この三語で書け! 即興文ものスレ 第二十ニヶ条at BUN
この三語で書け! 即興文ものスレ 第二十ニヶ条 - 暇つぶし2ch250:名無し物書き@推敲中?
07/10/07 22:00:00
 いつも身が引き締まる。中庭には芝生と椅子があるが灰皿がなく、
納入ヤードでは引き取り手のない備品が、寂しげに飾られていた。
 世界の把握には四季の中の二つを費やした。恐れながらも切り開いた開拓路は
この束縛のなかで、少しずつ拘束の縄を緩めていく心地がした。それでも
只一つ、行ったことのない場所があった。

 エレベーターで8階まで。そのすぐそばには、非常灯の灯った扉があった。
扉をあけると、狭い階段が上に下にとぐろを巻いている。下をみればきりがないが、
上の終わりはすぐそこにあった。踊り場には誇りをかぶったラックと三角ポール、
そしてノブに鎖を巻いた扉があった。扉には「屋上立ち入り禁止」と張り紙がしてある。
窓はなくその先が見えない。只一つだけ、知らない向こうだった。

 ふと気付くと、ラックの上に黄ばんだ分厚い本があることに気付く。手にとって誇りを払うと
『新共同訳聖書』の文字があきらかになった。かなり読み込んであるようで、節々に紙の皺や、折り目が
付いていた。この本の持ち主は、この本によって何を得たのだろう。ふっと秋空を統べる孤独な鳥と吹き渡る
風が、体を突き抜けたような心地になる。昼休み終了5分前、私は急いで階段を下ると、
エプロンを付けた清掃員の女性とすれ違った。


次は「深海」「楽園」「銃」で  


251:ミスったのでもう一度
07/10/07 22:01:09
 秋も深まれば4月入社の私のスーツも少し体になじんだように思う。
頭には効率を描き、世界とは私が属するこの社屋に完結している。
社員食堂は日替わりカレーの具が楽しみで、会議室の精錬な空気は
いつも身が引き締まる。中庭には芝生と椅子があるが灰皿がなく、
納入ヤードでは引き取り手のない備品が、寂しげに飾られていた。
 世界の把握には四季の中の二つを費やした。恐れながらも切り開いた開拓路は
この束縛のなかで、少しずつ拘束の縄を緩めていく心地がした。それでも
只一つ、行ったことのない場所があった。

 エレベーターで8階まで。そのすぐそばには、非常灯の灯った扉があった。
扉をあけると、狭い階段が上に下にとぐろを巻いている。下をみればきりがないが、
上の終わりはすぐそこにあった。踊り場には誇りをかぶったラックと三角ポール、
そしてノブに鎖を巻いた扉があった。扉には「屋上立ち入り禁止」と張り紙がしてある。
窓はなくその先が見えない。只一つだけ、知らない向こうだった。

 ふと気付くと、ラックの上に黄ばんだ分厚い本があることに気付く。手にとって誇りを払うと
『新共同訳聖書』の文字があきらかになった。かなり読み込んであるようで、節々に紙の皺や、折り目が
付いていた。この本の持ち主は、この本によって何を得たのだろう。ふっと秋空を統べる孤独な鳥と吹き渡る
風が、体を突き抜けたような心地になる。昼休み終了5分前、私は急いで階段を下ると、
エプロンを付けた清掃員の女性とすれ違った。


次は「深海」「楽園」「銃」で  

252:深海 楽園 銃
07/10/08 01:40:35
 僕は引越しをして初めて友達ができた。嬉しくてすぐに「君の家に遊びに行きたい」と
いった。彼は少し考えてからこういった。「良いよ、でも僕んち海の中だよ」
 確かに彼の家は海の中だった。そこは深海でありながら街を形成していた。役所もあ
るし遊園地さえある。地上の街とおんなじだ。僕がそういうと彼は自慢げに「でも一つだ
け違うところがあるんだ。ここには悪い事をする人、否、悪い事の存在すらないから警
察はいないんだ」確かに街中を探索したが交番さえなかった。つまり楽園だという。そ
れから僕は毎日のように彼の家へ遊びにいった。 そして僕はそこをいつの間にか好
きになっていた。
 ある日きらきらと光る物が落ちてきた。ゆっくりと街の真ん中に落ちてきたので、たく
さんの人が集まっていた。人々の輪の中心には一つの銃があった。おそらく密輸船でも
沈没したのだろう。人々はそれをどうしようかと考えているようだ。だって交番がない
んだもんな。なかなか人々は去ろうとしないので、僕は地上の交番へそれを届けようと
した。そうでないと治まらない様な気がしたから。僕はそこに歩み寄った。銃を手に取
った。僕の上のほうをマッコウクジラが泳いでいった。
 いつしか僕はこめかみに向かって引金をひいた。

「24時間」「缶詰」「階段」

253:深海 楽園 銃
07/10/08 02:07:08
深海から帰って来た浦島太郎は、煙にまかれ年老いて、しっかりと楽園で過ごしたツケを払わされた。
チルチルミチルの幸せの青い鳥は、気付かなかっただけですぐ傍に最初からいた上に、結局逃げ出してしまう。
ああしゃらくさい。
どうして夢物語の中にさえ、貧乏くさい教訓を入れずにはいられないのか。
浦島太郎は永遠に海の底で酒海魚林、チルチルミチルは青い鳥のおかげで一生安泰。
これでいいではないか。
現実のせちがらさなど、皆嫌という程知っているのだ。
銃声のような乾いた花火の音が、2発続けて鳴った。
それは今の自分にとっては、死刑宣告にも等しい。
ゆっくりと眼をあけると、薄いカーテンが朝の光を殆ど遮ることなく漏らしていた。
秋晴れだ。
全校マラソン大会は決行される。
楽園に住みたい。
今私は、夢物語の中でさえ、居場所を見つけることが出来ないでいた。

お題は>252さんのでお願いします。

254:名無し物書き@推敲中?
07/10/08 07:39:15
フラフラじいさんと24時間家に缶詰かと思うと食っちゃ寝専業主婦の喜久子は
ゆううつでフラフラじいさんを階段から突き落として殺す事にしたのである。
大阪ABC朝日放送のムーブを見ながらフラフラしてるハゲフラフラじいさんを
階段から突き落とした喜久子はそのまま特急サンダーバードに乗る事にした。
こんなハゲのフラフラじいさんにお題も糞もあるもんですかと悪態をついた。


255:名無し物書き@推敲中?
07/10/08 23:57:28
暗闇の中を沈むように歩く。
狭苦しい通路を抜け、階段へと辿り着く。

「――っ、はっ、―――ぁ」

もうどれ位こうしていただろう。
干からびた眼球は闇に慣れ、その代償だろうか、耳鳴りが聴覚を削ぎ落とす。
だらしなく開いた口からは、言葉とも吐息とも取れぬ音が漏れている。
―ひりひりと、脳が焼きつく。
四肢は躯から欠落し、極度に集中した神経は理性を破綻させる。
…あと少し。
時計を見る。残り24時間。十分だ。
狩るものと狩られるもの。その明暗を分けるのに時間などいらない。
階段を上りきる。小さな部屋。0.2秒で中へと入り、獣のごとく跳躍する。
―勝った。完全な不意打ち。回避不能の暴力を前に全身が狂喜する。

「―――ぁっ」

イメージは缶詰。
パンパンに膨れ上がった缶詰を鉄パイプで殴りつけたら、きっとこんな感じだろう。
刹那、白む意識の奥で、俺は、脳の弾ける音を聞いた。


「サッカー」「プラネタリウム」「契約」

256:名無し物書き@推敲中?
07/10/09 01:25:57
―ああ、まるでプラネタリウムだな。
いつかアイツと見たのとそっくりだった。

空を見上げてぼんやりと考える俺に対し、辺りは騒然としている。
サッカーの試合中、一斉に照明が落ちたのだから当然だ。
これだけ星空がはっきり見えるということはここだけ停電したわけではなさそうだ。
「全く、せっかくのデビュー戦だってのに」
暗闇でほとんど見えなかったが、丁度足元にあるボールを足で遊びながらつぶやく。
試合前半、ケガによる選手交代で運良く出場できた俺にパスが回ってきた所で突然の停電。
「そんなに俺の試合見たかったのか? なあ―」
ボールを軽く蹴りだしながら再び空を見上げた。

あの日見たプラネタリウムはこんなに綺麗じゃなかった。
手作りで、もっと狭くて、それは頼りない星だった。
「絶対、俺、プロになるから。見てろ」
そう言ったらアイツは微笑んでくれた。
アイツが誰よりも俺がプロとしてプレーしているのを見たがっていた。
それなのに俺の契約が決まったその日にアイツは死んでしまった。

「お前、楽しみにしてたもんなぁ」
くっく、と笑う。我ながら気持ち悪い。
遠くで「何してんだ! 早く戻れ!」と声がした。
「残念だったなぁ、これじゃ無効試合だよ。次はデーゲームのときに見にきてくれよな」
じゃあまたな、と小さくつぶやいて俺はピッチを後にした。



「紅葉」「原付」「帰り道」

257:紅葉 原付 帰り道
07/10/12 01:45:58
彼女から紅葉を見にいきたいと告げられた時、僕にはそれが昨日見たテレビの影響だとい
うことが分ったわけだが、そういう単純な人間を毛嫌いする僕であるのにどうしても彼女の
要求には逆らうことができなかった。恍けた顔をして僕の腕の中で丸くなっているこの女の
為なら何でもできた。明日の朝から出かけたいというわがままさえ苦にならない。場所は今
から決めたいからガイドブックを見たいといった。僕は彼女のお気に入りの原付バイクにま
たがって終電間際の線路沿いを走った。本屋はもう開いているはずはないから何件もコン
ビニをまわったが、要求に沿えるような本は見つからなかった。このまま帰った時の寂しそ
うな彼女の顔を思うと僕はやりきれない。それから1時間以上バイクを走らせた。
やっと都心近くでまだ開いている古本屋を見つけた。幸いにも最近発売されているガイドブッ
クがあった。見かけも古本には見受けられない。おそらく彼女は痺れを切らして待っているは
ずだ。僕はふるスロットルでバイクを走らせた。
彼女は玄関から背を向けて黙って座っていた。いつも不機嫌だとこうだ。
「ごめん」
声をかけた僕に対し彼女はゆっくりと振り向くといつもの恍けた顔をしていった。
「帰り道でなんかあった?」
僕は遅く帰ったからこんなことをいうのかと思った。
「ごめん、遅くなって」
彼女は首を振った。
「違うわ、だってその服」
彼女は僕の胸の辺りを指差した。そこには人の手形が赤々とついていた。
まるで紅葉をした木々の葉のように。

「豚」「縄」「ハンカチ」

258:「豚」「縄」「ハンカチ」
07/10/14 08:44:32
 少年が涙をいっぱい溜めて、「メアリー・・・」と、縄うたれた子豚に頬擦りする。

 
 農場を早く出ようと躍起の運転手が、エンジンの音をたてた。
 メアリーは行く。もう帰らない。
 もの言わぬバラ肉、ロースとヒレ肉になってしまうから。

 少年は、もう耐え切れなかった。6歳には残酷すぎる現実だ。
 「お父さん!ぼく…ぼく、もう一生、お肉なんて食べません。だから、だからメアリーを・・・」
 1歳の妹までが共鳴する、「う゛ぇぇぇー。豚さん、かわいそー」。
 
 運転手は農場主を見上げた。「しゃあないや旦那、次にしましょう・・・今回だけですよ。」

 100年が経過した。
 少年は大人になり、お爺さんになり、霊になって来るべき所に来た。
 そこには当然閻魔大王が、生前を映す鏡を持って鎮座している。

 閻魔大王の第一声。「動物を、不必要に殺し、その肉を食べた事を認めるな!」
 「そ、そりゃないよ。たしかに10歳位からは食べたけど…仕方ないんです。みんな・・・」
 「仕方ないだと!」閻魔は叫んで、ハンカチで目を拭った。
 「豚さんが、かわいそーだと、思わなかったのか!」

※お魚さんにしておこう・・・
次のお題は:「過労」「超光速」「早出」でお願いしまふ。

259:「過労」「超光速」「早出」
07/10/18 00:17:51
「最近、過労気味だな」
大学の研究室でぼくはつぶやいた。
超光速理論の研究を始めて数ヶ月。泊り込みの作業が続き、
たまに家に帰っても実験結果が気になって、早出出勤してしまう。
だいたい、こういう理論的な研究に必要なのは、閃きと考え続ける力だと思っている。
だから、どこにいても仕事はできる。大学に来るのは、考え出した仮説の検証に実験が必要だからだ。
今、ぼくは一つの仮説を立てて、検証を重ねている。
「光速を超えると、時間が過去に戻る」
相対性理論が提唱されて以来、言われ続けている説だが、物質が光速を超えることはできないので、
結果、過去に戻ることもできない、というのが、現在までの結論だ。一部、
ブラックホールを使って可能になる、という説もあるにはあるが。
そこでぼくが考えたのは、「物質ではなく、思考ならば、光速を超えることができるのではないか」
ということだ。
そもそも「思考」というものは、たんなる脳の神経作用による産物で、実体はないのかもしれない。
「考えた」という行為も、その結果出てきたものを本人が話すなり記述するなりの表現によって、
他人が「考えた」んだなと推測するものでしかない。この他人が「考えた」んだなと推測したことも、
この他人本人以外にはわからない。まあ大体、周りの他人みんなが似たような反応をすることで、
お互いが自分と同じ「思考」をしたんだなと「推測」しているのだ。以下、略。

ぼくはときどき、予知夢のようなものを見る。
ほんの些細なことなのだが、たとえば、道を歩いていて石につまずいたとき、この石は夢で見た、
というような感覚になることがある。
これは、今、石につまづいたときのちょっとした思念ショックが、過去の自分に送られて夢に見たのだ、
と、本気で思ったりする。
こういう「結果」を目の当たりにして、仮説を立て、検証するための実験を考える。
……その考えた実験の一つが、ここでやっていることだったりする。
明日はまた朝早く大学へ行こう。

次は、「しおり」「消しゴム」「ボールペン」で。

260:「しおり」「消しゴム」「ボールペン」
07/10/18 00:31:40
学校のトイレの壁に詩織の絵を書いたら、消しゴムで消された。
「これはいけない」と思い、ボールペンで書き直した。
先生たちががんばったらしく、次の日にはやはり消されていた。
「さよなら、詩織」
ぼくは諦めて、最後にこう壁に書き付けた。
次の日、やはり壁の文字は消されていた。

