫?」
アイスコーヒーを持って戻って来た娘が心配そうに見つめている。
「ああ、うん、大丈夫よ」
そういって私は娘を強く抱きしめた。しかし私は震えていた。急に沸き上がったこの形容の出来ないもどかしさに。拭えない影に。私はいつまでも怯えていたのだった。
150:名無し物書き@推敲中?
09/01/11 23:32:50
次は「看護婦」「昇降機」「非常階段」でお願いします。
151:ケロロ少佐 ◆uccexHM3l2
09/01/13 11:46:30
「看護婦」「昇降機」「非常階段」
私は中村康子。この病院で看護婦(看護師)をしています。
テレビや新聞では今、医療体制の危機とか言われていますが私のいるこの病院は不思議と何の問題もなくとてもいい所なのです。
「あっ!おはよう!佐伯さん今日もお元気ですね」
ああ行っちゃった!
あの人は、みんなから《昇降機》さんと呼ばれている患者さん。
ああして暇な時はエレベーターに乗り上や下へ楽しく行ったり来たりしているんです。
そしてあの非常口ドアの近くに立っている人は木村さんで《非常階段》さんと呼ばれていて、いつも非常階段のある場所を指先確認して周っている患者さんです。
ほんとウチの病院は面白い患者さんたくさんいます。
「あっ!おはようございます!婦長!」
「はい!すみません。病室にすぐに戻ります…」
「だめですよ!中村さん。また看護婦の姿で院内を歩き回ったら!!」
彼女、中村康子さんはこの病院では《看護婦》さんと呼ばれている患者だった…
152:ケロロ少佐 ◆uccexHM3l2
09/01/13 11:47:18
お題は継続でお願いします。
153:名無し物書き@推敲中?
09/01/14 04:23:25
看護婦・昇降機・非常階段
「君は昇降機だ」
「私は見ての通り看護婦よ」
「見てくれの話じゃない。そして僕は非常階段だ」
「…その心は?」
「二つとも本質的には物質が上下に運動することにある。でも場合が違う」
「ふむふむ」
「昇降機は動力自体が別にあるから乗る意思とほんの少しの労力で移動ができる。それに対して非常階段は意思とともに多大なそれを必要とする」
「あぁ、昇降機に乗る人、非常階段を上がる人ってことなのね。上に登るってのも言い得て妙だね」
「細かいことはいい。で続きだが、昇降機は日常で使うものであり、非常階段は名前の通り非日常で使われる」
「私よく使ってたけどなぁ」
「それはさておき、君は今テレビを見ている。とても日常だ。そして僕を見てくれ。これが日常か?」
「確かにそれが平素なら嫌過ぎるね」
「それは理不尽すぎると思わないか?」
「非常階段さんは回りくどいね。昇降機がいいならストレートにいいなよ」
「……せっかくの騎乗位なんですから動いてもらえませんか?」
154:名無し物書き@推敲中?
09/01/14 04:24:59
お題忘れてた。目に付いたもので
「知恵の輪」「紅茶」「香水」
155: ◆DinfA5bnxE
09/01/14 05:18:03
その急患が運ばれてきたのは、文子が壁の時計を見上げたときで、
あと五分で夜勤があけたのにと心の中で愚痴をこぼした。
事務室から廊下に出て、小走りする看護婦に状況を聞いた。
喫茶店でガス漏れが原因らしい爆発があったそうですと言った。
手術室に行く途中で、ストレチャーに乗った患者に追いついた。
うっすら目を開いた患者は「がんばって」という声を聞いた。
(……おばさんの香水のせいで紅茶の香りが台無し……って、あれ、ここは、どこだ……)
体を動かそうとしても動かない、視界はぼやけたままで、耳だけが機能している。
エレベーター故障してんじゃないの? 器具運搬用の昇降機は? 遠いです!
非常階段を使うわけには行かないし─そんな声が響いているのがわかる。
遅い! オペの準備は? の声と同時に、戻ってきた視力が動く天井をとらえた。
(……もういいよ、失恋したばかりだし……生きてたって……)
ちょっと! 何このエレベーター、ボタンがないじゃないの!
でもドアはもう閉まっちゃってますよ!
(……何だ、何が起こってる? 見えないし動けないのに、気になるじゃないか……)
もうこの際、天国まで上がっちゃいな、あひゃひゃひゃ! せ、先輩、落ち着いてくださいっ!
エレベーター内に設置された防犯ビデオには、一瞬の砂嵐が起きるまで、確かに三人は映っていたという。
そこで怪談をしめたが、隣のベッドの子供は中断していた知恵の輪を再開した。
「前に看護婦さんから聞いたことある」
なら、早く言えよ……。
「ほんとうはエレベーター事故で三名とも死んだんだよね」
「マジ!? ここの病院?」
「嘘」
「寝るわ」
長くなってスマソ。
次は「先輩」「わたしのつくったお弁当」「食べてください」でよろしこ。
156:アシュレー ◆r1if.ivhdg
09/01/14 23:19:59
「先輩。私の作ったお弁当。食べてください。。。」
誰もいない部屋の中、つきだした両手で持つソバ殻の枕に向かって発した言葉は、虚空を切り裂くような
無音の冷気に飲み込まれる。キンキンに冷えた氷の刃をのど元に突きつけられたように、美沙は首を
ブルッと震わせた。寮の壁が揺れる。
「うー、サブい! んなこと言えねっつの」
ドアが開いた。
「ああ、いただこう。できればアーンってしてほしいね」
美沙が振り向くとマチャコが宝塚ふうに両手を広げてニヤニヤしながら見ている。
「ちょっと。あっち行って」
ブーたれた。
「おっと。てのひら返しかい。お弁当で釣っておいて、そりやあ無いぜえ」
にやにや。
「やっぱりさあ、お弁当渡すのやめようよ。つまんないよきっと」
「だめえ。罰ゲームは絶対に絶対だよ。途中下車はできないの。人生と一緒よ」
「人の恋路を罰ゲームにして楽しもうってヤカラが人生語ってるよ」
「人生なんて罰ゲームみたいなモンよ」
マチャコは、自分でも自分の言っていることがよく分かりませんとでもいうように、首をくねりくねりと揺らしながら言った。
最後に「はは」とふやけた笑いを足す。
しかし、これはチャンスかもしれない。うまくいけば言うこと無し。ことわられても罰ゲームだからってことでいいわけ可能。
でも、いいわけは外向け。内側ではがっくり来ちゃうよいいのかい。いいわけないけど、でもでも、なんとなくうまくいきそうな
予感もあるし。うまくいったらウホー。鼻息荒くなりそう。そうだ。ディズニーランド行こう。行こう行こう。って一人で行くことに
なったりして。一人でディズニーランドなんて行ってたら死にたくなるかも。シンデレラよ。私の死を見届けてちょうだい。ああ、
息を引き取るその瞬間。先輩。私の作ったお弁当。食べてください。それが私の遺言ね。さらば先輩。ああ麗しの高校三年生。
バタリ。
ベッドに倒れ込んだ美沙の肩を叩きながら
「ちょっと。妄想はもうそうれくらいにして」
とマチャミが言った。
涙があふれてきた。
157:アシュレー ◆r1if.ivhdg
09/01/14 23:27:41
次のお題 アフロ 目玉 天秤
158:名無し物書き@推敲中?
09/01/15 09:49:17
アフロ・目玉・天秤
「話を聞かせてもらってもいいかな?」
向かいのソファーには美しい少女が座っていた。まだ義務教育課程にあるはずの少女だが、その美麗な様は-表現が難しいが-『完成されてしまっていた』。
まるで自分好みの絵画を鑑賞するかのように、目を惹きつける。
私でさえそうなってしまうのだから、隣に座っている後輩の小林はなす術もない。手渡した資料など目も向けずに彼女を注視している。脛を蹴ってやると慌てた様子で手元に目を落とした。
「今度の刑事さんは男性なのですね。男性や外の方とお話しするのは久しぶりで少し緊張してしまいます」
美しいものは声までこうも心地よく聞こえるものなのかと感心する。
「今日は何のお話でしょうか? 前回の誘拐事件は犯人が捕まったとお聞きしましたが」
少女は常習の被害者であった。人は美しいものを見ると様々な行動をとる。それが良くないベクトルに向く者もそう少なくない。
「いえ、今回はもう一度始まりの話をお聞きしたくて伺いました」
少女はやわらかく微笑んだ。息を呑む気配がしたので、顔を向けずに小林の脛を蹴った。
「お祈りをしていただけなのです。毎朝お星様に向かって。そしたら女神様が現れて願いをかなえてくれるといいました。私は綺麗になりたいと願い、今を与えられました」
「失明したのはその時に?」
「はい。傾いた天秤を戻すには両の目玉が必要と言われました。それについては後悔していません」
「先輩はどう思われますか?」
シートベルトを締めながら小林は言葉を求めてきた。その言葉にしづらい何かは私も感じていた。
「どうもこうもない。資料にあった通り、不仲な両親によって崩壊寸前だった家庭が、娘の変貌により仲睦まじい家族になれたって話だ」
「いえ、そうじゃなくて……明け方の星・天秤と言ったら金星ですよね。よくビーナスとかアフロディーテといった美の女神に表されていますが」
「この仕事は想像を膨らませすぎないほうがいい。確かなものだけを追えばいいさ」
確かなことは二つ。
彼女は美しさを手に入れた。それは同性愛者である私でさえ魅せられるものだ。
そして、盲目となり、危険に晒され、外出も禁止されたが、今彼女は幸せであるということだ。
次のお題「電子辞書」「輪ゴム」「トマト」
159:名無し物書き@推敲中?
