この三語で書け! 即興文ものスレ 第二十ニヶ条at BUN
この三語で書け! 即興文ものスレ 第二十ニヶ条 - 暇つぶし2ch400:>399
08/02/20 05:07:38
 それは低く冷たく、人間味のない声だった。
 ―だからお前はダメなんだよ。
 どこから聴こえたのかも誰の声かもわからない。後ろと言われれば後ろな気もするし、部屋の外と言われればそんな気がする。だがやっぱりわからない。
 確かなのはここ最近、私はこの声に苛まされていることだった。
 ―お前は、作家になりたかったんだろ?だけどなれずに狭いアパートで一人暮らし。笑えるよな。
 ふざけるな。文句があったら出てこい。
 「おい、誰なんだよ!」
 ―なにキレてるんだよ?図星だったからか?
 と言うと声は私を嘲笑った。
 「いい加減にしろよ!」
 私は部屋の壁を拳で思いっきり殴った。築30年の土壁はあっけなく破れた。ぱらぱらと欠片が落ちていく。
 右の拳からは血が流れている。ポタポタと血は私の手から外へ溢れ、畳に散っていく。
 ―そうカリカリすんなよ。また書けなくなるぞ。作家になりたいんだろ?ほら、また一日が終わるぞ。
 腕時計を見ると、針はもう夜中の0時になろうとしていた。
 「うるさい!邪魔するな!終わりがなんだ!オレはまだ始まってもいねぇ、始まってもいねぇんだよ!」
 そう言い返すと私は腕時計を引っこ抜くように外し、何度も何度も畳に叩きつけた。
 その腕時計は亡くなった父が私に与えた就職祝だった。作家になることを誰よりも反対していた父からの最期の贈り物だった。もう20年も前の贈り物だが。



401:つづき
08/02/20 05:30:23
 ―お前の父親の言っていたことは正しかったんだよ。お前にゃ才能がねぇ。
 声は、けたけたと笑う。
 私は頭をかきむしった。手の血が頭皮をなぞる。
 『頭に血がのぼる』、そんなフレーズを思い出すと私の口から微笑が漏れた。イライラするのが馬鹿馬鹿しくなり、血をティッシュで拭い、適当に包帯を巻いた。月日のせいか、管理が悪かったせいか包帯は黄ばんでいた。
 そしてさっき買ってきた安さだけが売りのファーストフード店のハンバーガーを片手にパソコンにむかった。ハンバーガーはチンケな味がするが、腹が満たされるならそれで良い。
 私はマウスを動かした。手が痛む。インターネットへアクセス。匿名掲示板にクリック。気晴らしに匿名掲示板はもってこいだ。
 私は小説家を目指す人たちが集まる掲示板にクリックした。画面に文字が表示される。
 1:>ケータイ小説なんてくそくらえ!
 2:>1よ。お前がクソだろう?デビューしなきゃケータイ小説以下!
 それは違う、と私は思った。いくら本を出していないからといって、あの文法が間違ってばかりで、語彙も乏しいケータイ小説以下なんて……ありえない。ありえない。ありえない。
 痛みを無視するように指がキーボードを叩いた。
 3:>2さん。お言葉ですが、それはありえないでしょう。義務教育を受けていればケータイ小説以上の作文は書けます。書けるに決まっています。



402:つづき
08/02/20 05:52:02
 4:>あのなぁ、小説は文法が正しければいいとか、語彙がありゃあイイってもんじゃねえんだよ。センスがあれば駄文だっていいのさ。だからケータイ小説は売れてるんだろ?
 違う。違う。ケータイ小説など間違いだ!間違いに決まっている。
 私の指がピアノでフーガを奏でるかのように激しく動いた。
 5:>それは間違っています!ケータイ小説などあんなの誰でも書けるに決まっている!くだらないくだらないくだらない!
 書き込みが終わると私はすぐに、更新ボタンを押した。
 すると、パソコンの液晶から声が聴こえた。
 6:>5へ、だからお前はダメなんだよ!
 私は確信した。コイツが私を苦しめる声の主だと。犯人がわかれば恐くない。
 頬が緩む。勝てる。私はコイツに勝てる。なぜなら正義はいつだって勝つのだ。ゲームの支配者はこの瞬間から私になったのだ!
 7:>卑怯者め!お前の正体は知ってるんだよ!お前が6で発言した瞬間から形勢は変わったんだ。オレが主導権を握る!
 清々する。ついに反撃の機会が巡ってきたのだ。
 私は嬉々として更新ボタンを押した。
 8:>お前、ヤバくね?
 9:>8へ、関わらない方がいいぞ。
 私の答えは正解だったようだ。焦っていやがる。もっともっと懲らしめてやる。楽しくなってきたぞ。
 私は即、返信してやった。
 10:>関わらない方がいいぞ?はっ逃げるんだな!犯罪人!
 私はまたまた更新をクリック!返信がくるまでクリッククリッククリッククリッククリック!
 はははは!私は勝利する!戦って戦って戦って戦って戦って、勝ち抜くのだ!はははは!
 また声が聴こえた。
 ―おまえ、廃人だな。
 私はそれをかきけすようにキーボードを叩いた。

 おわり

403:名無し物書き@推敲中?
08/02/20 05:53:46
次のキーワードは、『タバコ』『野球場』『ラブホテル』で。

404:名無し物書き@推敲中?
08/02/20 09:28:25
この間は誘ってくれてありがとうな。
合コンとか久々でさ、かなりハメはずせたわ。
あの後、あの女とどこまでいったって?
ははっ、やっちゃいました。好きモンだったぜアイツ。速攻ラブホテル行こうだもんな。ちょっとビビった。

マジで変な女だったぜ。ゴムつけようとしたらキレるしさ。生で三発。ごっつぁんですって感じだけどよ。妙なトコで神経質なのな。
タバコ吸おうとしたら、鬼みてーなツラしてブン盗りやがんの。嫌煙家ってヤツ?こえー、こえー。
なんか知んねーけど気まずい雰囲気になっちゃってさ。しょーがねぇから適当に話振ったんよ。都市伝説。
「知ってる?●●球場って宇宙人の秘密基地なんだぜ」って。ほら、あの飲み屋から近かったじゃん。●●球場。
そんだけの理由なんだけどさ。ノってきたんだよ、あの女。いやー、変なヤツには変な話題が一番だな。ははは。

なんだよ?お前まで興味あんの?
結構有名な噂だぜ。あの球場が宇宙人の秘密基地でさ、地球人に変装しておかしな病原菌広めまくってるってヤツ。
何でもその宇宙人には弱点があるらしいんだけどさ、俺もうろ覚えだからよ。そこだけ忘れちまった。
信じるか信じないかはアナタ次第です!なんちって。くっだらねー。
あー、かゆい。あの女に病気でもうつされたかな俺。

ん?お前タバコ駄目だったっけ?まぁ、いいじゃん。ちょっとぐらい我慢してよん♪
余計に税金払ってんのに肩身狭いわー。ふぃ~。

……おいおい、大丈夫かよ。おい、しっかりしろって。うっわ~マジかよ。なんか顔色ヤバイってお前。
救急車呼ぶか?

405:名無し物書き@推敲中?
08/02/20 09:32:49
次のお題は
「サル」「CPU」「匂い」

406:サル CPU 匂い
08/02/20 16:56:36
 荒れた果てた都市、ビルは殆ど倒壊し、灰色の空が広い。世界規模の荒廃。何が起こったのだろうか。世界大戦?伝染病の蔓延?隕石の衝突?原因を知る者は既に存在しない。
 どうやって災厄を免れたのか、一匹のサルが大通りをゆっくりと歩いている。
 食べ物を探し散策していた彼は、ふと遠くに何かがキラっと光るのを見た。近づいて広い上げる。それはCPUと呼ばれるものだった。科学技術の遺産、文明の匂い。しかし今の彼にとってそれは何の意味もなく、空腹を満たすものではないことが分かるとポイッと投げ捨てた。
 そのとき、偶然。偶然それがそばに落ちていたカセットデッキの再生ボタンにぶつかった。同時に朗らかな声が歌い始める。急に鳴り響いた音に彼は驚き、無意識に近くにあった鉄パイプを取り、デッキに何度も振り下ろした。
 音はいつの間にか止んでいた。彼は冷静になると今度は今手に持っているものの力に驚き慌ててそれを投げ捨てた。だがやがて彼は、何故かその鈍い光りに引き寄せられていった、そしてそれがいつか役に立つ気がしてまたそれを拾い上げた。
 新しい人類は再び瓦礫の森を歩きだした。

407:名無し物書き@推敲中?
08/02/20 16:59:32
次のお題

「砂」 「壁」 「箱」

408:名無し物書き@推敲中?
08/02/21 23:06:14
>>406

修正

×「食べ物を探して散策していた彼は」
〇「食べ物を探し歩いていた彼は」

409:「砂」 「壁」 「箱」
08/02/27 03:01:00
よく目を凝らして壁を凝視すると、はらはらとなにやら細かいものがこぼれる音がした。
この巨大な箱の密室に閉じ込められてから初めて聞こえた音に男の心は踊った。
―この不条理不可解摩訶不思議の状況から抜け出すチャンスだ!
と壁に向かって駆け寄り、音が誕生した場所を、己の全神経を総動員して探る。探る。
四つんばいになりながらも懸命に探索を続けていると、指のつま先に「じゃりっ」という感覚が走る。
「見つけた!これが俺の光明!脱出口!っっっううっうー!」
発狂したように、口から唾液を迸らせながら奇声を上げる。その感情の激流に乗るかのように
脱出口と思われる場所を掘る手の勢いは止まらず、先ほどは針ほどにしか見えなかった光明も
今では希望が確信へと実感できるほどの域にまで達している。
男はその光の優美さに、はやる衝動を抑えきれなくなり、気づけば穴に向かって突進していた。
ぶつかる砂が凶器となり己を傷つけるのも厭わずに、何度も。何度も。意識が朦朧となってもその狂気の沙汰は続けられた。
人事不省の挑戦の果てに、鈍い衝撃音とともに男の頭のみが穴を突破した。
外界へと抜け出せた男の表情は至極晴れやかであったという。



「オオサンショウウオ」「ザッハトルテ」「掘り炬燵」

410:名無し物書き@推敲中?
08/03/04 09:11:39
ageてみた

411:名無し物書き@推敲中?
08/03/04 10:12:58



          ハイの術中に填まるな。




412:名無し物書き@推敲中?
08/03/04 17:22:33
ハゲ死ね

413:晴田雷稲 ◆/QeJSIyurw
08/03/05 00:07:35
 雪の積もった道を急いでいた。一歩進むたびに足をとられる。駅前のケーキ屋さんで
買ってきたザッハトルテが、包んでくれた箱の中で行ったり来たりしている。ヒールは
履いていくんじゃなかった。でもまだ重なったりつぶれたり壊滅的な損害は受けていな
いはず。そう考えながら家路を急いだ。足を慎重に進めながら、早くうちに帰りたい、
と小さく呟いた。演歌調のリズムがついていて、自分の言葉に思わず微笑んだ。足元が
悪くなってきた。シャーベット状の雪の溜まりを小さく飛び越える。着地のとき足首が
グラリとした。足首の揺れはそのまま膝に伝わり、腰に伝わり、肩を揺らして腕をあげ
させ、タコのように両腕をくねらせてなんとか体勢を立てなおした。ぐらつきが止まっ
てからも腕をあげたままもう一度くねらせて、早くうちに帰りたい、とさっきの節を繰
り返して一人で喜んでみた。口許の笑みにマフラーを巻き直しながら歩き始める。マフ
ラーに暖かい息が篭り、頬を暖める。温もりが心地よい。家に帰ったら掘りごたつの中
に潜り込んでしまいたいと思った。あの赤い光の中でずっと過ごしたい。マフラーの隙
間から頬を差す冷気が掘りごたつへの愛をさらにかきたてる。でも堀ごたつでずっと過
ごしていると、ザッハトルテみたいなケーキでブクブクと成長して掘りごたつの口より
自分のからだのほうが大きくなって、もう二度と出られなくなってしまうかもしれない。
あのオオサンショウウオのように、とどこかで読んだ山椒魚の小説のことを思い出した。
「おかえり」
 母の声に目をあげるともう家の前まできていた。

成仏 石鹸 商い


414:青空銀香 ◆PK7G.7777I
08/03/06 17:17:32
「この石鹸で身体を洗いますとね、あなたの身体にとり憑いている悪い幽霊が成仏するんですよ」
 幽霊とはお前のことだろッ! と思わず突っ込みたくなる風貌の男が言った。
 玄関先で、もう二十分以上話が続いている。気まぐれに、訪問販売の男を家に入れるんじゃなかった。
わたしは後悔していた。しかし、男は、そんなわたしの顔色などお構いなしという様子で、とにかく喋る。
 男は長身だが細身で、まるで針金みたいな身体に、頬のこけた頭がのっかている。銀縁の眼鏡の
奥はうつろで、唇は青い。その石鹸はまず自分が使って見たらいいんじゃないのと、言いたくなるのを
わたしは必死でこらえていた。しかしだんだん、それをこらえる必要性がわからなくなってきた。
男が息つぎするところを間髪入れずに言ってやった。
「まずあなた自身が使ってみることをお勧めしますよ」
 すると男は、
「あぁ、それはよく言われます」
 言われちゃいけないだろう、とわたしは心の中で突っ込んだ。
「その石鹸を使いますとね、売ったわたしのところへ幽霊が、怨念を込めてとり憑いてくるんですよ。
つまりわたし自身が、この石鹸の効果を身をもって証明しているのです」
 この男は、商い上手なのかわからないと思いながら、わたしは一つ買ってやった。

ビビンバ ハムスター ウルトラマン

415:名無し物書き@推敲中?
08/03/07 22:18:08
それは彼女との3度目の旅行だった。
前回はヨーロッパだったので、今回は趣向を変えて韓国グルメツアー。
骨付きカルビやビビンバを味わい、おみやげ物を見て回る。

露店で彼女が足を止めた。「かわいい・・・」それはハムスターだった。
「おいおい、これ日本には持って帰れないぞ」と言うのに、
店のオヤジまでがにこにこして一匹取り出し、彼女の手のひらに乗せたのだ。
「あっ・・・」
ハムスターが手から滑り降りて走り出し、彼女はつられて追いかけた。
「おい、危ないっ!」
軽トラックが走ってきたのだ。

僕は咄嗟に彼女を突き飛ばした。その後どうなったのかはよくわからない。
遠いところから、彼女の声が聞こえてきた。
「ねぇ、ねぇ、起き上がって!
いつまでも、私のところに飛んできてくれるヒーローだって、
ウルトラマンよりも強く守ってくれるんだって、約束したじゃない!」