「夜」「神」「月」


261:名無し物書き@推敲中?
07/10/18 01:52:47
保守

262:名無し物書き@推敲中?
07/10/18 03:36:12

電気を消した部屋は、月の光に満たされた。
かすかに存在がわかる程度の、弱い光。
それはまるで今の僕を表しているかのように思えて、少しおかしかった。

僕が存在するかどうか、それは僕が決めるしかない。
僕の姿を認める人は一体どれだけいるだろう
ただ一瞬目に入っただけ人間を、僕と認識してくれるだろうか
そんなことがあるはずがない、僕を僕と認めてくれる人なんていやしなかった。
せいぜい神様が、僕を作り出したことを恥じてくれている程度だろう。

僕がいま目を閉じてしまえば、僕という存在は限りなく曖昧な物になる。
僕を認める人間がいない世界で、僕が存在する理由なんてあるのだろうか。
いま目を閉じてしまえば、僕は消滅する。
もっとも目を開けていたとしても、この世に僕は存在しやしないのだけれど。

「軽い」「緑」「渦巻く」

263:「軽い」「緑」「渦巻く」
07/10/18 05:22:59
今ぼくは、脳の中にいる。
渦巻く思念、思考、欲望、理想……。
いや、文字にしたところで、とてもすべてを表すことはできない。
ふと、手を伸ばして、「それ」をつかんでみた。「緑」というイメージが浮かんだ。
「緑」とは、何を意味するのか?
色、名前、シンボル、それとも別の何かが一番近いイメージに変換されたもの……。
軽い眩暈を覚えた。
まだ見たことがないもの。わざわざ言葉に置き換えなければ認識できないのか。
とりあえず、手を伸ばしてみたんだ。

「弥」「海」「砂」

264:名無し物書き@推敲中?
07/10/18 09:47:00
弥彦駅は日本海の砂浜に近い駅だが電車から日本海を見ることはできないです

265:名無し物書き@推敲中?
07/10/19 09:04:13
 冬の風は通りすぎ、撫でた顔は熱くなった。
ふいに、心まで触れたのか、悲しさが瞳まで込み上げた。
 弥生は立ち止まり、夜空を見上げた。
 涙に映し出されたひとつひとつの光は、七色に輝くダイヤのようだ。
むかし、むかし、母から聞いた言い伝えを思い出す。
 無限に広がりつづける宇宙のどこかに、無数に散らばる星たちのどれかに、
飛鳥がいるかもしれない。
すべてを覆い隠す深い海から、一粒の砂を見つけ出す。
無限を目の前にして茫然する、そんな永遠にも似た光景に目眩がした。
 冷たい風は戯れるように、弥生のコートを翻す。我に返り、身を固くした。
 天を囁く星々も、海に眠るも砂粒も、神様がひっくり返した宝石箱のダイヤなのだ。
神様の宝物を欲しがってはならない。神様にとって、どれも大切ないのちだから、きっと大事にされるはず。
震える声で、自分に言い聞かせるように、励ますように、静かに呟いた。
弥生は、再び歩き始めた。
 包み込むような柔らかい風が、背中をやさしく押した。


266:名無し物書き@推敲中?
07/10/19 09:09:24
↑すみません。改行失敗したことと、お題を忘れました。
次のお題は、ビタミン、紅葉、葡萄です。

267:名無し物書き@推敲中?
07/10/19 09:29:26
あわわわ、すみません。
間違えたの直してないひどい文章を書いてしまいました。リトライします。


冬の風は通りすぎ、撫でた顔は熱くなった。
ふいに、心まで触れたのか、悲しさが瞳まで込み上げた。
私は立ち止まり、夜空を見上げた。
涙に映し出されたひとつひとつの光は、七色に輝くダイヤのようだ。
むかし、むかし、母から聞いた言い伝えを思い出す。
無限に広がりつづける宇宙のどこかに、無数に散らばる星たちのどれかに、
弥生がいるかもしれない。
すべてを覆い隠す深い海から、一粒の砂を見つけ出す。
無限を目の前にして茫然とする、そんな永遠にも似た途方もない光景に目眩がした。
冷たい風は戯れるように、コートを翻す。我に返り、身を固くする。
天を囁く星々も、海に眠るも砂粒も、神様がひっくり返した宝石箱のダイヤなのだ。
神様の宝物を欲しがってはならない。神様にとって、どれも大切ないのちだから、きっと大事にされるはず。
震える声で、自分に言い聞かせるように、励ますように、静かに呟いた。
私は、再び歩き始めた。
包み込むような柔らかい風が、背中をやさしく押した。


268:名無し物書き@推敲中?
07/10/19 23:49:23
ある秋の、他の生徒はみんな帰ってしまった夕方、少年は美術室で絵を描いていた。
絵には、白い皿に葡萄がチョコンとのって、茎の先々には青く瑞々しい膨らみが
生っているが、一つだけ皮のない実があって、甘汁が他の実を伝って、皿に零れ落ちようとしている。
少年は、皮のない実を一つ描いただけで葡萄らしくなくなって見えるのに驚いた。
普段、ビタミンが豊富だとは知っているものの、気にかけず捨てる、なくてもと思っていた皮がない
葡萄は気味悪く、いかにも不自然であった。夏に咲く桜、或いは春の紅葉を想像したときと同種の
不快を感じた。それはいかにも不自然であった。
少年はすこし悩んで、皿の端に萎びた皮を据えた。何だか葡萄らしくなった。

「生きる」「芸術」「労働」

269:404
07/10/21 00:44:08
 叔父の家に行きました。労働も止め、金も無くなり、生きるに困難な状況だったのです。
しかし父と喧嘩中の私は、家に帰るわけにもいきませんでした。

 叔父は芸術家気質の風変わりな人間で、滅多に口をききません。差し出されたサラダ料理
をほおばりながら、やや気まずくなって声をかけました。
「これ、美味しいですね」

「これはね、遺伝子組み換えの野菜なんだよ」洋書から眼を上げた叔父は、薄く笑ってました。

270:404
07/10/21 00:46:39
次お題「セピア」「水滴」「逡巡」

271:人形師 ◆wa1a4mh476
07/10/22 07:49:08
17年間をいっしょに過ごしたセピア
あたしの大切なゴールデン・レトリバー

セピアは朝の四時半くらいに動かなくなってしまったけれど、
あたしはどうしてか分らないままに、こうしてずっとセピアの身体をさすっていたんだ。
けどね、、、セピアの身体がどんどん冷たくなっていくのを感じていたら、、、

ごめんね、セピア。
あたしの心がセピアから離れていくのを、どうしても止められなかったよ。
なんだかもう、、、セピアの身体がセピアじゃなくなっちゃった気がしてさ。

あたしの手が逡巡してたのは分ったけど、あたしはセピアをさするのをやめてね、
ふと気がついたら、もう窓の外が明るくなりはじめていて、
軒下に架かっていたクモの巣が、水滴で垂れ下がってハート型みたいになってた。
昨日までいたはずの、あの黄色いしましまのクモ、いなくなって空っぽの巣だった。
ずっと、、、分らなかったけど、雨が降っていたんだね。


次のお題 「梨」「ランプ」「トタン屋根」

272:名無し物書き@推敲中?
07/10/22 14:18:09
 近所のスーパーマーケットで買った梨を食べようとして、冷蔵庫を開けると
ミネラルウォーターと缶ビールの他には最低限の食料しか入っていないはずが、
ランプが所狭しと並べられている。油に火を灯す、古い代物で、試しに一つ
取出してみると、急に辺が暗くなって、アパートの一室は古城の広間になっている。
二階へ続く、金の装飾が施された階段を誰かが降りてくるので、ランプをかざすと
赤い目の、前歯がひどく突き出した顔が現れて、頭の上まで伸びた耳が微かにゆれている。
「さあ、遊戯の始まりだ。失敗すれば二度とここから出られない」
 不思議なステップで階段を下りながら、陽気に言うので、段々と楽しくなってくる。
「何をするんだい」
 階段を降りきって、正面まで跳ねてきて、笑いながら、
「今回はかくれんぼをしよう。そのランプが消えるまでに僕を見つけてくれ」
 と言って、宙返りをすると消えてしまう。浮かれた足取りで、広間の扉から出ると、
トタン屋根の上にいて、周りはいろいろな形の屋根が敷き詰められていて、隠れる場所はない。
入ってきた扉もないので、とりあえず屋根の絨毯を歩くことにした。
 その日、アパートの火災で一人の男が死んだ。

次のお題「懐中電灯」「水」「即興」
 

273:「懐中電灯」「水」「即興」(1/2)
07/10/22 15:40:05
 
 即興で『罠』を作ることを考えてみよう。
 懐中電灯と水を用いて、果たしてどんな罠が出来るだろうか。
 一番初めに思いつくのは、水の屈折率を利用した水深詐欺じゃなかろうか。
 水底を覗くと、一見足が届きそうに見えるものの、実際に潜ってみると予想以上に深く、慌てて犬掻きなどして窮地を脱出した、などという経験のある人間はそこかしこ居るものと思われる。
 当然、懐中電灯の光も光線の一種に相違ないので、水底に差し向ければ底に届く照射の光は、実際よりも底を浅く見せ、これなら大丈夫そうだと飛び込んでみる。
 するとアラびっくり、足裏にしっとりと絡みつくはずの水底は身長よりも僅かに遠く、予想だにしなかった事態に誰彼も無様な醜態を晒すハメになるのである。
 まぁ、そんな罠に引っかかるようなマヌケが現実におはすならばお目にかかりたいものだが。
 さて、次に。エレクトロフィッシャー(電気ショック漁)の技術を流用した『罠』はどうだろうか。
 エレクトロフィッシャーの原理は、水中に+、-それぞれの電極を差し込み、通電させることにより生体ダメージを与える、ただそれだけである。
 が、賢明な方は既にお気づきであると思うが、この方法は語るまでも無く、机上の空論にも値しない。
 懐中電灯に用いられる一般的な電池はマンガン、アルカリ共に十ボルトに満たず、市販されている共通規格内で最も強力なものを用意したところで三百ボルト程度の電圧しか得られない。
 ちなみに、防犯グッズとして販売されているスタンガンの電圧はおおよそ五千~五十万ボルトのモノが主流であり、皮膚に接着させて対象を気絶させようと考えた場合、五秒程度要する。
 以上より、エレクトロフィッシャー系の『罠』は懐中電灯の電極を用いるという前提を踏まえた場合、全くの役立たずであることがお分かりいただけるだろう。

274:「懐中電灯」「水」「即興」(2/2)
07/10/22 15:43:26

 よって私は提言する。即興で最も効果的な『罠』とは。
 それは、二メートル以上の水深を持つ人気のない川べり、ないし海辺に対象を呼び出し(方法は問わない。罠であればなんでも良い)、背後からこっそりと忍びかかり、無防備な後頭部を懐中電灯で一気に殴り捨て、それから水中へ蹴落とすといった物理的行使である。 
 懐中電灯には様々な規格が存在するが、片手で持てるといった基準をクリアするものには、一キログラムを越えるものは多く有るだろうし、なにより取っ手がついている、防災に備えてそれなりの強度を備えている、など殴打するには利便性の高い点が幾つか挙げられる。
 殴られた相手が、一撃目で昏倒せずコチラに振り返ってきた場合にも、いきなり光を浴びせかけ、ひるませることができる追加効果にも期待できる。労せずして、二度も水中へ蹴落と機会を我々は得ることができるのである。
 どうだろう。即興に最も必要なもの、それは予測し得ない事態にも対応できるだけの柔軟性だ、と私は考えているが、いろいろと道具を拱いて計画を立てるより、流動性に任せた最後の案こそが、最も即興たる即興として、分かりやすい有効性を提示しているのではないだろうか。
 事後処理に手間がかかるだとか、犯行がすぐに露見してしまうのでは、という危惧をどこかに置き忘れた先見性の無さも、即興としての価値を高めている。



申し訳ない。長くなってしまいまった
次のお題は『エジプト記』『兄貴』『四次元超立方体』でヨロシクー

275:名無し物書き@推敲中?
07/10/22 17:58:28
 兄貴は天才だった。ハーバードへ留学して、Ph.D.(哲学博士)を取得した。
エジプト文明に関心があって、ピラミッドを見に行ったこともある。
 交通事故で死んで、遺品の整理をしていると、そのときのエジプト記と題された
ノートが出てきた。興味深いのはピラミッドに対する深い考察と、それに関連付けてある
四次元超立方体の理論である。それは次のようなものであった。

 私はピラミッドから、この三次元空間に擬似的に四次元空間をトレースすること
によって、四次元超立方体を構築できるソースを得た。433のシュリーレフ記号であらわされる
テッセラクトはヒルベルト空間上において、suggestion(シュゼスション)されている。
非線形電磁気空間理論に基づいて、これはピラミッドのCorps diplomatique(コオル ジプロマチック)
的見地で見ると、スカラーポテンシャルとベクトルポテンシャルが混在してはいるものの
次の方程式が成り立つことが証明できれば、四次元超立方体はfrivole(フリヴオル)である。
(方程式の部分は字がかすれていて読み取れない)
 四次元超立方体はfrivole(フリヴオル)であると仮定すると、レヴィ・チビタ接続が定まる。
よって、四次元超立方体はironiquement(イロニックマン)であり、三次元においてflegmatique(フレグマチック)
であることが可能なのだ。
さて、これを読んでいるあなたには方程式もこの理論も理解できないだろう。当然のことだ。
これは全くのデタラメなのだから。

 久しぶりに兄貴のユーモアが帰ってきた部屋で、オレは静かに兄を思った。

次のお題「金木犀」「恋」「ハンカチ」

276:404
07/10/27 11:00:54
 あの娘が好きです。恋をしました。
 ですので、廊下ですれ違った時にハンカチを抜き取ろうとしたのです。
「これを落としましたよ」
「ありがとう」
そうやって、きっかけが作りたかったのです。
 でも私はしくじりました。その金木犀の刺繍のハンカチを抜き取る時に、
あの娘の体に触れてしまったのです。
「きゃっ、あなた、私にさわりましたね?」

