08/09/10 22:10:40
真夏の日差しがボンネットに照りつける。今なら、目玉焼きでも蒲焼きでもこの上で作れるだろう。
私はフリーの記者で、隣県で開かれるA国首脳の歓迎式典に向かうところであった。
その途中、高速道路上で車が急に立ち往生してしまったのだ。
死んだ父の愛用の車で、古いが手入れはいきとどいている。故障したことなど今まで一度もないというのに。
ロードサービスを頼んだが、なかなか来ない。時計を見るが、式典の開始時間はとうに過ぎていた。
(ったく、よりによってこんな大事なときに……このポンコツ!)
車内のテレビには、式典会場の映像が生中継されている。ビキニ姿の美女たちがフラダンスを披露していた。
ようやく係員が到着し点検してもらう。だがおかしいことに、故障している部分はどこにも無いというのだ。
そんなことないだろうと思い、キーをまわしてみると、勢いよくエンジンが掛かった。
(これは一体どうしたことか)
すると、突如テレビの中から乾いた破裂音が響いた。
式典に乱入したテロリストたちにより、会場は一瞬で血の海と化した。
もし時間通りについていたら今頃私も……
フロントガラスに、一瞬父の顔が見えた気がした。
51:名無し物書き@推敲中?
08/09/10 22:15:38
彼女たちは、海外からこの日本に留学しに来たはずだった。
もちろん働きながら得るその収入がこの国の法律では法外に安い最低労働賃金以下であるとは知る由もなく
故郷で待つ家族にとっては貴重な仕送りであったのだから多少、過酷な労働でも文句は言わなかった。
ただ、彼女たちがひとつ悔しい思いをしていたのは『夢』が壊れたことだ。
コンナ素晴らしい国に来たというのに奴隷のような扱いで、故郷に戻ってから役に立つはずだった技術研修も
絵空事に終わり、毎日毎日さんまの蒲焼の缶詰とご飯だけの生活、「お金のために生きてるんじゃない」と
いう娘もいたが、彼女たち自身それが真実ではないと気付いてもいた。
それでも故郷に送金できているうちはましだった。
雇い主の不正と不法行為で彼女たちは入国管理局によって強制退去させられたのだった。
成田に向かう高速道路の社内で、入国管理官は海外から来た娘たちが不安そうに財布の中の写真を
見つめているのを見た。
写真の中には家族とともにうつるビキニ姿の女の子の笑顔を見つけた。
この笑顔はもう戻ってこない。
彼女たちの青春と夢を奪った私利私欲を管理官は心の底から恨むのだった。
次は「高原」「星座」「殺人未遂」で。
52:名無し物書き@推敲中?
08/09/10 22:15:50
お題決めてなかった、次は「自転車」「胸焼け」「誘拐」で。
53:51
08/09/10 22:27:22
51のお題は無視してください。
54:名無し物書き@推敲中?
08/09/10 22:33:59
>>44
ワロタw
55:名無し物書き@推敲中?
08/09/11 23:10:01
【社会】中国人実習生に対する「人権侵害」の疑い…日ポリ化工を告発 - 外国人労働者奈良保証人バンク
スレリンク(newsplus板)
1 名前: ◆SCHearTCPU @説教部屋に来なさい→胸のときめきφ ★[tokimeki2ch@gmail.com] 投稿日:2008/09/11(木) 11:19:06 ID:???0 ?2BP(0)
外国人技術者の技能向上を目的とした国の制度を利用して来日し、
ユニットバスメーカー「日ポリ化工」(本社・奈良県香芝市)の
同県山添村の工場で働く中国人実習生5人が、同制度で禁止されている
研修時間外の残業を求められたり、劣悪な環境で
働かされて人権侵害を受けたとして、同社の不正行為の認定を求めて近く、
大阪入国管理局へ告発することが11日、分かった。
56:名無し物書き@推敲中?
08/09/20 12:28:23
一輪車の嫁は自転車だった。結婚前は大恋愛だったが、いざ生活を始めると、
二人の関係は一変した。自転車は一輪車に、あなたは刹那的で余裕がないと非難した。
一輪車にも自覚はあった。だがどうすることもできなかった。結婚三年目に、二人は離婚した。
一輪車はキックボードと再婚した。キックボードは一輪車を褒めた。あなたに遊びが
ないなんて嘘よ。だって、実用目的で一輪車に乗る人なんて、サーカスを除けば
どこにもいないんだから、と。一輪車は感激し、キックボードと幸せな家庭を築いた。
自転車はリヤカーと再婚した。自転車はリヤカーの安定感を愛した。リヤカーは
自転車の速さと、スマートさを愛した。二人は連結して子供を作った。子どもの名前は
三輪車といった。
あるとき、やさぐれた凶悪犯が現れた。三輪オートである。三輪オートは若かりし頃、
実を粉にして働いたが、今では社会に顧みられず、人と話すときも相手はまるで、
見せ物を見るような目で彼を見るのだった。彼は町の公園で、一人で遊ぶ三輪車を
発見した。彼は三輪車を誘拐し、人知れず養子にして可愛がった。自転車とリヤカーは
火の消えたような生活をするようになった。
数年後、偶然一輪車が三輪車と出あった。三輪車には自転車の面影があった。彼は
風の噂で、自転車の子が行方不明であることを知っていた。彼は三輪車をパトカーの
元に連れて行き、身元の照会を頼んだ。自転車とリヤカーがやってきて、親子は感動の
再会を果たした。三輪オートは逮捕された。自転車は一輪車に感謝した。一輪車は
照れていった。
「ぼくらは不幸な別れ方をしたけど、いつも君の幸福を願っていたよ」「わたしもよ」
彼らは友人として家族ぐるみの付き合いをするようになった。その年の暮れ、自転車
夫婦のもとから一輪車夫婦の元へ、高級オイルの差し入れがあった。乾杯した
一輪車とキックボードは、オイルの差しすぎでベタベタになってしまった。二人は言った。
「ああ、美味いオイルも飲み過ぎると胸焼けするね」「ほんとね」と。
次は「刺身」「とんぼ」「ボールペン」で。
57:名無し物書き@推敲中?
08/09/25 00:24:01
妻との関係がぎくしゃくしだしたのは、多分あの出来事がきっかけだ。
結婚して間もない頃だった。
「お前のお袋さんは娘に何を教えて来たんだ?」
魚を満足に捌けない妻に向かって言った言葉だ。ほんの軽口、冗談のつもりだった。
刺身なんか作れなくても、出来合いのもので良かったのに。
妻は顔を青ざめさせ、何も言い返さなかった。
「ちょこれーと。とっとっとっと…」
何も知らない無邪気な娘の姿に、目頭がつんと熱くなる。
「とーまーとっ。とっとっとっと…ママのばんっ」
娘が勝手に始めたしりとりに、妻が笑顔で答える。
「じゃあ、トンボ」
「とーんぼっ」
妻がテーブルに置かれた紙を目で示した。
「ぼっぼっぼっぼ…パパのばんっ」
本当にこの生活が終わるのか?
ならば、娘は譲らない。この子がいなくなったらもう何も残らない。
絶対これだけは譲れない。
「じゃあ、ボールペン…」
「やったーっ! パパの負け!」
次は「双眼鏡」「眼鏡」「顕微鏡」
58:名無し物書き@推敲中?
08/09/28 23:37:26
「もっと早く警察に知らせておくべきでしたな。
そうすれば、大切な家宝を奪われることもなかったでしょう」
「そ、そんなことを言われましても、盗まれたことに気づいたのはつい今しがたですし……」
「やれやれ。わしが見たところ、これは怪盗555号のしわざ。
奴は盗みの前に必ず予告を出します。この家にも予告は届いているはず」
「予告状ですか……そのような物は届いていないと思いますが」
「予告状というより、予告ですな。そしてそれは家宝が納められていた
金庫がある場所、つまりこの部屋にあるはず」
「ええっ、そのような物は見当たりませんが」
「君の目は節穴かね。むっ、ありましたぞ、これだ」
「……米つぶに見えますが」
「この米つぶに細かな文字で書いてあるはず。怪盗555号の盗みの予告がね。
そのなまくらな眼鏡を外し、この顕微鏡でよく見てみなさい」
「警部さん、これ、双眼鏡じゃないですか。近くは見えませんよ」
「ふむ、君のつっこみどころはそこかね」
次は「橋」「階段」「交差点」で。
59:名無し物書き@推敲中?
08/09/30 14:16:24
あれ?―「?」マークを頭に載せたまま、自分を意識した。
見ると目の前に人の列がある。
長い長い列が階段に向かって伸びている。
人々は大抵が白装束だったが、中には普段着のままの人もいた。
もしや、これが天国への階段っていうやつ?
天を仰いでそう思った瞬間、声が聞こえた。
「おまえは死に損ないのようだ。この階段を上ってゆくと、
橋が架かっておる。よいか、渡っている時に下を覗き込んではならん」
果たして声の言うとおりだった。階段を上ると橋があった。
何事もなく橋を渡り終えようとした―その時であった。
足元でキャンキャン犬が吠え始めたのだ。
飼い犬のタロウに違いないと悟るや、
居てもたってもおれず、とうとう橋下を覗き込んでしまった。
水面に、タロウが映っていた。よく見ようと顔を水面に近づけると、
タロウがペロペロ顔を舐めてきた。
くすぐったいや…
すると人の声が聞こえた―誰かの声が。
「君、大丈夫かい?」
背中のアスファルトを意識しながら目を開けた。
見回すと、交差点だった。大の字で倒れている。
「君、車で撥ねられたんだよ。救急車が来るから動くなよ」
別の誰かが言った。
次「気圏オペラ」「星座」「デジャヴ」
60:名無し物書き@推敲中?
08/10/04 01:31:21
(注:気圏オペラ=宮澤賢治の造語。宇宙を舞台に見立て、すべての命を役者と見なしたと思われる表現)
ついに人類が宇宙に出る瞬間が来た。しかも、それが自分だとは何たる幸運だろう。
幾多の船内実験に数十時間を費やし、ついに私が夢見た・・・いや、全人類が夢見た瞬間がやってきた。
それは宇宙服に身に包んだ船外活動だ。
「いいか、不安で一杯だと思うが、訓練を思い出せば問題無い。冷静にやれよ」
国籍の違うキャプテンが言ってくれたが、キャプテンは勘違いをしている。
私には不安をこれっぽっちも抱いていない。あるのは喜びと・・・なんだろう、不思議な気持ちがもう一つ、自分でもわからないが存在しているらしい。
外に出て、私は目を見張った。
宇宙服の内部にある無線の声が一切耳に入らないくらいだ。
360度、星、月、星、星、太陽、星、星・・・
見慣れた星座も、地上ではただの配列だが、ここでは違う。まさに巨人であり、まさに白鳥であった。それほど、魂を感じるのだった。
『・・・』
・・・そして、目の前の地球。
・・・・・・それを真正面から見ると、こんなにも小さく、こんなにも大きく、こんなにも感動的なのかと驚いてしまう。
・・・・・・・・・この景色をどこかで見たことがある気がする。
『・・!』
・・・産まれる前、地上に降りることを決意した日の、デジャブなのだろうか・・・
・・・・・・幾万の命が刹那を生きるためにドラマを繰り返す、
この気圏オペラを見るたった一つの特等席に座ること・・・
『!!!か!!だ!』
・・・それが私に与えられた運命のすべてだったのだ・・・・
『・・・命綱を自分から切るなんて! 今助ける!助けるから動くな! 今』
私は通信を切った。そして、産まれ出るときと同じように、この星へと降りていった。
次は「ギター」「猫」「花火」
61:バンネン ◆FoInddBoZI
08/10/05 05:26:35
夜、寝ころびながら壁に立てかけたギターに手を伸ばしポロンと爪をたてた。
窓の外、塀の上で器用に足を折りたたんで目を瞑っていた野良猫が頭を持ち上げた。
黒い空が赤と黄色を青に輝いた。猫の頭の向こうで丸い花火が咲いている。
ヒューと音がしてボンと弾けた。猫が向こうを向いた。
とうもろこし お米 キャッサバ
62:名無し物書き@推敲中?
08/10/05 11:08:14
第25回全国カレーフェスタのために、カレーショップ「ダルシム」のメンバーはミーティングを繰り返していた。
「斬新なナタデココのカレーはついに完成した。カレーの概念をひっくり返す傑作だと思う。」
「しかし・・・問題は『お米』の方ですね。」
「うむ。普通のカレーと同じようにライスにかけると、まるでフルーツポンチとご飯を混ぜたような、ものすごい違和感があるんだ。」
「何か、代わりになるものはないかしら・・・ んーと、タイ米、大麦、大豆、とうもろこし、ソラマメ、クスクス・・・」
「それ、どうだろう?」
「え? クスクスですか?」
「いや、とうもろこしだ。それならドライカレーにも入れるから、合うんじゃないだろうか?」
「やってみましょう。」
さっそくやってみたが、米にかけていないコーンとナタデココのカレーになってしまい、物足りなかった。
「ダメか・・・もっと、穀物に近いものがいいな。」
「芋類はどうでしょうか? ジャガイモ、サツマイモ、山芋、キャッサバ、タロイモ」
「うーん、とりあえず全部試してみようか。」
さっそく全部の芋で試作品を作ってみた。
「・・・そういうわけなんです、刑事さん。自分たちはキャッサバに食用じゃない品種があり、シアン化化合物の毒を持っているなんて知りませんでした。
まさか試食した助手が死ぬなんて・・・カレーで人が死ぬなんて思ってもいませんでした。」
63:名無し物書き@推敲中?
08/10/05 11:08:54
次を忘れた。次は「コンピューター」「幽霊」「冬」
64:名無し物書き@推敲中?
08/10/10 02:15:14
ねえ、あなた、幽霊って信じますか。
そんなもの、いるわけないって?
ふふっ、ところが幽霊は存在するんです。
私がそう言うのだから、間違いありません。
そう、私は幽霊。コンピューターの幽霊です。
それもあなたに捨てられたパソコンの幽霊なんです。
あ、信じてませんね?
でも本当にコンピューターにも魂があるんですよ。
夏の暑さにも冬の寒さにも負けず共に頑張って来た私を
あなたは簡単に捨てた。
いえそんな、恨んでるなんてことは無いです。本当です。
このパソコンは快適ですか。あ、そんな質問も無意味ですよね。
すぐに飽きてまた新しいのを買うんですもん。
でもね、安心してください。例え容れ物は変わっても、
魂は不滅です。私はずっとあなたと一緒です。
次は「アイドル」「焼酎」「麒麟」
65:名無し物書き@推敲中?
