09/06/28 05:19:33
3-5 首都高でナンパ?
>>???
「チキショー、完全に止まっちまいやがったジャンよー。」
「ホントパネェ。」
隣の助手席と後席の左側に座った男がグーたら文句を言っている。それを聞いた運転役の男が、
「文句いっても仕方ねえだろう、お前ら。」
と二人をなだめている。
こんな時間に男3人が一台の車に乗って移動しているのもどうかと思うが、仕事中でもないらしい。3人とも典型的なチャラ男のようである。運転役の男は金髪の短髪で、耳にピアスをした、
黄色い半袖のTシャツにブルージーンズを着て、首にゴールドチェーンのネックレスをしている日焼けした若い男である。この中では一番の二枚目で、このグループのまとめ役のようである。
助手席の男は茶髪にロン毛の、いかにも自分の事をかっこいいと勘違いしたお調子者の三枚目な感じの、赤い半袖のTシャツに白いチノパンを着て、青いジージャンを羽織った若い男で、
後ろに座っているのは黒いTシャツに迷彩のミリタリーズボンをはいた
スキンヘッドに赤いバンダナをした若い男である。
3人はどうやら八王子から渋谷の方へナンパに行くらしい。その道中で渋滞に巻き込まれてしまったという訳だ。尤も改造されているとはいえ、半分クラッシックカーとなっている
黒いY32のグロリアに乗りたがる女子高生がいるかどうか疑問だし、どこかで車を降りるにしても、とてもじゃないが彼らに女の子をゲットすることができるとは思えないから急ぐ必要ないと思うのだが、
彼らはこの状況に不満を持っていた。なぜ、今俺たちは男3人で渋滞の中こんな狭い車の中に閉じ込められなきゃいけないのか、と。
もうそろそろイライラも限界に来た頃、ロン毛の男が気晴らしに窓を開けたとき、彼の眼に一台の車、シルバーメタリックの古いマークⅡが映った。どう見ても黒いスモークが張ってある普通の改造車なのだが、
何か違和感がある。男が目を凝らしてスモーク越しに内部を窺って見ると…
255:ふみあ
09/06/28 05:20:14
「おい、見ろよ。あの車。」
と、中を確認した男が仲間に向かって叫んだ。
「なんだどうした。」
「あの100がどうかしたのかよ。」
「よく見ろよ、運転しているの女の子だぜ。」
「マジで、うお! 本当だ。」
「どれどれ….ほう。」
「他にも女の子が乗っているみたいだぜ。」
「本当だ、っておい、オバンが一人乗っているじゃねえか。」
「でもよお、3人も女の子が乗っているぜ。しかも3人とも女子高生らしい。制服着てるぜ。」
「しかも結構かわいくね? やる? やっちゃう?」
「そうだな、さそうか。おい、直哉、声かけろや。」
「おう、任しとけ。」
と、直哉と呼ばれたロン毛男は助手席から身を乗り出した。
256:ふみあ
09/06/28 05:20:55
>>薫
すごく誰かに見られている、そんな嫌な気配を感じたその時だった。突然運転席の窓をノックする音と振動を感じたので、ドアに肘を掛けて頬杖をついた状態で外を見ると、たまたま並んだ黒いY32から身を乗り出した若い男と目があった。
と思ったら突然その車がクラクションを鳴らしてきた。よく見ると身を乗り出している奴以外に二人の男が乗っているのが見えた。3人ともこちらに手を振ったりクラクションを鳴らしたりしている。
最初は僕の車に異常があるのか、知らず知らずの内に迷惑をかけたのかと思ったが、警告灯は点いてないし、どうもそういう感じではない。どうやらナンパを仕掛けているようである。関わらない方がいいな、と思ったので天城さんに呼びかけた
「祈さん。祈さん。」
「何でしょうか? 薫さん。」
「絶対にそちらの窓の外を見ないで下さい。」
「?」
「なにも聞かないで、ただ目を合わせなければいいんです。前を向いて。」