09/01/16 01:57:53
変な輪ゴムを拾った。
伸びるのは普通なのだが、挟んだものが消えてしまう。
消しゴム、鉛筆、筆箱、みんな消えた。これはちょっと後で困った。
給食に出た苦手な人参とトマトも消えた。
飼育小屋の兎を捕まえて挟んでみたら消えた。ちょっとまずかったかもしれない。
自分の指をゴムで挟んでみた。ドキドキしたが、指は消えなかった。
でもちょっと変だ。学校がピカピカになってる。
教室のドアが勝手に開く。自動ドア? 机はあるけど椅子がない。
チャイムが鳴った。でも誰もいない。先生も来ない。
足下に何かが当たった。さっき消えた兎だ。
机の中には消しゴムと鉛筆と筆箱、それと国語の電子辞書があった。
試しに「わごむ」と入力してみる。
ワ─ゴム(輪ゴム) 明治初期にアメリカ合衆国で開発された次元・時空移転装置の総称。
危険物取締法により現在では使用を禁止されている』
なるほどね。
次は「金星」「禁制」「均整」
160:名無し物書き@推敲中?
09/01/17 22:40:21
近世の金星は,男子禁制であるが男女比の均整を取るために,女子は心の琴線にふれる金製の謹製肉棒を金銭を払い購入し子どもを作ろうとしているが,長老である金さんが忌諱せんとするので,超高齢社会になってしまっている。
お題「ボール」「イヤホン」「塩化カルシウム」
161:名無し物書き@推敲中?
09/01/18 13:55:00
ゾルレンは橇(そり)から降りると、クッションボールを膨らませた。
眼前の急勾配には、白い塩化カルシウムの粉が点々とだまになっている。
凍結防止用の塩化カルシウム(CaCl2)の容器が置かれているのを
グリッパー達が転がして遊んで行くのだ。
ゾルレンは4つ、クッションボールを頑丈な橇底に繋ぎ留め、
エンジンを吹かす。
「えいやっ」
(グリッパーなる輩はどうも不躾でいけない)
ゾルレンは難なく坂を3バウンドで降りる。少し遅れて、カー族が取り締まりに
仕掛けた閃光気弾が炸裂した。
ゾルレンは、少し肩を竦める。以前、グリッパーが忘れていったらしいのを拾った
音ポッドのイヤホンを耳に挿す。鼻歌交じりに雪山を疾走。
ゾルレン?、音ポッド?、う~ん、、
次は「海,空,マフラー」でお願いします。
162:名無し物書き@推敲中?
09/01/19 08:04:03
海を見に行きたかった。どこまでも続く青い絨毯。風の気紛れで姿を現す水面のパンチラ。
祖母に編んでもらったマフラーをポケットに押し込んで、錆び付いたべスパに跨りキーを回す。
生垣の迷路をまるで決められたルートを滑るように走り出す。冷たい雪風がコートの襟元から
私の胸を凍てつかせた。それなりに舗装された細い坂道を下っていくと、枯れ木のシルエット越しに
海が見えた。祖母が愛した海だ。あの水平線の彼方、太陽が昇る時刻になると、決まって祖母は
「朝だよお爺さん、そっちの夜は冷えるだろうに。いま線香をあげるからね」
そう言って仏壇に明かりを燈していたっけなぁ。
浜辺に轍を残しながらマフラーを首に巻き、灰色の空の下、祖母の指定席に腰を下ろす。
二人のぬくもりが私の胸を切なくさせた。
次は~「反射,影,涙」で。
163:名無し物書き@推敲中?
09/01/20 17:16:20
「反射,影,涙」
とっぷりと暮れた冬の夜。木下誠は娘の手を引いて雪の道を歩いた。
共働きの木下家では、先に仕事を終えた方が娘を迎えに行くことになっていた。
今日は二人とも残業だったため、午後九時までの延長保育を頼んだのだった。
ぽつぽつとした人通りの並木道は、街灯の明かりでほんのりと明るい。
「寒いね」と誠が言えば、娘の千絵が買ったばかりの赤い手袋をかざし、
にっこりと笑って「大丈夫」と答える。娘のけなげさが誠にはいじらしい。
大切にくるみこむように娘の小さな手を握り、誠はさくさくと雪を踏みしめて歩いた。
突然、背後から軋むような音がした。危ない!と誰かが悲鳴を上げる。
誠が顔を向けると、雪にタイヤを取られたトラックのバンパーが目の前に迫ってきた。
スリップした車をよけようと反射的に身を捩る。刹那、腕にがつんと激しい衝撃が伝わった。
繋いだ指からもぎ取るように、千絵の体が誠の手を離れ、宙に跳ね上がる。
まるでスローモーションのように時間がゆっくりと流れた。
「千絵」かすれ声で名を呼んでも、積まれた雪の上にふわりと落ちた小さな体はピクリとも動かない。
「誰か、救急車を早く・・・誰か・・・千絵、千絵」倒れたままだらんと力の抜けた子供を腕の中に抱き込み、
誠はうずくまった。頭は真っ白だが涙はぼろぼろと流れる。「千絵・・・どうして」
「あの・・・すいません、なんて言っていいか・・・」背後から影が差し、運転手の震える声が聞こえた。
殺してやる、誠の胸に凶暴な怒りが満ちる。このやろう、ふざけやがって!
振り向いた誠の目に、驚きが浮かんだ。「あんた・・・」運転手の男も、同じように目を見張った。
「・・・だから酒は飲めないって言ったのに」半べそで男が続ける。「あんたが無理に飲ませたんだ」
「なんとでもしてやる、おれの酒が飲めないのかって・・・見ろよ、どうしてくれるんだ?え?」
今日の接待で土下座して固辞する男に、笑いながら無理に酒を勧めたのは誠だった。
しんと静まりかえった白い世界の中、男二人の号泣が響き渡った。
次「海、シロクマ、手紙」
164:名無し物書き@推敲中?
09/01/20 18:48:22
海 シロクマ 手紙
遠い海を渡って手紙が届いた。「ジャッカル」からだ。
執行人が動き出した。残りは「シロクマ」お前と俺だけだ。順序からいって次はお前だろう。死にたくなかったら逃げろ。もっとも俺と同じでお前も逃げる気なんて無いだろうが……。
毎年皆でいってた旅行、去年が最後になっちまったな……。 まあまたあっちで酒でも飲もう。それじゃあ。
揺り椅子にもたれる。繰り返す波の音、優しく撫でる風。あまりに穏やかすぎてこの平和が無くなるとは想像しにくい。
だが調整者の意志は絶対で執行人が失敗する事はない。息子や孫たちと別れるのは寂しいが。もう十分生きたし、裁かれるだけのことも確かにしてきた。
これで罪が贖われるとは思えないが。私が死ぬことで終わるなら受け入れよう。
昔の事を思い出す。任務から戻ってから後の記憶だ。それ以前の記憶はあまり引っ張り出したくない。妻との出会い。息子と三人の暖かい生活。やがて息子も結婚し一人だった私に沢山の家族ができた。
ふと気付けば夕日はもう半分まで海に溶け辺り一面を黄金に染めていた。
「幸せだった」
不意に零れた言葉だったがそれには全てを肯定するような、抱擁するような響きがあっ
165:名無し物書き@推敲中?
09/01/20 18:52:00
最後の二文字入ってねーorz
次は「無限」「有限」「根源」で
166:名無し物書き@推敲中?
09/01/21 22:53:08
古色蒼然の草原で,幽玄の風景に欣然と,空を仰いで大言連ねる。
―ああこの青玄の下にいる,末節な人間の根源を,不肖な手前が解決せん。
それを上聞し老人は,哀傷を顔に表し言う,まさに大海撈針,どうして為せるというのだ,と。
ところが青年は毅然と返す。
―無限に見える空や雲さえ,有限の物というのなら,どうして成せぬというのでしょう。
167:名無し物書き@推敲中?
09/01/21 22:54:01
次題「暮色蒼然」「沢山」「抱擁」
168:名無し物書き@推敲中?
