この三語で書け! 即興文ものスレ 第二十ニヶ条at BUN
この三語で書け! 即興文ものスレ 第二十ニヶ条 - 暇つぶし2ch350:名無し物書き@推敲中?
07/12/28 14:41:29
次の御題は??

351:名無し物書き@推敲中?
07/12/30 15:07:39
>>1

5: お題が複数でた場合は先の投稿を優先。前投稿にお題がないときはお題継続。


352:名無し物書き@推敲中?
08/01/11 10:48:08
だれか頼む…2008年最初の名作を!

353:名無し物書き@推敲中?
08/01/11 12:11:09
縄文土器とコンビニという時代を超越したお題が、歴戦の即興erの指を鈍らせる

354:書いてた人いたらゴメン
08/01/11 14:26:21
 コンビニのバイトを始めて今日で一週間目だ。やっと着慣れてきた制服に身を包み、レジの前に立った矢先に、お客がやってきた。
「あの~、この店に縄文土器って売ってますか?」
「は・そんなのモノ置いてませんけど」と、内心コイツは池沼かよ、と俺は思いながら一応真顔になって答えた。
「おかしいなあ、確かここに置いてあるって聞いてきたんだけどな」男は諦めきれないという顔で辺りを見回した。
すると、カウンターの奥から店長が血相を変えて飛んできた。
「すみませんね、お客さん、こいつ新入りなもので、へへへ。縄文土器でしたよね、確かにございますですよ」
 店長がカウンターの下から縄文土器を取りだし男に見せた。日本史の教科書で見た記憶のある、前衛芸術家が造った植木鉢のような物体を目の当たりにして、私は大いに驚いた。
「これでよろしいでしょうか」
「うん、これ、これ。ウチで飼ってるヒマワリを植え替えようと思ってたところなんだよね」男は目を細めて笑った。
な、何言ってるのだ、正月早々、こいつは?
「お客さん? あんた、いまヒマワリって言ったよね?」店長が血相を変えて男を睨んだ。そうだよね、店長だって、おかしいと思うよな。
「え、言ったけど、それが何か?」男は半歩後に下がり、すでに店から逃げだだんばかりだった。
「そんな目的じゃ売れないよ、こいつはね、朝顔専用なんだよ。帰ってくんな」店長は縄文土器を両腕に抱え込み、語気を強めた。
店長の言葉が終わるより早く、男は店から姿を消えていた。私が呆然としていると店長は土器をカウンターの下にしまい、何事もなかったかのように奥へと引っ込んでしまった。
私は訳がわからず、ふと思い出したようにカウンターの下を覗き込んだ。
棚の上には客の立ち読みで売り物にならなくなった雑誌がぽつんと置かれているだけだった。

次のお題は、「肉まん」「引っ越し」「選挙」で、どう?


355:選挙 引っ越し 肉まん
08/01/22 11:27:50
 新しい部室に引っ越してからも、活動の内容は以前と全く変わりはなかった。ゲーム、漫画、雑談、それらが日常になりすぎて、ときたまここが本来何部だったかも忘れるほどだ、
「したがって、彼らにも選挙権があるはずだ!!」
始まった、Yの演説だ。
 Yは変わっていて、本来の部活動をやらないという点では他の部員と変わりはないのだが、たまにこのような演説を披露する事がある。完全な自己満足なので他の部員が聴いていようがいまいが関係ない。
 Yのこういう考え方が好きな僕は、ときどき耳を傾けることがある。ただ今日の演説の内容は些か説得力と面白みに欠けている。
僕はさっきコンビニで買った肉まんの最後の一口を食べ終えるとYに提案した。
「Y先生、今日はここまでにして次は女性の生態について知識を深めるのはどうでしょうか」
「よろしい。」
演説を中断されたのに少しだけムっとしたが、先生と呼ばれたことに気を良くしたYは鞄のなかからDVDを取り出した。
下らない毎日、ただ意味もなくすり減らす毎日、だけど僕はこの糞みたいな日々を忘れないだろう。


356:名無し物書き@推敲中?
08/01/22 11:34:37
あ、スンマセンお題忘れてた。次のお題は

「青い鳥」「冬眠装置」「コントラスト」
でお願いします。

357:名無し物書き@推敲中?
08/01/22 15:18:26
『我々は滅びるだろう。
 しかし、もし神の気まぐれで生き残ることを許された人々がいるのであれば、
 我々は彼らに小さな幸せを運びたいと思う。
 最後の冬眠装置には、青い鳥を入れることが決まった。
 願わくば、人類の未来に幸あらんことを』

カプセルの蓋を開けると、そんな音声と共に一羽の小鳥が飛び立っていった。
青い鳥だ。
空の色とのコントラストが、眼に痛いほど鮮やかだった。
「なんて不吉な」
私は複眼を閉じて頭を振る。視神経に不吉な青の色が焼き付いてしまっていた。
「まったく、美を理解しない生物など滅びて当然だ……」

澄み渡った空の下を、一羽の青い鳥がどこまでも高く羽ばたいていく。
そして、赤い空の色の中に、溶け込んでいった。


お次は、「スリングショット」「花束」「共感」で。

358:名無し物書き@推敲中?
08/01/22 21:23:43
もし僕が天使なら見えないスリングショットに
花束を込め彼女に向けて放つだろう。
彼女は大学のカフェテリア、午後の日差しが
美しいテーブルに血を流して倒れるに違いない。
学友達が取り囲む。何が起こったのかと。
彼女はどうしたのかと。
その時、僕はそっとそばにより彼女に刺さった
棘を抜けば彼女は目を覚ますに違いない。
「あなたは誰?」

いいや、僕は首を振る。
こんなのフェアじゃない共感が得られることじゃない。
そして見えないスリングショットを空に捨て
いつか彼女に相応しい男になって彼女の前に現れるよう努力する。

そう青春の時だ。


「白雪姫」「知らんがな」「新聞社」

359:晴田雷稲 ◆/QeJSIyurw
08/01/22 22:48:46
 森はだんだん暗くなってきた。踏みしめる落ち葉の音も湿ったものにかわる。
カリウドは肩越しに目をやり息を飲んだ。ついてくる七歳の子供の周りだけが
白く輝いている。カリウドは足を止め体ごと振り返った。子供はカリウドを見
上げ、どうしたの? と聞いてくる。顔を見つめると白い光がゆっくりと消え、
白い肌と赤い頬、そしてつややかな黒髪の白雪姫がカリウドの瞳を占める。
カリウドは目をつぶる。狩に使う刀に手をやり、とまってしまう。
「知らんがな」
 ようやく言葉をしぼりだしつぶやく。瞑目のままゆっくり、鞘ずれの音を聞
きながら刀を抜く。目を開ける。白雪姫はおびえていた。余計なことを聞いて
ごめんなさいといった。
「いや、違うんです。お姫様」
 そういって切っ先を白い喉に向けると、白雪姫にはもうなにもかもわかった
ようだった。城にはもう帰らないから助けてくれと泣いた。刀を持つ右手を白
雪姫の両手が包んだとき、カリウドは自分がぶるぶると震えていることに気づ
いた。はっとして白雪姫の喉もとから刀を離した。すると白雪姫はありがとう
といいながら、森の奥へと足音もなく消えていった。
カリウドは、あしたのグリム新聞社のヘッドラインは王女失踪になるだろうか
と考えながら腰が抜けて座り込んでしまった。

「だいだらぼっち」「波」「ミネラル」

360:だいだらぼっち 波 ミネラル
08/01/23 11:53:47
ペットボトルが地面に落ち、ミネラルウォーターが無重力状態で放たれたように飛散した。男は落としたものを気にもせず、ただ見上げていた、彼だけではない、周囲にいたほとんどの者、いや、世界中が、真っ昼間の空に突然現れた「それ」をただ呆然と眺めていた。
「だいだらぼっち…」
彼は昔祖父から聞いた妖怪の話を思い出していた。しかし今頭上をゆっくりと漂っている「それ」はそんな架空の妖怪よりはるかに巨大だった。
「それ」は液体のようであり個体のようでありピンクでもあり緑でもあった。ある者は神だといい、ある者は悪魔だといった。見る者によって変わるらしい。
「ただ共通していることがあります」
電気屋のテレビのニュース中継が「それ」についてまくし立てる。
「あの巨大な物体が通過した後には生物が消えるということ、次第に大きさを増していること、そして…」
中継は途切れた。自衛隊や軍は必死に抵抗したが一切の攻撃が効かず、核さえも取り込まれた。人々は諦め「それ」と一つになることを望みはじめた。そして「それ」の何周目かの巡回の後、地球から生物は消えた。「それ」はゆっくりと深呼吸して、宇宙の波を泳いでいった。

361:名無し物書き@推敲中?
08/01/23 12:08:58
またお題忘れた。

「夕焼け」「踏切」「転校」

362:名無し物書き@推敲中?
08/01/25 22:02:00
僕は、かれこれ20分もこうして上がっては下がる遮断機の前で
駅から吐き出され家路に着く人並みの中、道路の端で立ち尽くして
決断するかしないか決めかねていた。
「君さあ自殺するつもりなんだろ?おいらはずっと君を見てたんだよ。」
僕が驚いて少年の顔をまじまじと良く見ると少年は微笑みながら
分かってるんだよというようにうなずいた。
少年の背中には二つの大きな翼が見え、僕と目が合うと
翼を羽ばたかせ空に飛び上がる前のヘリコプターのように
徐々にランプの上に浮かび始め宙で静止した。
「おいらのことが怖いかい?自殺する人間は怖いものなんてないかな?
おいらが自殺するときは何も感じなくなっていたけど君も同じかい?」
少年の顔から微笑が消えた。
「おいらもここで自殺したんだよ。君が生まれた頃だよ。
何も楽しいことなんてなくてさ。唯一、自殺が救いだった」
電車がやって来て少年が話すのをやめると大きな金属音と空気を切る音と共に
目の前を通り過ぎた。見慣れた電車の色だ。憂鬱なその色。
 「自殺はね駄目だよ。君は友達がいないんだろ?
誰にも相談できないし相談しても意味が無いと思ってる。違うかい?」
遮断機が上がると少年は消え僕は世界に引き戻された。
町を夕焼けが染めてるのに気づいたのはそんな時だ。

363:名無し物書き@推敲中?
08/01/25 22:02:41
「突然ですが今日から新しいクラスメートが増える事になりました。
転校生のS君です。みんな仲良くしましょう」
僕は昨日からずっと踏切であった少年のことを考えていた。
彼はいったい何者なんだろう? 自分に妄想が始まったのかと
怖くなった。あの少年は僕の心が生み出したものなんだろうか?
「では席は・・・K君の隣が空いてるからとりあえず今日は
そこに座ってもらうことにしましょう」
僕は転校生のことなど上の空で昨日のことを考えていた。
学校に居場所は無く興味も持てなかった。

歩いてきた足音が止まり僕の隣の椅子が引かれる。
「K君、よろしくね」
突然のあいさつにびっくりした僕が顔を上げると
見慣れない顔がそこにあった。転校生、僕には関係ない。
いや・・・僕がふと気になって、転校生の顔を見ると
転校生は微笑んでいた。
「僕の友達になろう」
転校生はそういった。










364:名無し物書き@推敲中?
08/01/25 22:04:48
「タイムトラベル」「自転車」「オリンピック」

365:名無し物書き@推敲中?
08/01/25 22:07:29
「ねえ君。ほら二中の制服を着た君」
僕がぼんやりと顔を上げると遮断機の点滅する大きな赤いランプの上に
僕と同じくらいの年齢の少年が座っていた。



最初のこの文章コピペするの忘れた。orz



366:名無し物書き@推敲中?
08/01/26 17:47:14
いっちゃんが、結婚するのぉー、と言った。
いつものように、語尾をのばして鼻にかかった甘ったるい声で私の耳にささやいた。
多分いっちゃんは、私の「誰だれ、相手は」という言葉と、不意をつかれた慌てぶりを
期待していたんだろう。
でも、私は彼女の期待に沿わなかった。
「おめでとう」と、うっすら笑って彼女の肩を軽く叩き、そのまま教室を抜けて出た。
コートと鞄はもうすでに手に持っていたから、不自然な感じにはならなかったと思う。
学校の玄関の重いガラス扉を開けると、空気はもう淡い夕焼けの色に染まっていて、
私の吐く白い息が浮いて見える。
握る自転車のハンドルはこれ以上ないくらい冷え切っている。
いっちゃんが、私の耳にいろんなことをささやくたびに、心配だの、分別だの、友情だの、
なんだの、みとめたくないけど嫉妬だの、ありとあらゆる感情が私の中に生まれていた。
いっちゃんが夜中に泣きながら電話をしてくるたびに、少しずつ返事をしている私の声が、
他人のものに聞こえてきた。
一緒にいるだけで楽しかった昔の私たちを、今の私が見たら、どんな気持ちになるんだろう。
携帯電話ができて、いっちゃんの打ち明け話は24時間になったけど、タイムトラベルはまだ実現していない。
川べりの道を、自転車で走ると風は頬を切るくらい冷たい。
「結婚かぁ」
私は風にまぎれるように声に出してみた。
いっちゃんのように、細い顎も、桜色の頬も、よくうごく大きな瞳も持っていない私には、
オリンピックの金メダルのように遠い言葉だ。
鞄の中から、メールの着信音が聞こえてくる。きっと、いっちゃんだ。
でも、私には風の音の方が強くて、聞こえない。
かじかんだ指では、返事も打てないから。
私はペダルをいっそう速くこぐ。

次は「泡沫」「イタリア」「信号」で。


367:sm ◆.CzKQna1OU
08/01/27 15:14:53
イタリア人アンリ・ベール、フランス本国での筆名をスタンダールと名乗る男は、死の一年前、アルバノ湖畔の砂上に12人の愛した女の名を書いた。
彼は恋愛に生きた男だった。つまり彼はもてない男であり、女につきまとってはあしらわれ、苦汁を舐めた年月をもって彼は真の恋愛の証だとした。
アンリの目は生涯を通じて情熱の湯気に曇らされており、愛人も、もちろん自分をも公正に判断できなかった。著作の中で彼は自分のことをそれはたくさん語ったが、自分に優しい嘘を並べたに過ぎなかった。

所変わってアメリカ、天才”少女”作家として騒がれていたリリーという少女が書斎の窓からその小さな身を投じるという事件が起こった。
皆が言うように執筆の苦しみから逃れたかったのだろうか。あるいは小人症という自分の運命をやはり克服できなかったのだろうか。
ここに彼女の言葉を引用してみよう。「ライフ・イズ・ア・フェアリーテイル!」。人生は、おとぎ話だ。
彼女は悲しみという優しい案内人に手を取られ、おとぎの国に旅だっただけなのかもしれない。