 それが今、私がここにいる理由です。

次お題「消耗」「切り取る」「鏡」

277:「消耗」「切り取る」「鏡」
07/10/29 00:23:24
「鏡よ鏡。この世で一番美しいのはだぁれ?」
 鏡はいい加減憂いていました。なににって?
 そりゃ奥さん、そんな馬鹿げた質問に毎度毎度判を押したような返事をすることにですよ。
 鏡がこんなこと考えるなんて傲慢だって思っちゃいるんですがね。大切に扱ってもらってる恩義もありますし。でも、考えてもみてくださいよ。
 寝覚めの朝、スッピンの女王がまず初めに口にするのがそれ、公務にやつれた表情で口にするのもそれ、夜伽の汗に崩れた下地を拭い落としながら口にするのもそれ。お世辞も消耗して、二枚舌じみてくるってもんです。
 別段、何かを求めてるわけじゃないんです。ただひとつ私が提言したいのは、自らの美しさに対する自信や裏打ちを得たいがために話しかけようってんなら、最低限の体裁を整えてから問いかけるべきじゃないんですかね? ってことなんですよ。
 世の男性百人居れば百人ともの恋が冷めるような醜貌を晒して、この世で一番美しいのは、なんて滑稽を通り越して悲哀すら覚えてしまいます。
 なーんて、口にのぼらせることはないんですがね。
 この立場を捨てるか否か、なんて天秤には乗っかりゃしませんよ。所詮私は、喋るだけのモノですから。今以上の待遇なんて望みようがないんですから。
 というような経緯があって、ある日私は一計を案じてみたわけです。
 はてさて、私の眼力は美女を見分けることに関しては千里眼。美しい村娘の一人や二人見つけることぐらい朝飯前ですよ。と、ここまでくればみなまで言わずとも分かってくれますよね、奥さん。
 そう、私の考案とは比較対象を女王の前にぶら提げてやることだったんです。美しさの基準、最低ラインになるような喫水線を。
 女王の嫉妬心を掻き立てられるような娘なら、ぶっちゃけ誰だって良かったんです。
 清貧で、若くて、己の美しさに無自覚なまま青春を謳歌している娘であれば。
 ま、こんな愚痴やぼやき、民草の間でまことしやかに語られている、あの美しい御伽噺にゃ不釣合いですからね、一切合財切り取られちまってるみたいですが、世にあるサクセスストーリーなんてこんなもんですよ。
 どう生きようが関係が無い。身分不相応な幸せを手にしようとするなら偶然に期待するしかないんですよ、奥さん。
 奥さん? ねぇ、聞いてます? どうして急に耳を塞いじまったりするんです

278:名無し物書き@推敲中?
07/10/29 00:26:33
次のお題は『悪魔の辞典』『測定』『クローバー』でヨロシクー

279:名無し物書き@推敲中?
07/10/29 11:14:17
真っ暗闇の中に小さな机が置かれています。上から丸い光が降りています。
丸い光に照らし出された台に本が置かれています。机の上の本は「悪魔の辞典」
と題してあります。題した下に著者の名前があります。本の真中にクローバー
が一つ乗せてあります。三つ葉です。測定すると三センチです。
ただし、当社の定規を使えば三,三三センチまで測れます。何とも縁起がいい。
ちょっと幸せになる「クローバーの詳細正確定規」を是非お試しください。
本の厚さを測定すると、六センチです。
ただし、当社の定規を使えば六,六六センチと言うことがわかります。不気味ですね。
ちょっと怖い「悪魔の詳細正確定規」を是非お試しください。

次のお題『高等数学』『ベクトル』『余興』

280:『高等数学』『ベクトル』『余興』
07/10/29 13:48:42

 高等数学、という言葉を耳にして少年は頭が痛くなった。
 受験の数学だけで十分煩わされているのに、その上『高等』だって? なんだそりゃ?
 とりあえず、少年はgoogleで検索を掛けてみる。高等数学、高等数学……っと。
 ふーむ。高等数学に一致するページ は約73,700件、その最上段にヒットしたのは数学勉強法、ついで米マイクロソフトの検索用アルゴリズムか。その下には、教育数学に関しての情報が連々と並んでいる。
 wikiがトップにヒットすれば、その情報を元に話を組み立てようと企んでいた少年してみれば、これはあまり芳しくない検索結果だ。どうやら、地道な検索プラス自らの知識を持ち寄って、お話を創らなければならないらしい。
 少年は腕を組むと、首を僅かに傾け黙考してみる。何か、良いアイデアは浮かばないだろうか。
 現在学んでいる高校数学をアレンジした話をぶちあげ、誤魔化してみるか? いやいや、それじゃお題を消化したことにはならないだろう。けれど『高等数学』なんて得たいのしれないワードと真正面から向き合うのは、極力避けたい。
 己の頭の悪さは存分に把握している。
 と、いうわけで少年は触り最低限の知識を得るため、ネット上を奔走してみることにした。
 
 ……ははあ、なるほど。今回、『高等数学』と『ベクトル』のキーワードが同時に用いられれていたのは、高等数学が、ベクトル解析と線形代数の分野を包括しているからで―
 ここからは私見になるけれど、ベクトル解析はどうやら、ベクトルと解析学に分割して考えられるみたいだ。と決め付ければ、高校数学を履修しただけの(しかも文系選択なのでⅡBまでしか履修していない)自分にも何とか理解できそうだ。
 科学課目は、幸いにして物理学を選択しているし……。
 おそらく所々、消化しきれない部分は出てくるものの、何とかそれらしきものを他人に説明できるぐらいにまでは、会得することができるだろう。
 少年は満足げに頷き、頷いた瞬間、目の端で捉えた情報にハタと動きを止めた。
 なんということか、後先考えずに書き出した文書は字数制限を間近に迎えているではないか。本編を語らずして、前振りだけで話を閉じるなど、なんと本末転倒な余興だろう。
「高等数学……」
 小さく呻くと、少年は天を仰ぎ目を閉じた。嗚呼、高等数学。なんとも頭を痛くさせる言葉じゃあないか。

281:名無し物書き@推敲中?
07/10/29 13:52:15
次のお題は『墓地』『秋』『土いきれ』でヨロシクー

282:404
07/10/30 04:40:08
 道路も木々も、群青色に染まる夜。肌を刺す冷気に肩をすくませて、私は一人で歩いていました。

 するとどこからか、ざくざくと土を掘る音が聞こえてきて、首を曲げると、そこには墓地がありました。
暗がりの中、さらに目を凝らしてみると、綺麗な身なりの老人がシャベルでせっせと穴を掘っています。
不気味な光景でした。しかし、その老人の傍らにあった薄茶色の物体、それが何であるか気を取られ、少し
近づいてみました。

 後でわかったことですが、その老人は未知の事柄に対して非常に臆病な性質であったらしいです。宅配便
が来ても対応の仕方がわからないため居留守を使ってやりすごし、買ったテレビが不良品でも返品ができず
に押し入れの奥にしまいこみ、国民保険金も支払い方がわからないため払わず仕舞い。
 その彼の苦手な部分を補ってくれていたのが彼の妻でしたが、その妻が亡くなると、彼は対処に困って
墓場に穴を掘り始めたのです。それを夜中に実行したところをみると、誰にも知られず秘密裏のうちに、
解決してしまいたかったのでしょう。

 保険局に電話一本かける手間よりも、墓場に深い穴を掘る手間の方を選ぶとは、なんとも奇妙な話ですが
実際にそういう人間は存在するそうです。

次お題「呪い」「歌」「沈む」

283:名無し物書き@推敲中?
07/10/30 11:50:58
(転生人語)2009/10/30版

 ▲皆様はご存知だろうか。遥か太古、地球上にひとつの巨大な大陸が存在したことを。
 ▲その名は『レムリア大陸』。インド洋上に三角形の形状をとるグリーンランドサイズの大陸は、紀元前五千万年ほど昔に一大文明を築き、誰に知られることも無いまま海の底へ沈んだと云われている。
 ▲この大陸の有無に関して、地質学者、気象学者、神秘学者、様々な学問を修める者が関わってきたが、現在における位置付けに決定打を放ったのは気象学者のアルフレート・ヴェーゲナーである。
 ▲現代ではプレートテクニクス(プレート理論)と呼ばれる、大陸移動説を以て彼は『レムリア大陸』を否定した。
 ▲プレートテクニクスとは、マントルの流れに沿って大陸は移動する、と云う考え方であり、その説に『レムリア大陸』を照らし合わせてみた場合、全く位置を変えずに存在したと伝承される彼の大陸は、地質学の性質上有り得ない、と断定されていた。
 ▲然し、この論拠は1999年『外惑星型・太古衝突』により、根底から覆されることになる。
 ▲今から十年前の事件ではあるが、皆様の記憶にも新しいのではないだろうか? クトゥルー神話によってのみ語られていた、旧支配者層の一部が地球に飛来した事件は、当時一大センセーションを以て迎え入れられた。
 ▲その旧支配者の一部は自らをNyarlathotepと名乗り、様々な形態をとることのできる『千の貌』と云う、物理学や生態学を一足飛びに超越する能力を披露してみせた。
 ▲また、古来や現代、ありとあらゆる地域の内情に精通しており、彼(便宜上ここでは彼としておく)の口から語られる事実は非常に正確であった。
 ▲それも、驚くべきものばかり。ケネディ大統領暗殺事件の犯人、ジム・クレイ博士行方不明事件の真相など、我々の知り得ない情報を幾つも語り、確証が取れるものに関してはありとあらゆるものが正しかった。
 ▲その彼が『レムリア大陸』の存在を肯定した。彼の一言は今や、どんな研究成果よりも重大な価値を有しており、何よりも信頼に値する。よって我々は、ヴェーゲナー学士による学説否定を打ち消し、彼の大陸の存在を認めねばならないのだ。

284:「呪い」「歌」「沈む」(2/2)
07/10/30 11:51:53
(補足)

 ○世間一般においては『ムー大陸』の方が聞こえは良いだろう。
 ○その『ムー大陸』は、Nyarlathotepの伝承が記されているクトゥルー神話体系では、『レムリア大陸』と云う名で触れられている。
 ○Nyarlathotepに拠れば、彼の大陸が沈んだ要因にセイレーンの歌が関連しているらしい。
 ○セイレーンとは、ベテランの船乗り達をも震え上がらせた海の魔物、その美しい歌声で船を沈めてしまうと云われている北欧、ギリシャ神話を元にした伝説上の生物である。
 ○我々がなぜ北欧、ギリシャの生物が『レムリア大陸』の存亡に関わるのか、に言及すると、彼は呪い子テュポーンの名を挙げた。
 ○ギリシャ神話に、強力な魔神として登場するテュポーンは、当時ギリシャの天上界に居を構えていた多くの神々をエジプトへ追いやったそうだ。
 ○その際、追われた神々、神の眷族の一部が更に東方に位置する『レムリア大陸』へ行き着き、彼の大陸の神として君臨したと彼は語る。
 ○以降、どういった内情があったのか定かではないが、上記の事実を以て『レムリア大陸』は沈没の憂き目にあったのだろう。
 ○『~のだろう』、とはっきりしないのは、Nyarlathotepが、セイレーンの歌がどのように作用して『レムリア大陸』を沈めたか、の事実に関しては固く口を閉ざしてしまい、聞き出すことができなかったからである。
 ○古代エジプト時代に著名な占い師として歴史に顔を覗かせた彼にとって、北欧の神々、ギリシャの神々の存在は何か特別、感慨を抱かせるものがあるのかもしれない。
 ○もしかするとそういった神々とは一切関係なく、旧支配者を討つ者として有名な、旧神Nodensが関わっているのかもしれない。
 ○それとも『レムリア大陸』からは望むことができたと云われる恒星フォルマルハウトの顕現に拠り召還され、Nyarlathotepの棲まうン・ガイの森を焼き尽くしたCthughaに何か関連が……
 ○我々が神話体系について知りえることはごく僅かにすぎず、『レムリア大陸』の謎は、依然深まるばかりである。



申し訳ない。長くなってしまいまった
次のお題は『トラットリア』『二丁拳銃』『喪服』でヨロシクー

285:トラットリア 二丁拳銃 喪服
07/11/01 07:20:42
依頼者は殺し方に注文をつけた。おびえる相手の顔を拝見したいというのだ。俺が銃を突きつけ
ると依頼者が止めに入るという段取り。依頼者はただの目撃者であるというわけだ。
指定された小さな食堂。俺はテーブルに近づいた。チラと依頼者は俺を見る。依頼者は下を向いた
まま苦笑いをした。その格好は目立つというわけかい。この場所にこの格好はまずいとでも。黒のス
ーツに黒のタイ、喪服が仕事着というのも葬儀屋と殺し屋ぐらいだろう。いいじゃないか。幸いにもここ
には俺とおまえ、ターゲットの3人というわけだ。かまわず俺は両脇に手を突っ込み拳銃を抜いてみせた。
この状況は馬鹿げてはないか。たった一人を殺すのに黒服の男が二丁拳銃とは。腐ったドラマの
ようだ。でもこれは俺の〝美学〟であるのだ。〝最低〟の人間をやるのには〝最低〟の行為で
対する。馬鹿げた奴に殺される、このざまといったら笑えるじゃないか。
ターゲットはぽかんとして、二丁の銃を突きつけられ、何が起こったかわからぬ様子だ。打ち合わ
せ通り、依頼者が止めに入った。「なにをするんだ!」辺りは静まりかえっている。
俺は笑った。「なにをするんだだって」
今度は依頼者がぽかんとした。打ち合わせと違うからだ。
俺はいった。「この場所はなんていうんだ。あ?いってくれ」依頼者はわけがわからぬ様子だが、
声を振り絞った。「×××」
「ちがう!店の名前じゃない。レストランとか、お前がわざわざ使う言葉だ。トラ何とかだよ」
「トラットリア・・・?」
「そうだ。それだ」俺は満足した。
ターゲットは下を向いた。笑っていたのだ。そのうち上を向いて高笑いした。そして俺にこういった。
「おねがいだ!殺すなんてやめてくれ!」
俺は二丁の拳銃を〝新しいターゲット〟に向けた。全くもって人生はやりきれない。

「ヒント」「体形」「望遠鏡」

286:名無し物書き@推敲中?
07/11/08 23:12:30
望遠鏡を覗いている僕を彼は突き飛ばした。僕は吹っ飛んだ。
地面を1回転転がってから頭を下にぶつけた。
知的な僕が望遠鏡を眺めるその様が彼には気に入らないというわけだ。
朦朧とする意識の中彼の顔を見上げた。僕の目にぼんやりと映る彼の顔は
笑っていた。
なんて下品な笑いだ!
彼の体形のことなど言いたくないがスナック菓子と炭酸飲料を大量に摂取
した彼の体を僕は美しいとは思わない。
彼はご機嫌に望遠鏡を覗きだした。
彼のような人間にこの夜空、星の美しさが分かるはずがない。
星座など知るはずもないだろう。
オリオン座、北斗七星、冬の大三角形。
こいつが望遠鏡を覗いて一体何になるっていうんだ。
愚鈍なこいつが!
愚鈍なこいつと知的な僕、そして望遠鏡。
知的な僕の知的行為。破壊された知的空間。
こいつがのしのしと歩いてきたその様は神話のトロルそのもの。
よだれなんか垂らしやがって!
「生きるヒント」。こいつの愛読書だ。
何を読んでやがるんだ!
はあはあ言ってないでさっさと望遠鏡を返しな!