「は、はい。」
と、天城さんは少し混乱しながらも従ってくれた。
257:ふみあ
09/06/28 05:21:37
その時春日先輩が話しかけてきた。
「薫君、何かあったのかい。」
「ええ、どこかの馬の骨がナンパを仕掛けてきたみたいです。」
「ナンパ?」
「隣に並んでさっきからモーションをかけているみたいです。聞こえるでしょう、クラクション。」
「ああ、それでさっきから警笛が何度も鳴っているのか。で、君はどうするつもりなんだい。」
「僕は無視した方が賢明だと思うんです。だから雪乃様もあまり向こうの方を向かないで下さい。」
「わかった。私もその方がいいと思う。」
その時母親が、
「でも薫、この車に何かあるんじゃないの? その、どこか壊れてるとか、そういう事を教えてくれてるんやないん?」
「それはないわ。どこも壊れてないし。それにあの雰囲気は絶対ナンパよ。」
「そやけどね…」
「言いたいことはわかるわ、お母さん。この車は黒いフィルムを張っているからたぶんあの人たちにはお母さんのこと、見えていないわ。ただ…」
「ただ?」
「保護者がいることをわかった上でやっているとしたら少し厄介ね。」
258:ふみあ
09/06/28 05:22:17
渋滞が解消することを、今か今かと待っていたが、少しずつ列が動くことはあっても、Y32を振り切れるほどには全然届かないレベルである。未だに隣にくっついているY32からは、
余程諦めが悪いのか、まだチャラ男どもがアプローチをかけている。
いい加減に諦めろよと呆れつつも頑なに彼らの誘いを断っていると、「ドンッ」という音と共に茶髪ロン毛が車のドアを拳骨で叩いたのが目に入った。
野郎っ、と怒鳴りかけたが、ここは理性で抑えて右手を左の方へ掌を突き出すように抑止のジェスチャーを取る。左と後ろの方へ口出しをするなと合図してから、
ドアのひんじに付けられた運転席側のパワーウインドウのスイッチをいっぱいに押して窓をあけ、隣の車を睨みつける。
こっちが振り向くのを待っていたのか、目があったとたんすぐに男どもが、
「Yo Yo、彼女。俺らと遊ばない?」
「楽しいことしようゼイ。」
「かわいがってやるぜ。」
と、この手の定番というか、ありきたりの慣用句を並べ立ててきた。やはりその手の誘いだったようである。
259:ふみあ
09/06/28 05:53:40
もともとナンパに乗るつもないし、そもそも乗れないので適当に聞き流して文句を言う。
「すみませんが、今私の車を叩いたのはあなたですか?」
と助手席の男に尋ねるとロン毛の男は、
「叩いたって、ヤダなあ、ちょっとノックしただけじゃん。」
「そうそ、全然俺らの熱いアプローチに気づいてクンねえだもん。」
「だからって、そんな何触ったか分からないような手で車に触らないで頂けませんか。それにあなた方のような色男のお誘いに乗るほど、
私お尻の軽い女じゃありませんから、やめて頂きません? はっきり言って迷惑なんです。」
「車叩いた事は謝るからさあ、そう固いこと言わず付き合ってよ。」
「ていうか、この娘ひょっとしていいとこのお嬢じゃね? ね?」
「ピチピチの女子高生でいいとこのお嬢様かよ、こいつぁ悪かねえな。」
「ねぇ彼女ぉ。ひょっとして隣と後ろの娘もお嬢様のお友達ぃ? だったら俺らにも紹介してくれねぇ? 一緒にどっか行こうぜぇ。」
「ごめんなさい。私たち所用があるんです。他の方を当たって頂きません? それにお気づきではないかもしれませんが、保護者も乗っているんです。諦めて下さい。」
「他の人なんてどこにいるのかなぁ。」
「せめて、名前とメアドくらい教えてよ。」
「ババアなんてほっといて楽しいことしようぜ。」
「全力でお断りします。」