スタンダール「パルムの僧院」の主人公ファブリスは、監獄に囚われた我が身のことも省みず、あろうことか監獄長官の娘クレリアにラブサインを送り続ける。
それはみじめといってほどかすかな信号であった。ファブリスは外に彼女の気配を感じると、窓のわずかな隙間から棒を出しひらひらと振るのだ。
一方ファブリスに対しておなじくかすかな信号を送る者もあった。叔母のサンセヴェリナ公爵夫人である。彼女は脱獄の手はずは整ったと、灯籠の小さな火をもって、牢中のファブリスに伝えんと
していたのである。
もちろんそのどちらの信号も現実的ではない。そんなかすかな信号など、実際の現実の前では、荒波に飲まれる泡沫のようなものだ。
だが、これは小説の話である。かすかな信号も伝わる。良い運命が待っている。

私たちは十分に皮肉屋であるから、もうひとつのとびっきりの皮肉をつぶやいてみることもできるはずだ。「人生はおとぎ話だ」。
馬鹿馬鹿しいことだが、おとぎ話の中にはなんと、救いがあるのだという。



368:sm ◆.CzKQna1OU
08/01/27 15:17:40
そうかお題か。
カツレツ、菊花、アンダルシア
ではどうでしょうか。

369:晴田雷稲 ◆/QeJSIyurw
08/01/29 22:55:46
「カツレツが食いたいいいいい」
 彼女の言葉はずっしりと湿っていて重い。まだ「い」が続いている。た
だの「カツ」じゃないし「食べたい」でもない。彼女はたまに言葉の選択
の仕方で僕をにやりとさせる。仰向けになって読んでいたR25と背景の天
井の間に、R25の右上の角からのそりと顔をだした彼女の目はオニだよ。
オニ。おなかへってるんだね。R25の角でチョンとオニ目をつくとギャっ
といって床をドタドタいわせて後ずさった。
 アパートを出てアーケード街をいきつけのとんかつ菊花豚(きっとかっ
と)まで歩いてると駅に折れる角に新装開店のレストラントがどでかく構
えていた。入口がまるで魚眼レンズで誇張された犬の顔みたいにでかい。
でかいでかいと思っているうちに立ち止まった僕ら二人を自動ドアが左右
にぐわっと開いて噛み付くように迫ってきた。かまれちゃ大変だと一歩進
んでドアを入って舌なめずりするような赤いフロアマットの上にジャンプ
した。
 店員に案内されて席につきメニューに顔をうずめていた彼女は「すみま
せんガスパチョ2つ」と手を上げた。トンカツにしないのかなと彼女の顔
を見ると「ガスパチョ知らないの? アンダルシアだよ?」と言って鼻と
あごをつんと上げてうす目で僕を見下ろす。オロカモノメって。でもすぐ
に「ぐふっ」といつもの下品な笑いがこぼれる。なんだ彼女も知らないん
だ。にやりとする僕の頭を「バカにしないでよ」と手のひらでポコリとた
たく。手の重さで首が傾いで「あイテ」
 開いて見せてくれたメニューには黄色いスープの写真があった。指差し
ながら、これよ。飲んだらトンカツ屋さん行きましょ。と微笑んだ。急に
普通で冷静になっちゃった。僕もおなかがすいてきた。

AV サプリメント ラジオ

370:AV サプリメント ラジオ
08/01/30 04:52:41
 シップ・ナヴィが目的宙域周辺を告げた。地球との相対速度が0となるようオートパイロットをセットする。
 (いよいよだな。この時をどれほど待ったことか。私の原点であり、永遠に追い求める対象でもあった、あの懐かしい時間を…)
 わが懐かしいスゥィートホーム・コロニィを発って以来、幾光年もの距離を(それも、うら寂しい銀河辺縁方向に!)旅してきた。そして今日、ついに追いついたのだ。
 すでに仮想アンテナを構成するプローブ子機は散布されている。
ディスプレイキューブの中にはそれらの位置を示す夥しい光点が、船と地球とを結ぶ線分を半径とする球面状に、船の周りを取り囲んでいるのが表示されている。
すべての準備が順調であるのを確認すると、私はシャック区画へと移動した。
シャックは、今は取り外されているが、各年代のさまざまな受信機と、それらと対を成す録音・録画機器が、隔壁に埋め込めるようになっている。
もちろんコクピットのAVコンソールには、あらゆる変調方式に対応した高性能なソフトウェア受信機が内臓されているが、
私は、レディオ・ハンティングにはその放送の当時のリグを使うことにこだわっていた。
この大変に重く嵩張るペイロードのために一体どれほどのイオン・ペレットを余分に消費してきたかわからない。
 地球人類が、電波の発明以来宇宙空間に向かって放出し続けてきた、さまざまな情報の断片、時代の声、
あるいは他愛もないパーソナリティのトーク…それらは光の速度で宇宙を飛び続けていた。
その、宇宙に散りぢりになった地球文化の残滓を、超光速の宇宙船で追いつき、捉え、「回収」するのが、レディオ・ハンターの仕事だった。
 この最後の航海は、自分のための旅、そして原点への旅と決めていた。あの日、徹夜でエアチェックした、あの番組……。
この航海ではは一切の録音機器を積んでない。さあ、二時間半の「生放送」。長丁場だ。食事がわりのサプリメントをかきこむと、ラジオのスイッチを入れた。
あのときのままだ。中波AMの甘いノイズ。周波数と放送日時は今でも諳んじることができる。
「レディオ・オオサカ。1314kHz。」ダイヤルを合わせると、ノイズが止んだ。


『こんばんにゃ~。起きてますか?桃井はるこです。2月19日深夜の、ウラモモーイ!…』

スペシャル ライター ゆりかご

371:晴田雷稲 ◆/QeJSIyurw
08/01/31 23:30:28
# レンチャン失礼します

 デスクに釘付けになって契約ライターの送ってきた原稿をチェックしていると、スペシャ
ルウィークという懐かしい単語が聞こえてきた。目を上げると洋介がこちらに背を向けて
後ろの席の女の子に話をしている。先週の競馬の話をしているようだ。引退した馬の名が
出てきたのは血統の話でひとしきり盛り上がっていたせいらしい。十年前のダービーの日
のことをふと思い出した。
 あの日、俺は大学時代のクラスメートと十人ほどで久しぶりに集まり、横浜の駅ビルに
ある「ラウンジ」という店で酒を飲んでいた。
 俺が隣の席の男友達とその日のダービー馬の騎手の話をしていたとき、店の自動ドアが
開いて胸を上下させ息を整えている美広と目があった。目で笑いながら美広は駆けよって
きて「あっちゃん、久しぶりだね」と右の手のひらを挙げる。反射的に俺も手を挙げた。
挙げた手を振り下ろして美広と手を合わせる。しめった破裂音が鳴った。なぜかわからな
いが、俺は美広の手を離せず、そのまましばらく手を握っていた。美広の顔に広がる微笑
に誘われて、俺も自分の顔が崩れるのがわかった。ハイタッチにしては微妙に長すぎる時
間が経ったとき、握った手を前後左右に数回振り、その勢いのまま離した。
 なぜ、あのとき美広と寝たのか。大学のころはそんな対象ではなかった。美広の艶やか
な手のひらを握ったとき、華奢な手のひらが俺の指の力でしなやかにたわんだとき、身体
の内側がまるで背骨が震えるように振動した。ゆっくりと揺れるゆりかごのように穏やか
な波が体中を満たしていった。

「アキラさん、ねえ、そうですよね」
 自分を呼ぶ声に記憶の断片は消え去り、蛍光灯の明かりに白く照らされたオフィスが視
界に戻ってくる。パソコンのファンの低い音が耳を占めた。何を聞かれたのかわからなかっ
たが、眼鏡を上げ「ああ」と返事をして原稿に目を戻した。

風 歌 足音


372:名無し物書き@推敲中?
08/02/01 08:51:12
 風が、鳴った。僕は動きを止めて、空を見上げる。
 何処までも高く遠くあって、青く澄んだ雲一つ無い空。
 照りつける日差しは島に比べると凄く優しくて、涼しささえ感じさせた。
「……ここまで、来るなんてね」
 懐に入れたパスケースに話しかけながら、僕はただ静かに歩く。
 たったったっと、アスファルトを踏む僕の足音と、風の鳴る音だけが響く大地。
 目的地はもう目に映っていた。
「……風に誘われて歌う……君への歌を」
 遠くから、歌が聞こえてきた。
 僕が、彼女の作った曲に付けた歌詞。それは、彼女と僕だけが知っている歌。
「風にたゆたせて歌う……君への思いを乗せて……」
 目的地へ、彼女の家へ、家の前の柵に腰掛けて歌う彼女の元へ。
 逸る気持ちが抑えられなくて、僕は気が付けば走り出していた。
 たった数日だけ島へ来た彼女。そこで仲良くなって、でも彼女が帰るのは当たり前のこと。
 けど、僕と彼女は別れなかった。インターネットが、距離を繋いでくれたから。
 彼女の歌声を聞きながら、僕は彼女の前に立った。
 ただ視線を交わして頷き合う。
 そして、僕は彼女の後に合わせて歌い始めた。

 花 日差し 帽子

373:お題「花 日差し 帽子」
08/02/02 11:13:55
 後輩が花屋で薔薇を買っていた。
 誰にあげるの、なんて聞くまでもない。
 この間、つきあい始めたばかりの彼氏と旅行に行ったと、私にお土産をくれた。
 小さな博多人形。後でこっそり、ほほえむ顔を爪ではじいたら、じんと指先がしびれた。
 彼氏とうまくいってない私の気持ちに似た痛み。
 幸せそうなあの子がうらやましい。
 いたずら心を起こし「お疲れさま」と声をかけると、照れた顔で店から出てきた。
「お疲れ様です、先輩」
「きれいな花。彼氏にあげるの?」
「えへっ。ほかの人には言わないでくださいよ。あっちにいるのが彼氏です」
 後輩の視線の先には、日差しを避けるように深く帽子をかぶった男性がいた。
「今日から、彼氏と一緒に暮らすことにしたんです」
「良かったじゃない」
 後輩は目を輝かせてうなずき、彼氏に向かって手を振った。彼は突っ立ったまま。
「もう、いつもすぐ気づいてくれるのに」
 後輩が駆けていって帽子を取る。と、私の彼氏の顔が現れた。


次のお題「春 豆 瓦」

374:晴田雷稲 ◆/QeJSIyurw
08/02/02 21:53:13
 左の高台へと続く踏み固められた土の道を駆け上る。道の両側に
植えられた桜の木々は真っ黒だ。中には深い緑色の苔が生え、毛皮
のコートを着込んだように温かくしているものもいる。冷たい空気
のなか枝をいっぱいに伸ばし、駆け抜ける僕を応援するようにアー
チをつくり道を取り囲む。見守ってくれる黒い観客のなかを風の歓
声を耳に感じながら走り抜ける。激しくなる息が心地よい。坂を上
っていくと花も葉もない枝の隙間から崖沿いの家々の屋根の角度が
徐々に変わっていくのが見える。薄っぺらい線だった瓦の一枚一枚
が僕に気づいたように顔を出してこっちを向いてくる。少しずつ。
一斉に。
 輝く雲を切りとるアーチの出口が迫ってくる。僕は歯を食いしば
って勢いを増していく。もう少し。最後の一歩、右足を思い切り踏
みつける。足を取り囲む土煙。そのまま思い切りジャンプする。顔
を上げると高台のてっぺんの一本桜が黒い姿を現す。空一面の薄雲
がこぼす白い光の中、一本桜はくっきりと黒い枝を広げている。枝
の先には豆のようにまん丸くつぼみがふくらんでいる。
 僕は振り返り、足を踏ん張って乾いた空気を胸に思いっきり吸い
込んで、とめて、叫んだ。
「春がッ!」
「来るよッー!」

見えない 岩 トーチ


375:見えない トーチ 岩
08/02/02 23:41:55
 松明を片手に一人の少女が真っ暗な森のなかを走っている。少女は思った。もうどれぐらい走っただろうか、振り向いてみたが街の灯りはもう見えない。
松明の炎も次第に弱まってくる。それはそのまま少女の心を表していた。
夜明けを待てばよかった?そんな暇はない。すぐに薬を届けなければ。
こうしているいまも姉は熱でうなされているだろう。母も父も病に奪われた。姉は残されたたった一人の家族。急がなければ。
 風が枝の間を吹き抜け、不気味な音をたてる。悪魔の娘達の笑い声のようで、外套を深く被り耳を塞ぐ。姉からもらった団栗の御守りを力強く握りしめる。
途中何度転んだだろう。寒さも力を奪っていく。もう駄目かと思ったそのとき見覚えのあるものが目に飛び込んだ。狼岩!ということは村まであとほんの少しだ。
少女は走った。残りの力を未来を全てをその足に込め、村をめざした。

「あなたにも見せてあげたかったわ」
真っ白なドレスを纏った女性はそう呟いた。
「有難う…本当に有難う…」
そう言って彼女は花束を墓の前に置き、花婿のもとに戻っていった。彼女の手には団栗の御守りが握られていた。

376:名無し物書き@推敲中?
08/02/02 23:48:39
次のお題

「遭難」 「逃避」 「回顧」

377:名無し物書き@推敲中?
08/02/03 22:16:02
若いころはどこか不良=かっこいいみたいなものがあった
親に反抗して先生に従うことを嫌い、仲間と呼べる友人たちとだらだら過ごす時間こそが生きている実感だった。
社会から外れること、若さからの所以かそこに惹かれるものがあった。
常識から外れ、皆と違うことをすることでしか自を表現できなかったのかもしれない。

しかし今となって回顧をしてももうどうしようもない。
安酒を飲み現実逃避してももう手遅れだ。
外を出ればネクタイをした俺と同世代の人間が堂々と闊歩している。
着実にステップアップしている周りに比べ俺はなんだ。
俺は、社会から外れているのではない、ただ遭難していただけだった。




378:名無し物書き@推敲中?
08/02/03 22:18:07
次のお題

みかん 雪 子供

379:晴田雷稲 ◆/QeJSIyurw
08/02/04 22:31:55
 ぺたんとお尻をつき、膝の先だけ炬燵に入れて、靴下の裏をこちらに向け、毛足の長い
綿の部屋着に幼い身体をくるんで、もう赤ちゃんの時のようにぷっくらしてはいない、す
こし細くみえるようになった小さな手にみかんを二つ、ぎこちない手つきでお手玉してい
る綾の後ろ姿を見ていると、翔子はなにかほっとした気持ちになった。
「冷凍みかん」
 両手にひとつづつのみかんを掴んで振り向き、左手のみかんを翔子にむけて差し出した。
「ダメよ。こんなに寒いんだから」
 窓の外に目をやりながらそう言うと、朝よりも雪が激しくなっているのが見えた。隙間
を見つけるのが難しいくらい、舞う雪が空間を満たしている。お風呂場の屋根に積もった
雪が気になる。昨日の雪かきが中途半端なままだった。まだ日のあるうちに一通り掻いて
しまおうと思い、防寒着を着込みにかかった。すると綾も上着を着始める。
「綾はおうちで待っててね。ちょっとだけ雪掻きしてくるから」
 上着を着込んで膨らんだ綾は、翔子を見上げ、ちょっとの間不服そうに立っていたが、
すぐに「はい」といってその格好のまま炬燵に足を入れた。服がかさばり寝っ転がってし
まい、顔を向けて笑った。
 外からお風呂場の屋根にあがり、大まかに掻いて、降りも激しいままだし、そろそろあ
がろうかと思っていたとき、玄関で音が聞こえた。ドアが開けられ、しばらくして閉まっ
た。その後は何も音がしない。
「綾」
 呼んでも返事はない。ふと、このまま子供を失うのではないか? という思いが、なん
の脈絡もなく、降りしきる雪の中から翔子の心に吹きつけてきた。
「綾」
 もう一度叫んで、一歩踏み出したとき、雪が崩れ、足をさらう。右側に転んでスコップ
の柄が変な形で横腹に入り、痛みが走った。そのまま流され今掻いたばかりの雪の上に膝
から落ちた。子供の名を呼ぼうにも横腹を打った痛みで息ができない。急に暗くなった。
押しつぶされていた。掻き残した雪がまとめて降ってきたんだと思いながら、白い闇の中
で気を失った。

……お母さん!