剣、いばら、穴       で。

287:名無し物書き@推敲中?
07/11/09 11:00:18
>残飯さんはどうなるんだろうねwww


刑務所か精神病院かどちらかだろうね
そうでなければ東京のどこかだろう。ホーレスには居心地がいい
ファストフードのゴミ箱を漁りながら有名人に対する呪詛を撒き散らしながらどこかの公園で野垂れ死に


     被害者達に許しを請うように体を二つに折り
     縮こまって死後硬直している姿が目に浮かぶよ


俺には分かっている。この掲示板ゲームと同じようにね


     問題は時間、常に時間だけだ
 

288:名無し物書き@推敲中?
07/11/09 16:47:28
「剣の道はいばらなり、穴なり」と言ったのは、かの有名なアーサー王である。
アーサー王の馬の世話係をしていたツェペリと言う男が、アーサー王に「剣の道は如何ぞ」
と聞いて、答えたと言うことである。
「其の心は如何に」と馬番が聞くと、
「其の険しきこといばらの道の如く、無益なること穴なる杯(はい)に注ぐが如し」
 西暦523年、激しさを極める事となる、カムランの戦いに出陣しようという時であった。
この戦いでアーサー王は戦死し、彼の王国も滅び、戦乱の世が訪れる事になる。

次のお題「欺瞞」「自己同一性」「儕輩」

289:名無し物書き@推敲中?
07/11/10 14:42:17
おれは4年前にこの状態を予見していた
だから2年待った

乗り込んだ以上慈悲は見せない


      覚 悟 し や が れ 


必ず   z a n p a n 鍋にしてイヌに食わせてさしあげる
 
 

290:名無し物書き@推敲中?
07/11/10 18:46:13
欺瞞に満ちた目で彼らは僕を見ていた。
僕が信じられないというのか。僕の言うことが。僕の理念が。僕の信念を。
君達は今眠った状態だ。眠らされているんだ。この星にね。
僕もかつてはそうだった。でも兄さんが僕を起こしてくれた。
覚醒させてくれた。紹介するよ。兄さんだ。
兄さん、来て。この人が僕の兄さん、僕等の兄さん。この星を皆と一緒に創り変えていく
創世者、ギャラカテック兄さんだ。君達は同士だ。僕と兄さんと君達でこの星を創り変えるんだ。
君達は今どんどんこの星に命を削られている。
君達は気付かないかもしれないけど君達の目は日に日に虚ろになっている。
僕と兄さんと一緒に闘うことが唯一の君達の自己同一性を守る手立てだ。
今こそ立ち上がるんだ!彼等の瞳が緑色に激しく輝きだした。
僕たちは手と手を取り合い一つの大きなサークルを作った。
僕と兄さんは彼等の体に植物でできた武器を埋め込んだ。
今日から僕たちは兄弟だ!苦しみも悲しみも喜びもすべて一つだ。
兄弟達よ、僕は君達のためなら喜んで血を流し命さえ差し出そう。
兄さんも同じ気持ちだ。兄弟達よ、今日という日が記念すべき僕達の独立の日だ。
兄弟達よ、今こそ僕等と一緒に君達自身の人生を生きるんだ。
さあ、共に行こう。僕達の理想の世界へ。兄弟達は歓声をあげた。
兄弟よ、僕は本当に君達のためなら命も差し出そう。








命、クリスタル、地球    で。


291:名無し物書き@推敲中?
07/11/11 08:57:46
赤い運命、なんとなくクリスタル、地球へというのがむかしはやってました。
赤い運命が好きだった女の子は今や食っちゃ寝専業主婦ただのババアになって
引越し引越しさっさと引越ししばくぞと歌いながら毒入りかれーをつくります
あのじいさん砒素で殺せば私の青春を取り戻すことができる青春が戻るんだ。
デブの食っちゃ寝専業主婦真須美はカレーの入った鍋の蓋を開ける事にした。

292:命、クリスタル、地球
07/11/11 11:23:01
 Aは長年山に篭って、仙人のような暮しをして、悟りを開いた。
そして、己の悟りを皆に伝えようと決心して、山を降りた。
山を降りる途中に命のクリスタルがあった。ルビーのように赤く、
地球のような神秘を秘めていた。Aは己の悟りが間違っている事に気づいた。
命のクリスタルを食べ、不老不死になって、山に篭った。
 Aは長年山に篭って、仙人のような暮しをして、悟りを開いた。
そして、己の悟りを皆に伝えようと決心して、山を降りた。
山を降りる途中に……

次のお題「一頓挫」「隔靴」「儘」

293:名無し物書き@推敲中?
07/11/11 11:54:00
「『一頓挫』って、なんて読むの?」
「しらねえよ」
「『一頓挫』って、どういう意味なの?」
「しらねえって」
「じゃあ、『隔靴』は?」
「しらねえよ、そんなの知ってどうすんだよ」
「知りたいんだよう」
「死ねよ」
「『儘』でもいいよ、おしえてよ」
「……頭に『我』をつけてみ」
「?」
「お前のことだよ」

お次は、「お金」「キャッシュカード」「金塊」で。

294:、「お金」「キャッシュカード」「金塊」
07/11/11 13:10:11
お金をキャッシュカードで買って、金塊に変えた。今時分の実業家なら、
的を得た判断だと、想うだろう。策略家の気の置けない友達に、まんまと騙されて、
大損をした汚名挽回だ。オレは大手の会社の副社長で、役不足もいいとこなのだが、
一生懸命やって、何とか勤めている。例の友達は、ライバル会社の副社長で、
伝統をおざなりにして、改革を行い、脚光を集めている。絆は深いと想っていたのに、
騙されてしまった。口惜しい。

次のお題
「明鏡止水」「ステアリング・ホイール」「南極大陸」

295:人形師 ◆wa1a4mh476
07/11/12 05:50:48
俺達はチリからC-130輸送機で南極大陸のパトリオット・ヒルズ基地へ入り、
そこからヘリテージ・レンジと呼ばれる海岸へ移動して、電気自動車による
南極大陸縦断を開始した。最終目的地は南極点にあるアメリカ政府のアムンゼン
・スコット基地だ。1時間かけて10km走行しては、太陽パネルと風力発電機で
4時間充電するという地道な作業を繰り返しながら、俺達、つまり俺と沢村は、
この7週間をひたすらに走り続けてきた。それが・・・南極点まであと200km弱を
残す所まで来て、このざまだ。それ程でもないと思われたサスツルギ*を一気に
越えようとして、俺達のクルマと牽引していたトレーラーは激しく横転、
積載していた充電設備を派手に撒き散らしながら大破したのだ。
状況は深刻だった。まず、トレーラーとの接続部が大きくねじれ、充電設備の
牽引が不可能になっていた。また、大半の太陽パネルには亀裂が発生し、
発電不能。その上、クルマを運転していた沢村が左足大腿部を骨折していた。
クルマが何度か横転したとき、ステアリング・ホイールに足をからめ取られ
たのだと、沢村は先程まで苦悶の表情で話していた。しかし、その沢村も
今は遠くを見るような曖昧な視線を中空に投げかけて、ボンヤリとしている。
意識レベルが明らかに低下していた。もちろん、俺は何とか生きていた通信機を
使って、アムンゼン・スコット基地に救助を求めはしたのだ。しかし、
少し前から酷くなり始めたブリザードを理由に、早急な救助は難しいとの回答。
あと3時間もすれば、この辺りは氷点下30℃に達するだろう。

・・・そんな中で、俺はふと笑ってしまった。これ程までに絶望的な状況で、
明鏡止水の境地とも言えるほど、俺の内側が静まり返っていることに気付いた
のだ。すべてが見えているようにも思えた。何か、わくわくするような戦慄
さえ感じた。 ・・・さて、何から始めようか。俺の戦いはこれからだ。


*サスツルギ: 風向きに従って形成される氷雪の小山。高いものでは2mに達する。


次のお題 「扇風機」「雪」「三葉虫」

296:404
07/11/12 18:37:16
 僕は、病弱な子供だった。体育の授業の度に見学させられたし、外で遊ぼうとすると止められた。
だから、いつもとっても詰まんなくて、遊び相手だったお婆ちゃんに
「僕も普通に遊びたいよ。それにうちって貧乏だからゲーム無いじゃん」って言ってた。

 ある日突然、そんな僕にも幸福が訪れた。先生が理科の授業の後、こっそりと僕を呼び止めて
三葉虫の化石をプレゼントしてくれたんだ。
「高志は化石好きなんだろ? これ、高い奴だけど、みんなには内緒な」とっても嬉しかったよ。

 でもね、家に帰ってお婆ちゃんにその事を言ったら、普段優しいお婆ちゃんが、急に怖い顔して
「そんなもの、もらっちゃ駄目だよ」って言って、嫌だったのに無理矢理化石を取り上げちゃった。

 とっても怒ったよ。
「なんでなの!お婆ちゃん、返してよ、僕のだよ!」しまいには、部屋の隅に置いてあった扇風機を
思い切り蹴っ飛ばして「ふざけんなよ! 死んじゃえよ!」って言ったところ、隣の部屋からやって
きたお父さんが僕のほっぺたをビンタして、だから僕は思い切り泣き出した。
 その日から、お婆ちゃんを無視するようになって、お婆ちゃんが死んだ時も、ざまあみろ、って
思ってた。

 貧乏だった我が家にも多少の余裕が出来、僕の病気は薬で治って元気に成長して大人になった。
雪が降りこめる、お婆ちゃんの十回忌。お母さんがそっと耳打ちしてくれた。
「高志の病気治したあの薬だけどね、お婆ちゃんが高志から取り上げたあの化石を売ったお金で
買ったの。とっても高い薬だったから。それにお婆ちゃん、自分が死んだ時に高志があまり悲しま
ないようにって・・・・・・」

なんで、なんで、なんで・・・・・・その単語だけを繰り返し口ずさんで、俺はわんわん泣き出した。

297:404
07/11/12 18:43:30
次お題「海老」「白」「つらら」

298:海老・白・つらら
07/11/15 01:21:23
吐く息は白く、家屋の軒先にはつららがぶら下がっている。
まさかこのような極寒の地に飛ばされるとは。男は己の不運を嘆いた。
たった一つの小さなミスでこのサマだ。
男は雪道を音を立てて歩いている。目指す工場まで後少しだ。
約束の時間までまだ一時間以上もある。少々腹の方も悲鳴を挙げてきている。
どこか良い店はないだろうか。男が辺りを見回すと、古ぼけた看板が目に入った。
今にも消えそうな文字で食事処と書いてある。男は一瞬迷ったが、他に店も無いようなのでそこで昼食をとることにした。
私以外に客は見当たらない。古ぼけた感じの店だ。しかし、注文を取りに来た女性は、意外にも若く、美人であった。
女性は無愛想にメニューを私の前にポンと置き、そのまま奥の方へと引っ込んでいった。
憮然としながらもそれを開く。数多くあるメニューの中から、私は海老フライ定食を注文した。好物なのである。
外に目をやると、かなり吹雪いてきていた。目的地まではあと十分は歩かないといけないだろう。
ほどなくして、海老フライ定食が運ばれてくる。茶碗の中の米は白く輝いており、私の食欲を存分にそそっている。
そして海老フライに視線を向けた時、私は目を丸くした。
海老といっても、それは甘海老であったのだ。皿が大きいので、よけいにフライが小さく見える。
私は先程の店員を呼び、これを問い質した。すると、彼女は氷柱のように冷たい眼差しでこう答える。
「ここいらへんは、甘海老しかとれないもんで」
言い終わると、彼女は自分の役割はこれで終りと言わんばかりに下がっていった。
私は、海老フライと呼ぶにはあまりに小さすぎるそれを見下ろし、これからのことを思い、大きな溜息をついた。

次のお題
「天使」 「祭壇」 「人工知能」で

299:海老・白・つらら
07/11/15 01:25:42
途中から一人称になってしまったorz

300:「天使」 「祭壇」 「人工知能」
07/11/15 03:26:31
祭壇への階段の下、息子も息子の嫁も孫娘も、口々に私に祝いの言葉を贈ってくれた。
20の歳から40年連れ添った一つ年下の妻が、私の手を握った。
「ワタシもすぐに行きますから、先に行った皆さんによろしくご挨拶しておいてくださいね」
「わかった。皆も元気でな。向こうで待っているからな」私は妻の手を握り返してから、天使の待つ祭
壇への階段を上った。
「ようこそ、天国の入り口へ」優しく微笑んだ天使は私の手を取り、祭壇にしつらえられた椅子に導い
てくれた。私を椅子に座らせると、天使は自分の頭の上の光る輪を両手で持った。
「さあ、これをつけたらあなたは天国の住人になります。飢えもなく、病も無く、痛みも無く、老いも
無い。現世の方とはテレビ電話でしかお話できなくなってしまいますが、それもわずかな期間のこと。
すぐにお相手も天国に来てくれますからね。では、心の準備はよろしいですか?」私は天使の言葉に力
強く頷いた。
天使は私の頭にうやうやしく光る輪を載せた。そして、目の前が真っ白に輝いた。

祭壇の椅子の上、親父の頭に載せられた光の輪は次第に輝きを増し、やがて見つめていられないほどに
なった。まばゆい光が去ると、祭壇にいた親父もホログラフの天使も消えていた。
「おじいちゃん、天国に行っちゃったね」娘の言葉に「そうね」と嫁が頷く。「明日には設定を終えて
電話をよこしてくるかしら?あの人、優柔不断だからもっとかかるかしらね?」母がくすくす笑った。

人間の脳の構造を人工知能に移植することが可能になった現在、環境問題・人口爆発・食糧難・老人介
護などの問題を解決する究極の手段として生まれた「60歳天国移住法」。
人々は60歳の誕生日を迎えると、その記憶と人格を人工知能に完全に移植してコンピューターの中の
仮想空間に「移住」するのだ。そして、残された肉体の抜け殻は、原子レベルに分解され、再構築され、
再利用される。

チーン。
移住者の家族にだけ与えられる特別配給食ができたことを知らせる音が響いた。
「さあ、ご馳走をもらって帰りましょう。」「おじいちゃんは体格良かったから、きっといっぱいでき
てるわよ」嫁と母が笑いあう。俺は妻と一緒に娘の手を引いて配給口へ向かった。