薄れいく意識の中、僕は彼女のヒーローにはなりきれなかった、その悔いだけが残って消えた。


太陽 ダブルベッド ペリカン

416:名無し物書き@推敲中?
08/03/07 22:55:05
>414
上手くキーワードが使えてる。最後は男自身が幽霊だったオチだろうと見ていたら違かった。
一捻り加えたところがいいと思った。男の容貌を最初か最初の方に書いていたら、始めの方の『幽霊とは~』の一文がもっと生きたはず。

417:お題『太陽』『ダブルベッド』『ペリカン』
08/03/08 00:00:45
  秋が深まったさる日、僕はバイク事故によって右足を失い、退院してからしばらくの間、暇を持て余していた。
 付け加えると、元々アウトドア派だった僕は、体の方も持て余していたのだけれど、こればかりはどうしようもない。
 日常がそれなりに不自由な方向へシフトしたものの、命あっての物種、と自制することで、自分の不運を呪わずやり過ごすことに成功している。
 そう、たとえば、恋人と別れた代わりに、親兄妹の深い愛情を再確認したり、半年間の入院生活による留年を余儀なくされた代わりに、単館系ミニシアターを心の赴くまま、巡り歩く時間を得たり。
 右足は、僕に変化をもたらした。
 無骨な殻構造義足のフォルムがもたらす外見上の変化や、以前なら四、五分もあれば十分に踏破できた最寄駅から自宅までの距離に、途方も無い時間や疲労が必要になる、等の実際的な変化は元より。
 それ以外に、欠けた場所から発信されている心的な作用、反作用みたいなものを感じるようになった。
 主治医はその変化を、幻肢痛の症例を元に、懇々と説明してくれた。けれど、どうも彼女の説明するところの、幻肢痛特有の、痛みやくすぐったさ、喪失感や圧迫感とは、また異なっている気がする。

 『三百万メガワットの百乗の水素線なら、猟犬座からでも宇宙の終わりを告げる放送が地球にまで届くんです。貴方は、やがて目覚めることをやめて永遠の眠りに就くでしょうが、それは決して一人だけのものじゃない』
 『渡り鳥は、太陽や磁力線を元に、信じられないぐらいの長距離を縦断する。だが、時折、彼らは悪天候や特殊な事情で群れからはぐれ、本来の生息地ではない場所へと不時着する。それらを総じて、迷鳥と呼ぶ。(中略)さて、ここに今、一匹の不運なハイイロペリカンが居る』
 『見て! 空を見て! あんなに大きな太陽が雲のベッドに横たわっているわ! ……あれはきっと、ダブルベッドね。だって、太陽はあまりにも太っちょさんだから、小さなシングルだと転がり落ちてしまうもの。それにね、』
「……いつかは、昔のように月と一緒になって、ひとつに帰るんだわ」
 ソファーに、仰向けに寝そべった僕は、腕で両目を覆い隠しながら、銀幕向こうの女優の台詞を暗唱する。

418:お題『太陽』『ダブルベッド』『ペリカン』 付け足し
08/03/08 00:01:42
  立て続けに鑑賞した三本の映画は、そのどれもが取るに足らない作品ではあるけれど、今の僕、右足を失った僕の胸を、打つものがあった。
 僕は不慮の事故で右足と分かたれた。そして、何かが変わってしまった。これから先、もし僕が再び変化を迎えることがあったとしても、そのたびに意図せず、右足に重心を傾けることになるだろう。
 だとしても、それを悲しいことだと思いたくない。
 忘れたくても、忘れられない場所に負った傷を撫でる時、僕は変化する前の僕を思うことになるだろう。
 そうして、いつか生涯を閉じる僕は、その時にようやく右足を取り戻すのだ。





 申し訳ない、一レスで閉じきれませでした。反省。
 次の三題は『沈む』『燃える』『結晶』でお願いします。


419:久しぶりに書く『沈む』『燃える』『結晶』
08/03/08 00:53:20
とうとう彼女に僕の気持ちを伝えました。
けれども言葉を繋げてゆくうち、彼女の心がすっとそばから離れてゆくのを感じました。
好き、とさえ言い終える前に彼女は、ちょっと俯いてしまったのです。
最初に僕にあったのは戸惑いでしたが、僕を受け入れてはくれないのだと分かるとすぐ、めまいを感じました。
瞬間、僕の精神が体から抜け出して、一歩引いたところから自分を観察できました。
いえ、足下を沈む、深い奈落の底から、でしょうか。
そこは暗い暗い場所で、道案内も手がかりもありません。
その惨めな穴蔵からも、頭上ずっと遠くに蜃気楼が見えます。
とても綺麗でした。
午前に大学の合格を聞いて意気揚々としていた僕自身が、さらに今にも消えそうな、彼女への淡い恋慕を抱く僕自身が。
何か取り返しのつかないことをした気がします。
燃えるほどだった彼女への恋も壊れてしまったようです。
雪の結晶が崩れてしまったのです。
彼女はいつの間にか目の前にはいませんでした。
結晶は、形を整えてやるにはあまりにも小さく可憐で、人肌に触れると溶けてしまい、もう元に戻ることはありません。
暖かな春風に吹かれ、僕は自分の一欠片を失いました。

「外」「雨」「歩道橋」

420:名無し物書き@推敲中?
08/03/08 10:48:46
関東地方は一日中雨になるでしょう・・・お天気キャスターが深刻そうな顔で言い終わるのを聞いてから、
ため息をつきつつパジャマを脱ぐ。雨の日はスーツとバッグが汚れてしまうから、
あまり高価なものを身に着けないようにしている。

無難なコーディネートで外に出ると、思っていた以上に雨は強い。
タクシーを拾って駅まで向かうことにした。
歩道橋の下をくぐり、赤信号で止まったときだ。

「あれ・・・」

窓の外、仲良さげに相合傘をしているカップル。
見覚えのあるダウンの男は、私の恋人。
そして女は・・・「敦子。」私の、たった一人の妹だった。
二人はしっかりと腕を組み、顔を近づけて何かささやきあっている。
次の瞬間、タクシーは走り出し、二人の姿は瞬く間に消えた。

「お姉さん?着きましたよ」

運転手の言葉が聞こえた気がするが、頭の中がきーんと鳴っていて、よくわからない。
黙って1000円札を渡すと、這うようにタクシーから出た。

雨が叩きつけるようにスーツを濡らす。
だけど、そんなことに何の意味があるんだろう。
立ち尽くす私の前方から、相合傘が近づいてきた。

「目薬」「マドンナ」「小麦」

421:「目薬」「マドンナ」「小麦」
08/03/08 15:19:34
 目薬でもさして嘘泣きしようかと思い、咲子は思わず顔をしかめた。
 隣りでタバコをふかしている洋平は、咲子のそんな表情など見もしないでテレビのサーフィン映像を眺め見ている。
「無駄だと思うんだけど」
 咲子は言う。そうかぁ? と洋平は聞き直す。
「綺麗な姉チャンから逆ナンされるのってアリじゃね? 
おれのマドンナはやっぱり海で見つけるべきだって」
「そんなこと力説されてもね」
 苛立ちが頂点に達しかけているのを咲子は感じた。鈍感、という二文字が口から飛び出しそうになる。
 小麦色の肌の女。馬鹿面の洋平の手を取り愛を誓う。それを遠くからそっと見つめる自分。
 バカバカしい絵面だ。腹立たしさをとおりこして、笑いたくなる。
 咲子は近くにあったコップを取ると、洋平の頬にぴたりとあてた。
「つめて」
 洋平が、顔をしかめて笑った。


次は「買い物」「マンホール」「地方」で∈(・ω・)∋

422:名無し物書き@推敲中?
08/03/08 15:22:06
盗作無作は厳禁。

423:名無し物書き@推敲中?
08/03/08 18:37:29
地方ってムズくね?

424:晴田雷稲 ◆/QeJSIyurw
08/03/08 23:50:34
 幼い頃、母に手を引かれデパートへ行った。父がなくなって一年ほどがたっていた。
ひどい雨の日だったが、いつも忙しく働いている母と二人でいられることが嬉しかった
。マンホールの蓋で足が滑りそうになったとき、腕を引き上げて支えてくれたのが楽し
くて、何度も滑って見せたりした。危ないからと何度もたしなめられたが、母も笑って
いた。
 何でも好きなものを買っていいといわれ、デパートの中を母と手を繋いで色々と歩き
回り、結局は大好きだったアニメの人形を買った。
 昼食をデパートのレストランですませ、食後のコーヒーを飲み干した私に母は、おう
ちに帰ろうと言って頭を撫でてくれた。帰り道で雨のなかを歩きながら、私はマンホー
ルを探していた。母はしきりとなにかを気にしているようだった。
 雨はさらに勢いを増してきた。路面を叩く雨粒が跳ね、着ていたカッパの胸元や、時
に顔にもかかるほどだった。母が膝を降り、私の顔を覗きこんだ。母の差す傘に当たる
雨音が大きくなる。母はごめんねといって白いハンカチで頬をぬぐってくれた。頬から
離れたハンカチには黒い泥が点々とついていた。母は私の目を見つめた。星が瞬くよう
な瞳だった。それからハンカチでぬぐった頬に何度もキスをした。暖かい吐息が耳元で
震えていた。母が立ち上がり、体を引くようにして一歩下がる。私は母を目で追ったが
、初めて見る年老いた夫婦が視線をさえぎった。母は彼らの後ろに下がり口許を押さえ
て横を向いてしまった。
 その後、父の両親である老夫婦に引き取られた私は、東京のビルの世界からこの山と
緑の地へと移された。一人息子の一粒だねということもあってか、祖父母はとても愛情
を注いでくれた。しかし、この地方の連中のくちさがない噂話では私は五百万で買われ
てきたという。母が私を売ったというのだ。デパートに買い物に来たつもりが、売り物
にされたのだという。
 反論はしない。ただ、なぜデパートの中ではなく雨の降る路上で引き渡されたのか。
私はそこに母の愛情があるのを知っている。あの日母はおうちへ帰ろうと言ったのだ。

性(さが) 立春 同時代

425:名無し物書き@推敲中?
08/03/09 00:13:27
>>424
とても良くできた話。
それを巧く表現するだけの文章力がないのが非常に残念。
気の毒だけど、こういうのって仕方ないことなんだよね。

426:晴田雷稲 ◆/QeJSIyurw
08/03/09 00:56:53
>>425
ありがとう。文章力の鍛練、頑張ります。
できたらどの辺がまずかったか暇なときにでも
感想スレにお願いします。
スレリンク(bun板)l50


427:コトバ ◆KugctX7wsE
08/03/09 17:56:02
「成仏」「石鹸」「商い」

感想書く方の我儘としては、名前欄か一行目にタイトルが欲しいところ。
細身の男はちょっと陰気な印象が強いな。
もう少しだけ寡黙で寧ろオカルティックに迫るか、逆にやけに明るい営業スタイルのほうが俺は納得する。
よく喋る陰気な男って客に取ってマイナスイメージしかないよ。
でも話そのものはばかばかしさがちゃんと書けてて面白かったよ。
〔普通〕∈(・ω・)∋

428:コトバ ◆KugctX7wsE
08/03/09 20:24:31
ごめん>>427は感想スレに書くべき(>>414への)レスだった。
携帯だと誤爆しやすくて、色々不便が多い……。

429:名無し物書き@推敲中?
08/03/09 20:33:45
PC持ってないような馬鹿が偉そうに批評とか烏滸がましいにも程がある。

430:コトバ ◆KugctX7wsE
08/03/09 23:19:09
>>429
俺のことなら家庭の事情だ。あまり気にしないでくれよ。

431:偉そうな口調になったけど許してねん/性(さが)立春 同時代
08/03/09 23:52:57
俺は他人の話がすごく気になる。
昔からの性だから仕方がない。
三つ子の魂百までとも言う。
幼稚園生のころ、大阪から隣に越してきた小学生がいた。
そいつが阪神タイガースの話をしていたから、田舎ものはこれだから困る巨人の方が強いに決まってるわと言ってやったことがある。
殴られて泣いたが、絶対に巨人が強いという言葉だけは曲げなかったそうだ。
そこまでは自分は覚えていないのだが。

どいつもこいつも、こうして同時代に生きて呼吸しているなら、がっつり何か言ってやらねばと思う。
でも最近の奴は頭が硬いから困る。
ちょっと第三者が顔を見せただけで、お前は関係ないだのなんだのと、つまらぬことをぬかしやがる。
心が狭いのである。
一度口に出すのなら、誰に何を言われてもかまわないような、しっかり心に決めたことだけを言えばいいのだ。
それをあいつらは軟弱にきりきりきりきり、訳の分からない細かいことばっかり喚く。

くだらんその唾の散らし合いも、便所の中や自分の家だの、そういう場所なら許される。
勝手にすればいい。
あいつらは立春という言葉を知っているだろうか。
春がすっくりと立つのである。
日本人ってもんは、もともと季節も何もかも、しっかりと区分けしてやる民族だ。
学生が卒業式で長々と話を聞くのも大いなる区分である。
だのに分別のつかないのが増えているから困ったものだ。
例えば三語スレの>>425-430みたいなのはまったく場違いである。
あいつらは感想スレか、それとも「より良き即興のために」スレにでも行けばいいのだ。

「洗濯」「学校」「情報」

432:名無し物書き@推敲中?
08/03/10 01:42:52
>>431
入り方が下手くそですね。
ただの説明文というか、安いゲームシナリオなんかを読んで自分でも書けると錯覚してしまった、そんな哀れさがあります。
要するに小説になっていないです。

433:「洗濯」「学校」「情報」
08/03/10 03:23:10
メイドさんの膝枕に対岸を眺めると、奇妙な鉄の塔が目に入った。
「パリ万博」。西暦1900年に向けて開催される、科学の祭典のシンボルだ。

「馬車じゃなくってね、鉄の車がレールを走るんだ」「まあっ!」
「『電話』という機械が声を運んで、情報が瞬時に伝わる」「本当ですか?」
「『計算機』が何でもやってくれて、君も洗濯なんかしなくてよくなる。」

「お坊ちゃんは、楽天的過ぎますっ」と彼女は笑ったが、彼の妄想は膨らむ一方だ。

「『電話』もうんと小さくなって、『計算機』も小さなものが、人間の数千倍のスピードで計算さ」
学校の教師は「それは最低でも西暦2000年以降になるであろうぞ」と釘を刺していたけど、
期待せずには、いられなかった。
「その時には簡単な仕事は機械に任せて、週休6日で、残りは君とこんな事するのに専念できるのに」

…ここまで書いて眠くなってきた。というか憂鬱だ。
少なくとも、彼の最後のセリフの後半は半ば実現している。それで、満足するべきかもしれない。

こっちはこっちで、明日から会社だ。(02:50では既に明日だけど)
極小の『電話』である携帯を持って、22億クロック/秒の『計算機』で仕事する。
朝8時には『電車』に乗って通勤の、西暦2008年の生活が待っている。