生還 微笑み 傷

380:生還、微笑み、傷 (上)
08/02/05 23:59:40
 その兵士は運が悪かった。彼は肩を怪我した状態で戦場に取り残されてしまった。出血が酷く、早く治
療しなくては大事に至るが、砂嵐の中ではそれも困難である。だから彼は彷徨っていた。
 やがて彼は洞窟を見つけた。朦朧とした意識で洞窟に駆け込むと、そこには敵であるテロリストの兵士
がいた。テロリストは素早くナイフを構え、こちらを警戒した。彼もなんとかナイフを取り出して構えた。数分
ほどそのまま対峙していただろうか。だんだん兵士はどうでも良くなってきた。彼はこらえ性のない人間で
あり、仕事でも運動でも、本当につらくなると現実逃避してしまうタイプだった。その悪い癖のせいで、彼は
自分のナイフを投げ捨ててしまった。辛さから逃れるため。
 するとどうだろう、テロリストも構えを解いてしまった。よく見ればこの男も怪我している。彼は包帯を二つ
取り出し、片方を彼に投げた。どうやら一時休戦らしい。
 四日間、彼らは洞窟で暮らした。言葉は通じなかったが、食料と水を分け合い、共に生き延びようとした。
それはおそらく、お互いの利害関係が噛み合っている間だけの短い平和であったが、その兵士には心地
よかった。

381:生還、微笑み、傷 (下)
08/02/06 00:01:53
 しかし平穏も長くは続かなかった。テロリストが無線機で連絡を始めた。どうやら友軍との連絡が取れた
ようだ。同時に兵士のところにも友軍から連絡が入った。兵士とテロリストはお互い目配せをした。そして
テロリストはナイフを兵士に投げて渡し、自らもナイフを構えた。
 兵士は渡されたナイフを構える。傷も癒えた今となっては体調的な問題は何もないはずだった。しかし彼
は今回もまた辛くなってナイフを捨ててしまった。
 テロリストはそんな彼を見て、驚いたような顔をした。しかし、すぐに微笑み、ナイフで十字を切り、そのまま
自分の喉を切った。それからテロリストは何か喋ろうとしていたようだが、兵士には何も聞きとれなかった。
 やがて友軍が洞窟にたどり着き、兵士は祖国へと帰った。
 彼にはテロリストが自殺した理由が分からなかった。自分を殺さなかった理由は分からないでもない。情
が移ったのだろう。しかし自害する理由などなかったはずだ。「殺すか殺されるか」と言う言葉が頭をよぎる。
このまま考え続ければ答えが分かりそうな気がした。しかし彼は辛くなって思考を中断した。
 分からなくてもいいこともある。彼はそう自分に言い聞かせ、空を見上げた。空は青く、雲は白かった。




―――――――――
次は
クラゲ 大河 心臓 
でお願いします

382:クラゲ 大河 心臓
08/02/08 00:57:37
猿に近しい人なのか、人に近しい猿なのか
毛むくじゃらの動物は大河から海へと流されていった
イカダとも言えぬ木の屑に乗り、不思議な物体を追い求める

以前、毛むくじゃらは透明な、まるで心臓のようなものを塩辛い水の中に見た
それは動物の中にあるものと大きく違うものだった
我を持ち、目的を持ち、生きる心臓に毛むくじゃらは驚き逃げ出した
逃げ出したと同時に後悔し、強い好奇心が芽生える

毛むくじゃらはその時の生きる心臓をもう一度見たかった
部族の者に手伝ってもらい、イカダらしきものを作る
毛むくじゃらは流れていく
クラゲの群れの中には木の欠片と、木を降り海へと帰った心臓が残った

次:「期待」「結果」「夢」

383:晴田雷稲 ◆/QeJSIyurw
08/02/09 01:28:38
 ナオミが言ったことが、最初頭に入ってこなかった。
 話がうますぎるというのはこのことなのかもしれない。それでも身体の内側
から湧きだしてくる喜びの噴流は押さえきれない。期待していたことがこんな
結果となって現出するなんて。自分の心の中だけじゃなく、この世界、このく
されきったはずの世界で、体中の細胞を一斉に破裂させるような喜びが顕れて
くるなんて。ただ期待していただけのときは真実じゃなかったのに、ナオミの
言葉によって真実になってしまった。ナオミが現れた。ナオミがここにいる。
ナオミ。ナオミ。拳を握りしめる。手のひらに爪が食い込む。開いてしまった
ら消えてなくなりそうで、怖くて力を抜けない。拳に蓄えられた力が腕に伝わ
ってくる。肩をふるわせる。体中の筋肉という筋肉が全てのグリコーゲンを消
費しようと一斉に収縮している。夢なら冷めさせない。永遠に夢を見続けてや
る。ナオミの言葉を引き受け、自分の言葉を伝えるために力をゆるめた。精一
杯冷静に。でも気持ちをこめて。右手をさしのべて。言った。


 告白 ダメ 雲


384:告白 ダメ 雲
08/02/10 00:32:56
「このまえ高橋先輩に告った」
 ストレッチをしながら美幸が突然切り出した。
「ふぅん」
 僕は側で屈伸をしながら必死に動揺を表面化させないよう気のない素振りで応えた。
「ダメだった…」
「そっか」
 今度は深い安堵を顔に出なさいように言った。見つめる先の助走路にはその憧れの先輩が今まさに砂に向かって走っている。
 ふと美幸の記録がここ数日落ちていた事を思い出した。
「今日は空が高いな」
「…うん」
 すがすがしい秋晴れの日、浮かぶ雲も青い天井もとても高くて、今日はいつもより飛べそうな気がした。

今砂の上で笑っているあいつよりも。


次の題 「荒涼」「寂漠」「残像」

385:名無し物書き@推敲中?
08/02/10 00:47:19
最近はいつも心に雲がかかってるな。
思い返すとここ半年は仕事に追われ自分の時間が持てず心の余裕がない生活を送っている。
実家に帰ってないなぁ。かーちゃん元気かなぁ。
この前の同窓会、久しぶりに学生時代の友人たちに会った、結構変わるもんだな。
出世しているやつもいたし首切りに怯えてるやつもいた。
明るく堂々としているやつもいれば、自信をなくしているやつもいる。
恋心を抱いてたけどついに告白できなかったあいつはもう結婚して子供もいるってさ。

今の生活、俺は満足しているのかな。
かーちゃんごめん、当分嫁さんの紹介は無理そうだわ。
でも仕事は頑張ってるよ。俺なりにね。
落ち込むことはあるけど辛いのは自分だけじゃないからな。
いい人生を歩んでるとは決していえない、むしろ駄目な人生かもしれない。
ただ
「前を見て進むしかない」
そう自分に言い聞かせて生きていくよ



次のお題
コーヒー 車 恋人 

386:名無し物書き@推敲中?
08/02/10 00:49:09
かぶった
次の題 「荒涼」「寂漠」「残像」
でお願いします

387:名無し物書き@推敲中?
08/02/10 23:24:56
もう随分長いこと歩いているような気がした。
歩いても歩いても、同じような景色ばかりが続く。
高層ビルの間を歩く人々。その人々のなかを歩く私。
群集はまるで私には気がつかないようだ。
そんな人々が楽しそうに生活している様子は、
もはや西部劇の白黒映画の一場面のように
荒涼とした風景にしか見えなくなっていた。

「西部劇か……」私は、ふと、
「ああ、ここは本当に砂漠みたいだな」と思った。
するとどうだろう、本当に地面に砂漠が現れ、
ビルも人々も砂漠に呑まれ沈んでいった。
そしてあたりにはビルの残像が、ヒトの残像が、この世界の残像が、
「そこにはそういうものがあった」という感覚だけが寂漠として残った。

私は、私は、まだ生きているのでしょうか?


次のお題

「つり銭」「殺人事件」「浅漬け」


388:晴田雷稲 ◆/QeJSIyurw
08/02/11 01:36:17
 繋がれた岩牢はひとりが入れるだけの狭いものだった。顔の前に開いた小窓
から荒野だけが見える。枷を留めた者は去り際にずっとこちらを見ていた。ま
るで子犬を捨てたことを嘆いているかのように。その尊大で、しかし寂しげな
眼差しから、自分が永遠の縛鎖についたのだと知った。死が軛を取りのぞくま
で。小窓から天頂に昇った太陽が見える。雲は走り、荒野は吹きすさぶ。まば
らに生えた草木は引きちぎられまいと必死に大地にしがみついている。やがて
日は沈み。月がやってくる。夜の荒野は静かだ。草木も安らかな眠りを得て音
もない。なにか音がしたように感じて目を上げた。しかしあるのは月の青い光
にてらされた動かない大地だけだ。耳を澄ます。右腕をかすかに動かすと音が
した。また動かす。音がする。むなしさが胸を満たす。音を発するのはこの荒
野で自分だけなのか。やがて風が太陽を運んでくる。月が照らし始めると風は
去ってゆく。荒涼の太陽と寂寞の月だけが自分のすべてとなる。まぶたを閉じ
れば、太陽と月とが同じように繰り返している。いま見ているものが実際目に
しているものなのか、まぶたの裏の残像なのか、区別はつかない。
 長い時を経て、馬の蹄を遠くに聞いた。時は満ちたのか。

猿 王 インド

389:晴田雷稲 ◆/QeJSIyurw
08/02/11 01:38:18
かぶ

「つり銭」「殺人事件」「浅漬け」
でどうぞ

390:名無し物書き@推敲中?
08/02/11 14:51:30
今日も仕事が遅れた。終電には間に合いそうもない。
駅まで来たものの電車がないんじゃしょうがない。
ホテルに泊まるかタクシーで帰るか、そう迷っていた時に駅下の飲み屋を見つけた。

仕事に失敗はつきものだ。それが自分のせいならまだいい。
しかし中には失敗を押しつけられたり客から不条理なクレームによるものも多い。
そういう時はただただ心が腐る。世の中の全てが憎たらしくなる。
満員電車の中でのちょっとした小突かれから殺人事件に発展するのも
仕事によるストレスからだろう、今になって理解ができるようになった。

飲み屋のテレビでは今日も暗くなるニュースばかりが流れてる。
昔はどうだったか、24時間働けますかなんて言葉が流行るぐらい
仕事にみな情熱を持っていた。金もあった。希望があった。
浅漬けなんかじゃなくもっといいものを気軽に食っていた。
偽物なんかじゃなく本物のビールも飲んでいた。

時間はもう2時を回っている。こんな所で酒を飲んでる場合じゃなかった。
店を出る時、心なしか釣銭をもらう手が昔より小さく見えた。

391:名無し物書き@推敲中?
08/02/11 14:53:25
お題

部室 テスト コンビニ

でお願いします。

392:部室 テスト コンビニ
08/02/12 00:04:06
 七年ぶりの部室は見慣れない物や配置が変わっていたりはしたが、名残はそこそこあった。壁や机の落書き、棚にはコンテスト入賞の賞状やらが飾られている。そもそもここがまだ放送部の部室として使われていることが少し嬉しかった。
「瀬戸君」
 驚いて振り返る。だがそこには誰もいなかった。
「泉…」
 泉は部員のなかでは目立たないほうだったが、僕は彼女に密かな想いを抱いていた。でも結局最後まで気持ち伝えることは出来なかった。僕の意気地の無さと、彼女を奪った事故のせいで。
 雑誌やコンビニの袋などで散らかった机のうえに放送用のスタンドマイクがあった。スイッチを押す。繋がってないので意味はないが、なんとなく。向かいあい、喋ってみる。
「チェック、チェック、聞こえてますか? そっちはどうですか? 僕は…まあ相変わらずです。チェック、チェック、届いてますか? 伝えたいことがあるんです…」
 スイッチを切った。繋がってないので意味はないが。

 埃をかぶり、やがて色褪せていく記憶。ただ棚に飾られた写真の二人だけは何も知らずにいつまでも笑顔のままだ。

393:名無し物書き@推敲中?
08/02/12 00:10:39
お題

境界線 既成概念 擬態

394:「境界線」「既成概念」「擬態」
08/02/12 14:36:31
 草木にまだ露が光る頃、一匹のカマキリがその眼をぎらりと尖らせていた。
鋭い視線の先には、灌木の若い枝。
 枝の上には何もない。ただ他の枝と違うのは、その下縁に滴が見えない。
獲物。露の付いていないその背景を見たか、それともわずかな臭いを感じたか、
カマキリは野生の勘と経験とでそう判断した。木の枝に擬態した節足動物。
 直後カマキリは高く跳躍した。大きな両の鎌をより大きく振り上げて、獲物の胴体を
がっしりと掴んだ。
 と、カマキリが確信した瞬間、捕らえたはずの獲物の、いやむしろ美しかった朝の空の、
境界線がぐにゃりと歪んだ。獲物と見た昆虫の体はぽっかりと開いた口に変わり、
うっすらとかかっていたもやはよりはっきりと何者かの殻を形作った。カマキリは
二つの鎌を残してばりばりと砕け空に消え、それを食い尽くした何かは、静かにもとの
灌木の外形を覆いやがて見えなくなった。
 ありふれたものの「内側」が本体であるという既成概念を、そして肉食昆虫の野生を
上回る何かが、この世界には潜んでいるのである。


