07/10/03 03:14:26
人生とはなんて空しい物なのだろう。
ある一定の時期を越えれば、待っているのはまるで変化のない単調な毎日。
つまらない紙切れと向かい合って、何も疑うことなくその時間が来るまで仕事をする。
その後は取り付かれたように酒や異性に快楽を求めてさまようばかり。
主婦にとってもそれは同じで、毎朝同じ時間に同じことをして、少ないお金をやりくりして献立を考える。
少しでも安く買うためにチラシと向かい合って、スーパーマーケットで小太りのおばさん連中と競うかの如くプラスティック製のかごに食べ物を放り込む。
気づけば旦那は年を取り、自分も年を取っている。
旦那は帰っては愚痴を吐くばかりで、たまに愚痴をこぼすと不機嫌になる。
鏡の中には世界を敵に回し、世界一不幸で、世界一やつれた顔をしたおばさんがいる。
どんどん記憶は曖昧になっていくし、ただ過ごすだけの毎日だってやり過ごせなくなってきている。
人生はなんて空しい物なのだろう。
ある時期を過ぎれば、色を落とし世界も止まり音も途絶える。単調でつまらない生活が待っているのだ。
まるで生け花の剣山のようだ。
麗しい花を生けるそのときが絶頂であって、一度その針の山すべてが埋まってしまえば、あとは何かを得るにはその花を落とさなければならない。
あとは枯れて朽ちるのを待つだけ。美しさを保つ術は無いのだ。
人生とはなんと儚いものなのだろうか。
「利口な」「鍵」「はじく」
226:名無し物書き@推敲中?
07/10/03 05:11:48
私は今ある建物の入り口の前に立っている。
この手に鍵を握りしめて。
私の体には無数の傷が刻みこまれているし左手は肩までしか上がらないし
もう速く歩くこともできない。
だが今私の手の中には鍵がある。それで十分なのだ。
力のない者ははじくというこの建物。
利口な彼等は塀をよじ登ってもう中に入ってしまった。
この建物にはどうやって入っても自由なのだ。
彼等は私を冷笑しあるいは罵声を浴びせまたあるいは私に気をとられながら
行ってしまった。
もうすでに彼等のうちの何人かの悲鳴が聞こえてきた。
ちょうど今私のように体に無数の傷を持ち左足をひきずった男が
やって来た。
私の持っているものとはずいぶん違うが彼もまた鍵を握りしめていた。
ここにやって来たが鍵を手にするために引き返した者もいる。
建物には入らず塀のそばで話し続けている者達もいる。
私は鍵穴に鍵を入れゆっくりとドアを開けた。
塀のそばで話し続けている者達の会話が一瞬止まった。
私は数秒間彼等と見つめ合った。
そしてこの未知の建物の中へと進んだ。
227:名無し物書き@推敲中?
07/10/03 05:16:44
かえる 幽霊 舌 で。
228:名無し物書き@推敲中?
07/10/03 06:20:56
かえるというニックネームの石橋純子という名前の女の子がいました。
彼女は不幸にも小学五年生で白血病のために亡くなり初潮もまだなのに
幽霊になるしかなかったのですが彼女が死んだ本当の理由はおぞましく
彼女を父親が性的虐待して舌を噛み切って死んだというのがほんとうの
理由なのですがおぞましいこのほんとうの理由は封印されたのでした。
次のお題は疑惑と衝撃と絆の3語でお願いしたいのでよろしく願います。
229:名無し物書き@推敲中?
07/10/03 12:52:01
かえるというニックネームの石橋純子という名前の女の子は不幸にも小学五年生で白血病を患ったため亡くなりましたが、彼女は世間を騒がしたゴシックの女王だったのです。
かえるが衝撃のデビューを飾ったのは三歳の頃、子供雑誌の表紙ででした。
類い希なるその高身長を生かし、小学生が着るような服を見事着こなし、世の女学生を嫉妬させたのでした。
これからのファッション界から有望視される彼女は、同時に嫌われていました。
学校で付き合っていた石岡浩二(9)との関係を取りざたされたのです。
彼女は激怒しました。こんなプライベートなことにまで踏み込まれるなんて、こうちんが可哀想だ!とゴシックになれていた彼女でさえ正気を失いました。
出版社に単身乗り込み、編集部を壊滅状態まで追い込み、編集長を全治5日、周りの人間をすべて鼻血・青あざ・打撲・ねんざとそれぞれ負傷させました。
意気揚々と晴れ晴れとした顔で出版社を出たかえるでしたが、不幸はそこから始まったのです。
彼女が亡くなった後もゴシックは絶えず、依然死因について語られてきました。
公には病死となっているのですが、一部機関からはファッション界から抹消されたという疑惑が立っているのです。
出版社に乗り込んだ際、たまたま居合わせたファッション界のドン・小澤氏に鼻血をプレゼントしたのが原因で、消されたということでした。
とうの小澤氏は「彼女とは旧知の仲で親睦があり絆で結ばれていた。私がそんなことをするわけがない」と彼女の死を嘆いていましたが、顔は相当にやけていたと言われています。
情報が錯綜する現代では、ちょっとしたことがすぐニュースになる
だけどその事件や事故の真相を、鵜呑みにしていては事実は見えてこない。
かえるは私たちに、そのことを教えてくれたのでしょう。
次のお題は困惑と恥じらいと生涯の3語でお願いしたいのでよろしくお願いします。
230:名無し物書き@推敲中?
07/10/03 22:40:35
男達は困惑した。
舞台の上のストリッパー、あのストリップの女王リリカの様子がおかしいのだ。
いつもは大きく開げられるあの足も今夜はほとんど開こうとしない。
あのいつものダイナミックな動きは見られず控えめでさえある。
あの女王リリカが顔を赤面させているのだ。
恥じらいというものとは対極の存在であるはずの彼女が今夜それを見せている。
彼女がとうの昔に捨ててしまったはずの感情が今夜彼女の中に舞い戻って来たのだ。
注意深く彼女を見るとショウをしながらも彼女の瞳の視線は一点に注がれている。
そしてその視線と結びつくもう一つの視線が観客の中から彼女に向けられていた。
彼女がまだこの大都会にでて来る前、まだ一人の田舎娘だった頃
彼女が愛した男、生涯で唯一愛することのできた男しん太だ。
しん太は泣いていた。リリカの瞳からも涙が流れていた。
二人を引き裂いた残酷な運命が今夜気まぐれに再び二人を引き合わせた。
もう過ぎてしまった時間が二人に重くのしかかった。
やり直すことはもう叶わない過去。まだ愛の重さを知らなかった頃の二人。
愛を守り通すことが叶わなかった二人。
しん太の目からとめどなく流れ続ける涙が、リリカの瞳からも止まることのない涙が
二人の失ったものの大きさを物語っていた。
観客のざわめきの中ショウは終わった。
楽屋に戻ったリリカは煙草を一本吸った。もう涙は止まっていた。
しん太は人混みにまぎれ劇場を出て行こうとしていた。リリカは楽屋を飛び出し走り出した。
人混みをかき分けた。しん太を探した。リリカは走り続けた。
そしてあの見覚えのあるうつむき加減のうしろ姿を見つけた。
リリカはしん太の腕を掴んだ。
力の限り掴んだ。
もう運命などに負けはしないと誓った。
もうしん太から離れはしないと誓った。
231:名無し物書き@推敲中?
07/10/03 22:46:13
包丁 にわとり 血 で。
232:404
07/10/04 00:09:31
お父さんが市場からニワトリを買ってきました。
「明日のクリスマスにみんなで食おう」
明日の昼、父は嫌がる僕を無理に連れてきて、ニワトリを殺すように言いました。
御勝手から包丁を持ってきて、それで首を斬ろうとしましたが、なかなか思い切れず、
いたずらに血が噴き出すばかりでした。そんな僕を見て、父はたいへん怒りました。
「それじゃあニワトリが苦しんで可哀想じゃないか。一思いに殺してあげるのが
優しさなのだ。」
そういって父は、ニワトリの首を一息に締め上げてしまいました。
今では、とても良い父だったと思っています。
233:404
07/10/04 00:14:09
あぁ、もうコテ化しよっと。自分の作品が目立ちそうな気がして気持ち良いしね。
我輩のコテは404だ。このスレが400台まで伸びない事を祈りおく。
次お題「カエデ」「雨だれ」「影」
234:名無し物書き@推敲中?
07/10/04 03:28:36
むさ苦しいだけの夏が終わり楓が色づき始めた頃、僕は恋をした。
秋のすがすがしい風になでられても、彼女の前では僕の頬は紅葉のように赤みを帯びたままだった。
同じように彼女の頬も赤いように感じたけど、僕はずっと夕日のせいだと思っていた。
庭の金木犀が香りを強めた頃、彼女は僕の家の前で待っていた。
いつもは自転車で通る道を、甘い香りをまとった彼女とゆっくり歩いた。
秋の低い太陽は僕たちに影を落とした。一台の自転車と、二人の人影。
まるでサーカスの曲芸師のように、二人乗りをしているようだった。
冬が来て葉が落ちて、春が来て花が咲いた。
僕たちは別の道を歩くことになった。なんてことはない、今までとなにも変わらないのだから、嘆くことはない。
半年前に戻るだけなのだから、何も悲しいはずはなかった。
だけど香りが記憶を呼び起こす。
梅雨の強い雨に落とされた金木犀の花を眺め、雨だれに紛れ泣いた。
「ふしだら」「冗談」「なでる」
235:名無し物書き@推敲中?
07/10/04 07:49:21
ふしだらな女?冗談じゃないわ。髪をなでながら直子はハゲの男に激怒した。
必ずこのハゲから妹の弘子を取り返さなければならないと強い意志で包んだ。
こんなハゲにはまった弘子がバカだと言われればそれまでだがこんなハゲでも
弘子に女の子を産ませた張本人であることには違いないと強い意志で包んだ。
次のお題はあんたにちなんでハゲ必ず死ねの三語と直子は捨て台詞を吐いた。
236:名無し物書き@推敲中?
07/10/04 08:13:21
悲しくはない。寂しくはない。横でスースーと寝息をたてているこの
ふしだらな彼女を見て僕は思った。
昨夜ずいぶん彼女と色々な話をした。彼女は何度もケタケタと大声で笑った。
僕もずいぶん笑った。僕の手は彼女の手に強く握られていた。
昨夜あれほど冗談を言い合ったというのに今彼女の目からは
涙が流れている。
彼女を苦しめているものが何なのか僕にはわからない。
ただ彼女が必死で何かに抵抗しているのだということを僕は感じる。
小刻みに震える彼女の体がもうすでに彼女の心に無数に刻み込まれてしまった
傷を僕に理解させる。
その傷を手当するように今だけは彼女のその必死の抵抗を休ませるように
僕は彼女の髪をなでる。
237:名無し物書き@推敲中?
07/10/04 08:16:27
櫛 鏡 口紅 で。
238:名無し物書き@推敲中?
07/10/04 08:22:00
「数字が入ることわざ」「滝川クリステル」「いわし雲」
239:404
07/10/05 16:58:27
「おまえ、このコオトはなんだい?」我輩、近頃、全く相手にしてくれない妻を問い詰めた。
「さあねー」鏡の前でのん気に髪など櫛けずっている。こちらに顔を向ける気配すら見えない。
「これはどうみたって男物のコオトじゃないか。それに近頃、随分と身の回りの品に金を使って
いるみたいだね」妻はしばらく押し黙ったが、ふいに口を開いた。
「あぁ、もううるさいわ。口紅が上手く濡れないじゃないの。邪魔なのよ」
ああ、もう、こいつとは上手くやってゆかれない。亭主に向かってうるさいだなんて、そんな
悪女とは上手くやってゆける筈も無い。
我輩、無性に悲しくなって、必死に涙をこらえながらも旅支度した。ペットのゴン太を
外出用のケエジに移し変え、わずかな着替えの鞄と共に停車場へ向かった。
ちょうど熱海行きの列車があった。小奇麗な婦人に席を詰めてもらい、我輩そこに腰掛けた。
しかしその婦人、ゴン太のケエジを覗き見て、きゃっと悲鳴をあげた。
あっという間に車掌や駅員が集まりて、我輩、見る間に列車を追い出された。
「おまえも嫌われ者なのだね」ゴン太と自分を重ね合わせ、情けなくも落涙する我輩であった。
ゴン太は、蛇なのだ。
次お題「ソメイヨシノ」「五月雨」「峠」
240:236
07/10/05 18:54:47
おじいちゃんと公園にやって来た。
今日はおじいちゃんの体調もすぐれていてこれはチャンスということで
二人でやって来たのだ。
もう体がずいぶんと曲がってしまったおじいちゃんと並んで歩いてここにやって来た。
癌細胞はもうおじいちゃんの体のあちらこちらに転移してしまった。
進行はゆっくりだがこの細胞は確実におじいちゃんの体を蝕むつもりだ。
公園に咲き乱れるソメイヨシノをおじいちゃんは一つ一つ手に取って見ている。
「ソメイヨシノ綺麗だねぇ。かず君。」
暗く沈みがちなおじいちゃんの声も今日は少しだけ軽やかなのだ。
僕のおじいちゃん。
人生の峠を越えたおじいちゃんが今この恐ろしい敵と戦っている。
突然降り出した五月雨がおじいちゃんを濡らした。
僕はおじいちゃんの背中を見守る様に見つめていた。
241:236 ◆ccqXAQxUxI
07/10/05 18:56:50
心 体 熱 で。
242:名無し物書き@推敲中?
07/10/05 19:18:00
じいさんは体は言うことをきかなくても熱い心を強い意志で包んでいた
243:名無し物書き@推敲中?
07/10/05 19:38:19
「私のお友達が大変なの」
タコさんウインナーを口に放り込んで、じっくり租借してから月子さんは切り出した。大きすぎる『新聞部部長』の腕章が肩口からずり落ちる。
なれた動作でそれを戻してから、彼女は続けた。
「小さな頃からお隣に住んでいらっしゃる子で、この間小等部の四年生にあがられたところなのだけれど。彼の体調、挙動が少々不審なの」
具体的には、とはさんで。
「いつも、家を出るとききょろきょろしてらっしゃるわ。まるで誰かを待っているみたいに。
それから、いつも顔をあわせると真っ赤なの、ためしにおでこに手を当てたら燃えるように熱かったわ。
しばらく朝にこっそり様子を見ていたのだけどーーもちろんばれないように隠れていてよ。この咲夜月子、調査対象に悟られるほどうかつではないわーー日に日にお元気がなくなっていかれて。一週間もするとまるで地面以外目に入らないようなうつむき具合なの」
心配そうな顔でウサギさんりんごを箸でつつく。
「ひょっとするといじめにでもあっているのではないかしらと思うと、私心がざわついて。せっかく高学年にあがられたばかりなのにそれでは酷というものでなくて? ここは私たちが一肌脱がなくては」
最後の一言と共に、りんごを口に放り込む。きっと目を吊り上げながらファイルを開いた。
咲夜学園新聞部第2850調査案件『変わる隣人事件』
「協力してくれて?」
とにかく、写真部で裏流しされているある人物のブロマイドを。こっそりある人物の隣人に渡すことを心に誓った。
追記。
当調査案件終了後、小等部潜入捜査員がわが新聞部に加わった。
同時に、新聞部と写真部のつながりがさらに密になった事は言うまでもあるまい。
244:名無し物書き@推敲中?