※GWはどうなるんだろw
次のお題は:「境界」「ナイロン」「6」でお願いします。

434:名無し物書き@推敲中?
08/03/10 05:40:08
 俺とお前との境界は、たったナイロン6つ分だ。
 手早い薄化粧よりも無難なスーツよりも、憎みたいのはストッキングで、なぜならそれをしゅっしゅっと小気味よく装備する音が、象徴だからだ。お前は俺のものにはならない。
 またね、なんていうふうには、お前は俺を慰めない。「じゃ、」と颯爽とした笑顔でドアを後ろ手に閉めかけ、「行ってきます」の言葉はもう平日の戦士の眼差しで放たれる。
 一週間経てばまた逢えるなどと信じてはいない。しゅっしゅっ、寝床の中からこの音を聴き続ける限り、俺はお前を手に入れられない。これが最後になるんだろう、いつも絶望的に、その音を聴く。
 実際には来週はやってくるのだ。職の無い、うだつの上がらない、昏い眼差しのこの俺にも。俺とお前とが唯一融け合える週末は。やってくるのだ。
 そんな希望に縋ることを許してくれない、しゅっしゅっ、音を俺は今も枕の上で聴く。


「ようこそ」「風」「壁」

435:名無し物書き@推敲中?
08/03/10 07:54:01
アナボッキン☆

436:「ようこそ」「風」「壁」
08/03/10 12:43:45
トロンボーンを見つけた。吹いてみるとへんてこな、涙の音がした。
ちょっと一曲演奏しようかと思ったけれども、やっぱりやめておいた。
もうずっと何年も吹いておらず、腕も鈍っているだろう。きっとますます気落ちするだけだ。
目元に手をやると、しずくに触れた。
失恋すると部屋を片付けたくなるというけれど、これまた妙なものを見つけてしまった。
ようこそと歓迎する気にはなれない。だが事実として目の前にあるのだから、何とかしなければ。
押し入れの奥を探っていたので、部屋中に埃が舞っている。
窓を開けると、三月の風が吹いてきた。春のにおい。
トロンボーンをどうしようかと考える。
確か二十万円ほどもした。それだけでもゴミとして出すには抵抗がある。
しかも、これを捨てるということは、トロンボーン奏者を目指した青春を捨ててしまうことじゃないかなんて思えた。
あのときは楽しかったなあ、と思い出す。
今思えば自分の実力も知らず無謀だったけれど。
目標を達成できなかったときは、やっぱりうちひしがれる。
けれども自分の決めた目標を目指す自由があった。
今みたいに周りに振り回される、川に浮かぶの木の葉とは違っていた。
指先を擦り合わせてやる。さっきの涙はすぐ蒸発して消えた。
かつて目の前にあった壁は、それに背を向け振りかえれば、後ろを支えてくれているらしい。

「天国」「あなた」「つらい」


437:名無し物書き@推敲中?
08/03/10 15:14:28
彼とはもう半年も会ってない。電話もメールもつながらない。でも今でも彼のことを愛しているし、彼も私のことを愛しているであろう自信がある。
手紙を書こう。今時少し恥ずかしいが電話やメールより自分の気持ちが伝わる気がする。でもなんて書けばいいのだろう。半年分の気持ちを伝えたいが、あまり自分勝手なことを書いて彼に嫌われるのは嫌だ。
結局とても質素な手紙になってしまった。

「天国のあなたに会えないのはつらいです。」


「絵の具」「カレンダー」「強制」

438:名無し物書き@推敲中?
08/03/10 15:19:54
幼稚園の発表会です。

太郎くん。

お母さんに捧げる作文読みなさい。

「お母さんご苦労さまです」

439:晴田雷稲 ◆/QeJSIyurw
08/03/11 01:19:23
 水につけた筆先から絵の具がパッと広がるように噂はすぐクラスを越えて伝わったようだ。隣のクラスからアキラが来てトイレに行って空いていた隣のマサルの席に座り、机と椅子の背に肘をかけて、顔を近づけてきた。
「ミキと別れたんだって」
 目を輝かせている。
「ああ」
「なら、俺がもらうぜ。いいんだな」
 沈黙が流れた。
 想像通りの問いかけだったが、答えがすぐには出てこなかった。いいも悪いもない。もうなんの関係もないんだから。そのくらい分からないのか。その問いに俺が答えるべき言葉はない。沈黙の中、開いていた文庫本から目をあげるとアキラの不安そうな顔があった。
「俺には関係ない」
 ずいぶんと落ち着いた声が出ていた。
「お、おお、そうか、分かった」
 何が分かったのか分からないような、はっきりしない返事をしてアキラは立ちあがり出ていった。
 そのあとは誰も何も話しかけては来なかったが、アキラとのやり取りについて、何か弁明を強制するような暗黙のプレッシャーが降り注いでいるように感じていた。
 でも俺には言うべきことは何もないんだ。
 文庫本を開いたまま、壁にかかったカレンダーをみつめていた。今日の日付を探していた。けれどいくら探しても見つからない。今日はいつだっけ。いったいどうなってんだ。
 分かった分かった。そう心の中で呟きながら目をつぶり息を深く吸い込んだ。
 始業のチャイムがなった。みんなが席につく音がする。
 俺は目を開けて一人立ち上がり教室をあとにした。

気合い キウイ 気負い

440:気合い キウイ 気負い
08/03/11 05:22:48
「キウイって鳥、知ってる?」
唐突に私がそんなことを言ったものだから、母は変な顔をした。
「ニュージーランドに生息する、茶色くてまんまるい鳥なの。
紀元前に出現したすごく古い種だから『生きた化石』って呼ばれてたりするのよ」
「まるでママみたいだって、あなたはそう言いたいのね」
母は私から力なく目を反らす。私はびっくりした。
「ああ、そういう考え方もあったのか。今気が付いた」

母はバリバリの根性論信者。「今の選手は気合いが足りない。ママの時代は」が口癖だった。
私が大会で思うような結果を出せなかったとき
全ては私の気合いが足りないせい、努力が足りないせいになった。
私はいつも、母の期待に応えたかった。

「あのね、ママ。キウイは飛べない鳥なんだよ。紀元前からずっといる鳥なのに
とうとう飛べるようには進化しなかったの。何百年、何千年経っても」
時計を見る。記者会見まであと一時間。
私はみんなの前で、次の大会を棄権すること、そして引退することを伝える。
きっと大騒ぎになるだろう。私と母は、マスコミには人気だったから。
「たぶん、私はキウイだったんだね」
今、私はとても穏やかな気持ちでいる。何の気負いもなく、笑っていられる。
「でもね、私、ママの考え方きらいじゃなかったよ。
努力と根性でいつかきっと辿り着けるって考え方」
母はハンカチをぎゅっと握り締めたまま、うつむいて何も言わない。
「だって、天才じゃない私でも夢が見られたから」
手を伸ばし、震える母の肩を優しく抱いた。
私たちは、夢見がちなキウイの親子。長い夢を見ていた。
だけどそれは楽しい夢だった。ねえ。それでいいよね、ママ。


「放課後」「宝塚」「ロマンス」

441:名無し物書き@推敲中?
08/03/12 15:16:50
放り投げたシュシュは軽すぎてあまり遠くに飛ばなかった。
課題の上にうつぶせる。水彩絵の具の匂いに横を向くと。白いシュシュが床に落ちるところだった。
後一時間で下校時刻。一人きりの放課後は、なんて長い。
宝物だったシュシュ―あやめにもらった大事なそれを、足を伸ばして踏みつけた。
塚本あやめ。綺麗な名前だ。宝塚の役者さんみたいだと言った私に「『鈴子』も素敵だよ」。返事の笑顔で恋に落ちた。
ロマンス、と代名することのできない恋。女同士というのを抜きにしても、あやめは酷い恋人で、私は弱い人間だった。
マリンブルーの絵の具が薄く滲む。彼女に作られた色々な傷、彼女の吐いたたくさんのウソ、彼女がくれた唯一のプレゼ
ント。私は目を閉じた。瞼の裏は真っ暗だった。立ち上がり、ドアのそばに寄る。手探りで。
スイッチを探し当て、消した。目を開けて、薄汚れたシュシュと、皺の寄った青空の絵と、窓からの光をじっと見つめた。
寂しい、悲しい景色。でも、私にはなんでもなかった。あやめの綺麗な下半身にあれがついている景色より、酷い光景な
んてあるはずがないのだから。

「聖書」「二時間後に」「螺旋階段」

442:名無し物書き@推敲中?
08/03/16 02:23:33
週末age

443:名無し物書き@推敲中?
08/03/16 12:55:11
タエコさんは、いきつけの居酒屋で働いているすこし変わった人だった。
五十代か六十代か、年のころははっきりしない。
夏でも冬でも暗い色の和服を着ていて、白髪まじりの髪はひっつめにしていた。
油紙のような渋色の肌が、骨ばった頬にはりついて、お世辞にも綺麗な人ではなかった。
てきぱきとタエコさんは僕らのオーダーを通し、厨房でも働き、飲み物や料理も運ぶ。
カウンターとテーブル席が三つの小さい店では、僕らの話もつつぬけだったから、
手の空いたタエコさんは、僕ら若造の愚痴に辛口の合いの手を入れた。
海千山千は、タエコさんみたいな人を表現するのだと学校を出て二年目の僕は思った。

タエコさんが亡くなったことを知ったのは、その店が臨時休業した翌日だった。
僕らは一瞬しんとなった。普段喋らない大将が、タエコさんのことを話す。
店が入っている雑居ビルの一室に住んでいたこと。郷里には息子さんがいたこと。
遺品からは聖書が出てきて、洗礼を受けていたのを知ったこと。
二時間後には、タエコさんの息子が挨拶に来ると聞いて、僕らは好奇心から低い声で
どうでもいい仕事の話を続けた。
ビル外の螺旋階段を降りる足音が聞こえて、店の引き戸がからりと開いた。
黒い礼服のままの小柄な男が、頭を下げながら店に入ってきた。
大将と小声で話し、何度も頭を下げあっていた。
彼はやがて僕らの陣取ったテーブルの前にもやってきた。
「父が生前大変お世話になりました。ありがとうございました」
あっけにとられる僕らが何も言えずに頭だけを下げると、息子は店を出て行った。
大将は何事もなかったように、厨房の仕事を続け、僕らの注文を出す。
僕らはもう、何故かタエコさんのことは、話さなかった。
タエコさんは、どういう風に生きたかったのだろう。
生き終えた後は、どこに行きたかったのだろう。
渋茶色の滓が、僕のうすっぺらい心のどこかに積もったような気がした。

DVD ダイレクトメール 鎮痛剤

444:DVD ダイレクトメール 鎮痛剤(1/2)
08/03/17 02:36:22
 ダイニングテーブルの上のダイレクトメールに埋もれたママからのメモを探し出す。

これは、私が学校から帰って一番にしなければならないことだ。

 ちょっとうっかりなところがあるママは、いつもお出かけ直前になって、私への伝言
を思いつく。それは大抵、もう、家をでなければならない時間の直前で、仕方なく彼女
はそこらへんにある広告やダイレクトメールの封筒に走り書きを残す羽目になる。

 保険会社、銀行、新聞社、ママがこの前の夏に新作のワンピースを買ってはしゃいで
いたお店からのダイレクトメール。そして、保健所からのお知らせの封筒に、あまりき
れいとは言えない文字が並んでいるものを見つけ出した。そこには、今日の帰宅が遅く
なること、冷蔵庫に雄藩が作りおいてあること、戸締りをすること、夜更かしをしない
こと、ちゃんと勉強をすること、といつも通りのことが羅列してある。

 私は代わり映えのない内容に、小さく鼻を鳴らして、その封筒をダイレクトメールの
一番上へ放った。そのまま、冷蔵庫の扉を開ける。上の段には私の嫌いなポーク・ビー
ンズ。私は顔をしかめて、音を立てて冷蔵庫を閉めた。

 スクール鞄の中から幼馴染のニナから借りたDVDを取り出すと、そのまま鞄をソフ
ァに放り投げて、テレビのスイッチを入れる。彼女のオリジナルなのか知らないけれど、

そのディスクは一般に売られているもので、ラベルも何も貼ってない。私は軽い気持
ちでDVDレコーダーにディスクを挿入した。無視の羽音みたいな小さな稼動音が静か
な部屋に響く。

 しかし、すぐに液晶テレビの黒い画面に光が入って、柔らかな波の音と、青い空の映
像が流れ出した。


445:DVD ダイレクトメール 鎮痛剤(2/3)
08/03/17 02:40:59
 去年の夏に、ニナと二ナの家族と私の家族で行った南の島の映像だということにすぐ
に気がついた。走り回るニナと私の姿。パラソルを差したニナのママ。録画しているニ
ナのパパは声だけが時折混じる。そして新品のワンピースの裾を翻す、私のママ。
 ソファに沈み込み、ぼんやりとそれを眺めていれば、不意に、こんこん、とベランダ
のガラスを叩く音。
 カーテンを開ければ制服からパーカーに着替えたニナがいた。
 私が鍵を開ければ、ニナは私が何か言う前に、それでも一応「お邪魔します」と前置
きして、勝手に上がりこんでくる。
「あ、DVDもう見てる。一緒に見ようと思ってきたのに」
 少しだけ非難するように、ニナは私を軽く睨んできた。私は肩をすくめた。
 二人でソファに並んで、テレビを眺める。
 この旅行はとても素敵だった。南の小さな島にママと私とニナと、ニナの両親。昼間
は海で泳ぎ、夜は星を見上げた。
 素敵な思い出しかないのに、なのに、私は少しだけ気分が悪くなって、頭を抱え込む。
「頭がいたいの?」
 ニナの言葉に、私は小さく頷いた。ニナはごそごそとパーカのポケットを探り、小さ
な銀紙に包まれたものを取り出した。
「はい。痛み止め」
 彼女が差し出すそれは、どう見てもチョコレートだ。大手製菓会社の看板商品で、私
の好物でもあるのだから間違いない。訝しげに見返せば、私が言わんとすることを、ニナ
はわかっているというように頷いて見せた。


446:DVD ダイレクトメール 鎮痛剤(3/3)
08/03/17 02:41:42
「悲しいときには甘いものが一番効くの」
 本当よ、タロがいなくなった時、リサがくれたチョコレートが一番効いたもの。
 生真面目な顔でニナは断言して、私の手のひらにチョコレートを乗せた。
 タロというのは、ニナが飼ってた犬の名前だ。
 去年、彼は天に召された時、ニナは大変塞ぎこんだ。私は彼女の笑顔が好きだったけ
れど、それ以上に、彼女の悲しみを感じ取っていたから、何も言えなかった。ただでさ
え、食の細い彼女はフルーツ・ジュースを口にするだけになり、徐々に青白くなる顔色
が怖くて、私は彼女が食べてくれないだろうかと、気に入りのチョコレートを携えて、
じっと傍にいることしかできなかった。彼女が口を開いたのは、タロの死から三日後の
ことで「ねぇ、そのチョコレート美味しい?」と、ふと思いついたように口にした。私
はびっくりしたけれど、すぐに「私が気に入るくらい素敵なチョコよ」といって差し出
せば、彼女は一粒口に入れてくれたことを思い出す。
 私はお医者様からの言葉を聞くように、ニナの言葉に神妙な顔で頷いて銀紙を剥いた。

