自作小説を書いて見るスレat BUN
自作小説を書いて見るスレ - 暇つぶし2ch200:ふみあ
09/06/20 05:51:47
「でもここ前から6列目ですよ。」
「E-15と書いてあるわよ。」
だからそれは己の目の前の席の番号だっつうの。埒が明かないので後ろの席、G-15に座っている娘に声をかける。
「すみません。ちょっといいですか。」
「なんでしょう?」
「ここF-15番ですよね。」
「そうですよ。座席にそう書いてあるでしょう。」
「ありがとう。ほら、やっぱりここF-15ですよ。E-15じゃないですよ。」
と第三者の言質を取った上で言うと。
「わかったわよ。前に移るわよ。ごめんなさいね。」
と謝っているというよりは、ふてぶてしいというか、いかにも譲ってやったわよとでも言いたげな不遜な調子でこう言って、彼女はどうにかその場をどいてくれた。

201:ふみあ
09/06/20 05:52:28
 やれやれ、やっと座れたぞと思いながら席に着くと、今度は左側に人が立っているような気がする。なんだろうと思って目をやると、
僕と同じぐらい小さい、少し長めのおかっぱ頭の、何か言いたげな女の子がそこに立っていた。恐らくF-2から14の間のどこかに彼女の席があって、
僕の足元を通ってそこに行きたいのだろう。
 何も言わずにそっと立ち上がり彼女に一言「どうぞ。」というと、彼女は「あ、ありがとうございます。」と何かあわてたような、
というよりやっと絞り出したようにそれだけ言って僕のそばを通った。

202:ふみあ
09/06/20 06:00:48
あの娘相当人見知りをするんだなあ、となにか微笑ましいものを感じながら座ると、
「さ、さきほどはありがとうございました。」
と言う声が聞こえた。振り返ると隣の席に先ほどの彼女が座っている。
「どういたしまして。気にしないで、全然大したことしてないから。」
この程度で感謝されても困るのでそう断わっておく。
 ステージ上座の方にある非常口の上に備え付けられたLED式のデジタル時計がAM9:30をちょうど指した頃、突然照明が落とされ、ステージの上が明るく照らされる。
「始まったな。」と小声で一人ごちた時、壇上に誰かが上がってくるのが見えた。

203:ふみあ
09/06/20 06:02:03
 「それでは皆様、ただ今から202X年度、第11X回聖リリカル女学院高等部入学式を開始いたします。まずは、当学院理事長、西脇 貞子より祝辞と挨拶を述べさせていただきます。」
という女性の挨拶と共に演壇の前に現れたのは、パープルのスーツに、濃いバイオレットのレンズのサングラス、ご親切に頭の白髪まで淡い紫に染めた。いかにも口うるさそうな胡散臭い70位のおばあさんだった。ふーん、この人が今の理事長か。

204:ふみあ
09/06/21 04:50:34
 壇上に上がった西脇理事長はやや甲高い声で「あー、あー、ただ今マイクのテスト中、本日は晴天なり。皆様聞こえますでしょうか。」と前置きを置くと、同じような感じで祝辞と挨拶を云い始めた。
「えー皆様、わたくしは先ほどご紹介に預かった理事長の西脇 貞子と申します。本日はお日柄もよく、晴天に見舞われ、誠によろしい入学式日和をむかえられ、遠路はるばるお越しくださいました皆様と共に、今日この時を過ごせることを大変喜ばしく思います。
 生徒の皆さん、高等部入学おめでとうございます。保護者の皆様、御息女のご入学誠におめでとうございます。そして御来賓の皆様方、本日はお忙しい中、当学院の入学式にご足労いただき本当にありがとうございます。
 生徒の皆さんは、中等部、中には初等部や幼稚舎からずっと一緒の方がほとんどだと思いますが、高等部から入って来た子達ともども、この3年間でより一層友情を深めるとともに….」
 すまん、正直覚えているのはここまでだ。あとはこんな感じの話が40分も延々と続いただけだった。

205:ふみあ
09/06/21 04:51:14
 「続きまして、学院長島本 和子より挨拶です。」
と紹介されて出てきた学院長は、紺色の僧衣に白いフードをしたシスターだった。歳はおそらく60前ぐらいだろう。西脇理事長のような話に聖書の逸話を交えたような訓話を30分くらいした。
 さらにその後、校歌斉唱をした。尤も歌っていたのは中等部からの繰り上げ組だけで、こちらとしては案内に書いてある校歌の歌詞を眼で追うのに精いっぱいだったのだが。
 続いて新入生の名前が順番に呼ばれた、どうやらこちらから見て真ん中の通路をはさんで左翼の7席×20列に1~3組の生徒が座り、こちら側の右翼の8席×20列に4~6組の生徒が着席させられているようである。

206:ふみあ
09/06/21 04:51:55
 1組から順番に呼ばれ左翼の分が済み、4組の生徒の番になってしばらく経った頃。
「4組40番吉野 あゆみさん。」
「はい。」
と、先ほどひと悶着あったE-15の女子が名前を呼ばれて返事をした。そうか、吉野っていうのか。
 そして、4組が終わり5組目に入ったころ、
「5組 2番天城 祈さん。」
「は、はい。」
と、今度は僕の隣、さっきの女の子の名前が呼ばれた。同じクラスらしい。
 そして続いて、
「5組 3番綾小路 薫さん。」
おっと名前が呼ばれたぞ。
「はい。」
と返事をする。
 そのうち今度は
「5組 11番菊池 静香さん。」
「はい。」
とすぐ後ろから声が上がった。この人も同じクラスらしい。
 6組の45番の人まで名前が呼ばれると、保護者会長からの簡単な挨拶があり、なんだかんだとあった後入学式は終了した。

2-7終了 2-8に続きます

207:ふみあ
09/06/22 04:21:34
2-8 教室にて
>>薫
 入学式が終わったと思ったらすぐ新入生はクラスごとにそれぞれの教室、新校舎1階の1年生の教室にクラスごとに移動することになった。
 徒歩10分で教室に着くと、クラス番号順に座ることになった。
僕の席は一番廊下側の前から3列目、少し微妙だ。ほんとのことを言うと一番教卓の傍、3列目か4列目の一番前が良かったんだけどな。え、普通後ろじゃないかって。実は後って教壇から丸見えな分さぼりにくいんだよね、寧ろ前の方が案外教師の死角になっている場合が多いのだ。


208:名無し物書き@推敲中?
09/06/22 04:22:20
 まあ、それは置いといて、先生が来るまでの間、早速僕は後ろの人にからまれ、もとい話しかけられていた。
「ねえねえ。」
猪瀬って呼ばれてたよなこいつ。そこそこ良い髪質の肩までの長髪をツインテールにした、いかにもミーハーな感じの、名前の通り猪突猛進というか、直線番長というか、そんな感じの女子生徒だった。
「なんですか。」
とりあえずウッとしいので返事をすると。
「綾小路さんだよね?」
他に誰がいるんだ、番号順に並んでいるだろう! と思って
「そうですが。」
と返事すると。
「珍しい名前だよねえ。綾小路 清麿と親戚だったりするの?」
綾小路 清麿というのは今(202X年現在)ティーンエンジャーを中心とした若い女性に人気があるイケ面俳優、シンガーである。


209:名無し物書き@推敲中?
09/06/22 04:23:10
「まさか、違いますよ。それにあの人のは芸名で、本名は全然違う名前のはずですよ。」
「あれそうだっけ、じゃあひょっとして綾小路グループの?」
「ええ、まあ…祖父が一応総帥をやっています。」
「へえええ、すごおおい! じゃあ深窓のご令嬢?」
「いえ、違いますよ。母も家を出て大学の講師をしているし。父も大学病院に勤める医学者ですから。」
「それでもお嬢様には違いないじゃない。」
おまえ、それ本気で言ってるのかと、思わず相手の顔をじっと見てしまった。はっきり言ってお前が思っているよりずっと給料やすいぞ。これでお嬢様なら親が部長や課長でも令嬢になれるわ! と言いたいのを我慢して。
「ほんとにそんなことないですよ。」
「またまたあ。」
「ほんとにそんなことないですってばア。」
しつこいなと、すこしいらいらしていると。
「そういえばさあ。」
いきなり話題を変えてきた。


210:名無し物書き@推敲中?
09/06/22 04:24:14
「綾小路さんって、見かけによらずハスキーだよね、声が。」
「?!」
「なんていうか、アニメの男の子の声を聞いてるような。」
「そ、そうかな。ははは..」
精いっぱいクールに決めようとしてはいたが、内心は、ひょっとしてバレタのかと、ヒヤヒヤしていた。
「わたしはかっこいいと思うよ。」
「そ、そう。ありがとう。」
良かった。どうやらバレテないらしい。少しほっとする。
 そういえば名前を訊くのを忘れていた。それは向こうも同じだったらしい。
「そういえば綾小路さん、下の名前なんていったけ?」
「薫ですけど、えーとあなたは?」
「わたし、直子、猪瀬 直子ていうの。よろしくね。」
なんて素晴らしいセンスな名前だ。ピッタリにもほどがある。今更自己紹介かよ。
「そういえば天城さんも、珍しいって言えば珍しいよね。」