次「雪」「タンス」「セロハンテープ」

395:晴田雷稲 ◆/QeJSIyurw
08/02/14 22:23:41
 タンスを持ち上げる。重い。緻密で堅い木材が手に食い込む。と感じたとき、軍手が滑
った。倒壊するビルのようにタンスが傾く。息を呑む。喉がヒュッと鳴る。肩胛骨を滑ら
せて腕をのばす。かろうじてとどいた。指先をタンスの底に吸いつかせる。セロハンテー
プなみの粘着力を発揮しやがれと自分を鞭うち、そのまま少し引き上げ、すばやく指の根
本まで入れ直す。タンスは二度三度とゆっくり揺れた。
「うぃぃーー」
 一緒に運ぶマサルが声を上げる。安堵80%非難20%といったところか。
「おう、あぶなかったぜ」
「気をつけてくださいよ。アキラさぁーん」
「わかったわかった、行くぞ」
「うぃー」
 マサルはこの言葉をよく使う。Ouiということか。
 歩き始めると、タンスの重さが増すようだ。一歩進むたび腕が下に引っ張られ肘が抜け
そうだ。マサルは一歩ごとに、喉を擦るような短い息を吐いている。
「どうしたんだ、疲れたか。よっこらしょ」
 足元を確かめながら言った。
「え? どうしてですか?」
「その息の仕方だよ」
 目を上げてそう言ったが、大きなタンスの向こうのマサルにはよくわからなかったらし
い。え、別にどうって事ないっすよ、と素っ気ない。
「アキラさんのこのあごのほうが微妙っすよ。うぃー」
 顎を突き出して口をすぼめ、首をゆっくり振りながら言う。俺のまねをしているようだ。
なるほど自分も顔に力が入っていたことに気づく。
「まあな。俺は腕もやばい」
「あー、でも俺もきついかもしれないっす。話してるのも苦しくなってきました」
「そうだな、おっしゃ、とりあえず運んじまおうぜ。おうりゃ」
 気合いを入れ、持ち直す。タンスの側面に顎を密着させ空を見上げると、左目に何かが
入った。とっさに閉じたまぶたから、冷たい涙があふれて流れた。雪だ。
「急ぐぞ! マサル」

救急車 ドーナツ バリアングル

396:名無し物書き@推敲中?
08/02/16 00:33:57
その頃の私は、休日出勤が好きだった。
誰もいないオフィスで、誰にもじゃまされず、自分の仕事を機械のように片付ける。
猛烈なスピードでキーボードを叩いていると、ドアを開ける音がした。
振り向くと、私服の小笠部長と目があった。
「ありゃ」「どうも」
私はぎこちない笑顔で頭を下げ、部長は頭をかいた。いたずらを見つけられた子供のようだ。
「部長もお仕事ですか」
失礼とは思いつつ、私はキーボードを叩く手をゆるめなかった。
うーん、そのね、仕事じゃないんだ。いやね、実はこれ、新しいカメラなんだけどね、
一眼レフでね、田辺くん、カメラわかるかな、デジカメ、画素数も多くてね、ほら、
ファインダーがバリアングルなんだよ、これ。新機種なんだ。
部長は言い訳のように言葉を並べながら、手に持ったカメラを私に見せる。
「部長、写真がお好きなんですね」闖入者をとがめるようなキーボードの連打を、私は止めた。
「うん。趣味ってほどでもないけどね。好きだねえ」
仕事場を撮ってみようかなと思ったんだよ、と小笠部長は言った。
ここ、この机。部長が自分のデスクを指さす。
ここから職場を眺めてるでしょ、いつも。
「なんかこう、もっとキャッカンテキに? 見てみたい、というか」
あきらかに照れている部長を前に、私も少し困ってあいまいに笑みを浮かべる。
田辺くん、ちょっと待ってて、と言い残して、急に部長は出て行った。戻ってきた部長は、手にミスドのパックを提げていた。
「これ差し入れ。休出の邪魔をしてすまなかったね」
帰ろうとした部長を、私はひきとめた。
部長、まだ写真をとってないじゃないですか。
いや、いいよ、また今度にする。
部長はやっぱり、いたずらを見つけられた子供のようにそそくさとドアに消えた。
ひとりでゆっくり撮りたかったんだろうな。
私はまた無人になったオフィスで、コーヒーを淹れて、ドーナツをかじった。
窓の外で救急車のサイレンの音がする。はっきりしたドップラー効果を残して音は通り過ぎていった。
私は再び、キーボードを叩く音で部屋を満たす。

「鴛鴦」「鍬」「バイオハザード」

397:「鴛鴦」「鍬」「バイオハザード」 1/2
08/02/16 14:45:45
一陣の涼風が吹き抜け、鳶がゆるやかに円を描く。
老人は皺だらけの額に汗を浮かべつつ、澄み渡った空を見上げて眉根を緩めた。
先日傘寿を迎えたものの、日々の過酷な労働で鍛えたその肉体は老醜に程遠い。
鍬を振り上げ大地を耕し、肥料を与えて生命を育み、全てに感謝しながら実りを穫る。
誰に讃えられることもなく年々ただ愚直に重ねてきたその営為が、今は無性に誇らしい。
それもみな妻のお陰だ。多少の照れを感じながらも老人は想いを馳せる。
数十年前。箱入り娘だった妻と半ば駆け落ち同然に故郷の村に戻ってきた。
白く細かった手指はひび割れ節くれ立ち、夜のように美しかった黒髪は雪のように白くなった。
それでもいつも笑顔を絶やさずに、気難しい自分を気遣い支えてくれた妻。
言葉にこそ出せなかったが、鴛鴦の夫婦のように睦まじく添い遂げたいと心から願っていた。

398:「鴛鴦」「鍬」「バイオハザード」 2/2
08/02/16 14:55:33
いきなり鳴り響いたサイレンに思考を遮られ、老人は目の前の建物に厳しい視線を投げる。
数年前川上に工場が建設されて以来、この一帯の空気も水も悪化の一途を辿っていた。
バイオハザード。耳慣れぬその言葉が囁かれ始めたのは、川で奇形の魚が獲れ始めてから。
地元民が何度か交渉に臨んだが、多大な寄付金が貧しい過疎村の上層部を沈黙させた。
そうこうしている間にも、村では密かに、そして急速に奇病が流行り始めた。
最初は悪質な風邪だと思われていたそれは、まずは視覚を、やがて聴覚を、そして最後に心を奪っていった。
妻の名が罹病者リストに書き加えられた時、彼の中である決意が生まれた。

背中で力無く首をしなだれる妻に、あるいは自分自身に言い聞かせるように彼は小さく、しかし力強く呟いた。
お前と過ごせて俺は幸せだった。すまない、そしてありがとう……愛しているよ。
妻のために長らく止めていた煙草を懐から取り出して火を付け、深く煙を吸い込み、またゆっくりと吐く。
そのまま目の前の導火線に煙草で火を点け、爆ぜながら短くなっていくのを見守る。もう大丈夫だ。
妻を優しく草の上に下ろして寝かせ、自身もその脇で横になってまた空を見上げる。
そっと手を繋いだちょうどその時、二人を閃光と爆音が包んだ。


「人でなし」「∞」「タピオカ」

399:名無し物書き@推敲中?
08/02/17 21:02:40
妹はタピオカとココナッツが入った乳飲料が好きだった。
今その妹の笑顔だけを心に浮かべ闘っている。

相手はボクシングフェザー級日本チャンピオン。現在は7ラウンド。場所は後楽園ホール。
そのチャンピオンがゆっくり、ゆっくりと距離を詰めている。
彼のパンチの破壊力は凄まじい、かすっただけでまるで内臓をえぐられる様な感覚に陥る。
相手のパンチを喰らってはいけない、一発でも喰らってはもう起き上がることが出来ないだろう。

ここまでの7ラウンド、闘ってみて、わかる、私はもう、彼には勝てない。。。。
しかし私には負けられない理由がある。その理由があるからはるばるアジアの島国まで遠征までしてきているのだ。
なんとしても勝って、ファイトマネーを、チャンピオンの名声を、そして愛らしい妹のためにも!
苦しい生活から逃れるために、病弱な母さんに十分な療養を受けさせるために、
私はどんな汚いともしてみせよう、例え妹から嫌われても、故郷から人でなしと言われようとも。

私はぎり、と歯を食いしばり相手に近づこうとしたとき
チャンピオンは∞の軌跡を描き、彼もまた私に近づいてきた。


次のお題
ファーストフード、匿名掲示板、腕時計

400:>399
08/02/20 05:07:38
 それは低く冷たく、人間味のない声だった。
 ―だからお前はダメなんだよ。
 どこから聴こえたのかも誰の声かもわからない。後ろと言われれば後ろな気もするし、部屋の外と言われればそんな気がする。だがやっぱりわからない。
 確かなのはここ最近、私はこの声に苛まされていることだった。
 ―お前は、作家になりたかったんだろ?だけどなれずに狭いアパートで一人暮らし。笑えるよな。
 ふざけるな。文句があったら出てこい。
 「おい、誰なんだよ!」
 ―なにキレてるんだよ?図星だったからか?
 と言うと声は私を嘲笑った。
 「いい加減にしろよ!」
 私は部屋の壁を拳で思いっきり殴った。築30年の土壁はあっけなく破れた。ぱらぱらと欠片が落ちていく。
 右の拳からは血が流れている。ポタポタと血は私の手から外へ溢れ、畳に散っていく。
 ―そうカリカリすんなよ。また書けなくなるぞ。作家になりたいんだろ?ほら、また一日が終わるぞ。
 腕時計を見ると、針はもう夜中の0時になろうとしていた。
 「うるさい!邪魔するな!終わりがなんだ!オレはまだ始まってもいねぇ、始まってもいねぇんだよ!」
 そう言い返すと私は腕時計を引っこ抜くように外し、何度も何度も畳に叩きつけた。
 その腕時計は亡くなった父が私に与えた就職祝だった。作家になることを誰よりも反対していた父からの最期の贈り物だった。もう20年も前の贈り物だが。



401:つづき
08/02/20 05:30:23
 ―お前の父親の言っていたことは正しかったんだよ。お前にゃ才能がねぇ。
 声は、けたけたと笑う。
 私は頭をかきむしった。手の血が頭皮をなぞる。
 『頭に血がのぼる』、そんなフレーズを思い出すと私の口から微笑が漏れた。イライラするのが馬鹿馬鹿しくなり、血をティッシュで拭い、適当に包帯を巻いた。月日のせいか、管理が悪かったせいか包帯は黄ばんでいた。
 そしてさっき買ってきた安さだけが売りのファーストフード店のハンバーガーを片手にパソコンにむかった。ハンバーガーはチンケな味がするが、腹が満たされるならそれで良い。
 私はマウスを動かした。手が痛む。インターネットへアクセス。匿名掲示板にクリック。気晴らしに匿名掲示板はもってこいだ。
 私は小説家を目指す人たちが集まる掲示板にクリックした。画面に文字が表示される。
 1:>ケータイ小説なんてくそくらえ!
 2:>1よ。お前がクソだろう?デビューしなきゃケータイ小説以下!
 それは違う、と私は思った。いくら本を出していないからといって、あの文法が間違ってばかりで、語彙も乏しいケータイ小説以下なんて……ありえない。ありえない。ありえない。
 痛みを無視するように指がキーボードを叩いた。
 3:>2さん。お言葉ですが、それはありえないでしょう。義務教育を受けていればケータイ小説以上の作文は書けます。書けるに決まっています。



402:つづき
08/02/20 05:52:02
 4:>あのなぁ、小説は文法が正しければいいとか、語彙がありゃあイイってもんじゃねえんだよ。センスがあれば駄文だっていいのさ。だからケータイ小説は売れてるんだろ?
 違う。違う。ケータイ小説など間違いだ!間違いに決まっている。
 私の指がピアノでフーガを奏でるかのように激しく動いた。
 5:>それは間違っています!ケータイ小説などあんなの誰でも書けるに決まっている!くだらないくだらないくだらない!
 書き込みが終わると私はすぐに、更新ボタンを押した。
 すると、パソコンの液晶から声が聴こえた。
 6:>5へ、だからお前はダメなんだよ!
 私は確信した。コイツが私を苦しめる声の主だと。犯人がわかれば恐くない。
 頬が緩む。勝てる。私はコイツに勝てる。なぜなら正義はいつだって勝つのだ。ゲームの支配者はこの瞬間から私になったのだ!
 7:>卑怯者め!お前の正体は知ってるんだよ!お前が6で発言した瞬間から形勢は変わったんだ。オレが主導権を握る!
 清々する。ついに反撃の機会が巡ってきたのだ。
 私は嬉々として更新ボタンを押した。
 8:>お前、ヤバくね?
 9:>8へ、関わらない方がいいぞ。
 私の答えは正解だったようだ。焦っていやがる。もっともっと懲らしめてやる。楽しくなってきたぞ。
 私は即、返信してやった。
 10:>関わらない方がいいぞ?はっ逃げるんだな!犯罪人!
 私はまたまた更新をクリック!返信がくるまでクリッククリッククリッククリッククリック!
 はははは!私は勝利する!戦って戦って戦って戦って戦って、勝ち抜くのだ!はははは!
 また声が聴こえた。
 ―おまえ、廃人だな。
 私はそれをかきけすようにキーボードを叩いた。

 おわり

403:名無し物書き@推敲中?
08/02/20 05:53:46
次のキーワードは、『タバコ』『野球場』『ラブホテル』で。

404:名無し物書き@推敲中?
08/02/20 09:28:25
この間は誘ってくれてありがとうな。
合コンとか久々でさ、かなりハメはずせたわ。
あの後、あの女とどこまでいったって?
ははっ、やっちゃいました。好きモンだったぜアイツ。速攻ラブホテル行こうだもんな。ちょっとビビった。

マジで変な女だったぜ。ゴムつけようとしたらキレるしさ。生で三発。ごっつぁんですって感じだけどよ。妙なトコで神経質なのな。
タバコ吸おうとしたら、鬼みてーなツラしてブン盗りやがんの。嫌煙家ってヤツ?こえー、こえー。
なんか知んねーけど気まずい雰囲気になっちゃってさ。しょーがねぇから適当に話振ったんよ。都市伝説。
「知ってる?●●球場って宇宙人の秘密基地なんだぜ」って。ほら、あの飲み屋から近かったじゃん。●●球場。
そんだけの理由なんだけどさ。ノってきたんだよ、あの女。いやー、変なヤツには変な話題が一番だな。ははは。

なんだよ?お前まで興味あんの?
結構有名な噂だぜ。あの球場が宇宙人の秘密基地でさ、地球人に変装しておかしな病原菌広めまくってるってヤツ。
何でもその宇宙人には弱点があるらしいんだけどさ、俺もうろ覚えだからよ。そこだけ忘れちまった。
信じるか信じないかはアナタ次第です!なんちって。くっだらねー。
あー、かゆい。あの女に病気でもうつされたかな俺。

ん?お前タバコ駄目だったっけ?まぁ、いいじゃん。ちょっとぐらい我慢してよん♪
余計に税金払ってんのに肩身狭いわー。ふぃ~。

……おいおい、大丈夫かよ。おい、しっかりしろって。うっわ~マジかよ。なんか顔色ヤバイってお前。
救急車呼ぶか?