甘いチョコレートの香りが鼻先を擽る。
「・・・甘い」

 カカオの苦味と、砂糖の甘さ。そして何よりも、もうママに会えないことを受け入れ
なければならないことに、泣きたくなった。

 ママがいなくなって、一週間目。久しぶりに発した声は、酷く掠れていたけれど、テ
レビから流れる波の音に混じることなくはっきりと響いた。
 私は明日、生まれてこの方、見たことのないパパに会うために、遠い外国に行かなけ
ればならない。
 その外国は、夏に旅行した南の島よりも、ずっと南にあるらしい。
「リサのパパがいる国もこんなところだといいね」
「そしたら遊びに来てくれる?」
「・・・たとえリサのパパが北極で働いてたとしても遊びに行くわ」
 ニナの言葉に私は、また泣きたくなって、でも、今度は我慢することなくニナの腕に
しがみついた。


447:DVD ダイレクトメール 鎮痛剤(3/3)
08/03/17 02:42:34
「桜」 「たまご」 「フェンス」

448:1
08/03/19 14:24:00
「おばさんは」「おばさんは」「おばさんは」
渋いバリトンの声。彼の見た目は全ての平均をとったかのように特徴がない。

「わかってる。綺麗な声だったのでしょう、おばさんは」
「ああ、うん・・・・・とてもね」

桜の木の向こうに校舎が見え、クラブ活動に励む生徒の声が遠くのほうで聞こえる。
土と草の香りの中、スカートを汚さないように気をつけながらしゃがみこむ。
キャベツの葉を一枚めくると小さな黄色い粒が付いていた。ちょうちょうのたまごだ。
小さな立て札に書いてある学級農園の文字がかすれてかなり読み辛くなっているのを
見て言ってみた。
「そろそろ書き直した方が良いんじゃあないですか」
「ああ、そうだね」
キャベツの葉を千切って立ち上がり、彼の方に掲げて見せた。
「青虫って可愛いですよね」
彼は少し凝視すると、合点したのだろう、たちまちの内に深く笑みを作りあげた。
「・・・・・あぁ、本当だ」

449:2
08/03/19 14:24:46
私もにっこりと笑い返す。
「みんなも喜んでくれるといいな」
「きっと喜ぶ、理科の勉強にもなるし。いい発見をしたね」
「ええ、本当に」
「おばさんも蝶が好きだった」
彼は私のいとこで、彼の母親は私の母親の姉だ。
学校を囲うフェンスの外にある学級農園。ここで彼が話すのはおばさんのことだけ。
彼が話すおばさんの話を聞きながら校舎へと向かう。
フェンスを越えたら彼は普通の先生に戻ってしまうのだろう。
ひときわ強い風がふいた。
桜。桜だ。一面の桜。
上も下も右も左もなく、一身に柔らかく舞う桜。
白に、薄く赤みがさした花弁は、手の爪のようだと思う。
あの人の爪が散り吹雪いている。
そこまで思ってから気持ち悪くなって、思考を現実に引っ張り戻した。

「おばさんは手も本当に綺麗だ」

私は憎んでいるのではない。ただ可愛らしいと思っているのだ。
この17歳年上のいとこのことを。

450:名無し物書き@推敲中?
08/03/19 14:27:44
霞 視神経 モデム

451:名無し物書き@推敲中?
08/03/19 16:54:47
> 3: 文章は5行以上15行以下を目安に。

次からは一応テンプレにお目通しよろ

452:名無し物書き@推敲中?
08/03/20 22:50:37
すみません、気をつけます

453:名無し物書き@推敲中?
08/03/23 14:03:16
霞 視神経 モデム

「意味がわからない」
段ボール箱から新品のモデムを取り出しながら俺は口を開いた。
「だからさ」椀に盛った麦チョコを口に運びながら悪友が言い直す。
「あんまりパソコンにかまけるのもどうかなってさ。目にも悪いし、なんかね、視神経がやられるんだって。みのもんたが言ってた」
「そのうちタイピングダイエットを推奨するよ、電器会社がスポンサーになったら」
そこまで言って会話を打ち切り、今度はモニタの箱に取り掛かる。確かに目には悪いかもしれないが、
仕事なんだからしかたがない。この引越しもさっさと済まさなければ今月の生活だって危ういのだ。「はさみ」「ドーゾ」ガムテープを切る。

霞が飛び出した。

玉手箱よろしく開封したダンボール箱から白い煙が湧き上がる。目を丸くしているとどこからともなく声が響いてきた。どこか聞き覚えのある声。
―奥さん、アレね、パソコン! あんな小さい文字ね、読んでると私は目が痛くなってくるんですがね。ナンとびっくり、科学的に視神経に悪いってのがわかったそうじゃありませんか!―
箱の中からラジカセとドライアイスを取り出して、お椀ごと逃走を図る後姿に力の限り投げつけた。


454:名無し物書き@推敲中?
08/03/23 14:07:40
sage忘れた、すいません。

次のお題「蛸」「ネタ」「黒い月」

455:「蛸」「ネタ」「黒い月」
08/03/25 12:15:00
▲ホームパーティーにて筋弛緩剤を誤飲した。ネタだった。
 本当は、飲むフリだけしてトイレで吐き出すつもりだった。そもそも、筋弛緩剤は静脈注射する薬品だと思っていたので、今から飲もうとしているそれが筋弛緩剤だとはつゆとも信じていなかった。
 だがしかし。口に含んだそれを誤って、思わずグイと飲み下してしまった私の体を襲ったのは、強烈な痺れと倦怠感だった。
 これはまずい、と周囲に救急車を呼ぶよう訴えかけるが、彼らは深い影に覆われた顔に、真っ赤な三日月状の笑いを貼り付けているばかりで、こちらの話を聞き入れようとはしない。
 いよいよ、まずい。
 かすれてゆく視界に最後に捉えたのは、天井近くでシーリングファンにゆっくりとかき回される薄い煙と、黒い月のようにユラユラと揺れる人々の頭だった。
▲蛸は、蛸壺に填まっていた。私の頭は蛸壺になっていた。遠く声が聞こえる。やがて、冷たい涙がひとすじ流れた。
 おうい、とこの世のものとは思えない虚ろに抜けるその声を耳にして、私は宇宙に放り出される寂しさを体感した。
 そんなものは、どこにもないのに。
 もう一人の私がヘラヘラ笑うと、私も、彼女に倣ってヘラ、と口端を緩めた。
 そうだ、蛸なんか食べてしまえ。耳の奥に指を突っ込むと、ぬめぬめと滑る蛸の足を掴んだ。なにくそ、と爪を食い込ませ引きずり出した先から食んでゆく。
 わさび醤油があれが、もっと美味しく頂けるが、これはこれで由。蛸は新鮮で、ほのかに潮と桃のような香りが入り混じっていた。
 どうやら私は空腹だったらしく、一飲みするたびに、ぐるぐると胃袋が蠕動した。寂しさが、満たされていく胃袋の重みで洗われていく。
△おうい。
 目が覚めたのは朝だった。いつの朝かは知らない。
 私は布団に横たわっていて、父が無言のまま傍らに座っていた。
 いや。「あなたはもう居ません」
 彼は、寂しそうな顔をして笑った。それから「良かった」と言い残し、儚く薄れていった。
△ひんやりする畳に足をつけ、障子を開け放つと一瞬、雪が降っているのかと見紛った。
 しかしそれは、梅の花びらが春一番にあおられて柔らかく解けていく、初春よりも新しい春を告げる薄桃色の雪だった。
 先ほどまでの寂しさとは、少しだけ色合いの違う寂しさに襲われて、私の涙はまた流れた。ほんの、束の間ではあったけれど。

456:名無し物書き@推敲中?
08/03/25 12:17:08
次の三語は「夢」「鴨」「音」でよろしくー

457:夢 鴨 音
08/03/25 23:03:37
広間は天蓋のようなドーム状になって空にむかう無数の天使が描かれている。中央には円いテーブル
があり純白のクロスが敷かれ、おぼろな蝋燭の灯りをうけている。目の前に用意された鴨の丸焼き
からは動物の臭いがする。私は椅子に座っていた。あたりの静けさは恐ろしいほど。私の他にはまだ
誰も現れていない。
私は何もすることがなかった。かといって何もしたいことがないので、何もしないというのは辛いことだ。
嫌でも身動きしてしまう。しかし、この静けさのなかでは指一本でも動かすことははばかる気がした。
何か、遠くのほうで、何かが床をこする音や食器のカタカタをぶつかりあう音はするたびに、私はほっ
とした。それはここにいるのは私以外にもいるということだからだ。誰かはいるということだ。しかし、
それもほんのわずかな瞬間でしかなかった。また再び永遠の沈黙がおとずれた。鴨からは真っ直ぐ
天井に向かってスジのような湯気があがっていた。
やがて、広間の端の薄暗がり、長々とした黒いカーテンの隙間から人々が現れてきた。男であり、
女であった。私の脇にも何人か座った。人々はささやきあい、まるで噂話でもするかのような、いやらし
い顔をしていた。私の隣りの紳士は赤いドレスの女の肢を撫でていた。
私が横目で見やると彼はこう言った。
「どうしたんですか、あなたはまるで夢でも見ているみたいですね」
私はその紳士の顔を見た。そしてこう言った。
「ありがとう、あなたにそう言って頂けると幸いです」 K

「バスタオル」「国旗」「地下室」

458:バスタオル 国旗 地下室
08/03/26 14:46:42
床下には、地下室へ続く階段がある。バスタオルを手に、下る。
灯りなどなく、じめつく空気には黴臭い埃の匂いがする。なにもなくぽっかりと空いた漆黒。
外では雪が降っているだろうか。もうじき、あれが爆発する。
アナスタシア。お前だけが気がかりだ。私が愚鈍で無知なばかりに、不幸にしてしまった。
お前を痛めつけ放置したのは、国だ。私が生まれ育ち、恋をしてお前をもうけた国ロシア。―流行り病、か。
私が与した奴らは私を同胞と見なし、国旗を掲げよ、我らがロシアを我らの手に、と喚いた。
自分のしたこと、しようとしていることを恥じてはいない。ただお前が気がかりだ。
このタオルを抱かねば寝つけなかったアナスタシア。暗闇なればお前の寝顔を思い出すのも難くない。目の当たりにできる。
決して忘れない。だからこそ、私は縛られ苦しんでいる。だがお前の影にではなく、この国に。そう決め込む。

ただ……私はお前のことが気がかりだ。天に見放されはしないか―と。
私はどうなろうと構わない。また、お前以外のものがどうなろうとも。だがここは暗い。
お前を私から奪ったものが許せない。だからこそ、この道を選んだ。
だがこの部屋は狭く寒い。黴臭く、そのくせお前に気に入られたここは、タオル一枚ではどうにもならないほど―寒いのだ。


「推敲」「緑青」「ラプソディ」

459:推敲 緑青 ラプソディ
08/04/06 03:43:48
そこまで明雄を駆り立てたものはなんだったのであろうか。
見上げると下倉山のほうに、境界線を曖昧にしたまま日が隠れるところであった。
足元を見ると昭雄のブルーのスニーカーは反射する光を失いかけ、緑青へと陰影を深め始める。
あぁ、そうだ。あれはガーシュインだ。
音楽の発始点を探し走っていた昭雄は足を止めて目を閉じた。
―ガーシュインのラプソディインブルーだ。

記憶の中のおぼろげな旋律を推敲しながら、耳に流れこんでくる音と照らし合わせる。
コミカルな響きが、13年前の懐かしく、そして忌まわしい事件を呼び起こし、昭雄は
そのまま農道にうずくまった。


「ネズミ」「指の皺」「悪性腫瘍」



460:名無し物書き@推敲中?
08/04/06 06:41:23
>>459
文章も上手そうだし、いい感じだけどひとつだけ。
「緑青(ろくしょう)」
URLリンク(ja.wikipedia.org)

461:名無し物書き@推敲中?
08/04/06 14:56:43
指の皺から顔の皺にかけ、大勢のネズミが駆け抜けていく。
ああ、気持ち悪いと思っていると、隣の女に声をかけられた。
「どうかしたの」
ひんやりとした表情が、まるで俺を否定するようにこちらを向いている。
「別に。いつものあれだよ」
「ああ、」と女は言う。「件の悪性腫瘍ね。全身に転移して広がっている」
「ネズミ、と呼んでいる。最近、ちょこまかと動いて鬱陶しいしな」
 と俺は言い、それから笑ってみせた。
「もっとも、あいつらの言うネズミより数倍タチが悪い種類のやつだけど」
だから、と女は言った。だから、駆除するわけね。
「ああ、月に頼んだ石っころが、もうじき俺の身体を直撃する。何発も、一定の間隔でもってね。
あいつらときたら、輝いてるものが大好きだから。皆、太陽に向かって逃げてる」
女は、哀れむように目を細め、俺の身体を凝視した。
「光の先には何があるのかしらね」
「さあ、神様でも夢見てるんじゃねえか。ただ、一つだけ言えることがある。それは、」
そこまで言ったところで、頭に小石がぶつかった。叫び声が耳元で響く。
俺は、痛みよりもむしろ感動を覚えながら言葉を続ける。
「ネズミにゃ暗いところがお似合いだってことさ」

「舞台裏」「茶柱」「北向き」

462:459
08/04/06 20:02:02
>>460
おぉ、なんか変だと思った。
青緑じゃなくて緑青ね……
恥ずかしいな

463:名無し物書き@推敲中?
08/04/06 23:01:01
>>462
その恥ずかしさを見事に表現してみて。

464:459
08/04/08 01:50:27
 静代は、鼻先に流れ落ちる汗を、薄汚れたタオルで拭いあげた。
静代の身長は、多少の円背の誤差を無視するならば145cmであった。
この畑で茶摘みをしている姿は、少し離れた場所からは認識できないのだった。

日焼けした鼻に、汗とタオルの摩擦が痛みとして知覚できた。
本能的に北向きに顔を背けると、自らの歪な影と相対することになった。
紛れもなく自分の影であるのに、静代はその影の黒さでもって、己の惨めな人生を
陰鬱なものとして認識せざるを得なかった。動けなかった。
背中の茶籠は、夏の日差しのせいで、揉み出す前から乾燥し始めて軽かった。いや、重かった。今の静代には重たくてかなわなかった。
耳には勢を増す蝉の声。目には鮮やかな緑の段々畑。