07/10/06 04:06:10
このスレはなんでいつも書きやすい「いかにも」な三題しか出ないのかな。
「ソメイヨシノ」「五月雨」「峠」
って何だよ馬鹿。
245:名無し物書き@推敲中?
07/10/06 04:24:09
>>244
坊やだからさ……
或いは自分のために、か……
246:名無し物書き@推敲中?
07/10/06 11:18:33
認めたくないものだな
247:404
07/10/06 12:18:49
「本当によろしいんですね。あなたの体は実験に使われるのですよ?」
「ええ、良いのです。それで少しでも償えるのなら」
我輩は死刑囚だ。怒りに任せて三津子を殺めてしまった。本当に、
申し訳無い事をしたと思っている。せめて人類の役に立つような死に方を
と思い、我輩の体を人体実験に回してもらうようにした。
ベッドに寝かされて固定される。
「痛い!」思わず声をあげてしまった。メスで内臓を引っかかれたようだ。
麻酔を使って痛みの無いようにしてくれる手筈では無いのか?
そう思って見上げた執刀医の顔、彼は三津子の父親だった。
次お題「雪原」「柳」「旅人」
248:「雪原」「柳」「旅人」
07/10/06 18:07:54
あしたになりぬれば、例ならず、をさをさ送りするもなく寒月門出してき。
わづかに雨降り、宿の柳、ぬれねばかかりけむ、青青として色新たに、
ある人進みて、「なほ止め給ひてむ。あぶなかりなむ。身はひとつなれば」など
いひしかば、「あなをかしのことや。もとより旅人に命ありてなきがごとし。
死なむきはは旅先にてとこそ思ひ給へたれ。さるべく生まれ出で給へぬべし」
となむいひし。
われ聞きて、笑ひつつ、「げにさることもあらむぞかし。われはふみを好む。
しかれども、ひとり灯のもとにふみをひろげたれば、われはいづくのものぐるひかと
思ふをりあり。なれにおきては、そが北国の雪原やあづまの山がつなりぬべし」と
いひしかば、寒月も笑ひて、やがて出で立ちてき。
次は「聖書」「屋上」「孤独」で
249:名無し物書き@推敲中?
07/10/07 15:40:29
30歳以上の独身女性負け犬のクリスチャンの女は聖書を片手に持ったままただ
屋上に孤独な負け犬女のみじめな姿をさらして立っているしかなかったつまり
30歳以上の独身女性負け犬には神も仏もないということを負け犬女は証明した
30歳以上の独身女性負け犬は2ちゃんねるの独身女性板でもたたかれるだけだ
次はかつてこのようなクサい芝居は宇津井健の特許だったので運命激流激突で
250:名無し物書き@推敲中?
07/10/07 22:00:00
いつも身が引き締まる。中庭には芝生と椅子があるが灰皿がなく、
納入ヤードでは引き取り手のない備品が、寂しげに飾られていた。
世界の把握には四季の中の二つを費やした。恐れながらも切り開いた開拓路は
この束縛のなかで、少しずつ拘束の縄を緩めていく心地がした。それでも
只一つ、行ったことのない場所があった。
エレベーターで8階まで。そのすぐそばには、非常灯の灯った扉があった。
扉をあけると、狭い階段が上に下にとぐろを巻いている。下をみればきりがないが、
上の終わりはすぐそこにあった。踊り場には誇りをかぶったラックと三角ポール、
そしてノブに鎖を巻いた扉があった。扉には「屋上立ち入り禁止」と張り紙がしてある。
窓はなくその先が見えない。只一つだけ、知らない向こうだった。
ふと気付くと、ラックの上に黄ばんだ分厚い本があることに気付く。手にとって誇りを払うと
『新共同訳聖書』の文字があきらかになった。かなり読み込んであるようで、節々に紙の皺や、折り目が
付いていた。この本の持ち主は、この本によって何を得たのだろう。ふっと秋空を統べる孤独な鳥と吹き渡る
風が、体を突き抜けたような心地になる。昼休み終了5分前、私は急いで階段を下ると、
エプロンを付けた清掃員の女性とすれ違った。
次は「深海」「楽園」「銃」で
251:ミスったのでもう一度
07/10/07 22:01:09
秋も深まれば4月入社の私のスーツも少し体になじんだように思う。
頭には効率を描き、世界とは私が属するこの社屋に完結している。
社員食堂は日替わりカレーの具が楽しみで、会議室の精錬な空気は
いつも身が引き締まる。中庭には芝生と椅子があるが灰皿がなく、
納入ヤードでは引き取り手のない備品が、寂しげに飾られていた。
世界の把握には四季の中の二つを費やした。恐れながらも切り開いた開拓路は
この束縛のなかで、少しずつ拘束の縄を緩めていく心地がした。それでも
只一つ、行ったことのない場所があった。
エレベーターで8階まで。そのすぐそばには、非常灯の灯った扉があった。
扉をあけると、狭い階段が上に下にとぐろを巻いている。下をみればきりがないが、
上の終わりはすぐそこにあった。踊り場には誇りをかぶったラックと三角ポール、
そしてノブに鎖を巻いた扉があった。扉には「屋上立ち入り禁止」と張り紙がしてある。
窓はなくその先が見えない。只一つだけ、知らない向こうだった。
ふと気付くと、ラックの上に黄ばんだ分厚い本があることに気付く。手にとって誇りを払うと
『新共同訳聖書』の文字があきらかになった。かなり読み込んであるようで、節々に紙の皺や、折り目が
付いていた。この本の持ち主は、この本によって何を得たのだろう。ふっと秋空を統べる孤独な鳥と吹き渡る
風が、体を突き抜けたような心地になる。昼休み終了5分前、私は急いで階段を下ると、
エプロンを付けた清掃員の女性とすれ違った。
次は「深海」「楽園」「銃」で
252:深海 楽園 銃
07/10/08 01:40:35
僕は引越しをして初めて友達ができた。嬉しくてすぐに「君の家に遊びに行きたい」と
いった。彼は少し考えてからこういった。「良いよ、でも僕んち海の中だよ」
確かに彼の家は海の中だった。そこは深海でありながら街を形成していた。役所もあ
るし遊園地さえある。地上の街とおんなじだ。僕がそういうと彼は自慢げに「でも一つだ
け違うところがあるんだ。ここには悪い事をする人、否、悪い事の存在すらないから警
察はいないんだ」確かに街中を探索したが交番さえなかった。つまり楽園だという。そ
れから僕は毎日のように彼の家へ遊びにいった。 そして僕はそこをいつの間にか好
きになっていた。
ある日きらきらと光る物が落ちてきた。ゆっくりと街の真ん中に落ちてきたので、たく
さんの人が集まっていた。人々の輪の中心には一つの銃があった。おそらく密輸船でも
沈没したのだろう。人々はそれをどうしようかと考えているようだ。だって交番がない
んだもんな。なかなか人々は去ろうとしないので、僕は地上の交番へそれを届けようと
した。そうでないと治まらない様な気がしたから。僕はそこに歩み寄った。銃を手に取
った。僕の上のほうをマッコウクジラが泳いでいった。
いつしか僕はこめかみに向かって引金をひいた。
「24時間」「缶詰」「階段」
253:深海 楽園 銃
07/10/08 02:07:08
深海から帰って来た浦島太郎は、煙にまかれ年老いて、しっかりと楽園で過ごしたツケを払わされた。
チルチルミチルの幸せの青い鳥は、気付かなかっただけですぐ傍に最初からいた上に、結局逃げ出してしまう。
ああしゃらくさい。
どうして夢物語の中にさえ、貧乏くさい教訓を入れずにはいられないのか。
浦島太郎は永遠に海の底で酒海魚林、チルチルミチルは青い鳥のおかげで一生安泰。
これでいいではないか。
現実のせちがらさなど、皆嫌という程知っているのだ。
銃声のような乾いた花火の音が、2発続けて鳴った。
それは今の自分にとっては、死刑宣告にも等しい。
ゆっくりと眼をあけると、薄いカーテンが朝の光を殆ど遮ることなく漏らしていた。
秋晴れだ。
全校マラソン大会は決行される。
楽園に住みたい。
今私は、夢物語の中でさえ、居場所を見つけることが出来ないでいた。
お題は>252さんのでお願いします。
254:名無し物書き@推敲中?
07/10/08 07:39:15
フラフラじいさんと24時間家に缶詰かと思うと食っちゃ寝専業主婦の喜久子は
ゆううつでフラフラじいさんを階段から突き落として殺す事にしたのである。
大阪ABC朝日放送のムーブを見ながらフラフラしてるハゲフラフラじいさんを
階段から突き落とした喜久子はそのまま特急サンダーバードに乗る事にした。
こんなハゲのフラフラじいさんにお題も糞もあるもんですかと悪態をついた。
255:名無し物書き@推敲中?
07/10/08 23:57:28
暗闇の中を沈むように歩く。
狭苦しい通路を抜け、階段へと辿り着く。
「――っ、はっ、―――ぁ」
もうどれ位こうしていただろう。
干からびた眼球は闇に慣れ、その代償だろうか、耳鳴りが聴覚を削ぎ落とす。
だらしなく開いた口からは、言葉とも吐息とも取れぬ音が漏れている。
―ひりひりと、脳が焼きつく。
四肢は躯から欠落し、極度に集中した神経は理性を破綻させる。
…あと少し。
時計を見る。残り24時間。十分だ。
狩るものと狩られるもの。その明暗を分けるのに時間などいらない。
階段を上りきる。小さな部屋。0.2秒で中へと入り、獣のごとく跳躍する。
―勝った。完全な不意打ち。回避不能の暴力を前に全身が狂喜する。
「―――ぁっ」
イメージは缶詰。
パンパンに膨れ上がった缶詰を鉄パイプで殴りつけたら、きっとこんな感じだろう。
刹那、白む意識の奥で、俺は、脳の弾ける音を聞いた。
「サッカー」「プラネタリウム」「契約」
256:名無し物書き@推敲中?
07/10/09 01:25:57
―ああ、まるでプラネタリウムだな。
いつかアイツと見たのとそっくりだった。
空を見上げてぼんやりと考える俺に対し、辺りは騒然としている。
サッカーの試合中、一斉に照明が落ちたのだから当然だ。
これだけ星空がはっきり見えるということはここだけ停電したわけではなさそうだ。
「全く、せっかくのデビュー戦だってのに」
暗闇でほとんど見えなかったが、丁度足元にあるボールを足で遊びながらつぶやく。
試合前半、ケガによる選手交代で運良く出場できた俺にパスが回ってきた所で突然の停電。
「そんなに俺の試合見たかったのか? なあ―」
ボールを軽く蹴りだしながら再び空を見上げた。
あの日見たプラネタリウムはこんなに綺麗じゃなかった。
手作りで、もっと狭くて、それは頼りない星だった。
「絶対、俺、プロになるから。見てろ」
そう言ったらアイツは微笑んでくれた。
アイツが誰よりも俺がプロとしてプレーしているのを見たがっていた。
それなのに俺の契約が決まったその日にアイツは死んでしまった。
「お前、楽しみにしてたもんなぁ」
くっく、と笑う。我ながら気持ち悪い。
遠くで「何してんだ! 早く戻れ!」と声がした。
「残念だったなぁ、これじゃ無効試合だよ。次はデーゲームのときに見にきてくれよな」
じゃあまたな、と小さくつぶやいて俺はピッチを後にした。
「紅葉」「原付」「帰り道」
257:紅葉 原付 帰り道
07/10/12 01:45:58
彼女から紅葉を見にいきたいと告げられた時、僕にはそれが昨日見たテレビの影響だとい
うことが分ったわけだが、そういう単純な人間を毛嫌いする僕であるのにどうしても彼女の
要求には逆らうことができなかった。恍けた顔をして僕の腕の中で丸くなっているこの女の
為なら何でもできた。明日の朝から出かけたいというわがままさえ苦にならない。場所は今
から決めたいからガイドブックを見たいといった。僕は彼女のお気に入りの原付バイクにま
たがって終電間際の線路沿いを走った。本屋はもう開いているはずはないから何件もコン
ビニをまわったが、要求に沿えるような本は見つからなかった。このまま帰った時の寂しそ
うな彼女の顔を思うと僕はやりきれない。それから1時間以上バイクを走らせた。
やっと都心近くでまだ開いている古本屋を見つけた。幸いにも最近発売されているガイドブッ
クがあった。見かけも古本には見受けられない。おそらく彼女は痺れを切らして待っているは
ずだ。僕はふるスロットルでバイクを走らせた。
彼女は玄関から背を向けて黙って座っていた。いつも不機嫌だとこうだ。
「ごめん」
声をかけた僕に対し彼女はゆっくりと振り向くといつもの恍けた顔をしていった。
「帰り道でなんかあった?」
僕は遅く帰ったからこんなことをいうのかと思った。
「ごめん、遅くなって」
彼女は首を振った。
「違うわ、だってその服」
彼女は僕の胸の辺りを指差した。そこには人の手形が赤々とついていた。
まるで紅葉をした木々の葉のように。
「豚」「縄」「ハンカチ」
258:「豚」「縄」「ハンカチ」
07/10/14 08:44:32
少年が涙をいっぱい溜めて、「メアリー・・・」と、縄うたれた子豚に頬擦りする。
農場を早く出ようと躍起の運転手が、エンジンの音をたてた。
メアリーは行く。もう帰らない。
もの言わぬバラ肉、ロースとヒレ肉になってしまうから。
少年は、もう耐え切れなかった。6歳には残酷すぎる現実だ。
「お父さん!ぼく…ぼく、もう一生、お肉なんて食べません。だから、だからメアリーを・・・」
1歳の妹までが共鳴する、「う゛ぇぇぇー。豚さん、かわいそー」。
運転手は農場主を見上げた。「しゃあないや旦那、次にしましょう・・・今回だけですよ。」
100年が経過した。
少年は大人になり、お爺さんになり、霊になって来るべき所に来た。
そこには当然閻魔大王が、生前を映す鏡を持って鎮座している。
閻魔大王の第一声。「動物を、不必要に殺し、その肉を食べた事を認めるな!」
「そ、そりゃないよ。たしかに10歳位からは食べたけど…仕方ないんです。みんな・・・」
「仕方ないだと!」閻魔は叫んで、ハンカチで目を拭った。
「豚さんが、かわいそーだと、思わなかったのか!」
※お魚さんにしておこう・・・
次のお題は:「過労」「超光速」「早出」でお願いしまふ。
259:「過労」「超光速」「早出」
07/10/18 00:17:51
「最近、過労気味だな」
大学の研究室でぼくはつぶやいた。
超光速理論の研究を始めて数ヶ月。泊り込みの作業が続き、
たまに家に帰っても実験結果が気になって、早出出勤してしまう。
だいたい、こういう理論的な研究に必要なのは、閃きと考え続ける力だと思っている。
だから、どこにいても仕事はできる。大学に来るのは、考え出した仮説の検証に実験が必要だからだ。
今、ぼくは一つの仮説を立てて、検証を重ねている。
「光速を超えると、時間が過去に戻る」
相対性理論が提唱されて以来、言われ続けている説だが、物質が光速を超えることはできないので、
結果、過去に戻ることもできない、というのが、現在までの結論だ。一部、
ブラックホールを使って可能になる、という説もあるにはあるが。
そこでぼくが考えたのは、「物質ではなく、思考ならば、光速を超えることができるのではないか」
ということだ。
そもそも「思考」というものは、たんなる脳の神経作用による産物で、実体はないのかもしれない。
「考えた」という行為も、その結果出てきたものを本人が話すなり記述するなりの表現によって、
他人が「考えた」んだなと推測するものでしかない。この他人が「考えた」んだなと推測したことも、
この他人本人以外にはわからない。まあ大体、周りの他人みんなが似たような反応をすることで、
お互いが自分と同じ「思考」をしたんだなと「推測」しているのだ。以下、略。
ぼくはときどき、予知夢のようなものを見る。
ほんの些細なことなのだが、たとえば、道を歩いていて石につまずいたとき、この石は夢で見た、
というような感覚になることがある。
これは、今、石につまづいたときのちょっとした思念ショックが、過去の自分に送られて夢に見たのだ、
と、本気で思ったりする。
こういう「結果」を目の当たりにして、仮説を立て、検証するための実験を考える。
……その考えた実験の一つが、ここでやっていることだったりする。
明日はまた朝早く大学へ行こう。
次は、「しおり」「消しゴム」「ボールペン」で。
260:「しおり」「消しゴム」「ボールペン」
07/10/18 00:31:40
学校のトイレの壁に詩織の絵を書いたら、消しゴムで消された。
「これはいけない」と思い、ボールペンで書き直した。
先生たちががんばったらしく、次の日にはやはり消されていた。
「さよなら、詩織」
ぼくは諦めて、最後にこう壁に書き付けた。
次の日、やはり壁の文字は消されていた。
「夜」「神」「月」
261:名無し物書き@推敲中?