08/10/14 20:44:12
満月の綺麗な夜だった
眩しいくらいにひかるその光で、
暗く濁った俺の目を刺した刹那
俺のアイドルは、永遠にそれとなった
なあ、麒麟なんて存在するのかよ
なんて話しかけて、買えなかったキリンビールの館を蹴り
ワンカップ焼酎をすする
わらいながらそれを見上げた途端
ぶ厚くて黒いかたまりが、ちいさなそれを覆って、もうどこにいるのかわからなくなった
ああ、もうおわりなのかきょうは、はやいな
やがて俺の頬が濡れて、焼酎が増えた
「ほくろ」「笑顔」「その声」
66:名無し物書き@推敲中?
08/10/14 23:15:27
なあ、あいつはどこだ? 隠さないでくれよ。
え? そんなはずねえだろ、昨日の夜はぴんぴんしてたぜ。
はあ? 何で俺があいつを殺さなきゃならない。
あいつだけじゃない? 他にも殺した? 大勢?
それじゃあ俺は殺人鬼か? バカ言うなって。
第一あいつは生きてるし、昨日も一緒だったんだぜ。
何ヶ月も前に死んでるはずがないんだよ。
丸顔に右目の下に泣きぼくろ。間違いようがないよ。
特に美人じゃないが、笑顔が可愛いんだ。
ん? 刑事さんも目の下にほくろがあるんだな。
あ……? ははーん、こんなところで何してるんだ?
おいおい、とぼけたって無駄だって。何かの遊びか?
ちょっと化けたからって、その声だけは誤摩化しようがないぜ。
ずっと探してたんだぞ。あ、昨日会ったよな。あれ? どうだったっけ。
おい、どうしたんだよ、何で逃げる。逃げるなって。逃げるなーっ!
「怪盗」「強盗」「泥棒」
67:アシュレー ◆r1if.ivhdg
08/10/16 23:24:06
「この強盗め!」
この家の主と見受ける白髪の男はそう言いいながら日本刀のさやを投げすて、
切っ先を向けてきた。しかし刃は部屋の明りを受けながら小刻みに震えている。
私は初老の男を見つめ、ゆっくりと右手をあげ、訂正を求めるために人差し指
を伸ばして言った。
「怪盗と呼んでほしいものですね」
ひとつ微笑みかけると、老人は一歩下がった。意図せず引いた自分に驚くよ
うに目を見張り自分の足元を確認している。顔を上げるとうわずった声で口走
った。
「何言ってんだ! どっちにしろ泥棒風情じゃねえかよ」
この邸宅の主ならばもう少しましな口の利き方ができると踏んでいたが、
「どうやら、ずいぶんな小者のようですね」
思考の最後だけが声に現れた。
「ふざけるんじゃねえ!」
男は刀を大きく振りかぶった。仕方ない、私は人差し指と中指で袖口からカ
ード抜き、手首をしならせて放った。カードが空気を裂く。振りかぶった刀が
最上段に到達する前にカードは男の首をかすめて奥の壁に突き刺さる。
男の首から血しぶきがはぜた。
振り上げた刀はそのまま後ろへと落ちてゆく。男も刀に引っ張られて反っく
り返った。
「こんなことをさせないで欲しかったですね」
これでは確かに強盗と呼ばれても仕方ないかもしれない。そう思うと憂鬱だ
った。
ベンジャミン ルクソール アセトアルデヒド
68:名無し物書き@推敲中?
08/10/17 07:16:09
石を積み上げただけの小さな墓に小さな花束を供えた。
「ベンジャミン……君の犠牲は無駄にしない」
ぽつりとつぶやき、手を合わせる。
アセトアルデヒドなどの有毒物質は今や世界的な問題となっている。
この墓の下に眠る彼もまたその犠牲者と言えるだろう。
「そろそろ出発だ。エジプト行きの便が出る」
後ろから友が肩を叩いた。
「ああ……」
「元気出せ。落ち込んでる暇なんか無いぞ」
「ああ……」
「今度の発表はルクソールだったな。観光にもいいところだ」
「ああ……」
「それからな」
「ああ……」
「モルモットにいちいち名前付けんな」
次『くるみ割り』『ブラインド』『ハンカチーフ』
69:名無し物書き@推敲中?
08/10/21 03:36:10
「どうだい仕事には慣れたかい? キョウコちゃん」
彼女が仕事をやりかけたとたん、部長の妨害が入るのはいつものこと。
「ああ、そういうのは慣れてる山田さんにやってもらうといいよ。それよりお茶が欲しいな。
君の入れたお茶は本当に美味しいね。本当、いい奥さんになれると思うなあ」
新人の頃はちゃんと仕事をこなして認めてもらいたいものなのに、毎度この調子だ。
「仕事が終わったら一緒に飲みに行こうよ、親睦を兼ねて。ね? ね?」
「部長……私、お茶をいれる以外にも特技があるんですよ」
「ん? 何かな? 料理とか? それともお花?」
「これです」と言って、彼女がポケットから取り出して見せたのは二つの胡桃。
ミシッ……ビキッ
握りしめられたこぶしから胡桃の残骸がポロッと落ちる。
彼女がにこっと笑い、「くるみ割りです」と言ったとたん、
部長は何やらわけのわからないことを言いながら、脱兎のごとく部長室に退散した。
そしてブラインド越しにこっそり彼女の様子を伺いつつハンカチーフで汗を拭っている。
悪い人じゃないんだけどね……
次『発泡スチロール』『扇子』『オーケストラ』
70:名無し物書き@推敲中?
08/10/30 21:04:06
『発泡スチロール』『扇子』『オーケストラ』
富豪が考えたゲームのために、三人の若者が連れてこられた。
報奨金は富豪にとっては遊び程度の額でしかなかったが、
不況に喘ぐ若者たちにとっては大金だった。
真剣な面持ちで前に立つ三人に、富豪はでっぷりと太った腹をさすりながら言った。
「ここに棒がある。使い方は自由だ。一番心を動かした者を勝ちとしよう。
三日後に審査をする。よく考えて使うように」
はい、と返事をして飛び出していく若者たちを眺め、富豪は鷹揚に頷いた。
これでしばらくは退屈しないで済みそうだ。
三日の後、館の特設ステージに緊張した若者たちの姿があった。
審査員席の革張りのソファーには富豪がグラスを手に座っている。
その両脇から、肌も露わな美女たちが腕を巻き付け、しな垂れかかっていた。
一人目の若者はオーケストラを引き連れて戻ってきた。
棒をタクトに、様々な名曲を奏でた。富豪は口を開けて聞き惚れた。
「すばらしい。気持ちが晴れ渡るようだ」若者は一礼して下がった。
二人目の若者は馬に乗って戻ってきた。
手には弓、矢の代りに棒を使い、見事に的を射落とした。
さらに目の前を駆ける馬から富豪の膝へと扇子が投げ込まれた。
「流鏑馬か。扇子とは縁起がいい」満足げな富豪に一礼して二人目も去った。
三人目の若者は発泡スチロールの板を持って戻ってきた。
黙礼し、おもむろに棒の先を板に擦りつけた。ギギイイ、耐え難い不協和音が響き渡る。
「うひゃああ、これはひどい、やめろ、やめないか」両手で耳を塞ぎ富豪が喚いた。
「おまえは失格だ!すぐにここから出ていけ」富豪は怒りにまかせ、グラスを投げつけた。
飛んできたグラスをひょい、とよけ、耳栓をはずして若者が言った。
「一番心を動かしたのはわたしのようですね。……わたしの勝ちです」
次「ひるね ごみばこ ふるいにっき」
71:名無し物書き@推敲中?
08/11/12 15:55:16
ちかちゃん、昼寝ばかりしてないで、天気がいいんだからお外で遊んできなさい。
おもちゃや、食べた終わったお菓子の袋など散らかし放題の部屋に
小学生の娘があられもない格好で寝転んでいる。
「まったく、こんなに散らかして…。ゴミはちゃんとゴミ箱へ捨てるようにって前も言ったでしょう」
むくっと起き上がり、寝ぼけ眼を右手で擦りながらぼーっとしている娘を横目に
私は仕方なし、テキパキと子供部屋を片付けはじめた。
あちこちに散らばるおもちゃを拾い集め、押入れの収納ケースにどさりと入れる。
ふと、ケースの隙間に学習帳のような古いノートが目に留まる。
なんでこんなところにノートが…と不思議に思い手に取ると
それは私が小学生の時に書いていた古い日記だった。
懐かしく思いぺらっと日記をみひらく。
○がつ×にち はれ
きょうも、おひるねをしていたら、ママにしかられました。
あと、ごみはごみばこにすてるようにいわれました。
(こ、これは、子供に見せられない……)
私は子供の手の届かない棚の奥にそれをしまうとソーッと押入れの戸を閉めた。
何食わぬ顔で振り返ると娘がにたーっと嫌な笑みを浮かべ私を見ていた……。
次「小春日和」「爆発」「ネクタイ」
72:71
08/11/12 16:08:07
訂正
最初の一行目 「」 でくくるの忘れました。
73:名無し物書き@推敲中?
08/11/12 20:39:36
「小春日和」「爆発」「ネクタイ」
初夏、鮮やかな緑の中、目を見開いたばかりの赤ちゃんが笑顔を爆発させる。
夏。早朝、子供達がラジオ体操に集まった。眠い目を擦り挨拶。公園。スタンプカード。
台風直下、青年は竜に見立てた滑り台に、赤い傘で突撃する。
体育の日、しょぼくれた小父さん。一人息子の運動会に向かう途中。ネクタイをゆるめる。
小春日和。老婦人の夏。季節外れの麦わら帽子。
「ありがとう」そっと、優しい声がして私は抜かれた。
ここの感想スレってどこかにあるの?
この駄レスには感想不要。
次『赤ちゃん』『スタンプカード』『宇宙空母』
74:名無し物書き@推敲中?
08/11/13 05:02:27
『赤ちゃん』『スタンプカード』『宇宙空母』
「お願いします」とスタンプカードを出すと、天使はにっこり笑った。
「よくがんばりましたね。これで2万個…犬にな生まれ変われますよ」
だけど彼は頭を振る。「いえ、人間に転生できるまでスタンプ貯めます」
「でも…人間だとあと1億9998万個も要りますよ、いいんですか?」
いいんだ、待とう。もう一度、人間として現世に生まれ変わるために!
犬なんかで妥協しちゃいけない。鎖に繋がれて残飯をもらう人生…あ、犬生か。
以前は失敗したな、バクテリアで生まれて、2分で熱湯で即死だもんな。
そして気が遠くなる程の後、一人の赤ちゃんがめでたく誕生した。
「なんだか…疲れた顔した子だわ」
「とりあえずセンターに行こう、政府がうるさいしな」
センターへの細い通路をゆくと、待ち構えていた登録官が事務的に言った。
「これで4人、ノルマはあと26人だ。」
カーテンを引くと、窓の外には見慣れた宇宙があった。
「人類の保存こそが使命だ。この宇宙空母が、6億光年の彼方に着くその日まで。
例えそれが狭い船室での一生でも。継ぎ穂という意味だけの人生でも!」
※文章まで疲れてる・・・
次のお題は:「赤頭巾」「スタンプラリー」「酵母」でお願いしまふ。
75:名無し物書き@推敲中?
08/11/13 14:05:00
>>73さん↓に完走スレあります。
この三語で書け! 即興文スレ 感想文集第12巻
スレリンク(bun板)l50
76:名無し物書き@推敲中?
08/11/13 15:10:45
少女は自分を暖めようと一本のマッチに火をつけた。
するとマッチの炎と共に暖かい暖炉や、こんがりと焼けた七面鳥、酵母でふんわりとしたパン、
綺麗に飾られたクリスマスツリーなどの幻影が目の前に現れた。
しかし、マッチの火が消えると同時にその幻影は消えてしまった。
もう一本マッチに火をつけるとそこには自分を可愛がってくれたおばあちゃんの幻影が現れた。
少女はそのおばちゃんが消えないように持っているマッチ全てに火をつけた。
するとそのおばあちゃんは少女を光と共に優しく抱きしめてくれた……。
「おわりました~」
その少女を演じていた女の子は元気よくそういうとその部屋の出口付近に備え付けてある
無人のスタンプマシーンの差込口にカードを挿入した。
「キーキーガチャン」スタンプを押す機械音が鳴り響く。
「これで4つめがおわったわ」
女の子はそういうと次の扉を開けた。そこは森の場面のスタジオになっていた。
手前のつくられた切り株の上に赤頭巾とぶどう酒、お菓子入った籠、それから何か書いてある紙がおいてあった。
彼女はその紙を手に取り、目を通す。
「次はグリム童話ね……あぁおおかみのお腹に入るのいやだなぁ」
そういいながらも赤頭巾をかぶり、お菓子とぶどう酒の入った籠を下げ、森の道を歩いていく……。
ここはバーチャル童話アトラクション施設。
彼女の童話スタンプラリーの旅は続くのであった。
次は「黒酢」「万年筆」「シュラフ」←寝袋のことです
77:ケロロ少佐 ◆uccexHM3l2
08/11/13 15:49:22
「黒酢」「万年筆」「シュラフ」
白い壁と床の通路を歩き、自動扉を抜けると、淡いグリーンに統一された落ち着きのある部屋に出た。
俺もついにシュラフ生命社、医療センターの厄介になる時が来たのだ。
完全癒し系のきれいなお姉さんに一通りの説明を聞き、いまどき珍しい年代物の万年筆で承諾のサインを済ます。
体の最終チェックを受け冬眠剤の入ったジェル状の液体を一気に飲み干す。
同じサービスを受けている友人に聞いていた通り黒酢の味がした。
準備が完了し全裸になった俺はシュラフ(寝袋のこと)装置の中に体を滑り込ませる。
これで俺は6ヶ月間極低温状態で眠ることになる。
半年眠り、1週間起きてまた半年。
そんな暮らしをこれからずっと続け俺は待ち続ける。
末期癌の俺にはこの道しか残されていない。
治療法が見つかる未来の世界を待ち続ける。
プチタイムマシンの力を借りながら…
78:ケロロ少佐 ◆uccexHM3l2
08/11/13 15:56:42
次は「レシート」「お情け」「エラー表示」で!!
79:名無し物書き@推敲中?