南のほうから、孫の声が聞こえても、静代は振り返らなかった。
茶の木がエンタシス柱のように膨満し、姿を隠してくれることを願った。

幸福な家庭。この秋にはひ孫まで誕生するという絵に書いたような穏やかな日々。
しかし、静代は未だに演じているのだった。
みなぎっている昼の舞台裏では、ただ後悔のみに身をやつす老女が一人佇むだけだった。



「1997年」「転落」「月面」



>>463
自分の間違いに気づき呆然とする恥ずかしさを描写してみたぜ
馬鹿にしてくれ




465:1997年 転落 月面
08/04/08 09:28:27
もしもかぐや姫が月に帰らなかったなら、と考えて、よく冷えたリモンチェッロをあおった。
彼女はどんな人生を送っていただろうか。
ぼんやりと考えながら、とっぷりと夜に浸かった窓外の風景を見つめた。
可愛らしいレースのカーテンを引いた出窓の向こうで、
とろとろとした闇の深い空中に、満月がぽっかりとその月面を見せている。

帝に娶られていることは、間違いがないだろうと思う。その先の話だ。
子を産んで幸せな日々を送っただろうか。
他にも女性と関係を持つ夫への嫉妬に苛まれただろうか。
それとも私のように・・・・・・私のように、全てを諦め、受動の歳月をただ流された
だろうか。夫の愛情を溢れんばかりに注がれる、「一番」の座から転落し、
散々苦しんだ挙げ句に、何も望まない人形の様な女になっただろうか。

そうではないと良いと思った。求婚者に無理難題を突きつけ、凛として
全てを薙ぎ払った孤高の姫が、そのようなありふれた、つまらない人生に落ち着くのは
やはり物語として美しくない。
溜息を一つ吐いて立ち上がり、古ぼけた時代遅れのプレイヤーに、カセットテープを
セットした。この様になるずっと前、婚約時代に、夫から贈られたテープだ。
緩慢な動作でスタートボタンをかちりと押す。十年足らずで、互いに何かを諦めてしまった
結婚生活を思う。このテープのように、二人の関係はとっくに古びている。互いの声には
ノイズの雨が入り、心に思うことは伝わらない。
漸く、曲が流れ出した。1997年、婚約指輪を贈られた年の、しっとりとした、
ヒットナンバーだった。


「眠る」「薔薇」「ひかり」

466:465
08/04/08 13:55:16
『ぼんやりと考えながら~』→『ぼんやりと物思いに耽りながら~』です。


467:名無し物書き@推敲中?
08/04/09 00:29:22
もうここに来てから7年。「今年の薔薇はとてもきれい」幸せそうな声。

1回目の冬は何も考えられなくて、2回目の冬は泣いているうちに終わり、そして眠った。
3回目の冬
自分がおかれた状況に思いをめぐらせてみた。
暗くてじめじめした場所で「私はどうして身動きできないのだろう?」
「私はどうしちゃったんだろう?」不安になるばかりで、その冬は何もわからないままで終わって、また知らぬ間に眠ってしまった。
4回目の冬
私の置かれた状況が少し見えてきた。胸にも首にも太ももにもわたしの体のあらゆる場所に何か巻きついていた。
「誰か助けて」ざらざらしたものが口に入ってきて、わたしの声は声にならないまま暗い場所に吸い込まれていった。
5回目の冬
聞き覚えのある声が聞こえた。
この声。この優しい懐かしい声。私の心も体も反応せずにはいられなかった。
「結婚しよう。ここに僕たち二人の家を建てよう。」
ああ、そうだ、思い出した。
彼は見晴らしのいいこの高台でプロポーズしてくれたんだ。早く返事をしなくては・・なのにとっても眠い。
春工事が始まり、夏彼と私のふたりのおうちは完成したようなのに、私は眠くて闇の中で、彼の笑顔を見ることができない。
6回目の冬、彼の声。
「きみとおなかのなかの子供にクリスマスプレゼントだよ。一緒にくらそう」 優しい声。懐かしい声。
「ありがとう・・・本当にプロポーズされた場所ね。ここであなたと暮らせるなんてとても嬉しい」
誰の声?わたしではない誰かの声。
闇の中で私の耳に響く誰か知らない女の幸せそうな甘い声。
7回目の春、









468:名無し物書き@推敲中?
08/04/09 00:45:00
7回目の春、わたしはすべてを思い出した。
あの日私は大好きな彼のプロポーズの言葉にうなづいた。
そして「プロポーズ成功記念に植えよう」と言いながら
彼が手渡してくれた薔薇の苗を植えていた。
振り返ったとき、彼が「ごめん」って言って
スコップを私のほうに振りかざした。そして寝てしまったのだ。

ここで待っていたのに、すっかり忘れていた。
ひかりが差してきた。眠るのはもう終わりにしよう。
今年の薔薇はきれいでしょう、ねえ、愛するあなた。


469:名無し物書き@推敲中?
08/04/09 00:52:17
長すぎました。初心者ですみません。

次の三語は
 「桜」「カレンダー」「忘れ物」でよろしくお願いします




470:「桜」「カレンダー」「忘れ物」
08/04/10 17:59:10
カレンダーをめくる。青々とした葉の樹木の写真が、4月の文字と共に現れる。
春という季節が来ると、彼女のことを思い出す―
抱きしめると、彼女は口から鮮血があふれ出させた。暗闇のなかでも映えている。
彼女は口をぱくぱくと動かす。涙ながらに僕は耳を寄せる。
「私を忘れないで……。私だけを見ていて……」
僕は彼女を見つめた。彼女はゆっくりと手を伸ばし、僕の左眼に触れた。
そっと桜の花びらが彼女の唇に舞う。彼女が僕の左眼を潰す。
ぬるりとしたものが僕から彼女の手を伝う。涙だろうか?
彼女の手が眼から離れていく。地に落ちる前に、胸でその手を受け止める。
苦痛にうめく。僕は花びらを手に取り、キスをした。涙が彼女に落ちた―
温い風が窓から吹いてくる。カーテンのなびく窓の先には、梢と花びら。
遠いのか近いのかは相変わらず判然とせず、まだ乾いてたままの風が右眼をなでる。
傍らに置いた写真立てには、二人並んだ写真とあの花びら。桜色というより、黒茶けた赤色の。
キッチンから僕を呼ぶ声。それに応えれば、胸に沸く妻との幸せ。
君が残したのは、左眼の痛痒。僕の忘れ物は、君への気持ち。




「回し蹴り」「フレンチキス」「押っ取り刀」

471:回し蹴り フレンチキス 押っ取り刀
08/04/20 23:40:44
「長らくお待たせしてしまって申し訳ございません」
弁護士は助けとなるべく男の前に腰をおろしたわけだが、容疑者はふと考えながら指先でカチカチと机を
叩くだけだった。そして何度も逡巡している様であった。が、やがて沈黙は破られる。
「問題がある」
その言葉に弁護士は男を見やって肯いた。しかし男が言っていることを理解した訳ではなかった。
それでも弁護士は何度も肯いた。まるで犬が飼主にへつらうように。
「僕は暴行され、あげく蹂躙された。でもこの状況から抜け出すには罠からまずぬけねばならない」
「罠?」
「奴は僕に暴行をした、こうつけ加え。『回し蹴りだ』といい、そして『フレンチキスよ』といって僕を蹂躙した」
「はぁ(わけがわからんが)。奴とは女ですか?」
「わからない。が、それは重要では無い」
「そもそもあなたはあなたが被害を受けたとおりに法廷で話していただければよいのです」
「それは正式な話になりますね?」
「そうなりますな」
容疑者は憮然と頭をふった。弁護士はまるでお手上げだといわんばかりに肩を落とした。
「僕はそれを正式な形で証言しなければならない、ですね?たとえば輪姦された女性がそうであるように」
「致しかたない事情だ。でもあなたに何の問題が?」
「僕が正式に証明するには《回し蹴り》と《フレンチキス》と述べなければならない。裁判の性格上、
一字一句違っては駄目だろう。しかし、そう申しあげたとたんに間違いが生じる・・・」
その時、弁護士の携帯がなった。「失礼・・・」弁護士は電話口を隠すように容疑者に背を向けた。
しばらくして電話を切り、そして沈黙をした。
「隠していますね」弁護士は唇をあまり動かさずにいった。その結果、言葉は壁から聞こえてくるようでもあ
った。「弁護には真実と正確性が辻褄の不都合を許されませんが、あなたはその必要を感じませんか」
「密告があった、というわけか。でもあなたからは告げられぬ、と」
「あなたは容疑者であり、私は弁護士だ。正式に依頼をしたまえ」
「ああ、押っ取り刀、忙しき弁護士殿・・・」 ところで弁護士は苦笑した。そして彼が告げた。
「裁判はここで結審す、被告に有罪を宣告する!」
・・・正式に依頼はした、だがそれは依頼だけである。証言は・・・            K

「綿棒」「オフィス」「裸足」


472:名無し物書き@推敲中?
08/04/21 17:32:16
 友達は「プログラマーなんてオタクぽいし、汚そう」なんてばかにするけど、彼は違う。
 身なりはいつも綺麗だし、刈り込まれた短い髪はいつもサラサラしてる。それに爽やかな笑顔、
何よりまじめで熱心なのだ。潔癖症な私には理想の彼なのである。
 私は、そんな彼に告白しようと、彼が一人で残業する日をまっていたのである。
 そうしてついに結構のときがきた。時刻は夜の十時。私はいったん家にかえり、身なりを整えて会社に戻ってきたのだ。
 経費削減のためだろう、明かりが絞られた廊下をすすみ、彼がいるだろう部署の扉の前まできた。
 そして、覗き窓から彼がいるかか確認した。十畳ほどのオフィスの中に、デスクと椅子が綺麗にならんでいる。
 彼はどこだろうと、つま先立ちしながらオフィスの中を覗く。
 するとそこに彼がいた。ドアノブに手をかけてあけようとしたその時、彼が椅子をまわしてこちら側をむいた。
 びっくりして私は固まってしまい、部屋にはいるタイミングを失ってしまう。
 彼は椅子に座ったまま、右足首をもう片方の膝の上にのせた。そして靴を脱いだと思うと、猛烈な勢いで掻き毟った。
 しばらくして、落ち着いたのか掻き毟るのをやめた彼は、なにやら引き出しからチューブのようなものと、麺棒を取り出した。
 そして、チューブを絞り、中身を麺棒にからめている。彼は、靴下を脱ぎ捨て、麺棒で足の指の間をなぞりだした。
 その時の彼の煌々とした顔といったら―
 私はしばらく彼のそんな姿を見て、そのまま家に帰ると、友達に電話した。
「彼ったら! 彼ったら! 麺棒で足の指を掃除するぐらい綺麗好きなの!」
 
「梅雨」「傘」「駅」

473:名無し物書き@推敲中?
08/04/21 17:35:43
すまん、キーワード入れ忘れた。ついでに修正・・・。


 友達は「プログラマーなんてオタクぽいし、汚そう」なんてばかにするけど、彼は違う。
 身なりはいつも綺麗だし、刈り込まれた短い髪はいつもサラサラしてる。それに爽やかな笑顔、
何よりまじめで熱心なのだ。潔癖症な私には理想の彼なのである。
 私は、そんな彼に告白しようと、彼が一人で残業する日をまっていたのである。
 そうしてついに決行のときがきた。時刻は夜の十時。私はいったん家にかえり、身なりを整えて会社に戻ってきたのだ。
 経費削減のためだろう、明かりが絞られた廊下をすすみ、彼がいるだろう部署の扉の前まできた。
 そして、覗き窓から彼がいるかか確認した。十畳ほどのオフィスの中に、デスクと椅子が綺麗にならんでいる。
 彼はどこだろうと、つま先立ちしながらオフィスの中を覗く。
 するとそこに彼がいた。ドアノブに手をかけてあけようとしたその時、彼が椅子をまわしてこちら側をむいた。
 びっくりして私は固まってしまい、部屋にはいるタイミングを失ってしまう。
 彼は椅子に座ったまま、右足首をもう片方の膝の上にのせた。そして靴を脱いだと思うと、猛烈な勢いで掻き毟った。
 しばらくして、落ち着いたのか掻き毟るのをやめた彼は、なにやら引き出しからチューブのようなものと、麺棒を取り出した。
 そして、チューブを絞り、中身を麺棒にからめている。彼は、靴下を脱ぎ捨て裸足になると、麺棒で足の指の間をなぞりだした。
 その時の彼の恍惚とした顔といったら―
 私はしばらく彼のそんな姿を見て、そのまま家に帰ると、友達に電話した。
「彼ったら! 彼ったら! 麺棒で足の指を掃除するぐらい綺麗好きなの!」
 
「梅雨」「傘」「駅」

474:名無し物書き@推敲中?
08/04/21 17:42:57
X 麺棒 ○綿棒 これはひどい・・・orz

475:名無し物書き@推敲中?
08/04/22 05:07:41
 雨は嫌いだ。
雨が降ると空気は重くなるし、湿気で髪はぐしゃぐしゃになる。
傘を差しても風が吹けば服は濡れるし、歩けば嫌でもズボンの裾が濡れる。
雨が止むことなく降り続く梅雨の時季なんかは、朝がこなければいいとさえ思っていた。
 そんな憂いを考えなくなってから、どれほど経つだろうか。
外に出る回数は少なくなり、やがて自分の部屋からも出ることがなくなった。
 最初は人の多い駅やアーケードが苦手なだけだったのだが、気付けば人を会うことさえ苦痛になっていた。
 何度も季節をやり過ごし、僕は現実から遠くへ逃げようともがいていた。

 梅雨が訪れる度、止まない雨は窓を叩き続ける。
その音は、僕は去年と変わらない場所にいるという事と、僕はまた梅雨を迎えたのだという事実を告げている。
僕は少しも逃げられてはいない。閉塞した日常。あの日から何一つ変わらない。
 僕にはまるで、朝がこなければいいという願望が、皮肉にも成就してしまったようにも感じられた。


「空気」「木」「暑い」

476:名無し物書き@推敲中?
08/04/27 09:42:49
すべての自転車乗りはマゾなんだろうか?
いや、少なくとも真夏の昼間に山を登ろうとする自転車乗りはマゾの素質があるに違いない。
心理学の授業で人間は苦痛に快楽を覚える動物なんだと教授が言っていた。
私は、それを聴いた瞬間「なるほど」と思った。もちろん上り坂のあの苦痛を思い出してである。
しかし実際に太陽にうなじを焼かれながら動かぬ空気の中、森を越え
こいでもこいでも変わらぬ木位置を見ていると、何が快楽だ馬鹿やろうと
この場に教授がいたら「あんたは何も知らないと」言ってしまいそうになる自分を
発見して気が重くなった。いくら苦痛に晒されようとも自分を見失ってはいけない。
しかし、峠まではなんて遠いんだ。すでに足は硬く悲鳴をあげ腰は自分の肉体とは
思えないような違和感を持ち腕は焼けたようにいたい。
もう。金輪際山登りをやめて都市の運転に徹しようと思う。
そればかりか、今、自転車の向きを変え下ることが出来たらどんなに素敵なんだろうと思う。
努力なんてやめちまえ。暑くて熱中症になるぞ。ただ生きていたって努力するんだ。なんで好き好んで
努力なんてする? やめろやめろ、ふもとまで降りればおいしいビールがのめるぞ。
温泉に入って汗を流そうや。腹だって減ってるだろう? もうお前は十分やったよ。
誘惑が私の心をつかんだ。私は十分努力した。もういいだろう。
体を壊しちゃいけない。ペダルの動きをやめ、アスファルトに足をつけると
そのままガードレールにぶつかって倒れこんだ。
私は自転車を置いたまま坂を見上げる。空は高く白い雲がゆっくり動いている。
降りるか上るか? いや私はここでしばらく目を閉じていたい。
優しい自然の中に身を浸していたいだけだ。