07/10/18 01:52:47
保守
262:名無し物書き@推敲中?
07/10/18 03:36:12
夜
電気を消した部屋は、月の光に満たされた。
かすかに存在がわかる程度の、弱い光。
それはまるで今の僕を表しているかのように思えて、少しおかしかった。
僕が存在するかどうか、それは僕が決めるしかない。
僕の姿を認める人は一体どれだけいるだろう
ただ一瞬目に入っただけ人間を、僕と認識してくれるだろうか
そんなことがあるはずがない、僕を僕と認めてくれる人なんていやしなかった。
せいぜい神様が、僕を作り出したことを恥じてくれている程度だろう。
僕がいま目を閉じてしまえば、僕という存在は限りなく曖昧な物になる。
僕を認める人間がいない世界で、僕が存在する理由なんてあるのだろうか。
いま目を閉じてしまえば、僕は消滅する。
もっとも目を開けていたとしても、この世に僕は存在しやしないのだけれど。
「軽い」「緑」「渦巻く」
263:「軽い」「緑」「渦巻く」
07/10/18 05:22:59
今ぼくは、脳の中にいる。
渦巻く思念、思考、欲望、理想……。
いや、文字にしたところで、とてもすべてを表すことはできない。
ふと、手を伸ばして、「それ」をつかんでみた。「緑」というイメージが浮かんだ。
「緑」とは、何を意味するのか?
色、名前、シンボル、それとも別の何かが一番近いイメージに変換されたもの……。
軽い眩暈を覚えた。
まだ見たことがないもの。わざわざ言葉に置き換えなければ認識できないのか。
とりあえず、手を伸ばしてみたんだ。
「弥」「海」「砂」
264:名無し物書き@推敲中?
07/10/18 09:47:00
弥彦駅は日本海の砂浜に近い駅だが電車から日本海を見ることはできないです
265:名無し物書き@推敲中?
07/10/19 09:04:13
冬の風は通りすぎ、撫でた顔は熱くなった。
ふいに、心まで触れたのか、悲しさが瞳まで込み上げた。
弥生は立ち止まり、夜空を見上げた。
涙に映し出されたひとつひとつの光は、七色に輝くダイヤのようだ。
むかし、むかし、母から聞いた言い伝えを思い出す。
無限に広がりつづける宇宙のどこかに、無数に散らばる星たちのどれかに、
飛鳥がいるかもしれない。
すべてを覆い隠す深い海から、一粒の砂を見つけ出す。
無限を目の前にして茫然する、そんな永遠にも似た光景に目眩がした。
冷たい風は戯れるように、弥生のコートを翻す。我に返り、身を固くした。
天を囁く星々も、海に眠るも砂粒も、神様がひっくり返した宝石箱のダイヤなのだ。
神様の宝物を欲しがってはならない。神様にとって、どれも大切ないのちだから、きっと大事にされるはず。
震える声で、自分に言い聞かせるように、励ますように、静かに呟いた。
弥生は、再び歩き始めた。
包み込むような柔らかい風が、背中をやさしく押した。
266:名無し物書き@推敲中?
07/10/19 09:09:24
↑すみません。改行失敗したことと、お題を忘れました。
次のお題は、ビタミン、紅葉、葡萄です。
267:名無し物書き@推敲中?
07/10/19 09:29:26
あわわわ、すみません。
間違えたの直してないひどい文章を書いてしまいました。リトライします。
冬の風は通りすぎ、撫でた顔は熱くなった。
ふいに、心まで触れたのか、悲しさが瞳まで込み上げた。
私は立ち止まり、夜空を見上げた。
涙に映し出されたひとつひとつの光は、七色に輝くダイヤのようだ。
むかし、むかし、母から聞いた言い伝えを思い出す。
無限に広がりつづける宇宙のどこかに、無数に散らばる星たちのどれかに、
弥生がいるかもしれない。
すべてを覆い隠す深い海から、一粒の砂を見つけ出す。
無限を目の前にして茫然とする、そんな永遠にも似た途方もない光景に目眩がした。
冷たい風は戯れるように、コートを翻す。我に返り、身を固くする。
天を囁く星々も、海に眠るも砂粒も、神様がひっくり返した宝石箱のダイヤなのだ。
神様の宝物を欲しがってはならない。神様にとって、どれも大切ないのちだから、きっと大事にされるはず。
震える声で、自分に言い聞かせるように、励ますように、静かに呟いた。
私は、再び歩き始めた。
包み込むような柔らかい風が、背中をやさしく押した。
268:名無し物書き@推敲中?
07/10/19 23:49:23
ある秋の、他の生徒はみんな帰ってしまった夕方、少年は美術室で絵を描いていた。
絵には、白い皿に葡萄がチョコンとのって、茎の先々には青く瑞々しい膨らみが
生っているが、一つだけ皮のない実があって、甘汁が他の実を伝って、皿に零れ落ちようとしている。
少年は、皮のない実を一つ描いただけで葡萄らしくなくなって見えるのに驚いた。
普段、ビタミンが豊富だとは知っているものの、気にかけず捨てる、なくてもと思っていた皮がない
葡萄は気味悪く、いかにも不自然であった。夏に咲く桜、或いは春の紅葉を想像したときと同種の
不快を感じた。それはいかにも不自然であった。
少年はすこし悩んで、皿の端に萎びた皮を据えた。何だか葡萄らしくなった。
「生きる」「芸術」「労働」
269:404
07/10/21 00:44:08
叔父の家に行きました。労働も止め、金も無くなり、生きるに困難な状況だったのです。
しかし父と喧嘩中の私は、家に帰るわけにもいきませんでした。
叔父は芸術家気質の風変わりな人間で、滅多に口をききません。差し出されたサラダ料理
をほおばりながら、やや気まずくなって声をかけました。
「これ、美味しいですね」
「これはね、遺伝子組み換えの野菜なんだよ」洋書から眼を上げた叔父は、薄く笑ってました。
270:404
07/10/21 00:46:39
次お題「セピア」「水滴」「逡巡」
271:人形師 ◆wa1a4mh476
07/10/22 07:49:08
17年間をいっしょに過ごしたセピア
あたしの大切なゴールデン・レトリバー
セピアは朝の四時半くらいに動かなくなってしまったけれど、
あたしはどうしてか分らないままに、こうしてずっとセピアの身体をさすっていたんだ。
けどね、、、セピアの身体がどんどん冷たくなっていくのを感じていたら、、、
ごめんね、セピア。
あたしの心がセピアから離れていくのを、どうしても止められなかったよ。
なんだかもう、、、セピアの身体がセピアじゃなくなっちゃった気がしてさ。
あたしの手が逡巡してたのは分ったけど、あたしはセピアをさするのをやめてね、
ふと気がついたら、もう窓の外が明るくなりはじめていて、
軒下に架かっていたクモの巣が、水滴で垂れ下がってハート型みたいになってた。
昨日までいたはずの、あの黄色いしましまのクモ、いなくなって空っぽの巣だった。
ずっと、、、分らなかったけど、雨が降っていたんだね。
次のお題 「梨」「ランプ」「トタン屋根」
272:名無し物書き@推敲中?
07/10/22 14:18:09
近所のスーパーマーケットで買った梨を食べようとして、冷蔵庫を開けると
ミネラルウォーターと缶ビールの他には最低限の食料しか入っていないはずが、
ランプが所狭しと並べられている。油に火を灯す、古い代物で、試しに一つ
取出してみると、急に辺が暗くなって、アパートの一室は古城の広間になっている。
二階へ続く、金の装飾が施された階段を誰かが降りてくるので、ランプをかざすと
赤い目の、前歯がひどく突き出した顔が現れて、頭の上まで伸びた耳が微かにゆれている。
「さあ、遊戯の始まりだ。失敗すれば二度とここから出られない」
不思議なステップで階段を下りながら、陽気に言うので、段々と楽しくなってくる。
「何をするんだい」
階段を降りきって、正面まで跳ねてきて、笑いながら、
「今回はかくれんぼをしよう。そのランプが消えるまでに僕を見つけてくれ」
と言って、宙返りをすると消えてしまう。浮かれた足取りで、広間の扉から出ると、
トタン屋根の上にいて、周りはいろいろな形の屋根が敷き詰められていて、隠れる場所はない。
入ってきた扉もないので、とりあえず屋根の絨毯を歩くことにした。
その日、アパートの火災で一人の男が死んだ。
次のお題「懐中電灯」「水」「即興」
273:「懐中電灯」「水」「即興」(1/2)
07/10/22 15:40:05
即興で『罠』を作ることを考えてみよう。
懐中電灯と水を用いて、果たしてどんな罠が出来るだろうか。
一番初めに思いつくのは、水の屈折率を利用した水深詐欺じゃなかろうか。
水底を覗くと、一見足が届きそうに見えるものの、実際に潜ってみると予想以上に深く、慌てて犬掻きなどして窮地を脱出した、などという経験のある人間はそこかしこ居るものと思われる。
当然、懐中電灯の光も光線の一種に相違ないので、水底に差し向ければ底に届く照射の光は、実際よりも底を浅く見せ、これなら大丈夫そうだと飛び込んでみる。
するとアラびっくり、足裏にしっとりと絡みつくはずの水底は身長よりも僅かに遠く、予想だにしなかった事態に誰彼も無様な醜態を晒すハメになるのである。
まぁ、そんな罠に引っかかるようなマヌケが現実におはすならばお目にかかりたいものだが。
さて、次に。エレクトロフィッシャー(電気ショック漁)の技術を流用した『罠』はどうだろうか。
エレクトロフィッシャーの原理は、水中に+、-それぞれの電極を差し込み、通電させることにより生体ダメージを与える、ただそれだけである。
が、賢明な方は既にお気づきであると思うが、この方法は語るまでも無く、机上の空論にも値しない。
懐中電灯に用いられる一般的な電池はマンガン、アルカリ共に十ボルトに満たず、市販されている共通規格内で最も強力なものを用意したところで三百ボルト程度の電圧しか得られない。
ちなみに、防犯グッズとして販売されているスタンガンの電圧はおおよそ五千~五十万ボルトのモノが主流であり、皮膚に接着させて対象を気絶させようと考えた場合、五秒程度要する。
以上より、エレクトロフィッシャー系の『罠』は懐中電灯の電極を用いるという前提を踏まえた場合、全くの役立たずであることがお分かりいただけるだろう。
274:「懐中電灯」「水」「即興」(2/2)
07/10/22 15:43:26
よって私は提言する。即興で最も効果的な『罠』とは。
それは、二メートル以上の水深を持つ人気のない川べり、ないし海辺に対象を呼び出し(方法は問わない。罠であればなんでも良い)、背後からこっそりと忍びかかり、無防備な後頭部を懐中電灯で一気に殴り捨て、それから水中へ蹴落とすといった物理的行使である。
懐中電灯には様々な規格が存在するが、片手で持てるといった基準をクリアするものには、一キログラムを越えるものは多く有るだろうし、なにより取っ手がついている、防災に備えてそれなりの強度を備えている、など殴打するには利便性の高い点が幾つか挙げられる。
殴られた相手が、一撃目で昏倒せずコチラに振り返ってきた場合にも、いきなり光を浴びせかけ、ひるませることができる追加効果にも期待できる。労せずして、二度も水中へ蹴落と機会を我々は得ることができるのである。
どうだろう。即興に最も必要なもの、それは予測し得ない事態にも対応できるだけの柔軟性だ、と私は考えているが、いろいろと道具を拱いて計画を立てるより、流動性に任せた最後の案こそが、最も即興たる即興として、分かりやすい有効性を提示しているのではないだろうか。
事後処理に手間がかかるだとか、犯行がすぐに露見してしまうのでは、という危惧をどこかに置き忘れた先見性の無さも、即興としての価値を高めている。
申し訳ない。長くなってしまいまった
次のお題は『エジプト記』『兄貴』『四次元超立方体』でヨロシクー
275:名無し物書き@推敲中?