405:名無し物書き@推敲中?
08/02/20 09:32:49
次のお題は
「サル」「CPU」「匂い」

406:サル CPU 匂い
08/02/20 16:56:36
 荒れた果てた都市、ビルは殆ど倒壊し、灰色の空が広い。世界規模の荒廃。何が起こったのだろうか。世界大戦?伝染病の蔓延?隕石の衝突?原因を知る者は既に存在しない。
 どうやって災厄を免れたのか、一匹のサルが大通りをゆっくりと歩いている。
 食べ物を探し散策していた彼は、ふと遠くに何かがキラっと光るのを見た。近づいて広い上げる。それはCPUと呼ばれるものだった。科学技術の遺産、文明の匂い。しかし今の彼にとってそれは何の意味もなく、空腹を満たすものではないことが分かるとポイッと投げ捨てた。
 そのとき、偶然。偶然それがそばに落ちていたカセットデッキの再生ボタンにぶつかった。同時に朗らかな声が歌い始める。急に鳴り響いた音に彼は驚き、無意識に近くにあった鉄パイプを取り、デッキに何度も振り下ろした。
 音はいつの間にか止んでいた。彼は冷静になると今度は今手に持っているものの力に驚き慌ててそれを投げ捨てた。だがやがて彼は、何故かその鈍い光りに引き寄せられていった、そしてそれがいつか役に立つ気がしてまたそれを拾い上げた。
 新しい人類は再び瓦礫の森を歩きだした。

407:名無し物書き@推敲中?
08/02/20 16:59:32
次のお題

「砂」 「壁」 「箱」

408:名無し物書き@推敲中?
08/02/21 23:06:14
>>406

修正

×「食べ物を探して散策していた彼は」
〇「食べ物を探し歩いていた彼は」

409:「砂」 「壁」 「箱」
08/02/27 03:01:00
よく目を凝らして壁を凝視すると、はらはらとなにやら細かいものがこぼれる音がした。
この巨大な箱の密室に閉じ込められてから初めて聞こえた音に男の心は踊った。
―この不条理不可解摩訶不思議の状況から抜け出すチャンスだ!
と壁に向かって駆け寄り、音が誕生した場所を、己の全神経を総動員して探る。探る。
四つんばいになりながらも懸命に探索を続けていると、指のつま先に「じゃりっ」という感覚が走る。
「見つけた!これが俺の光明!脱出口!っっっううっうー!」
発狂したように、口から唾液を迸らせながら奇声を上げる。その感情の激流に乗るかのように
脱出口と思われる場所を掘る手の勢いは止まらず、先ほどは針ほどにしか見えなかった光明も
今では希望が確信へと実感できるほどの域にまで達している。
男はその光の優美さに、はやる衝動を抑えきれなくなり、気づけば穴に向かって突進していた。
ぶつかる砂が凶器となり己を傷つけるのも厭わずに、何度も。何度も。意識が朦朧となってもその狂気の沙汰は続けられた。
人事不省の挑戦の果てに、鈍い衝撃音とともに男の頭のみが穴を突破した。
外界へと抜け出せた男の表情は至極晴れやかであったという。



「オオサンショウウオ」「ザッハトルテ」「掘り炬燵」

410:名無し物書き@推敲中?
08/03/04 09:11:39
ageてみた

411:名無し物書き@推敲中?
08/03/04 10:12:58



          ハイの術中に填まるな。




412:名無し物書き@推敲中?
08/03/04 17:22:33
ハゲ死ね

413:晴田雷稲 ◆/QeJSIyurw
08/03/05 00:07:35
 雪の積もった道を急いでいた。一歩進むたびに足をとられる。駅前のケーキ屋さんで
買ってきたザッハトルテが、包んでくれた箱の中で行ったり来たりしている。ヒールは
履いていくんじゃなかった。でもまだ重なったりつぶれたり壊滅的な損害は受けていな
いはず。そう考えながら家路を急いだ。足を慎重に進めながら、早くうちに帰りたい、
と小さく呟いた。演歌調のリズムがついていて、自分の言葉に思わず微笑んだ。足元が
悪くなってきた。シャーベット状の雪の溜まりを小さく飛び越える。着地のとき足首が
グラリとした。足首の揺れはそのまま膝に伝わり、腰に伝わり、肩を揺らして腕をあげ
させ、タコのように両腕をくねらせてなんとか体勢を立てなおした。ぐらつきが止まっ
てからも腕をあげたままもう一度くねらせて、早くうちに帰りたい、とさっきの節を繰
り返して一人で喜んでみた。口許の笑みにマフラーを巻き直しながら歩き始める。マフ
ラーに暖かい息が篭り、頬を暖める。温もりが心地よい。家に帰ったら掘りごたつの中
に潜り込んでしまいたいと思った。あの赤い光の中でずっと過ごしたい。マフラーの隙
間から頬を差す冷気が掘りごたつへの愛をさらにかきたてる。でも堀ごたつでずっと過
ごしていると、ザッハトルテみたいなケーキでブクブクと成長して掘りごたつの口より
自分のからだのほうが大きくなって、もう二度と出られなくなってしまうかもしれない。
あのオオサンショウウオのように、とどこかで読んだ山椒魚の小説のことを思い出した。
「おかえり」
 母の声に目をあげるともう家の前まできていた。

成仏 石鹸 商い


414:青空銀香 ◆PK7G.7777I
08/03/06 17:17:32
「この石鹸で身体を洗いますとね、あなたの身体にとり憑いている悪い幽霊が成仏するんですよ」
 幽霊とはお前のことだろッ! と思わず突っ込みたくなる風貌の男が言った。
 玄関先で、もう二十分以上話が続いている。気まぐれに、訪問販売の男を家に入れるんじゃなかった。
わたしは後悔していた。しかし、男は、そんなわたしの顔色などお構いなしという様子で、とにかく喋る。
 男は長身だが細身で、まるで針金みたいな身体に、頬のこけた頭がのっかている。銀縁の眼鏡の
奥はうつろで、唇は青い。その石鹸はまず自分が使って見たらいいんじゃないのと、言いたくなるのを
わたしは必死でこらえていた。しかしだんだん、それをこらえる必要性がわからなくなってきた。
男が息つぎするところを間髪入れずに言ってやった。
「まずあなた自身が使ってみることをお勧めしますよ」
 すると男は、
「あぁ、それはよく言われます」
 言われちゃいけないだろう、とわたしは心の中で突っ込んだ。
「その石鹸を使いますとね、売ったわたしのところへ幽霊が、怨念を込めてとり憑いてくるんですよ。
つまりわたし自身が、この石鹸の効果を身をもって証明しているのです」
 この男は、商い上手なのかわからないと思いながら、わたしは一つ買ってやった。

ビビンバ ハムスター ウルトラマン

415:名無し物書き@推敲中?
08/03/07 22:18:08
それは彼女との3度目の旅行だった。
前回はヨーロッパだったので、今回は趣向を変えて韓国グルメツアー。
骨付きカルビやビビンバを味わい、おみやげ物を見て回る。

露店で彼女が足を止めた。「かわいい・・・」それはハムスターだった。
「おいおい、これ日本には持って帰れないぞ」と言うのに、
店のオヤジまでがにこにこして一匹取り出し、彼女の手のひらに乗せたのだ。
「あっ・・・」
ハムスターが手から滑り降りて走り出し、彼女はつられて追いかけた。
「おい、危ないっ!」
軽トラックが走ってきたのだ。

僕は咄嗟に彼女を突き飛ばした。その後どうなったのかはよくわからない。
遠いところから、彼女の声が聞こえてきた。
「ねぇ、ねぇ、起き上がって!
いつまでも、私のところに飛んできてくれるヒーローだって、
ウルトラマンよりも強く守ってくれるんだって、約束したじゃない!」

薄れいく意識の中、僕は彼女のヒーローにはなりきれなかった、その悔いだけが残って消えた。


太陽 ダブルベッド ペリカン

416:名無し物書き@推敲中?
08/03/07 22:55:05
>414
上手くキーワードが使えてる。最後は男自身が幽霊だったオチだろうと見ていたら違かった。
一捻り加えたところがいいと思った。男の容貌を最初か最初の方に書いていたら、始めの方の『幽霊とは~』の一文がもっと生きたはず。

417:お題『太陽』『ダブルベッド』『ペリカン』
08/03/08 00:00:45
  秋が深まったさる日、僕はバイク事故によって右足を失い、退院してからしばらくの間、暇を持て余していた。
 付け加えると、元々アウトドア派だった僕は、体の方も持て余していたのだけれど、こればかりはどうしようもない。
 日常がそれなりに不自由な方向へシフトしたものの、命あっての物種、と自制することで、自分の不運を呪わずやり過ごすことに成功している。
 そう、たとえば、恋人と別れた代わりに、親兄妹の深い愛情を再確認したり、半年間の入院生活による留年を余儀なくされた代わりに、単館系ミニシアターを心の赴くまま、巡り歩く時間を得たり。
 右足は、僕に変化をもたらした。
 無骨な殻構造義足のフォルムがもたらす外見上の変化や、以前なら四、五分もあれば十分に踏破できた最寄駅から自宅までの距離に、途方も無い時間や疲労が必要になる、等の実際的な変化は元より。
 それ以外に、欠けた場所から発信されている心的な作用、反作用みたいなものを感じるようになった。
 主治医はその変化を、幻肢痛の症例を元に、懇々と説明してくれた。けれど、どうも彼女の説明するところの、幻肢痛特有の、痛みやくすぐったさ、喪失感や圧迫感とは、また異なっている気がする。

 『三百万メガワットの百乗の水素線なら、猟犬座からでも宇宙の終わりを告げる放送が地球にまで届くんです。貴方は、やがて目覚めることをやめて永遠の眠りに就くでしょうが、それは決して一人だけのものじゃない』
 『渡り鳥は、太陽や磁力線を元に、信じられないぐらいの長距離を縦断する。だが、時折、彼らは悪天候や特殊な事情で群れからはぐれ、本来の生息地ではない場所へと不時着する。それらを総じて、迷鳥と呼ぶ。(中略)さて、ここに今、一匹の不運なハイイロペリカンが居る』
 『見て! 空を見て! あんなに大きな太陽が雲のベッドに横たわっているわ! ……あれはきっと、ダブルベッドね。だって、太陽はあまりにも太っちょさんだから、小さなシングルだと転がり落ちてしまうもの。それにね、』
「……いつかは、昔のように月と一緒になって、ひとつに帰るんだわ」
 ソファーに、仰向けに寝そべった僕は、腕で両目を覆い隠しながら、銀幕向こうの女優の台詞を暗唱する。

418:お題『太陽』『ダブルベッド』『ペリカン』 付け足し
08/03/08 00:01:42
  立て続けに鑑賞した三本の映画は、そのどれもが取るに足らない作品ではあるけれど、今の僕、右足を失った僕の胸を、打つものがあった。
 僕は不慮の事故で右足と分かたれた。そして、何かが変わってしまった。これから先、もし僕が再び変化を迎えることがあったとしても、そのたびに意図せず、右足に重心を傾けることになるだろう。
 だとしても、それを悲しいことだと思いたくない。
 忘れたくても、忘れられない場所に負った傷を撫でる時、僕は変化する前の僕を思うことになるだろう。
 そうして、いつか生涯を閉じる僕は、その時にようやく右足を取り戻すのだ。





 申し訳ない、一レスで閉じきれませでした。反省。
 次の三題は『沈む』『燃える』『結晶』でお願いします。


419:久しぶりに書く『沈む』『燃える』『結晶』
08/03/08 00:53:20
とうとう彼女に僕の気持ちを伝えました。
けれども言葉を繋げてゆくうち、彼女の心がすっとそばから離れてゆくのを感じました。
好き、とさえ言い終える前に彼女は、ちょっと俯いてしまったのです。
最初に僕にあったのは戸惑いでしたが、僕を受け入れてはくれないのだと分かるとすぐ、めまいを感じました。
瞬間、僕の精神が体から抜け出して、一歩引いたところから自分を観察できました。
いえ、足下を沈む、深い奈落の底から、でしょうか。
そこは暗い暗い場所で、道案内も手がかりもありません。
その惨めな穴蔵からも、頭上ずっと遠くに蜃気楼が見えます。
とても綺麗でした。
午前に大学の合格を聞いて意気揚々としていた僕自身が、さらに今にも消えそうな、彼女への淡い恋慕を抱く僕自身が。
何か取り返しのつかないことをした気がします。
燃えるほどだった彼女への恋も壊れてしまったようです。
雪の結晶が崩れてしまったのです。
彼女はいつの間にか目の前にはいませんでした。
結晶は、形を整えてやるにはあまりにも小さく可憐で、人肌に触れると溶けてしまい、もう元に戻ることはありません。
暖かな春風に吹かれ、僕は自分の一欠片を失いました。

「外」「雨」「歩道橋」

420:名無し物書き@推敲中?
08/03/08 10:48:46
関東地方は一日中雨になるでしょう・・・お天気キャスターが深刻そうな顔で言い終わるのを聞いてから、
ため息をつきつつパジャマを脱ぐ。雨の日はスーツとバッグが汚れてしまうから、
あまり高価なものを身に着けないようにしている。

無難なコーディネートで外に出ると、思っていた以上に雨は強い。
タクシーを拾って駅まで向かうことにした。
歩道橋の下をくぐり、赤信号で止まったときだ。

「あれ・・・」

窓の外、仲良さげに相合傘をしているカップル。
見覚えのあるダウンの男は、私の恋人。
そして女は・・・「敦子。」私の、たった一人の妹だった。
二人はしっかりと腕を組み、顔を近づけて何かささやきあっている。
次の瞬間、タクシーは走り出し、二人の姿は瞬く間に消えた。

「お姉さん?着きましたよ」

運転手の言葉が聞こえた気がするが、頭の中がきーんと鳴っていて、よくわからない。
黙って1000円札を渡すと、這うようにタクシーから出た。

雨が叩きつけるようにスーツを濡らす。
だけど、そんなことに何の意味があるんだろう。
立ち尽くす私の前方から、相合傘が近づいてきた。

「目薬」「マドンナ」「小麦」

421:「目薬」「マドンナ」「小麦」
08/03/08 15:19:34
 目薬でもさして嘘泣きしようかと思い、咲子は思わず顔をしかめた。
 隣りでタバコをふかしている洋平は、咲子のそんな表情など見もしないでテレビのサーフィン映像を眺め見ている。
「無駄だと思うんだけど」
 咲子は言う。そうかぁ? と洋平は聞き直す。
「綺麗な姉チャンから逆ナンされるのってアリじゃね? 
おれのマドンナはやっぱり海で見つけるべきだって」
「そんなこと力説されてもね」
 苛立ちが頂点に達しかけているのを咲子は感じた。鈍感、という二文字が口から飛び出しそうになる。
 小麦色の肌の女。馬鹿面の洋平の手を取り愛を誓う。それを遠くからそっと見つめる自分。
 バカバカしい絵面だ。腹立たしさをとおりこして、笑いたくなる。
 咲子は近くにあったコップを取ると、洋平の頬にぴたりとあてた。
「つめて」
 洋平が、顔をしかめて笑った。


次は「買い物」「マンホール」「地方」で∈(・ω・)∋

422:名無し物書き@推敲中?
08/03/08 15:22:06
盗作無作は厳禁。

423:名無し物書き@推敲中?
08/03/08 18:37:29
地方ってムズくね?