09/01/22 18:11:41
<金星のアルコールを供するを生業とする店(『有限会社シロクマのマフラー』)にて。
うらぶれた店内。煤けた貼り紙に「塩化カルシウムあります(雨季限定)」の文字。店主一人に客一人。
店主は補聴器の角度を弄ってみせている>
客 :おい,『暮色蒼然』だよ。
店主:旦那,勘弁でっせー。先からの贅沢禁止令で地球産のホロ酒は,ご禁制の品でさー。
客 :ほー,沢山(さわやま)って仲買人に,こっちの店では,まだ,在庫がたんとあるって聞いたなべ。
店主:無限って訳やま。常習すると「分極性根源不均整症候群」で終わりなごや。イヤホント。
※ナ:客,内股の装甲をでんぐり返し。鈍色の物体をば,ちらつかす。店主,アイを点滅反射させ
涙の偽装。埃深き棚の奥より取り出したるは,空(から)と見まごうシリンダー。内容をボール型の
チューブに注入,差し出したり。
店主:これは,秘伝のお手製。銘はございやせん。
※ナ:一口啜ると,双電脳巻板に地球の海辺,夕暮れ時が展開す。二口,斜光に逆光に残光。影,迫り来る。
三口,始原の肉体にて,飛び抱き掛かり付くあの娘。暮色蒼然,波音のなか,抱擁を反し,
沢山の接吻を――。店主,炉心の制御棒を抜き取りてから,痙攣,抜け殻の客を廃キッス。
店主,戻り際,郵便受に,かの地よりと思われし手紙をみ…めた。
(水戸,入ってねーorz)
次は、『旅,温泉,南』でお願いします。
169: ◆DinfA5bnxE
09/01/25 22:57:27
(旅に出て忘れられれば苦労はしないよな……)
観光バスの窓から高速道路のガードレール越しに流れていく山脈を眺めた。
「まもなく談合坂サービスエリアです」
バスガイドがマイクを通して告げた。
「談合だけに、団子が名物です」
「……」
「歌もあります。♪~ダンゴ、ダンゴ、ダンゴ、ダンゴ、ダンゴ、だいかぞくぅ~。はい、みなさん、ごいっしょに!」
「……」
その前の週、俺は一通のメールを趣味仲間の女性に送った。
─事情があって、もう連絡は取れない。
好意が恋にならないうちに、と、そう書いた。
【南アルプスを一望できる天空レストランでランチ】
煙と馬鹿は高いところが好きだという。俺は煙ではないが、気づいたら申し込んでいた。
注意書きに「ぶどうの丘でタートヴァンでの試飲を天空の温泉に変更することができます」とあった
が、メインは「甲州ワイン・ぶどうの丘で180種のワイン試飲」だ。
いっそワイン温泉風呂なら、良い感じに酔いつぶれたのにな。
「♪~嬉しいこと 悲しいことも 全部丸めて」と、ガイドが歌い終えた。
俺は泣いた。
実は半ば創作、半ば実話になりそうです。
URLリンク(www.kyouryokukai.or.jp)
2月14日に一人旅ワインめぐりですよコンチクショー。
次は「青」「夜」「後悔」でよろしこ。
170:名無し物書き@推敲中?
09/01/27 10:16:41
貴方からの電話を待ってます。死んだ小鳥みたいに小さくなって。ずっと待ってます。アパートは私から伸びた荊で覆われて、壁も窓も塞がれたのでもう今が昼なのか夜なのかも分かりません。でもうるさい大家さんも来なくなったのでそれは助かりました。
テレビは点けっぱなしにしてあります。なにがやってるのかはわかりませんが。点けないよりはいいと思って。
食欲はありません。食べ物より貴方の声が聞きたい。
雨の音がします。外は雨なのでしょうか。それともこれは受話器から聴こえる音でしょうか。私が感傷的になっているのでしょうか。今目の前に青い水滴が垂れ落ちました。やはり雨のようです。
ああ、声が聞きたい。そして叱って欲しい。そして出来れば… 許して欲しい。後悔……。 もう終わりなのでしょうか?元に戻らないのでしょうか?ああ、声が聞きたい……。
雫の単調なリズムに少し眠たくなってきました。でも眠りません。いつかかってくるか分からないから。一秒でも早く取りたいから。誠意の気持ちを知ってほしいから。
気付けば雨の音は止んでいました。床の水たまりもすっかり乾いていました。私はふと思いました。この電話は貴方と繋がってるのかしら?
171:名無し物書き@推敲中?
09/01/27 10:18:42
携帯から失礼しました。
お題は継続でお願いします。
172:名無し物書き@推敲中?
09/01/30 21:09:24
足元には、青い箱と赤い箱が並べて置かれている。今、P子は、夜の闇のなかに立ち尽くし、迷っている。
どちらの箱を選ぶのが正しいの?
団子虫をひっくり返したような、死神の顔。揺るぎない無表情に手掛かりになるものは
何もない。いや、答えは自らの内にしかなく、どちらの箱を選んでも、後悔を背負うことに
なる。日頃、お頭(つむ)の弱いと侮られ続けてきたP子だが、それは、わかる。
どうどう廻りの思考、何か抜け道はないものか。P子の脳裏に『紫』という言(ご)が
戯れに浮かぶ。常人ならば、何故、自分一人、このような理不尽な選択に立ち向かわねば
ならないのかと、身悶えるところであろうか。或は、パラノイアなら、尊大かつ得意げに
嬉々として選びおおせるものなのかもしれぬが。いずれも、P子とは無縁な感情だ。
多くの者は、彼女を愚かで無知で感情に溺れ易い性質(たち)だと評する。
それなのに、今、ここに至り、誰も異議を唱えない。全ての者が彼女の選択に身を委ねる
覚悟であった。向こうの者も、こちらの者も、皆、過去を振り返り、未来を仰ぎ見、そして、
最後に己の内を見詰め、必然の選択者に思い至ったのだ。
彼女の片腕が振り上げられ、世界は固唾を呑んだ。
彼女に選ばれた箱は開かれ、未熟で小さな希望が世界に放たれた。神々は消えた。
(ふ~、どこがどう必然なのでしょうか?)
次のお題は『箱,希望,世界』でお願いします。
173:名無し物書き@推敲中?
09/02/06 23:54:37
そのエコに関するワークショップの警備をやっているとき僕は
仕事を忘れ壇上にいる科学者に目を向ける。
「…であるから地球は言ってみれば大きな箱舟のようなものなのです。
資源は無限に産出するわけでも空気の汚れが自然に無くなる訳でも
ありません。これは私たちが消費を謳歌し生活をしてきたことへの、地球からの
メッセージといっても差し支えないのでしょうか?」
僕は胸の中に小さな違和感を感じる。何か違うという思い。
それを言葉にはできないが間違っていると叫びたい。
でも僕は途方にくれるばかりだ。
「世界をこれから希望をもって生きていくためには温暖化対策こそが
大事なのではないのでしょうか?」
僕は数年後にエコバブルと言う名で呼ばれる現在のことを思う。
間違っているのはあるいは僕なのだろうか?
いや僕だって温暖化が違っているというわけじゃない。
ただ……
174:名無し物書き@推敲中?
09/02/06 23:56:37
僕の目の前に赤ん坊を抱いた若いお母さんがいた。
熱心に科学者の言葉を聴き手にはパンフレットが握られている。
僕には分からない。地球のことなど世界のことなど
分かりたくも無かった。赤ん坊は母親の手の中で深く深く眠っている。
僕に必要なのはこのアルバイト代の七千円だ。
僕個人の現実。考えるのはそれからにしろ。
それでも悲しみは去っていかなかった。答えなど
無いのかもしれない。今はそれでいいじゃないか?
科学者が大きな声を上げたとき
赤ん坊が目をあけ泣き始めると僕は微笑んだ。
次は東京、男の子、ニートで
175:名無し物書き@推敲中?
09/02/08 09:54:23
「男の子だったらよかったな」
鏡子はつぶやいた。ボサボサの髪でも、部屋が散らかってても。男の子だったらあまり気にしないでもいいような気がする。ニートだって、少しは冗談にもなりそうだし。
でも性別が変わったって根本的な解決にはならない。分かってる。かといって状況を劇的に変えるような意志も出来事もない。だから現実から離れる。
「一人っ子だったらよかったな。」
鏡子は考える。長女は小さいけれど自分のカフェをやっている。次女は東京の有名な大学にいった。私はずっとパソコンに向かっている。嫌でも浮く。
変えたいって気持ちはある。でも気付けばいつもこうだ、妄想とネットで一日が終わる。
ふと横を見るとカーテンの隙間から光が差し込んでいる。もう朝なのか。カーテンを開ける。眩しい、責めるような朝日。通りは早いからか人も車もいない。
静寂。世界からみんないなくなったようだ。そう思ってると道を小学生が横切った。それを合図に往来が増え、町は何事もなく日常を再開した。
涙がこぼれた。理由は沢山ありすぎて分からない。全部かもしれない。膝をつきさらに泣く。泣いてる事に泣く。部屋を冷たい朝日が満たした。
176:名無し物書き@推敲中?
