07/09/04 22:39:06
「右手の小指からにしようか」
真之介は右手の果物ナイフを真希の爪の間に差し込んだ。白桃を切るように、白い指へと銀色の異物は押し込まれていく。
プツリという音がして、赤黒い液体がナイフを伝う。
口に下着を突っ込まれた小指の持ち主である真希は、顎を上に向けて呻いた。
板張りの床に頭を何度もぶつける音が響く。
「ほら、言うことを聞かないから、こんな風になるんだよ。小指が無くなっちゃうかもしれないけど、いいのかなぁ」
真之介はおどけた調子で言う。
真希は涙をためた目でちぎれそうなほど首を振った。小指が無くなってしまっては、まともな生活が送れなくなってしまう。こんな異常な状況におかれても、真希はなぜかそれだけを考える事は出来た。
真之介はどこから持ち込んだかわからないガスマスクのようなモノを被っている。それ以外は何も身につけていない。全裸だった。陰茎は肥大している。
セーラー服を着ている真希とは対照的だった。
こんな男だなんて知らなかった。真希は目を見開いて真之介の行動を追う。
三十階建ての瀟洒なマンションの二十八階。
「鉄人二十八号みたいでいいだろ」
そんな風に真之介がエレベーターのボタンを押しながら言ったのを真希は覚えていた。鉄人二十八号の事を真希は知らない。
黒で統一された家具に、白い壁紙、壁際にはひときわ大きなオーディオが置かれた部屋。
オーディオからは訳の分からないノイズの様な曲が流れている。真希が何の曲と聞いた時に、真之介がスリップノットとだけ答えた。それが曲名なのか、演奏者の名前なのか真希にはよくわからなかった。
薄紫色の携帯電話が真希の無傷の左手の方に転がっている。手を伸ばしても届きそうにない。
「こんな所に簡単に付いてくるからこういう事になるんだ。ママに教わらなかったかい?」
それは怪しい人の時はもちろんそうだ。真希はそう思う。それでも怪しい人は見分けが付かない。生まれた時から東京に住んでいるのに、未だに分からなくて痛い目を見ている。
今日のは特別危ないのかもしれない。真希は天井の間接照明の薄暗い光を見つめて瞬きをする。