211:名無し物書き@推敲中?
09/06/22 04:25:23
 こいつまた脈絡もなく話題を変えてきたぞ、しかもターゲットまで変えてきた、まさか自分に振られるとは思わなかったのだろう。哀れな天城さんはただ、
「え、え、えええ。」と困惑しながら繰り返すばかりである。
「天城ってさ、あの天城山の天城? あの演歌の。」
「え、そ、そうで…す。」
「じゃあ、ひょっとして天城さんて、あのアマギ 弥勒と親戚とか?」
 天木 弥勒というのは、今をときめく漫才コンビ『天女』のツッコミを担当し、ボケの早乙女 勝と共に世間で、
一番面白いイケ面漫才師として有名な若手のお笑い芸人である。もっとも僕個人としては、なぜ彼らが世間、特に若い女性から面白いと評されるのかは理解に苦しむのだが。


212:ふみあ
09/06/22 04:33:14
 ま、どっちにしろ親戚ということはないだろう、字が違う。と思ったが。
「あの、ひょっとして天女の天木 弥勒でしょうか?」
「そう、その天木 弥勒!」
「ええ、私の兄です。」
えー!マジで親類かよ、しかも実の兄貴だよ。予想の斜め上いっているよ。そういえば彼の名前は芸名であることをどこかで聞いたことが得るように思う。と、いうことは?
薫「じゃあ、ひょっとして天城さんて…」
直子「アマギ製薬のお嬢さん?!」
祈「は、はい。」
アマギ製薬は最近とある画期的な新薬を開発し、急成長している製薬会社であるとともに、天木 弥勒の実家が経営をしていることでも有名である。


213:ふみあ
09/06/22 04:34:29
 「ひゃあ、信じられない。入学早々いきなりこんな大会社の令嬢と、二人もお近づきになれるなんて。」
と猪瀬は興奮して泣きそうになっている。ここまでとり乱す様子からして、おそらく彼女は推薦で入って来たのだろう。でなければよほど、ミーハーな性格か、令嬢マニアに違いない。

2-8終わり、2-9に続きます。

214:ふみあ
09/06/22 20:38:09
>>208-211
わかると思うけど俺のレス

215:ふみあ
09/06/23 04:40:14
2-9 新しい友達
>>薫
 やはり、猪瀬は特待生だった。本人がそう言ったのだから間違いない。去年のその世界的に有名な芸術祭のジュニアの絵画の部門で金賞だかを取って、それによる推薦で来たのだという。
 天城さんもまた、他の大部分の生徒と同様に中学部からのエレベーター組であり、リリカルには幼稚舎のころから通っているのだという。
 よく見ると、早くももういくつかの、おそらく中学からの友人同士であろうグループが形成されていた。そして大部分がそのどれかに入っている。当然のように少数の高校から入って来たはみ出し組がこちらに引き寄せられていた。
 スポーツ推薦で入って来た25番の成瀬 瑠衣、全中のインターハイで去年短距離の中学生記録を大幅に塗り替えた新星である。もう一人の42番の吉本 麻里亜、彼女は芸術推薦枠だが、猪瀬とは違い、2年前にウィーンで行われたコンクールでいきなり最年少で入賞し、
今や世界中でリサイタルを行っている天才ヴァイオリストである。この二人はメディアに大きく取り上げられたので、この手の世事に疎い僕でも名前と顔だけは知っているし、吉本 麻里亜に至っては、僕自身長くヴァイオリンを習ってきた関係で、買ってきた彼女の
CDが家に何枚かあるはずだった。まさか同じクラスになるとは思わなかった。


216:ふみあ
09/06/23 04:41:30
 おそらく彼女らもよそ者として扱われたのか、有名人なので恐れ多くて誰も近づかなかったのか、はたまた両方なのか、かなり席が離れているにも関わらずこちらの方へやって来た。
 まず、いかにも人見知りをしなさそうな成瀬が
「ヤホー、直子、おひさー。」
「瑠衣! やっぱり同じクラスだったのね。よかったあ。」
 どうやら猪瀬と成瀬は同じ中学だったらしい。どんな中学だったんだ?
「そっちの人たちは?」
と成瀬が訊くと猪瀬は
「新しくできたクラスの友達!」
と嬉しそうに言った。おいおい、いきなり友達かよ。こっちはまだ知り合い程度の認識しかないんだが。まあいい、とりあえず自己紹介だけしとく。


217:ふみあ
09/06/23 04:42:46
「綾小路 薫です。よろしく。」
「あ、天城 祈…と申します。よ..よろしくお願いしま..す。」
「私、成瀬 瑠衣。よろしくー。しかし二人とも固いねえ。もっとリラックス、リラックス♪。」
「そうですか、僕はこれが普通だと思いますが。」
「わ…私もこれが普通..です。」
と、いうよりむしろお前の方が軽すぎるわ!と思っていると今度は猪瀬が、
「瑠衣はね、去年インターハイで新記録を取ったんだよ。」
とすでに誰もが知っていそうなことをいう。しかし天城さんは知らなかったらしく、
「そうなんですか。すごいです。」と感心している。
「すごいだろう。えっへん。」
「ほんとすごいんだよ。」
「すごいです。すごいです。」
と盛り上がっている。
「100メートルの中学生記録を大幅に更新したそうですね。期待の新星として新聞にも載っていましたから、ご活躍のほどは存じています。」と僕が言うと、猪瀬が、
「そうなの、そうなの。それでね…」
だいたい何を言うのか見当がついていたので先手を打たせてもらう。
「おそらく、それを買われてこの学校に推薦で入って来た。ということでしょうか。」
「何でわかったの?!」
「ほー!」
「綾小路さん。…すごい..です。」
「いや、この学校にいるという時点ですぐに予想できることですから(;・`д・´)。」
ていうか、なんで天城さんまで感心しているんだ? そんな尊敬をこめた目で見られても困るんだが。


218:ふみあ
09/06/23 04:46:02
 すると猪瀬がこちらを窺っていた吉本の存在に気が付き。
「あなた、吉本 麻里亜じゃない。あの天才ヴァイオリストの!」
「ええ、そうだけど。」
「やっぱり!」
「ほ、本当だ。すごい! 本物だ!!」
「わ…私、あなたのファンです。サ..サインを頂けませんか?」
どうやら、僕を除く3人は彼女の猛烈なファンだったらしい。それこそ今回最高潮かと思うくらい、テンションを上げてはしゃいでいる。
 吉本の方も、さすがに自覚があるのか、いや満更でもないのか。笑顔でサインに応えていく。ただ、一人だけサインをねだらない僕を訝しく思ったのか。
「あなたは、私のサインはいらないの?」と訊いてきた。
「別に。あなたが世界的にその将来と才能を嘱望され、ご活躍なさっていることはよく存じているし、ヴァイオリンを習っているものとして、あなたの事をとても尊敬しているし、お会いできたことを本当に光栄だと思いますけど、
僕自身はそこまで熱烈なファンではありませんので。それに…」
「それに?」
「今、サインを頂かなくても、頂こうと思えばいつでも頂けるじゃないですか。だって私たちクラスメイト何ですから。」
「それもそうね、あなた面白いわね。名前を聞いていいかしら。」


219:ふみあ
09/06/23 04:47:24
「そう言えば、まだ自己紹介をしていませんでしたね。僕は綾小路 薫と申します。これからよろしく。」
「こちらこそよろしく。吉本 麻里亜よ。そちらの方々は?」
「私、猪瀬 直子。これからよろしくね。麻里亜さん。」
「こちらこそ。そういえばあなた確かこの前の東京世界芸術祭でジュニアの絵画部門で金賞を取ってなかったかしら。」
「そうです。よくご存じですね?」
ホントよく知っているなあと感心していたら。
「私もあの大会の開会式と閉会式の時にゲストとして弾いていたからよく覚えているの。」
ああそうだったのかとも思ったが、普通そんなこと覚えているか? よほど記憶力がいいのか、いや、それだけ猪瀬の作品が印象深いものだったのか。いずれにしろ猪瀬の絵がすごかったということに間違いないだろう。
機会があれば見せてもらおう。


220:ふみあ
09/06/23 06:12:33
 次に成瀬が自己紹介する。
「私は成瀬 瑠衣、よろしくねー。」
「よろしく、あなたの噂も聞いているわ。短距離の中学生記録を塗り替えたんですってね。世界記録じゃないけど大したものだわ。」
「これは、どーも。」
 最後に天城さん。
「わ..私、天城 祈と申します。こ..これから宜しくお願いします。」
「こちらこそよろしく。ひょっとしたらあなた、天女の天木さんの妹さんかしら。」
「そ…そうです。」
知っていることもすごいが、天木 弥勒のことをよく知っている友人か知り合いのような感じで呼んでいたぞ?
「やっぱり、天木さんが妹がこの学校に通っているというような事を言っていたからもしかしてと思って。」
やはり、よほど親しい知り合いのようである。しかし、漫才師とヴァイオリストに接点などあるものなのだろうか? 押し付けがましいが聞いてみる。
「あの…。」
「何、薫さん。」
「麻里亜さんは天女の天木さんと親しいお知り合いなのですか?」
「ええ、以前ある番組でご一緒して、それから親しくさせていただいているわ。」
「へえ、そうなのですか。」