09/02/08 09:56:37
次は 「脳」「ニュートリノ」「孤独」でお願いします。
177:「脳」「ニュートリノ」「孤独」
09/02/10 15:47:37
深夜のファミレスで物理学科の友人にニュートリノについて説明してくれ
と頼んだらそいつはわざわざウェイターにボールペンを借りて白い紙ナプキンに
なにやら難しそうな数式を楽しそうにニヤけながら書き出した。
会話が尽きて気まずいときはこれに限ると思いながら、急に明るくなった
友人の声にいい加減に相槌を打つ。紙ナプキンの上を走るボールペンをぼんやり
眺めたまま悟られないようにあくびをした。涙でぼやけた目が次第にはっきりしてくると、
紙の上に並んだ数式がいつの間にか形を変えて、違うもののように見え始めた。
なんだか人の横顔のように見えるが、友人の口からは相変わらず楽しそうな声で
自分の脳みそでは理解できない単語が続々と零れ落ちている。しかし紙上に輪郭を作っていく
どうみても人の横顔で、孤独そうな、またそれを耐えているような卑屈な笑いを
口の端に浮かんでいた。友人は素粒子がどうのこうの、とか言いながら、
最後にその横顔に黒い瞳を書き加えた。どこかで見たような男の顔だがどうしても
思い出せない。なんとか思い出したくなって瞬きもせずにその絵に見入っていると、
友人が突然そのナプキンをクシャクシャと丸めてしまい、また新しいナプキンを
取ってそこに数式を書き始めた。
今度はいつまで見ていてもただの数字しか紙の上に並ばなかった。
次は「刀」「絵画」「雨雲」でお願いします
178:名無し物書き@推敲中?
09/02/10 15:56:41
すいません、めんどくさくて推敲抜きました
九行目の最後「作っていくのは」
十行目の最後「卑屈な笑いが」
に脳内訂正しといてください
179:名無し物書き@推敲中?
09/02/15 13:09:00
友人が絵画を出展した展覧会の帰りに、
絵に描いたような雨雲の広がる空を見ながら、
友人の絵のことを思い出していた。
その絵は風景画だったのだが、その空もまた曇った空だった。
私は普段絵を見ることはほとんどないのだが、
絵画の中の空はいつも曇っているように感じる。
でも、もしかしたらそれは気のせいかも知れない。
そう思った私は図書館に立ち寄った。
画集の棚の前にいた学生に手を刀のようにして
棚の前に入り込み、いくつかの画集を取り出した。
その中の絵には曇った空もあったが、青い空も描かれていた。
なぜ私は絵の中の空は曇っていると思っていたのだろうか。
その理由は翌日澄み渡る青空を見た時に理解した。
雲は雲の表面を反射しているが、青空は表面を反射しているわけではないのだ。
それゆえ、絵の中の青い空に青空を見ることがなかったのだ。
180:名無し物書き@推敲中?
09/02/15 13:12:55
いかん、久々に書いたら書いただけで終わってしまった。
次のお題は「新聞紙」「交差点」「消防車」でお願いします。
181:名無し物書き@推敲中?
09/02/17 00:14:13
あの日、僕らはこの交差点ですれ違った。
それだけで、僕が君を好きになる理由は充分だった。
だが、一目ぼれの恋を成就させるのは想像以上に難しい。係わり合いの無い男女が恋を実らせる時、これ程のパワーが必要になるなんて思ってもいなかった。
再会を果たすべく交差点を何十往復もし、それとなく顔見知りになろうと通勤電車を合わせ、便利屋を雇い酔っ払いとして彼女に絡ませ、僕が助けた振りをし、恩を買い…。
こうして、僕はようやく君と知り合いになれた。
もちろん、毎日こまめにメールもしたよ。会社へも迎えに行ったよね。
だが、君はそんな僕が気持ち悪いと言う。
―毎日、メールも電話してこないで。
―毎日、玄関のチャイムを鳴らさないで。
―お願いだから話しかけてこないで。
僕はただ、君が好きなだけなんだ。君の顔を見て、声を聞いて、話をする。僕はこれだけで幸せなのに。こんなささやかな幸せすら、望んでもいけないことなんだろうか。
君は、やがて、僕の前に姿を現さなくなった。
だから、僕も行動に出ることにしたよ。
この丸めた新聞紙に火を灯し、このアパートの庭先に置けば良い。
そうすれば、一目だけでも、君の姿を見ることが出来る。早く、君に逢いたい。
消防車の音が、僕らの再会を祝うジングルのように夜空に響いた。
久々に考えたら疲れた。期間が空くと文章力もなまるんですね。
次「2月29日」「先生」「埃」で。
182:お題「桜」「逆光」「駆け抜ける」
09/02/17 13:10:46
「2月29日にトリックがある」
ホテルの一室に備え付けられた安楽椅子に腰掛けながら、録画テープを検証していた探偵Aさんは、唐突に語り始めた。
「グレゴリオ暦の定義はちゃんと把握しているか?」
Aさんに問われて、私は思い出す。
「4年に一度、一年の日数を366日として数える。ただし、100年周期は例外とする、だったかな」
「足りない」
「え、嘘?」
突っぱねられて慌てる私。落ち着け私。そうだ。
「あ、そうだ……えーと400年周期は更に例外で、一年が366日になるんだっけ?」
先生の顔色を窺いながら問題を解く教え子の気分で、私はAさんを上目遣いに見やる。Aさんの表情は微動だにしていなかったが、否定されなかったので、おそらくそれで正解なのだろう。
「そこでだ。この録画テープを見ろ」
言われるがままに、テープの内容が映し出されたモニター画面を眺める。
「うん? あれ?」
「気付いたな」
「うん、これ、おかしいよ……タイマー表示の切り替わりが2000/2/28から2000/3/1になってる」
「そうだ。ここに、空白の一日が発生している。被害者の部屋が分厚い埃に覆われていたせいで、気温の低下が防がれ、死後硬直の時間帯が遅延したせいもある。が、これは明らかに人為的な時間のトリックだろう」
Aさんはおもむろに立ち上がると、廊下へ続くドアへと向かう。
その唐突さに一瞬、呆気にとられて立ち尽くす私に、Aさんは首だけで振り返るとこう告げた。
「アリバイは崩れた。この館には、探偵に挑む人間が居る。聞き込み再開だ」
次は「砂」「壁」「空」でお願いします。
183:名無し物書き@推敲中?