次は、「電話」「脳」「給食」で。

301:404
07/11/15 12:43:40
 同級生の奴ら全員が馬鹿に見えて仕方なくって、学校に行かなくなった。

 案の定、先生が家にやってきたり電話をよこしたりしてきた。始めのうちは、穏やかな受け答え
でもって、優しく「佳子は今、何しているんだい?」なんて聞いてきたり、「みんな心配していた
ぞ」などと、クラスの奴らの授業中での面白おかしい言動だとか、給食中に出てきた美味しいデザート
の話などをしていたのだが。

 ある日、先生がやってきたのだけれど、顔がやや赤味を帯びていて、なんだか動きが大雑把で、
目つきがいたずらに鋭かった。声も、なんだか脳に響きそうな音質だった。
「なあ、佳子~。先生はなぁ~、今まで一度だって、一度だって、不登校児を出した事が無いんだ。
本当に、一度だって無かった。それで今度教育委員会の方から特別栄誉賞をもらえる事になってたん
だよ。なあ、不登校児を出したくないんだよ。先生は。だからこれまでだって、生徒たちがおかしな
事してたって先生は・・・・・・」そこから先は、聞くに耐えなかったから、便所に行くフリをして
逃げちゃった。


 いつも寛容で温かく、「ニッコリ先生」と呼ばれる程の先生だったのです。

302:404
07/11/15 12:45:46
次お題
「大樹」「地平線」「力」

303:かえっこ ◆vKR9dNUc2M
07/11/15 15:18:32
「大樹」「地平線」「力」

72歳で亡くなった 結城大樹さん の葬儀が青山で行なわれていた。
海洋冒険小説家として数々の賞を受けている有名な人物。
そのため、2000人を超える各界有名人の弔問者、国内海外のマスコミ関係者も多数そろっていた。
会場の最前列には、子供に先立たれた、老夫婦98歳の父親、95歳の母親が座っていた。
式も終わりに近づいた頃、ゆっくりと立ち上がった父親。
歳をとってはいても彼は昔、有名な海洋冒険家として世界の海を一人航海し続けていた人物、その足どりと声はしっかりしていた。
力強い表情で微笑んでいる息子の遺影に向かい、父は、子への思いを語り始めた…

「おい!大樹。オレは、お前が産れた時の事は今でもはっきり覚えてるぞ!」
「オレはあの時、太平洋のど真ん中。衛星電話でお前が産れたと報告をもらったんだ」
「オレは、ナ!!その時、母なる海に感謝し、地平線に昇る太陽に向かい叫んだぞ!!」
斎場にいた人たちは心の中で…「間違ってる!それ!水平線!!」
「中学もろくに出ていないオレがお前みたいな立派な息子に恵まれて…」
「ガキの頃のお前はヒョヒョロで医者のやっかいになってばかりで母ちゃんに心配ばかりかけてたな!!」
斎場にいた人たちの中ですすり泣く人たちの声がもれる。
「オレはあの時、地平線から昇る太陽に願いをかけ、でっかい男になるようにって大樹って名前にしたんだぞ!!」
「30、40、ってお前はボーっとしてて女の腐ったようなヤツだって心配してたがな!!」
「じじいになってからやっと、名前通りのすごいヤツになったな!!あの…なんて言ったかな!!…おう!!た・い・き・ば・ん・せ・い・だ!!」
「とにかく!オレは、お前がオレの息子で本当に良かったぞ!もうすぐ、母ちゃんとそっちに行くから待っとれ!!」
いっせいに拍手が聞こえ、そして、斎場にいた人たちは心の中で思った…

「字…間違ってる!それを言うなら大器晩成」

304:かえっこ ◆vKR9dNUc2M
07/11/15 15:23:09
次お題
「優勝」「5本の指」「汚れた路地」 で

305:名無し物書き@推敲中?
07/11/16 06:09:08
甲子園で決勝の晴れ舞台
すべてはこの勝負で決まる
奴は拳を突き出してきた
苦渋の表情がここまでの長い戦いを物語っている
血と汗で汚れた路地裏で相当な練習を積んできたのだろう
俺は5本の指を突き立てた
ジャンケン甲子園は俺の優勝で幕を閉じた

次のお題
「特典」「マグカップ」「鳥肌」

306:「特典」「マグカップ」「鳥肌」
07/11/16 16:20:36
出張で行った街で、見覚えのある男を見かけた。まさかと思って声をかけたら、やっぱりAだった。
「凄い偶然だな」と再会を喜んだが(A相手なら不思議じゃないか)と俺は思った。

大学の時、同じサークルだったAはやたらツキのある男だった。
二人でコンビニに買い物に行っって、会計を終えてお買い物特典のクジをどうぞと勧められると、
Aは「一等は何?マグカップ?いらねえから引かねえ」と言い出すのだ。「なんだよ、お前、一等
引く自信があるわけ?」「自信とかじゃねえよ。引くに決まってるだけだ」「じゃ、証明してみろ
よ」とクジを引かせると、確かに一等が当たる。一緒にいるとそんなことばかりだった。
「宝くじでも買えば一攫千金だな」俺が言うと、「賭け事はしないことに決めてる」とAは言った。
「親父は会社の同僚との付き合いで初めて買った宝くじで、一等前後賞合わせて7千万が当たった
数日後、通り魔に刺されて死んだ。爺さんは、初めて連れて行かれた競輪で230万車券の大穴が
当たったが、数日後に玄関でつまづいて転んで打ち所が悪くて死んだ」
「過ぎたツキは身を滅ぼすんだよ」と笑ったAの顔に寒気を感じたのを憶えている。

「実はな、クジを当てたんだ」一通り再会を喜んだ後、唐突にAは言った。
「ザ・ビッグってやつか?この水曜日に当選が決まったやつ。キャリーオーバー発生中で、最高額
の6億円」「家訓はどうしたんだよ?」と聞く俺に、Aは娘が病気なのだと言った。多臓器移植が
必要なのだが、子供の臓器移植は国内ではできない。海外に行って手術するのに大金が必要だと。
「女房は泣いて喜んだよ。『5億5千万も余っちゃうね』と泣き笑いしてたけど、どうせ俺は死ぬ
だろうからな。死んだ後に女房と娘が生活に困らないように国内最高額のクジにしたんだ」Aの笑
顔に、俺は鳥肌が立つのを感じた。

数日後、新聞がAの不運な死を報じた。
上空9000メートルを飛ぶ飛行機から整備不良のために落下したネジが、Aの頭を直撃したのだそうだ。

次は、「飛行機」「家訓」「大穴」で。

307:人形師 ◆wa1a4mh476
07/11/18 02:46:23
「で、あの男は始末できたのか?」
そう言ったのは、流行のスリーピースにボール帽をかぶった紳士風の男。
「始末シニ行カセタ四人、ヤラレテ帰ッテキタ。相手ハ三人、シカシ強イノハ一人」
と答える黒人は遥に大きく、その拳の一振りで紳士風の男を血みどろにも
できそうなのに、紳士風の男の前では完全に萎縮しているようだった。
そのとき、鳥眼鏡で顔を隠した令嬢が二人の従者(のちに機関車アックス、
毒鍋ライザと呼ばれることになる)を従えて、つかつかと部屋へ入ってきた。
「だ、だれだ貴様。どうやってここへ」紳士風の男の方が顔を上げて叫ぶ。
「・・・あたしの名はリース。皆さまの悪事、残らず聞かせてもらいましたわ」
「リ、リース?! 大英帝国を騒がせているという、あの英雄気取りの馬鹿女!」
「まあ失礼ね、レディに向かって。でも、一攫千金を夢見る貧しい人々を
 たぶらかした上、ボクシングの賭け試合で大穴を当てたキスリングさんを
 殺そうだなんて・・・もっと許せない。お亡くなりになられたヴィクトリア
 女王の名に誓って、このレディ・リースがお仕置きを致しますのっ!」
「まさかキスリングを助けた謎の三人組というのは・・・」
「そういうことね。ってギャァァァーッ!! あ・ん・た! ひとが話してる
 最中に襲わないでよ!」
「お嬢さま、襲われたときはもっと可憐にと申し上げたはず! あとで家訓を
 百遍復唱して頂きます」とはライザ。
リース嬢がいい気になって話しているうちに、紳士風の男は黒人に目配せして
彼女たちを始末するよう合図したのだ。アックスが気付いて間一髪リース嬢を
かばったものの、その黒人の足取りは軽快で蜘蛛のように素早く、少しでも
アックスが遅れていれば、彼の重い一撃によってリース嬢の華奢な首はへし
折られていただろう。
「お嬢、こげなクロ○ボ、わしが・・・」
そのときライザが鋭く声を上げた。
「お嬢さまっ、あの不細工が逃げますわ!」
リース嬢がアックスの下からのぞき見ると、ライザに不細工と断定された
紳士風の男が、窓を蹴破って一直線に走り去るのが見えた。その先には――

308:人形師 ◆wa1a4mh476
07/11/18 02:47:26
「飛行機?!! フランスで実用化されたという噂は本当だったの?!」
紳士風の男は右手で帽子を押さえながら疾走していたが、飛行機の前まで
たどり着くと、リース嬢の一行に向かって大声で叫んだ。
「ぶはははは! お前たちになぞ捕まるものかっ!! ロンドンのポリ公どもと
 一緒に地べたをはいつくばってろ低脳!」


次のお題「砂時計」「氷」「甘露」

309:「砂時計」「氷」「甘露」
07/11/18 16:18:01
その時、ある女は夕飯に何を作るかを考えるために冷蔵庫のドアを開けて中を眺めていた。
その時、ある男は高騰したガソリン代と燃費の悪さに悪態をつきながら ダッジバイパーのエン
ジンキーを回していた。
その時、ある女はダイエットのために半分食べ残したランチの皿をウエイトレスに下げてもらっ
ていた。
その時、ある男は暖房のきいた部屋でアイスクリームを食べていた。
その時、ある女は切れたタバコを買いに行くためにテレビもビデオも部屋の電気もつけたまま
で部屋を出ようとしていた。
その時、ある男はシャンパングラスを片手に次期大統領選挙のための根回しをしていた。
その時、ある女は化学物質の塊を塗りたくった顔で次の映画の宣伝をしていた。
その時、ある男は砂漠の村で銃を磨いていた。
その時、ある女は飢えて死んだ子供の亡骸を抱いて声を上げて泣いていた。
その時、過去最大の大きさになったオゾンホールはかつてなく美しいオーロラを躍らせていた。
その時、南極の巨大な氷の塊は上昇する気温に巨大な氷壁から引き剥がされて海に崩れ落
ちていた。

そこを越えてしまったら二度と戻ることの出来ない一線を、人間たちはそんな風に意識もせずに
あっさりと踏み越えた。

落ち始めた砂時計の砂は、下に落ちることしかできない。
急坂を転がり始めて勢いを増した泥団子は、坂の最後、平坦になった地面にぶつかって壊れ
るまで止まることはできない。
消費文化のもたらす甘露を存分に味わい恩恵を享受しまくった一部の人間も、そのために踏み
つけられてきた多くの人間も区別しない「やがて無慈悲にやってくる終わり」は、誰にも知ら
れることなく始まった。

次は、「ガソリン」「銃」「坂」で。

310:「ガソリン」「銃」「坂」
07/11/19 23:32:15
(大丈夫だ、今なら客もいない)

今朝、俺はコーヒーを飲みながらガソリン代高騰のニュースを見ていた。
(くそっ、また値上げしやがったか。おまけに俺の車燃費悪いからなあ)
これは痛い目に合わせるしかない。ガソリン強盗が増えれば、きっとガソリン代を高くしたことを反省して、また前の値段に戻すに違いない。
そう決心した俺は、深夜を待ち、24時間のガソリンスタンドの近くに車を停めて張り込んでいた。今ならい行ける。俺は去年海外旅行中に
砂漠の村で購入した銃を右のポケットにひそめ、ガソリンスタンドに車を入れた。とりあえずガソリンを満タンまで入れてもらう。10L…
…11L……どんどんガソリンが入っていく。満タンになったところで店員が近づいてきた。領収書を持っている。
「こんなにするはずないだろう?」
「それが、ガソリンがまた値上がりしまして。ほら看板にも書いてある」
そこで僕は銃をだした。脅してみる。
「お、お客様。銃は危険です!もし火花が散りでもしたら気化したガソリン
に引火しかねません!」
「知ったこっちゃない。どうせここで払うくらいなら死んだほうがましだ」
店員は少し悩んだ後、こう言った。
「わかりました。今回はタダでいいです」

帰り道、俺は今までにない興奮を味わっていた。喉が異常に乾いていたけど、そんなの関係ないくらい興奮していた。スピードを上げて急な坂を一気に上った。下り坂は思ったよりも緩やかだ。
(あとはこれを何回か続けて、値下がりするのを待つだけだな)
坂の直後が交差点になっているのが見えた。ひとまず興奮を抑えて、安全確認のため一時停止をした。
(これは犯罪なのか。いや、ただ値上がりに反抗しているだけだから大丈夫だよな。いいんだよなこれで)
ボンネットの前から黒い丸いものが出ていった。車の下を通って泥団子が俺を追い抜いていったのだ。泥団子は、坂の最後、平坦になった地面にぶつかってド派手に壊れた。

次は、「ワイン」「コカイン」「タンジェント」で。



311:310
07/11/19 23:36:30
あ、銃を出すとき一人称が僕になってしまいました^^;ごめんなさい;;

312:名無し物書き@推敲中?
07/11/20 08:48:45
「イタリアワインとコカインを一緒に飲むのが
最高の快楽だって言ってた作家がいた」
由美はコンビニで買ったサントリーのワインを
グラスに入れながらそう言う。
「好きな女と一緒に飲むワインが最高においしいって
言ってた作家がいるよ」
僕は読書好きのヒキコモリの由美に
村上龍の本を貸したのだが僕の知らないうちに他の小説も
自分でも図書館で借りて読んだらしい。部屋にカバーの
ついた本が置いてある。
「村上龍だろ?」
由美は微笑む。由美は精神病のヒキコモリで
ヒートの僕とクリスマスイブを過ごしてる。
「俺たち幸せかな?」
酔いは不思議な思い出を引き起こす。
高校の教師、教室の匂い、黒板の文字、タンジェント、サイン。