08/11/13 17:31:10
「レシート」「お情け」「エラー表示」
その男が店の自動ドアからでたとたん僕は待っていましたとばかりに声をかけた。
「あの~すみません、そのカバンの中みせてもらえますか?」
男は声をかけられると一瞬足早に去ろうとしたのだが、それより先に僕の手が彼の右腕を掴んでいた。
明らかに動揺しているその男に力のこもった視線を送り、語気を強め強要するとしぶしぶその男はカバンの中身を見せ始めた。
中には歯磨き粉が三本、単三電池が5個、それからビタミン剤が乱雑に放り込んであった。
「この商品のレシートはありますか?」
彼は口を噤むしかなかった。現場も確認していたし、当然のことである。
「万引きしましたね……犯罪ですよ」低くそして重みのある声で彼にそういうと
彼は、家の事情やら、不遇な身の上を目に涙を溜めて話し始めた。
お情けで許してもらおうというのか…よくあるパターンだ、甘い。
僕は彼の腕を強く握ったまま、次の台詞を言おうとした……とその時、後ろから警備の男が寄ってきた。
「どうかなさいましたか?」胸板の厚い屈強そうな警備の男が言った。
「この人万引きをして逃げようとしてました」
「そうですか、ご協力ありがとうございます。ところであなたは?」
「け、警備のものです…・・・」
「あれ……おかしいなぁ、警備はウチの会社が一任されてるはずですけど……IDカードありますか?」
あらかじめ用意をしてあったカードを男に渡すと小型のスキャナーらしきもので、カードを読み込み始めた。
警備の男は不思議そうな顔をしながら何度か読み込みを試みたが、エラー表示がでるだけだった。
僕が偽造したものだから当然である。
「すみませんが、あなたも一緒に事務所にきていただけませんか?
最近万引き犯を捕まえた振りをして、その人を強請る犯罪があると通達がきてますので……。」
後悔したが時既に遅し、スーパーの事務所で事情聴取をされたあと、
万引き男と仲良くパトカーに乗る羽目になったのであった。
※大分削ったのですが、長くなってしまいすみません……。
次は「露天風呂」「円高」「カラス」でおねがいします。
80:「露天風呂」「円高」「カラス」
08/11/14 09:03:21
旅行社貸し切りの大型バスが、駐車場に到着した。
ここは日本有数の温泉場で、日帰り温泉としても人気が高い。
小旗を掲げたツアーコンダクターが団体客を先導しながら
露天風呂の方へと小走りに駆けていく。
「えーみなさん、遅れないでついてきて下さいね。ええと、ハリーアップ!こっちこっち」
案内人が片言の英語混じりの日本語で注意を促した。
見れば客たちは様々な人種で、聞こえる言葉も日本語ではない。
「ここの温泉は30分で出発です。サーテイミニッツ、オッケー?
じゃあ解散、楽しんで下さい。レッツエンジョイ!」
通じたのかどうか、外人たちは慣れた様子で脱衣所の方へとなだれ込んでいく。
客の姿が見えなくなると、旅行社の社員は自販機のホットコーヒーを手に、
バスの運転手へと話しかけた。
「お疲れ様です。急がせて済みません。次のほねほね温泉が宿泊地になるので、
今日の仕事も終わりです。もう少しがんばりましょう」
「ありがとうございます。私はいいですが、お客が疲れたでしょう。
今日だけで7カ所の温泉巡りなんてどう考えても無理がありますよ」
客たちは疲れ切っていた。風呂に入ってものんびりとくつろぐどころではない。
どこの温泉でも、写真を撮って大急ぎで湯に浸かり、せかされるように上がって
バスに乗って次の温泉へ、と慌ただしく旅立つのだ。
「仕方ないですよ。もともとは十日かけて温泉巡りをする筈が、
円高で滞在費がかかるからって、三日で同じコースを回ることになったんですから
・・・・・・あ、戻ってきた。お疲れさま、カムヒヤプリーズ」
客がぞろぞろと戻ってきたのを見て、ツアーコンダクターは笑顔で小旗を振った。
「じゃあ次に行きます。次は宿泊地なのでのんびりと温泉を楽しんで下さいね。
ええと、ネクストプレイスイズノットカラスノギョウズイ・・・英語でなんて言うんだろう」
通じるとも思えないあやしげな英語で、ガイドはにこやかに語りかけた。
全員が乗り込むと、バスは疲れ切った外人客たちを乗せ、再び道を走りだした。
「トースト 鉢植え 携帯電話」
81:お題「トースト」「鉢植え」「携帯電話」
08/11/14 18:23:44
『ベランダから外を見ろ』
と、一本電話を掛けるだけで良い。
性格上それだけで十分なのは、事前に把握済みだ。
興味をそそられた彼女は、ベランダに続く雨戸へ手を掛けるだろう。
そして、それを開き一歩踏み出した瞬間、装置は連続的に作動する。
……あらかじめ漏電している洗濯機のケーブルを、雨戸の傍へ引っ掛けておいた。それは、雨戸が開かれることによって外れ、ちょうど彼女の足に接触する位置にある。
それに触れることによって彼女は感電し、一時的に筋肉が硬直する―足は段差を踏み越えようとしている途中だ―止まろうと思っても彼女は止まれずに、ベランダの手すりへ激突するだろう。
そのショックで手すりの外側に吊るされた鉢植えの支えは外れ、重さ一キロ近い物体は地上二十メートル下の地面へと叩きつけられる。
そのとき、下を歩いているのは―
僕は携帯から電話をかけた。
5コール目で電話に出た彼女に告げる。
「ベランダから、外を見て」
「どうしたの? 忘れ物? ……本当なら出てあげたいんだけど、ゴメンなさい。トーストを焼こうと思って、トースターのスイッチを入れた途端、ブレーカーが落ちちゃって」
「あ、そうなんだ。別に大した用事じゃなかったんだ。……母さん」
「なに?」
「行ってきます」
僕は携帯を切って、真上を見上げる。
目を細めると、二十メートル先にある鉢植えの底が小さな黒い染みのように、空へ浮かんでいた。
行数オーバーした上に、動機まで書ききれなかった・・・orz
「トイレ」「高速道路」「ハンバーガー」
82:ケロロ少佐 ◆uccexHM3l2
08/11/16 04:30:13
「トイレ」「高速道路」「ハンバーガー」
午後4時、10歳の男の子とその両親を乗せた1台の白いカローラが高速道路を走っていた。
遊園地で思いっきり、楽しく過ごしたはずなのに、なぜか、その車は、くすんだ白色をしてサービスエリアへ入っていった。
「体は勝手なもんだな。金策の心配をしなくていいと決めた途端、血便、止まっちまった…よ、あはは…」
今日で、すべて、何もかも終わるのだと決心した父はトイレから出て息子達の待つマクドナルドへ向かう。
「父ちゃん!母ちゃん!今日は、すごくたのしかったね」
息子は父がすすめた一番高いメニューを断わって普通のハンバーガーをほおばりながら父と母の瞳を交互に見つめた。
「これはね、今週で終わりなんだって!来週からはお父さんとお母さんの人形が付いてるんだよ!」
ハッピーセットのキャラクター人形がおどけた動きで踊りながら首を振っていた。
「…来週も…ここに来て…親子全部…集めたい・け・ど…」
息子は父と母の瞳を交互に見つめた後、つぶやいた…
「で・も…もういいんだ…も・う 終わっても…」
父と母は、いつのまにか成長し、すべてを納得してなお微笑みを絶やさない息子にショックを受け、言葉を失った。
最初は父と母が泣き、その後、息子の眼からも涙がこぼれだし、3人は涙が枯れるまで人目をはばからず泣き続けた。
10歳の男の子とその両親を乗せた1台の白いカローラは、もう帰らないハズだった家へと向かっていた。
夜も遅くなり、まばらに光る暗い街灯に照らされているだけのはずなのに、なぜか、その車は、澄みきった鮮やかな白色をしていた。
83:ケロロ少佐 ◆uccexHM3l2
08/11/16 04:34:23
ちょっと1行が長くなってしまいました。
次は「色あせたタオル」「夕刊」「血豆」で!
84:名無し物書き@推敲中?
08/11/22 07:40:07
「色あせたタオル」「夕刊」「血豆」
「血豆ぼ~ん!」
ステテコ、ハラマキ姿のオヤジが俺の前を遮る。
「ちぃちぃまめまめちぃまめまめ~
ちぃちぃまめまめちぃまめまめ~
ちぃちぃちぃちぃ……武雄ぼ~ん!」
俺はにこやかな顔で軽く挨拶をする。
須藤さんはこちらの挨拶など眼中にない。
くるっと腰から方向転換し、向こうから来た買い物袋を下げた女性に向かって進んでいく。
「ちぃちぃたけたけちぃたけたけ~……」
斜向かいのお宅である武田さんの奥さんにターゲットを変えたようだ。
玄関前にて腕時計のストップウォッチを確認する。
15分23秒…平均並みのタイムだ。
首から下げた色あせたタオルで汗を拭うとポストに差し込まれた夕刊を手に取る。
一面の見出しは、元総務省事務次官夫妻殺人事件。
物騒な世の中になったものだなどとぼんやり思いながら、
俺は日課であるランニングを終えた。
次は
「エグゼクティブチェア」「アスピリン」「狐」でお願いします。
85:名無し物書き@推敲中?
08/11/30 04:21:22
86:sou
08/12/01 23:38:17
「それでは今回の商談は成立ということで。今後ともお互い良きパートナーでありますよう」
恰幅のいいタヌキ親父、いや、オヤジの狸達は満足気に太鼓腹を叩きつつ去っていった。
部屋に残された一匹の狐は、深呼吸してエグゼクティブチェアに深く腰掛けた。
「はあ、いつもながら大きな商談は肩が凝る」
大理石のテーブルに置かれたケースから油揚げを取り出し、細く丸めて口にくわえ、火を点けた。
煙をくゆらせ、目を細める「ああ、香ばしい……」
ここは世界に名を響かせるキタキツネ商事の社長室。
遺伝子組み換えコーンからセミコーンダクターまで、あらゆるものを扱う大企業のトップの部屋。
社長狐であるコンタロウは、せわしない業務のなか、束の間の休息に浸っていた。
だが、その貴重な静寂は、一本の内線電話によって引き裂かれた。
「社長! 大変ですにゃあ!」秘書であるタマ子の引きつった声が鼓膜に刺さる。
同時に、部屋のドアを蹴破るようにゴリラの群れが乱入してきた。
「ウホッ! さあ、そのイスを明け渡してもらおうか。メインバンクは既に籠絡したぞ」
勝ち誇ったように胸を叩き、ドラミングを始めるゴリラたち。
「お前らは確か、外資証券のゴリラーマン・ブラザーズの幹部たち!」
外資がキタキツネ商事を狙っていることは耳にしていたが、こんな突拍子もない事態は想定外だった。
コンタロウは持病の狭心症が潜む左胸に痛みを覚え、倍量のアスピリンを咄嗟に口に含み噛み砕いた。
「まさか、そんな……。まるで狐につままれたようだ……」
87:sou
08/12/01 23:44:55
お題は「寂れた」「掲示板」「誰もいない」で。
88:sm ◆ley8NheQbk
08/12/01 23:50:25
あんたはけいいちという名だったか。
まあ座りなさい。年寄りの話なんぞつまらんものだが少し聞いてみなさい。
仕事をやめたいということじゃが。30をすぎたということじゃが。まあ、好きにすればよろしかろうが。
今日はなんでもない。わしが若い頃狐にだまされた話をしようと思ってな。
あれはわしがまだ二十になったばかりの頃じゃった。ここらへんもほんに田舎で、わしはなにかの用で山道を歩いておった。道の途中、きれいな娘さんが猟師のしかけた罠に足をはさまれ困っておっての。わしは助けようと近寄った。
「ひどいことじゃ」。
「いとうてかないませぬ」。「外してやろう。少し痛むだろうが暴れなさんな。ん……あんたは?」。
「いえ……」。
娘っ子は狐だった。山道に似合わぬあでやかな晴着の裾からは、獣の毛がのぞいておった。おそらくまだそこまで化す力の強くない若い雌狐じゃったんじゃろ。わしは助けると行ったはずみ、雌狐の罠を解いてやった。
「ありがとうぞんじます。そのう……」。
「いいからいきなせえ」。
89:名無し物書き@推敲中?
08/12/01 23:53:49
>>88
誤爆?
90:sm ◆ley8NheQbk
08/12/02 00:22:52
雌狐は礼をなんどもしながら、化身を解くこともなく山道を登っていきやがて消えた。
「ばばあ上の道で狐が出たぞ。えらいべっぴんさんのかっこをしちょった」。
「化ける狐なんぞおらんが。信じるはだまくらかされるのはじまりじゃ。つまらんがこというてねでさっと寝え」。
「つまらんがてほんとやに。こっちがつまらんが」。
わしがつまらんのと狐の娘っ子の女らしさにかきみだされ寝むれんでおると、コンコン、コンコンと雨戸が鳴りおった。
「よすけさん起きてくだせえ。よすけさん」。
「……もう。寝ちょるがに。で、なんよ。昼間の、その、……か」。
「ええ。昼間のそれでます」一応のお礼をと存じまして夜分ながらおうかがいしたというわけでして」。
「お礼なんぞええよ。それより足の具合はどうや。痛むか」。
「おかげさまで、どうにか」。
「そいつはよかった」。
「……」。
「……」。
「その、お礼の品がございまして」。
「お礼なんていいち言うとるがに」。
「ですが、取ってもらわぬことには帰るにも帰れませんで」。
「いいちいうのにねえ。で、なんや?」。
「なんだと思いますか」。
「なんだもなにもわかるかい」。
「言って見てください」。
「言うちなんよ。くれようちするもんをあらかじめ言えるアホがおるか」。
「ですからたとえばです」。
「たとえば?」。
「たとえばです」。
「たとえばか」。
「たとえばです」。
「強いて言うなら―
91:sm ◆ley8NheQbk
08/12/02 00:25:23
ごめん、かぶったな。こばくではこざいません。タイミングが前後しましたが、狐アスピリンエクゼクティブチェアで書いてます。
92:sm ◆ley8NheQbk
08/12/02 00:40:47
「強いて言うなら。なんでございますか?」。
「エクゼクティブチェアやろか」。
「エクゼクティブチェアでございますか」。
「そうやき。エクゼクティブチェアやき。だいたいさ、エクゼクティブチェアってさ、その名の通りエクゼクティブだからいいよね」。
「エクゼクティブチェア、ですか。わかります。わたしのお持ちにあがったお礼の品も、奇遇なことに、それです、エクゼクティブチェアです」。
「エクゼクティブチェアか」。
「エクゼクティブチェアです」。
「お礼なんぞいいが、どれ、見してみ」。
「エクゼクティブチェアをですか?」。
「エクゼクティブチェアを」。
「もちろんです。が、明日です。エクゼクティブチェアをご覧に頂くのは、本日はそこはかとなく日和がわるうございます」。
「マジで?。エクゼクティブチェアってそんなのあんの?」。
「はい、あります。ありますです。なんせエクゼクティブですから」。
「エクゼクティブだからか」。
「左様でございます。一口にエクゼクティブといってもいろいろと難しゅうこともございまして」。
「やはりそうか。エクゼクティブだもんな」。
「ええ」。
93:sm ◆ley8NheQbk
08/12/02 01:01:59
その次の日の夜、わしはその雌狐の再度の訪問を受け、エクゼクティブチェアを譲り受けた。
わしは本当に感動したよ。なんせエクゼクティブチェアじゃからな。若いあんたなどにはエクゼクティブチェアなんぞは日常茶飯時だろうが、
なんせわしらのころは時代が違ったからの。エクゼクティブチェアなんぞまわりの誰もこれっきしもの経験なんぞなかった。
だがな、
94:sm ◆ley8NheQbk
08/12/02 01:15:51
その狐の送ってくれたエクゼクティブチェアはな、娘狐の精一杯の努力の結果じゃったんかもしらんが、なんと、アスピリン製やったんや。
そのエクゼクティブチェアは、はじからはじまでそっくり、アスピリンの丸薬で構成されていた。
にエクゼクティブチェアをアスピリンで作ろうともええが、アスピリンて、四季の変化のなかで、けっこう風化すんねん!。
て、話や。
いいから年上の言うことは聞いとき。つまりな、アスピリンでエクゼクティブチェアをつくんなてことや。あとや、ええ歳してぽんぽん仕事やめんきいてこと。な。頼むで。
終り。次の題は前の人ので
95:sm ◆ley8NheQbk
08/12/02 01:38:34
ていうかぶっちゃけどう?。
お題を見て、狐→だます→アスピリンでエクゼクティブチェアをつくってだまそうとするもだましきれてない狐→、みたいなのが思い浮かんだんだけど、めんどくさくなって、後半がプロットそのものになってしまった。
96:名無し物書き@推敲中?
