07/07/15 22:15:36
果てしなく広がる砂漠では、とても人間の住める環境ではなかった。
日中での気温は五十度を悠に超し、夜には氷点下の寒風が、容赦なく吹きつける。
植物の気配すらも、まるで無い。見渡す限り、純度の低い黄土の砂漠。立ちこめるのは、むせ返るような死の臭いのみだ。
しかし、そんな地獄の刑場のような場所に、命の根を下ろしている者もいる。
陽が沈み、灼熱と入れ代わるように漆黒の闇が訪れる時。一匹の蠍が巣穴から這い出てくる。
一匹から二匹、やがては数十に及ぶ。彼ら、蠍という生物は、皆この様な生活を送っている。
日中は、陽の光が届かない巣穴に潜み、じっと体温の上昇と、体内の水分が失われるのを防ぐ。そして夜になると、栄養となる食物を求めて行動を開始するのだ。
砂漠で必要不可欠なのは水分だ。なによりも脱水を恐れる故に、誰に教わるわけでもなく、彼らはこうした生活を送ってきた。
彼らは、そういう知恵を本能で知っていた。だから、今まで生き延びてこれたのだ。
いや、それだけではない。知恵や本能などよりも、もっと大事なものを持っていたからだ。生命の根元、生きる意志だ。