221:ふみあ
09/06/23 06:13:13
なるほど、どういう番組か知らないが、彼女はある意味アイドル視されているから音楽番組だけでなくちょっとしたバラエティ番組にも出演することがあるのだろう。
 そんな感じにいつの間にか仲良くなった我々5人は、担任が来るしばらくの間、取り留めもない雑談をして過ごしていた。


第二章 完

第二章終り、次は第三章をうpします。

222:ふみあ
09/06/24 03:51:06
第3章 お出かけとか

3-1 鈴木先生登場
>>薫
 この教室は、というより校舎はかなり変わっていると思う。
 まず、すごくというより無駄に豪華な造りと設備を備えているのに、全く新しくない。
廊下と教室の仕切りの壁に窓がついていないのはいいとしても、教室の扉が木製の重厚
な外開きの扉なのはどうかと思うし、後者の窓も普通の引き戸タイプではなくアーチ型の、まるでヨーロッパのお城かお屋敷にあるような、いかにも重そうな感じの開くタイプのものだし、
蛍光灯も黒板を照らす二本と、真ん中辺りを照らす、2列ずつ3組並んだもの以外は壁と天井の間のポッドに仕込まれた蛍光灯から照らされる間接照明が使われている。
 教室にかかった黒板も立派なものである。埃一つないピカピカの黒板自体もそうだが、黒板の取り付け枠もよく見ると黒檀てできたレリーフまで掘られている無駄に立派なもののようである。
しかし、そこについているチョーク入れや、黒板消し、チョーク、黒板消し機は至極普通、というより華麗な黒板の雰囲気と相まって余計安っぽく見える。
黒板に金掛けるなら他の備品にもそれなりに金を掛けてやれよ、聖リリカル女学院…。
 クリーム色の壁は、まっ白よりも温かみがあり、上品な感じを受ける。黒板の両側に50Vくらいの大きな液晶テレビが掛けられている。教壇も年季が入った材質の良い、いかにも高級そうな作りなのだが、
なぜ教卓だけその辺の学校に普通にあるありふれたものなんだ? どうもこの学校は中途半端に金をかける高校らしい。


223:ふみあ
09/06/24 03:52:48
 教卓こそ安っぽいが、学生の机は椅子と机が分離した、木製の高そうなものである。すごく古いものであることに目をつぶれば、一体型と違って椅子と机のポジションを自由に調節できる点で背の低い僕にはかなりありがたい。
 校舎が古いためか、教室の後方の天井に2機並んでぶら下がった業務用のエアコンは教室で操作できない。まあ、これは高市でもそうだったので気にはならないが、ここの事務の人は体感温度が人と違うのか、この時期にガンガンに暖房を掛けている。
お蔭で熱いったらありゃしない。窓際の人は窓を開けているが、こちらには開ける窓すらない。地獄だ。
 そうこうしているうちに、廊下を何人かの人が歩いている気配が感じられた。思わず、
「先生が来られたようですね。」
というと。猪瀬と成瀬の、
「え、先生来たの?」
「やばい、私戻るね~。」
という声を皮切りに、三々五々と各々の席に戻り、姿勢を正す。
 ついにその中の一人が教室前方、教壇がある方の扉に誰かが立ったことが足音と、扉の向こうの気配で伝わってくる。
 ついに、扉が開き一人の女性が教室に入って来た。
とたんに教室中の、のけもの組以外の全員が、「キャー」だの「やった、命先生よ。」
「命先生だ。わーい。」「良かったぁ。ミコちんだぁ。」などの黄色い歓声があがった。
 どうやらこの学校は一貫校ではよくあるが、高等部と中等部を同じ先生が兼任しているらしい。そしてその中では、命先生は生徒にかなり人気があり、慕われているらしい。


224:ふみあ
09/06/24 03:54:04
 先生は教壇に登り、教卓の前に立つと、よくとおる声で、
「みんなー、久しぶりー、元気でしたかー?」
と言った、というより叫んだ。て言うか普通自己紹介しね? みんながあなたを知っていること前提で話進めんな、先生!
 そういうことはお構いなく先生の話は進む、
「休み中は楽しかったですか? だけど楽しい休みも今日でおしまい。今日から新学期です。姿勢を正し、張り切っていきましょう!」
「はーい。」(←のけもの以外)
 どうやら先生は、教師としての質よりも、生徒の受けの良さで人気があるらしい。髪が長くて、面長な美人ではあるのだが、身長が低い。恐らく僕より少し高いくらいだろう。僕が大体145cmだから、147か8cmぐらいか。
そんなミニマムサイズ+こういうハッチャけた性格で、生徒から親しまれているのだろう。
 だからと言って、取り残させるのは勘弁したい。他の生徒と一緒になってはしゃいでいる? 天城さんに話しかけた。
「祈さん。祈さん。」
「何でしょうか。薫さん。」
「今、教壇でお話をされている先生は、どなたなんでしょうか?」
「しらないんですか! 薫さん。命先生ですよ(`Д´)。」
「いや、今日が初登校なので、先生のお顔とお名前をよく存じてないんですが(;・∀・)。」
「あ、そうでしたっけ?」
「僕、高等部から編入することになったので。」
「それなら仕方ないですね。彼女は鈴木 命先生。国語の現代国語を教えられています。」
「そうですか、鈴木先生というんですか。へえ。」
僕たちの私語に気がついたのか、鈴木先生が注意してきた。
「そこ、私語は慎みなさい。」
「すみません。気を付けます。」
「よろしい。」


225:ふみあ
09/06/24 03:55:10
はあ、とため息をつきながら席につき、姿勢をただすと、鈴木先生が出欠を取り始めた。
「では、出欠をとります。相田さん。」
「はい。」
「天城さん。」
「は..はい。」
「綾小路..さん?」
「はい。」
「あなた、高校から入ったの?」
「はい。」
「綾小路っていうことは、2年3組の綾小路さんの妹さんかしら。風紀委員の。」
「いえ、妹ではありませんが、従妹です。」
「ということは先代理事長の曾孫さんということになるのかしら。」
「はい。」
「そう、えーと次は、猪瀬さん。」
「はい!」
「元気いいですね。あら、あなたも高校から入って来たのね。しかも特待生?」
「はい。」
「ひょっとして、去年の世東芸で金賞を取った猪瀬さんかしら?」
「はい、おかげさまで金賞が取れました。」
「そう、それはおめでとうございます。そして次は今井さん。」
「はい。」


226:ふみあ
09/06/24 04:02:26
と、点呼がつつがなく進む中、天城さんや、その他僕の周りにいた。4.5人の生徒が身を乗り出してこんなことを聞いてきた。
「綾小路さんは本当に葵様と従姉妹同士なのですか?」
「ええ、葵お姉様のお母様と僕の母が姉妹ですから。お姉様は母方の従姉に当たります。」
人前でお姉ちゃんというのもどうかと思うし、リアル姉妹でもないし、かといってこの状況で呼び捨てにするのもあれなので、柄ではないがお姉様と呼ぶことにした。
 従姉妹同士だと言った瞬間、へえ、とか、えー、とか周りから小さな感嘆のため息がもれている。どうしたものかと思って、
「あの、葵お姉様って、この学校でめちゃくちゃ有名な人だったりするのでしょうか。」
確かに、お姉ちゃんは成績も優秀な生徒で、美人で、マドンナのような雰囲気があるが、この学校でそこまで有名だとも思えない。
「有名も何も、この学校で葵様を知らない人の方が珍しいですわ。」
「風紀委員長の紫苑お姉様のプティ・スールで、次期風紀委員長のナンバーワン候補で、凛々しい雪乃様とのツーショットも素晴らしい。」
「へ、へえ。(;・∀・)」
「将来のエルダー候補の一人ですわ。」
「そ、そうなんだ。」
どちらかというと葵姉ちゃんというよりも葛城先輩や春日先輩の方が有名らしい。


227:ふみあ
09/06/24 04:54:48
 そうこうするうちに、いつの間にか点呼が終わったが、驚いたことがある。
クラスに外国人の生徒が二人もいたのだ。
 一人は父親がIT系の大手企業を経営する華僑の楊 美鈴、そしてイギリスから留学してきた自称伯爵家令嬢のレイラ・A・フォルチュナの2名である。
 ただ、それだけのことであるのだが、一つのクラスに外国人(楊は在日の華僑なので微妙だが)が二人以上いるってその手の学校でない限り、普通そうそうないだろうと思って、珍しいと思った次第である。まあ、ただ単に僕が田舎者だというだけのことかもしれないが。

3-1終了。3-2に続きます。

228:名無し物書き@推敲中?
09/06/25 01:26:09
青森にまで車中泊の旅に行った帰りのこと

携帯のバッテリーがなくなって秋田のとある道の駅によった
夜の10時も越えていたので人もなく店も閉まっていたが
観光客用の案内所だけは灯りがついていたので中に入ってみると
壁際にコンセントがあるのを発見した。