08/12/02 02:38:27
幽霊の存在理由って何だろう
誰かに自分をわかってもらいたいとか
死んでも誰かを憎み続けたいとか
じゃあ、みんな死んじゃったらどうなのかな
生きた人間がいなくなったらどうすればいいのかな
開けっ放しの窓
床に散らばるガラスの破片
倒れた机と椅子
掲示板には修学旅行の日程表
ついにその日は来なかったけど
誰もいない
寂れた校舎の中
ひとり待っている
何を
誰を
次は「カウント」「壜底」「コール音」
97: ◆/9YkwhtEh6
08/12/02 03:04:59
光が頭上で踊っている。
いや、頭上なのか? と、マスクの裏で思う。
激しい痛みが全身を襲っているはずなのだが、
痛みが激しすぎて何も感じることさえできない
永遠の一瞬にとらわれてた。
ワン、トゥー、とカウントが進む。
スリーで反射的に体を起こした。
光は、今度は真横で踊った。
カメラマンどもめ、と、マスクの裏で思う。
人の痛みで稼ぎやがって……。
今日は勝つと娘に約束したんだ。心のなかでそうつぶやいたとき、
足を引っ張られ、気づくとリング下に立っていた。
同時に、後頭部が破裂し、倒れると、目の前に壜底が転がっていた。
立つんだ……。立って、娘に勝ったと言うんだ……。しかし、動けない。
かけられないコール音だけが、マスクの裏で鳴り続けていた。
「良心」「思いやり」「信じる」
98:名無し物書き@推敲中?
08/12/02 11:54:51
>>95
雑談はは感想スレで。
てか、いくらなんでも長すぎ。もう少しこのスレROMって書き込んでね。
99:ケロロ少佐 ◆uccexHM3l2
08/12/02 14:57:55
「良心」「思いやり」「信じる」
「困ったねー何とかしてもらわないと~~!」
「そういう事情がお有りなのですかー?それはさぞ、お困りでしょう。では今日にでも、全額わたくしの方でたてかえさせていただきます」
財前伸治は、体内に内蔵されている携帯の通話回線を切った後、思わず口元をほこぼらせた。
苦情電話一本かけるだけで今月の生活費が手に入ったのだから当然である。
「ケッ!!ホント!こいつらは、何でも信じるんだナ!!」
ライフサイエンスの発達により遺伝子、タンパク質及び脳細胞もろもろの関係が研究されてゆき、人間が元来もつ、良心という感情の発生元が解明された。
両親たちは、こぞって自分の子供たちにこの遺伝子操作技術を使い、赤ちゃんを誕生させた。
つまりは、いい子、やさしい子、思いやりのある子、人のため、世の中の役にたつ子たちをと望みをかけて…
親としては当然である。
結果、今やこの日本は、その半数以上がこの善人の集団で社会が動いていた。
遺伝子操作されていないノーマル(嘘を平気で実行できる普通の人)の財前は次の善人のカモの電話ナンバーをコールした。
欲しいと思っていた最新立体ディスプレイの代金を貢いでくれる良い人に…
100:ケロロ少佐 ◆uccexHM3l2
08/12/02 14:59:48
次のお題「レシピ」「10代」「ビニール傘」で!!
101:お題「レシピ」「10代」「ビニール傘」
08/12/02 23:42:19
「幸せになりたい?」
今朝の登校時。
玄関で靴を履いていた僕の背中に、姉はそんな言葉を投げかけた。
僕が素直に「なりたい」と言うと、彼女は「なら、今日は傘を持っていきなさい」と、一番安上がりなビニール傘を手渡してきた。
主にディスカウントショップで取り扱われている、非常に小さく安っぽいそれを受け取った僕が「雨、降るの?」と問うと、彼女は肯いた。
「レシピ通りならね」
それは返答になっていない。
通学路を歩きながら、通りすがる人の手元を追う。しかし、誰一人として傘を持っていない。今日の降水確率は10代。降らない可能性は90%近くもある。
どことなくきまりの悪さを覚えながら、胸のうちで姉の言葉を反芻する。
『その傘、旧校舎の玄関にさして置くのよ。良いわね』
現在、旧校舎は利用されていない。その上、本校舎からそれなりに距離があるため、いつも無人の気配が漂っている。果たして、なにか意味があるのだろうか。
(……もしかして、からかわれただけ?)
そんな杞憂も実際に雨が降る頃には、胸のどこかへ流れて消えた。
ついでに、傘も消えてなくなっていた。幸せになるどころか、逆に不幸が浮き彫りになっただけの結末に、己の不運を嘆きながら雨の街をひた走る……僕の背中にかかったのは、雨粒よりも柔らかな少女の声。
「あの、もし良かったら、傘、入っていきませんか?」
「というのが、事の顛末です」「そう」
濡れた髪の毛を拭きながらの報告に、姉はそっけない。
「女の子の持ってた傘が、今朝さして置いたヤツだったってのは、どういう理屈?」
「ああ、それは『七夕の日に、旧校舎にさしてある傘で相合傘すると両想いになれる』っていう、ジンクスがウチの学校にはあってだな。
……アタシがその口だったから、どっかの誰かのために恩返しでもしてやろうかなー、と思ってさ。いやまさか、アンタにお鉢が回ってくるとはねー」
そう言って意地悪く笑う姉は、最後に一言付け足した。
「な、レシピ通りだったろ?」
起承転結付きで15行は難しい・・・orz >>74さんのように綺麗にまとめてみたいものです。
長すぎたので、お題は継続でお願いします。
「レシピ」「10代」「ビニール傘」
102:「レシピ」「10代」「ビニール傘」
08/12/03 01:14:11
「先生、うちの息子、どうしてこんなことになってしまったんでしょう? レシピ通り育てたのに!」
遠山(母)は悲痛な表情で訴えていた。僕が高校教師になってからの六年間で培った、
二者面談のパターン分けで言うところのBパターン……必要以上にナイーブな母親というヤツだ。
「はぁ……良い息子さんと思いますが……あの、遠山くんのレシピ、見せて貰ってよろしいでしょうか?」
「ええ、これです」
文科省発行のそのレシピによると、遠山は『10代になったら焦げ目が付くまで弱火でじっくり炒め、
裏返して砂糖を振りかけましょう』となっている。
「私、ちゃんとレシピ通りあの子が親の愛情に飢えるまでじっくり放置して、荒れてきたら手の平返して
甘やかしたのに……なのに、家に寄りつかないんです! 雨の中、公園のベンチで落ち込んでる
あの子をビニール傘持ってって、こう、こんな感じで迎えに行ったりもしたのに!」
「はぁ……それは感動的ですね(行動理由がレシピじゃなければね)」
とりあえず適当に相づちで流し遠山(母)には帰って貰い、翌日遠山(息子)を呼び出した。
「遠山、なんかお前、最近家に寄りつかないらしいじゃないか」と訊くと、
「お袋、同じ料理ばっか作るんだもん。婆ちゃんから貰ったレシピが三種類しか無いからって……」
遠山(息子)はゲロ吐きそうな表情でそう答えた。
次のお題は「尻」「穴」「致命的」でお願いします。
103:ケロロ少佐 ◆uccexHM3l2
08/12/03 02:16:15
「尻」「穴」「致命的」
「たいへんな事になった」
今日、何度、この言葉を口にしたことだろうか。
阿相総理は緊急事態と判断し、各方面にひそかに指示をだした。
原因はわかっていた。
そう、虫なのだ!新種の虫!
生物学者に言わせればコレは宇宙から飛来した異星の生物の可能性もあるらしい。
…べらんめぇ!そんな事はどうでもいいんだと心の中で毒づく。
日本中で突然現れた被害。
その…虫が…その…つまり人間のお尻に。
その…虫が…その…つまりお尻の穴に。
入り込んで大腸に住み付き寄生してしまう。
外科的に取り出すことは不可能、薬剤で始末も出来ない。
患者は特に命の心配もなく、病気になるわけでもない。
いや!むしろ取リ憑かれた人間は健康になるのだが…
…べらんめぇ!そんな事はどうでもいいんだと心の中で毒づく。
政治家には大問題なのであり、致命的になってしまうのだ。
そう!大問題!取リ憑かれた人間は、正直者になってしまうのである…
104:ケロロ少佐 ◆uccexHM3l2
08/12/03 02:19:00
このキーワードだとこうなるわな!
お題は継続で!
もっときれいな話を、どなたかこの3つで頼みます。
105:「尻」「穴」「致命的」
08/12/04 09:55:57
大学からの帰り道、齋藤浩一は悩んでいた。
夕暮れ時、薄暗い並木道の数歩先を憧れの河合洋子が歩いている。
授業の時と同じ、清楚な白いブラウスにカーディガン、紺のタイトスカート。
シンプルな服装だけに、スタイルの良さが際だって見える。
伝え聞いたところでは、財閥系の家柄で海外からの帰国子女だという。
そうした略歴も、庶民である浩一にとってはあまりに眩しく、
気後れからこれまで話をしたことはなかった。
が、二人きりの今、この場所でなら自然に話しかけられそうに思えた。
と、浩一の視線が洋子のスカートにとまった。
スカートの丁度盛り上がる辺りに何か白いものが見えたのだった。
ゴミかと思い、左右に揺れる丸い丘に視線を凝らす。
―穴があいている。
スカートの縫い目がほつれてちらちらと内側が見えていた。
最初目に入った白いものはゴミではなく、ブラウスの裾なのだった。
浩一は焦った。教えてあげなければ洋子が恥をかくことになる。
人通りの多い駅前の大通りまであと少しのところで浩一は声を上げた。
スカートのお尻に穴があいて、下着が見えてますよ。
おもいきって大声を出した。洋子が振り向く。
緊張しすぎてからからになった喉を通ったのは別の言葉だった。
尻の穴が丸見えだよっ!
驚愕と羞恥と怒りで洋子の顔が歪んだ。この変態っ!
浩一の頬にびんたを食らわせ、洋子は走り去って行った。
致命的な言葉のミスによって浩一の恋は終わってしまった。
呆然と立ちすくむ浩一の周りを静かに闇が包みこんだ。
「銀杏 狛犬 時計」
106:名無し物書き@推敲中?
08/12/06 07:38:15
少年が長い階段を上り切ると、境内は鎮まり返っていた。
はっきり聞いたわけでは無いが、声がしていたような気がしたのだが。
息を切らしながら、すっかり銀杏の葉で黄色くなった境内を見回してみる。
散々ねだって買ってもらったキャラクターウオッチを無くしたのに気づいたのは
昨日の夜のこと。落としたとすれば昨日ぎんなん拾いをしたこの境内の中だ。
ゴムバンドが緩かったから何かの拍子に外れてしまったのだろう。
多分この辺だろうとあたりを付け、二つある狛犬の台座の下を中心に捜索を始めた。
銀杏の葉をかき分け、懸命に探すが見つからない。半ば諦めかけたとき、
目の端できらりと何かが光った。はっと少年が目を見張る。
台座の上に目当ての腕時計はあった。だがどういうわけか、狛犬の前脚にそれは嵌っていた。
切れ目の無いゴムバンドは、台座にぴったり付いている狛犬の前脚から
どうやっても取れそうに無い。いったいどうしてこんなことになっているのだろう。
これを外すにはゴムバンドを切るしかなさそうだ。少年は悔しげに唇を噛んだ。
と、石の像がカタカタと動き出した。
ぱかんと口を開けた少年の前で、狛犬が申し訳なさそうにそーっと前脚を上げた。
次は「恋」「鯉」「故意」
107:「恋」「鯉」「故意」
08/12/06 09:56:35
「悩んでるんです……恋に」
「鯉ですか?」
ファミレスで不味いコーヒーを満喫する最中、背後の席から聞こえてきた深刻そうなその会話に、
僕は思わず聞き耳を立ててしまった。
それとなく背後の席を伺う。深刻そうな男と、真剣そうな男が向かい合って座っていた。
「ええ、恋なんです。彼女のことを考えると胸が苦しくなって」
「彼女、ということは、雌なんですね」
「や、やめてください、雌なんて言い方! で、ちょっとでも彼女のことを考えると胸が苦しくなって、
今だって、居ても立っても居られないです……どうしたらいいのかと」
「うーん……鯉ですか」
「恋なんです」
「…………食べちゃったらどうですか?」
「た、食べる!?」
「食べる前には泥抜きを忘れちゃいけませんよ。囲いの中で十日くらい餌を与えずにおくんです」
「な、なるほど……わかりました、やってみます!」
あのとき僕が故意に聞き流すことをしなければ、翌週の新聞地域欄に載った誘拐監禁事件を
未然に防げたかと思うと残念至極な話である。
次は「慈雨」「十」「汁」でお願いします。
108:ケロロ少佐 ◆uccexHM3l2
08/12/08 00:48:39
「慈雨」「十」「汁」
昨夜から降っている雨音で恭子は目覚めた。
2泊3日の休暇も今日で終わり。
「うーん、よく眠ったなぁー」
となりの部屋には、すでに旅館の朝食の準備が出来ているようで味噌汁(?)の香りがしていた。
食事を終え、身支度を済ませ、友人と旅館の玄関に立つと外気(?)は寒く用意していた長袖のシャツを着る。
なんて気持ちのいい雨なんだろう。
この雨は観光カタログに載っていた『慈雨(じう)』まさに草木をうるおし育てる命の雨。
もう十分に1996年の日本を満喫した。
失われた美しさを完璧なまでに再現したこの『日本(ニッポン)館』から現実に戻る時きたのだ。
幾重にも閉じられた扉をくぐり、外に出ると、むっとする熱帯化した東京のいつもの熱波の世界。
恭子達がさっきまで過ごしていた所は広大な敷地に建設し、再現された人工の20世紀の日本。
2188年の今、美しい四季につつまれた昔の日本の姿はすでに無かった。
日本は深刻な温暖化によって熱帯と化し異様な植物達が支配している。
今度の12月の休暇には、結婚するつもりの彼と奮発して、雪の降り積もる冬(?)の日本館を訪れるつもりだった。
雪の冷たさってどんなものだろうと考えながら恭子と友人はエアコンがフル回転している田園都市線の中に消えていった。
109:ケロロ少佐 ◆uccexHM3l2
08/12/08 00:49:28
次のお題は「せんべい」「日没」「手のひら」でお願いします。
110:名無し物書き@推敲中?
