07/08/24 18:56:32
二つを並べてみる。
アイボリーホワイトと、瑠璃色。俺と弟のコップ。二ヶ月前、父が買ってくれたものだ。
「ほら、お前たちに買ってやったぞ。うちには食器が少ないからな」
当時は俺だって無邪気に喜んでいた。
でも今になって考えてみれば、罪滅ぼしのつもりだったのかもしれない。
二つのコップの入った紙袋を持ってきた、その翌日から、父は帰ってこなくなった。
置き手紙もあった。けれどあんまりにも平凡な内容で、父が母以外の女のところへ行ったなんて、にわかには信じられなかった。
母は泣いていた。俺は内容を覚えていない。
「女手一つで息子三人を育て上げ……」なんてのはテレビでよくある美談だ。
でもその裏には、もっとたくさんの悲惨な現実が溢れていると知った。
歳をとった女性が就ける職業なんて、とても限られている。
ハローワークに行った母は、毎日肩を落として帰ってきた。
残念ながらあなたにあう仕事は無いようですねぇ、なんて言うのよ、なんて愚痴をこぼしていた。
役所から貰えるお金じゃあ、全然足りない。弟はお腹がすいたと泣いてばかり。
ある日俺が高校へ行くと、先生が気の毒そうな顔をして待ち受けていた。どうやら俺はいつの間にか高校を中退していたらしい。
帰ると母一言、「ごめん」と言った。そしてその日から、彼女は一日中寝て過ごすようになってしまった。
ガスが止まり、一週間ほどして電気が、そしてすぐに蛇口をひねっても水が出なくなった。
翌日、俺は家を出た。黄ばんだホワイトアイボリーのコップを残して。
次、「絵の具」「扇風機」「ペットボトル」