当然、他人のコンセントから無断で電気を借用するのは窃盗罪にあたるので
常識人の俺が充電に使うことはないが、1つだけ解せないことがあって

【ご自由にお取り下さい】

という張り紙が壁に貼っており、その下には観光案内用のパンフレットが並んでいた
しかし、ここで問題なのは
そのご自由にお取り下さいが、その下にあるパンフレットを差して言っているのか
それとも、さらにその下の電気コンセントを差して言っているのか不明だと言う点だ。

俺は悩んだ。
そして状況判断するよしもない事象に対し
悩んでも明確な答えが出るわけないと、無意味な考慮を止め
そして、このような場合は両方を差して言っていると解釈するのが一番自然だと結論を締めくくり
なに気兼ねなく携帯の充電をして待つことにした。

それから5分くらいして、その近所に住むであろうヤンキー風の青年たちが5,6人集まって来た
秋田の田舎で、雨風を凌げて灯りもあり夜に集う場所なんて言ったら、どーせここしかないのだろうと
俺は納得をして一人、部屋の片隅で携帯の充電を待つことにした。
因みにその建物は自動ドアになった入り口が1つだけあり、俺のいるのはその真反対の壁際だった。

充電を待っている間、暇なので彼らの話に耳を傾けていると
どうやら盗んだバイクの代金を巡っての会話であり
先輩らしき青年が後輩らしき青年にその代金の請求をしているという内容だった

229:名無し物書き@推敲中?
09/06/25 01:27:51
・・これは酷い。俺は内心、舌打ちをした。
まっとうな代金の請求ならともかく、盗んだバイクの請求を人に対して行うなんて、なんて酷い輩だ。
それが盗品であっても、金を出して購入した者は、その事実を知らなければ罪に問われない。
しかも正当な売買にあたるために、仮に事件が発覚しても、その品物の所有者としての権利はあるのだという
だから早く17万払えと・・先輩風の青年は後輩風の青年に対して説得していた。

確かにそのバイクはカワサキのゼファーという400ccの中型バイクで、それが盗品とはいえ17万円なら安いものだ
俺でも欲しいくらいだ。いや、何なら俺が買おうか?実家の大阪まで乗って帰るよ
と、思わず話しに割り込みそうにもなったが
それはそれ。常識人の俺は、つぶさに、事の善悪に立ち戻り
いやいや、それでは元の持ち主の立場はどうなる?と、その先輩風の青年を苦々しく見守った。
するとその先輩風の青年は、そんな俺の心を見透かしたかのように、このように付け加えた。
「心配すんな。仮に見つかっても捕まるのは俺だし、バイクの代金の半分くらいは元の持ち主のポストにでも入れとくからよ」

これで決まりだ。
元の持ち主にもチャンと、それ相応の代金が支払われ(若干、市場価格から低いとはいえ)
尚且つ、自らは法に裁かれないとなると、これは完全に合法であり公平な売買ではないか。
迷うことはない。後輩風の青年が支払う意志がないというのであれば、それは不当な収得にもあたる
すみやかに所有権を放棄して、そのバイクを俺に渡せ。
俺は一人でそんな結論に達し、ヤキモキした気持ちで後輩青年の言動を見守った。
すると後輩の方も、先輩の説得に納得したのか代金の支払いに合意し、次の給料の時に支払うということで話がついた。
しかし、その後にその先輩の言った言葉に俺は耳を疑った

「ああ。これで決まりだな。出来るだけ早く払えよ。ところでよ、そこで1つ頼みなんだけど
 金払った後もこのバイク、俺に貸してくれねーか? 俺、今、足がなくてよ。暫くこれ必要なんだわ」

なに~い!!!
これは酷い。金だけ払わせておいて、自分の物にするとは
これは先輩の風上にもおけない。チョッと見直した俺がバカだった。

230:名無し物書き@推敲中?
09/06/25 01:29:47
ええい!もう我慢ならぬ
一層のこと、この傍若無人な若者を警察に通報してやろうかしら
いいや、俺は恐くないぞ。別に警察が来るまでこんな奴ら、いくらでも対抗してやる
こんな気負いとも似た正義感に火をつけられた俺だったが
なにかハッキリとした理由は分らないが、自分もやばいような気がしてやめておいた。
いや、別に自分はバイク盗難なぞに関わっていないので、何も後ろめたい気持ちはなかったが
なにか別件ぽいことで自分にも非があるのではないかという妙な罪悪感に襲われ速やかに、その場を立ち退いた。
見ると携帯のバッテリーが1に増えて大量の迷惑メールを受信していた。

231:名無し物書き@推敲中?
09/06/25 02:50:13

単純で平凡な日々にやられちまえ
単純で平凡な日々にやられちまえ
単純で平凡な日々ってやつは
特別に単純で平凡な日の連続だ
そりゃもう、言葉に出来ないくらいのもんで。

米田だいき



テーブルの中央に置かれた花瓶を避けながら、亜美はこの作文用紙を僕に突きつけた。
なに、と問いかけると、対面に座っているだけの僕に対して不満があるような口調で
「読んで」
とだけ言った。


232:名無し物書き@推敲中?
09/06/25 02:52:49
読み始めると、僕がまだそれを読み終わらない内から「この文章って変でしょ」
と聞いてきた。

僕は少し間を置いてから
「うん、変だね」と返した。
「おかしいでしょ」
「うん、おかしい」
「私、本当に変と思ってるのよ」
「分かってるよ」
と言い返すと、さすがに亜美も静かになって先程の花瓶を見つめ出した。
僕はその沈黙を利用して、だいき君の名前の字を予想した。
きっと、大輝か大毅なのだろう。ただ「大き」と書くのが恥ずかしくて、平仮名で書いてるだけなのだろう、と考えている内に
「やっぱり、変よね」
ともう一度亜美が呟いた。

233:名無し物書き@推敲中?
09/06/25 02:54:53
僕には段々と、彼女が自分の担当クラスの生徒がこの作文を書いたと認めたくないだけなのではないか、と思えてきた。
それは「だって、小学三年生なのよ」という言葉を彼女が必死に食い止めている様に思えたからだ。
だから彼女には、変だ、という表現しか出来ないのだ。

そんな彼女を見て、僕は笑いを吹き出してしまった。彼女は、何で笑うの、と机を叩いた。花瓶が少しぐらついた。

「だって、これはベルギーの有名な詩人のパクりだよ。使っている単語は随分子供向きになっているけどね。だいき君は見栄っ張りな可愛い小学生だ」
と僕が教えると、彼女は大きな溜め息をついた後に少し笑った。


僕はこうやって毎日嘘を増やしている



234:ふみあ
09/06/25 07:09:22
>>227
>>薫
 点呼が終わったあと、鈴木先生がいきなりこんなことを提案した。
「それでは、ここで初めてお友達になる人もいることですから、順番に自己紹介をしましょう。それぞれ自分の出席番号と名前、後は趣味とか得意科目とかをみんなに紹介してください。では、先生からいきますね。」
といって、黒板に大きく鈴木 命と書くと、
「私は鈴木 命。イノチと書いてミコトです。今日から1年間1年5組、つまり皆さんの担任として1年間一緒に頑張ることになりました。担当は現代国語です。趣味は読書と映画鑑賞です。
皆さんこれから1年間一緒に5組を盛り上げていきましょう。では、相田さんからお願いします。」

 うわー、自己紹介か、苦手なんだよなー。下手すると僕が男だとばれる可能性もなくはないわけで、あまりしたくはない。しかし、僕は3番目である。後の人を考えれば、下手な質問攻めにも逢わないだろう。天城さんも自己紹介を終えて、すぐに僕の番が回って来た。
「出席番号3番、綾小路 薫です。得意科目は生物と歴史と数学と現国、趣味は音楽を聴くことと読書、あと車が大好きでよく変わっているね、と言われます。家庭の事情でこの春からこちらに入学することになりました。不束者ですが、皆さんよろしくお願いします。」
 一言も嘘をつくことなく、かといって正体を晒すこともなく簡潔に自己紹介をすることができた自分に呆れつつも感心しながら、周囲からの軽い拍手を受けながら僕は席に着いた。

3-2終了。3-3に続きます。

235:名無し物書き@推敲中?
09/06/25 08:42:02
ラノベ

236:ふみあ
09/06/26 06:20:10
3-3 第一陣到着!
>>薫
 「それでは、今日は、この位にしときましょう。では、瀬川さん。」
「はい、起立。礼。着席。」
一同が起立礼した後、鈴木先生は教室を出て行った。
 自己紹介の後のオリエンテーションは特にやることもなかった。あったことと言えば新学年を迎えての学校からのお知らせと自己啓発と健康診断の案内を書いた何枚かのプリントが着たぐらいで、
後は号令を掛けるクラスの級長、たまたま席の位置的に先生の一番近くにいた、16番の瀬川 湊を決めたぐらいである。
 予定の12時半よりだいぶ早く終わったのでどうしようか思案していると、猪瀬が話しかけてきた。
「薫さん。祈さん。一緒にこれからどこか遊びに行かない?」
「私は…かまいませんけど。」
「ごめんなさい。誘ってくれたのはうれしいんだけど、すでに先約があるので一緒に行くことはできないわ。また今度お誘いしてくれないかしら。」
天城さんは行くつもりのようだが、僕には葵姉ちゃんや母さんと約束があるので、悪いけど今回は断らせてもらった。が、
「あら、先約って?」
「僕の母と、葵お姉様と一緒に出かけることになっているんです。」
というと、猪瀬と天城さんは急に前のめりになりこう言った。
「葵様も来られるんですか。」
「ええ、たぶん葛城先輩と春日先輩も来られるはずですが。」
「紫苑お姉様と雪乃様も来られるんですか?!」
「え、ええ。」
「薫さん。」
「は、はい?」
猪瀬、顔が近い近い。