477:名無し物書き@推敲中?
08/04/27 09:47:03
「サラリーマン」「風俗嬢」「学生」

自転車乗りの人がいたら感想聞きたいです。
山を越える自転車乗りをバイクから見ていて自分が
もっとがんばらなきゃと思うことがあるので。

478:名無し物書き@推敲中?
08/05/04 12:57:20
「サラリーマン」「風俗嬢」「学生」

「兄ちゃん、学生かい?」
不意に隣から声を掛けられた。
貴史がうつむけていた顔を上げると、肉体労働者風の中年男がニヤリと笑っていた。
「い、いいえ」
社会人5年目なのにいまだに学生に見られてしまうのはやはり童貞だからだろうか。
貴史は苦笑いをしてまたうつむいた。
「兄ちゃん誰に入んの? 俺、ここの嬢には全部入ってるからお勧めしてやろうか?」
中年男は得意気でそして馴れ馴れしかった。
「あのさ! 勘弁してくんねえかな!おっさんと兄弟とかマジ萎えんだよ!」
前の席に居たフリーター風の若者が振り返って怒鳴った。
「いいじゃねえか! 人類皆兄弟って言うだろ? 仲良くしようぜブラザー!」
中年男は怯んだ様子も見せずゲラゲラと笑った。
それに釣られて今まで無関心を装っていたサラリーマン風の男も笑い出した。
若者も笑い出し、ついには貴史もクスクスと笑い始める。
予約した風俗嬢に想いを馳せられるようになっていた。

次は「ダンベル」「ひざまくら」「火星探査機」

479:「ダンベル」「ひざまくら」「火星探査機」
08/05/05 22:33:22
静かな着地だ―。過去6回同様、モニターの主要数値は良好に推移している。着陸時圧力
センサー値は、羽毛が舞い降りたようだ。これが象ほどもある地表探査機だなんて、火星
では露ほども思わないだろう。もっとも灼熱の荒野に思考体がいればの話だが……。

憧れだった宇宙飛行士。人類最遠の地、火星軌道船クルーに選出され1年が過ぎ……、残る
乗員は私一人。ダンベルによる筋トレを欠かさなかったアレスは船外活動中に漂流死。恋人
を失い精神が蝕まれたマーサは、NASA指令による薬物死。そして私は、予定回数分の火星
探査機の維持・管理、及び地球との交信を果たす。……半年後の後任を待ちながら。

軌道船が地球からみて火星の影に入ったとき、交信は出来ない。だから私はマーサの安置室
へ私は足を運ぶ。今宵は窓の外にフォボスが浮かんでみえる。私は彼女の側に跪く。彼女の
肢体の上にこうべを垂れ、神に祈る。

―ひざまくらの姿勢で朝を迎える。
陽光に照らされた地球は、彼女の瞳のように深く青く、とても美しい。
そしてこの上なく巨大な火星の地表は、相変わらずただの乾いた荒野だ。

次は「鼓動」「オレンジ」「ベビーカー」

480:名無し物書き@推敲中?
08/05/09 12:04:15
手に下げた袋の中に沢山のオレンジを抱えながら、ベビーカーを押す母親がいた。
側に連れ添っていた少年は、母親の少し膨らんだお腹に耳をあてながら歩いている。
静かな鼓動―「動いた!」
そう言って少年は瞳をパチクリさせた。
「僕の子供だ!」
母親は頬を真っ赤に染めた。

次は「牛乳」「クリーム」「練乳」


481:「牛乳」「クリーム」「練乳」
08/05/10 01:58:13
クリームと練乳は、牛乳からつくられる。
僕と妹は、いつも一緒にいた。
練乳の甘みに、クリームは想いを寄せた。とろける味わいに耽溺する。
僕らにとってはそれがごく自然で、過ちだと気づくには遅すぎた。

ミルククラウンはクリームのほうがつくりやすいはずだった。練乳は落ちるべきじゃなかった。
僕は慌ててベランダから下を覗く。飛ぶように階段を下りる。

苺のすっぱさは夢から意識を冷めさせるけれど、練乳はそれをゆっくりと緩慢にさせる。
コンクリート上のその白さは、赤みにまじって幻想的で―悲壮だった。

クリームと練乳は白く、交じれば境はなくなる。
白面に触れた僕の手はそれに似て淡く、消えるなら一緒にと願い―涙が落ちた。



お次の題 「通過儀礼」「コキュートス」「莞爾」

482:名無し物書き@推敲中?
08/05/11 03:52:42
 人生におけるおおよその通過儀礼は、何の問題もなくこなしてきた。
特に大きな怪我や病気もなく七五三を迎え、小中とお利口な生徒として卒業し、高校では多少はっちゃけたりもしたこともあったけれど、無事三流の大学に入学して、今は就職することを許して貰うべく、お母さんに電話をしていたところだ。
しかしお母さんは私に「結婚」をして腰を据えて貰いたいらしく、就職なんてもってのほか、と反対されてしまった。
 順調な人生の中で初めてぶつかる問題。就職か結婚か―
 彼は私より二つ上で、私がキャンバスを見学していたときに彼が声を掛けてきたのがきっかけだ。
私たちが同棲を始めたのはちょうど1年ほど前。彼が大学を卒業し、一年二年と試験を受け続け、やっと中学校の先生になれた頃だ。
公務員といえども新卒の給料は二人で生活して行くには大変なようで、私が就職を切り出したときも反対はしなかった。
しかし、いつも莞爾な笑いを浮かべていた彼が少し悲しそうな顔をしたのがとても気がかりで、まだ就職希望の用紙を提出できずにいた。
 そこで背中を押して貰おうと、何事にも寛大だったお母さんに電話をしてみたのだが、そこで返ってきた返事は結婚をしろという言葉。
習い事をするのにも大学に行くことにも反対しなかったお母さんが、今になって私に反対をした。
 ―ここで就職を押し切ったら、彼やお母さんを裏切ることになるのかな……
『裏切り者はコキュートスで凍り漬けにされるんだぞ!』 昔の西洋かぶれのテレビアニメで聞いた台詞を思い出した。
 思い切れずにぼうっと携帯電話を眺めていたら、突然大音量と共に手の中で暴れ出した。
 友人の美砂からの電話だった。


「回り車」「遠く」「華やぐ」

483:名無し物書き@推敲中?
08/05/11 23:22:29
 からからと、回り車が回っている。
 檻の中、ひたすらに走り続けるハムスターを見ながら、ベッドから上半身を起こした少女は口元にはかない笑みを浮かべた。
「おまえはいつも元気ね」
 弱々しく、細い声。
 青白い顔の少女は、そのまま視線を窓に向けた。
 ここからは、うっすらと夜空が明るくなっていることでしか、それとわからないほど遠く離れた神社で行われている縁日。
 その縁日には少女も誘われていたけれど、両親の反対でいけなくて。
 だから、寂しげな笑みを浮かべた後、少女は檻に目をやる。
「元気でいられるおまえも、きっと私と同じなのでしょうね。……檻の中にいて出ることができないのですもの」
 少女の呟きに気づいたのか、ハムスターが動きを止めて少女にそのつぶらな瞳を向けた。
「ふふっ、気にしなくていいのよ」
 優しい声で呟きながら、ベッドに倒れ込み、ため息を吐いた。
 縁日がどれほど華やぐものか、自信満々に教えてくれた少年のことを思っていたから、当の本人の顔が窓に浮かんだことに驚いた。
「いよっ、今日来れないって言ってたから、土産持ってきたぜ」
 来てくれたことが嬉しくて、そっとベッドから起き上がりた少女は華やいだ笑みを浮かべた。少年の楽しそうな笑顔に応えて。


「地鶏」「金色」「盛大」

484:お題:「地鶏」「金色」「盛大」
08/05/14 11:28:36
地鶏。ピコーン! 宮崎県!
思い立ったが吉日。宮崎県へ出発したい俺は、飛行機を乗り継いで地元の空港へ向かった。
地元の空港。そのために飛行機。なぜ?
なぜならば、俺は地元を離れられない(難い)呪いに見舞われている。
呪いは距離を越え、時空を越え、個人を優に乗り越えて大局に作用する。
つまり、俺の地元、俺の家の近辺に住んでいる人々は皆、地元を離れられない呪いを患っていて、隣町にたどり着くまでに数年の時間を要する。
ゴメンね。俺のせいで。
多分、この呪いはコレクティングの呪い。物をコレクティングすること。それは愛だ。
愛しているからコレクティングするのではなく、コレクティングすることで愛が生まれる。
盛大に。分かるだろうか。
キリスト『そのもの』を愛しているのではなく、キリストを信仰している人々、ないしその教え、に感銘を受けたから、いや、止めよう。
、俺は愛をコレクティングしていた。だから、他人を傷つけることもある。
だから、他人から呪われることもある。呪いの数だけ、愛が屍を晒している。俺の背後で。
俺はそれをコレクティングしながら生きて、当然、コレクティングされる呪いも愛す。
愛はすべてだ。だから呪いは、俺を含む俺の半径全域を覆った。
平らな世界に浮かぶ、太陽のように金色に。そう、すべては金色に帰属する。
All in the golden dawn.
ほら、地平線が見えてきた。あれが夜明けだ。俺の町の終わりの始まり。
宮崎県へ至る唯一の脱出口へ、俺の搭乗する飛行機は、王者のように静かに腰を下ろす。

地鶏が、早く、食べたいナァ。










お次は「終わり」「下り」「行き止まり」でヨロシク

485:名無し物書き@推敲中?
08/05/14 14:22:44
「終わり」「下り」「行き止まり」

世界の終わりって信じるか?
そう、世界の終わり。
おしまい。終焉。ジ・エンド。
まあ、お前が信じようが信じまいが、俺が酔ってようが酔っていまいが関係ねえ。
世界なんて終わる時には簡単に終わっちまうんだよ。

楽しかった。ありがとう。さようなら。

この三言で俺の世界はハイ、終了。
大げさだと?
そうかい、そうかい。
なら、試しにお前にもこの世の行き止まりって奴を拝ませてやろうか?
けっ! 余裕かましやがって。
あのな……俺に三下り半くれた女な……、明日からお前の嫁さんだ。

ニューワールドへようこそ、マイ・ブラザー!

次は「あみだくじ」「ゆりかご」「危機管理」

486:お題:「あみだくじ」「ゆりかご」「危機”管理”」
08/05/14 17:00:24
「『危機管理されたあみたくじ的人生を提供します。ゆりかごから墓場まで』
日本とは、つまりそういう国だベイビー。【2008年】と云う定点は、昭和天皇がご崩御されてから十九年! という二点間距離をとるロックンロール。
歴史に帰属すべき、我々のスタンスはZ軸を放棄して、Y軸すら放棄しつつある!」
とか。声明なんてどうでも良かったんだろう。
U-12テロ組織が結成され、U-15自衛軍が結成された現在となっては。

根本から、日本の危機管理能力を疑いたくなるような惨状、すなわちムーブメントが全学徒を覆ったのは、歴史観からして【異種】と表現しても差し支えないだろう。
これは、タームでは無い。これは、ピリオドだ。
来たるべくして、到来した【貴種】流離譚。神卸の儀式。

その頃の僕は、U-12側に属していて、【鉄砲玉、切り込み隊長、人間魚雷】といった物騒な言霊がズラリと並ぶあみだくじの突端をセレクトしていた。
結果、鉄砲玉。
『U-15の砦を単独で攻略しろ!』という無茶な任務を与えられて、それでも意気揚々と出立! ……してはみたものの、土台無理なものは無理だ。やる気だけで、どうにかなる問題ではない。
砦の近辺で、侵入のとっかかりを探してウロチョロしていたところを、自衛軍にとっ捕まり、なす術も無くあっさりと連行され、厳重に拘束。尋問の憂き目に!

でも、僕には秘策があったんだ。
人は歴史に従って生きている。歴史抜きで、人は語れない。
それが例えば、Z軸やY軸を放棄してしまったX軸のみの直線運動だったとしても。
僕らが、貴種で、本来の種から流離してしまった種であったとしても。
【2008年】はいずれ終わる。【2009年】はいずれやってくる。

やがてくる、ある日に。終に、僕は口を割った。
海よりも深く割れた僕の唇は、一つの事実を天に向かって突きつけた。
「ハッピー・バースデイ!」
僕は【13歳】になったのだ。

こうして、僕の中のU-12を支えていたイズムという名の神は死んだ。その、死の一瞬にだけは、確かに神があった。
U-12のためだけに君臨する神が自己に内在し、ピリオドを啓示するのを全身全霊で感じた。あまりにもあっけなくて、笑ってしまった。
「なんだ! まだちゃんとY軸もZ軸も日本に残ってるじゃないか!」

日本とは、つまりそういう国なんだ。ベイビー。

487:名無し物書き@推敲中?
08/05/14 17:02:06
長すぎた・・・反省orz

次は「ロール」「クロール」「スクロール」でヨロシク

488:名無し物書き@推敲中?
08/05/14 17:24:35
ロールパンナちゃんは
クロールが苦手なので、
ネットで泳ぎ方を検索するために
画面をスクロールさせた。
ロールパンナちゃんは泳げるようになった。

次は「山菜採り」「すし職人」「ストレッチ」




489:お題:「山菜採り」「すし職人」「ストレッチ」
08/05/14 18:09:59
かくいう、俺。握れないものは無い。
なんてったって、すし職人だからな。
握らない、という選択は、すし職人である前提に反している。
だから俺は握るし、握る限りすし職人であり、ゆえに握れないものはない。

ある日、客がやってきてね。なんでも火星に山菜を採りに行ってきたんだとかで。
火星産のセリをやたらと持ち込んできてね。大将、ひとつ握ってくれ。って言うんだわ。
で、よ。山菜をパッケージングしてるケースを開いてみたら出るわ出るわ。
そもそも火星は、荒地ばっかりの植物動物不毛の地だからよ。
植物も攻撃的になっちゃって。これ、食虫(獣)植物ばっかりなんだわ。
良く検疫通ったね、っつーと、お客さん照れ笑いしながら、実は野生の火星産山菜を地球に持ち込むのが、宇宙基準法に違反してるとは知らなんだ。
だから、火星オークションで競り落としてきたんだ。「セリ」だけにね。ははは。
なんつって。まぁ客は笑ってりゃ済むけどさ。
俺は、うーん困ったね。とか正直、思ってたけど、ここで握らねぇとすし屋の名折れだ。っつーんで、まず目利きよ。
これがね、意外と握れそうだったんだわ。火星産のセリ。
生きたまんま天麩羅にして由、湯通しして由。
あとは、素直に身が崩れないように軽く握ってやるだけで由。

良し来た。と、俺は意気込んだね。
どんなネタでも眼鏡に叶えば握るのが俺だし、握れないものが無いのがすし職人だ。
まずは全長五メートルはあろうか、っつーセリの首根っこを左手で押さえ込むと、空いた右手でまな板に止めるための釘をセット。
さらに空いた前腕左手で、ハンマーを持って、空いた前腕右手でまな板を固定。それからひたすら、打つ。
その間に、後腕左手で天麩羅の下ごしらえ用準備。残った後腕右手は、まぁ、ストレッチでもやってりゃ良い。暇なのは今だけだ。
じき、行程が中盤から終盤にさしかかる過程で忙しくなる。

ともあれ、火星産のネタをこの手で握る日が来るとは。
地球もグローバル化、いや、ナショナルスペース化したもんだ。
すし職人だけはいつの時代も変わらねぇもんだと思っていたけど、時代の流れっつーのは恐ろしいねぇ。



次は「遊戯」「経済」「工作」でヨロシク

490:名無し物書き@推敲中?
08/05/14 18:25:48
この程度の破壊工作は俺様にとってはお遊戯同然だぜ!
ここは例のパン工場だ。
こっそり忍び込みポリタンクから灯油を抜き取り
小麦粉を片栗粉にすり替えてやったところだ。
灯油も小麦粉も高騰を続けているから、これは大変な経済的損失だろう。
完璧だ!
でもやっぱり少しやり過ぎかな。
灯油も小麦粉も返してやろう。

はっひふっへほー!