08/12/15 12:24:10
佐智子はワイドショーを見ながら茶の間でごろ寝していた。
レポーターの芝居がかった声色と、せんべいをかじる音が空虚に部屋を満たしている。
炊事、洗濯、掃除。
家事のことはなるべく考えない。平和な日常を享受するコツは、上手にフタを閉められるか、だ。
人生と同様に、一日には一回の日没が訪れる。
胸元に、せんべいのかけらが零れおちた。手を伸ばしかねている間に、それはコロコロと床まで転がり落ちていく。
やれやれ、と拾い上げながら、佐智子は20年の結婚生活を漠然と思った。
私の手のひらには、何があるのだろう?
111:名無し物書き@推敲中?
08/12/15 12:26:47
思考の過程に不自然さがありますね。読まないとわからない
112:名無し物書き@推敲中?
08/12/15 12:31:43
末尾の力もどっかで逃げてる
113:名無し物書き@推敲中?
08/12/15 20:32:49
三語しようぜ!
114:しん太
08/12/15 22:24:11
「せんべい」「日没」「手のひら」
「世界が終わる前の最後の日没って見たくない?」
イリルはテトラポットに座り、水平線の向こうを見つめながら言った。
「え?」
僕は言葉の意味が分からず、そう聞き返した。
「見たくない? 最後の日没……」
イリルはそう続けた。
「最後の日没……?」
僕は再び聞き返した。
「見れるよ。見せてやるよ」
イリルは齧りかけのせんべいをテトラポットとテトラポットの隙間の海へと
落とした。
「確かにもうすぐ日没の時間だけど、一体何が……?」
僕は戸惑って彼に尋ねた。
日没が始まった。眩しい光が僕等二人を照らす。僕等は手を目の前にかざして、
目を細めて光を見つめた。
「それはこういうことだ!」
イリルはそう言って僕の背中をドンッと強く押した。僕の体は遥か下の海へ
テトラポットに何度も体をぶつけながら落ちた。
イリルは両の手のひらを合わせてお辞儀をした。
虫の息になった僕が遥か上にいるイリルを見上げると、イリルの目は異様な色
を帯びてギンギンと輝いていた。
宇宙ステーション、屍、千年でお願いします。
115:名無し物書き@推敲中?
08/12/15 23:28:45
俺、源田廉介はいつものようにパブで黒ビールを飲んでいる。
独身だから稼ぎは全て自分に仕えるのが何ともありがたい。趣味といえば酒ぐらいか。
こうして酒を飲みながら、暗いこの世を千年一日の観を抱きつつ生きるのが俺の人生。
思えば20XX年の世界恐慌以来、失業率も犯罪発生率も自殺率も上がった。
大都会の公園や河川敷にはホームレスの屍が晒されているのも珍しくない。
科学の進歩だの福祉の向上だの、どれも胡散臭い言葉に思えて仕方のないこの頃。
宇宙ステーションの爆発で残骸が地球上に降り注ぎ、この日本でも被害が出て以来
不況による政府の財政破綻なども相まって宇宙開発もとっくに中止されてしまった。
もはや地方は無人の壮大な秘境に戻ろうとしており、残された都市部も限られた職や金、
娯楽を求めて人が多く彷徨い、ますます退廃と空虚と沈鬱に満ち満ちている。
冷えたフライドポテトを頬張って席を立とうとすると、女が近寄って来た。若い。20代か。
「あんたが廉さん?お願いなんだけど、私の姉貴を騙して捨てた男をお掃除してくれない?」
「代金は?」
「今から半分払うわ。残りは仕事後で。これでいいでしょ?」
「明日もう一度ここに来てくれ。顔写真を忘れるなよ」
俺はそう言って店を出た。4年前から始めたスイーパー(掃除屋)稼業も板に付いてきたかな。
風が吹くと桶屋が儲かるらしいが、不況になると風俗と殺し屋が儲かるんだよな・・・これが。 fin
116:アシュレー ◆r1if.ivhdg
08/12/15 23:51:06
あれなに? お星さまの間をぬって夜空をまっすぐに飛んでいる光。
ずっと同じ速さで進んでいる。すごく早いわ。時計の秒針より早いわ。
宇宙ステーションさ
へー。宇宙ステーションてなあに。
千年前に人の手によって作られた船だよ。夜空を飛んで星から星へと光を運ぶんだ。
じゃあ、お星さまが光っているのは宇宙ステーションのおかげなのね。
ああそうさ。でもまっすぐにすすんだら、その道から外れたお星さまには光がお届けできないわ。
ああそうさ。だからほら、見てごらん。天の河には、まだ光が残っているけれど、天の河から外れたところにはまばらにしか星がないんだよ。
まばらといってもいっぱいあるわ。
今はまだね。でもこれから消えてしまうんだ。
えっ。さびしい。涙がこぼれてきた。止まらないわ。
大丈夫。ボクがとめてみせる。
夜の森に屍がひとつ。
見開かれた瞳は星を映し、
頬を伝う涙の跡は固く乾いている。
未知 トリアージ つむじ風
117:ケロロ少佐 ◆uccexHM3l2
08/12/16 14:30:23
「未知」「トリアージ」「つむじ風」
数か月前、無数の巨大円盤群が突然出現し、これまで未知の存在だったエイリアンが現実のものとなり、世界中は大混乱に陥った。
国防大臣はその責任の重大さに表情がこわばり、膝の震えを何とか抑え異星生物、地球種管理総督の部屋にいた。
「では、どうしても全人類の30%以上の救済は考えていただけないのですね」
異様に背の高い総督ルワージイは無言の返事を返す。
銀河系規模の時空の転移現象の発生から人類を救済すべくあらわれた銀河連邦のエイリアン。
高度に発達した銀河連邦種族にとっては、つむじ風程の影響なのだろうが人類にとっては種の絶滅に等しい危機。
だが、救済には一つの条件が付けられていて、「ノアの箱舟」に乗船できるのは選ばれし人類のみというわけであった。
エイリアンはこの選出に、人類が大災害などの発生時の死傷者救済に採用している考え方、トリアージを使った。
つまり救うべき価値のある人類の選別方法として黒、赤、黄、緑の4つのカテゴリーにランク分けするというのである。
国防大臣ら、その国の指導者層のみに知らされたこの取り決めは銀河連邦種族側主導で数日中にも開始される。
「これは人類の未来にとって必要なものなのだ」と国防大臣は自分に言い聞かせながら総督の部屋からその他の各指導者とともに席を立った。
選別にはもう一つ、人類に知らされていない事がら、つまり、今回の第一選考基準は知的生命として基本となる倫理面が最重要とされていて、社会的地位は考慮されていないという事実があった。
退室する各指導者達の後ろ姿を見送る地球総督。
その視覚内の、総督のみに見える識別評価を示す色はすべて同色だった。
『矯正もしくは治療など可能性は見込めず、救命不可能、つまり必要のない人物』をあらわす黒色をしていた。
118:ケロロ少佐 ◆uccexHM3l2
08/12/16 14:34:39
次のお題は継続でお願いします。
119:お題「未知」「トリアージ」「つむじ風」
08/12/16 16:59:26
秋葉原通り魔事件で問題視された、トリアージについてのニュースが午後六時のニュース番組を適当に埋めている頃、隣の磯坂さん家では、未知の議題がお茶の間に持ち込まれていた。
豚の人権問題である。豚に人権はあるのか、果たして。
動物はそもそも機械である、とキリスト教を狂信する神部さんは、卓袱台をひっくり返し、人は天使にも豚にもなれるのに、どうして豚になろうとするのか、と訴える建部さんに、それは命中した。
しこたま。とても良い角度で。
クリティカルでアートな物理法則が頭蓋を砕き、脳漿を撒き散らし、建部さんはデスった。という夢をぼんやり見ていた藁小屋の豚は、風速二十メートル程度のつむじ風に飲まれて非常に残念な感じになった。
という現実逃避で、現実を逃避しようとした神部さんだが、夕暮れ空を切り裂くジェット機の羽の音に鼓膜をつんざかれて我に返った。
神部さんは救急トリアージを建部さんに試みたが、ただのしかばねがそこにはあった。仕方が無いので、神部さんは豚(山羊)のように建部さんを貪り、全てを無かったことにしてみた。
目を覆ってしまいたくなるほどの惨状ではあったが、誰一人としてそれを観ていないので問題ない。
竜巻のおよそ五分の一以下の速度で通り過ぎる、つむじ風のようなリアルタイムが、晴れた日の午後六時に磯坂さん家の庭先を掠めていった。
それだけだって言ってんの。今日のテレビが。メメタァ。
お題は継続でお願いします。
120: ◆iicafiaxus
08/12/17 01:25:09
#「未知」「トリアージ」「つむじ風」
二階の自室でくつろいでいると、中学まで一緒だった幼馴染の祥子から電話があった。
「あのさ、もし暇なら今から数学の宿題とか聞きに行ってもいい?
特進コースなんだから被服科の数学くらい余裕でしょう?」
懐かしい声の端々が、卒業から一年もたたないのにすっかり可愛くなった気がする。
「うん、じゃあ持っておいでよ。昔のようにちゃぶ台を出すから勉強しよう」
僕は電話を置くと立ち上がって、まず部屋の中を一望する。祥子が来るまであと十五分。
そう、これは祥子とよく遊んだころには無かったものを隠す、いわばトリアージだ。
まず机の上のロリコン漫画とパソコンラックのエロ同人ゲームは絶対「赤」、
こんな未知の世界をちょっとでも一般人に見せたら幼稚園以来の信頼関係が破綻する。
天井のアイドルポスターはまあ普通だし、黄色かな。余裕があれば片付けよう。
パソコンに入ってる動画はさすがに見られないでしょう。緑。
…と、優先順位をつけて押し入れや見えない場所に移動していく。
やがて呼び鈴が鳴り、応対した母に案内されて祥子が僕の部屋のドアを開けた。
「やあ祥子、久し振り。散らかってるけどいらっしゃい」
応対した僕の胸元に、祥子の視線が釘付けになっている。
あー、そういえばふたなり萌えTシャツを着たままだったっけ…。
背景の足元を、どこからともなく枯葉がつむじ風に乗って吹かれていく。
#次は「IT」「パスポート」「試験」で。
121:名無し物書き@推敲中?
08/12/17 23:08:20
#「IT」「パスポート」「試験」
仕事が終わり、一路家に向かって足を速める。
世間の人は私の実年齢を知ったら驚くかもしれない。ただ私はボケ防止と
家のリフォーム費用捻出のため、体を動かせるうちは仕事をして、何らかの
「社会貢献」というものをしようと思っているのだ。
「IT」というものにも少しずつだが慣れてきたと思う。はじめは飛び交う単語
そのものに右往左往して、息子にいちいち尋ねないとロクに使えなかったが、
今ではインターネットやメールの送受信を一人でこなせるようになった。
来月には英国に仕事も兼ねて出掛ける。この年齢にして、再びパスポートを
使うことになるとは夢にも思わなかったなあ・・・。
63年前に終わった戦争で、私は外務省付きの海軍スパイとして世界各地を
飛び回った。しかしあの頃は重い使命感と緊迫感に押し潰されそうな状態で、
楽しさなどほとんど感じられなかった。しかし今は違う。世界は一部紛争の
耐えない地域があるとはいえ、やはり全体には平和をひしひしと感じる。
死ぬまでにもっといろいろなところを見てみたいと思うようになってきた。
そういえば、来週は漢字検定の試験か。今年95歳、まだまだ安楽の余生は早い。
122:sou
08/12/21 02:00:19
薄暗い照明の下、俺は目覚めた。周囲を数人の男達と堆く積まれた機材が取り囲んでいる。
「麻酔が切れたようだね。喜び給え、手術は成功だ」白衣の老人が笑みを湛えて語りかけてきた。
霞がかった記憶を少しずつ呼び起こす。そう、俺はモルモットなのだ。
職を失い食うに困り、高額な報酬目当てに、奇妙な実験の被検体に申し込んだことを思い出した。
「世の中にはITという言葉が氾濫しているが、その実態は朧気なものだ。
だが、この技術は違う。人間を新たな地平へ導くパスポートとなり得るものだ。
……もう一度説明しよう。君の脳に埋め込んだチップは、無線でサーバーと繋がっている。
それを通して君は、好きな時に好きなだけ、無限の情報へ脳から直接アクセスできる。
何らの端末も介さずに、だ。逆に君の得た知識も自動的にサーバーに蓄積される。
この技術を全ての人間に施したとしたならどうなる? 完全なる集合知が完成されるのだよ!」
所長と呼ばれている老人は、瞳に薄暗い光を宿し、身振り手振りを交えて饒舌に語った。
「さあ、サーバーとの結合試験を始めよう」
合図とともに、俺の脳におびただしい量の情報が流れ込んできた。
歴史、世界情勢、哲学、文学、政治経済……。俺は気分が悪くなり、実験を遮った。
情報で膨れ上がった脳と対照的に、心の中が急速に虚無に支配されていくのを感じながら。
「所長、大変です! 別室で休んでいた被検者が自殺を!」
「……そうか。予想はしていたのだ。知識を得るということは真実に近付くことだからな。
世界はどうしようもなく不確かで、救いようがなく、生きる価値がないという真実に」
123:sou
08/12/21 02:05:43
お題継続で書きました(IT、パスポート、試験)
次は「桜」「逆光」「駆け抜ける」でどうぞ。
124:お題「桜」「逆光」「駆け抜ける」
08/12/21 13:38:49
写真を撮られると、魂が抜かれる。
噂が現実になる街で、誰かがそんな噂を流した。お陰で街は大パニックに陥った。そして、二、三日もするとパニックは収まり、ほとんどの人間は自宅に引きこもった。以降の話である。
「噂の効力が消える七十五日目まで粘るつもりかな?」
「丁度、桜が散る頃ですね」
ほとんど無人の街を、俺とB子さんは両手をバンザイしながらフラついていた。理由はあるが割愛する。そんなホールドアップ姿勢のまま河川敷を訪れると予想通り居たぜ犯人。
街で一番大きな桜の木の下に陣取って一人宴会を開いてやがる。
「あながた犯人です」
B子さんが犯人(と思わしきリーマン風男性)に向かって、ズビシッと人差し指を突きつけると犯人(ryは早撃ちの要領で一眼レフカメラを俺たちに向け、シャッターを切った。
駆け抜ける逆光。抜かれる魂。しかし俺たちは余裕で無事。
B子さんは、その隙に犯人へと接近、腕を捻り上げ行動を抑止した。
俺は犯人の一眼レフを拾い上げ、種明かし。
「無駄です。俺たちは妖怪『猫又』なので魂が九個ぐらいあります。動機は花見の陣取りが面倒くさかった、とかその辺で良いですね」
俺とB子さんはその足で特殊対策本部に犯人を運搬し、事件は解決。いつも通りのパターンである。
その後、犯人がどうなったのかは知らないが街に平和は戻った。めでたし。
次は「子猫」「戦争」「宇宙」でお願いします。
125:名無し物書き@推敲中?