09/02/21 18:00:02
生には壁が無数にある。その壁を乗り越える事のできる人間も少なからずいると思う。
だが大多数の人間は一度は乗り越えようとするが、結局あきらめ壁を迂回していく。
僕はそのどちらでもない。壁の前で絶望し立ち止まり、迂回しようとも思わずそこで眠りにつく
そうやって生きてきた。ある時ふと思った。
もう人生を歩む必要などないのではないか―もっともその時には歩みを止め
眠りについてから10年以上過ぎていたが―そして自分で人生というものを停止させてもいいのではないか。
僕は窓を開けベランダに出た。雲ひとつ無い空から光が降り注ぐ。
まるで太陽まで僕の決断を歓迎しているようだった。「I can fly!!!」
そう叫んだ僕は空に向かって身を投げ出した。
子供の頃砂漠に行きたいと思っていた。そんな事を思い出したときに視界が暗くなり、意識が飛んだ。
次 軍手 虫眼鏡 ホチキス でお願いします
184:「軍手」「虫眼鏡」「ホチキス」 ◆iicafiaxus
09/02/22 04:58:28
畑地に囲まれた農家の瓦屋根がぽつぽつと散在する平野を郵便屋のバイクが走る。
露地栽培の支柱が何十本となく立つ家の前で、ぎしっとブレーキをきしませて止まると、
郵便屋はバイクのエンジンをふかしたまま畑の中へ声をかける。
「富田さんー。エクスパックですー。小包ですー」
おばあさんと呼ばれても怒らない齢になった富田さんが、曲がりかけた腰を上げて
畑地の入り口まで郵便屋の重雄を迎えに出てくる。
「はいお世話さま、だれからだい」
「東京のユキさんですよー。お孫さん東京の大学に行ったんでしたよねえ」
また今度お茶でも、と言い残して重雄のバイクが去り、富田さんは軍手を外すと、
古い園芸用のはさみでひっかけるようにしてエクスパックの封を開ける。
昨春に就職した孫娘から届いたのは、ホチキスで止めた十枚ばかりの紙の束だった。
「担当した記事が初めて誌面になったので送るね。このリード、私が書いたんだよ。
拡大コピーしたから、おばあちゃん、このくらいの大きさなら読めるよね?」
何度か目をすがめてみてから、こりゃだめだ、また眼が遠くなったな、と呟き、
富田さんは畑に面した八畳間の縁側から虫眼鏡を取りに上がる。
そろそろ休憩をしてもいい時間だ。
#お題は「傘立て」「耳」「レタス」で。
185:「傘立て」「耳」「レタス」
09/02/24 23:29:53
うちの父親の話、してもいいかな。
私の親父は耳が不自由で全く聞こえない人間なんだけど、一人でレタス農家やっててさ。
「耳が聞こえなくてレタスなんか育てられるの~?」
って聞いたら…あっ、この『聞く』は手話で聞いたってことだからね。そしたらね
「ばかやろう。レタスの声は耳じゃなくて心で聞くもんだ!」
とか言う、頑固で熱い親父だったのね。
その日も雷が鳴っているのに気づかないでそのまま仕事にいっちゃってね。
傘立てに傘が刺さっているもんだから、母親が心配してハウスへ様子を見に行ったら、
母さんに雷が落ちて、あっけなく死んじゃってさ。
当の親父はカッパ羽織ってケロっとしてんの。
あの時はさすがにこたえてたみたいだけどね。
それでもへこたれることなく、私が大学を卒業するまでは…って、
毎日毎日レタス作りに精を出していたわけよ。
だから、やっぱり親孝行したいな。と思っていたんだけどさ……。
親孝行、したい時に親は無し、ってことわざ、本当なんだね。
なんか今頃になって泣けてきたよ。
次「羽田」「毛玉」「レポーター」でおながいします。
186:「羽田」「毛玉」「レポーター」
09/03/01 12:21:41
「羽田」「……毛玉」
激しく人が行き来して、消毒液と外の空気が入り交じっていく。
今日の新聞を境に、先生の一人息子と、その手術の終わりを待っていた。
部屋に遊びに行ったときに面識を得たが、さほど仲良しになった覚えはなかった。
おちあったのもここで、約束もしてなかった。
たがいに小さく頭を下げて、わずかに空いた長いすに腰を下ろす。言い出す言葉が見あたらなくて、手持ちぶさたに新聞を手に取った。
先生が救急車で運ばれたのに、こうして普通に夕刊がやってくるのが不思議だったが、すぐに当たり前なんだと思い直した。
「古今東西しよう」と私が口火を切った。ルールは「あ」音で終わる単語。
先生が私とよくやっていた遊びだった。二人きりで、手持ちぶさたな夜にした、たあいのない遊び。
「『羽田』で覚醒剤押収」の裏には、「セーターの『毛玉』上手な取り方」の記事があった。
初めのうちは「なにやってんだか」という気持ちも、十回もラリーが続くと夢中に変わる。あ。あ。意外とないもんだなあ。あ。
下の雑誌広告が、ぎゅっと向う側から掴まれた。
「あっ」という前に、嗚咽が新聞越しににじんでくるように聞こえた。
自分の父親を亡くした時を思い出す。
泣くまい、といういくつもの関所をぶっ飛ばして、悲しみの波が体の奥から膨れあがってくる。こぼれる涙はその一端にすぎないのだ。
その時、ああ、先生は亡くなったのかもしれない、と胸にきざすものがあった。
張り詰めていた気持ちが、急に心細くなって、私は新聞ごと、その子の体を抱きしめた。体が悲しみと戦っているのか、小刻みに震えていた。
男の子だ。すこしでも、そのつらさが消えてくれたらいい。私は思った。
顔を上げると、誰も見ていないテレビのレポーターが、おいしいラーメン屋を紹介している。あっ、「レポーター」。
先生は死んだ。クモ膜下出血だった。
次は「チューリップ」「インフレ」「ユーロ」でお願いします
187:「チューリップ」「インフレ」「ユーロ」
09/03/04 13:21:18
エレンの母は交通事故で骨折し入院した
父親と祖母の話を盗み聞きしてエレンが知った話では、後一ヶ月は入院しなければいけないらしい
エレンの母はチューリップが好きだと以前エレンに告げていた
その事を思い出したエレンは母親のお見舞いにチューリップを持っていこうと思った
父と祖母には内緒にするつもりだった
自分の金で買ってこそ母に対する愛情を証明することが出来るし、
母も娘の行動を成長の証とうけとめ、ほめてもらえると思ったからだ
エレン貯金箱からお金を取り出し、家を出た。
5ユーロも無かったが、チューリップを買うには充分な金額だろうとエレンは思った
エレンは花屋に着くと、髪を後ろで束ねた30ぐらいの女性の店員に「すいません、チューリップ一つ下さい」と言った
店員は「あら、可愛いお客さんね」と言い、店の奥に行きチューリップを一つ持ってきた
エレンは不安そうに自分の持っている全財産を手のひらに乗せて「すいません、これしかないんですけど足りますか?」と聞いた
店員は困った顔をして「ああ、こんな事話してもわからないかもしれないだろうけど」と言い一息ついた後
「最近ねインフレって言うのが起こって物価が上がっちゃったのよ」
それを聞きエレンは「これじゃあ足りないですか?」と先ほどと同じ事を聞いた
店員は「花の値段も上がっちゃってねえ、、、お嬢ちゃんなんでチューリップがほしいの?」
エレンは「お母さんが病気で、チューリップが好きだったから、あげたいの」と言った
店員は斜め上に視線を動かし、少し間をおいて「わかった、まけてあげるわ」と言いエレンにチューリップを渡した
「ありがとうございます!!」エレンがそういうと店員は「お母さん喜んでくれるといいわね」と言った
挨拶をすませるとエレンは走って母親のいる病院に向かった
少しでも早く母親にチューリップをみせて喜んでもらいたかったし、褒めてもらいたかったからだ
次は「長州力」「工場」「金髪」でお願いします
188:名無し物書き@推敲中?
09/03/20 23:06:08
長州力は見るからにプロレスラーだった。ずんぐりとした体型には
筋肉が張り付き,長い髪はうねり徒者でないことは誰にでも分かっ
た。ところがそれはもう何十年も前の話だ。今では誰も知るものは
なく,例え紹介されたとしても信じる者はいなかった。がりがりに痩
せ細った体に長州力の面影は残っていなかったのだ。そこで彼は
再び栄光を勝ち取るために,自分の体を改造することにしたのであ
った。“究極の体”を与える老人がいると聞き,長州力が訪れたのは
町外れの,看板も何もないただのちんけな工場だった。手入れもさ
れておらず人がいる気配も何もない場所だ。長州は不審に思いな
がらもカンカン,と小枝でシャッターを叩いた。するとしばらくして老
人が現れた。『何用だ』。まさに職人といった風貌で長州は喜んだ。
『na neun gang hae ji go sip seup ni da』。老人は一瞬戸惑ったが
すぐに,思いついたように『geum bal lo hae ra』と短く叫び,倉庫の
中へと消えて言ってしまった。取り残された長州は小枝を握り俯き
ながらつぶやいた。「金髪……か……」
次の題「場末」「広末」「末広」
189:名無し物書き@推敲中?