次は「糸こんにゃく」「サンドペーパー」「プログレッシブ」



491:名無し物書き@推敲中?
08/05/17 02:44:23
男は焦っていた。
探す指は緊張と興奮で震えて額には汗が浮かんでいる。
心臓は限界寸前まで鼓動し目は血走っている。
俺はもう駄目なのか? 男はそう思う。
時間が無い、ぎりぎりだ。俺はいつもそうやって生きてきた。
男はそう思った。
「あった!」

男はおもむろに糸こんにゃく袋をボールに出すと
サンドペーパーを広げモニターの前に座る。
男はいつも挑戦してきた。擦るために、新たな開拓者になるために。

「空ちゃん、逝くときは一緒だお、一緒だお、僕らはいつも一緒だおおおおお」

男が一物を握ろうとしたとき我慢し切れなかった
汚液がモニターに飛んでいった。
そう男は早漏だった。プログレッシブではあったのだが、、、





492:名無し物書き@推敲中?
08/05/17 02:47:51


男 女 保健室

493:お題「男」「女」「保健室」
08/05/17 12:57:41
 
 高校。イン・ザ・アウトサイダー。
 良く分からないけれど、と巧君は言う。
「誰かが毎日屋上から飛び降りているんだ。でも、誰一人死んだりしないのは、彼のお陰だ。彼って、誰なんだろう?」
 彼。ザ・アウトサイダー。
【性別不明の彼は、果たしてヒーロー足りえるかどうか】
 保健室の壁越しに、巧君とチャネリングしてみたりして。結論を導きだそうとするけれど、判明することはとても少ない。
 今、私がやりたいことは、保健室がもたらす安心感、閉塞感を母胎に喩え、その内側に存在する私を卵子、外側に存在する巧君を精子とメタファ。
 しかる風に、文学的作品を構成。
 更にその保健室は、高校という不安定ながらも、どこか抱擁を想起させる父性的男性像を私に思い描かせ(教師がおっさんばかりだからという説もある)、母親は父親の内側で再生する。
 マジで!? やっべぇ! 
 気持ち悪すぎる。胃袋が不気味に蠕動して、あ、これヤバい。リバースだ。
「ゴメン。耳塞いでて。それでも聞こえるかもしんないけど」
 あふれだすランチ。洪水のように、なんて美しくない。
 さながら、土石流のように。四川省の、あの。
 胃が空っぽになっても、まだまだ断続的な嘔吐感のアフターショックに襲われながら私は、バケツの底に堆積した酸味臭の黄色いゲルを見つめながら理解する。
「たぶん」
「たぶん?」
「本人は、どっちだって良いんだと思う」
「そうだね」
 私たちは、私たちの世代は、いつでも自意識が肥大化しすぎている。





次は「ロン」「パイロン」「二元論」でヨロシク

494:名無し物書き@推敲中?
08/05/17 21:33:11
朝鮮人民軍空軍第三師団所属、
金龍(キム・ロン)は、
を、黄海南道海州市上空を、
中国軍から譲り受けた愛機、
強撃5で爆撃機とは思えないほど静かに、
落ちるように滑空していた。
いや、実際に機は着実に高度を下げつつあった。
強撃5の動力はすでに停止していたのだ。
離陸直後に、強撃5の支柱(パイロン)には亀裂がはしり、
時速200kmに達したころには、
パイロンにとりつけられていたエンジンにまで、
支障が出はじめていた。
その時点で龍が気づき、速やかに帰還すれば。
普通なら起こり得ないはずの事故だったのだ。
パイロンの亀裂にも、エンジンの故障にも、
あらゆる計器は異常を示すことはなかった。
ようやく、
機体の異常と絶望的状況であること悟った龍は死よりも、
これから起こりうるであろう惨劇に、恐怖した。
世界から見れば、龍の祖国は明確な悪だろう。
だが、龍はそんな二元論的な思想はもちえない。
悪も善もなく、ただただ祖国のために。
死など恐れていなかった。
最後は祖国のために死にたかった。
それが、どうして・・・
ただ静かに、龍と爆撃機は本来の務めをはたすことなく、
黄海南道海州市に落ちていく。
亀裂の走ったパイロンに、核を抱いたままに。

次は、大正・パソコン・F15Eストライクイーグルで。

495:名無し物書き@推敲中?
08/05/17 22:31:21
「大正」「パソコン」「F15Eストライクイーグル」


「F15Eストライクイーグル!」

ピンポーン♪

「大正解!」

「商品はパソコン一年分です!」

「やったー!」

NEXT 「運転手」「4分33秒」「自由の女神」


496:名無し物書き@推敲中?
08/05/17 22:52:24
タクシーの運転手に金を放って、僕は必死に走りだした。
今日は彼女の初の演奏会。しかも、NYのカーネギーホールでのデビューだ。
自由の女神の前で必ず行くと誓ったのに、遅刻するなんて情けない。
案内係を無視して、飛び込んだホールは静まりかえって、その場にいた誰もが冷たい目を向けてきて、彼女が苦笑を向けてきた。
椅子に座って鍵盤に向かうだけで何もしていない彼女。
……ジョン・ケージの4分33秒の演奏だったのだと気づいて、恥ずかしさのあまり僕は地面に座り込んでしまった。

次 ジョッキークラブ チョコレート フランス

497:名無し物書き@推敲中?
08/05/19 15:40:41
 遠くから、シャンパンの栓を抜くような音が断続的に聞こえた。フランスのとある田舎町。ここから程ない場所に
いわゆる『西部戦線』の塹壕帯がある。時は1918年、第一次世界大戦の真っ只中だった。
 日本陸軍・神崎大尉は木で出来た粗末な椅子に腰掛けながら大隊長を待っていた。
制服は泥にまみれ、顔は青白くやつれていた。故郷に帰れば数々の縁談が舞い込む神崎だったが、今の風体
では場末の娼婦も顔をしかめるだろう。神崎は目の前の壁に掛けられた鏡に写る自分を見て苦笑いを浮かべた。
「待たせてすまん、神崎君」
 執務室から出てきた大隊長は制服のボタンを掛けながら神崎に声を掛けた。神崎はまっすぐ室外へと歩き去ろうと
している大隊長の後に従った。野戦車に乗り込み村を出た頃、大隊長は始めて口を開いた。
「ジョッキークラブの馬鹿どもがな。また攻勢を企図しとる」
 神崎は大隊長の言葉に唖然とした。大隊長は歌うように言葉を続けた。
「あのアホども。チョコレートの舐め過ぎで頭の髄まで甘くなっとるんだろう。葉っぱが入ってこないからってな。止めたる。
その為にお前を呼んだ。わしらは日露の敗戦で勇猛と無謀の違いを学んだ。今度はあいつらに教育する」
 神崎は203高地で叔父を亡くしていた。大隊長は奉天会戦の壊走で父親を失っていた。無意味な突撃に何の意味が
あるのか。日本陸軍はそれを学んでいた。ともかくも、攻勢など馬鹿げている。ソンムを忘れたのか?
 神崎は憤っていた。


 5年ぶりくらいに参加します。うーん、落ちてねぇ。
 お題は継続。『ジョッキークラブ チョコレート フランス』でお願いします。

498:名無し物書き@推敲中?
08/05/20 10:24:57
「ジョッキークラブに案内して欲しい」青年騎手がそういって案内されたところは、
チョコレートの香りがする不思議な一軒家だった。彼は戸惑いつつも家の扉を押した。
 中は喫茶店のような佇まいで、皺くちゃの老婆が三人、卓について何かゲームを広げている。
一人が振り返り、青年にむかって微笑んだ。あらお若い方、このお方?と、あとの二人は
ひそひそと囁き合っている。どうみても彼女らは騎手ではなかった。
「ポン・ジュース」一人が手を挙げて笑う。
「やあね、そこはボン・ジュールよ。あなたきっと落第するわよ」
「そうだったかね、ヒヒヒ。おフランスは難しいね」
 うしろの二人が擦れるような声で笑い出した。怪しい。実に怪しい雰囲気だ。
「あの、すいません。ここはジョッキークラブ?」
 おずおずと訊く青年に老婆の一人が答えるには、
「ええ。ここは魔女ッ子クラブ。みんなジョッキークラブって呼ぶわ」
「魔女ッ子……クラブ?」
 青年は混乱した。案内人め、間違ったな。
「あのすいません、来るところを間違えたみたいで」
「いいえ、ここでいいのよ。わかってたんだから」
「わかっていた?」
「ええ。そこのお婆さんが振ったサイコロのおかげで、あなたは幸運を授かるチャンスを得たの。よかったわねえ」
「あんた、今年のリーディングジョッキーになれるよ」
 青年は戸惑った。これは新手の詐欺だろうか。よし本当だとして、代償はなんだ? 魂か?
「いえ、遠慮しときますッ」
 青年は扉を押し開けると、逃げるようにしてその家を去った。あとには三人の魔女が残された。

「あーあ、またあたしの負けか。説得に成功すれば、コマを三つ進められたのに」
「下手に貫禄を出そうとしたのがいけなかったのかなあ」
 老婆らが背筋を伸ばすと、その姿がスミレ色の制服に身を包んだ少女達に一変した。
ひとりが卓上に広げた双六のコマを摘んで、壺に入れたサイコロをカラカラと鳴らし始める。
「なんにせよ、まだまだ未熟者ってことよ。ああいう男を騙すには、もっと凄みのある姿が必要ってこと」
「あーあ、あと二年で立派な魔女になれるのかしら……」

→次「華厳の滝」「手羽先」「テニス」

499:お題「華厳の滝」「手羽先」「テニス」
08/05/22 10:27:14

スープ。愛情をスパイスに加えると、旨みが増すらしい。
死ねばいいのに。いや、誰とは言わないけれど。
スープ。その旨みを、キチンと構成したいなら、手羽先というチョイスはグッドだ。ベリーグッド。軽く炒めたタマネギも一緒くたに煮込むと、なお良し。
コンソメは? とか、言い出す馬鹿は死ねばいい。

姉が。そんな理屈を振り回していた姉が、華厳の滝に特訓へ赴いたのは、二月も前のことだ。
お陰で、我が家には平穏が訪れ、俺は手軽にコンソメで淹れたお手軽スープを飲んでいる。やっぱり、コンソメ+卵がベストチョイスですよねー。
それにしても、華厳の滝ってどこにあるんだろう。
聞いたことはあるんだけど。行ってみたいとも思うんだけど。場所が分からないから放置。
そして、携帯が鳴る。ランボーのテーマ。姉だ。

平常心。取り戻したぜ、平常心。
やっぱ平常心がないと駄目だよな。不安定なんだよ。
インバランスっつーの? ディソーダーっつーの?
ふらふらしてんのは、良いんだよ。でも、根っこがないのは駄目なんだよ。わかるかな。わからんかな? わからなくてもいいよ。アンタはまだ子供だから。
ふふふ、姉ちゃんは一足先に無敵になったぜ。

無敵。
姉の電話は、そんな益体もない一単語を、天啓のように俺にもたらして、プツリと切れた。
無敵。良い言葉だ。姉の言葉は、なぜか俺に活力を与える。
俺は、自室の片隅に立てかけてあるテニスラケットに触れ、指先が真っ白になるまでガットを掴んだ。それから、自分に、言い聞かせる。
俺は、子供だ。だから、根っこがないかもしれない。でも、俺には、無敵の姉が居る。そして、この身には、姉と同じ血が流れている。

指先をガットから解くと、急激に血液が流れ出し、皮膚の裏を真っ赤に染めた。
ラケットをケースに収め、俺は「よし」と小さく呟く。
今日は、試合に最適の日だ。




次は「無敵」「根っこ」「子供」でヨロシク

500:「無敵」「根っこ」「子供」
08/05/23 06:30:59
走り疲れて、どこかで休みたいと感じた。目をやると公園があった。あいつと昔よく遊んだ公園。今は子供が無邪気にはしゃいでいる。
「オレは正義の味方ジャスティだ!」
ガキ向けの番組でも見たんだろう、何人かで敵と味方にわかれて戦っている。
「違うよ! ぼくが正義の味方だよ!」
「なにいってんだよ、弱いヤツが正義を名乗れるわけねえだろ!」
ベンチに腰掛けながら、ガキたちの笑顔がだんだんと苛ついてくる。ハイハイ、正義ね。
「もう! ケンカすんなよ!」ガキのうち、聡明そうな一人が叫んだ。
『大切な人を守るのが、正義の味方だ!』
いつかの記憶と重なる。一瞬、呆けてしまっていたが、すぐに怒りが湧き上がる。走り寄り、そのガキの腹を膝で蹴る。ガキは吐いた。
「なにが正義だ。大切な人を守るだ。できもしねえこと言ってんじゃねえよ」言葉を吐く俺を、ガキが苦しそうに見上げる。
「お前も俺も、矮小な人間だ。できることとできないことの区別もつかない、愚直な人間なんだよ」
ガキを地面に捨て置き、公園を出て行く。休むには場所が悪い。とにかくここを離れなければ。
なにせ俺は犯人らしいから。幼馴染みの女性を殺そうとした悪辣な警察官という凶暴な犯人らしいから。


