07/09/02 21:56:10
>>579-581
すっかり遅レスで済みません。
感想(1/2)
ガキが好みそうな洒落た上っ面だけの詩云々、読む方が恥ずかしくなるような
気取った自分語り云々。などと言われる恐れがあり、恥ずかしくて他人にはとても
勧められない。
だが、男という生き物はロマンチストなのだ。梨屋は独りでこっそりと楽しみたい。
過剰な装飾にたよらない、平易で緩やかなリズムを持つ文体は、流し読みの一読目
でも心地いい。しっとりと落ち着いた女性にぜひ朗読してもらいたいものだ。
では内容に入ろう。話の筋は、一つ、女性がマニキュアを塗りながら不倫相手
の既婚男性を部屋で待つ。二つ、既婚男性の妻に自分の存在を知らせようとする。
三つ、既婚男性との関係を想う。この三つの中で文章の大半を占めるのは、
三つ目の語りである。
そして、この三つの混じり具合がすばらしい。三つ目の語りの内容は初読時には
あまり頭に入らなかったが、台詞や行動描写が適度な間隔で入り、飽きずに言葉を
楽しみながら読み進められた。結果、マニキュアを塗りながら不倫相手の既婚男性
を部屋で待つ、行動描写だけが頭に残っていくのだが、最後でマニキュアの跡を残
そうとする意図が明確に示されたのがすばらしい。
マニキュアを塗ることが伏線だったこと、なぜ"私"が男性との関係を振り返って
いたのかの気づき、そして結末が語られないこと、これらの豊かな余韻が生まれ、
読後感が高い。
読み返してみると、独白の出だし「十代の無鉄砲さを、私は取り戻し始めていた。」
から企てられていたことがわかり、驚きを味わえる。章の大半を占める独白にも
かかわらず、"私"が語るのは、彼は私をどう考えているのかばかりで、
結局、"私"は彼をどう思っているのか、なぜ関係崩壊を望んだのか、
「私は、心から、彼をあいしているらしい。」の一文を除いて、ほとんど伏せられて
いることに注目したい。
饒舌な言葉で示されない"私"の行動の裏にある想いは、読者に任せられ、読み
返しても飽きのこない奥行きを与えている。