幸せかどうかなんてたぶんどうでもいいんだ。今の僕は。

次は、「焼酎」「デパス」「古文」で。

313:「焼酎」「デパス」「古文」
07/11/20 19:54:10
弱い暖房が効いた部屋。
皮張りのソファとガラスのローテーブル、コンポから流れるジャズが、精一杯の高級感を演出していた。
しかし嗜むのはブランデーではなく焼酎。
それもまた一興か。僕は呟いて一口呑む。
せめて電気の明度を落としてそれらしくしたいところだが、彼女の願いでそれは叶わなかった。
古文のテキストを片手に、テーブルの上のノートパソコンで彼女は調べものをしている。
自分が好きなこととなると、他のことはお構い無しになる彼女。
子供のように目を輝かせるその姿が微笑ましく、愛しく、嗜虐心を掻き立てられる。
眠剤代わりのデパスを片手に、僕は彼女に寄り添った。
ふと、僕の目に飛び込むパソコンの画面。
―思ふにはしのぶることぞ負けにける 逢ふにしかへばさもあらばあれ


次のお題「10円」「デポジット」「ポスト」でお願いします。


314:404
07/11/22 00:30:40
「もう、いいよ! そんなに文句言うんなら君達がやれよ!」
言うなり、委員長の松田は、四角くて真っ赤な、まるでポストのような顔を机に伏せ、
それなり動かなくなってしまった。みんな、伏せ目がちに視線を交わしあった。

 と、そこにバカの鈴木が帰ってきた。軽快なステップで教卓の前を横切って、己の股ぐらに
1メートルの竹定規を挟み
「アンニュ~イ、アンニュ~イ・・・」
下向きだった竹定規を上向きに立てて
「デポジット!デポジット!!!」
そんな事を何回も繰り返すものだから、みんな笑いだした。

 委員長も顔を伏せたまま、小刻みに震えだした。

315:404
07/11/22 00:37:41
次のお題
「傘」「灰」「平穏」

316:名無し物書き@推敲中?
07/11/23 22:05:28
「君の傘を貸してくれないか?」
バス停でバスを待つ僕のとなりに立っていた30歳くらいの男が
突然そう言った。」
「嫌ですよ。あなた返してくれるんですか?そのままでしょ。」
「君の傘を貸してはくれないか?」
「だから嫌ですよ。」
「これから僕の行こうとしているところは雨がひどくてね。
雨がやんでいる時などほとんどないんですよ。君達の住んでいる
ところとは違ってね。でも虹がとても綺麗で何十本もの虹が
いっぺんに出たりするんですよ。かえるがたくさんいてね。
虹がそんな風に出た時などは何百匹もいっぺんに現れるんですよ。
虹の下でいっせいに鳴きましてね。それがまるで美しい音楽のよう
に聞こえます。あじさいも何千本も咲いていましてね。赤いの白いの
青いのと様々です。そして何千匹のかたつむりが虹がたくさんかかった
時はやはり同じ様に現れます。そこは空気の色が違いましてね。
薄い青の空気が流れています。空は一面灰色の雲です。
平穏な場所なのでとても静かです。そこに住んでいる人達も
とても静かで丁寧に話します。
なんと言いますかね。なんだか少しだけ薄暗くて青くて静かな場所
ですね。雨がいつも降っていまして。」
「そうですか。」
僕はそっぽを向きながらその話を聞いていた。
話が終わったので振り向くとその男は消えていた。
そして手にしていたはずの傘も消えていた。






海      太陽         風          で。

317:「海」「太陽」「風」
07/11/25 01:08:36
夕暮れの海を、俺は綾香と二人で歩いていた。
砂浜に打ち寄せる波。綾香の長い髪を躍らせる風。
綾香は片手で髪を押さえながら、口を開いた。

「寒いよ。もう帰ろうよ」

太陽は垂れ込める厚い雲の向こう。
吹き付ける北風と、波うち際で泡立ち始めた波の花。
晩秋の日本海は、俺が考えていた以上にデートには向かなかったらしい。

ふと、手に冷たいものが触れた。
冷え切った綾香の手だった。
「手、温かいね」
俺の顔を覗き込んで笑う綾香。

いや、意外と、こういうのも悪くないか。

そう思いながら、俺は綾香の手を握り返した。


次は、「夕暮」「デート」「手」で。

318:「海」「太陽」「風」
07/11/25 01:30:01
女にとってはじめての横浜であった。
もう四月で、更に言えば快晴だと言うのに風が強い。風は女から体温を奪って行く。
念願かなって、一人ではあるが、ついに横浜を泊まりで観光することとなった。
田舎育ちのこの女は、ずっと横浜に憧れていた
東京の様なビルが立ち並ぶ賑やかな都会ではなく、今もなお明治辺りの雰囲気を残した横浜にだ。
すでに目当てのところは一通り見てしまった。
外国人墓地の、退廃的なあの雰囲気が今でも忘れられない。
赤レンガ倉庫のお店はもう少しゆっくり見て回りたかった。
女はそんなことをぼんやりと思っていた。今はなんとなしに、横浜の海を眺めている。
「もう少し、楽しい人生なら良かったのに」
赤い靴を履いていた女の子は誰に連れて行かれたんだっけ。異人さん?良い爺さん?
「私も連れて行って欲しいな」
女は海に身を投じた。
その後の女のことは誰も知らない。
空には太陽が、変わらず光を注いでいた。


次は「キャンディ」「チョコ」「依存」で


319:名無し物書き@推敲中?
07/11/25 01:30:43
しまったw
318はスルーでよろしくです。

320:404
07/11/28 01:01:15
「エンジントラブルにより、まもなくこの機は墜落します。
 しかし、あと4名だけ飛び降りてくだされば、他の全員は助かります」

 まずはアメリカ人の初老の夫婦が2人、手と手を握り合って、夕暮れ空を背景に落ちてった。

 次に、スペイン人の神父らしき人が、なにやらブツブツ唱えながら、落ちてった。

 最後に、初老の日本人が、イチャつく若いカップル二人をポイと放り出した。

321:404
07/11/28 01:03:35
次お題「風車」「トタン」「連続」

322:「風車」「トタン」「連続」
07/11/28 09:49:29
「おじいちゃん、あれ何?」
トタン屋根の農具小屋から鎌を取ってきた老人に、孫娘が聞いた。
ぶかぶかの白い軍手をした手が指差している先には、巨大な純白のプロペ
ラが起立していた。
「風力発電の風車だな。さあ、掘るぞ」
老人は鎌を使って畝にのたくる葉のついたツルをざっと刈り取り、「ツルの
根元にあるから掘ってみろ」と孫娘を促す。
最初は、指先でちょいちょいと土を掘っていた孫娘は、土の中に紫色のイ
モを見つけて歓声を上げた。「おじいちゃん、あったよ!」
最初に孫娘が見つけたのはひょろひょろの細長いイモだった。
「そんなブタの尻尾じゃ土産にならんなあ。もっと太ったのがいっぱいある
ぞ。ほらほら」
老人が良く肥えた柔らかく黒い土を掘り返すと、コロコロに太ったサツマ
イモが連続して出て来る。孫娘は目を輝かせて両手で土を掘り返し始めた。
老人は芋掘りを孫娘に任せて、一服するために畑の横に用意してある椅子
代わりの丸太の輪切りに腰をかけた。タバコにライターで火をつけて、ふと、
設置されて以来殆ど回っていない三本羽根の風車を見上げる。

この風車は、もう十何年も前に役場が業者の口車に乗って設置を検討し
始め、業者の調査報告を鵜呑みにして、業者に何億も払って「町に新しい
エネルギーを」と鳴り物入りで設置したものだ。
しかし、実際には吹く風の風力が足りず、台風でも直撃しないと回らない。
業者の提出した事前の風力調査の報告書が捏造されていたのだ。

「何が『新しいエネルギー』だ」老人は鼻で笑った。
「おじいちゃん、これならお土産になる?」
真っ黒に土で汚れた軍手で、ひときわ大きなイモを持ち上げて孫娘が言う。
「おお、立派なイモだ。ママもパパも喜ぶぞ」
老人の言葉に、孫娘が笑った。娘が子供の頃に見せたのとそっくりな笑顔
だった。

323:322
07/11/28 09:50:19
お次は318さんの「キャンディ」「チョコ」「依存」で。


324:「キャンディ」「チョコ」「依存」
07/11/28 11:56:22
たとえば、今こうしてバスを待って並んでいるときにも、禁煙と書かれたポス
ターを無視してタバコを吸い始めるスーツ姿のおじさんを見ると、ああ、依存
しているんだな、と他人事のように傍観してしまう。
僕は左手にはめた腕時計を見る。バス到着予定時刻まであと六分。 
僕の後ろに並んでいるおばさんがハンドバッグからキャンディを
取り出して舐め始める、この五分間でもう三個目だ。
僕は腕時計を見る。あと三分。
停留所のベンチに座っている女の子が、隣りに座る母親にチョコをねだってい
る。母親は膝に置いた買い物袋に手を添えながら、帰ってからね、と嗜める。
僕は腕時計を見る。あと一分。
携帯電話を睨んだままだった女子高生が、バスのブレーキの音に気付き、メー
ルを打つ手を止めて顔を上げた。低いエンジン音をうならせながら、バスが僕
たちの目の前に止まる。
僕は腕時計、ゼニスのエル・プリメロ44万円、を見る、恍惚と。


次は「サンダル」「ミネラルウォーター」「懺悔」でお願いします。

325:「サンダル」「ミネラルウォーター」「懺悔」
07/11/30 11:27:04
俺は小さな花束とミネラルウォーターのペットボトルを、ひしゃげたガードレール
の根元に置いた。
懺悔など意味は無い。俺が何をどう悔い改めようとアカネは帰ってこない。

「サンダルじゃないの、ミュールよ!」
新しく買ったサンダルを可愛いでしょと自慢したので褒めてやったら、そう言って唇を
尖らせたアカネ。
「車できてるんだから、飲んじゃ駄目だって」
俺の頼んだビールを取り上げようとするアカネ。
「絶対だよ、絶対代行呼ぶんだよ?約束だよ」
指切りしようと指を立てて言うアカネ。
「飲んでるんだから車を運転しちゃ駄目だって」
眉根を寄せて、心配そうに言うアカネ。
「もう知らない!私はタクシーで帰る!」
怒って、送ってやるという俺の手を振り切ったアカネ。

勝手にしろと自分の車で帰った俺は、飲酒検問に捕まることも無くアパートに着いた。
しかし、タクシーを拾って県道沿いの家に帰ろうとしたアカネは、県道を渡ろうと
ガードレールの切れ目で車の切れ目を待っていた時、ハンドル操作を誤って突っ込んで
きた車に跳ねられた。飲酒運転だった。

自慢していたサンダルが片方、ガードレールの脇に転がっていた。

俺が殺した。
そう思った。


次は、「花束」「ビール」「県道」で。

326:「花束」「ビール」「県道」
07/11/30 11:52:24
初投稿です。よろしくお願いします。


「もし俺が先に死んだら、仏壇に胡瓜の花をあげてくれ」

それが病床に臥したA男の最後の願いだった。
菊なんかの花束ならわかるけど、胡瓜の花っていったいどんなものなんだろう。
そもそもきゅうりに花なんて咲くのだろうか。

A男は半年前胸の痛みを感じ、心配で病院に行ったら
いきなり癌と診断された。もちろん本人は直接通知されたわけではなく後で母親から聞いた。
A男母親と僕は数年前からのっぴきならない関係になっていた。何だよ、のっぴきならないって?
ある日A男と渋谷に行こうと誘いに行ったが留守で変わりに母親が庭で小さな畑の手入れをしていた。
畑には胡瓜が植えられていたようで、大きく長く成長したものを鋏で採っていく。

「少しだけでいいからついでに手伝ってくれると助かるんだけど」

と母親は気軽に言ってきた。渋谷にどうしても行かなくてはならないこともなかったので、
A男が帰るまで手伝うことにした。夏の暑い日だったので一通り胡瓜の収穫を終えた後のビールは最高だった。
眩暈がして一瞬意識を失い、気がつくとA男の母親と寝ていた。お互い身体を重ねた縁側の向こうでは、
荷物を積んだトラックがひっきりなしに
走っていた。そこは県道66号線だった。


感想いただけますか?
そしてお次は同じく325さん発題の「花束」「ビール」「県道」で。

327:名無し物書き@推敲中?
07/12/02 03:22:59
「花束」「ビール」「県道」

「花束のプレゼントを贈るなんて……少しキザかな」
贈られた花束は真っ赤なカーネーション。
私より贈ってくれた彼の方が、なんだかそわそわと落ち着かなかったっけ。
今日は母の日じゃないわよって私が首を傾げたら、彼はちょっと困った顔をしてたわ。

県道沿いの喫茶店が私たちの待ち合わせ場所だった。
田舎の喫茶店だから、古くて全然オシャレじゃなかったけどコーヒーだけは美味しかったな。
彼ったら背筋をピンと伸ばしなかがら椅子に座っていて、人形みたいで可笑しかった。

「カーネーションの花言葉、知ってるかな」
普段はぼんやりして、花言葉なんて全然知らなさそうなのに、急に尋ねてきたのよ。
今はガーデニングもするから大好きだけど、当時の私は花に特別興味も無かったし、知らないって答えたわ。

「あなたを熱愛しますって言うんだよ」
そして、指輪をそっと差し出してくれたの。
ホント、嬉しかったわ。私、思わず感動して泣いちゃったもの。
だけどこれは後から聞いた話なんだけど……花も花言葉もお店の人が決めてくれたんですって。
せっかくだから、嘘を突き通してくれたらよかったのにね。

月日はあっという間に流れるものね。子供達も中学生と小学生になったのよ。
あんなにスマートだった彼も今はビール腹を突き出して枝豆を食べてるんだもの。
現実って厳しいものね。

「母さん、これ、プレゼント」
彼はそわそわしながら、突然、私に花束を手渡してきたの。もう何年もプレゼントなんて貰ってなかったのに……。
急にどうしたんだろうって、最初はビックリしたわ。でもね、その後すぐピンと来たの。最近、携帯ばかり気にするし、出張がとても多いんだもの。
私は庭に出て、まだ緑色のアジサイを出来るだけたくさん摘んだわ。
花言葉は浮気。彼にこのアジサイを投げつけたら、少しはすっきりするのかしらね。

次のお題は「台詞」「犬」「ポスト」

328:「台詞」「犬」「ポスト」
07/12/02 23:08:45

 チャイムが鳴ったのでのぞいてみれば、どこか落ちつきない犬が立っていた。
「犬の独立支援募金のお願いにまいりましたでござる」
 その犬がいうには、現在の犬の隷属制度から、犬権を確保し自立していきたいのだという。
「もともと犬という種族は封建社会に生きているのでござる」犬は呼吸を荒くしながら説明してきた。
「現在の浮草みたいな社会制度では、犬は犬らしく生きていけないのでござる。
いまこそ、犬は権利を主張し、犬の住み安い社会を構築していく必要があるのでござる」
「つまり、新党を立ち上げたのね」ぼくは欠伸を堪えながら相槌を打った。2時間しか寝ていなかったのに、朝っぱらから起こされたのだ。
「その通り」犬はぼくの手をとって熱くいった。「新しい日本を、社会のために作っていこうでござらぬか!」
「いや、ぼくは人間だもの。募金ならしてもいいけれど」ぼくは財布から100円玉をとりだして渡した。
「や! 感激! ありがたや!」犬は感動のあまり遠吠えをして、ぼくに名誉会員のワッペンをくれた。

 後日、犬独立運動の党から冊子が送られてきた。
 中には会報誌とアンケートが入っていた。今後の活動のために意見をいただきたいと書いてあった。
 差別からの脱却という政策はいいにしても、とぼくは書いた。
 あの侍の台詞みたいな口調では、現在の有権者の支持は得られないので、現代の日本語を覚えられてからにしてはいかがでしょうか。
 返信用の封筒があり、あとはポストに投函するだけなのだけれど、ぼくは腕組みしてしばらく考えて、そのまま黙って破って捨てた。

 つぎのお題は「馬油」「カーテン」「スパッツ」

329:「馬油」「カーテン」「スパッツ」
07/12/03 07:37:13
部屋干ししていた洗濯物をハンガーから外していく。
スパッツはまだちょっと湿っていたので、もっと干しておくことにした。
ふと、窓の方に目をやると、レースのカーテンの向こうには嫌になるほど
晴れ渡った春の空があった。

昔は、こんな日は気持ち良くお日様の下に洗濯物を干したんだけどな。
お日様で乾かした洗濯物の匂いを、良く乾いた綿のTシャツをお風呂上り
に着た時の何ともいえない気持ち良さを、私は何年味わっていないんだ
ろう?