Next 「氷筍」「」「アウフヘーベン」「あえか」

501:sm ◆.CzKQna1OU
08/05/24 03:05:01
あえか、氷筍、アウフヘーベン


「おい、おまえのエッセイのここ、あえかって言葉あるけど、どういう意味だよ」。
執筆の邪魔をされていらだった美依子は、夫の衛雄に毒づいた。「あなたってほんとうな教養のある人よね。編集者の鑑だわ。あえかはあえかよ。それくらいもわからないの?。だいいちなによそれ、氷筍?。缶チューハイなんか飲んであなた、それ、半分が砂糖よ」。
「おまえこそアウフヘーベンなんて高いブランデーがぶ飲みしてるじゃないか。俺がわかるわからないって言ってるんじゃないだろ。読者に通じるかって言ってんだよ」。
「通じると思いますけどね。あなたにはそうは感じなかったわけね」。美依子はそう言ってアウフヘーベンをあおった。
「私はただ編集者としてだな―」。
「なに?」。
「えっ?」。
「あえかの意味よ。はい、この場面よね。“氷点下20度の洞窟内はしんとしていた。岩肌は、あえかな―」。
衛雄は氷筍の缶をテーブルに叩きつけるように置いた。「自然に包まれるような、だ」。
「包まれるような?」。
「そうだ。一部の読者はそう思うだろう」。
「あなた。あえかってのはねえ」。美依子はそう言いながら辞書を取りに仕事机に戻った。「身が引き締まるようなでしょう。自分で辞書を調べてみなさい」。
「めんどくさいなあ。えーえーえー。おい」。
「わかった?」。
「読んでみろよ」。衛雄は美依子に辞書を渡すと氷筍の缶を手に取った。
あえかとはかぼそいというような意味である。
「“岩肌にはあえかな、たくさんのつららによる光景が広がっていた”。あえかな光景が広がってたのか」。
「……つららがね。つららがあえかだったのよ。あえかなつららがばーと広がっていて」。
「そうか」。
「そうよ。少なくとも包まれるような感じじゃなかった」。
衛雄はわずかに残った氷筍を飲み干し、美依子はわかってたわよなどと小声でつぶやきながらグラスに新しくアウフヘーベンを継ぎ足した。


502:sm ◆.CzKQna1OU
08/05/24 03:07:44
次のお題は
「勝つ」「列」「菊花」

503:名無し物書き@推敲中?
08/05/24 12:11:21
表テーマはさ、勝つために並んだいつかの菊花賞、ぐらいで良いと思うんだよ。問題は、裏テーマ。
俺はさ、裏テーマでさ、ガンダムの話をしようと思うんだ。
この時点で、ネタ的にどんぐらい脱落してるか知らんけど。
1st見ろよ! 1st! あれ、ファーストじゃねーか?
つーか、明日は菊花賞じゃなくてオークスだろーが。
どんだけ先取りだよ! だよ、だよ、だよ……(エコーのまま遠ざかる)
 
「という怒りを、アウフヘーベン的に抽出しました」
「なるほど。君は、風化してしまう怒りに、インパクトのある記号を付随させることで、一段階上の怒りへと進化させたのだね?」
「はい。ある種、アリストテレスっぽくもあります」
「素晴らしい! だがメタフィジコーは、このスレを観察していれば分かる通り、消費される一方なのだよ?」
「それでも僕は、Bキャンセルを押したくないんです」
「ほほう。欲しがりません、『勝つ』までは。というコトかな?」
「いいえ、キャンセル待ちをするぐらいなら、並びます。『列』に。誰よりも早く」
「ふふ、屍山血河を往く覚悟は既に備わっているということか! ブラヴォー! ならば、君は心ゆくまで男坂を登りつめるが良い。骨は、私が拾ってやる」
「年に一度の墓参りもお願いします」
「いいだろう。ねんごろに弔うよ。お盆には、必ず白い『菊花』を墓前に供えてな」
「お願いします」

遠ざかっていく、後輩(僕)の背中。やがて舞台から退場。
舞台、暗転。二秒後、スポットライトが舞台中央、両腕を天へとかざす先輩(私)を照射。

「書に善美なる魂を見出した若者よ、君の行く手には、幾多の艱難が待ち受けているであろう。しかし、私は、君の幸福を願わずにはいられない」

再び舞台、暗転。ガンダム。





次のお題は「蚊取り線香」「かまくら」「梅雨」でヨロシク

504:lieb ◆SShzdr.d1I
08/05/24 15:17:56
「蚊取り線香」「かまくら」「梅雨」

私は蚊取り線香に、用心深く火をつけた。刹那のうちに燃え尽きる。
舞う風のなかに風鈴は、りんとも鳴らず脆く散る。
いつしか田には黄金の穂が、咲いてはあえなく枯れ朽ちる。
消える間際のあかとんぼは、晩霞の朱をまぶたに馳せる。
子供がつくった白いかまくら。なぜ逃げるよに溶けるんだい。
熊はやがて眠りから覚め、傾れ雪に人はたじろいだ。
萌芽の兆しを知ってか知らずか、空より緑雨が降りしきる。
私の心もつゆしらず、駆けて梅雨と名を変えた。
曇天は遥か空高く、すとんと抜ける青になる。
ひと年はかくも疾きものか。此岸はかくもはかなきものか。
人が死に往く幾年を、数刻に知る身の程に。



Next 「段平」「回向」「ボーゲン」

505:sm ◆.CzKQna1OU
08/05/24 22:01:52
ボーゲン、回向、段平

雪山の村落、典念和尚はスキーを履いて檀家回りをする。今日も、すっかり曲がった腰のボーゲンですべる和尚の姿が見えた。
和尚は、とある檀家の庭先にひとつの盆栽をみつけた。養生の上からでもわかる、立派な枝ぶりの松もさることながら、和尚が本当に目をつけたのは鉢の方である。
たいそう立派なしがらき焼きじゃ。せいじさんはなんと罰当たりなことをしなさる……。
和尚は開いた戸からせいじに声をかけた。「おーいせいじさーん。せいじさーん」。
「おやこれは、和尚さま。こんなところもなんですし、ささ、お上がりになってどうぞお茶でも一杯」。
「いや、いいんじゃ。それよりせいじさん、あの松は」。
「あの松?。失礼ですがいったいどれで」。
「あの平段の」。
「平段?」。
「ほれあそこの平段平段」。
「平段平段、平段平段と……ああ、あれでございますか。おや、和尚さま、おわかりになられますか?。心得えがおありでしたとは……」。
「まあ少し。そんなことより、あんた、あれは―」。
「よろしかったらですが、おゆずりいたしましょうか」。
「ゆずる?。いやいや、あれは」。
「もちろんお代なぞは頂けませんです。すみませんがうちにお上がりになって少々お待なさっておいてください。すぐすみますので」。
「いい、いい。せいじさん、あの鉢はな」。
「ええ。その鉢からすぐ移し替えますんで。和尚さま、すみませんがあの鉢は貝原先生のお焼きになったしがらきでして、百万は下らないのでして……」。
「そうじゃ、あれはまさしく貝原先生のしがらきじゃ。せいじさん、あんたは、なんでそんなものを」。
「いえ。実はわけがありまして。たまーに、目敏いものがこの鉢を見つけます。立派な松だ、ぜひ5万でゆずってくれいや10万でも20万でも出すと言うのです。その度松だけお譲りさせてもらってりわけです」。
「せいじさん、あなたねえ」。
「先方さんが自ら望まれるんで。これも回向ってやつでしょうか。さ、和尚さま、移し終りました。あとでお寺に届けにあがらせてもらいます」。


506:sm ◆.CzKQna1OU
08/05/24 22:08:23
下敷きは「猫の皿」でした。
“返歌”できなかった……。

次のお題、「ボタン、グミ、震災」。

507:名無し物書き@推敲中?
08/05/24 22:12:14
しね、ボタンしね。グミ、まずいよグミ。震災、うざいよ震災。

つぎのお題は、発見、ミステリー、ハンター。

508:名無し物書き@推敲中?
08/05/24 22:44:36
コピペミステリー伊藤のナナハンターボつき一発見せてやれ

次は「ボタン」「グミ」「震災」で。

509:奇子 ◆mgv.U.ZFE.
08/05/24 23:03:04
ハンターがある日森に入っていったんじゃ。なんのためだかわかるかな。
「狼をやっつけるためだね!」
そうじゃ……狼は悪い奴じゃからね。羊を食ったり豚を食ったり幼女を食ったり。
「おじぃさん、僕なんだかどきどきしてきた」
そうじゃろそうじゃろ。
しかしハンターはなかなか狼を発見することができなかったんじゃ。
「羊さんはいたの……?」
いた。わしがジンギスカンにした。
「豚さんは……?」
しょうが焼きにした。
「幼女さんは…?」
おまえのばぁさんじゃ。
「えっと……」
わしの武勇伝になってしまったな。
「どうしてハンターさんは森に入ったんだっけ……?」
そこがミステリーじゃな。そもそもその森は、金塊を奪った強盗が、金品に目が眩んだある男に殺されたことのある、曰く付きの森なんじゃ。しかし殺された強盗のズタ袋には金塊ではなく石の塊が……
おや寝てしまったか。
その強盗がおまえの父さんなんじゃが。
まぁ続きはいずれ……ゴフっ……?!
「ふふふ。毒が効いてきたようだな」
わしに何を飲ませた?!
「我が父の仇!」
ち、ち、違うんじゃ……。よく考えてみるんじゃ……。時系列がおかしいじゃろうが……。実は今の話には一つのトリックを仕掛け……ゴフッ。バタッ……。
「なんだと?!」

(しかし幾ら考えても、答えは永遠に失われたまま)



次回
「革命」「サービス残業」「マクドナルド」

510:奇子 ◆mgv.U.ZFE.
08/05/24 23:09:26
次は
「ボタン」「グミ」「震災」
で良いよ。

511:名無し物書き@推敲中?
08/05/24 23:16:42
ボタンってグミに似てるよねと彼女が言った。
震災のとき便利だよとぼくが言った。

つぎのお題は、発見、ミステリー、ハンター。

512:名無し物書き@推敲中?
08/05/25 03:50:09
 目の前にちらかっている瓦礫の山を見て、英明は愕然とした。
 精魂込めて築き上げ、あれほどまでに偉様を誇っていた彼の城が、見る影もなく崩れてしまっていたのだ。あまりに突然の事に言葉もなく、その場に膝をついた。
 世界大戦を経験した彼も、震災には抗しがたい恐怖を感じた。
 ボタンひとつで地球を破壊できる人類同様、この地球もほんの少し体を震わせるだけの諸作で人類の営みを根底から覆してしまうのだ。
 だが、それにも増して耐え難かったのは、震災に対する自分の認識の甘さだった。上部にばかり気を取られて、その土台がまるでグミのように軟弱ですべりやすいという事にまったく気づかなかった。
 仕方ない、もう無くした物は戻ってこないだろう。
 英明は半ば自棄ぎみに首をふった。夢も仲間も家族も、戦争で全てを無くした彼が唯一手に入れたものが再建の喜び、そして締観であった。
 また一からやり直すしかない。
 そう呟きながら彼は腰を屈め、床にちらかったマッチ棒を一本一本拾い集めた。

513:名無し物書き@推敲中?
08/05/25 03:52:47
次は「瓦礫」「地球」「家族」

514:名無し物書き@推敲中?
08/05/25 06:22:55
瓦礫の下に家族が埋もれているよと彼女が言った。
地球人だねとぼくが言った。

つぎは、発見、ミステリー、ハンター。

515:名無し物書き@推敲中?
08/05/25 07:53:49
ミステリーハンター発見

次は「瓦礫」「地球」「家族」

516:名無し物書き@推敲中?
08/05/25 08:09:19
発見、ミステリー、ハンター

俺か?。ただのしがない探偵だ。探偵といっても浮気調査が専門で、あとはたまに雑用のような仕事が舞い込んでくるだけだ。別に看板にそうと書いてるわけではないのに。
まあいい。今日はその雑用の方の仕事だ。依頼人は某テレビ番組の司会者だった。
その年齢の割りにはずいぶんとがたいのいい依頼人は言った。「困ってるんです」。
なんでも、依頼人の番組に出ている“ミステリーハンター”なる若い女の一人が、収録日にばっくれたらしく、彼女のアパートに行って発見してきてくれとのことだった。
……まあいい。なんにせよ飯の種だ。俺は現場に急いだ。
ここは中野区は早稲田通り。商業施設ブロードウェーの近くということもあって、若者から老人まで人間でごったがえす賑やかな町だ。
俺は渡されたメモの指示の通り高円寺の方へ向った。その時、こういう光景に出会った。
「ずいぶん広い学校だな。中野警察学校?」。そう、目の前には都内とは思えないほどの大きな敷地の、警察学校なるものの塀が伸びていたのだ。
さあ、ここでクエスチョンがある。
なぜ、都内にもかかわらず、こんなにでかい敷地があるのだろうか。


(続く)


517:sm ◆.CzKQna1OU
08/05/25 08:51:35
「発見、ミステリー、ハンター」続き


正解は、そうだ。江戸時代に味噌屋だか醤油屋だかがあったからだ。
当時の建物はもちろん木造で、大豆でたっぷりの重たい大桶は、平屋に置くしかなく、味噌だか醤油だかの需要が高まるとともに、味噌屋だか醤油屋だかの桶の数も増えて行き、自然と大きな敷地になっていったのだそうだ。

が、そんなのはまったく今回の依頼とは関係のない話だ。先を急ごう。
中野警察学校から歩いて五分ぐらいなのところに、例のミステリーハンターの女のアパートはあった。
五分とは言っても道に迷ったりコンビニに寄ったりしたので三十分はかかったが。
アパートに近付くと、五、六人の主婦が、アパートをいぶかしげな目つきで眺めていた。腐っても探偵。俺は事件の臭いを嗅ぎ取った。
俺がアパートに近付こうとすると主婦の一人が声をかけてきた。
「あんた、入らない方がいいよ」。
そうは言っても飯の種だ。依頼人の信頼を守るためでもある。階段をのぼっている時ゲップがでた。先ほどのコンビニで買って食べた茹で玉子の匂いがした。
201号室。ここがミステリーハンターの女の部屋だ。しかし、チャイムを押してもドアノブをがちゃがちゃと回してもなんの反応もない。さてはやはり……。
ふと、俺はドアに張り紙がしてあることに気付いた。事件の核心に一歩近付いたか。俺は老眼の入って来た目を凝らした。
“このドアや他の窓は絶対開けないでください。警察にご連絡ください”。




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