09/03/27 23:32:20
薄暗い町外れを歩き彼は任務を思い出していた
広末涼子を見つけ出し射殺する事。それが彼の任務だった
理由は知らされなかった。彼のような末端の人間は命令された事を実行するのみ
自分の行動にどういう意味があったかなど、知らされる事はない。
昔はそんな現実に疑問を課感じていたがいつのまにかなくって
道にはゴミが散乱し電柱には糞がついている
銀バエが糞の周りを飛び交っていた
彼はため息を吐く。こんな場末にあの広末が住んでいるとは信じられない
最近はブラウン管に写る事もなくなったが、
彼が学生の頃は一世を風靡したアイドルだったからだ
道に転がった糞を避けながら盛者必衰という言葉を考えていると、
右手にドアが開きっぱなしになった木造の家があった
中を
190:「場末」「広末」「末広」①
09/03/29 18:31:33
『末広』という狂言をご存じだろうか。
ある男が長老に対し末広(扇)を贈ろうと思い、太郎冠者へ良質な地紙で骨に磨きがかかり、戯れ絵が描かれている末広を買い求めるよう命じる。末広が何なのか知らない太郎冠者は詐欺師に引っ掛かり、古ぼけた唐傘を売りつけられるのだが―……。
「広末優子」
「誰だそれ」
「僕の同級生ですよ」
他人に無関心なこの男が同級生の話をし始めたことに、田口恭平は驚いた。竜也に視線を移してみると、当の本人は特に表情を変えることなくカクテルを飲んでいる。
顔色を変えたのは、恭平の方だった。
「マスター!」
「んだよ。俺は竜也の話の続きが聞きたいんだけど」
「高校生にアルコール出してんじゃねぇよ!」
「大丈夫。こんな場末のバーに来るの、お前らくらいだから」
「いや、そういう問題じゃなくて」
「今時、中学生だって飲んでるやついんぞ」
「こういう大人がいるから日本はだめになっていくんだ!」
「チャラいお前に言われたかねぇわ。……で、その広末優子がどうしたんだ?」
ちゃっかりカクテルを飲んでいる竜也に話を続けるよう促す。
「その人、突然僕のところに来て『メアドを教えて』と言ってきたんですよ。一度も話したことないのに」
「で、断った」
「当たり前です」
顔立ちの整っている竜也は学校でもてていた。恭平にはよく分からないが、いつも無表情で話しかけても冷たい言葉しか返ってこないところが、逆に女子にとっては燃えるらしい。
191:「場末」「広末」「末広」②
09/03/29 18:33:07
「そうしたら、『竜也君のメルアドを教えてもらえないと、先輩たちに何されるか分からないの』と涙目で訴えてきて」
「演技じゃねぇの」
「いえ、彼女いじめの対象になっていることで有名なんですよ」
そんなことで有名でもなぁ、とマスターは苦笑いする。
「しょうがないから、適当なアドレス書いて渡したんです。そしたら、ものすごく喜ばれて……」
「罪悪感を感じたと」
「まぁ、そんなところです。だから、『僕の友達のメルアドも教えますよ。今、メル友募集中なので』と言って、もうひとつ僕のじゃない本物のメルアドを教えといたんです」
「ほぉ。竜也も考えたな」とマスター。
「で、誰のを教えたんだ?」
……―詐欺師は、あまりの騙されぶりに罪悪感を感じ、太郎冠者におまけとして主の機嫌が悪い時に舞うと良い、と囃子物を教示する。
「竜也くん。まさかそれって、恭平さんのメルアドとか言わないよな?」
「よかったですね。友達増えて」
「よかったですねじゃねぇよ!さっきからメールの着信音が止まんねぇよ!」
「女子高生か。羨ましいなぁ」
「何が羨ましいだ、マスター。内容が全部『竜也くんのメルアド教えてください』っていうメールが羨ましいのか?え?」
―結局、太郎冠者が持ち帰った傘を見るや、男は激怒したが、太郎冠者が詐欺師に教わった囃子を舞うと男はたちまち機嫌を直し、太郎冠者と共に舞い踊ったのだ。
[長文許せ。次は、『センター試験』『生物』『前科』]
192:名無し物書き@推敲中?
09/03/29 23:16:06
刑期を終えたとて、迎えに来るような知り合いなどいなかった。
証拠に、この14年の服役中に面会に来た人間など、弁護士を除いては
誰一人いなかった。
出所する者のみが通ることの出来る鉄の門は、私の姿を確認した看守によって
重々しく開かれた。
「もう馬鹿なことするなよ」
そう言ってボストンバッグを押し出してきた看守の顔が微笑んだように見えたのは
晴れて前科者になった私の晴れやかな気分が見せた幻だったのか。
刑務所の中で、私は高校の検定を取り、いつでも大学を受験出来る資格をもってはいた。
しかし、今の私の学力で大学試験に受かる自信はなかったし、
第一受かったところで通えるだけの金を工面できるあては無かった。
その年は仕事に追われて暮れた。
私が刑務所に紹介された仕事口は、名古屋港の中にある海産物の梱包を扱う店で
当然主は私の事情を熟知していたので、妙な気を遣う必要は無かった。
しかし、事あるごとに私の育った環境や、学歴を小馬鹿にすることには閉口した。
要するに、彼は社会の代表という顔をして、私の前科を非難し、許さないスタンスで
あるらしかったのだ。
私は、貯金が二百万円貯まるのを待って、その店を辞めた。
出所して三年目の秋だった。
大学に行こうと決意してはいたものの、受験生としての準備らしい準備をしていなかった
私は、その年のセンター試験を、小手調べとして受験してみることにした。
英語、現代文、数学、物理……ほとんどの科目で平均点を下回った私は唯一生物のみが
高得点をたたき出していることに目を見張った。
しかし、考えてみると合点がいった。
今年は、人体解剖学の出題が多かったのだから。
「ネズミ、丸太、カーテン」
193:名無し物書き@推敲中?
09/03/31 16:26:42
「ネズミ、丸太、カーテン」1/2
今日はお城のパーティー。シンデレラはため息をついた。
「私も行ってみたかったなあ」
父と義母が仕事で出かけたので、シンデレラは留守番だった。シンデレラの父は王様お抱えの庭師で、家は王宮の端。行こうと思えば行ける距離だった。
華やかな音楽が城の中から漏れ聞こえて、シンデレラの気持ちは浮き立った。
「えーい、こっそり出かけちゃえ」
シンデレラは決心すると、地下の物置へと向かった。そこには亡くなった実の母のドレスや靴がしまってある。新しい母を迎えてからは、ほとんど行かない場所だった。
「ごほん、げほん・・・あった」
埃まみれの箱を引っ張り出して、シンデレラは蓋を開けた。中には懐かしい母の持ち物。シンデレラは布を引き出した。
「なによ、これ」
しまい込まれた古い服はすっかり色あせ、虫に食われてぼろぼろだった。
「うーん。想定外だったわ。あ、でも大丈夫」
シンデレラは思い出した。困っていれば親切な魔法使いが登場するはずで、今がまさに、そのときだった。
「シンデレラや、どうしたんだい・・・げほげほげほ、こりゃあひどい」
思った通り、魔法使いが杖で埃を払いながらやってきた。
「お城の舞踏会に行きたいの」
「ふむ、まあ、なんとかなるじゃろ。虫食いは使えん。こっちにしよう」
魔法使いは、青や黄色、色とりどりのドレスを放り投げると、側にあったカーテンを引きちぎって手渡しました。
シンデレラは躊躇しました。どう見てもカーテン、しかも埃にまみれてねずみ色にくすんでいます。
「・・・本当にこれでいいの?」
大丈夫大丈夫と魔法使いは杖をふり、美しいドレスに変えました。シンデレラは大喜びです。
「馬車はいらないわ、走っていくから」そう言って駆けだしたシンデレラに、魔法使いは声をかけました。
「午前0時には帰ってくるんだよ、魔法が解けるからね」
194:名無し物書き@推敲中?
09/03/31 16:30:53
「ネズミ、丸太、カーテン」2/2
王子はため息をついた。パーティーで会った娘のことが忘れられないのだった。
「ダンスの時に体に電流が走って、これだ、と思ったんです。運命の出会いというか」
「王子よ、それは靴の踵で足の甲を踏まれたからだろう。あれは痛い」
王子が言い返そうとすると、王がまあまあと手で制した。
「おまけに娘はかなり太っていたではないか。あれではお姫様だっこは無理だ」
王子はうなだれた。式は横抱きと決まっている。確かに無理だと思った。
王は傷心の王子の肩を抱き寄せ、背中をぽんぽんと叩いた。
「勉強ばかりで疲れが溜まったんだろう。しばらく外遊してくるがいい」
「罰として今日は食事抜き」
義理の母は腰に手を当てて、シンデレラを睨んだ。横で父がおろおろと取りなしを述べる。
「いいえ、だめ。言いつけも守れないなんて・・・心配して早めに帰ってくれば、留守番もしないでパーティーに出かけてるなんて」
「ごめんなさい」
「料理もたくさん食べたでしょ、食事制限が水の泡だわ」
義母は美しい眉をひそめて、目の前のシンデレラを見た。樽のような丸い体、丸太のような太い足。
ダイエットが無駄になってしまった。また一からやり直しだわ、義母はため息をついた。
「夕焼け、花束、制服」
195:ナナシ
09/04/01 22:39:13
「夕焼け、花束、制服」 二分の一
「どういうことだよ、これは」
嫌気のさした口調で俺は言う。
目の前にいるのは制服姿のとても親しかった人。夕日に射されたその顔を見る。苛立ちが生まれた。
「どうして隠してたんだよ。いつまで騙すつもりだったんだ」
本当なら嘘だと言って欲しい。だが目の前には動かない証拠がある。
ずっと騙されてた。そう思うとダメだ。人を信じられない。
今までは毎日顔をあわせていた仲なのに。
はぁ。夕焼けのせいでナーバスになっているのかもしれない。
「いい加減話したらどうなんだ!」
196:ナナシ
09/04/03 21:42:55
「夕焼け、花束、制服」二分の二
俺は視線を制服に向ける。仕立てのいい感じの良品だ。その辺で売っているような物ではない。
手には花束が握られている。何のつもりだろうか?