窓の外を見ていたら何だか鼻がむずむずしてきて、私は綿棒と馬油の
ビンに手を伸ばした。ビンは殆ど空だけど、綿棒でこそげるとまだまだ十
分な量の馬油が取れた。馬油がついた綿棒を鼻の穴の中に突っ込んで、
鼻の内側に馬油を塗る。
鼻水対策にはこれが一番なのよね。
塗ってる姿を見られたら、百年の恋も冷めそうだけど。


ああ、花粉症なんてこの世からなくなってしまえば良いのに。


次は、「綿棒」「百年」「この世」で。

330:「綿棒」「百年」「この世」
07/12/03 12:26:50
美術大学創立百年祭。美大の女と言えば、全身を高級ブランドで固めた嫌味な女か、ひたすら課題
に打ち込む機能的スタイルの女。そんな女ばかりを見るにつけ俺は生きてゆくのが嫌になる。
だがその日に俺が出会った女は、そのどちらの属性にも当てはまらない奇妙な女だった。いかにも
古臭いデザインのスーツ。ざっくりと編み込まれた黒髪を纏めたシニョンと、髪型まで中
世の絵画から抜け出てきたような古臭さだ。が、その懐古的な様が逆に、この世のものとは思えな
い美しさを醸し出している。
「ここの初代学長って釘で耳を掻く癖があって、そこからばい菌が入って亡くなったのよ」
女は俯きながら微笑し、「その頃は綿棒なんてなかっただろうからなあ」と俺はショルダーバッグ
から綿棒を取り出し掲げて見せた。女といると不思議と懐かしい想いに満たされ笑みが零れてくる。
女は初めて見た物のように、瞳を輝かせると綿棒を手に取り、「これ、貰っていいかしら」と尋
ねた。俺は笑いながら頷いた。
女が立ち去るとき、「また会えるかな」と俺は思い切って尋ねてみた。
「あなたが長生きすればたぶん、ね」紅唇を綻ばせると女は去ってゆき、そのあと参加したセレモニ
ーの会場で、俺は不思議な懐かしさの正体に漸く気づいた。会場の舞台に初代学長の絵画、学長の隣に
は艶やかなシニョンの愛娘。入学式のときにも見た絵画だ。俺はあと百年生きてみたくなった。

331:名無し物書き@推敲中?
07/12/03 12:28:59
次は「冬枯れ」「木枯らし」「教会」で。

332:404
07/12/12 14:05:38
 病室の窓から見える、冬枯れの樹木と教会の尖塔。窓がガタガタ揺れている。
木枯らしかしら。

 私が全身火傷を負って病室に担ぎ込まれた日から、彼はあまり私に会ってくれ
なくなった。両親はと言えば、私が金髪でピアスで無職の彼と真剣に付き合いた
いと言い出した日に勘当されちゃって、今はもう余所の人。

 もう、駄目なのかな・・・・・・私なんて、もう誰にも必要とされていないじゃない。
彼も来ないし、両親も来ない。顔だって醜く焼けただれてしまった。こんなんじゃ
彼を幸せにできない。重荷になるだけ。ふられても仕方ない。もう嫌だ。これ以上
人に迷惑をかける前に・・・・・・。

「今までありがとう。さようなら」と彼にメールを送った。


 その日、彼は交通事故で死んだ。

 バイクで慌てて交差点に飛び出した時、トラックに撥ねられて死んだ。
誰かさんの治療費のために連日連夜バイトしてクタクタになった体なのに
無茶したせいで、死んだ。

333:404
07/12/12 14:07:48
次お題「連」「調和」「心」

334:名無し物書き@推敲中?
07/12/25 08:34:14
子供達が手と手を取り合い連なって草原で一つの大きな輪を作っている。
真っ青な空の下、子供達は無邪気に笑っている。
牧師はその輪から少し離れたところで草原に腰を下ろし微笑みながら
子供達を見つめている。
異界、そんな言葉が似合うような光景だった。
牧師は毎日午前中に自然との調和が目的というこの行為のために教会から
子供達を連れてこの場所にやって来る。
しなびた牧師の心を従順な子供達のエネルギーが何とか今日もつなぎ止める。




延髄    手首      夢            で。

335:名も無き冒険者 ◆bc3kq9Tcow
07/12/25 10:56:09
>>334

昨日の未明、交通事故の救急搬送で運び込まれた三十代男性の患者は、宿直医師の的確な措置により一命は取り留めたものの、
延髄の損傷による自発呼吸の停止がみられ、現在も集中治療室で植物状態になっていた。
担当は最近、この病院に入ってきた平岡という若い医師だったが、出血のひどい手首と大腿部の止血・縫合は完璧だった。
他院で脳死患者からの臓器移植に立ち会った事のある院長が、脳死判定に必要な炭酸ガス刺激を行おうと提案した時、
今津が炭酸ガス分圧のレベルを60mmhgから100mmhgまで試して見ようと言ったのは、さすがだと思った。
今津は大抵の医師が措置を諦める患者であっても、ぎりぎりまで治療を試みるタイプの医師だった。
彼の名字である今津は「忌まず」に通じると言って、年配の患者がありがたがるのも全く根拠の無い話ではないようだ。
今回もそのような今津の通じるかは定かではなかったが、日本で脳死判定の基準とされている60mmhgでは呼吸が見られなかった患者が、
70mmhgやそれ以上の濃度で自発呼吸が見られ、結果的に脳死ではない事が判明する症例は自分も知っていたため、彼の炭酸ガスの濃度を上げる意見については、賛成の意思を表明しておいた。

336:名も無き冒険者 ◆bc3kq9Tcow
07/12/25 10:58:16
脳死判定を行う事について、患者の家族の了承はすぐに取れた。
妻に子が一人という典型的な家族構成を持つ患者の家族が、判定の結果遺族と呼ぶ事になるのか、いずれにしてもあまりいい心持ちではなかった。
何年も植物状態の夫のために、安いとは言えない入院費用を負担し続けるよりは、かえって死んでしまっていた方がいいのではないか。
こういった植物状態の患者を見るたび、医師としてあらざるべきそんな疑問が、自分の中で沸き上がるのだ。
脳死判定は午後に行われた。
炭酸ガス刺激の最中に臓器や脳を傷める事がないよう、患者へ十分に酸素を吸わせた後、酸素のチューブが外され、
代わりに炭酸ガスのチューブが取り付けられた。
看護婦が脈拍や脳波といったバイタルをチェックし、異常のない事を伝える。
しばらくして、炭酸ガス分圧が基準となる60mmhgに達した。
自発呼吸はまだ見られない。
一度炭酸刺激を中断し、しばらく酸素を吸わせた後、もう一度炭酸ガスに切り替え、
次からは65、70と5mmhgきざみで濃度を上げていく。

337:名も無き冒険者 ◆bc3kq9Tcow
07/12/25 11:02:45
80に達した時、自分の気のせいか、患者のまぶたが微かに動いたような気がした。
「呼吸は?」
しかし、やはり自発呼吸は無く、バイタルも変化がみられないようだった。
患者を見守る医師達の表情が曇った。
「90まで上げてみましょう」
今津は暗たんたる面もちながらも、淡々と言った。
分圧を80まで上げた時、脳波が少し乱れた。
延髄は損傷しているものの、その上にある大脳まで機能を停止している訳ではないからだ。
「85にしてください」
そう言った瞬間、患者の胸が動いた。
今津を含め、医師達は目を見張った。
患者が自分で呼吸をしているのだ。
それからすぐに炭酸ガス吸入をやめ、酸素マスクを取り付けた。
「何はともあれ、生きていて良かった」
集中治療室を出るやいなや、院長はガーゼマスクを外し、安堵の表情を浮かべながらそう言った。
「時々目を動かしていますよ。レム睡眠のようですね。何の夢を見てるんでしょう」
やれやれ、これでまた患者の間で今津の株が上がるな。
自分はそう思いながら、そう院長に答えた。
そして、植物状態の患者を覚醒させる方法について書かれた論文をチェックするため、自分は院内にある書庫へ向かう事にした。

以上。

338:名も無き冒険者 ◆bc3kq9Tcow
07/12/25 11:12:47
次の題は「漢字」「三角形」「カレンダー」だな。

で、ちょっと他板で書いてる文章の感想をもらいたいんだが、読んだらどうかスレ内に批評をレスしてくれないか。
第二章は時間に追われて書いたせいか、少々描写不足が否めないが、まあまあだろうと思っている。

ぴんく難民板
URLリンク(sakura02.bbspink.com)
「ドキッ!女だらけの海賊団」スレ
スレリンク(pinknanmin板)


339:名も無き冒険者 ◆bc3kq9Tcow
07/12/25 11:56:51
とは言え、自分だけ感想を求めるのもアレだから、このスレにレスされてる文章を批評してみる。

>>316
短編として完結しているな。
文句の付けようもない。
>>317
文章はまあまあだが、内容がありきたり過ぎて新鮮味がない。
>>318
内容も文章もまあまあ。
特に問題はないな。
>>320
ワロス。
短過ぎるが面白い。
>>322
なかなかだな。
俺の路線と少々似ているようだ。
>>324
赤川次郎的な雰囲気がするな。
まあまあ面白い。
>>325
文章が軽薄過ぎる上に内容も平凡だな。
>>326
純文学的な匂いがするな。
まあまあ文学的だ。

340:名無し物書き@推敲中?
07/12/25 12:03:41
>>327
>>324に同じ。
>>328
面白い短編だな。
ソフトバンクのCMを思い出した。
>>329
汚い。
それだけは回避すべきだろ。
>>330
スプリガンのアーカム会(ry
MMO板でも話題に出たが、随分人気のキャラなんだな、あれ。
>>332
内容はガクブルだが平凡過ぎる。
文章はやや難がある。
>>334
題を消化しただけなんじゃないか。
平凡以下。

ここまでだな。

341:名無し物書き@推敲中?
07/12/25 19:22:55
ageておく。

342:名無し物書き@推敲中?
07/12/25 20:00:17
>338
 いつからか私は手帳のカレンダーに記号を書くようになった。素晴らしい日には二重丸。良かった日には丸を。可もなく不可もない日には三角を。悪かった日にはバツを。
几帳面でない私が、髪を三つ編みにしていた頃から、唯一今も続けていることだ。結婚して娘が出来た今でも変わらない。
 だけど主婦になった、私の手帳には三角ばかりが並ぶ。掃除も洗濯も終わりがない。毎日部屋には埃が、洗濯機には洗い物がたまっていく。
 時々、そんな繰り返しが嫌になる。
 「ただいまぁ」
 娘が狭いマンションには大き過ぎる声で、叫んだ。
 「おかえり」と私はリビングのドアを開けて、玄関へ娘を出迎えた。
 「ママー、見て!!漢字テスト!!」
 娘は靴も脱がずに、ランドセルを下ろすと、中を開けて解答用紙を満面の笑みで取り出した。点数は80点。私に似てケアレスミスが多い娘にしては偉業だ。
 「あら、良かったじゃない」
 「うん。そうでしょ?先生もあたしががんばったからオマケしてくれたの。『羊』の字を半分の『半』って間違えちゃったんだけど
惜しいからバツじゃなくて三角をもらったの。これでギリギリ80点!!」
 見てみると、テストには三角の隣にプラス1点と書かれている。
 「そうよね、三角だってプラスじゃない」
 私は自分に言い聞かすように呟いた。
 ずっと、三角じゃダメなんて思っていたけど、違うのね。ちゃんと、ちゃんとプラスがあるじゃない。
 こうして家の子だって他の子より時間がかかったけど80点を取れたみたいに。
 私は三角ばかりの手帳を少し誇りに思えた。


おわり

343:名無し物書き@推敲中?
07/12/25 20:12:51
>342
次のお題を書くのを忘れた。
「汽車」「窓ガラス」「ヘルメット」

344:名も無き冒険者 ◆bc3kq9Tcow
07/12/25 21:25:32
>>343

文章はまあまあだな。
「汽車」「窓ガラス」「ヘルメット」か。
貴社の記者が汽車で帰社した、なんていう文があるが、汽車がネックだな。


気が付くと、私は見知らぬ駅にいた。
どこか知らない、来た事もない田舎の駅だった。
空は良く晴れていて、全天には青空が広がっている。
辺りを見回したが、荒れ果てたホームには自分の他に誰もいないようだ。
ホームの屋根を支える柱につけられている板や、駅から線路を挟んだ向こうに立てられている看板から駅名を読み取ろうとした。
しかし、どれも見事に茶色に錆びついていて塗料が剥がれ落ち、判読する事はできなかった。
自分はここへ来る前に何をしていただろうか。
ふと、記憶を掘り返してみた。
確か今日は配達ピザの深夜勤務で、顧客の住所に向かうために店の三輪スクーターを運転していたはずだ。
屋根のついたスクーターに跨がる時、きつめに締めたヘルメットのあご紐の感触が今でも思い出せる。
私はするりと首のあたりを撫でてみた。
一体全体、私はどうしてこんな場所にいるのか。