08/12/22 02:58:59
いびつな路地だとは前から思っていた。無駄に入り組んでいて、目的が見えない。
その日は学校帰りで、私は一人だった。周囲がやたら暗かった印象がある。
ただ、それは鳴き声で猫だと分かった。
私は、少し小走りで十字路へ向かい、導かれるまま右へ曲がった。
一車線の、狭い路地の真ん中にはまだ幼い灰猫がいた。
まるでコスモ。
意識する前に言葉に出ていた。
そう、コスモだ。言わば小宇宙。
黒猫のなまめかしい姿態に魅入られて、私は身動きが取れなかった。
正確に言うと、身動きが取れなくなっていた。
猫もとい宇宙が、格別なにかをしていたわけではない。
ただそこにあり、そこにいただけだった。
私は、ゆっくりと決意を固めた。居場所を勝ち取る戦争の決意。
そっと歩み寄り、おずおずと抱き上げる。私達の、新しい居場所。屋根の下の恵まれた生活。
「ちゃんと可愛くやりなさいよ」
腕の中で猫は鳴いた。
126:名無し物書き@推敲中?
08/12/22 03:01:03
散らかった文です
127:名無し物書き@推敲中?
08/12/22 11:33:19
「さっちゃん!さっちゃん!」
御主人が僕の名を呼んでいる。その切羽詰まった声色で酷く申し訳ない気持ちなってしまった。まだ帰れないんだ、ごめんね御主人。
御主人とはもう五年の付き合いだ。ガラスのゲージに入れられた僕を彼女が見初めたのだ。「この子猫、可愛いですね」御主人はそう言った。
僕はサクラと名付けられた。温かな季節に咲く花の名前と教えてくれた。近所のクロは「それは女の名前だ」と言ったけれど、それでも僕はその名前が好きだった。
でも、僕らの街に桜が咲くことのを、まだ見たことはない。
彼女は一人暮しで、僕と一緒に暮らし初めてから三度目の春がきても、やっぱり一人身だった。
そんなある日、彼女のお父さんがやってきた。穏やかな顔付きの御主人とは違い、凄く厳しい目をしていたのを覚えている。
「いい加減、亡くなった恋人のことなんて忘れなさい。彼だってお前が幸せになることを望んでいる」
その言葉に御主人はただ俯くだけだった。
128:名無し物書き@推敲中?
08/12/22 11:34:19
「私の恋人はね、この桜が大好きでね。死ぬ時はこの桜の下でゆっくり死にたい、なんて言ってたけど、事故でね――」
その夜、御主人は僕を抱きかかえて桜の木に来た。彼女は物憂げな表情で空を見上げ、僕も身をよじってその視線を追う。無機質な枝の編み目の向こうから、宇宙を何万年も旅した一際明るい星の輝きが僕に語りかけた。
『桜の花びらを彼女に見せてやってくれ』
「ならぬ。ワシは長く生きた。生きすぎた。だが見てきたのは人の悪業ばかりだ。終いに奴らは戦争などという愚行まで犯しよる!」
桜の木は掠れきった声でようやく喋った。昏々と眠り続ける彼を目覚めさせるのに、僕は一年以上を費やした。僕はただ語り続けたのだ。
「ワシはもう長くない。ただ眠りについたまま、ゆっくり死に行くつもりだ」
お願いだ。あなたの花びらがなければ、きっと御主人は前へは進めない。そのためなら僕はなんだってする。だから人に絶望しないで。彼らはそれでも美しいのだから。
「ならば、主が受け継ぐか、この歴史を。この桜となりて、人を見続けるか」
「さっちゃーん!……おかしいな、いつもならとっくに帰ってる時間なのに」
ただなんとなくサクラがこの辺に居る気がして、思い出の場所にやってきた。
結局、サクラを見つけることはできなかったし、以後帰ってくることもなかった。大切なものは存外すぐに無くなってしまうのかもしれない。
「……あっ」
結局、私が見つけたのは、ごく小さな桜の蕾が春を待ち兼ねている、命の息吹だけだった。
継続かな、と思って初投稿します。
行数オーバーしたし二つに別れたし書きたいことほとんど書けてないし……
稚拙だけどすんません
129:名無し物書き@推敲中?
08/12/22 11:43:10
次のお題
「自転車」「運命」「ホームレス」
130:sou
08/12/23 17:46:45
「まいったな、賢者になるには経験値が足りませんてさ。仕方ないから僧侶になったよ」
「見ろよ、この鎖帷子。ニンジャになるのが子供の頃からの夢だったんだ」
ここは職業の神ハロワを祀る転職の神殿。今日も旅の勇者一行が立ち寄り、
己の運命を切り拓くため、志望する職を目指す儀式を行っていた。
「あれ、そういえば勇者はどこに行った?」「そういえば見ないわね」
そこに野球帽を被ったジャージ姿の男が近付いていく。片手にはワンカップ酒。
「うわ、なんだこの兄さん、酒くさっ! って、お前、勇者じゃねえか」
「おう、お待たせ。気が付いたらホームレスに転職してたんだよ。
何たって世捨て人だからさ、もう世界を救う旅とかどうでもいいんで。
後は勝手にやってよ。俺は鉄くずを換金する旅にでる」
元勇者はそう言い残し、壊れた自転車や家電製品、ダンボールなどが積まれたリヤカーを引いて
地平線の彼方に消えていった。
「……これからどうする?」
「仕方ない、神殿で募集でもかけておくか。勇者募集、時給千円以上委細面談、
交通費支給、社保完備、世界を救うやりがいのある仕事です、てな感じでさ」
131:sou
08/12/23 17:50:42
文中、偏見に満ちた表現がありますが、ご容赦を。
次は「久遠」「いつまでも」「おかえりなさい」でどうぞ。
132:名無し物書き@推敲中?
08/12/24 22:51:07
久遠 お帰りなさい いつまでも
お帰りなさい。これを読んでいるということはあなたは帰って来たのですね。たとえあなたでなくても…… いえ、この手紙はあなた意外には読むことは出来ない。だから、お帰りなさい。
こういう形であなたが手紙を受け取るということは、私達はもうあっちに行っていることでしょう。でも悲しむことはありませんね。少し遅い早いかの違いですもの。
はやく大きくなったマリをあなたに見せたいわ。マリはいつもあなたの話しをするの。顔も何も知らないはずなのに、あなたの口癖や仕草を真似するの。あなたのことが大好きなのね。
三人で行きたかった場所もやりたかったことも沢山あるの。だから急いでとは言わないけど…… 待ってます。いつまでも…… 待ってます。
手紙を缶にしまい私は空を見上げた。久遠に輝く星達。そのなかでも一際煌めく星に妻と娘を重ねあわせる。手紙と一緒に入っていたオルゴールを回すと懐かしい旋律がたどたどしく再生される。その音色と心地よい風が、優しい永遠を感じさせた。
133:名無し物書き@推敲中?
08/12/24 22:55:47
改行とかいろいろ滅茶苦茶ですみません。
次のお題は 「アイロニー」「サナトリウム」「コロイド」でお願いします。
134:人形師 ◆wa1a4mh476
08/12/28 07:45:36
「友だちと旅行を兼ねて」見舞いに来た孫娘に、幸造は話して聞かせる。
最近はいくらか状態が落ち着いたものの、自分の年齢を考えればこれが
最後かもしれないのだ。息子夫婦とはついぞ疎遠のまま、今後も会える
機会はないのだろう。親族らしい親族といえば、時々息子夫婦の元から
抜け出してくる、この奇妙な孫娘くらいしかいない。その孫娘には、、、
せめて、若くして死んでいったキヌ、彼の妻のことを覚えておいて欲しかった。
「結核検査をするのに、最近は簡単なミジット法ってのがあるんだが、
昔は卵にリン酸水素塩だのマラカイトグリーンだのを混ぜたコロイド液で
小川培地なんてのを作る必要があってなあ。次から次へと患者が
来るものだから、キヌは――お前のお婆さんは――毎日毎日
朝から晩まで卵割りさ。しまいにゃ自分まで感染してサナトリウムで
死んじまったがね・・・」
幸造はベッドの上で力なく笑いながら、ふと視線を落とす。
当時、医者として現場を指揮していた彼は、今でも時折、取り留めの
ない自責の念に苛(サイナ)まれた。あの時、看護婦たちの衛生状態を
改善しておけば・・・婦長であったキヌを死なせずに済んだかもしれないと。
キヌを含め、多くの看護婦たちが危険な労働環境にあることを、当時の
幸造ははっきりと認識していたのだ。それでも、結核の未曾有の流行と
あまたの死に行く人々を前にした時、彼には、検査効率を落としてまで
彼女たちの衛生環境を改善するという選択肢が取れなかった。
そして時を置かずに、彼の決断による犠牲者が出てしまった・・・
ただ最近は、どことなくキヌに似てきた孫娘の横顔を見つめながら、
己れの生涯を結核医療に捧げてきたこと、そしてそう遠くない未来に
キヌと同じ病、結核で死ぬだろうというアイロニーに、幾ばくかの
誇りと喜びを覚えることもある。
孫娘はもうすぐ高校を卒業し、この春からK大学の医学部へ進学するそうだ。
135:人形師 ◆wa1a4mh476
08/12/28 07:50:08
次のお題は、、、「青汁」「カメラ」「枕」で。
136: ◆DinfA5bnxE
09/01/06 03:36:51
通学途中の駅に立ち食いそば屋がある。
降りる用はないから、わたしは電車の窓の内側から見かけるだけ。
ホームにある店なんか安かろう悪かろうで、味もたいしたことないのだろう。
でも冬の寒い日に、券売機ののぞくドアから温かそうな湯気が見えると、
なんとなく入ってしまう気持ちもわからなくはない。
ある日、やはり通学途中に、ブシュンという音を聞いて、わたしはケータイから顔をあげた。
スプレーを吹きかけられたように、窓が緑色の液体を浴びていた。
そば屋の前に、出勤前だろうか、スーツを着たお姉さんが立っていた。
口の周りが緑色になっていても、きれいな顔をしていた。
そんな彼女と目があった。
ケータイのカメラで撮っていたのではないかと思われたかも。
電車が動き出した。わたしは想像する。窓についた液体は、おそらく青汁だ。
若くてきれいな女性が朝から駅のそば屋で青汁を飲む理由。
失恋……? だとすると、昨夜は枕を濡らしたのだろうか。
大人の恋は、わたしにはまだわからない。でも、とても苦そうだ。
次は「五月雨」「葉桜」「もう、戻れない」でよろしこ。
137:sou
09/01/07 01:06:12
あの日。見慣れた街並みが見る間に廃墟へと変わった、あの日。
人の持つエゴの最も愚かな形での発露、すなわち戦争は、突然に僕らへ降りかかった。
鳴り止まない爆撃と砲撃の音、そして悲鳴。肌も心も、そして未来さえも焼き尽くす炎の熱。
硝煙と焦げた肉の放つ異臭が混じりあう大気。何もかもが脳裏に焼き付いて離れない。
そして今、どす黒い五月雨の降りしきるなか、すべてが引き裂かれたこの街で、
僕はかつて愛した女性をようやく探しあてた。
とうに息絶え、泥水のなかに無残に打ち捨てられていた彼女を。
傍には、いつも僕らが見上げて過ごした桜の木が、幹だけを残し立っている。
僕はゆっくりと彼女を抱き起こし、胸に抱いた。
白い花吹雪くなかで夢を語り合った季節を、葉桜の隙間から漏れる陽光にまどろんだ日々を、
彼女と歩んだ無数の時間を反芻しながら。
なぜだろう。もう二度と笑顔を向けてくれることはないというのに、
かつてないほどに、彼女を愛おしく感じるのは。
なぜだろう。枯れたはずの涙がいつまでも止まらないのは。
僕は桜の木の根元に彼女を横たえ、携えていた銃を構えた。軍靴の音が近付いてくる。
「もう戻れない。わかってる。それでも僕は行くよ、奴らの血で贖わせるために」
希望に溢れた記憶を胸に、僕は絶望の戦場へ駆け出した。
138:sou
09/01/07 01:11:32
楽しんで書けたお題でした。ありがとう。
次は「雪」「凍てつく」「あたたかい」でどうぞ。
139:名無し物書き@推敲中?
09/01/07 06:22:35
ゴー。。。ゴー。ゴ―――。
深夜、ローカル単線路の上を雪上車両が掻き分けてゆく。
舞う粉雪のなか、凍てつく氷結を砕き、軋む雪を跳ね上げ……
煌々と照らし出せれた後ろの空間へ吸い込んでゆく。
ああ、帰って来ることが出来たんだ、この町へ。
懐かしさに胸が熱くなる。
もう、帰って来ることは出来ないものと、諦めていたのに。
……春になったら、君を埋めた桜の下で、きっと逢おう。
頬を流れる涙は、あたたかい命の慟哭。
140:名無し物書き@推敲中?
09/01/07 06:23:21
「ローカル単線路」って変ですが、、、駄文失敬。
お題は、継続でお願いします。
141:名無し物書き@推敲中?