424:晴田雷稲 ◆/QeJSIyurw
08/03/08 23:50:34
 幼い頃、母に手を引かれデパートへ行った。父がなくなって一年ほどがたっていた。
ひどい雨の日だったが、いつも忙しく働いている母と二人でいられることが嬉しかった
。マンホールの蓋で足が滑りそうになったとき、腕を引き上げて支えてくれたのが楽し
くて、何度も滑って見せたりした。危ないからと何度もたしなめられたが、母も笑って
いた。
 何でも好きなものを買っていいといわれ、デパートの中を母と手を繋いで色々と歩き
回り、結局は大好きだったアニメの人形を買った。
 昼食をデパートのレストランですませ、食後のコーヒーを飲み干した私に母は、おう
ちに帰ろうと言って頭を撫でてくれた。帰り道で雨のなかを歩きながら、私はマンホー
ルを探していた。母はしきりとなにかを気にしているようだった。
 雨はさらに勢いを増してきた。路面を叩く雨粒が跳ね、着ていたカッパの胸元や、時
に顔にもかかるほどだった。母が膝を降り、私の顔を覗きこんだ。母の差す傘に当たる
雨音が大きくなる。母はごめんねといって白いハンカチで頬をぬぐってくれた。頬から
離れたハンカチには黒い泥が点々とついていた。母は私の目を見つめた。星が瞬くよう
な瞳だった。それからハンカチでぬぐった頬に何度もキスをした。暖かい吐息が耳元で
震えていた。母が立ち上がり、体を引くようにして一歩下がる。私は母を目で追ったが
、初めて見る年老いた夫婦が視線をさえぎった。母は彼らの後ろに下がり口許を押さえ
て横を向いてしまった。
 その後、父の両親である老夫婦に引き取られた私は、東京のビルの世界からこの山と
緑の地へと移された。一人息子の一粒だねということもあってか、祖父母はとても愛情
を注いでくれた。しかし、この地方の連中のくちさがない噂話では私は五百万で買われ
てきたという。母が私を売ったというのだ。デパートに買い物に来たつもりが、売り物
にされたのだという。
 反論はしない。ただ、なぜデパートの中ではなく雨の降る路上で引き渡されたのか。
私はそこに母の愛情があるのを知っている。あの日母はおうちへ帰ろうと言ったのだ。

性(さが) 立春 同時代

425:名無し物書き@推敲中?
08/03/09 00:13:27
>>424
とても良くできた話。
それを巧く表現するだけの文章力がないのが非常に残念。
気の毒だけど、こういうのって仕方ないことなんだよね。

426:晴田雷稲 ◆/QeJSIyurw
08/03/09 00:56:53
>>425
ありがとう。文章力の鍛練、頑張ります。
できたらどの辺がまずかったか暇なときにでも
感想スレにお願いします。
スレリンク(bun板)l50


427:コトバ ◆KugctX7wsE
08/03/09 17:56:02
「成仏」「石鹸」「商い」

感想書く方の我儘としては、名前欄か一行目にタイトルが欲しいところ。
細身の男はちょっと陰気な印象が強いな。
もう少しだけ寡黙で寧ろオカルティックに迫るか、逆にやけに明るい営業スタイルのほうが俺は納得する。
よく喋る陰気な男って客に取ってマイナスイメージしかないよ。
でも話そのものはばかばかしさがちゃんと書けてて面白かったよ。
〔普通〕∈(・ω・)∋

428:コトバ ◆KugctX7wsE
08/03/09 20:24:31
ごめん>>427は感想スレに書くべき(>>414への)レスだった。
携帯だと誤爆しやすくて、色々不便が多い……。

429:名無し物書き@推敲中?
08/03/09 20:33:45
PC持ってないような馬鹿が偉そうに批評とか烏滸がましいにも程がある。

430:コトバ ◆KugctX7wsE
08/03/09 23:19:09
>>429
俺のことなら家庭の事情だ。あまり気にしないでくれよ。

431:偉そうな口調になったけど許してねん/性(さが)立春 同時代
08/03/09 23:52:57
俺は他人の話がすごく気になる。
昔からの性だから仕方がない。
三つ子の魂百までとも言う。
幼稚園生のころ、大阪から隣に越してきた小学生がいた。
そいつが阪神タイガースの話をしていたから、田舎ものはこれだから困る巨人の方が強いに決まってるわと言ってやったことがある。
殴られて泣いたが、絶対に巨人が強いという言葉だけは曲げなかったそうだ。
そこまでは自分は覚えていないのだが。

どいつもこいつも、こうして同時代に生きて呼吸しているなら、がっつり何か言ってやらねばと思う。
でも最近の奴は頭が硬いから困る。
ちょっと第三者が顔を見せただけで、お前は関係ないだのなんだのと、つまらぬことをぬかしやがる。
心が狭いのである。
一度口に出すのなら、誰に何を言われてもかまわないような、しっかり心に決めたことだけを言えばいいのだ。
それをあいつらは軟弱にきりきりきりきり、訳の分からない細かいことばっかり喚く。

くだらんその唾の散らし合いも、便所の中や自分の家だの、そういう場所なら許される。
勝手にすればいい。
あいつらは立春という言葉を知っているだろうか。
春がすっくりと立つのである。
日本人ってもんは、もともと季節も何もかも、しっかりと区分けしてやる民族だ。
学生が卒業式で長々と話を聞くのも大いなる区分である。
だのに分別のつかないのが増えているから困ったものだ。
例えば三語スレの>>425-430みたいなのはまったく場違いである。
あいつらは感想スレか、それとも「より良き即興のために」スレにでも行けばいいのだ。

「洗濯」「学校」「情報」

432:名無し物書き@推敲中?
08/03/10 01:42:52
>>431
入り方が下手くそですね。
ただの説明文というか、安いゲームシナリオなんかを読んで自分でも書けると錯覚してしまった、そんな哀れさがあります。
要するに小説になっていないです。

433:「洗濯」「学校」「情報」
08/03/10 03:23:10
メイドさんの膝枕に対岸を眺めると、奇妙な鉄の塔が目に入った。
「パリ万博」。西暦1900年に向けて開催される、科学の祭典のシンボルだ。

「馬車じゃなくってね、鉄の車がレールを走るんだ」「まあっ!」
「『電話』という機械が声を運んで、情報が瞬時に伝わる」「本当ですか?」
「『計算機』が何でもやってくれて、君も洗濯なんかしなくてよくなる。」

「お坊ちゃんは、楽天的過ぎますっ」と彼女は笑ったが、彼の妄想は膨らむ一方だ。

「『電話』もうんと小さくなって、『計算機』も小さなものが、人間の数千倍のスピードで計算さ」
学校の教師は「それは最低でも西暦2000年以降になるであろうぞ」と釘を刺していたけど、
期待せずには、いられなかった。
「その時には簡単な仕事は機械に任せて、週休6日で、残りは君とこんな事するのに専念できるのに」

…ここまで書いて眠くなってきた。というか憂鬱だ。
少なくとも、彼の最後のセリフの後半は半ば実現している。それで、満足するべきかもしれない。

こっちはこっちで、明日から会社だ。(02:50では既に明日だけど)
極小の『電話』である携帯を持って、22億クロック/秒の『計算機』で仕事する。
朝8時には『電車』に乗って通勤の、西暦2008年の生活が待っている。

※GWはどうなるんだろw
次のお題は:「境界」「ナイロン」「6」でお願いします。

434:名無し物書き@推敲中?
08/03/10 05:40:08
 俺とお前との境界は、たったナイロン6つ分だ。
 手早い薄化粧よりも無難なスーツよりも、憎みたいのはストッキングで、なぜならそれをしゅっしゅっと小気味よく装備する音が、象徴だからだ。お前は俺のものにはならない。
 またね、なんていうふうには、お前は俺を慰めない。「じゃ、」と颯爽とした笑顔でドアを後ろ手に閉めかけ、「行ってきます」の言葉はもう平日の戦士の眼差しで放たれる。
 一週間経てばまた逢えるなどと信じてはいない。しゅっしゅっ、寝床の中からこの音を聴き続ける限り、俺はお前を手に入れられない。これが最後になるんだろう、いつも絶望的に、その音を聴く。
 実際には来週はやってくるのだ。職の無い、うだつの上がらない、昏い眼差しのこの俺にも。俺とお前とが唯一融け合える週末は。やってくるのだ。
 そんな希望に縋ることを許してくれない、しゅっしゅっ、音を俺は今も枕の上で聴く。


「ようこそ」「風」「壁」

435:名無し物書き@推敲中?
08/03/10 07:54:01
アナボッキン☆

436:「ようこそ」「風」「壁」
08/03/10 12:43:45
トロンボーンを見つけた。吹いてみるとへんてこな、涙の音がした。
ちょっと一曲演奏しようかと思ったけれども、やっぱりやめておいた。
もうずっと何年も吹いておらず、腕も鈍っているだろう。きっとますます気落ちするだけだ。
目元に手をやると、しずくに触れた。
失恋すると部屋を片付けたくなるというけれど、これまた妙なものを見つけてしまった。
ようこそと歓迎する気にはなれない。だが事実として目の前にあるのだから、何とかしなければ。
押し入れの奥を探っていたので、部屋中に埃が舞っている。
窓を開けると、三月の風が吹いてきた。春のにおい。
トロンボーンをどうしようかと考える。
確か二十万円ほどもした。それだけでもゴミとして出すには抵抗がある。
しかも、これを捨てるということは、トロンボーン奏者を目指した青春を捨ててしまうことじゃないかなんて思えた。
あのときは楽しかったなあ、と思い出す。
今思えば自分の実力も知らず無謀だったけれど。
目標を達成できなかったときは、やっぱりうちひしがれる。
けれども自分の決めた目標を目指す自由があった。
今みたいに周りに振り回される、川に浮かぶの木の葉とは違っていた。
指先を擦り合わせてやる。さっきの涙はすぐ蒸発して消えた。
かつて目の前にあった壁は、それに背を向け振りかえれば、後ろを支えてくれているらしい。

「天国」「あなた」「つらい」


437:名無し物書き@推敲中?
08/03/10 15:14:28
彼とはもう半年も会ってない。電話もメールもつながらない。でも今でも彼のことを愛しているし、彼も私のことを愛しているであろう自信がある。
手紙を書こう。今時少し恥ずかしいが電話やメールより自分の気持ちが伝わる気がする。でもなんて書けばいいのだろう。半年分の気持ちを伝えたいが、あまり自分勝手なことを書いて彼に嫌われるのは嫌だ。
結局とても質素な手紙になってしまった。

「天国のあなたに会えないのはつらいです。」


「絵の具」「カレンダー」「強制」

438:名無し物書き@推敲中?
08/03/10 15:19:54
幼稚園の発表会です。

太郎くん。

お母さんに捧げる作文読みなさい。

「お母さんご苦労さまです」

439:晴田雷稲 ◆/QeJSIyurw
08/03/11 01:19:23
 水につけた筆先から絵の具がパッと広がるように噂はすぐクラスを越えて伝わったようだ。隣のクラスからアキラが来てトイレに行って空いていた隣のマサルの席に座り、机と椅子の背に肘をかけて、顔を近づけてきた。
「ミキと別れたんだって」
 目を輝かせている。
「ああ」
「なら、俺がもらうぜ。いいんだな」
 沈黙が流れた。
 想像通りの問いかけだったが、答えがすぐには出てこなかった。いいも悪いもない。もうなんの関係もないんだから。そのくらい分からないのか。その問いに俺が答えるべき言葉はない。沈黙の中、開いていた文庫本から目をあげるとアキラの不安そうな顔があった。
「俺には関係ない」
 ずいぶんと落ち着いた声が出ていた。
「お、おお、そうか、分かった」
 何が分かったのか分からないような、はっきりしない返事をしてアキラは立ちあがり出ていった。
 そのあとは誰も何も話しかけては来なかったが、アキラとのやり取りについて、何か弁明を強制するような暗黙のプレッシャーが降り注いでいるように感じていた。
 でも俺には言うべきことは何もないんだ。
 文庫本を開いたまま、壁にかかったカレンダーをみつめていた。今日の日付を探していた。けれどいくら探しても見つからない。今日はいつだっけ。いったいどうなってんだ。
 分かった分かった。そう心の中で呟きながら目をつぶり息を深く吸い込んだ。
 始業のチャイムがなった。みんなが席につく音がする。
 俺は目を開けて一人立ち上がり教室をあとにした。

気合い キウイ 気負い

440:気合い キウイ 気負い
08/03/11 05:22:48
「キウイって鳥、知ってる?」
唐突に私がそんなことを言ったものだから、母は変な顔をした。
「ニュージーランドに生息する、茶色くてまんまるい鳥なの。
紀元前に出現したすごく古い種だから『生きた化石』って呼ばれてたりするのよ」
「まるでママみたいだって、あなたはそう言いたいのね」
母は私から力なく目を反らす。私はびっくりした。
「ああ、そういう考え方もあったのか。今気が付いた」

母はバリバリの根性論信者。「今の選手は気合いが足りない。ママの時代は」が口癖だった。
私が大会で思うような結果を出せなかったとき
全ては私の気合いが足りないせい、努力が足りないせいになった。
私はいつも、母の期待に応えたかった。

「あのね、ママ。キウイは飛べない鳥なんだよ。紀元前からずっといる鳥なのに
とうとう飛べるようには進化しなかったの。何百年、何千年経っても」
時計を見る。記者会見まであと一時間。
私はみんなの前で、次の大会を棄権すること、そして引退することを伝える。
きっと大騒ぎになるだろう。私と母は、マスコミには人気だったから。
「たぶん、私はキウイだったんだね」
今、私はとても穏やかな気持ちでいる。何の気負いもなく、笑っていられる。
「でもね、私、ママの考え方きらいじゃなかったよ。
努力と根性でいつかきっと辿り着けるって考え方」
母はハンカチをぎゅっと握り締めたまま、うつむいて何も言わない。
「だって、天才じゃない私でも夢が見られたから」
手を伸ばし、震える母の肩を優しく抱いた。
私たちは、夢見がちなキウイの親子。長い夢を見ていた。
だけどそれは楽しい夢だった。ねえ。それでいいよね、ママ。