07/10/22 17:58:28
兄貴は天才だった。ハーバードへ留学して、Ph.D.(哲学博士)を取得した。
エジプト文明に関心があって、ピラミッドを見に行ったこともある。
交通事故で死んで、遺品の整理をしていると、そのときのエジプト記と題された
ノートが出てきた。興味深いのはピラミッドに対する深い考察と、それに関連付けてある
四次元超立方体の理論である。それは次のようなものであった。
私はピラミッドから、この三次元空間に擬似的に四次元空間をトレースすること
によって、四次元超立方体を構築できるソースを得た。433のシュリーレフ記号であらわされる
テッセラクトはヒルベルト空間上において、suggestion(シュゼスション)されている。
非線形電磁気空間理論に基づいて、これはピラミッドのCorps diplomatique(コオル ジプロマチック)
的見地で見ると、スカラーポテンシャルとベクトルポテンシャルが混在してはいるものの
次の方程式が成り立つことが証明できれば、四次元超立方体はfrivole(フリヴオル)である。
(方程式の部分は字がかすれていて読み取れない)
四次元超立方体はfrivole(フリヴオル)であると仮定すると、レヴィ・チビタ接続が定まる。
よって、四次元超立方体はironiquement(イロニックマン)であり、三次元においてflegmatique(フレグマチック)
であることが可能なのだ。
さて、これを読んでいるあなたには方程式もこの理論も理解できないだろう。当然のことだ。
これは全くのデタラメなのだから。
久しぶりに兄貴のユーモアが帰ってきた部屋で、オレは静かに兄を思った。
次のお題「金木犀」「恋」「ハンカチ」
276:404
07/10/27 11:00:54
あの娘が好きです。恋をしました。
ですので、廊下ですれ違った時にハンカチを抜き取ろうとしたのです。
「これを落としましたよ」
「ありがとう」
そうやって、きっかけが作りたかったのです。
でも私はしくじりました。その金木犀の刺繍のハンカチを抜き取る時に、
あの娘の体に触れてしまったのです。
「きゃっ、あなた、私にさわりましたね?」
それが今、私がここにいる理由です。
次お題「消耗」「切り取る」「鏡」
277:「消耗」「切り取る」「鏡」
07/10/29 00:23:24
「鏡よ鏡。この世で一番美しいのはだぁれ?」
鏡はいい加減憂いていました。なににって?
そりゃ奥さん、そんな馬鹿げた質問に毎度毎度判を押したような返事をすることにですよ。
鏡がこんなこと考えるなんて傲慢だって思っちゃいるんですがね。大切に扱ってもらってる恩義もありますし。でも、考えてもみてくださいよ。
寝覚めの朝、スッピンの女王がまず初めに口にするのがそれ、公務にやつれた表情で口にするのもそれ、夜伽の汗に崩れた下地を拭い落としながら口にするのもそれ。お世辞も消耗して、二枚舌じみてくるってもんです。
別段、何かを求めてるわけじゃないんです。ただひとつ私が提言したいのは、自らの美しさに対する自信や裏打ちを得たいがために話しかけようってんなら、最低限の体裁を整えてから問いかけるべきじゃないんですかね? ってことなんですよ。
世の男性百人居れば百人ともの恋が冷めるような醜貌を晒して、この世で一番美しいのは、なんて滑稽を通り越して悲哀すら覚えてしまいます。
なーんて、口にのぼらせることはないんですがね。
この立場を捨てるか否か、なんて天秤には乗っかりゃしませんよ。所詮私は、喋るだけのモノですから。今以上の待遇なんて望みようがないんですから。
というような経緯があって、ある日私は一計を案じてみたわけです。
はてさて、私の眼力は美女を見分けることに関しては千里眼。美しい村娘の一人や二人見つけることぐらい朝飯前ですよ。と、ここまでくればみなまで言わずとも分かってくれますよね、奥さん。
そう、私の考案とは比較対象を女王の前にぶら提げてやることだったんです。美しさの基準、最低ラインになるような喫水線を。
女王の嫉妬心を掻き立てられるような娘なら、ぶっちゃけ誰だって良かったんです。
清貧で、若くて、己の美しさに無自覚なまま青春を謳歌している娘であれば。
ま、こんな愚痴やぼやき、民草の間でまことしやかに語られている、あの美しい御伽噺にゃ不釣合いですからね、一切合財切り取られちまってるみたいですが、世にあるサクセスストーリーなんてこんなもんですよ。
どう生きようが関係が無い。身分不相応な幸せを手にしようとするなら偶然に期待するしかないんですよ、奥さん。
奥さん? ねぇ、聞いてます? どうして急に耳を塞いじまったりするんです
278:名無し物書き@推敲中?
07/10/29 00:26:33
次のお題は『悪魔の辞典』『測定』『クローバー』でヨロシクー
279:名無し物書き@推敲中?
07/10/29 11:14:17
真っ暗闇の中に小さな机が置かれています。上から丸い光が降りています。
丸い光に照らし出された台に本が置かれています。机の上の本は「悪魔の辞典」
と題してあります。題した下に著者の名前があります。本の真中にクローバー
が一つ乗せてあります。三つ葉です。測定すると三センチです。
ただし、当社の定規を使えば三,三三センチまで測れます。何とも縁起がいい。
ちょっと幸せになる「クローバーの詳細正確定規」を是非お試しください。
本の厚さを測定すると、六センチです。
ただし、当社の定規を使えば六,六六センチと言うことがわかります。不気味ですね。
ちょっと怖い「悪魔の詳細正確定規」を是非お試しください。
次のお題『高等数学』『ベクトル』『余興』
280:『高等数学』『ベクトル』『余興』
07/10/29 13:48:42
高等数学、という言葉を耳にして少年は頭が痛くなった。
受験の数学だけで十分煩わされているのに、その上『高等』だって? なんだそりゃ?
とりあえず、少年はgoogleで検索を掛けてみる。高等数学、高等数学……っと。
ふーむ。高等数学に一致するページ は約73,700件、その最上段にヒットしたのは数学勉強法、ついで米マイクロソフトの検索用アルゴリズムか。その下には、教育数学に関しての情報が連々と並んでいる。
wikiがトップにヒットすれば、その情報を元に話を組み立てようと企んでいた少年してみれば、これはあまり芳しくない検索結果だ。どうやら、地道な検索プラス自らの知識を持ち寄って、お話を創らなければならないらしい。
少年は腕を組むと、首を僅かに傾け黙考してみる。何か、良いアイデアは浮かばないだろうか。
現在学んでいる高校数学をアレンジした話をぶちあげ、誤魔化してみるか? いやいや、それじゃお題を消化したことにはならないだろう。けれど『高等数学』なんて得たいのしれないワードと真正面から向き合うのは、極力避けたい。
己の頭の悪さは存分に把握している。
と、いうわけで少年は触り最低限の知識を得るため、ネット上を奔走してみることにした。
……ははあ、なるほど。今回、『高等数学』と『ベクトル』のキーワードが同時に用いられれていたのは、高等数学が、ベクトル解析と線形代数の分野を包括しているからで―
ここからは私見になるけれど、ベクトル解析はどうやら、ベクトルと解析学に分割して考えられるみたいだ。と決め付ければ、高校数学を履修しただけの(しかも文系選択なのでⅡBまでしか履修していない)自分にも何とか理解できそうだ。
科学課目は、幸いにして物理学を選択しているし……。
おそらく所々、消化しきれない部分は出てくるものの、何とかそれらしきものを他人に説明できるぐらいにまでは、会得することができるだろう。
少年は満足げに頷き、頷いた瞬間、目の端で捉えた情報にハタと動きを止めた。
なんということか、後先考えずに書き出した文書は字数制限を間近に迎えているではないか。本編を語らずして、前振りだけで話を閉じるなど、なんと本末転倒な余興だろう。
「高等数学……」
小さく呻くと、少年は天を仰ぎ目を閉じた。嗚呼、高等数学。なんとも頭を痛くさせる言葉じゃあないか。
281:名無し物書き@推敲中?
07/10/29 13:52:15
次のお題は『墓地』『秋』『土いきれ』でヨロシクー
282:404
07/10/30 04:40:08
道路も木々も、群青色に染まる夜。肌を刺す冷気に肩をすくませて、私は一人で歩いていました。
するとどこからか、ざくざくと土を掘る音が聞こえてきて、首を曲げると、そこには墓地がありました。
暗がりの中、さらに目を凝らしてみると、綺麗な身なりの老人がシャベルでせっせと穴を掘っています。
不気味な光景でした。しかし、その老人の傍らにあった薄茶色の物体、それが何であるか気を取られ、少し
近づいてみました。
後でわかったことですが、その老人は未知の事柄に対して非常に臆病な性質であったらしいです。宅配便
が来ても対応の仕方がわからないため居留守を使ってやりすごし、買ったテレビが不良品でも返品ができず
に押し入れの奥にしまいこみ、国民保険金も支払い方がわからないため払わず仕舞い。
その彼の苦手な部分を補ってくれていたのが彼の妻でしたが、その妻が亡くなると、彼は対処に困って
墓場に穴を掘り始めたのです。それを夜中に実行したところをみると、誰にも知られず秘密裏のうちに、
解決してしまいたかったのでしょう。
保険局に電話一本かける手間よりも、墓場に深い穴を掘る手間の方を選ぶとは、なんとも奇妙な話ですが
実際にそういう人間は存在するそうです。
次お題「呪い」「歌」「沈む」
283:名無し物書き@推敲中?
07/10/30 11:50:58
(転生人語)2009/10/30版
▲皆様はご存知だろうか。遥か太古、地球上にひとつの巨大な大陸が存在したことを。
▲その名は『レムリア大陸』。インド洋上に三角形の形状をとるグリーンランドサイズの大陸は、紀元前五千万年ほど昔に一大文明を築き、誰に知られることも無いまま海の底へ沈んだと云われている。
▲この大陸の有無に関して、地質学者、気象学者、神秘学者、様々な学問を修める者が関わってきたが、現在における位置付けに決定打を放ったのは気象学者のアルフレート・ヴェーゲナーである。
▲現代ではプレートテクニクス(プレート理論)と呼ばれる、大陸移動説を以て彼は『レムリア大陸』を否定した。
▲プレートテクニクスとは、マントルの流れに沿って大陸は移動する、と云う考え方であり、その説に『レムリア大陸』を照らし合わせてみた場合、全く位置を変えずに存在したと伝承される彼の大陸は、地質学の性質上有り得ない、と断定されていた。
▲然し、この論拠は1999年『外惑星型・太古衝突』により、根底から覆されることになる。
▲今から十年前の事件ではあるが、皆様の記憶にも新しいのではないだろうか? クトゥルー神話によってのみ語られていた、旧支配者層の一部が地球に飛来した事件は、当時一大センセーションを以て迎え入れられた。
▲その旧支配者の一部は自らをNyarlathotepと名乗り、様々な形態をとることのできる『千の貌』と云う、物理学や生態学を一足飛びに超越する能力を披露してみせた。
▲また、古来や現代、ありとあらゆる地域の内情に精通しており、彼(便宜上ここでは彼としておく)の口から語られる事実は非常に正確であった。
▲それも、驚くべきものばかり。ケネディ大統領暗殺事件の犯人、ジム・クレイ博士行方不明事件の真相など、我々の知り得ない情報を幾つも語り、確証が取れるものに関してはありとあらゆるものが正しかった。
▲その彼が『レムリア大陸』の存在を肯定した。彼の一言は今や、どんな研究成果よりも重大な価値を有しており、何よりも信頼に値する。よって我々は、ヴェーゲナー学士による学説否定を打ち消し、彼の大陸の存在を認めねばならないのだ。
284:「呪い」「歌」「沈む」(2/2)
07/10/30 11:51:53
(補足)
○世間一般においては『ムー大陸』の方が聞こえは良いだろう。
○その『ムー大陸』は、Nyarlathotepの伝承が記されているクトゥルー神話体系では、『レムリア大陸』と云う名で触れられている。
○Nyarlathotepに拠れば、彼の大陸が沈んだ要因にセイレーンの歌が関連しているらしい。
○セイレーンとは、ベテランの船乗り達をも震え上がらせた海の魔物、その美しい歌声で船を沈めてしまうと云われている北欧、ギリシャ神話を元にした伝説上の生物である。
○我々がなぜ北欧、ギリシャの生物が『レムリア大陸』の存亡に関わるのか、に言及すると、彼は呪い子テュポーンの名を挙げた。
○ギリシャ神話に、強力な魔神として登場するテュポーンは、当時ギリシャの天上界に居を構えていた多くの神々をエジプトへ追いやったそうだ。
○その際、追われた神々、神の眷族の一部が更に東方に位置する『レムリア大陸』へ行き着き、彼の大陸の神として君臨したと彼は語る。
○以降、どういった内情があったのか定かではないが、上記の事実を以て『レムリア大陸』は沈没の憂き目にあったのだろう。
○『~のだろう』、とはっきりしないのは、Nyarlathotepが、セイレーンの歌がどのように作用して『レムリア大陸』を沈めたか、の事実に関しては固く口を閉ざしてしまい、聞き出すことができなかったからである。
○古代エジプト時代に著名な占い師として歴史に顔を覗かせた彼にとって、北欧の神々、ギリシャの神々の存在は何か特別、感慨を抱かせるものがあるのかもしれない。
○もしかするとそういった神々とは一切関係なく、旧支配者を討つ者として有名な、旧神Nodensが関わっているのかもしれない。
○それとも『レムリア大陸』からは望むことができたと云われる恒星フォルマルハウトの顕現に拠り召還され、Nyarlathotepの棲まうン・ガイの森を焼き尽くしたCthughaに何か関連が……
○我々が神話体系について知りえることはごく僅かにすぎず、『レムリア大陸』の謎は、依然深まるばかりである。
申し訳ない。長くなってしまいまった
次のお題は『トラットリア』『二丁拳銃』『喪服』でヨロシクー
285:トラットリア 二丁拳銃 喪服
07/11/01 07:20:42
依頼者は殺し方に注文をつけた。おびえる相手の顔を拝見したいというのだ。俺が銃を突きつけ
ると依頼者が止めに入るという段取り。依頼者はただの目撃者であるというわけだ。
指定された小さな食堂。俺はテーブルに近づいた。チラと依頼者は俺を見る。依頼者は下を向いた
まま苦笑いをした。その格好は目立つというわけかい。この場所にこの格好はまずいとでも。黒のス
ーツに黒のタイ、喪服が仕事着というのも葬儀屋と殺し屋ぐらいだろう。いいじゃないか。幸いにもここ
には俺とおまえ、ターゲットの3人というわけだ。かまわず俺は両脇に手を突っ込み拳銃を抜いてみせた。
この状況は馬鹿げてはないか。たった一人を殺すのに黒服の男が二丁拳銃とは。腐ったドラマの
ようだ。でもこれは俺の〝美学〟であるのだ。〝最低〟の人間をやるのには〝最低〟の行為で
対する。馬鹿げた奴に殺される、このざまといったら笑えるじゃないか。
ターゲットはぽかんとして、二丁の銃を突きつけられ、何が起こったかわからぬ様子だ。打ち合わ
せ通り、依頼者が止めに入った。「なにをするんだ!」辺りは静まりかえっている。
俺は笑った。「なにをするんだだって」
今度は依頼者がぽかんとした。打ち合わせと違うからだ。
俺はいった。「この場所はなんていうんだ。あ?いってくれ」依頼者はわけがわからぬ様子だが、
声を振り絞った。「×××」
「ちがう!店の名前じゃない。レストランとか、お前がわざわざ使う言葉だ。トラ何とかだよ」
「トラットリア・・・?」
「そうだ。それだ」俺は満足した。
ターゲットは下を向いた。笑っていたのだ。そのうち上を向いて高笑いした。そして俺にこういった。
「おねがいだ!殺すなんてやめてくれ!」
俺は二丁の拳銃を〝新しいターゲット〟に向けた。全くもって人生はやりきれない。
「ヒント」「体形」「望遠鏡」
286:名無し物書き@推敲中?
