07/08/25 02:23:13
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今年は暖冬だったせいか、例年よりも早くに開花を迎えた桜は既に満開をすぎて、吹雪くように散り始めている。
ときおり吹く風に揺れる枝には、もうだいぶ葉が覗いていた。
若々しく、いつまでも少女めいている母は、せっかくの入学式なのに散っちゃってて残念ねえ、とため息混じりに呟いていた。
次いで、でもお天気でよかったね、とも。眉根を寄せたのは一瞬で、すぐにいつもの無邪気な笑みが彼女の顔を彩る。
前向きで楽観的な母らしい言葉だな、と思う今朝のやり取りだった。
実際、高く真っ青に澄んだ空を背景に、さわさわと降る白い花びらのコントラストは体育館の扉ごしにもうつくしい。
壇上にいる、校長からの祝辞も耳を通りすぎていく。明日からはしばらく雨が続くそうだから、こんな景色ももう見納めだろう。
「──えー、一同起立。A組から順に、静かに退場してください。父兄のみなさまは……」
意識が散漫なままに式は終わり、学年主任の誘導に従って体育館から新入生たちが吐きだされていく。
ガタリとパイプ椅子にぶつかる音や、ペタペタと歩く上ばきの足音が、館内に漂っていた緊張感を和らげていくようだった。
立ち上がると、だぼっとした学ランが下がってきてしまい、少し歩きにくい。息子の成長を見こして、
両親が余裕を持ってあつらえさせたものだ。仕方がないとはいえ、袖口が余っていて少々不恰好である。
来年の桜が咲くころには、逆に裾が足りなくなるほどに身長を伸ばしてやりたい。そんな事を思いながら、体育館をあとにした。