07/10/02 23:08:19
『ガウッガウッガウッガウッ!!』
障子の向こうで、未だに犬の吠え続ける声が聞こえる。
どうやら、犬は吠えるのに夢中で私が来た事に全く気付いていない様だ。
良し、一発怒鳴り倒す!
そう心に決め、障子戸を開け放ち――私は思い出した。
そうだった、数年前に犬は病気で死んでいたんだ。
私の視界に映る庭には、五月蝿いくらいに吠えたてていた筈の犬の姿は無く、
その代わりに、主の無い薄汚れた犬小屋だけが、うら寂しく其処にあった。
………あれほど五月蝿かった家族の一員は、もう2度と五月蝿く吠える事は無い。
その事実を改めて受け止めた私は、1人、縁側で静かに涙するのだった。
とある、秋晴れの1日の出来事だった。
次のお題は「鏡」「剣」「記憶」