07/11/08 23:12:30
望遠鏡を覗いている僕を彼は突き飛ばした。僕は吹っ飛んだ。
地面を1回転転がってから頭を下にぶつけた。
知的な僕が望遠鏡を眺めるその様が彼には気に入らないというわけだ。
朦朧とする意識の中彼の顔を見上げた。僕の目にぼんやりと映る彼の顔は
笑っていた。
なんて下品な笑いだ!
彼の体形のことなど言いたくないがスナック菓子と炭酸飲料を大量に摂取
した彼の体を僕は美しいとは思わない。
彼はご機嫌に望遠鏡を覗きだした。
彼のような人間にこの夜空、星の美しさが分かるはずがない。
星座など知るはずもないだろう。
オリオン座、北斗七星、冬の大三角形。
こいつが望遠鏡を覗いて一体何になるっていうんだ。
愚鈍なこいつが!
愚鈍なこいつと知的な僕、そして望遠鏡。
知的な僕の知的行為。破壊された知的空間。
こいつがのしのしと歩いてきたその様は神話のトロルそのもの。
よだれなんか垂らしやがって!
「生きるヒント」。こいつの愛読書だ。
何を読んでやがるんだ!
はあはあ言ってないでさっさと望遠鏡を返しな!
剣、いばら、穴 で。
287:名無し物書き@推敲中?
07/11/09 11:00:18
>残飯さんはどうなるんだろうねwww
刑務所か精神病院かどちらかだろうね
そうでなければ東京のどこかだろう。ホーレスには居心地がいい
ファストフードのゴミ箱を漁りながら有名人に対する呪詛を撒き散らしながらどこかの公園で野垂れ死に
被害者達に許しを請うように体を二つに折り
縮こまって死後硬直している姿が目に浮かぶよ
俺には分かっている。この掲示板ゲームと同じようにね
問題は時間、常に時間だけだ
288:名無し物書き@推敲中?
07/11/09 16:47:28
「剣の道はいばらなり、穴なり」と言ったのは、かの有名なアーサー王である。
アーサー王の馬の世話係をしていたツェペリと言う男が、アーサー王に「剣の道は如何ぞ」
と聞いて、答えたと言うことである。
「其の心は如何に」と馬番が聞くと、
「其の険しきこといばらの道の如く、無益なること穴なる杯(はい)に注ぐが如し」
西暦523年、激しさを極める事となる、カムランの戦いに出陣しようという時であった。
この戦いでアーサー王は戦死し、彼の王国も滅び、戦乱の世が訪れる事になる。
次のお題「欺瞞」「自己同一性」「儕輩」
289:名無し物書き@推敲中?
07/11/10 14:42:17
おれは4年前にこの状態を予見していた
だから2年待った
乗り込んだ以上慈悲は見せない
覚 悟 し や が れ
必ず z a n p a n 鍋にしてイヌに食わせてさしあげる
290:名無し物書き@推敲中?
07/11/10 18:46:13
欺瞞に満ちた目で彼らは僕を見ていた。
僕が信じられないというのか。僕の言うことが。僕の理念が。僕の信念を。
君達は今眠った状態だ。眠らされているんだ。この星にね。
僕もかつてはそうだった。でも兄さんが僕を起こしてくれた。
覚醒させてくれた。紹介するよ。兄さんだ。
兄さん、来て。この人が僕の兄さん、僕等の兄さん。この星を皆と一緒に創り変えていく
創世者、ギャラカテック兄さんだ。君達は同士だ。僕と兄さんと君達でこの星を創り変えるんだ。
君達は今どんどんこの星に命を削られている。
君達は気付かないかもしれないけど君達の目は日に日に虚ろになっている。
僕と兄さんと一緒に闘うことが唯一の君達の自己同一性を守る手立てだ。
今こそ立ち上がるんだ!彼等の瞳が緑色に激しく輝きだした。
僕たちは手と手を取り合い一つの大きなサークルを作った。
僕と兄さんは彼等の体に植物でできた武器を埋め込んだ。
今日から僕たちは兄弟だ!苦しみも悲しみも喜びもすべて一つだ。
兄弟達よ、僕は君達のためなら喜んで血を流し命さえ差し出そう。
兄さんも同じ気持ちだ。兄弟達よ、今日という日が記念すべき僕達の独立の日だ。
兄弟達よ、今こそ僕等と一緒に君達自身の人生を生きるんだ。
さあ、共に行こう。僕達の理想の世界へ。兄弟達は歓声をあげた。
兄弟よ、僕は本当に君達のためなら命も差し出そう。
命、クリスタル、地球 で。
291:名無し物書き@推敲中?
07/11/11 08:57:46
赤い運命、なんとなくクリスタル、地球へというのがむかしはやってました。
赤い運命が好きだった女の子は今や食っちゃ寝専業主婦ただのババアになって
引越し引越しさっさと引越ししばくぞと歌いながら毒入りかれーをつくります
あのじいさん砒素で殺せば私の青春を取り戻すことができる青春が戻るんだ。
デブの食っちゃ寝専業主婦真須美はカレーの入った鍋の蓋を開ける事にした。
292:命、クリスタル、地球
07/11/11 11:23:01
Aは長年山に篭って、仙人のような暮しをして、悟りを開いた。
そして、己の悟りを皆に伝えようと決心して、山を降りた。
山を降りる途中に命のクリスタルがあった。ルビーのように赤く、
地球のような神秘を秘めていた。Aは己の悟りが間違っている事に気づいた。
命のクリスタルを食べ、不老不死になって、山に篭った。
Aは長年山に篭って、仙人のような暮しをして、悟りを開いた。
そして、己の悟りを皆に伝えようと決心して、山を降りた。
山を降りる途中に……
次のお題「一頓挫」「隔靴」「儘」
293:名無し物書き@推敲中?
07/11/11 11:54:00
「『一頓挫』って、なんて読むの?」
「しらねえよ」
「『一頓挫』って、どういう意味なの?」
「しらねえって」
「じゃあ、『隔靴』は?」
「しらねえよ、そんなの知ってどうすんだよ」
「知りたいんだよう」
「死ねよ」
「『儘』でもいいよ、おしえてよ」
「……頭に『我』をつけてみ」
「?」
「お前のことだよ」
お次は、「お金」「キャッシュカード」「金塊」で。
294:、「お金」「キャッシュカード」「金塊」
07/11/11 13:10:11
お金をキャッシュカードで買って、金塊に変えた。今時分の実業家なら、
的を得た判断だと、想うだろう。策略家の気の置けない友達に、まんまと騙されて、
大損をした汚名挽回だ。オレは大手の会社の副社長で、役不足もいいとこなのだが、
一生懸命やって、何とか勤めている。例の友達は、ライバル会社の副社長で、
伝統をおざなりにして、改革を行い、脚光を集めている。絆は深いと想っていたのに、
騙されてしまった。口惜しい。
次のお題
「明鏡止水」「ステアリング・ホイール」「南極大陸」
295:人形師 ◆wa1a4mh476
07/11/12 05:50:48
俺達はチリからC-130輸送機で南極大陸のパトリオット・ヒルズ基地へ入り、
そこからヘリテージ・レンジと呼ばれる海岸へ移動して、電気自動車による
南極大陸縦断を開始した。最終目的地は南極点にあるアメリカ政府のアムンゼン
・スコット基地だ。1時間かけて10km走行しては、太陽パネルと風力発電機で
4時間充電するという地道な作業を繰り返しながら、俺達、つまり俺と沢村は、
この7週間をひたすらに走り続けてきた。それが・・・南極点まであと200km弱を
残す所まで来て、このざまだ。それ程でもないと思われたサスツルギ*を一気に
越えようとして、俺達のクルマと牽引していたトレーラーは激しく横転、
積載していた充電設備を派手に撒き散らしながら大破したのだ。
状況は深刻だった。まず、トレーラーとの接続部が大きくねじれ、充電設備の
牽引が不可能になっていた。また、大半の太陽パネルには亀裂が発生し、
発電不能。その上、クルマを運転していた沢村が左足大腿部を骨折していた。
クルマが何度か横転したとき、ステアリング・ホイールに足をからめ取られ
たのだと、沢村は先程まで苦悶の表情で話していた。しかし、その沢村も
今は遠くを見るような曖昧な視線を中空に投げかけて、ボンヤリとしている。
意識レベルが明らかに低下していた。もちろん、俺は何とか生きていた通信機を
使って、アムンゼン・スコット基地に救助を求めはしたのだ。しかし、
少し前から酷くなり始めたブリザードを理由に、早急な救助は難しいとの回答。
あと3時間もすれば、この辺りは氷点下30℃に達するだろう。
・・・そんな中で、俺はふと笑ってしまった。これ程までに絶望的な状況で、
明鏡止水の境地とも言えるほど、俺の内側が静まり返っていることに気付いた
のだ。すべてが見えているようにも思えた。何か、わくわくするような戦慄
さえ感じた。 ・・・さて、何から始めようか。俺の戦いはこれからだ。
*サスツルギ: 風向きに従って形成される氷雪の小山。高いものでは2mに達する。
次のお題 「扇風機」「雪」「三葉虫」
296:404
07/11/12 18:37:16
僕は、病弱な子供だった。体育の授業の度に見学させられたし、外で遊ぼうとすると止められた。
だから、いつもとっても詰まんなくて、遊び相手だったお婆ちゃんに
「僕も普通に遊びたいよ。それにうちって貧乏だからゲーム無いじゃん」って言ってた。
ある日突然、そんな僕にも幸福が訪れた。先生が理科の授業の後、こっそりと僕を呼び止めて
三葉虫の化石をプレゼントしてくれたんだ。
「高志は化石好きなんだろ? これ、高い奴だけど、みんなには内緒な」とっても嬉しかったよ。
でもね、家に帰ってお婆ちゃんにその事を言ったら、普段優しいお婆ちゃんが、急に怖い顔して
「そんなもの、もらっちゃ駄目だよ」って言って、嫌だったのに無理矢理化石を取り上げちゃった。
とっても怒ったよ。
「なんでなの!お婆ちゃん、返してよ、僕のだよ!」しまいには、部屋の隅に置いてあった扇風機を
思い切り蹴っ飛ばして「ふざけんなよ! 死んじゃえよ!」って言ったところ、隣の部屋からやって
きたお父さんが僕のほっぺたをビンタして、だから僕は思い切り泣き出した。
その日から、お婆ちゃんを無視するようになって、お婆ちゃんが死んだ時も、ざまあみろ、って
思ってた。
貧乏だった我が家にも多少の余裕が出来、僕の病気は薬で治って元気に成長して大人になった。
雪が降りこめる、お婆ちゃんの十回忌。お母さんがそっと耳打ちしてくれた。
「高志の病気治したあの薬だけどね、お婆ちゃんが高志から取り上げたあの化石を売ったお金で
買ったの。とっても高い薬だったから。それにお婆ちゃん、自分が死んだ時に高志があまり悲しま
ないようにって・・・・・・」
なんで、なんで、なんで・・・・・・その単語だけを繰り返し口ずさんで、俺はわんわん泣き出した。
297:404
07/11/12 18:43:30
次お題「海老」「白」「つらら」
298:海老・白・つらら
07/11/15 01:21:23
吐く息は白く、家屋の軒先にはつららがぶら下がっている。
まさかこのような極寒の地に飛ばされるとは。男は己の不運を嘆いた。
たった一つの小さなミスでこのサマだ。
男は雪道を音を立てて歩いている。目指す工場まで後少しだ。
約束の時間までまだ一時間以上もある。少々腹の方も悲鳴を挙げてきている。
どこか良い店はないだろうか。男が辺りを見回すと、古ぼけた看板が目に入った。
今にも消えそうな文字で食事処と書いてある。男は一瞬迷ったが、他に店も無いようなのでそこで昼食をとることにした。
私以外に客は見当たらない。古ぼけた感じの店だ。しかし、注文を取りに来た女性は、意外にも若く、美人であった。
女性は無愛想にメニューを私の前にポンと置き、そのまま奥の方へと引っ込んでいった。
憮然としながらもそれを開く。数多くあるメニューの中から、私は海老フライ定食を注文した。好物なのである。
外に目をやると、かなり吹雪いてきていた。目的地まではあと十分は歩かないといけないだろう。
ほどなくして、海老フライ定食が運ばれてくる。茶碗の中の米は白く輝いており、私の食欲を存分にそそっている。
そして海老フライに視線を向けた時、私は目を丸くした。
海老といっても、それは甘海老であったのだ。皿が大きいので、よけいにフライが小さく見える。
私は先程の店員を呼び、これを問い質した。すると、彼女は氷柱のように冷たい眼差しでこう答える。
「ここいらへんは、甘海老しかとれないもんで」
言い終わると、彼女は自分の役割はこれで終りと言わんばかりに下がっていった。
私は、海老フライと呼ぶにはあまりに小さすぎるそれを見下ろし、これからのことを思い、大きな溜息をついた。
次のお題
「天使」 「祭壇」 「人工知能」で
299:海老・白・つらら
07/11/15 01:25:42
途中から一人称になってしまったorz
300:「天使」 「祭壇」 「人工知能」
07/11/15 03:26:31
祭壇への階段の下、息子も息子の嫁も孫娘も、口々に私に祝いの言葉を贈ってくれた。
20の歳から40年連れ添った一つ年下の妻が、私の手を握った。
「ワタシもすぐに行きますから、先に行った皆さんによろしくご挨拶しておいてくださいね」
「わかった。皆も元気でな。向こうで待っているからな」私は妻の手を握り返してから、天使の待つ祭
壇への階段を上った。
「ようこそ、天国の入り口へ」優しく微笑んだ天使は私の手を取り、祭壇にしつらえられた椅子に導い
てくれた。私を椅子に座らせると、天使は自分の頭の上の光る輪を両手で持った。
「さあ、これをつけたらあなたは天国の住人になります。飢えもなく、病も無く、痛みも無く、老いも
無い。現世の方とはテレビ電話でしかお話できなくなってしまいますが、それもわずかな期間のこと。
すぐにお相手も天国に来てくれますからね。では、心の準備はよろしいですか?」私は天使の言葉に力
強く頷いた。
天使は私の頭にうやうやしく光る輪を載せた。そして、目の前が真っ白に輝いた。
祭壇の椅子の上、親父の頭に載せられた光の輪は次第に輝きを増し、やがて見つめていられないほどに
なった。まばゆい光が去ると、祭壇にいた親父もホログラフの天使も消えていた。