そこから視線を下に滑らせる。太く、毛深い足が見える。
再び制服の方を見る。がっちりした肩幅。短めのさわやかな髪。
さぞもてることだろう。男としてなら……。
「どうしてそんな格好してんだよ。兄さん」
「それは、今日お前の誕生日だったから。今まで黙っていたことも話そうと思って……」
自分の誕生日すら忘れるほど憤っていた様だ。
そして兄からもこの事実を肯定されたのが悲しかった。
「こんな兄さんを許しておくれ。今までどおり仲のいい兄弟でいようぜ」
そういって花束をこちらに向ける。俺はその花束を……兄の気持ちを……。
全力でぶん投げた。ごめん、やっぱムリだわ。
こうして俺ら兄弟には大きな溝ができた。
めでたくねぇな。
「陸上競技、チョコ、髪留め」
197:名無し物書き@推敲中?
09/04/04 13:21:50
夕焼け 花束 制服
卒業式の帰り道。花束を持つ学生達。卒業式に来なかった彼女は川沿いの土手に寝転がっていた。
「ここにいたんだ」
彼女はそのままの姿勢で頷いた。
「制服じゃないんだ」
「あたしのは…… 汚れちゃったから」 見上げたまま彼女は言った。
「そう」
僕は彼女の横に寝転び同じように空を仰いだ。夕暮れの空のグラデーションに僕はとても胸が苦しくなった。
「手、握っていい?」
不意に彼女が呟いた。
「………うん」
突然の言葉に戸惑いながらも僕は彼女に応えた。彼女の手は冷たくも温かくもなく僕と同じ温度だった。
夕焼けは河原を染めて、川面をきらきらと輝かせていた。
「どこかの国では好きな人と一緒に夕日に洗われると生まれ変われるんだって。」
「都合良すぎない?」
「駄目かな?」
「ううん、駄目じゃない」
そこで初めて彼女は少しはにかんだ。
橙色の波はゆっくりと街を沈めて、その優しい琥珀の中で僕らは微睡んだ。僕は目を閉じて強く彼女の手を握った。
次に目を開いた時にはきっと………
198:名無し物書き@推敲中?
09/04/04 13:27:57
>>197です。すみません。既に>>195さんがこの題で先に投稿されていたんですが、私も載せたかったので載せました。
お題は引き続き>>196の三つでお願いします。
失礼しました。
199:名無し物書き@推敲中?
09/04/04 22:00:38
陸上競技、チョコ、髪留め
日曜の昼下がり、近所の大学を散歩していると、運動場に人が集まっていた。
なにをしているのかと覗き込んでみると、陸上競技が行われているらしく、ゼッケンをつけた大学生達が血気盛んに
グランドを走り回っている。ほとんど男だったが、中にひとり女がいた。
赤い髪留めを頭に光らせて走りまわる彼女を見ていると、なにか日曜の鬱屈した気分が晴れていく気がした。どうせなら、と近くのコンビニでビールとつまみを買い込み、
芝生のうえに座り、じっくり鑑賞するすることにした。
関東地区予選、と横断幕には書かれている。今行われている競技は中距離走か。
男達は何周かグランドを走っている。やがて先ほどの赤い髪留めの女がスタートラインについた。
ビールをごくりと飲み込む。ドン。ピストルが空に打ち上がり、みな一斉に走り出した。
一週目の終わり頃になると女は集団から遅れ、ひとりポツンと取り残されていた。けれども、その走りに諦めている様子は見られず
むしろ他の選手達よりも懸命に走っている。時折、赤い髪留めが反射し、きらりと光った。
半周くらい差がついた。女は他の誰よりも足をかいているが、歩幅が短いせいだろう、スピードがあがらない。
その姿がもどかしく、つまみのチョコを口に入れた。先頭集団がゴールをした。女は一周ほど遅れていた。
みんなの視線が女に集まる。頑張れ、と声援を送っている。チョコを噛み砕くことさえ忘れて、自分も応援する。
疲れてきたのかスピードが落ちてきた。みんながそばに駆け寄り、声をかけている。
倒れるほどではないが、足に力が入っていないのが分かる。
ふらふらしながら女がゴールをしたところで安心し、チョコを噛み砕くと口の中に一斉に甘さが広がった。
みんなに囲まれた間から、女の赤い髪留めがちらりと見えた。
お茶、桜、車
200:「お茶、桜、車」
09/04/06 14:52:47
良太は視線を感じて振り向いた。
……いた。
いつもの場所に、小さな女の子の姿があった。病院の門の陰からそっとこちらを窺っている。
良太は左右を見た。小雨の降り始めた道に人通りはなく、しんと静まりかえっている。
「なあ、病院の子なの?」良太が話しかけると、女の子は頷いた。
近くに寄れば顔の色が青白い。細い体もいかにも弱々しかった。
「乗せてあげようか」良太は人力車を指さした。
子供が目を輝かせて言った「いいの?」うん、良太は頷いた。内緒だよ。
無料で乗せるのは禁止だが、倉庫に戻すついでに、病院の裏門までならバレないだろう。
「出発」子供を乗せて、人力車は動き出した。
細かな雨が頬に当たる。かたかたと軽い音をたて、良太は車を引いて走った。
病院の塀が切れる。「その先の門で下ろすからね」良太は言いながら、角を曲がった。
えっ?
道を入った途端、いきなり視界が開けた。「なんだこりゃ」
遙か一面に、緑の草原が広がっている。左右にそよぐ草を分かつように、真っ直ぐに伸びた一本の道。
その道を、良太の人力車が風を切って走る。
踏みしめる足元から草や土の香が漂い、蜂がすいと目の前を横切った。
小山の向こうでノウサギが跳ね、ヒバリが舞い上がる。その先に見事なしだれ桜が見えた。
「ここは知ってる」良太は懐かしさに空を仰いだ。「おれのふるさとだ。この先に家がある」
小川のせせらぎ、音の割れた有線放送、小学校の鐘の音。もうすぐ家に着く。
「あっ」道端から飛び出たウシガエルを避けて、良太は体をひねった。受け身を取って尻餅をつく。
「いてえ……あれ?」
目の前にあるのは病院の門だった。
「もっと遊びたかったけど、喉が渇いちゃってもうだめ」女の子の声がした。
座席には誰もいない。
何処で拾ったのか桜の花がひとひら、足元に落ちていた。良太は花を手に取った。
「夢でも見たのかな」良太は首を傾げながら病院の門を覗き込んだ。そして、彼女を見つけた。
「こんなところにいたんだ」
萎れかけた桜の鉢植えが転がっていた。良太は鉢を立て、持っていたペットボトルのお茶を注いだ。
「ありがとう」女の子の声が聞こえた。
「おきにいり、駅、めがね」
201:名無し物書き@推敲中?
09/04/07 00:14:22
「おきにいり、駅、めがね」
女の子が媚びた声で準備そっちのけで話をするのを、ほら準備準備と急かしながら、
糊のきいたカッターシャツに駅員の制服を着た矢崎は朝五時五十分、眼鏡をかけて改札
横の窓口に座った。入社三年目、仕事ができて見目もよい矢崎に好意を寄せる女性は先
の女の子を含めて何人かいた。しかし興味はなかった。矢崎は気がきいて自分の邪魔に
ならない美女が好みなのだ。好みではないし面倒な彼女らは上手くかわしていた。
駅の通勤ラッシュの時間、時折矢崎の窓口を覗き込む客の乗り越し清算に対応しつつ、
女の子とも雑談しつつ、業務は進んでいく。雑談中に矢崎はよく窓口に背を向けた。し
かし人が通るのを見逃したことはない。そういう要領のよさが矢崎にはあった。その時
も目の端を白いものが通るのに気付いて窓口から身を乗り出した。切符を持たずに改札
を抜けようとしている客がいる。
「お客さん、ちょっと」
声をかけながら目に映ったのは長い黒髪に真っ白な”袖のない”ワンピース、その服
装は後から思い返してみれば4月としては違和感があった。振り返った少女の胸に、向
かいの壁に貼ってあるポスターが”見える”。少女がにこりと笑うのに思わず笑顔を返
してしまったのは、後で気付くのだが一生の不覚であった。適当に勉強して女の子とも
適当に遊んで適当にいい会社に就職した後、気の利く美女と結婚して子どもを作って……
という人生設計が崩壊した瞬間である。このときの矢崎はまだ気付いていない。
少女が窓口へ引き返してくる。ここは彼女にとってお気に入りの場所になるのだった。
次のお題「八分咲き、学生、青」
202:名無し物書き@推敲中?