237:ふみあ
09/06/26 06:21:38
「私たちも御一緒していいかしら?」
「で…できたら私も。」
「ちょっと待って、お母様とお姉様に訊いてみますから(;・`д・´)。」
少し予定外なことになったので、母親の携帯に電話するため、携帯の電源を入れる。恐らく4人とも同じ場所にいるだろう。
 何回かの着信音の後母親が出てきた。

238:ふみあ
09/06/26 06:22:20
「もしもし。」
「もしもし、薫です。お母さん?」
「そうだけど、どうしたの?」
「葵お姉様と、紫苑様と雪乃様そっちにいる?」
「いるけどどうしたん。あなた急に女言葉になって。」
「今、教室からかけているの。」
「ああそうなん。」
「それでみんなはそこにいるの?」
「ええ、いるわよ。」
「実はクラスで友達になった子たちがさ、一緒に行きたいって言っているのだけど、かまわないかしら? って訊いてみて。」
「お母さんはかまわないけど。」
「お母さんがいいならいいけど、一応葵お姉様たちにも訊いてみて、どっちかっていうとそっちが目当てだから。」
と小声で言うと、
「葵ちゃんたちはいいってさ。」
「そう、だったら連れて行くわ。待ち合わせは正門でよかったよね?」
「いいけど。もう終わったんなら待ち合わせの時間、早めようか?」
「ありがとう。10分でいいかしら。」
「かまわないわよ。」
「ありがとう。じゃあそういうことで。じゃあ。」
と言って電話を切ると、

239:ふみあ
09/06/26 06:23:01
「どうだった?」
「いいって、一緒に行きましょう。」
「やった。おーい瑠衣、麻里亜さーん。」
「どうした?」「何かしら直子さん。」
「実は薫さんがね…」
連れて行く人数が増えた。
 その時、急に僕の携帯が鳴った。出てみると、
「綾小路 薫様の携帯ですか?」
「はい、そうですが。」
「ショップ如月の者ですが、お車を届けましたので受け取りを…」
いつも利用している馴染みのカーショップからの電話だった。陸送を頼んでいた車が届いたようである。聞かれたら少しまずいので、その場から席をはずし廊下に出る。
「そうですね。できれば高等部の寮の前で受け取りたいのですが来れますか。」
「さあ、なにぶん車が大きいものでどこまで入れるかわかりませんが、いけるところまで行ってみます。」
「では、寮の前でということで。目印は何かありますか?」
「赤いトレーラーなのですぐにわかると思いますが。」
「そうですか、いつ受け取れますか。」
「もう、目の前まで来てますから、5分もあれば十分ですよ。」
「じゃあこれから取りに行きます。」
「ではお待ちしています。」
「お願いします。」
電話を切った。

240:ふみあ
09/06/26 06:23:42
 天城さんと、猪瀬と成瀬、吉本さんを連れて葵姉ちゃんと合流した後と、葛城先輩が困った顔で待っていた。どうしたのかと思ったが、そばに止めてあったミニバンでとりあえず状況は呑み込めた。どうやらこのミニバンで行くつもりだったらしい。
僕が4人も連れてきたせいで、全員乗り込めなくなったのである。
 葛城先輩が免許持ちだったことも意外だが、逆に僕にとっては好都合となった。
 とりあえず、「ちょっと寮の方に荷物置いてくるけど、一人で行くわ、少し私用があるの」
と言っても怪しまれるのが落ちなので、母親にだけ、
「車が届いたそうだから受け取ってくる。ついでにそっちに回してくる。」というと、
「別にいいけど、あなた大丈夫なの、取ったばかりでしょ。」
「大丈夫だよ。得意だから。」と答えて荷物を置くがてら車を取りに行く。
 寮棟まで戻っていると、すでに寮の玄関へ続く道に入る交差点の傍まで赤いトレーラータイプのキャリアカーが止まっていた。
運転していた店の人は、はじめは僕の姿に驚いていたが、事情を知っているためか、受取証を僕が提示したためか、すぐに車を下ろしてくれた。

241:ふみあ
09/06/26 06:59:30
 今回来たのは、フォグランプが付いた後期型のGT-R34、前期型jzx-100のマークⅡとチェイサーとクレスタ、
後期型の180クラウンアスリート、Y31シーマ、Y31セドリックセダンのVIPブロアム、Y33グロリア アルティマの計8台だった。
 とりあえず目の前の道路に縦列で並べてから、後は一人でできるのでと、トレーラーには帰ってもらった。
 トレーラーが去った後、一台ずつ寮の裏手の駐車できそうなスペースに注射した後、マークⅡのトランクに鞄だけ積んで、シートベルトをしてエンジンを掛けて、
ブレーキを踏みながらギアをDレンジに入れ、パーキングブレーキをはずしたあと、ステアリングを切りながらアクセルを踏み、校門の方に車を回した。
 当然というべきか、20年以上前の古いモデルで、ローダウンにホイールやブレーキを交換、マフラーも左右二本だしにし、ハイマウントストップランプ付きのウイングを付け、
フルエアロにした、ドリ車なのかVIPカーなのかよくわからないシルバーメタリックのハードトップセダンがミニバンの横に並んだとたん、母親以外の全員が目を点にしていた。

242:ふみあ
09/06/26 07:00:29
 葵姉ちゃんが目を丸くしながら、
「クーちゃん、この車は?」
「僕のですけど。」
と言うと、猪瀬が、
「なんか、暴走族の車みたい。」
「せめて走り屋と言っていただけないでしょうか。」
天城さんが、
「兄の車に雰囲気がよく似ています。」
「そうなんですか?」
春日先輩や葛城先輩まで、
「確かに男が乗るような車だね。」
「あまり女の子が乗るような車ではないですね。」
もはや何も言うまい。

243:ふみあ
09/06/26 07:01:30
 そこに成瀬が突っ込んできた。
「ところで薫ちゃん、あんた免許持っているの。」
「AT限定の少年用普通一種なら持っています。」
少年用普通免許とは近年加速する中年以前の若者の車離れを抑止するために2年前に政府が、現時点で15歳以上か、その年の4月時点で15歳以上になる見込みがある児童にも、普通車・普通二輪・原付きの免許をとれるようにした制度のことである。
AT限定しか取れないが、自動車を運転できる人口を、年齢を引き下げることで、需要をかさ上げしようとしたメーカーの思惑は一応成功したといっていいだろう。
 現在僕の車と並んでいるミニバンは、やはり葛城先輩の家の車だった。さっきは気がつかなかったが、よく見ると運転席に正装した運転手が座っている。ということは、都合葛城先輩の家の車に都合6人、こちらに5人乗れるということになる。
「2台で分乗すれば宜しいと思うのですが、順番の組み合わせはどうしましょうか。」
と訊くと葛城先輩が、
「そうですね、まずは皆さんの希望を訊いてみないと。」
 なんだかんだと話し合ったのち、僕の車に僕と母と春日先輩。もう一台に残り全員が乗り込むことになった。
葵姉ちゃんは葛城先輩と姉妹だし、他の連中も元々葛城先輩と葵姉ちゃん狙いのようなものだったので至極妥当だとは思ったが、一人追い出された形となった春日先輩のことが気にかかった。

244:ふみあ
09/06/26 07:02:12
 先輩に、
「向こうの車じゃなくてホントに良かったのですか?」
と訊いてみると、彼女は、
「別に構わないさ、移動の間のことだから。それに君とはもう少し話してみたいしね。それに道がわかる人間が一人はいた方がいいだろう?」
と答えた。
「そうですか…。それもそうですね。じゃあ、向こうの準備もできたようだし、こちらもそろそろ出発しましょうか?」
と言いながら、車に乗り込んでシートベルトを締め、エンジンを掛けようとしたその時、向こうのミニバンの助手席のドアが開いて、天城さんがこちらに駆け寄ってくるのが見えた。
何かトラブルでも起こったのか?
 何のことはない、フル乗車でのミニバンが予想以上に狭かったために天城さんが一人脱落してこちらの車に乗り換えたというだけのことだった。
 結局運転席に僕、助手席に春日先輩、後席左側に母が座り、僕の後ろに天城さんという配置で出発することになった。