「放課後」「宝塚」「ロマンス」

441:名無し物書き@推敲中?
08/03/12 15:16:50
放り投げたシュシュは軽すぎてあまり遠くに飛ばなかった。
課題の上にうつぶせる。水彩絵の具の匂いに横を向くと。白いシュシュが床に落ちるところだった。
後一時間で下校時刻。一人きりの放課後は、なんて長い。
宝物だったシュシュ―あやめにもらった大事なそれを、足を伸ばして踏みつけた。
塚本あやめ。綺麗な名前だ。宝塚の役者さんみたいだと言った私に「『鈴子』も素敵だよ」。返事の笑顔で恋に落ちた。
ロマンス、と代名することのできない恋。女同士というのを抜きにしても、あやめは酷い恋人で、私は弱い人間だった。
マリンブルーの絵の具が薄く滲む。彼女に作られた色々な傷、彼女の吐いたたくさんのウソ、彼女がくれた唯一のプレゼ
ント。私は目を閉じた。瞼の裏は真っ暗だった。立ち上がり、ドアのそばに寄る。手探りで。
スイッチを探し当て、消した。目を開けて、薄汚れたシュシュと、皺の寄った青空の絵と、窓からの光をじっと見つめた。
寂しい、悲しい景色。でも、私にはなんでもなかった。あやめの綺麗な下半身にあれがついている景色より、酷い光景な
んてあるはずがないのだから。

「聖書」「二時間後に」「螺旋階段」

442:名無し物書き@推敲中?
08/03/16 02:23:33
週末age

443:名無し物書き@推敲中?
08/03/16 12:55:11
タエコさんは、いきつけの居酒屋で働いているすこし変わった人だった。
五十代か六十代か、年のころははっきりしない。
夏でも冬でも暗い色の和服を着ていて、白髪まじりの髪はひっつめにしていた。
油紙のような渋色の肌が、骨ばった頬にはりついて、お世辞にも綺麗な人ではなかった。
てきぱきとタエコさんは僕らのオーダーを通し、厨房でも働き、飲み物や料理も運ぶ。
カウンターとテーブル席が三つの小さい店では、僕らの話もつつぬけだったから、
手の空いたタエコさんは、僕ら若造の愚痴に辛口の合いの手を入れた。
海千山千は、タエコさんみたいな人を表現するのだと学校を出て二年目の僕は思った。

タエコさんが亡くなったことを知ったのは、その店が臨時休業した翌日だった。
僕らは一瞬しんとなった。普段喋らない大将が、タエコさんのことを話す。
店が入っている雑居ビルの一室に住んでいたこと。郷里には息子さんがいたこと。
遺品からは聖書が出てきて、洗礼を受けていたのを知ったこと。
二時間後には、タエコさんの息子が挨拶に来ると聞いて、僕らは好奇心から低い声で
どうでもいい仕事の話を続けた。
ビル外の螺旋階段を降りる足音が聞こえて、店の引き戸がからりと開いた。
黒い礼服のままの小柄な男が、頭を下げながら店に入ってきた。
大将と小声で話し、何度も頭を下げあっていた。
彼はやがて僕らの陣取ったテーブルの前にもやってきた。
「父が生前大変お世話になりました。ありがとうございました」
あっけにとられる僕らが何も言えずに頭だけを下げると、息子は店を出て行った。
大将は何事もなかったように、厨房の仕事を続け、僕らの注文を出す。
僕らはもう、何故かタエコさんのことは、話さなかった。
タエコさんは、どういう風に生きたかったのだろう。
生き終えた後は、どこに行きたかったのだろう。
渋茶色の滓が、僕のうすっぺらい心のどこかに積もったような気がした。

DVD ダイレクトメール 鎮痛剤

444:DVD ダイレクトメール 鎮痛剤(1/2)
08/03/17 02:36:22
 ダイニングテーブルの上のダイレクトメールに埋もれたママからのメモを探し出す。

これは、私が学校から帰って一番にしなければならないことだ。

 ちょっとうっかりなところがあるママは、いつもお出かけ直前になって、私への伝言
を思いつく。それは大抵、もう、家をでなければならない時間の直前で、仕方なく彼女
はそこらへんにある広告やダイレクトメールの封筒に走り書きを残す羽目になる。

 保険会社、銀行、新聞社、ママがこの前の夏に新作のワンピースを買ってはしゃいで
いたお店からのダイレクトメール。そして、保健所からのお知らせの封筒に、あまりき
れいとは言えない文字が並んでいるものを見つけ出した。そこには、今日の帰宅が遅く
なること、冷蔵庫に雄藩が作りおいてあること、戸締りをすること、夜更かしをしない
こと、ちゃんと勉強をすること、といつも通りのことが羅列してある。

 私は代わり映えのない内容に、小さく鼻を鳴らして、その封筒をダイレクトメールの
一番上へ放った。そのまま、冷蔵庫の扉を開ける。上の段には私の嫌いなポーク・ビー
ンズ。私は顔をしかめて、音を立てて冷蔵庫を閉めた。

 スクール鞄の中から幼馴染のニナから借りたDVDを取り出すと、そのまま鞄をソフ
ァに放り投げて、テレビのスイッチを入れる。彼女のオリジナルなのか知らないけれど、

そのディスクは一般に売られているもので、ラベルも何も貼ってない。私は軽い気持
ちでDVDレコーダーにディスクを挿入した。無視の羽音みたいな小さな稼動音が静か
な部屋に響く。

 しかし、すぐに液晶テレビの黒い画面に光が入って、柔らかな波の音と、青い空の映
像が流れ出した。


445:DVD ダイレクトメール 鎮痛剤(2/3)
08/03/17 02:40:59
 去年の夏に、ニナと二ナの家族と私の家族で行った南の島の映像だということにすぐ
に気がついた。走り回るニナと私の姿。パラソルを差したニナのママ。録画しているニ
ナのパパは声だけが時折混じる。そして新品のワンピースの裾を翻す、私のママ。
 ソファに沈み込み、ぼんやりとそれを眺めていれば、不意に、こんこん、とベランダ
のガラスを叩く音。
 カーテンを開ければ制服からパーカーに着替えたニナがいた。
 私が鍵を開ければ、ニナは私が何か言う前に、それでも一応「お邪魔します」と前置
きして、勝手に上がりこんでくる。
「あ、DVDもう見てる。一緒に見ようと思ってきたのに」
 少しだけ非難するように、ニナは私を軽く睨んできた。私は肩をすくめた。
 二人でソファに並んで、テレビを眺める。
 この旅行はとても素敵だった。南の小さな島にママと私とニナと、ニナの両親。昼間
は海で泳ぎ、夜は星を見上げた。
 素敵な思い出しかないのに、なのに、私は少しだけ気分が悪くなって、頭を抱え込む。
「頭がいたいの?」
 ニナの言葉に、私は小さく頷いた。ニナはごそごそとパーカのポケットを探り、小さ
な銀紙に包まれたものを取り出した。
「はい。痛み止め」
 彼女が差し出すそれは、どう見てもチョコレートだ。大手製菓会社の看板商品で、私
の好物でもあるのだから間違いない。訝しげに見返せば、私が言わんとすることを、ニナ
はわかっているというように頷いて見せた。


446:DVD ダイレクトメール 鎮痛剤(3/3)
08/03/17 02:41:42
「悲しいときには甘いものが一番効くの」
 本当よ、タロがいなくなった時、リサがくれたチョコレートが一番効いたもの。
 生真面目な顔でニナは断言して、私の手のひらにチョコレートを乗せた。
 タロというのは、ニナが飼ってた犬の名前だ。
 去年、彼は天に召された時、ニナは大変塞ぎこんだ。私は彼女の笑顔が好きだったけ
れど、それ以上に、彼女の悲しみを感じ取っていたから、何も言えなかった。ただでさ
え、食の細い彼女はフルーツ・ジュースを口にするだけになり、徐々に青白くなる顔色
が怖くて、私は彼女が食べてくれないだろうかと、気に入りのチョコレートを携えて、
じっと傍にいることしかできなかった。彼女が口を開いたのは、タロの死から三日後の
ことで「ねぇ、そのチョコレート美味しい?」と、ふと思いついたように口にした。私
はびっくりしたけれど、すぐに「私が気に入るくらい素敵なチョコよ」といって差し出
せば、彼女は一粒口に入れてくれたことを思い出す。
 私はお医者様からの言葉を聞くように、ニナの言葉に神妙な顔で頷いて銀紙を剥いた。

甘いチョコレートの香りが鼻先を擽る。
「・・・甘い」

 カカオの苦味と、砂糖の甘さ。そして何よりも、もうママに会えないことを受け入れ
なければならないことに、泣きたくなった。

 ママがいなくなって、一週間目。久しぶりに発した声は、酷く掠れていたけれど、テ
レビから流れる波の音に混じることなくはっきりと響いた。
 私は明日、生まれてこの方、見たことのないパパに会うために、遠い外国に行かなけ
ればならない。
 その外国は、夏に旅行した南の島よりも、ずっと南にあるらしい。
「リサのパパがいる国もこんなところだといいね」
「そしたら遊びに来てくれる?」
「・・・たとえリサのパパが北極で働いてたとしても遊びに行くわ」
 ニナの言葉に私は、また泣きたくなって、でも、今度は我慢することなくニナの腕に
しがみついた。


447:DVD ダイレクトメール 鎮痛剤(3/3)
08/03/17 02:42:34
「桜」 「たまご」 「フェンス」

448:1
08/03/19 14:24:00
「おばさんは」「おばさんは」「おばさんは」
渋いバリトンの声。彼の見た目は全ての平均をとったかのように特徴がない。

「わかってる。綺麗な声だったのでしょう、おばさんは」
「ああ、うん・・・・・とてもね」

桜の木の向こうに校舎が見え、クラブ活動に励む生徒の声が遠くのほうで聞こえる。
土と草の香りの中、スカートを汚さないように気をつけながらしゃがみこむ。
キャベツの葉を一枚めくると小さな黄色い粒が付いていた。ちょうちょうのたまごだ。
小さな立て札に書いてある学級農園の文字がかすれてかなり読み辛くなっているのを
見て言ってみた。
「そろそろ書き直した方が良いんじゃあないですか」
「ああ、そうだね」
キャベツの葉を千切って立ち上がり、彼の方に掲げて見せた。
「青虫って可愛いですよね」
彼は少し凝視すると、合点したのだろう、たちまちの内に深く笑みを作りあげた。
「・・・・・あぁ、本当だ」

449:2
08/03/19 14:24:46
私もにっこりと笑い返す。
「みんなも喜んでくれるといいな」
「きっと喜ぶ、理科の勉強にもなるし。いい発見をしたね」
「ええ、本当に」
「おばさんも蝶が好きだった」
彼は私のいとこで、彼の母親は私の母親の姉だ。
学校を囲うフェンスの外にある学級農園。ここで彼が話すのはおばさんのことだけ。
彼が話すおばさんの話を聞きながら校舎へと向かう。
フェンスを越えたら彼は普通の先生に戻ってしまうのだろう。
ひときわ強い風がふいた。
桜。桜だ。一面の桜。
上も下も右も左もなく、一身に柔らかく舞う桜。
白に、薄く赤みがさした花弁は、手の爪のようだと思う。
あの人の爪が散り吹雪いている。
そこまで思ってから気持ち悪くなって、思考を現実に引っ張り戻した。

「おばさんは手も本当に綺麗だ」

私は憎んでいるのではない。ただ可愛らしいと思っているのだ。
この17歳年上のいとこのことを。

450:名無し物書き@推敲中?
08/03/19 14:27:44
霞 視神経 モデム

451:名無し物書き@推敲中?
08/03/19 16:54:47
> 3: 文章は5行以上15行以下を目安に。

次からは一応テンプレにお目通しよろ

452:名無し物書き@推敲中?
08/03/20 22:50:37
すみません、気をつけます

453:名無し物書き@推敲中?
08/03/23 14:03:16
霞 視神経 モデム

「意味がわからない」
段ボール箱から新品のモデムを取り出しながら俺は口を開いた。
「だからさ」椀に盛った麦チョコを口に運びながら悪友が言い直す。
「あんまりパソコンにかまけるのもどうかなってさ。目にも悪いし、なんかね、視神経がやられるんだって。みのもんたが言ってた」
「そのうちタイピングダイエットを推奨するよ、電器会社がスポンサーになったら」
そこまで言って会話を打ち切り、今度はモニタの箱に取り掛かる。確かに目には悪いかもしれないが、
仕事なんだからしかたがない。この引越しもさっさと済まさなければ今月の生活だって危ういのだ。「はさみ」「ドーゾ」ガムテープを切る。

霞が飛び出した。

玉手箱よろしく開封したダンボール箱から白い煙が湧き上がる。目を丸くしているとどこからともなく声が響いてきた。どこか聞き覚えのある声。
―奥さん、アレね、パソコン! あんな小さい文字ね、読んでると私は目が痛くなってくるんですがね。ナンとびっくり、科学的に視神経に悪いってのがわかったそうじゃありませんか!―
箱の中からラジカセとドライアイスを取り出して、お椀ごと逃走を図る後姿に力の限り投げつけた。