09/04/07 22:40:33
「八分咲き、学生、青」
「兄ちゃん兄ちゃん、女の子、安く紹介しまっせ」
夜道で客引きに声をかけられた。普段なら無視するところだが、酒が入っていたこともあり
つい立ち止まってしまった。
「まだ入店したての新人さんが、今日から出勤ですがな」
男が声を潜めた、サービスが違いまっせ。
「ここだけの話、まだ学生さんで―桜で言ったら八分咲きの、そりゃあべっぴんさんですがな」
半信半疑だったが、丁度店から出てきた二人組が「大当たりだった」「良かった」と
笑い合いながら前を横切ったので心を決めた。給料日後なので懐は温かい。
ああそうだ、俺はスケベでエッチな男だ。まだ若いんだし、健康な証拠だ。いいじゃないか。
「ささ、どうぞどうぞ」
男に押し切られるままに、俺は店へと押し込まれた。新人女性を指名して、部屋で待った。
「いらっしゃいませ」
女が現れた瞬間、俺は激しく後悔した。
現れたのはパンチパーマの巨大な女で、あまりの迫力に一気に酔いが醒めてしまった。
「お客さん元気ないねえ」
元気になれるはずもない。俺は早々に切り上げることにした。
勉強代だと思って黙って代金を支払い、俺は店を出た。客引きに一言文句を言おうと
辺りを探すと、「大当たりだった」「良かったよなあ」と、再びさっきの二人組が店を出てきた。
なるほど、サクラか。俺は苦笑した。見事に騙されるなんて、俺もまだまだ青いな。
「ジュース、ラブレター、プライスレス」
203:ラブレター、ジュース、プライスレス1/2
09/04/18 00:26:21
まぁ、飲めよ。
そう言って出されたのが、野菜ジュースだった。
何を飲めって?野菜ジュース?野菜ジュースに合うおつまみって、何だ?
つまんねぇぞ、恭平さんよ。
「ビールよこせ」
「何言ってんの、お前。明日仕事あんだろ」
「ビールないと、話が弾まないだろ」
「話を弾ませる気だったのか?残念だったな。お前のせいで、俺のテンションは急下降だ」
恭平は鼻で笑って、床に大量に散らばっている手紙のひとつを手にとる。
「何だこのラブレターの大群は。自慢か、高校教師。俺に何か恨みでもあんのか?」
なるほど。これを羨ましい状況だと解釈するのだな、貴様は。
どうやら、脳みそが腐っているらしいな。
204:ラブレター、ジュース、プライスレス2/2
09/04/18 00:27:18
「馬鹿言え。こんなのもらったって、迷惑なんだよこっちは」
「今時、ラブレター書くやついんだな。まだラブレターの時代は終わってなかったのか」
「恭平、無視か」
「贅沢だな、本当にお前」
手紙を放り投げ、俺にまた向かい合った。あれ?君の片手にあるのはビールじゃないか?あれ?何、悠々と飲んでんの?俺への当て付けか畜生。
「愛はプライスレスって言うだろ。貰えるものは、もらっとけ」
何を言う、貴様。
誕生日だからって、やれチョコだのクッキーだの。いらないといえば、じゃあせめて手紙だけでも受け取れと。
恭平、これを本当に愛だとお前は言い切れるのか?
手紙をきちんと見てみろ。
PSなんてあったって、本題は絶対にこっちだぞ。
『お返しは三倍でよろしくお願いします』
………これだから嫌なんだよ、女子高生は。
次→リラックマ、先生、ゲーセン
205: ◆DinfA5bnxE
09/04/18 00:50:55
億トレーダーの俺様、今月だけで一千万の利益をあげてる。
サブプライム? リーマン破綻? 百年に一度の経済危機?
そんなの関係ないね。儲けるヤツは地合いを選ばないのさ。
しかし、この先生きのこるために、もっと成長したい。
俺は目隠しをして、ヤフーの値上がり率ランキングにマウスを当てた。
クリックして出た銘柄を弄ることにする。
弘法筆を選ばず、専業銘柄を選ばず、無造作に二度クリック。
ディー・エヌ・エー……モバゲー
セントケア・ホールディング……?
どちらも弄ったことないが、何とかなるだろう。
その二銘柄を寄りで買ってみたその時、
爆音がして俺の部屋の窓ガラスが割れ、暴走族が突っ込んできた。
徹夜で走り続けて居眠りしていたらしい。
響くラッパの音─パラリラパラリラッ
クマーと俺は叫んで、背中にバイクの前輪が食い込む瞬間に成売、
専業魂でノーポジにした。
観想はいりません。
お題は継続でよろしこ。
206: ◆DinfA5bnxE
09/04/18 00:56:07
ゲーセンを入れ忘れました。
しかし、この先生きのこるために、もっと成長したい。
の下に、この一文を追加します。
ゲーセン感覚で売買するのはもうやめだ。
すみませんでした。
お題継続で。
207:名無し物書き@推敲中?
09/04/23 03:33:31
「なにそれ?」
「えへへ~、かわいいでしょう」
お姉ちゃんはゲーセンによくあるような大きなリラックマを抱きしめていた。
「くまパンチ!」
ふにゅふにゅとくまの右腕をわたしの脇腹におしつける。
「私キック!」
「くまー」
お姉ちゃんはくまと一緒にころがった。
「お姉ちゃん?」
そのまま起きあがってこない。
「すーすー」
寝ちゃったみたいだ。わたしは毛布を掛けてあげる。
「先生……」
お姉ちゃんの目から涙が一筋こぼれた。わたしはお姉ちゃんの涙をぬぐった。
壺、オレンジ、芸
208:名無し物書き@推敲中?
09/04/23 13:42:00
今のおまえのざまぁ見ろよ負け犬残飯ククク
209:名無し物書き@推敲中?
09/05/06 00:14:20
「ご注文はお決まりになりましたか?」
「牛丼並み大盛りのネギダクと玉子ね。」
「当店には牛丼はございませんので……」
「なら、サザエの壺焼とビールっ」
「海の家じゃありませんので……」
「ん、と。じゃぁ、スパイシーチキンとライスバーガー。」
「それは他店のメニューです。」
「あぁ、店によってメニューが違うのね。じゃ、日替り定食でいいや。」
「あの……」
「あと、ご飯は大盛りにしてね。」
「…ウチはマクドナルドです。三流芸人みたいなボケは止めてください。」
「分かった。ハンバーガーとみかんジュースにする。」
「ご注文はハンバーガー一つとオレンジジュース一つでよろしいですね。」
「いや、ポンジュースで頼む。」
……バイトの面接は不合格だった。こんなに接客業がハードなモノだとは、
あたしは世の中をなめていました。ごめんなさい。
210:209
09/05/06 00:17:05
次のお題は「雨」「傘」「空き缶」でお願いします
211:名無し物書き@推敲中?
09/05/06 17:35:53
街中の銅像の前に、傘をさした男がいた。1時間前からそこにいた。
自分から誘っておいて、勝手に帰るのは悪いと思い、帰るに帰れなかった。
しかも、女性を待つことは初めてだった。
雨の音が大きくなってきた。男の頭の中では、「待つ」と「待たない」の
2つの言葉が、ぐるぐる回っていた。その時、右の足元に置いてあった空き缶
が目にはいった。待っているときに飲み干したものだ。
男は閃いた。この空き缶が雨水でいっぱいになるまで待とう、と思った。
雨は激しかったので、空き缶は数分でいっぱいになった。待つことを
諦めた瞬間、男は突如、裏切られたと感じた。瞬く間にその感情は大きくなった。
男は缶を蹴飛ばした。
転がっていった缶は、息を切らしてこちらに向かっている女性に当たった。
次は森、熊、パソコンで。
212:名無し物書き@推敲中?
09/05/09 03:43:32
叩きつけるような雨を、彼は予期していた。
周りに人影は全くない。
ほかの観光客達は皆、矢の如く速さで流れる雲を見上げながら
宿泊先への帰路を急ぎ、次々彼を追い越して行った。
この自分にはお似合いだろう、彼はしばしそんな感傷的な気分に浸ったが、
豆鉄砲のような勢いの雨粒をいつまでも全身に浴び続けるわけにはいかない。
彼は背を屈めながらうねった坂道を走り降りていった。
自ら恋人を振った挙句、自己嫌悪と後悔と空虚さに苛まれる。
世間一般で腐るほど発生していると思われるこの状況を
的確に指す言葉が日本語に存在しないことに彼は疑問を抱いた。
しかし、仮に呼び名がついたところでなんだというのだろう。
彼はひとり旅をすることにした。
早速パソコンで手ごろな国内の観光地を探した。
森がいい、森が見たい、ドイツの森みたいに霧がかって薄暗いところがいいな。
どこまでも類型的。
もし自分の境遇に呼び名がありさえすれば、案外すぐ立ち直っていたのかもしれないと彼は考えた。
崖にせり出した格好の小汚い喫茶店に駆け込もうとした彼は、
存外に広い店の前の平地の片隅に目を留めた。
そこには犬を飼うには大きすぎ、頑丈すぎる鉄製の檻があった。
闇の奥に熊がいた。
一般的に人間に寄り添う動物とはまず思われないその生き物は、
驚くほど毛並みがよく、獣臭くもなく、聞き分けよさげにちょこんと座っていた。
そして彼とは、決して目を合わせなかった。