3-3終了。3-4に続きます。

245:ふみあ
09/06/27 05:32:33
3-4 ドライブ1
>>薫
 マークⅡのエンジンをかけ、軽くドラポジとミラーのチェックをして、全員が乗り込んだのを確認してから、ロックをし、左後方、左右のサイドミラーとルームミラー、
右後方をチェックした後、右ウインカーを点滅させて、ミニバンの方に合図する。
 ミニバンが発進したのを確認してから、ギアをPからDレンジに入れ、ブレーキから足を離しながらサイドブレーキの解除フックに手をかけた。
「それじゃ、改めて出発しましょう。」と言いながら軽くアクセルを踏み込み、ステアリングを切りながらミニバンの後ろにつく。
 葛城先輩の家のミニバンは、正門を出ると、大通りを左に曲がり、東の方向に進路を取った。
 こちらも周囲の状況を確認しながら左折して次の交差点で信号待ちしているミニバンの後ろに停車する。ギアをNレンジにしてサイドブレーキを踏みながら春日先輩に、
「そういえば僕たち、これからどこに行くつもりなのでしょうか?」
「ん、とりあえず西武の池袋店だけど。」
「百貨店ですか…。」
この街を案内してくれるんじゃなかったのか? 道理でなぜ車が必要になったか疑問に思ったが、都心へ行くとなればそりゃ必要になるだろう。この学校武蔵野台地にあるせいか、都心と比べればだいぶ西の方にある。
近くに駅があるわけでもないし、車があるなしではだいぶ違いそうな立地にあるからな。

246:ふみあ
09/06/27 05:33:14
「しかしなんで百貨店へ?」
と訊くと、母親が、
「あなたの服を買うためよ。」
「はい?」
「今のままじゃ足りないでしょ、私服。」
「そう? 結構ある方だと思うけど。」
「そうでもないわよ、これから夏物だって必要になってくるし。」
「まあ、そうだけど。」
「それにあなた少し心配なところがあるから。外見だけでもきちんとしてないと。」
「ああ、そう。」
気持ちは痛いほどわかるが、口に出すなよ。
 信号が青に変わったので、Dレンジに入れ、サイドブレーキを解除し、前車に合わせてアクセルを踏み込む。
 葛城先輩の家のミニバンはしばらく東の方へ進んだ後、とある国道の大きな交差点で右折レーンに入った。案内標識にはこの方向に高速のランプがあるらしい。
ただでさえも交通量の多い道路なのにみんな高速の方へ行くのか、こちらの右折レーンと対向の左折レーンだけ混んでいるらしく中々進まない。信号の変わり目に行こうとしたが、
ミニバンが行った後僕の番になった時に完全に赤となってしまい、ミニバンと離れ離れになってしまった。

247:ふみあ
09/06/27 05:33:55
 次に信号が青になるまでの間、気になったことを春日先輩に尋ねてみる。
「あの、雪乃様。」
「なんだい急に。」
「西武までの道はご存じだとおっしゃってましたよね?」
「ああ、言ったよ。」
「前の車とはぐれてしまったので、しばらく道案内をお願いしてもよろしいですか。できるだけ自力で頑張りますが。」
「構わないよ。いざとなったら葵や紫苑様と連絡できるようになっているから。」
と春日先輩は笑いながらこう言って、携帯を見せてくれた。
「ならたぶん大丈夫です。すぐ追いつくと思いますから。おっと、青になりましたね。」
 ギアをDに入れて、サイドブレーキを解除する。そのままブレーキを踏みながらクリープでゆっくりと前進する。

248:ふみあ
09/06/27 05:34:36
 予想通りというべきか、只でさえ交通量が多いうえに対向の左折車が列をなしているのでなかなかタイミングがつかめない。どう考えても右折オンリーになるまで待つしかなさそうだったが、
後ろに止まっているガラの悪そうなメルセデスのCクラスが、こちらに対してパッシングしているのがルームミラー越しに見えた。思わず舌打ちをすると、僕以外の全員が驚いてこちらを見てきた。
「何?!」と訊いてきたので、
「いや別に、後ろのベンツがパッシングしてきたものですから。どう見ても今右折できるわけないでしょ、バカって思って。」
 本当は、何煽ってんじゃ、空気読めや馬鹿野郎! と思っていたが口に出すわけにもいかないので黙っておいた。
 その後もベンツは何度もクラクションを鳴らしながらパッシングをしてきた挙句、いざ右折するときにもパッシングしてきたので、
さすがにムカついてきたので、喧嘩売っとんのかこの野郎、そんなに売りたいならその喧嘩買ったっらあ、と思ってしまい、自分以外にも人が乗っているという事実を忘れて、
ステアリングを右に切り交差点を曲がりきったところから、一気にアクセルを踏み込んで車をキックダウンさせ、ベンツを振り切った。
 急に後ろの方に体を押し付けられたためか、加速したとたん悲鳴が車中に響いた。あわててアクセルを緩めて、次の信号が赤だったのでついでに減速して停車する。

249:ふみあ
09/06/27 05:35:19
 何だろう、気まずい、視線が痛い。まず、春日先輩が口を開いた。
「薫君。」
「は、はい(-_-;)。」
「今のは何だったのかな?」
「いやあ、後ろの車がしつこかったので、振り切ろうって思いまして思いっきり加速したのですけど。…ハハハ。」
なんとかそれだけ言うと母が、
「あんた何キロ出せば気が済むの。事故起こしたらシャレじゃすまないのよ。」と呆れ、怒っている。
「ごめんなさい。」と謝ると、天城さんが「怖かったです。」と泣き出しそうになっていたので、
「ごめんね。祈さん。大丈夫だから。ね。」
泣かないで、頼む。
 肝心のベンツはさっき振り切られて戦意喪失してしまったのか、だいぶ距離を取って後ろに止まっている。もちろん煽ってこない。

250:ふみあ
09/06/27 06:05:25
 気を取り直して出発することにする。とりあえずここからランプまでのルートを確認する。
「ここから先はしばらく道のりで行くとして、ランプまでの道順はどうなっているんでしょうか?」
「というと?」
「中央高速のランプだと一方方向の可能性が高いので、高速沿いにどこかで東の方に左折しなきゃいけないかな、って思いまして。」
「いや大丈夫だよ。この道はこのまま自動車専用のバイパスとして高速道路と立体交差しているからね。」
「というとそこのジャンクションで高速の入口に直接入れるんですか。」
「ああ、最近できたんだよ。もうすぐバイパスの入口だよ。」
 見ると、前方に道の真ん中だけ坂になっておりその先が高架になっている。そして入口には自動車専用道の標識が立っていて、車がどんどんそちらに流れている。
しかも高速とのつなぎであるためか、高速並に流れが速い。制限速度は80キロのようである。
 僕は流れに乗るため、みんなに声をかけた。
「今から速度を思い切り上げますから気を付けて下さい。」
「え?」「ちょっと!」「きゃっ」
「上げますよ、いきますよ。」
 右ウインカーを点滅させながら追い越し車線に合流し、加速しながら坂を登って行く。気がついたら100km/hを超えていた。みんな飛ばしているねえ。

251:ふみあ
09/06/27 06:06:07
 結局120km/hまで加速し、周りの車をバンバンと追い越すことになった。
「しかし、走りやすい道ですねえ。ホントに高速道路みたい。どちらかというと新御堂筋かしら。」
思わず感想がもれてしまう。本当にそれは標識が青くなかったら、ちゃんと出入り口に、加減速用の車線と、案内標識、交通情報ラジオを備えた中々のものだった。
しばらく前から、高速道路の補完事業としてこのような規格の自動車専用の一般道が整備されているが、これもその一つだろう。
「だからと言って、少し飛ばし過ぎじゃないかい?」
「そうですよ、少し落とした方が…」
「飛ばし過ぎよ。スピードを落としなさい。」
「そうですか、160くらいなら普通に出しますよ。むしろこれでもゆっくり走っている方ですから。」
「まさか。」
「ホントですよ。そろそろ高速との接続みたいですね。確か新宿方向でしたよね? 4号からC1経由で5号か、C2か、どちらかで行こうと思うので。」
「ああ。そうだね。」
「じゃあここの出口をでて、こう行ってっと。あ、本当に料金所がある。お母さん、ETCで行くけど、いいよね?」
「いいわよ。」
「ありがとう。」
ETCカードを機械に挿入する。

252:ふみあ
09/06/27 06:06:48
 料金所のETCレーンを通過しようとすると、目の前に見かけたことのある車が現れた。
「前の車、紫苑様のお宅のお車ですよね。よかった、追いついた。」
後は、この車の後ろについていけばいいだろう。だが、そう思ったのもつかの間だった。
 合流するときまでは良かったのだが、本線車道を走り屋と暴走族が集団で猛スピードで疾走していたために、ミニバンは減速して一時退避。
僕の方はこの手の合流には慣れていたので、気にせずスピードを上げながらそのまま合流してしまい、またしても離れ離れになったのだ。
「あらら、また逸れちゃいましたね。」
「薫さん。そ..そんな呑気なことを言っている場合ではないような。」
「そうだよ薫君、成り行きとはいえ、この先どうするんだい。」
「別に、このままこの流れに乗っていくしかないでしょう。」
「そうはいっても、このままだと危険だと私は思うのだが。」
「大丈夫ですよ。」
確かに現在180km/h以上を出しているが、カーブでは減速するし、普段からこのくらい出しているので特に問題には思わないのだが。むしろ前を走るローレルのドライバーがよほどうまいのか、
的確な加減速とライン取りで走っているので安心してついていっていられるのだけれど、やはり3人とも怖いらしい。
 料金所を知らせる看板が見え始めたころ、前を走る車が次々とハザードを点滅しながら減速し始めたので僕もそれに倣う。料金所が見え始めると、今度は青と白のレーンで色分けられたETCレーンにレーン変更し、
徐行しながらブースを通過する。