345:名も無き冒険者 ◆bc3kq9Tcow
07/12/25 21:49:10
そこまで考えた時、私は衝撃と共にある事実に気付いた。
それは、スクーターを走らせて、顧客から聞いた住所のある辺りまで来た時の事だった。
片側二車線の広い道路だからと油断して、交差点に差し掛かった時、信号が黄色に点滅していたのにも関わらず減速せずに突っ切ったのが事の始まりだった。
いや、今思い起こしてみると、交差している道路の信号は一時停止を示す赤の点滅だったため、アクセルを吹かしてさえいたかもしれない。
そこへあの車が、音も無く交差している車線の左側から飛び出して来たのだった。
黒く車高の低いスポーツカーのような形の車で、車体の前面には暴走族やトラックがつけるような色とりどりの妙な電飾をつけていた。
相手の車の窓ガラスにはスモークがかかっており、こちらが見えていないようだった。
それからは、あっと言う間だった。
疾走していたスクーターは、相手の車のボディーをへこませる重々しい音を立てて、ウィンカーランプの辺りに激突した。
私の身体は衝撃で前のめりに投げ出されて、スクーターの前面にある樹脂製のフロントガラスを突き破り、宙を飛だ。


346:名も無き冒険者 ◆bc3kq9Tcow
07/12/25 22:15:35
飛んでいる身体が重力によって少しずつ弧を描き、地面へ吸い寄せられている最中も、私には周りの光景が見えていた。
ヘルメットが固いアスファルトに当たって削れる音がし、それからの記憶はなかった。
突然、ボシュッという何かが吹き出すような、聞き慣れない音が耳に入った。
良く注意して聞いてみると、ボシュッ、ボシュッと連続しているようだ。
彩度の一切ない、黒くくすんだ汽車が線路の向こうに見えた時、私はここがどこなのかを悟った。
汽車はゆっくりと減速しながら、ホームへとやって来た。
私はどこか遠くへ逃げ出したかったが、恐怖で身が凍りつき、足が上手く動かなかった。
それから支離滅裂に叫びながら、私は駅の改札へと走った。
途中、改札口にある鎖に足をとられて転んだが、したたかに打った膝の激痛にかまわず起き上がり、駅を出た。
駅舎から花畑の中を伸びる一本の道を、どこまでも走った。
しばらくすると呼吸が苦しくなり、私はついに倒れた。
倒れたまま、私は何度も息を吸った。
もう大丈夫だ、という不思議な感覚が、私の中に沸き上がり、そのまま私は道端で休む事にした。
ここには、死の不安は無かった。

以上。
最初は刑事物っぽいのを考えたが、今日書いた脳死判定と絡めた方が楽な事に気付いた。

347:名も無き冒険者 ◆bc3kq9Tcow
07/12/25 22:20:38
次の題は「ひまわり」「コンビニ」「縄文土器」で頼む。
なにより、ぴんく難民板のスレへの感想が欲しいな。

348:名無し物書き@推敲中?
07/12/25 22:44:31
感想と雑談は感想スレへ

この三語で書け! 即興文スレ 感想文集第12巻
スレリンク(bun板)

>>1
> お約束
> 3: 文章は5行以上15行以下を目安に。
まあ目安だけどな

349:名無し物書き@推敲中?
07/12/27 12:37:03
ひまわりの種を握り締めて、あの子は私に質問した。
「ねぇ、コレを植えたらどんな花が咲くの?」
私は思わず言葉が詰まった。どう説明すればこの子は理解できるだろうか。
悩んだ私は、この子を連れてコンビニへと向かった。
土と肥料と水とこの子が欲求したチョコレートを購入した。
私の家へ着くと、ベンチに座らせて先ほどコンビニで買ったチョコレートを与えた。
この子がそれを頬張っている間に私は、倉庫から種を植える容器を取り出した。
ベンチに座るその子の横に置くと、不思議な顔で何を置いたのか問いてきた。
「これは、縄文土器と言う古代の植木鉢だよ」と、その子に触らせ説明した。
初めて触るその凸凹の表面に思わず声を上げて面白がる。それを見て私も微笑む。
やがて、チョコを食べ終え口をチョコだか泥だかで分からなくなったのを気にせず私の手伝いをする。
縄文土器に土と肥料を入れ、ひまわりの種を埋める。そして、少量の水を与えた。
「それで、お父さん。この種はどんな花が咲くの?」
「今のお前の様な花が咲くさ」目の見えない息子は、私の言葉を理解したのか泥のついた手で喜びの拍手をした。

350:名無し物書き@推敲中?
07/12/28 14:41:29
次の御題は??

351:名無し物書き@推敲中?
07/12/30 15:07:39
>>1

5: お題が複数でた場合は先の投稿を優先。前投稿にお題がないときはお題継続。


352:名無し物書き@推敲中?
08/01/11 10:48:08
だれか頼む…2008年最初の名作を!

353:名無し物書き@推敲中?
08/01/11 12:11:09
縄文土器とコンビニという時代を超越したお題が、歴戦の即興erの指を鈍らせる

354:書いてた人いたらゴメン
08/01/11 14:26:21
 コンビニのバイトを始めて今日で一週間目だ。やっと着慣れてきた制服に身を包み、レジの前に立った矢先に、お客がやってきた。
「あの~、この店に縄文土器って売ってますか?」
「は・そんなのモノ置いてませんけど」と、内心コイツは池沼かよ、と俺は思いながら一応真顔になって答えた。
「おかしいなあ、確かここに置いてあるって聞いてきたんだけどな」男は諦めきれないという顔で辺りを見回した。
すると、カウンターの奥から店長が血相を変えて飛んできた。
「すみませんね、お客さん、こいつ新入りなもので、へへへ。縄文土器でしたよね、確かにございますですよ」
 店長がカウンターの下から縄文土器を取りだし男に見せた。日本史の教科書で見た記憶のある、前衛芸術家が造った植木鉢のような物体を目の当たりにして、私は大いに驚いた。
「これでよろしいでしょうか」
「うん、これ、これ。ウチで飼ってるヒマワリを植え替えようと思ってたところなんだよね」男は目を細めて笑った。
な、何言ってるのだ、正月早々、こいつは?
「お客さん? あんた、いまヒマワリって言ったよね?」店長が血相を変えて男を睨んだ。そうだよね、店長だって、おかしいと思うよな。
「え、言ったけど、それが何か?」男は半歩後に下がり、すでに店から逃げだだんばかりだった。
「そんな目的じゃ売れないよ、こいつはね、朝顔専用なんだよ。帰ってくんな」店長は縄文土器を両腕に抱え込み、語気を強めた。
店長の言葉が終わるより早く、男は店から姿を消えていた。私が呆然としていると店長は土器をカウンターの下にしまい、何事もなかったかのように奥へと引っ込んでしまった。
私は訳がわからず、ふと思い出したようにカウンターの下を覗き込んだ。
棚の上には客の立ち読みで売り物にならなくなった雑誌がぽつんと置かれているだけだった。

次のお題は、「肉まん」「引っ越し」「選挙」で、どう?


355:選挙 引っ越し 肉まん
08/01/22 11:27:50
 新しい部室に引っ越してからも、活動の内容は以前と全く変わりはなかった。ゲーム、漫画、雑談、それらが日常になりすぎて、ときたまここが本来何部だったかも忘れるほどだ、
「したがって、彼らにも選挙権があるはずだ!!」
始まった、Yの演説だ。
 Yは変わっていて、本来の部活動をやらないという点では他の部員と変わりはないのだが、たまにこのような演説を披露する事がある。完全な自己満足なので他の部員が聴いていようがいまいが関係ない。
 Yのこういう考え方が好きな僕は、ときどき耳を傾けることがある。ただ今日の演説の内容は些か説得力と面白みに欠けている。
僕はさっきコンビニで買った肉まんの最後の一口を食べ終えるとYに提案した。
「Y先生、今日はここまでにして次は女性の生態について知識を深めるのはどうでしょうか」
「よろしい。」
演説を中断されたのに少しだけムっとしたが、先生と呼ばれたことに気を良くしたYは鞄のなかからDVDを取り出した。
下らない毎日、ただ意味もなくすり減らす毎日、だけど僕はこの糞みたいな日々を忘れないだろう。


356:名無し物書き@推敲中?
08/01/22 11:34:37
あ、スンマセンお題忘れてた。次のお題は

「青い鳥」「冬眠装置」「コントラスト」
でお願いします。

357:名無し物書き@推敲中?
08/01/22 15:18:26
『我々は滅びるだろう。
 しかし、もし神の気まぐれで生き残ることを許された人々がいるのであれば、
 我々は彼らに小さな幸せを運びたいと思う。
 最後の冬眠装置には、青い鳥を入れることが決まった。
 願わくば、人類の未来に幸あらんことを』

カプセルの蓋を開けると、そんな音声と共に一羽の小鳥が飛び立っていった。
青い鳥だ。
空の色とのコントラストが、眼に痛いほど鮮やかだった。
「なんて不吉な」
私は複眼を閉じて頭を振る。視神経に不吉な青の色が焼き付いてしまっていた。
「まったく、美を理解しない生物など滅びて当然だ……」

澄み渡った空の下を、一羽の青い鳥がどこまでも高く羽ばたいていく。
そして、赤い空の色の中に、溶け込んでいった。


お次は、「スリングショット」「花束」「共感」で。

358:名無し物書き@推敲中?
08/01/22 21:23:43
もし僕が天使なら見えないスリングショットに
花束を込め彼女に向けて放つだろう。
彼女は大学のカフェテリア、午後の日差しが
美しいテーブルに血を流して倒れるに違いない。
学友達が取り囲む。何が起こったのかと。
彼女はどうしたのかと。
その時、僕はそっとそばにより彼女に刺さった
棘を抜けば彼女は目を覚ますに違いない。
「あなたは誰?」

いいや、僕は首を振る。
こんなのフェアじゃない共感が得られることじゃない。
そして見えないスリングショットを空に捨て
いつか彼女に相応しい男になって彼女の前に現れるよう努力する。

そう青春の時だ。


「白雪姫」「知らんがな」「新聞社」

359:晴田雷稲 ◆/QeJSIyurw
08/01/22 22:48:46
 森はだんだん暗くなってきた。踏みしめる落ち葉の音も湿ったものにかわる。
カリウドは肩越しに目をやり息を飲んだ。ついてくる七歳の子供の周りだけが
白く輝いている。カリウドは足を止め体ごと振り返った。子供はカリウドを見
上げ、どうしたの? と聞いてくる。顔を見つめると白い光がゆっくりと消え、
白い肌と赤い頬、そしてつややかな黒髪の白雪姫がカリウドの瞳を占める。
カリウドは目をつぶる。狩に使う刀に手をやり、とまってしまう。
「知らんがな」
 ようやく言葉をしぼりだしつぶやく。瞑目のままゆっくり、鞘ずれの音を聞
きながら刀を抜く。目を開ける。白雪姫はおびえていた。余計なことを聞いて
ごめんなさいといった。
「いや、違うんです。お姫様」
 そういって切っ先を白い喉に向けると、白雪姫にはもうなにもかもわかった
ようだった。城にはもう帰らないから助けてくれと泣いた。刀を持つ右手を白
雪姫の両手が包んだとき、カリウドは自分がぶるぶると震えていることに気づ
いた。はっとして白雪姫の喉もとから刀を離した。すると白雪姫はありがとう
といいながら、森の奥へと足音もなく消えていった。
カリウドは、あしたのグリム新聞社のヘッドラインは王女失踪になるだろうか
と考えながら腰が抜けて座り込んでしまった。

「だいだらぼっち」「波」「ミネラル」

360:だいだらぼっち 波 ミネラル
08/01/23 11:53:47
ペットボトルが地面に落ち、ミネラルウォーターが無重力状態で放たれたように飛散した。男は落としたものを気にもせず、ただ見上げていた、彼だけではない、周囲にいたほとんどの者、いや、世界中が、真っ昼間の空に突然現れた「それ」をただ呆然と眺めていた。
「だいだらぼっち…」
彼は昔祖父から聞いた妖怪の話を思い出していた。しかし今頭上をゆっくりと漂っている「それ」はそんな架空の妖怪よりはるかに巨大だった。
「それ」は液体のようであり個体のようでありピンクでもあり緑でもあった。ある者は神だといい、ある者は悪魔だといった。見る者によって変わるらしい。
「ただ共通していることがあります」
電気屋のテレビのニュース中継が「それ」についてまくし立てる。
「あの巨大な物体が通過した後には生物が消えるということ、次第に大きさを増していること、そして…」
中継は途切れた。自衛隊や軍は必死に抵抗したが一切の攻撃が効かず、核さえも取り込まれた。人々は諦め「それ」と一つになることを望みはじめた。そして「それ」の何周目かの巡回の後、地球から生物は消えた。「それ」はゆっくりと深呼吸して、宇宙の波を泳いでいった。

361:名無し物書き@推敲中?
08/01/23 12:08:58
またお題忘れた。

「夕焼け」「踏切」「転校」

362:名無し物書き@推敲中?
08/01/25 22:02:00
僕は、かれこれ20分もこうして上がっては下がる遮断機の前で
駅から吐き出され家路に着く人並みの中、道路の端で立ち尽くして
決断するかしないか決めかねていた。
「君さあ自殺するつもりなんだろ?おいらはずっと君を見てたんだよ。」
僕が驚いて少年の顔をまじまじと良く見ると少年は微笑みながら
分かってるんだよというようにうなずいた。
少年の背中には二つの大きな翼が見え、僕と目が合うと
翼を羽ばたかせ空に飛び上がる前のヘリコプターのように
徐々にランプの上に浮かび始め宙で静止した。
「おいらのことが怖いかい?自殺する人間は怖いものなんてないかな?
おいらが自殺するときは何も感じなくなっていたけど君も同じかい?」
少年の顔から微笑が消えた。
「おいらもここで自殺したんだよ。君が生まれた頃だよ。
何も楽しいことなんてなくてさ。唯一、自殺が救いだった」
電車がやって来て少年が話すのをやめると大きな金属音と空気を切る音と共に
目の前を通り過ぎた。見慣れた電車の色だ。憂鬱なその色。
 「自殺はね駄目だよ。君は友達がいないんだろ?
誰にも相談できないし相談しても意味が無いと思ってる。違うかい?」
遮断機が上がると少年は消え僕は世界に引き戻された。
町を夕焼けが染めてるのに気づいたのはそんな時だ。


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