「おじいちゃん、天国に行っちゃったね」娘の言葉に「そうね」と嫁が頷く。「明日には設定を終えて
電話をよこしてくるかしら?あの人、優柔不断だからもっとかかるかしらね?」母がくすくす笑った。
人間の脳の構造を人工知能に移植することが可能になった現在、環境問題・人口爆発・食糧難・老人介
護などの問題を解決する究極の手段として生まれた「60歳天国移住法」。
人々は60歳の誕生日を迎えると、その記憶と人格を人工知能に完全に移植してコンピューターの中の
仮想空間に「移住」するのだ。そして、残された肉体の抜け殻は、原子レベルに分解され、再構築され、
再利用される。
チーン。
移住者の家族にだけ与えられる特別配給食ができたことを知らせる音が響いた。
「さあ、ご馳走をもらって帰りましょう。」「おじいちゃんは体格良かったから、きっといっぱいでき
てるわよ」嫁と母が笑いあう。俺は妻と一緒に娘の手を引いて配給口へ向かった。
次は、「電話」「脳」「給食」で。
301:404
07/11/15 12:43:40
同級生の奴ら全員が馬鹿に見えて仕方なくって、学校に行かなくなった。
案の定、先生が家にやってきたり電話をよこしたりしてきた。始めのうちは、穏やかな受け答え
でもって、優しく「佳子は今、何しているんだい?」なんて聞いてきたり、「みんな心配していた
ぞ」などと、クラスの奴らの授業中での面白おかしい言動だとか、給食中に出てきた美味しいデザート
の話などをしていたのだが。
ある日、先生がやってきたのだけれど、顔がやや赤味を帯びていて、なんだか動きが大雑把で、
目つきがいたずらに鋭かった。声も、なんだか脳に響きそうな音質だった。
「なあ、佳子~。先生はなぁ~、今まで一度だって、一度だって、不登校児を出した事が無いんだ。
本当に、一度だって無かった。それで今度教育委員会の方から特別栄誉賞をもらえる事になってたん
だよ。なあ、不登校児を出したくないんだよ。先生は。だからこれまでだって、生徒たちがおかしな
事してたって先生は・・・・・・」そこから先は、聞くに耐えなかったから、便所に行くフリをして
逃げちゃった。
いつも寛容で温かく、「ニッコリ先生」と呼ばれる程の先生だったのです。
302:404
07/11/15 12:45:46
次お題
「大樹」「地平線」「力」
303:かえっこ ◆vKR9dNUc2M
07/11/15 15:18:32
「大樹」「地平線」「力」
72歳で亡くなった 結城大樹さん の葬儀が青山で行なわれていた。
海洋冒険小説家として数々の賞を受けている有名な人物。
そのため、2000人を超える各界有名人の弔問者、国内海外のマスコミ関係者も多数そろっていた。
会場の最前列には、子供に先立たれた、老夫婦98歳の父親、95歳の母親が座っていた。
式も終わりに近づいた頃、ゆっくりと立ち上がった父親。
歳をとってはいても彼は昔、有名な海洋冒険家として世界の海を一人航海し続けていた人物、その足どりと声はしっかりしていた。
力強い表情で微笑んでいる息子の遺影に向かい、父は、子への思いを語り始めた…
「おい!大樹。オレは、お前が産れた時の事は今でもはっきり覚えてるぞ!」
「オレはあの時、太平洋のど真ん中。衛星電話でお前が産れたと報告をもらったんだ」
「オレは、ナ!!その時、母なる海に感謝し、地平線に昇る太陽に向かい叫んだぞ!!」
斎場にいた人たちは心の中で…「間違ってる!それ!水平線!!」
「中学もろくに出ていないオレがお前みたいな立派な息子に恵まれて…」
「ガキの頃のお前はヒョヒョロで医者のやっかいになってばかりで母ちゃんに心配ばかりかけてたな!!」
斎場にいた人たちの中ですすり泣く人たちの声がもれる。
「オレはあの時、地平線から昇る太陽に願いをかけ、でっかい男になるようにって大樹って名前にしたんだぞ!!」
「30、40、ってお前はボーっとしてて女の腐ったようなヤツだって心配してたがな!!」
「じじいになってからやっと、名前通りのすごいヤツになったな!!あの…なんて言ったかな!!…おう!!た・い・き・ば・ん・せ・い・だ!!」
「とにかく!オレは、お前がオレの息子で本当に良かったぞ!もうすぐ、母ちゃんとそっちに行くから待っとれ!!」
いっせいに拍手が聞こえ、そして、斎場にいた人たちは心の中で思った…
「字…間違ってる!それを言うなら大器晩成」
304:かえっこ ◆vKR9dNUc2M
07/11/15 15:23:09
次お題
「優勝」「5本の指」「汚れた路地」 で
305:名無し物書き@推敲中?
07/11/16 06:09:08
甲子園で決勝の晴れ舞台
すべてはこの勝負で決まる
奴は拳を突き出してきた
苦渋の表情がここまでの長い戦いを物語っている
血と汗で汚れた路地裏で相当な練習を積んできたのだろう
俺は5本の指を突き立てた
ジャンケン甲子園は俺の優勝で幕を閉じた
次のお題
「特典」「マグカップ」「鳥肌」
306:「特典」「マグカップ」「鳥肌」
07/11/16 16:20:36
出張で行った街で、見覚えのある男を見かけた。まさかと思って声をかけたら、やっぱりAだった。
「凄い偶然だな」と再会を喜んだが(A相手なら不思議じゃないか)と俺は思った。
大学の時、同じサークルだったAはやたらツキのある男だった。
二人でコンビニに買い物に行っって、会計を終えてお買い物特典のクジをどうぞと勧められると、
Aは「一等は何?マグカップ?いらねえから引かねえ」と言い出すのだ。「なんだよ、お前、一等
引く自信があるわけ?」「自信とかじゃねえよ。引くに決まってるだけだ」「じゃ、証明してみろ
よ」とクジを引かせると、確かに一等が当たる。一緒にいるとそんなことばかりだった。
「宝くじでも買えば一攫千金だな」俺が言うと、「賭け事はしないことに決めてる」とAは言った。
「親父は会社の同僚との付き合いで初めて買った宝くじで、一等前後賞合わせて7千万が当たった
数日後、通り魔に刺されて死んだ。爺さんは、初めて連れて行かれた競輪で230万車券の大穴が
当たったが、数日後に玄関でつまづいて転んで打ち所が悪くて死んだ」
「過ぎたツキは身を滅ぼすんだよ」と笑ったAの顔に寒気を感じたのを憶えている。
「実はな、クジを当てたんだ」一通り再会を喜んだ後、唐突にAは言った。
「ザ・ビッグってやつか?この水曜日に当選が決まったやつ。キャリーオーバー発生中で、最高額
の6億円」「家訓はどうしたんだよ?」と聞く俺に、Aは娘が病気なのだと言った。多臓器移植が
必要なのだが、子供の臓器移植は国内ではできない。海外に行って手術するのに大金が必要だと。
「女房は泣いて喜んだよ。『5億5千万も余っちゃうね』と泣き笑いしてたけど、どうせ俺は死ぬ
だろうからな。死んだ後に女房と娘が生活に困らないように国内最高額のクジにしたんだ」Aの笑
顔に、俺は鳥肌が立つのを感じた。
数日後、新聞がAの不運な死を報じた。
上空9000メートルを飛ぶ飛行機から整備不良のために落下したネジが、Aの頭を直撃したのだそうだ。
次は、「飛行機」「家訓」「大穴」で。
307:人形師 ◆wa1a4mh476
07/11/18 02:46:23
「で、あの男は始末できたのか?」
そう言ったのは、流行のスリーピースにボール帽をかぶった紳士風の男。
「始末シニ行カセタ四人、ヤラレテ帰ッテキタ。相手ハ三人、シカシ強イノハ一人」
と答える黒人は遥に大きく、その拳の一振りで紳士風の男を血みどろにも
できそうなのに、紳士風の男の前では完全に萎縮しているようだった。
そのとき、鳥眼鏡で顔を隠した令嬢が二人の従者(のちに機関車アックス、
毒鍋ライザと呼ばれることになる)を従えて、つかつかと部屋へ入ってきた。
「だ、だれだ貴様。どうやってここへ」紳士風の男の方が顔を上げて叫ぶ。
「・・・あたしの名はリース。皆さまの悪事、残らず聞かせてもらいましたわ」
「リ、リース?! 大英帝国を騒がせているという、あの英雄気取りの馬鹿女!」
「まあ失礼ね、レディに向かって。でも、一攫千金を夢見る貧しい人々を
たぶらかした上、ボクシングの賭け試合で大穴を当てたキスリングさんを
殺そうだなんて・・・もっと許せない。お亡くなりになられたヴィクトリア
女王の名に誓って、このレディ・リースがお仕置きを致しますのっ!」
「まさかキスリングを助けた謎の三人組というのは・・・」
「そういうことね。ってギャァァァーッ!! あ・ん・た! ひとが話してる
最中に襲わないでよ!」
「お嬢さま、襲われたときはもっと可憐にと申し上げたはず! あとで家訓を
百遍復唱して頂きます」とはライザ。
リース嬢がいい気になって話しているうちに、紳士風の男は黒人に目配せして
彼女たちを始末するよう合図したのだ。アックスが気付いて間一髪リース嬢を
かばったものの、その黒人の足取りは軽快で蜘蛛のように素早く、少しでも
アックスが遅れていれば、彼の重い一撃によってリース嬢の華奢な首はへし
折られていただろう。
「お嬢、こげなクロ○ボ、わしが・・・」
そのときライザが鋭く声を上げた。
「お嬢さまっ、あの不細工が逃げますわ!」
リース嬢がアックスの下からのぞき見ると、ライザに不細工と断定された
紳士風の男が、窓を蹴破って一直線に走り去るのが見えた。その先には――
308:人形師 ◆wa1a4mh476
07/11/18 02:47:26
「飛行機?!! フランスで実用化されたという噂は本当だったの?!」
紳士風の男は右手で帽子を押さえながら疾走していたが、飛行機の前まで
たどり着くと、リース嬢の一行に向かって大声で叫んだ。
「ぶはははは! お前たちになぞ捕まるものかっ!! ロンドンのポリ公どもと
一緒に地べたをはいつくばってろ低脳!」
次のお題「砂時計」「氷」「甘露」
309:「砂時計」「氷」「甘露」
07/11/18 16:18:01
その時、ある女は夕飯に何を作るかを考えるために冷蔵庫のドアを開けて中を眺めていた。
その時、ある男は高騰したガソリン代と燃費の悪さに悪態をつきながら ダッジバイパーのエン
ジンキーを回していた。
その時、ある女はダイエットのために半分食べ残したランチの皿をウエイトレスに下げてもらっ
ていた。
その時、ある男は暖房のきいた部屋でアイスクリームを食べていた。
その時、ある女は切れたタバコを買いに行くためにテレビもビデオも部屋の電気もつけたまま
で部屋を出ようとしていた。
その時、ある男はシャンパングラスを片手に次期大統領選挙のための根回しをしていた。
その時、ある女は化学物質の塊を塗りたくった顔で次の映画の宣伝をしていた。
その時、ある男は砂漠の村で銃を磨いていた。
その時、ある女は飢えて死んだ子供の亡骸を抱いて声を上げて泣いていた。
その時、過去最大の大きさになったオゾンホールはかつてなく美しいオーロラを躍らせていた。
その時、南極の巨大な氷の塊は上昇する気温に巨大な氷壁から引き剥がされて海に崩れ落
ちていた。
そこを越えてしまったら二度と戻ることの出来ない一線を、人間たちはそんな風に意識もせずに
あっさりと踏み越えた。
落ち始めた砂時計の砂は、下に落ちることしかできない。
急坂を転がり始めて勢いを増した泥団子は、坂の最後、平坦になった地面にぶつかって壊れ
るまで止まることはできない。
消費文化のもたらす甘露を存分に味わい恩恵を享受しまくった一部の人間も、そのために踏み
つけられてきた多くの人間も区別しない「やがて無慈悲にやってくる終わり」は、誰にも知ら
れることなく始まった。
次は、「ガソリン」「銃」「坂」で。
310:「ガソリン」「銃」「坂」
07/11/19 23:32:15
(大丈夫だ、今なら客もいない)
今朝、俺はコーヒーを飲みながらガソリン代高騰のニュースを見ていた。
(くそっ、また値上げしやがったか。おまけに俺の車燃費悪いからなあ)
これは痛い目に合わせるしかない。ガソリン強盗が増えれば、きっとガソリン代を高くしたことを反省して、また前の値段に戻すに違いない。
そう決心した俺は、深夜を待ち、24時間のガソリンスタンドの近くに車を停めて張り込んでいた。今ならい行ける。俺は去年海外旅行中に
砂漠の村で購入した銃を右のポケットにひそめ、ガソリンスタンドに車を入れた。とりあえずガソリンを満タンまで入れてもらう。10L…
…11L……どんどんガソリンが入っていく。満タンになったところで店員が近づいてきた。領収書を持っている。
「こんなにするはずないだろう?」
「それが、ガソリンがまた値上がりしまして。ほら看板にも書いてある」
そこで僕は銃をだした。脅してみる。
「お、お客様。銃は危険です!もし火花が散りでもしたら気化したガソリン
に引火しかねません!」
「知ったこっちゃない。どうせここで払うくらいなら死んだほうがましだ」
店員は少し悩んだ後、こう言った。
「わかりました。今回はタダでいいです」
帰り道、俺は今までにない興奮を味わっていた。喉が異常に乾いていたけど、そんなの関係ないくらい興奮していた。スピードを上げて急な坂を一気に上った。下り坂は思ったよりも緩やかだ。
(あとはこれを何回か続けて、値下がりするのを待つだけだな)
坂の直後が交差点になっているのが見えた。ひとまず興奮を抑えて、安全確認のため一時停止をした。
(これは犯罪なのか。いや、ただ値上がりに反抗しているだけだから大丈夫だよな。いいんだよなこれで)
ボンネットの前から黒い丸いものが出ていった。車の下を通って泥団子が俺を追い抜いていったのだ。泥団子は、坂の最後、平坦になった地面にぶつかってド派手に壊れた。
次は、「ワイン」「コカイン」「タンジェント」で。
311:310
07/11/19 23:36:30
あ、銃を出すとき一人称が僕になってしまいました^^;ごめんなさい;;
312:名無し物書き@推敲中?