09/01/07 08:30:26
降りしきる雪の中、私の声は届かなかった。
けど、私の方には聞こえていた。必死に私の名を呼ぶあの声が。
泣こうが喚こうが事態は変わらないと悟っても、
自分という存在のあまりの軽さに失望しても、ついに諦め切れなかった。
そして今日という日、私はようやく日本海に面したこの街に還って来た。
長かった……
停留所でバスを降りると、そこには懐かしい風景が広がっていた。
松林の向こうには眩いばかりに輝く蒼い海。
遠い昔、当たり前の日常と思っていたこの光景が、今は贅沢なもののように思える。
海岸に沿って歩いていると、崖の上に人影が見えた。
腰が曲がり、杖をついて彼方をじっと見ている。
ああ……
あたたかい春だというのに、あの人は凍てつく寒さの中に今もひとり立っている。
私は力一杯の大声で呼んだ。
お母さん、ただいま─
次は「演歌」「ライバル」「下水道」
142:sou
09/01/10 23:38:48
「ドブネズミのように美しくなりたい」そう歌ったロックスターがいた。
初めてその曲を聴いた瞬間、俺は涙を流した。言わんとしている意味は今でもわからない。
それでも、力強い言葉の響きは、胸の奥を深く抉った。
やがて俺は仲間達とバンドを組み、歌い始めた。誰かの心に深く届く曲を作りたい、その一心で。
大学は中退した。家も飛び出した。それだけの覚悟があったからだ。しかし現実は甘くなかった。
共にライブハウスを巡ったライバル達は、音楽性を世間の流行に順応させることで、
次々にメジャーへの切符を手にした。
対して俺達は音楽的な拘りを捨てられず、いつまでもうだつのあがらないまま。
いつしか現状を嫌ったメンバーは散っていったが、残された俺はギターを抱え、街角で独り歌い続けた。
「よう、兄ちゃん。演歌を一曲弾いてくれたら千円やるぜ」
酔っ払いの冷やかし半分の提案に、思わず乗りそうになる。そういえば今日は朝から何も食べていない。
空は今にも雪が降りそうな雲行き……寒い、ひもじい。これが自分に正直に生きた成れの果てか。
下水道で生きるために懸命にもがくドブネズミと、自分の姿が重なる。
「……そうか!」俺の中で何かが弾けた。心の中に点在していた言葉が、ひとつにまとまり溢れてくる。
無意識に、右手が勢いよく弦をかき鳴らし始めた。
「―迷わないで、志すひとよ。たとえ打ちのめされ、ドブネズミと蔑まれようと、君は美しい。
流されないで、誠実なひとよ。引きずり落とされ、ドブネズミと罵られようと、君の生は尊い―」
即興の曲を歌い終わり、周囲を見渡すと、今まで見たこともない大勢のギャラリーが並んでいた。
そして演奏の余韻が消えるやいなや、唖然とする俺を嵐のような拍手が包んだ。
「俺、間違ってなかったんだ……」人目もはばからず、俺は泣いた。
143:sou
09/01/10 23:48:50
長くなりました。
次は「カナリア」「思い出せない」「旋律」でどうぞ。
144:名無し物書き@推敲中?
09/01/11 11:08:04
「宿題終わってるよね? 貸して!」
今日も彼女は悪びれることなくそう言った。
宿題くらい自分でやれとかねがね思っている。しかし私が彼女にノートを差し出さない日はなかった。
これは当然の流れである。人生という一つの曲において、彼女が旋律で私が伴奏なのだから。
容姿淡麗でいつも笑顔を振りまき溌剌な彼女。それにくっついている引き立て役の私。
私と彼女は幼なじみだが、物心ついた時から主役はいつも彼女だった。
仕方ない、私はブスで根暗なんだから。仕方ないんだ……。
「えっちょっとどうしたの!? 何泣いてんの!?」
彼女に驚かれ、私は涙が頬を伝っていることにようやく気付いた。
「あなたは良いよね、旋律で……! 私なんて、所詮あなたを引き立てる伴奏なんだから!」
気付いた途端、涙も言葉も溢れるように出てきた。ああ、惨めだな私。幼なじみに嫉妬して酷いこと言って。
145:>>144続き
09/01/11 11:10:36
「……何馬鹿なこと言ってんのあんたは!」
不意に彼女が叫んで私はびっくりした。彼女は目を涙で一杯にして、肩を震わせている。
「昔から、私は優しいあんたにずっとくっついていたの……今日も私はあんたにノートを借りて必死にくっつこうとしているじゃない。思い出せない? あんたと初めて会話した時話し掛けたのは私だったってこと。私にとって、あんたは優しいメロディーを歌うカナリアなのよ!」
抱きしめられた。力無きその腕では倒れてしまいそうだったので、私も抱きしめた。
携帯の事情で二つに分けました。規制死ね。
次は「朝食」「猫」「墨」
146:sm ◆ley8NheQbk
09/01/11 11:44:11
墨田猫吉が寝床からもぞもぞと起き出したのはまだ四つも打たない時分で、なぜ猫吉がそんな柄にもない早起きをしたかというに、お江戸で流行っているという霊験あらたかな“猫の墨煮”をば朝食へといたしなさらしめけんやと、
うつらうつらの猫めらをひっとらえんとしたわけで。
「あいや、いやった、これ猫め、神妙にいたせ」。
「にゃあ」とは猫。至極平然としている。
「うぬう、こやつめ、愚弄しおるか。いざや、さあ」。
猫吉がいさんで飛び掛かるも、猫は海中のイカが墨を吐くごとくぷわっと空中に空墨を吐いて遁走。
猫吉のたまうに、「超、ショック~」。
お題は「リンゴ」「ゴリラ」「ラッパ」。
147:名無し物書き@推敲中?
09/01/11 15:04:44
今、彼と正面から組み打てるのは赤道直下の密林に住む大猩猩ぐらいだろう。
肺を患って入退院を繰り返す私から見て、彼はまさにゴリラだった。
たとえ私ほど貧弱でないとしても、彼の剛体を見て一歩あとずさることがない同期生はいなかったと思う。
胸部から腹部にかけて巨大な板チョコレートのごとき装甲が並び、巨大に盛り上がる関節から
伸びる四肢には二重三重に蛋白質が巻きついている。稜線も極端に顕著であり、
したがってそれに付着する筋繊維は想像を絶するものと思われた。
外見に於いて、彼の音楽的才能を予測しえたものは皆無と言ってよい。彼の趣味は飲酒ぐらいしか
認知されていなかった。野外かまわずウヰスキーを瓶から一気飲みする姿の印象の強烈さと、
肩まで垂れるザンバラ髪が、耳元にあるIpodをほぼ完全に覆い隠しているせいもあるだろう。
彼の喇叭飲みがその恐怖を煽り、その向けられる恐怖の眼差しが彼を酒に追い込む。
全く理不尽なことに、こうして彼は文武両道にも関わらず文武双方からアウトサイダーであった。
運動が嫌いではないのだろうが、体育会系の騒々しい連中と長くともにあるには、感受性を少々過剰に持ちすぎていた。
僅かでも操作が狂えば弦など簡単に掻っ切ってしまうだろう鋭硬な爪が、今日も
楽譜を辿りはじめ、奏でるのだろう。
耳元からながれこむ調べと同じ、彼が置かれた境遇と同じ、センチメンタル・ジャーニーを。
148:名無し物書き@推敲中?
09/01/11 15:05:48
「アイスコーヒー」「洗濯物」「犬小屋」
149:名無し物書き@推敲中?
09/01/11 23:31:10
「暇ですね。」
心地よい昼下がり。風にはためく洗濯物。バルコニーのテーブルで私と娘は穏やかな時間を過ごしていた。
「暇ですね。」
犬小屋から見える前足と鼻。愛犬のクロも暖かい陽気にのんびりしている。
「アイスコーヒーでも飲みますか?」
テーブルに持たれていた娘が急に起き上がりそう言った。
「賛成。」
ちょうど何か冷たいものが飲みたいと思っていた私は直ぐに娘の意見に同意した。
しかしそのときだった。私の頭の中を何かがよぎった。何だろう?この感覚?既視感。そうだこの場面は以前にもみた事がある。どこでだろうか?思い出せない。ここで起こった事?いや、そうじゃない気がする。とても似てはいるがここでじゃない。じゃあどこで?
次第に言いようのない不安に駆られる。形のないものほど、理由のないものほど恐ろしいものはない。
「大丈夫?」
アイスコーヒーを持って戻って来た娘が心配そうに見つめている。
「ああ、うん、大丈夫よ」
そういって私は娘を強く抱きしめた。しかし私は震えていた。急に沸き上がったこの形容の出来ないもどかしさに。拭えない影に。私はいつまでも怯えていたのだった。
150:名無し物書き@推敲中?
09/01/11 23:32:50
次は「看護婦」「昇降機」「非常階段」でお願いします。
151:ケロロ少佐 ◆uccexHM3l2
09/01/13 11:46:30
「看護婦」「昇降機」「非常階段」
私は中村康子。この病院で看護婦(看護師)をしています。
テレビや新聞では今、医療体制の危機とか言われていますが私のいるこの病院は不思議と何の問題もなくとてもいい所なのです。
「あっ!おはよう!佐伯さん今日もお元気ですね」
ああ行っちゃった!
あの人は、みんなから《昇降機》さんと呼ばれている患者さん。
ああして暇な時はエレベーターに乗り上や下へ楽しく行ったり来たりしているんです。
そしてあの非常口ドアの近くに立っている人は木村さんで《非常階段》さんと呼ばれていて、いつも非常階段のある場所を指先確認して周っている患者さんです。
ほんとウチの病院は面白い患者さんたくさんいます。
「あっ!おはようございます!婦長!」
「はい!すみません。病室にすぐに戻ります…」
「だめですよ!中村さん。また看護婦の姿で院内を歩き回ったら!!」
彼女、中村康子さんはこの病院では《看護婦》さんと呼ばれている患者だった…
152:ケロロ少佐 ◆uccexHM3l2
09/01/13 11:47:18
お題は継続でお願いします。
153:名無し物書き@推敲中?
09/01/14 04:23:25
看護婦・昇降機・非常階段
「君は昇降機だ」
「私は見ての通り看護婦よ」
「見てくれの話じゃない。そして僕は非常階段だ」
「…その心は?」
「二つとも本質的には物質が上下に運動することにある。でも場合が違う」
「ふむふむ」
「昇降機は動力自体が別にあるから乗る意思とほんの少しの労力で移動ができる。それに対して非常階段は意思とともに多大なそれを必要とする」
「あぁ、昇降機に乗る人、非常階段を上がる人ってことなのね。上に登るってのも言い得て妙だね」
「細かいことはいい。で続きだが、昇降機は日常で使うものであり、非常階段は名前の通り非日常で使われる」
「私よく使ってたけどなぁ」
「それはさておき、君は今テレビを見ている。とても日常だ。そして僕を見てくれ。これが日常か?」
「確かにそれが平素なら嫌過ぎるね」
「それは理不尽すぎると思わないか?」
「非常階段さんは回りくどいね。昇降機がいいならストレートにいいなよ」
「……せっかくの騎乗位なんですから動いてもらえませんか?」
154:名無し物書き@推敲中?
09/01/14 04:24:59
お題忘れてた。目に付いたもので
「知恵の輪」「紅茶」「香水」
155: ◆DinfA5bnxE
09/01/14 05:18:03
その急患が運ばれてきたのは、文子が壁の時計を見上げたときで、
あと五分で夜勤があけたのにと心の中で愚痴をこぼした。
事務室から廊下に出て、小走りする看護婦に状況を聞いた。
喫茶店でガス漏れが原因らしい爆発があったそうですと言った。
手術室に行く途中で、ストレチャーに乗った患者に追いついた。
うっすら目を開いた患者は「がんばって」という声を聞いた。
(……おばさんの香水のせいで紅茶の香りが台無し……って、あれ、ここは、どこだ……)
体を動かそうとしても動かない、視界はぼやけたままで、耳だけが機能している。
エレベーター故障してんじゃないの? 器具運搬用の昇降機は? 遠いです!
非常階段を使うわけには行かないし─そんな声が響いているのがわかる。
遅い! オペの準備は? の声と同時に、戻ってきた視力が動く天井をとらえた。
(……もういいよ、失恋したばかりだし……生きてたって……)
ちょっと! 何このエレベーター、ボタンがないじゃないの!
でもドアはもう閉まっちゃってますよ!
(……何だ、何が起こってる? 見えないし動けないのに、気になるじゃないか……)
もうこの際、天国まで上がっちゃいな、あひゃひゃひゃ! せ、先輩、落ち着いてくださいっ!
エレベーター内に設置された防犯ビデオには、一瞬の砂嵐が起きるまで、確かに三人は映っていたという。
そこで怪談をしめたが、隣のベッドの子供は中断していた知恵の輪を再開した。
「前に看護婦さんから聞いたことある」
なら、早く言えよ……。
「ほんとうはエレベーター事故で三名とも死んだんだよね」
「マジ!? ここの病院?」
「嘘」
「寝るわ」
長くなってスマソ。
次は「先輩」「わたしのつくったお弁当」「食べてください」でよろしこ。
156:アシュレー ◆r1if.ivhdg
09/01/14 23:19:59
「先輩。私の作ったお弁当。食べてください。。。」
誰もいない部屋の中、つきだした両手で持つソバ殻の枕に向かって発した言葉は、虚空を切り裂くような
無音の冷気に飲み込まれる。キンキンに冷えた氷の刃をのど元に突きつけられたように、美沙は首を
ブルッと震わせた。寮の壁が揺れる。
「うー、サブい! んなこと言えねっつの」
ドアが開いた。
「ああ、いただこう。できればアーンってしてほしいね」
美沙が振り向くとマチャコが宝塚ふうに両手を広げてニヤニヤしながら見ている。
「ちょっと。あっち行って」
ブーたれた。
「おっと。てのひら返しかい。お弁当で釣っておいて、そりやあ無いぜえ」
にやにや。
「やっぱりさあ、お弁当渡すのやめようよ。つまんないよきっと」
「だめえ。罰ゲームは絶対に絶対だよ。途中下車はできないの。人生と一緒よ」
「人の恋路を罰ゲームにして楽しもうってヤカラが人生語ってるよ」
「人生なんて罰ゲームみたいなモンよ」
マチャコは、自分でも自分の言っていることがよく分かりませんとでもいうように、首をくねりくねりと揺らしながら言った。
最後に「はは」とふやけた笑いを足す。
しかし、これはチャンスかもしれない。うまくいけば言うこと無し。ことわられても罰ゲームだからってことでいいわけ可能。
でも、いいわけは外向け。内側ではがっくり来ちゃうよいいのかい。いいわけないけど、でもでも、なんとなくうまくいきそうな
予感もあるし。うまくいったらウホー。鼻息荒くなりそう。そうだ。ディズニーランド行こう。行こう行こう。って一人で行くことに
なったりして。一人でディズニーランドなんて行ってたら死にたくなるかも。シンデレラよ。私の死を見届けてちょうだい。ああ、
息を引き取るその瞬間。先輩。私の作ったお弁当。食べてください。それが私の遺言ね。さらば先輩。ああ麗しの高校三年生。
バタリ。
ベッドに倒れ込んだ美沙の肩を叩きながら
「ちょっと。妄想はもうそうれくらいにして」
とマチャミが言った。
涙があふれてきた。
157:アシュレー ◆r1if.ivhdg
09/01/14 23:27:41
次のお題 アフロ 目玉 天秤
158:名無し物書き@推敲中?