253:ふみあ
09/06/27 06:35:28
 そのまま加速して本線に合流しようとしたが、前方の車が次々とブレーキランプを点灯させて停車していく。平日昼間の首都高の名物、渋滞に巻き込まれたようである。
しかも厄介なことに完全に停止するわけではなく少しずつだが、動いている。
「あーあ、やんなっちゃう。」
思わず不満を漏らす。
「どうせ渋滞になるなら完全に止まってくれればいいのに。」
「少しでも動いていた方がいいやない。」と母が言う。
「同乗だとね、でも運転している分では止まっていた方がいいですよ、休めるから。ブレーキ踏みながらの徐行って神経使うから疲れるんですよ。」
「そういうものなのですか?」と天城さん。
「そういうものですよ。」
と答えた。
 しばらく行くと今度は完全に止まってしまった。車のギアをNに入れ、サイドブレーキを踏み、ステアリングから手を離して姿勢を楽にする。
暫くはこの場所から動けないだろう。少し休むことにした。

3-4終了。3-5に続きます。

254:ふみあ
09/06/28 05:19:33
3-5 首都高でナンパ?
>>???
 「チキショー、完全に止まっちまいやがったジャンよー。」
「ホントパネェ。」
隣の助手席と後席の左側に座った男がグーたら文句を言っている。それを聞いた運転役の男が、
「文句いっても仕方ねえだろう、お前ら。」
と二人をなだめている。
 こんな時間に男3人が一台の車に乗って移動しているのもどうかと思うが、仕事中でもないらしい。3人とも典型的なチャラ男のようである。運転役の男は金髪の短髪で、耳にピアスをした、
黄色い半袖のTシャツにブルージーンズを着て、首にゴールドチェーンのネックレスをしている日焼けした若い男である。この中では一番の二枚目で、このグループのまとめ役のようである。
助手席の男は茶髪にロン毛の、いかにも自分の事をかっこいいと勘違いしたお調子者の三枚目な感じの、赤い半袖のTシャツに白いチノパンを着て、青いジージャンを羽織った若い男で、
後ろに座っているのは黒いTシャツに迷彩のミリタリーズボンをはいた
スキンヘッドに赤いバンダナをした若い男である。
 3人はどうやら八王子から渋谷の方へナンパに行くらしい。その道中で渋滞に巻き込まれてしまったという訳だ。尤も改造されているとはいえ、半分クラッシックカーとなっている
黒いY32のグロリアに乗りたがる女子高生がいるかどうか疑問だし、どこかで車を降りるにしても、とてもじゃないが彼らに女の子をゲットすることができるとは思えないから急ぐ必要ないと思うのだが、
彼らはこの状況に不満を持っていた。なぜ、今俺たちは男3人で渋滞の中こんな狭い車の中に閉じ込められなきゃいけないのか、と。
 もうそろそろイライラも限界に来た頃、ロン毛の男が気晴らしに窓を開けたとき、彼の眼に一台の車、シルバーメタリックの古いマークⅡが映った。どう見ても黒いスモークが張ってある普通の改造車なのだが、
何か違和感がある。男が目を凝らしてスモーク越しに内部を窺って見ると…

255:ふみあ
09/06/28 05:20:14
「おい、見ろよ。あの車。」
と、中を確認した男が仲間に向かって叫んだ。
「なんだどうした。」
「あの100がどうかしたのかよ。」
「よく見ろよ、運転しているの女の子だぜ。」
「マジで、うお! 本当だ。」
「どれどれ….ほう。」
「他にも女の子が乗っているみたいだぜ。」
「本当だ、っておい、オバンが一人乗っているじゃねえか。」
「でもよお、3人も女の子が乗っているぜ。しかも3人とも女子高生らしい。制服着てるぜ。」
「しかも結構かわいくね? やる? やっちゃう?」
「そうだな、さそうか。おい、直哉、声かけろや。」
「おう、任しとけ。」
と、直哉と呼ばれたロン毛男は助手席から身を乗り出した。

256:ふみあ
09/06/28 05:20:55
>>薫
 すごく誰かに見られている、そんな嫌な気配を感じたその時だった。突然運転席の窓をノックする音と振動を感じたので、ドアに肘を掛けて頬杖をついた状態で外を見ると、たまたま並んだ黒いY32から身を乗り出した若い男と目があった。
と思ったら突然その車がクラクションを鳴らしてきた。よく見ると身を乗り出している奴以外に二人の男が乗っているのが見えた。3人ともこちらに手を振ったりクラクションを鳴らしたりしている。
 最初は僕の車に異常があるのか、知らず知らずの内に迷惑をかけたのかと思ったが、警告灯は点いてないし、どうもそういう感じではない。どうやらナンパを仕掛けているようである。関わらない方がいいな、と思ったので天城さんに呼びかけた
「祈さん。祈さん。」
「何でしょうか? 薫さん。」
「絶対にそちらの窓の外を見ないで下さい。」
「?」
「なにも聞かないで、ただ目を合わせなければいいんです。前を向いて。」
「は、はい。」
と、天城さんは少し混乱しながらも従ってくれた。

257:ふみあ
09/06/28 05:21:37
 その時春日先輩が話しかけてきた。
「薫君、何かあったのかい。」
「ええ、どこかの馬の骨がナンパを仕掛けてきたみたいです。」
「ナンパ?」
「隣に並んでさっきからモーションをかけているみたいです。聞こえるでしょう、クラクション。」
「ああ、それでさっきから警笛が何度も鳴っているのか。で、君はどうするつもりなんだい。」
「僕は無視した方が賢明だと思うんです。だから雪乃様もあまり向こうの方を向かないで下さい。」
「わかった。私もその方がいいと思う。」
 その時母親が、
「でも薫、この車に何かあるんじゃないの? その、どこか壊れてるとか、そういう事を教えてくれてるんやないん?」
「それはないわ。どこも壊れてないし。それにあの雰囲気は絶対ナンパよ。」
「そやけどね…」
「言いたいことはわかるわ、お母さん。この車は黒いフィルムを張っているからたぶんあの人たちにはお母さんのこと、見えていないわ。ただ…」
「ただ?」
「保護者がいることをわかった上でやっているとしたら少し厄介ね。」

258:ふみあ
09/06/28 05:22:17
 渋滞が解消することを、今か今かと待っていたが、少しずつ列が動くことはあっても、Y32を振り切れるほどには全然届かないレベルである。未だに隣にくっついているY32からは、
余程諦めが悪いのか、まだチャラ男どもがアプローチをかけている。
 いい加減に諦めろよと呆れつつも頑なに彼らの誘いを断っていると、「ドンッ」という音と共に茶髪ロン毛が車のドアを拳骨で叩いたのが目に入った。
 野郎っ、と怒鳴りかけたが、ここは理性で抑えて右手を左の方へ掌を突き出すように抑止のジェスチャーを取る。左と後ろの方へ口出しをするなと合図してから、
ドアのひんじに付けられた運転席側のパワーウインドウのスイッチをいっぱいに押して窓をあけ、隣の車を睨みつける。
 こっちが振り向くのを待っていたのか、目があったとたんすぐに男どもが、
「Yo Yo、彼女。俺らと遊ばない?」
「楽しいことしようゼイ。」
「かわいがってやるぜ。」
と、この手の定番というか、ありきたりの慣用句を並べ立ててきた。やはりその手の誘いだったようである。

259:ふみあ
09/06/28 05:53:40
 もともとナンパに乗るつもないし、そもそも乗れないので適当に聞き流して文句を言う。
「すみませんが、今私の車を叩いたのはあなたですか?」
と助手席の男に尋ねるとロン毛の男は、
「叩いたって、ヤダなあ、ちょっとノックしただけじゃん。」
「そうそ、全然俺らの熱いアプローチに気づいてクンねえだもん。」
「だからって、そんな何触ったか分からないような手で車に触らないで頂けませんか。それにあなた方のような色男のお誘いに乗るほど、
私お尻の軽い女じゃありませんから、やめて頂きません? はっきり言って迷惑なんです。」
「車叩いた事は謝るからさあ、そう固いこと言わず付き合ってよ。」
「ていうか、この娘ひょっとしていいとこのお嬢じゃね? ね?」
「ピチピチの女子高生でいいとこのお嬢様かよ、こいつぁ悪かねえな。」
「ねぇ彼女ぉ。ひょっとして隣と後ろの娘もお嬢様のお友達ぃ? だったら俺らにも紹介してくれねぇ? 一緒にどっか行こうぜぇ。」
「ごめんなさい。私たち所用があるんです。他の方を当たって頂きません? それにお気づきではないかもしれませんが、保護者も乗っているんです。諦めて下さい。」
「他の人なんてどこにいるのかなぁ。」
「せめて、名前とメアドくらい教えてよ。」
「ババアなんてほっといて楽しいことしようぜ。」
「全力でお断りします。」