07/11/20 08:48:45
「イタリアワインとコカインを一緒に飲むのが
最高の快楽だって言ってた作家がいた」
由美はコンビニで買ったサントリーのワインを
グラスに入れながらそう言う。
「好きな女と一緒に飲むワインが最高においしいって
言ってた作家がいるよ」
僕は読書好きのヒキコモリの由美に
村上龍の本を貸したのだが僕の知らないうちに他の小説も
自分でも図書館で借りて読んだらしい。部屋にカバーの
ついた本が置いてある。
「村上龍だろ?」
由美は微笑む。由美は精神病のヒキコモリで
ヒートの僕とクリスマスイブを過ごしてる。
「俺たち幸せかな?」
酔いは不思議な思い出を引き起こす。
高校の教師、教室の匂い、黒板の文字、タンジェント、サイン。
幸せかどうかなんてたぶんどうでもいいんだ。今の僕は。
次は、「焼酎」「デパス」「古文」で。
313:「焼酎」「デパス」「古文」
07/11/20 19:54:10
弱い暖房が効いた部屋。
皮張りのソファとガラスのローテーブル、コンポから流れるジャズが、精一杯の高級感を演出していた。
しかし嗜むのはブランデーではなく焼酎。
それもまた一興か。僕は呟いて一口呑む。
せめて電気の明度を落としてそれらしくしたいところだが、彼女の願いでそれは叶わなかった。
古文のテキストを片手に、テーブルの上のノートパソコンで彼女は調べものをしている。
自分が好きなこととなると、他のことはお構い無しになる彼女。
子供のように目を輝かせるその姿が微笑ましく、愛しく、嗜虐心を掻き立てられる。
眠剤代わりのデパスを片手に、僕は彼女に寄り添った。
ふと、僕の目に飛び込むパソコンの画面。
―思ふにはしのぶることぞ負けにける 逢ふにしかへばさもあらばあれ
次のお題「10円」「デポジット」「ポスト」でお願いします。
314:404
07/11/22 00:30:40
「もう、いいよ! そんなに文句言うんなら君達がやれよ!」
言うなり、委員長の松田は、四角くて真っ赤な、まるでポストのような顔を机に伏せ、
それなり動かなくなってしまった。みんな、伏せ目がちに視線を交わしあった。
と、そこにバカの鈴木が帰ってきた。軽快なステップで教卓の前を横切って、己の股ぐらに
1メートルの竹定規を挟み
「アンニュ~イ、アンニュ~イ・・・」
下向きだった竹定規を上向きに立てて
「デポジット!デポジット!!!」
そんな事を何回も繰り返すものだから、みんな笑いだした。
委員長も顔を伏せたまま、小刻みに震えだした。
315:404
07/11/22 00:37:41
次のお題
「傘」「灰」「平穏」
316:名無し物書き@推敲中?
07/11/23 22:05:28
「君の傘を貸してくれないか?」
バス停でバスを待つ僕のとなりに立っていた30歳くらいの男が
突然そう言った。」
「嫌ですよ。あなた返してくれるんですか?そのままでしょ。」
「君の傘を貸してはくれないか?」
「だから嫌ですよ。」
「これから僕の行こうとしているところは雨がひどくてね。
雨がやんでいる時などほとんどないんですよ。君達の住んでいる
ところとは違ってね。でも虹がとても綺麗で何十本もの虹が
いっぺんに出たりするんですよ。かえるがたくさんいてね。
虹がそんな風に出た時などは何百匹もいっぺんに現れるんですよ。
虹の下でいっせいに鳴きましてね。それがまるで美しい音楽のよう
に聞こえます。あじさいも何千本も咲いていましてね。赤いの白いの
青いのと様々です。そして何千匹のかたつむりが虹がたくさんかかった
時はやはり同じ様に現れます。そこは空気の色が違いましてね。
薄い青の空気が流れています。空は一面灰色の雲です。
平穏な場所なのでとても静かです。そこに住んでいる人達も
とても静かで丁寧に話します。
なんと言いますかね。なんだか少しだけ薄暗くて青くて静かな場所
ですね。雨がいつも降っていまして。」
「そうですか。」
僕はそっぽを向きながらその話を聞いていた。
話が終わったので振り向くとその男は消えていた。
そして手にしていたはずの傘も消えていた。
海 太陽 風 で。
317:「海」「太陽」「風」
07/11/25 01:08:36
夕暮れの海を、俺は綾香と二人で歩いていた。
砂浜に打ち寄せる波。綾香の長い髪を躍らせる風。
綾香は片手で髪を押さえながら、口を開いた。
「寒いよ。もう帰ろうよ」
太陽は垂れ込める厚い雲の向こう。
吹き付ける北風と、波うち際で泡立ち始めた波の花。
晩秋の日本海は、俺が考えていた以上にデートには向かなかったらしい。
ふと、手に冷たいものが触れた。
冷え切った綾香の手だった。
「手、温かいね」
俺の顔を覗き込んで笑う綾香。
いや、意外と、こういうのも悪くないか。
そう思いながら、俺は綾香の手を握り返した。
次は、「夕暮」「デート」「手」で。
318:「海」「太陽」「風」
07/11/25 01:30:01
女にとってはじめての横浜であった。
もう四月で、更に言えば快晴だと言うのに風が強い。風は女から体温を奪って行く。
念願かなって、一人ではあるが、ついに横浜を泊まりで観光することとなった。
田舎育ちのこの女は、ずっと横浜に憧れていた
東京の様なビルが立ち並ぶ賑やかな都会ではなく、今もなお明治辺りの雰囲気を残した横浜にだ。
すでに目当てのところは一通り見てしまった。
外国人墓地の、退廃的なあの雰囲気が今でも忘れられない。
赤レンガ倉庫のお店はもう少しゆっくり見て回りたかった。
女はそんなことをぼんやりと思っていた。今はなんとなしに、横浜の海を眺めている。
「もう少し、楽しい人生なら良かったのに」
赤い靴を履いていた女の子は誰に連れて行かれたんだっけ。異人さん?良い爺さん?
「私も連れて行って欲しいな」
女は海に身を投じた。
その後の女のことは誰も知らない。
空には太陽が、変わらず光を注いでいた。
次は「キャンディ」「チョコ」「依存」で
319:名無し物書き@推敲中?
07/11/25 01:30:43
しまったw
318はスルーでよろしくです。
320:404
07/11/28 01:01:15
「エンジントラブルにより、まもなくこの機は墜落します。
しかし、あと4名だけ飛び降りてくだされば、他の全員は助かります」
まずはアメリカ人の初老の夫婦が2人、手と手を握り合って、夕暮れ空を背景に落ちてった。
次に、スペイン人の神父らしき人が、なにやらブツブツ唱えながら、落ちてった。
最後に、初老の日本人が、イチャつく若いカップル二人をポイと放り出した。
321:404
07/11/28 01:03:35
次お題「風車」「トタン」「連続」
322:「風車」「トタン」「連続」
07/11/28 09:49:29
「おじいちゃん、あれ何?」
トタン屋根の農具小屋から鎌を取ってきた老人に、孫娘が聞いた。
ぶかぶかの白い軍手をした手が指差している先には、巨大な純白のプロペ
ラが起立していた。
「風力発電の風車だな。さあ、掘るぞ」
老人は鎌を使って畝にのたくる葉のついたツルをざっと刈り取り、「ツルの
根元にあるから掘ってみろ」と孫娘を促す。
最初は、指先でちょいちょいと土を掘っていた孫娘は、土の中に紫色のイ
モを見つけて歓声を上げた。「おじいちゃん、あったよ!」
最初に孫娘が見つけたのはひょろひょろの細長いイモだった。
「そんなブタの尻尾じゃ土産にならんなあ。もっと太ったのがいっぱいある
ぞ。ほらほら」
老人が良く肥えた柔らかく黒い土を掘り返すと、コロコロに太ったサツマ
イモが連続して出て来る。孫娘は目を輝かせて両手で土を掘り返し始めた。
老人は芋掘りを孫娘に任せて、一服するために畑の横に用意してある椅子
代わりの丸太の輪切りに腰をかけた。タバコにライターで火をつけて、ふと、
設置されて以来殆ど回っていない三本羽根の風車を見上げる。
この風車は、もう十何年も前に役場が業者の口車に乗って設置を検討し
始め、業者の調査報告を鵜呑みにして、業者に何億も払って「町に新しい
エネルギーを」と鳴り物入りで設置したものだ。
しかし、実際には吹く風の風力が足りず、台風でも直撃しないと回らない。
業者の提出した事前の風力調査の報告書が捏造されていたのだ。
「何が『新しいエネルギー』だ」老人は鼻で笑った。
「おじいちゃん、これならお土産になる?」
真っ黒に土で汚れた軍手で、ひときわ大きなイモを持ち上げて孫娘が言う。
「おお、立派なイモだ。ママもパパも喜ぶぞ」
老人の言葉に、孫娘が笑った。娘が子供の頃に見せたのとそっくりな笑顔
だった。
323:322
07/11/28 09:50:19
お次は318さんの「キャンディ」「チョコ」「依存」で。
324:「キャンディ」「チョコ」「依存」
07/11/28 11:56:22
たとえば、今こうしてバスを待って並んでいるときにも、禁煙と書かれたポス
ターを無視してタバコを吸い始めるスーツ姿のおじさんを見ると、ああ、依存
しているんだな、と他人事のように傍観してしまう。
僕は左手にはめた腕時計を見る。バス到着予定時刻まであと六分。
僕の後ろに並んでいるおばさんがハンドバッグからキャンディを
取り出して舐め始める、この五分間でもう三個目だ。
僕は腕時計を見る。あと三分。
停留所のベンチに座っている女の子が、隣りに座る母親にチョコをねだってい
る。母親は膝に置いた買い物袋に手を添えながら、帰ってからね、と嗜める。
僕は腕時計を見る。あと一分。
携帯電話を睨んだままだった女子高生が、バスのブレーキの音に気付き、メー
ルを打つ手を止めて顔を上げた。低いエンジン音をうならせながら、バスが僕
たちの目の前に止まる。
僕は腕時計、ゼニスのエル・プリメロ44万円、を見る、恍惚と。
次は「サンダル」「ミネラルウォーター」「懺悔」でお願いします。
325:「サンダル」「ミネラルウォーター」「懺悔」
07/11/30 11:27:04
俺は小さな花束とミネラルウォーターのペットボトルを、ひしゃげたガードレール
の根元に置いた。
懺悔など意味は無い。俺が何をどう悔い改めようとアカネは帰ってこない。
「サンダルじゃないの、ミュールよ!」
新しく買ったサンダルを可愛いでしょと自慢したので褒めてやったら、そう言って唇を
尖らせたアカネ。
「車できてるんだから、飲んじゃ駄目だって」
俺の頼んだビールを取り上げようとするアカネ。
「絶対だよ、絶対代行呼ぶんだよ?約束だよ」
指切りしようと指を立てて言うアカネ。
「飲んでるんだから車を運転しちゃ駄目だって」
眉根を寄せて、心配そうに言うアカネ。
「もう知らない!私はタクシーで帰る!」
怒って、送ってやるという俺の手を振り切ったアカネ。
勝手にしろと自分の車で帰った俺は、飲酒検問に捕まることも無くアパートに着いた。
しかし、タクシーを拾って県道沿いの家に帰ろうとしたアカネは、県道を渡ろうと
ガードレールの切れ目で車の切れ目を待っていた時、ハンドル操作を誤って突っ込んで
きた車に跳ねられた。飲酒運転だった。
自慢していたサンダルが片方、ガードレールの脇に転がっていた。
俺が殺した。
そう思った。
次は、「花束」「ビール」「県道」で。
326:「花束」「ビール」「県道」
07/11/30 11:52:24
初投稿です。よろしくお願いします。
「もし俺が先に死んだら、仏壇に胡瓜の花をあげてくれ」
それが病床に臥したA男の最後の願いだった。
菊なんかの花束ならわかるけど、胡瓜の花っていったいどんなものなんだろう。
そもそもきゅうりに花なんて咲くのだろうか。
A男は半年前胸の痛みを感じ、心配で病院に行ったら
いきなり癌と診断された。もちろん本人は直接通知されたわけではなく後で母親から聞いた。
A男母親と僕は数年前からのっぴきならない関係になっていた。何だよ、のっぴきならないって?
ある日A男と渋谷に行こうと誘いに行ったが留守で変わりに母親が庭で小さな畑の手入れをしていた。
畑には胡瓜が植えられていたようで、大きく長く成長したものを鋏で採っていく。
「少しだけでいいからついでに手伝ってくれると助かるんだけど」
と母親は気軽に言ってきた。渋谷にどうしても行かなくてはならないこともなかったので、
A男が帰るまで手伝うことにした。夏の暑い日だったので一通り胡瓜の収穫を終えた後のビールは最高だった。
眩暈がして一瞬意識を失い、気がつくとA男の母親と寝ていた。お互い身体を重ねた縁側の向こうでは、
荷物を積んだトラックがひっきりなしに
走っていた。そこは県道66号線だった。
感想いただけますか?
