07/09/01 02:54:42
雨の匂いが濃くなって、夏が近い事を知る。
窓を閉めて、そのまま窓際に腰をおろす。フローリングがひんやりと冷たくて、その温度が快い。カーテンは開けたままで、鏡のようになった窓ガラスに私が映った。
手の中には体温で温まったマニキュア。私は十本の指に、丁寧にそのベージュ色を塗り始める。
十代の無鉄砲さを、私は取り戻し始めていた。怖いものなどなにもなかった。 失うものがないと、ひとは強くなれる。使い古された言葉は、やはり、真実だ。
ただ若いだけの女、それが私だった。何かを強く求めたり、或いは求められたり、そんな価値など私にはない。社会的身分とか、夢だとか、そういったものにはまるで縁がない。いつか彼が言った言葉を思い出す。
「あなたは僕を、好きなときに捨てる権利がある」
野暮ったい言葉。
見誤られた価値は、彼が貼ったレッテルであり、一つの安全牌であり、自傷行為でもあった。