454:名無し物書き@推敲中?
08/03/23 14:07:40
sage忘れた、すいません。

次のお題「蛸」「ネタ」「黒い月」

455:「蛸」「ネタ」「黒い月」
08/03/25 12:15:00
▲ホームパーティーにて筋弛緩剤を誤飲した。ネタだった。
 本当は、飲むフリだけしてトイレで吐き出すつもりだった。そもそも、筋弛緩剤は静脈注射する薬品だと思っていたので、今から飲もうとしているそれが筋弛緩剤だとはつゆとも信じていなかった。
 だがしかし。口に含んだそれを誤って、思わずグイと飲み下してしまった私の体を襲ったのは、強烈な痺れと倦怠感だった。
 これはまずい、と周囲に救急車を呼ぶよう訴えかけるが、彼らは深い影に覆われた顔に、真っ赤な三日月状の笑いを貼り付けているばかりで、こちらの話を聞き入れようとはしない。
 いよいよ、まずい。
 かすれてゆく視界に最後に捉えたのは、天井近くでシーリングファンにゆっくりとかき回される薄い煙と、黒い月のようにユラユラと揺れる人々の頭だった。
▲蛸は、蛸壺に填まっていた。私の頭は蛸壺になっていた。遠く声が聞こえる。やがて、冷たい涙がひとすじ流れた。
 おうい、とこの世のものとは思えない虚ろに抜けるその声を耳にして、私は宇宙に放り出される寂しさを体感した。
 そんなものは、どこにもないのに。
 もう一人の私がヘラヘラ笑うと、私も、彼女に倣ってヘラ、と口端を緩めた。
 そうだ、蛸なんか食べてしまえ。耳の奥に指を突っ込むと、ぬめぬめと滑る蛸の足を掴んだ。なにくそ、と爪を食い込ませ引きずり出した先から食んでゆく。
 わさび醤油があれが、もっと美味しく頂けるが、これはこれで由。蛸は新鮮で、ほのかに潮と桃のような香りが入り混じっていた。
 どうやら私は空腹だったらしく、一飲みするたびに、ぐるぐると胃袋が蠕動した。寂しさが、満たされていく胃袋の重みで洗われていく。
△おうい。
 目が覚めたのは朝だった。いつの朝かは知らない。
 私は布団に横たわっていて、父が無言のまま傍らに座っていた。
 いや。「あなたはもう居ません」
 彼は、寂しそうな顔をして笑った。それから「良かった」と言い残し、儚く薄れていった。
△ひんやりする畳に足をつけ、障子を開け放つと一瞬、雪が降っているのかと見紛った。
 しかしそれは、梅の花びらが春一番にあおられて柔らかく解けていく、初春よりも新しい春を告げる薄桃色の雪だった。
 先ほどまでの寂しさとは、少しだけ色合いの違う寂しさに襲われて、私の涙はまた流れた。ほんの、束の間ではあったけれど。

456:名無し物書き@推敲中?
08/03/25 12:17:08
次の三語は「夢」「鴨」「音」でよろしくー

457:夢 鴨 音
08/03/25 23:03:37
広間は天蓋のようなドーム状になって空にむかう無数の天使が描かれている。中央には円いテーブル
があり純白のクロスが敷かれ、おぼろな蝋燭の灯りをうけている。目の前に用意された鴨の丸焼き
からは動物の臭いがする。私は椅子に座っていた。あたりの静けさは恐ろしいほど。私の他にはまだ
誰も現れていない。
私は何もすることがなかった。かといって何もしたいことがないので、何もしないというのは辛いことだ。
嫌でも身動きしてしまう。しかし、この静けさのなかでは指一本でも動かすことははばかる気がした。
何か、遠くのほうで、何かが床をこする音や食器のカタカタをぶつかりあう音はするたびに、私はほっ
とした。それはここにいるのは私以外にもいるということだからだ。誰かはいるということだ。しかし、
それもほんのわずかな瞬間でしかなかった。また再び永遠の沈黙がおとずれた。鴨からは真っ直ぐ
天井に向かってスジのような湯気があがっていた。
やがて、広間の端の薄暗がり、長々とした黒いカーテンの隙間から人々が現れてきた。男であり、
女であった。私の脇にも何人か座った。人々はささやきあい、まるで噂話でもするかのような、いやらし
い顔をしていた。私の隣りの紳士は赤いドレスの女の肢を撫でていた。
私が横目で見やると彼はこう言った。
「どうしたんですか、あなたはまるで夢でも見ているみたいですね」
私はその紳士の顔を見た。そしてこう言った。
「ありがとう、あなたにそう言って頂けると幸いです」 K

「バスタオル」「国旗」「地下室」

458:バスタオル 国旗 地下室
08/03/26 14:46:42
床下には、地下室へ続く階段がある。バスタオルを手に、下る。
灯りなどなく、じめつく空気には黴臭い埃の匂いがする。なにもなくぽっかりと空いた漆黒。
外では雪が降っているだろうか。もうじき、あれが爆発する。
アナスタシア。お前だけが気がかりだ。私が愚鈍で無知なばかりに、不幸にしてしまった。
お前を痛めつけ放置したのは、国だ。私が生まれ育ち、恋をしてお前をもうけた国ロシア。―流行り病、か。
私が与した奴らは私を同胞と見なし、国旗を掲げよ、我らがロシアを我らの手に、と喚いた。
自分のしたこと、しようとしていることを恥じてはいない。ただお前が気がかりだ。
このタオルを抱かねば寝つけなかったアナスタシア。暗闇なればお前の寝顔を思い出すのも難くない。目の当たりにできる。
決して忘れない。だからこそ、私は縛られ苦しんでいる。だがお前の影にではなく、この国に。そう決め込む。

ただ……私はお前のことが気がかりだ。天に見放されはしないか―と。
私はどうなろうと構わない。また、お前以外のものがどうなろうとも。だがここは暗い。
お前を私から奪ったものが許せない。だからこそ、この道を選んだ。
だがこの部屋は狭く寒い。黴臭く、そのくせお前に気に入られたここは、タオル一枚ではどうにもならないほど―寒いのだ。


「推敲」「緑青」「ラプソディ」

459:推敲 緑青 ラプソディ
08/04/06 03:43:48
そこまで明雄を駆り立てたものはなんだったのであろうか。
見上げると下倉山のほうに、境界線を曖昧にしたまま日が隠れるところであった。
足元を見ると昭雄のブルーのスニーカーは反射する光を失いかけ、緑青へと陰影を深め始める。
あぁ、そうだ。あれはガーシュインだ。
音楽の発始点を探し走っていた昭雄は足を止めて目を閉じた。
―ガーシュインのラプソディインブルーだ。

記憶の中のおぼろげな旋律を推敲しながら、耳に流れこんでくる音と照らし合わせる。
コミカルな響きが、13年前の懐かしく、そして忌まわしい事件を呼び起こし、昭雄は
そのまま農道にうずくまった。


「ネズミ」「指の皺」「悪性腫瘍」



460:名無し物書き@推敲中?
08/04/06 06:41:23
>>459
文章も上手そうだし、いい感じだけどひとつだけ。
「緑青(ろくしょう)」
URLリンク(ja.wikipedia.org)

461:名無し物書き@推敲中?
08/04/06 14:56:43
指の皺から顔の皺にかけ、大勢のネズミが駆け抜けていく。
ああ、気持ち悪いと思っていると、隣の女に声をかけられた。
「どうかしたの」
ひんやりとした表情が、まるで俺を否定するようにこちらを向いている。
「別に。いつものあれだよ」
「ああ、」と女は言う。「件の悪性腫瘍ね。全身に転移して広がっている」
「ネズミ、と呼んでいる。最近、ちょこまかと動いて鬱陶しいしな」
 と俺は言い、それから笑ってみせた。
「もっとも、あいつらの言うネズミより数倍タチが悪い種類のやつだけど」
だから、と女は言った。だから、駆除するわけね。
「ああ、月に頼んだ石っころが、もうじき俺の身体を直撃する。何発も、一定の間隔でもってね。
あいつらときたら、輝いてるものが大好きだから。皆、太陽に向かって逃げてる」
女は、哀れむように目を細め、俺の身体を凝視した。
「光の先には何があるのかしらね」
「さあ、神様でも夢見てるんじゃねえか。ただ、一つだけ言えることがある。それは、」
そこまで言ったところで、頭に小石がぶつかった。叫び声が耳元で響く。
俺は、痛みよりもむしろ感動を覚えながら言葉を続ける。
「ネズミにゃ暗いところがお似合いだってことさ」

「舞台裏」「茶柱」「北向き」

462:459
08/04/06 20:02:02
>>460
おぉ、なんか変だと思った。
青緑じゃなくて緑青ね……
恥ずかしいな

463:名無し物書き@推敲中?
08/04/06 23:01:01
>>462
その恥ずかしさを見事に表現してみて。

464:459
08/04/08 01:50:27
 静代は、鼻先に流れ落ちる汗を、薄汚れたタオルで拭いあげた。
静代の身長は、多少の円背の誤差を無視するならば145cmであった。
この畑で茶摘みをしている姿は、少し離れた場所からは認識できないのだった。

日焼けした鼻に、汗とタオルの摩擦が痛みとして知覚できた。
本能的に北向きに顔を背けると、自らの歪な影と相対することになった。
紛れもなく自分の影であるのに、静代はその影の黒さでもって、己の惨めな人生を
陰鬱なものとして認識せざるを得なかった。動けなかった。
背中の茶籠は、夏の日差しのせいで、揉み出す前から乾燥し始めて軽かった。いや、重かった。今の静代には重たくてかなわなかった。
耳には勢を増す蝉の声。目には鮮やかな緑の段々畑。

南のほうから、孫の声が聞こえても、静代は振り返らなかった。
茶の木がエンタシス柱のように膨満し、姿を隠してくれることを願った。

幸福な家庭。この秋にはひ孫まで誕生するという絵に書いたような穏やかな日々。
しかし、静代は未だに演じているのだった。
みなぎっている昼の舞台裏では、ただ後悔のみに身をやつす老女が一人佇むだけだった。



「1997年」「転落」「月面」



>>463
自分の間違いに気づき呆然とする恥ずかしさを描写してみたぜ
馬鹿にしてくれ




465:1997年 転落 月面
08/04/08 09:28:27
もしもかぐや姫が月に帰らなかったなら、と考えて、よく冷えたリモンチェッロをあおった。
彼女はどんな人生を送っていただろうか。
ぼんやりと考えながら、とっぷりと夜に浸かった窓外の風景を見つめた。
可愛らしいレースのカーテンを引いた出窓の向こうで、
とろとろとした闇の深い空中に、満月がぽっかりとその月面を見せている。

帝に娶られていることは、間違いがないだろうと思う。その先の話だ。
子を産んで幸せな日々を送っただろうか。
他にも女性と関係を持つ夫への嫉妬に苛まれただろうか。
それとも私のように・・・・・・私のように、全てを諦め、受動の歳月をただ流された
だろうか。夫の愛情を溢れんばかりに注がれる、「一番」の座から転落し、
散々苦しんだ挙げ句に、何も望まない人形の様な女になっただろうか。

そうではないと良いと思った。求婚者に無理難題を突きつけ、凛として
全てを薙ぎ払った孤高の姫が、そのようなありふれた、つまらない人生に落ち着くのは
やはり物語として美しくない。
溜息を一つ吐いて立ち上がり、古ぼけた時代遅れのプレイヤーに、カセットテープを
セットした。この様になるずっと前、婚約時代に、夫から贈られたテープだ。
緩慢な動作でスタートボタンをかちりと押す。十年足らずで、互いに何かを諦めてしまった
結婚生活を思う。このテープのように、二人の関係はとっくに古びている。互いの声には
ノイズの雨が入り、心に思うことは伝わらない。
漸く、曲が流れ出した。1997年、婚約指輪を贈られた年の、しっとりとした、
ヒットナンバーだった。


「眠る」「薔薇」「ひかり」

466:465
08/04/08 13:55:16
『ぼんやりと考えながら~』→『ぼんやりと物思いに耽りながら~』です。


467:名無し物書き@推敲中?
08/04/09 00:29:22
もうここに来てから7年。「今年の薔薇はとてもきれい」幸せそうな声。

1回目の冬は何も考えられなくて、2回目の冬は泣いているうちに終わり、そして眠った。
3回目の冬
自分がおかれた状況に思いをめぐらせてみた。
暗くてじめじめした場所で「私はどうして身動きできないのだろう?」
「私はどうしちゃったんだろう?」不安になるばかりで、その冬は何もわからないままで終わって、また知らぬ間に眠ってしまった。
4回目の冬
私の置かれた状況が少し見えてきた。胸にも首にも太ももにもわたしの体のあらゆる場所に何か巻きついていた。
「誰か助けて」ざらざらしたものが口に入ってきて、わたしの声は声にならないまま暗い場所に吸い込まれていった。
5回目の冬
聞き覚えのある声が聞こえた。
この声。この優しい懐かしい声。私の心も体も反応せずにはいられなかった。
「結婚しよう。ここに僕たち二人の家を建てよう。」
ああ、そうだ、思い出した。
彼は見晴らしのいいこの高台でプロポーズしてくれたんだ。早く返事をしなくては・・なのにとっても眠い。
春工事が始まり、夏彼と私のふたりのおうちは完成したようなのに、私は眠くて闇の中で、彼の笑顔を見ることができない。
6回目の冬、彼の声。
「きみとおなかのなかの子供にクリスマスプレゼントだよ。一緒にくらそう」 優しい声。懐かしい声。
「ありがとう・・・本当にプロポーズされた場所ね。ここであなたと暮らせるなんてとても嬉しい」
誰の声?わたしではない誰かの声。
闇の中で私の耳に響く誰か知らない女の幸せそうな甘い声。
7回目の春、









468:名無し物書き@推敲中?
08/04/09 00:45:00
7回目の春、わたしはすべてを思い出した。
あの日私は大好きな彼のプロポーズの言葉にうなづいた。
そして「プロポーズ成功記念に植えよう」と言いながら
彼が手渡してくれた薔薇の苗を植えていた。
振り返ったとき、彼が「ごめん」って言って
スコップを私のほうに振りかざした。そして寝てしまったのだ。

ここで待っていたのに、すっかり忘れていた。
ひかりが差してきた。眠るのはもう終わりにしよう。
今年の薔薇はきれいでしょう、ねえ、愛するあなた。


469:名無し物書き@推敲中?
08/04/09 00:52:17
長すぎました。初心者ですみません。

次の三語は
 「桜」「カレンダー」「忘れ物」でよろしくお願いします




470:「桜」「カレンダー」「忘れ物」
08/04/10 17:59:10
カレンダーをめくる。青々とした葉の樹木の写真が、4月の文字と共に現れる。
春という季節が来ると、彼女のことを思い出す―
抱きしめると、彼女は口から鮮血があふれ出させた。暗闇のなかでも映えている。
彼女は口をぱくぱくと動かす。涙ながらに僕は耳を寄せる。
「私を忘れないで……。私だけを見ていて……」
僕は彼女を見つめた。彼女はゆっくりと手を伸ばし、僕の左眼に触れた。
そっと桜の花びらが彼女の唇に舞う。彼女が僕の左眼を潰す。
ぬるりとしたものが僕から彼女の手を伝う。涙だろうか?
彼女の手が眼から離れていく。地に落ちる前に、胸でその手を受け止める。
苦痛にうめく。僕は花びらを手に取り、キスをした。涙が彼女に落ちた―
温い風が窓から吹いてくる。カーテンのなびく窓の先には、梢と花びら。
遠いのか近いのかは相変わらず判然とせず、まだ乾いてたままの風が右眼をなでる。
傍らに置いた写真立てには、二人並んだ写真とあの花びら。桜色というより、黒茶けた赤色の。
キッチンから僕を呼ぶ声。それに応えれば、胸に沸く妻との幸せ。
君が残したのは、左眼の痛痒。僕の忘れ物は、君への気持ち。




「回し蹴り」「フレンチキス」「押っ取り刀」


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