09/01/15 09:49:17
アフロ・目玉・天秤
「話を聞かせてもらってもいいかな?」
向かいのソファーには美しい少女が座っていた。まだ義務教育課程にあるはずの少女だが、その美麗な様は-表現が難しいが-『完成されてしまっていた』。
まるで自分好みの絵画を鑑賞するかのように、目を惹きつける。
私でさえそうなってしまうのだから、隣に座っている後輩の小林はなす術もない。手渡した資料など目も向けずに彼女を注視している。脛を蹴ってやると慌てた様子で手元に目を落とした。
「今度の刑事さんは男性なのですね。男性や外の方とお話しするのは久しぶりで少し緊張してしまいます」
美しいものは声までこうも心地よく聞こえるものなのかと感心する。
「今日は何のお話でしょうか? 前回の誘拐事件は犯人が捕まったとお聞きしましたが」
少女は常習の被害者であった。人は美しいものを見ると様々な行動をとる。それが良くないベクトルに向く者もそう少なくない。
「いえ、今回はもう一度始まりの話をお聞きしたくて伺いました」
少女はやわらかく微笑んだ。息を呑む気配がしたので、顔を向けずに小林の脛を蹴った。
「お祈りをしていただけなのです。毎朝お星様に向かって。そしたら女神様が現れて願いをかなえてくれるといいました。私は綺麗になりたいと願い、今を与えられました」
「失明したのはその時に?」
「はい。傾いた天秤を戻すには両の目玉が必要と言われました。それについては後悔していません」
「先輩はどう思われますか?」
シートベルトを締めながら小林は言葉を求めてきた。その言葉にしづらい何かは私も感じていた。
「どうもこうもない。資料にあった通り、不仲な両親によって崩壊寸前だった家庭が、娘の変貌により仲睦まじい家族になれたって話だ」
「いえ、そうじゃなくて……明け方の星・天秤と言ったら金星ですよね。よくビーナスとかアフロディーテといった美の女神に表されていますが」
「この仕事は想像を膨らませすぎないほうがいい。確かなものだけを追えばいいさ」
確かなことは二つ。
彼女は美しさを手に入れた。それは同性愛者である私でさえ魅せられるものだ。
そして、盲目となり、危険に晒され、外出も禁止されたが、今彼女は幸せであるということだ。
次のお題「電子辞書」「輪ゴム」「トマト」
159:名無し物書き@推敲中?
09/01/16 01:57:53
変な輪ゴムを拾った。
伸びるのは普通なのだが、挟んだものが消えてしまう。
消しゴム、鉛筆、筆箱、みんな消えた。これはちょっと後で困った。
給食に出た苦手な人参とトマトも消えた。
飼育小屋の兎を捕まえて挟んでみたら消えた。ちょっとまずかったかもしれない。
自分の指をゴムで挟んでみた。ドキドキしたが、指は消えなかった。
でもちょっと変だ。学校がピカピカになってる。
教室のドアが勝手に開く。自動ドア? 机はあるけど椅子がない。
チャイムが鳴った。でも誰もいない。先生も来ない。
足下に何かが当たった。さっき消えた兎だ。
机の中には消しゴムと鉛筆と筆箱、それと国語の電子辞書があった。
試しに「わごむ」と入力してみる。
ワ─ゴム(輪ゴム) 明治初期にアメリカ合衆国で開発された次元・時空移転装置の総称。
危険物取締法により現在では使用を禁止されている』
なるほどね。
次は「金星」「禁制」「均整」
160:名無し物書き@推敲中?
09/01/17 22:40:21
近世の金星は,男子禁制であるが男女比の均整を取るために,女子は心の琴線にふれる金製の謹製肉棒を金銭を払い購入し子どもを作ろうとしているが,長老である金さんが忌諱せんとするので,超高齢社会になってしまっている。
お題「ボール」「イヤホン」「塩化カルシウム」
161:名無し物書き@推敲中?
09/01/18 13:55:00
ゾルレンは橇(そり)から降りると、クッションボールを膨らませた。
眼前の急勾配には、白い塩化カルシウムの粉が点々とだまになっている。
凍結防止用の塩化カルシウム(CaCl2)の容器が置かれているのを
グリッパー達が転がして遊んで行くのだ。
ゾルレンは4つ、クッションボールを頑丈な橇底に繋ぎ留め、
エンジンを吹かす。
「えいやっ」
(グリッパーなる輩はどうも不躾でいけない)
ゾルレンは難なく坂を3バウンドで降りる。少し遅れて、カー族が取り締まりに
仕掛けた閃光気弾が炸裂した。
ゾルレンは、少し肩を竦める。以前、グリッパーが忘れていったらしいのを拾った
音ポッドのイヤホンを耳に挿す。鼻歌交じりに雪山を疾走。
ゾルレン?、音ポッド?、う~ん、、
次は「海,空,マフラー」でお願いします。
162:名無し物書き@推敲中?
09/01/19 08:04:03
海を見に行きたかった。どこまでも続く青い絨毯。風の気紛れで姿を現す水面のパンチラ。
祖母に編んでもらったマフラーをポケットに押し込んで、錆び付いたべスパに跨りキーを回す。
生垣の迷路をまるで決められたルートを滑るように走り出す。冷たい雪風がコートの襟元から
私の胸を凍てつかせた。それなりに舗装された細い坂道を下っていくと、枯れ木のシルエット越しに
海が見えた。祖母が愛した海だ。あの水平線の彼方、太陽が昇る時刻になると、決まって祖母は
「朝だよお爺さん、そっちの夜は冷えるだろうに。いま線香をあげるからね」
そう言って仏壇に明かりを燈していたっけなぁ。
浜辺に轍を残しながらマフラーを首に巻き、灰色の空の下、祖母の指定席に腰を下ろす。
二人のぬくもりが私の胸を切なくさせた。
次は~「反射,影,涙」で。
163:名無し物書き@推敲中?
09/01/20 17:16:20
「反射,影,涙」
とっぷりと暮れた冬の夜。木下誠は娘の手を引いて雪の道を歩いた。
共働きの木下家では、先に仕事を終えた方が娘を迎えに行くことになっていた。
今日は二人とも残業だったため、午後九時までの延長保育を頼んだのだった。
ぽつぽつとした人通りの並木道は、街灯の明かりでほんのりと明るい。
「寒いね」と誠が言えば、娘の千絵が買ったばかりの赤い手袋をかざし、
にっこりと笑って「大丈夫」と答える。娘のけなげさが誠にはいじらしい。
大切にくるみこむように娘の小さな手を握り、誠はさくさくと雪を踏みしめて歩いた。
突然、背後から軋むような音がした。危ない!と誰かが悲鳴を上げる。
誠が顔を向けると、雪にタイヤを取られたトラックのバンパーが目の前に迫ってきた。
スリップした車をよけようと反射的に身を捩る。刹那、腕にがつんと激しい衝撃が伝わった。
繋いだ指からもぎ取るように、千絵の体が誠の手を離れ、宙に跳ね上がる。
まるでスローモーションのように時間がゆっくりと流れた。
「千絵」かすれ声で名を呼んでも、積まれた雪の上にふわりと落ちた小さな体はピクリとも動かない。
「誰か、救急車を早く・・・誰か・・・千絵、千絵」倒れたままだらんと力の抜けた子供を腕の中に抱き込み、
誠はうずくまった。頭は真っ白だが涙はぼろぼろと流れる。「千絵・・・どうして」
「あの・・・すいません、なんて言っていいか・・・」背後から影が差し、運転手の震える声が聞こえた。
殺してやる、誠の胸に凶暴な怒りが満ちる。このやろう、ふざけやがって!
振り向いた誠の目に、驚きが浮かんだ。「あんた・・・」運転手の男も、同じように目を見張った。
「・・・だから酒は飲めないって言ったのに」半べそで男が続ける。「あんたが無理に飲ませたんだ」
「なんとでもしてやる、おれの酒が飲めないのかって・・・見ろよ、どうしてくれるんだ?え?」
今日の接待で土下座して固辞する男に、笑いながら無理に酒を勧めたのは誠だった。
しんと静まりかえった白い世界の中、男二人の号泣が響き渡った。
次「海、シロクマ、手紙」
164:名無し物書き@推敲中?
09/01/20 18:48:22
海 シロクマ 手紙
遠い海を渡って手紙が届いた。「ジャッカル」からだ。
執行人が動き出した。残りは「シロクマ」お前と俺だけだ。順序からいって次はお前だろう。死にたくなかったら逃げろ。もっとも俺と同じでお前も逃げる気なんて無いだろうが……。
毎年皆でいってた旅行、去年が最後になっちまったな……。 まあまたあっちで酒でも飲もう。それじゃあ。
揺り椅子にもたれる。繰り返す波の音、優しく撫でる風。あまりに穏やかすぎてこの平和が無くなるとは想像しにくい。
だが調整者の意志は絶対で執行人が失敗する事はない。息子や孫たちと別れるのは寂しいが。もう十分生きたし、裁かれるだけのことも確かにしてきた。
これで罪が贖われるとは思えないが。私が死ぬことで終わるなら受け入れよう。
昔の事を思い出す。任務から戻ってから後の記憶だ。それ以前の記憶はあまり引っ張り出したくない。妻との出会い。息子と三人の暖かい生活。やがて息子も結婚し一人だった私に沢山の家族ができた。
ふと気付けば夕日はもう半分まで海に溶け辺り一面を黄金に染めていた。
「幸せだった」
不意に零れた言葉だったがそれには全てを肯定するような、抱擁するような響きがあっ
165:名無し物書き@推敲中?
09/01/20 18:52:00
最後の二文字入ってねーorz
次は「無限」「有限」「根源」で
166:名無し物書き@推敲中?
09/01/21 22:53:08
古色蒼然の草原で,幽玄の風景に欣然と,空を仰いで大言連ねる。
―ああこの青玄の下にいる,末節な人間の根源を,不肖な手前が解決せん。
それを上聞し老人は,哀傷を顔に表し言う,まさに大海撈針,どうして為せるというのだ,と。
ところが青年は毅然と返す。
―無限に見える空や雲さえ,有限の物というのなら,どうして成せぬというのでしょう。
167:名無し物書き@推敲中?
09/01/21 22:54:01
次題「暮色蒼然」「沢山」「抱擁」
168:名無し物書き@推敲中?
09/01/22 18:11:41
<金星のアルコールを供するを生業とする店(『有限会社シロクマのマフラー』)にて。
うらぶれた店内。煤けた貼り紙に「塩化カルシウムあります(雨季限定)」の文字。店主一人に客一人。
店主は補聴器の角度を弄ってみせている>
客 :おい,『暮色蒼然』だよ。
店主:旦那,勘弁でっせー。先からの贅沢禁止令で地球産のホロ酒は,ご禁制の品でさー。
客 :ほー,沢山(さわやま)って仲買人に,こっちの店では,まだ,在庫がたんとあるって聞いたなべ。
店主:無限って訳やま。常習すると「分極性根源不均整症候群」で終わりなごや。イヤホント。
※ナ:客,内股の装甲をでんぐり返し。鈍色の物体をば,ちらつかす。店主,アイを点滅反射させ
涙の偽装。埃深き棚の奥より取り出したるは,空(から)と見まごうシリンダー。内容をボール型の
チューブに注入,差し出したり。
店主:これは,秘伝のお手製。銘はございやせん。
※ナ:一口啜ると,双電脳巻板に地球の海辺,夕暮れ時が展開す。二口,斜光に逆光に残光。影,迫り来る。
三口,始原の肉体にて,飛び抱き掛かり付くあの娘。暮色蒼然,波音のなか,抱擁を反し,
沢山の接吻を――。店主,炉心の制御棒を抜き取りてから,痙攣,抜け殻の客を廃キッス。
店主,戻り際,郵便受に,かの地よりと思われし手紙をみ…めた。
(水戸,入ってねーorz)
次は、『旅,温泉,南』でお願いします。
169: ◆DinfA5bnxE
09/01/25 22:57:27
(旅に出て忘れられれば苦労はしないよな……)
観光バスの窓から高速道路のガードレール越しに流れていく山脈を眺めた。
「まもなく談合坂サービスエリアです」
バスガイドがマイクを通して告げた。
「談合だけに、団子が名物です」
「……」
「歌もあります。♪~ダンゴ、ダンゴ、ダンゴ、ダンゴ、ダンゴ、だいかぞくぅ~。はい、みなさん、ごいっしょに!」
「……」
その前の週、俺は一通のメールを趣味仲間の女性に送った。
─事情があって、もう連絡は取れない。
好意が恋にならないうちに、と、そう書いた。
【南アルプスを一望できる天空レストランでランチ】
煙と馬鹿は高いところが好きだという。俺は煙ではないが、気づいたら申し込んでいた。
注意書きに「ぶどうの丘でタートヴァンでの試飲を天空の温泉に変更することができます」とあった
が、メインは「甲州ワイン・ぶどうの丘で180種のワイン試飲」だ。
いっそワイン温泉風呂なら、良い感じに酔いつぶれたのにな。
「♪~嬉しいこと 悲しいことも 全部丸めて」と、ガイドが歌い終えた。
俺は泣いた。
実は半ば創作、半ば実話になりそうです。
URLリンク(www.kyouryokukai.or.jp)
2月14日に一人旅ワインめぐりですよコンチクショー。
次は「青」「夜」「後悔」でよろしこ。
170:名無し物書き@推敲中?
09/01/27 10:16:41
貴方からの電話を待ってます。死んだ小鳥みたいに小さくなって。ずっと待ってます。アパートは私から伸びた荊で覆われて、壁も窓も塞がれたのでもう今が昼なのか夜なのかも分かりません。でもうるさい大家さんも来なくなったのでそれは助かりました。
テレビは点けっぱなしにしてあります。なにがやってるのかはわかりませんが。点けないよりはいいと思って。
食欲はありません。食べ物より貴方の声が聞きたい。
雨の音がします。外は雨なのでしょうか。それともこれは受話器から聴こえる音でしょうか。私が感傷的になっているのでしょうか。今目の前に青い水滴が垂れ落ちました。やはり雨のようです。
ああ、声が聞きたい。そして叱って欲しい。そして出来れば… 許して欲しい。後悔……。 もう終わりなのでしょうか?元に戻らないのでしょうか?ああ、声が聞きたい……。
雫の単調なリズムに少し眠たくなってきました。でも眠りません。いつかかってくるか分からないから。一秒でも早く取りたいから。誠意の気持ちを知ってほしいから。
気付けば雨の音は止んでいました。床の水たまりもすっかり乾いていました。私はふと思いました。この電話は貴方と繋がってるのかしら?