そしてお次は同じく325さん発題の「花束」「ビール」「県道」で。
327:名無し物書き@推敲中?
07/12/02 03:22:59
「花束」「ビール」「県道」
「花束のプレゼントを贈るなんて……少しキザかな」
贈られた花束は真っ赤なカーネーション。
私より贈ってくれた彼の方が、なんだかそわそわと落ち着かなかったっけ。
今日は母の日じゃないわよって私が首を傾げたら、彼はちょっと困った顔をしてたわ。
県道沿いの喫茶店が私たちの待ち合わせ場所だった。
田舎の喫茶店だから、古くて全然オシャレじゃなかったけどコーヒーだけは美味しかったな。
彼ったら背筋をピンと伸ばしなかがら椅子に座っていて、人形みたいで可笑しかった。
「カーネーションの花言葉、知ってるかな」
普段はぼんやりして、花言葉なんて全然知らなさそうなのに、急に尋ねてきたのよ。
今はガーデニングもするから大好きだけど、当時の私は花に特別興味も無かったし、知らないって答えたわ。
「あなたを熱愛しますって言うんだよ」
そして、指輪をそっと差し出してくれたの。
ホント、嬉しかったわ。私、思わず感動して泣いちゃったもの。
だけどこれは後から聞いた話なんだけど……花も花言葉もお店の人が決めてくれたんですって。
せっかくだから、嘘を突き通してくれたらよかったのにね。
月日はあっという間に流れるものね。子供達も中学生と小学生になったのよ。
あんなにスマートだった彼も今はビール腹を突き出して枝豆を食べてるんだもの。
現実って厳しいものね。
「母さん、これ、プレゼント」
彼はそわそわしながら、突然、私に花束を手渡してきたの。もう何年もプレゼントなんて貰ってなかったのに……。
急にどうしたんだろうって、最初はビックリしたわ。でもね、その後すぐピンと来たの。最近、携帯ばかり気にするし、出張がとても多いんだもの。
私は庭に出て、まだ緑色のアジサイを出来るだけたくさん摘んだわ。
花言葉は浮気。彼にこのアジサイを投げつけたら、少しはすっきりするのかしらね。
次のお題は「台詞」「犬」「ポスト」
328:「台詞」「犬」「ポスト」
07/12/02 23:08:45
チャイムが鳴ったのでのぞいてみれば、どこか落ちつきない犬が立っていた。
「犬の独立支援募金のお願いにまいりましたでござる」
その犬がいうには、現在の犬の隷属制度から、犬権を確保し自立していきたいのだという。
「もともと犬という種族は封建社会に生きているのでござる」犬は呼吸を荒くしながら説明してきた。
「現在の浮草みたいな社会制度では、犬は犬らしく生きていけないのでござる。
いまこそ、犬は権利を主張し、犬の住み安い社会を構築していく必要があるのでござる」
「つまり、新党を立ち上げたのね」ぼくは欠伸を堪えながら相槌を打った。2時間しか寝ていなかったのに、朝っぱらから起こされたのだ。
「その通り」犬はぼくの手をとって熱くいった。「新しい日本を、社会のために作っていこうでござらぬか!」
「いや、ぼくは人間だもの。募金ならしてもいいけれど」ぼくは財布から100円玉をとりだして渡した。
「や! 感激! ありがたや!」犬は感動のあまり遠吠えをして、ぼくに名誉会員のワッペンをくれた。
後日、犬独立運動の党から冊子が送られてきた。
中には会報誌とアンケートが入っていた。今後の活動のために意見をいただきたいと書いてあった。
差別からの脱却という政策はいいにしても、とぼくは書いた。
あの侍の台詞みたいな口調では、現在の有権者の支持は得られないので、現代の日本語を覚えられてからにしてはいかがでしょうか。
返信用の封筒があり、あとはポストに投函するだけなのだけれど、ぼくは腕組みしてしばらく考えて、そのまま黙って破って捨てた。
つぎのお題は「馬油」「カーテン」「スパッツ」
329:「馬油」「カーテン」「スパッツ」
07/12/03 07:37:13
部屋干ししていた洗濯物をハンガーから外していく。
スパッツはまだちょっと湿っていたので、もっと干しておくことにした。
ふと、窓の方に目をやると、レースのカーテンの向こうには嫌になるほど
晴れ渡った春の空があった。
昔は、こんな日は気持ち良くお日様の下に洗濯物を干したんだけどな。
お日様で乾かした洗濯物の匂いを、良く乾いた綿のTシャツをお風呂上り
に着た時の何ともいえない気持ち良さを、私は何年味わっていないんだ
ろう?
窓の外を見ていたら何だか鼻がむずむずしてきて、私は綿棒と馬油の
ビンに手を伸ばした。ビンは殆ど空だけど、綿棒でこそげるとまだまだ十
分な量の馬油が取れた。馬油がついた綿棒を鼻の穴の中に突っ込んで、
鼻の内側に馬油を塗る。
鼻水対策にはこれが一番なのよね。
塗ってる姿を見られたら、百年の恋も冷めそうだけど。
ああ、花粉症なんてこの世からなくなってしまえば良いのに。
次は、「綿棒」「百年」「この世」で。
330:「綿棒」「百年」「この世」
07/12/03 12:26:50
美術大学創立百年祭。美大の女と言えば、全身を高級ブランドで固めた嫌味な女か、ひたすら課題
に打ち込む機能的スタイルの女。そんな女ばかりを見るにつけ俺は生きてゆくのが嫌になる。
だがその日に俺が出会った女は、そのどちらの属性にも当てはまらない奇妙な女だった。いかにも
古臭いデザインのスーツ。ざっくりと編み込まれた黒髪を纏めたシニョンと、髪型まで中
世の絵画から抜け出てきたような古臭さだ。が、その懐古的な様が逆に、この世のものとは思えな
い美しさを醸し出している。
「ここの初代学長って釘で耳を掻く癖があって、そこからばい菌が入って亡くなったのよ」
女は俯きながら微笑し、「その頃は綿棒なんてなかっただろうからなあ」と俺はショルダーバッグ
から綿棒を取り出し掲げて見せた。女といると不思議と懐かしい想いに満たされ笑みが零れてくる。
女は初めて見た物のように、瞳を輝かせると綿棒を手に取り、「これ、貰っていいかしら」と尋
ねた。俺は笑いながら頷いた。
女が立ち去るとき、「また会えるかな」と俺は思い切って尋ねてみた。
「あなたが長生きすればたぶん、ね」紅唇を綻ばせると女は去ってゆき、そのあと参加したセレモニ
ーの会場で、俺は不思議な懐かしさの正体に漸く気づいた。会場の舞台に初代学長の絵画、学長の隣に
は艶やかなシニョンの愛娘。入学式のときにも見た絵画だ。俺はあと百年生きてみたくなった。
331:名無し物書き@推敲中?
07/12/03 12:28:59
次は「冬枯れ」「木枯らし」「教会」で。
332:404
07/12/12 14:05:38
病室の窓から見える、冬枯れの樹木と教会の尖塔。窓がガタガタ揺れている。
木枯らしかしら。
私が全身火傷を負って病室に担ぎ込まれた日から、彼はあまり私に会ってくれ
なくなった。両親はと言えば、私が金髪でピアスで無職の彼と真剣に付き合いた
いと言い出した日に勘当されちゃって、今はもう余所の人。
もう、駄目なのかな・・・・・・私なんて、もう誰にも必要とされていないじゃない。
彼も来ないし、両親も来ない。顔だって醜く焼けただれてしまった。こんなんじゃ
彼を幸せにできない。重荷になるだけ。ふられても仕方ない。もう嫌だ。これ以上
人に迷惑をかける前に・・・・・・。
「今までありがとう。さようなら」と彼にメールを送った。
その日、彼は交通事故で死んだ。
バイクで慌てて交差点に飛び出した時、トラックに撥ねられて死んだ。
誰かさんの治療費のために連日連夜バイトしてクタクタになった体なのに
無茶したせいで、死んだ。
333:404
07/12/12 14:07:48
次お題「連」「調和」「心」
334:名無し物書き@推敲中?
07/12/25 08:34:14
子供達が手と手を取り合い連なって草原で一つの大きな輪を作っている。
真っ青な空の下、子供達は無邪気に笑っている。
牧師はその輪から少し離れたところで草原に腰を下ろし微笑みながら
子供達を見つめている。
異界、そんな言葉が似合うような光景だった。
牧師は毎日午前中に自然との調和が目的というこの行為のために教会から
子供達を連れてこの場所にやって来る。
しなびた牧師の心を従順な子供達のエネルギーが何とか今日もつなぎ止める。
延髄 手首 夢 で。
335:名も無き冒険者 ◆bc3kq9Tcow
07/12/25 10:56:09
>>334
昨日の未明、交通事故の救急搬送で運び込まれた三十代男性の患者は、宿直医師の的確な措置により一命は取り留めたものの、
延髄の損傷による自発呼吸の停止がみられ、現在も集中治療室で植物状態になっていた。
担当は最近、この病院に入ってきた平岡という若い医師だったが、出血のひどい手首と大腿部の止血・縫合は完璧だった。
他院で脳死患者からの臓器移植に立ち会った事のある院長が、脳死判定に必要な炭酸ガス刺激を行おうと提案した時、
今津が炭酸ガス分圧のレベルを60mmhgから100mmhgまで試して見ようと言ったのは、さすがだと思った。
今津は大抵の医師が措置を諦める患者であっても、ぎりぎりまで治療を試みるタイプの医師だった。
彼の名字である今津は「忌まず」に通じると言って、年配の患者がありがたがるのも全く根拠の無い話ではないようだ。
今回もそのような今津の通じるかは定かではなかったが、日本で脳死判定の基準とされている60mmhgでは呼吸が見られなかった患者が、
70mmhgやそれ以上の濃度で自発呼吸が見られ、結果的に脳死ではない事が判明する症例は自分も知っていたため、彼の炭酸ガスの濃度を上げる意見については、賛成の意思を表明しておいた。
336:名も無き冒険者 ◆bc3kq9Tcow
07/12/25 10:58:16
脳死判定を行う事について、患者の家族の了承はすぐに取れた。
妻に子が一人という典型的な家族構成を持つ患者の家族が、判定の結果遺族と呼ぶ事になるのか、いずれにしてもあまりいい心持ちではなかった。
何年も植物状態の夫のために、安いとは言えない入院費用を負担し続けるよりは、かえって死んでしまっていた方がいいのではないか。
こういった植物状態の患者を見るたび、医師としてあらざるべきそんな疑問が、自分の中で沸き上がるのだ。
脳死判定は午後に行われた。
炭酸ガス刺激の最中に臓器や脳を傷める事がないよう、患者へ十分に酸素を吸わせた後、酸素のチューブが外され、
代わりに炭酸ガスのチューブが取り付けられた。
看護婦が脈拍や脳波といったバイタルをチェックし、異常のない事を伝える。
しばらくして、炭酸ガス分圧が基準となる60mmhgに達した。
自発呼吸はまだ見られない。
一度炭酸刺激を中断し、しばらく酸素を吸わせた後、もう一度炭酸ガスに切り替え、
次からは65、70と5mmhgきざみで濃度を上げていく。
337:名も無き冒険者 ◆bc3kq9Tcow
07/12/25 11:02:45
80に達した時、自分の気のせいか、患者のまぶたが微かに動いたような気がした。
「呼吸は?」
しかし、やはり自発呼吸は無く、バイタルも変化がみられないようだった。
患者を見守る医師達の表情が曇った。
「90まで上げてみましょう」
今津は暗たんたる面もちながらも、淡々と言った。
分圧を80まで上げた時、脳波が少し乱れた。
延髄は損傷しているものの、その上にある大脳まで機能を停止している訳ではないからだ。
「85にしてください」
そう言った瞬間、患者の胸が動いた。
今津を含め、医師達は目を見張った。
患者が自分で呼吸をしているのだ。
それからすぐに炭酸ガス吸入をやめ、酸素マスクを取り付けた。
「何はともあれ、生きていて良かった」
集中治療室を出るやいなや、院長はガーゼマスクを外し、安堵の表情を浮かべながらそう言った。
「時々目を動かしていますよ。レム睡眠のようですね。何の夢を見てるんでしょう」
やれやれ、これでまた患者の間で今津の株が上がるな。
自分はそう思いながら、そう院長に答えた。
そして、植物状態の患者を覚醒させる方法について書かれた論文をチェックするため、自分は院内にある書庫へ向かう事にした。
以上。
338:名も無き冒険者 ◆bc3kq9Tcow
07/12/25 11:12:47
次の題は「漢字」「三角形」「カレンダー」だな。
で、ちょっと他板で書いてる文章の感想をもらいたいんだが、読んだらどうかスレ内に批評をレスしてくれないか。
第二章は時間に追われて書いたせいか、少々描写不足が否めないが、まあまあだろうと思っている。
ぴんく難民板
URLリンク(sakura02.bbspink.com)
「ドキッ!女だらけの海賊団」スレ
スレリンク(pinknanmin板)
339:名も無き冒険者 ◆bc3kq9Tcow
07/12/25 11:56:51
とは言え、自分だけ感想を求めるのもアレだから、このスレにレスされてる文章を批評してみる。
>>316
短編として完結しているな。
文句の付けようもない。
>>317
文章はまあまあだが、内容がありきたり過ぎて新鮮味がない。
>>318
内容も文章もまあまあ。
特に問題はないな。
>>320
ワロス。
短過ぎるが面白い。
>>322
なかなかだな。
俺の路線と少々似ているようだ。
>>324
赤川次郎的な雰囲気がするな。
まあまあ面白い。
>>325
文章が軽薄過ぎる上に内容も平凡だな。
>>326
純文学的な匂いがするな。
まあまあ文学的だ。
340:名無し物書き@推敲中?
07/12/25 12:03:41
>>327
>>324に同じ。
>>328
面白い短編だな。
ソフトバンクのCMを思い出した。
>>329
汚い。
それだけは回避すべきだろ。
>>330
スプリガンのアーカム会(ry
MMO板でも話題に出たが、随分人気のキャラなんだな、あれ。
>>332
内容はガクブルだが平凡過ぎる。
文章はやや難がある。
>>334
題を消化しただけなんじゃないか。
平凡以下。
ここまでだな。