07/09/03 01:28:49
その日、高杉広実と出会ったのは偶然だった。久しぶりの休日なのでたまには自分で昼食でも作ろうか、
と思って冷蔵庫を開けた私は、中にはビールとつまみばかりという惨状を認めると一瞬でそんな気持ちを
失って、結局近くのファミレスに行くことにした。そしてウェイトレスに連れられて空いている喫煙席へと
向かっている時、ちらりと向こうの禁煙席に座っている制服姿の学生が目に入ったのだ。
私はウェイトレスに一言伝えて席の案内を取り消すと、まっすぐ禁煙席の方向へと歩きだした。
「やあ、ヒロザネくん」
私が気さくに話しかけたのにもかかわらず、高杉は顔を本からこちらへ向けると、眉間にしわを寄せて
睨んできた。心なしか、殺気というやつも含まれているのだが気のせいか? 私は苦笑をしながら高杉の
対席に滑り込んだ。
「いやあ、それにしても奇遇だね」
私はにこにこと笑顔を浮かべる。のだが、依然として高杉はこちらを睨み続ける。ふむ、こういう人物の
相手は難しいものだ。微塵も好意を持ってくれない。
私は改めて高杉の様子を眺めた。テーブルの端にドリンクのコップがある。これはドリンクバーのものだ。
そして手には一冊の本。かなり分厚い。私にはとうてい読めそうにもない。
で、あるのはそれだけだった。まあ、なんとなく分かったがあえて訊いてみる。
「きみも昼食かい、ヒロザネくん?」
「まず言っておきますが」
そこでやっと高杉は初めて口を開いた。眉間に指を当てて、迷惑げな面持ちで。
「大原さん、その呼び方は止めてもらえますか? 苗字で呼んでください、苗字で」
「うん? いい名前じゃないか?」
「…………」
うお、殺気百パーセントの視線で睨まれた。これはさすがにヤバそうなので、私は肩をすくめて苦笑して謝った。