260:ふみあ
09/06/28 05:54:22
「そう固いこと言わずにさ、ねぇねぇ。」
「嫌です。」
「そう言わずにさあ。」
「しつこいですよ。」
「ひょっとして彼氏いんの?」
「大丈夫、彼氏よりきもちよくしてやっからさぁ。ヘッヘッヘ。」
「いませんし、そういうの興味ありません。」
「だったらさあ。俺らにつきあってよぅ。」
「いい加減にしないと怒りますよ!」
「うぉっ、怒った顔もかわいくね。」
「キュンってくるう。」
 ダメだこりゃ、少しでも相手をした僕が馬鹿だったと、後悔しながらパワーウインドウのスイッチを思い切り引っ張った時だった。

261:ふみあ
09/06/28 05:55:04
「おいシカトしてんじゃねえぞ。このアマ。」という声がしたかと思うと、後席からバンダナが下りてきて大きな手でせり上がってくる窓ガラスを抑えているのが目に入った。
 あわてて、パワースイッチを下に押し付け、ガラスを下ろす。
「何ですか! 急に。」
「何ですかじゃねえよ。折角俺らみてえないい男が遊びに誘っているのに断った挙句シカトしやがって、調子こいてんじゃねえぞこのアマ!」
と言って、逆切れして殴りかかって来た。のをかわして肘鉄を喰らわせる。
「危ない!」と、天城さんが叫んだ気がするが気にせずドアをアンロックし、思い切り力をかけて、ドアを振り開けた。
 案の定ドアは思わぬ反撃にあってよろめいた哀れな男を直撃し、男を振り払った後勢いあまって隣に止まっている男たちの車に「ゴツン」という音と共に激突した。
 哀れな男は完璧に体勢を崩し、地面に伸びている。Y32は真新しいへこみができている。やりすぎたかな。急いでドアを閉めてロックし、窓を閉める。
 Y32の運転席と助手席からは、仲間をやられ、さらに車に傷がついたことに逆上した金髪とロン毛が降りてきた。

262:ふみあ
09/06/28 05:55:45
 やばい、どうしようかと思ったその時、「パーーーーーーーーン」というものすごい音量のクラクションを鳴らしながら後の車がパッシングしてきた。何事かと思って前を見ると、
とうに渋滞が解消して、前車がスピードを上げて向こうの方に走り去ったところだった。
 今なら振り切れる! そう確信した僕は、数回ブレーキを踏み、後続車にお詫びを込めてテールパッシングした後、ギアをNからDに入れ、サイドブレーキを解除しながらアクセルを思い切り踏み込んで車をキックバックさせた。
 急加速する車中で、ミラー越しに後ろを見ると、後続車にパッシングで急かされながらのびた仲間を後席に運び込む二人の男たちの姿を確認することができた。この車はもう100km/h以上も出している。僕自身はこのまま加速して
180kmオーバーまで出すつもりだったので、気絶した男をどうにか車に乗せてから発進させても追いつくことは無理だろうと思った。
 思わず心の中で笑みがこぼれたことはここだけの秘密である。

263:ふみあ
09/06/28 05:56:26
3-5終了。3-6へ続きます

264:ふみあ
09/06/29 05:21:56
3-6 ドライブ2
>>薫
 前方を走る車の集団の最後尾に追いついてしまったので、結局120km/hまでしか出せなかったが別に問題ないだろう、集団の中ほどに来るまで追い越していたらまた渋滞にはまりこんだからだ。
すでに隣と後ろに後続の車が続いている。この先に待つ西新宿JCTでの分流を考えてすでに追い越しから走行車線に入っているので彼らの車が左側につくこともないはずだ。
「ここまで、来ればもう大丈夫ですね。」
徐行しながら皆に話しかけると、天城さんがこう言った。
「あの薫さん、大丈夫ですか。」
「何がです?」
「その…さっき男の人に…」
「ああ、それなら僕は大丈夫ですよ。あのパンチかすりもしませんでしたから、怪我なんてしていませんし、安心して下さい。」
「それならよろしいんですが。」
「寧ろ殴りかかって来た彼の方が心配ですよ。あの様子じゃたぶんこけた時に地面に後頭部をぶつけて脳震盪を起こしたようですから。何もなければいいのですけど。」

265:ふみあ
09/06/29 05:22:36
 そこに春日先輩が、
「しかし、さっきの人たちは何をしたかったのかな?」
「言ったでしょう。ナンパですよ。」
「ナンパ?」
「体良く言えば逢い引きです。僕たちをデートに誘いたかったんですよ。」
「たち、というより君を誘っているようだったな。」
「さあ、どうでしょう。僕は雪乃様や祈さんも誘うつもりだったように感じましたが。」
「そうかも知れないが、私は主に薫君を誘っているように見えたがね、祈君もそうだろう?」
「は..はい、私もそう思いました。」
「そうですか。あの人たち、よほど女に飢えていたんでしょうか?」
「?」
「僕みたいなのをナンパに誘おうと思うなんて、よほど飢えていたんでしょうね。」
「….」
「ところで、もうすぐC2の新宿線との分岐ですけどどうします? どっちが近いんでしょうね?」
 そういいながら、カーナビの画面と照らし合わせてロードマップを調べる。
「あ、C1から5号に入った方が近いですね。じゃあこのまま真直ぐ行きましょう。」
 どうやらC2から5号を抜けて、外環から関越道や東北道、磐越道に抜ける車が多かったらしく、西新宿JCTを抜けると一気に車の台数は少なくなった。
そのまま快調に飛ばしながら新宿で右方向にまわって三宅坂JCTに向かった。

266:ふみあ
09/06/29 05:24:23
 JCTのトンネルの入り口で大型トラックを抜かした後すぐにライトをつけながら走行車線に入り、そのまま左方向に入る、そのまま一車線のトンネルの中を減速しながら進み、
C1で合流するときにまたアクセルを踏み込む、右ウインカーをつけながらミラーと後ろを振り返って目視し、走行車線を並走するタクシーを先に行かせた後合流し、そのまま加速しながら走行車線を越え追越車線に入る。
「ふん、ふん、ふふん♪」
FMデジタルラジオから流れる音楽に合わせて鼻歌を歌いながら右手でステアリングのスポークを、左手でシフトノブの頭を叩く。そんな感じで気持ちよく運転している時だった。
「薫、薫。」
と突然母が声をかけてきた。
「何? お母さん。」
「あなた、左手はどこへ行ったの?」
「左手? 左手ならここにありますけど?」
と答えながらATのシフトノブを叩く。すると母は、
「なんで左手がそんなところにあるの?」
「? ああ!」
片手ハンドルのことを暗に言ったのだと思ったので両手でステアリングを握りなおす。
「またあなたは、お父さんにもさんざん注意されてるでしょ?」
「わかりましたよ。気を付けます。」
確かに父からは散々片手ハンドルを止めるよう言われてはいるが、癖だからしょうがない。
 母はまだ何か言おうとしているようだが、無視して運転に集中しようとしたその時だった。
 突然僕の携帯の着メロが鳴り出した。ポケットの中を探って携帯電話を取り出し、左手で開いてそのまま通話ボタンを押す。画面には「葵姉」と書いてある。

267:ふみあ
09/06/29 05:25:04
「ちょっと薫さん。危ないですよ(゚Д゚)」
と天城さんが叫んだが、
「え、なにが?」
「何がって、運転中に携帯電話なんて…」
「大丈夫ですよ~。あ、もしもし。薫です。」
「あ、もしもし! 今どこにいるの?」
と葵姉ちゃんが言った。
「今ですか? 4号からC1に入ってもうすぐ5号に入るところです。あ、今竹橋JCTに入ります。」
 携帯を首に挟んだまま左車線に入りハンドルを切りながらJCTの分岐に入る。
「今5号に入りました。」と伝えると。
「え、もうそんなところ?!」
「今どこにいるんです?」
「え、今どこだろう?」
「まあいいや、とりあえず僕らはこのまま池袋まで行こうと思うんですが。」
「そうねえ、ねえどうしましょう?..........ええ….はい、じゃあ、どこかで落ちあえないかしら?」
「さあこの辺はPAもSAもないから途中で止まるわけにもいかないし。東池袋の出口を出て反対車線側とも合流したところでハザードを付けて停車してますから、その時落ちあいませんか?」
と提案すると、
「ちょっと待ってて…………はい、……..はい、いいって。」
「わかりました。そういうことで。また。」
終話ボタンを押し左手で元のように左ポケットにしまう。そしてステアリングを持ち直し、姿勢を正してから、車を加速させていく。

268:ふみあ
09/06/29 05:55:04
 「今の電話葵ちゃん?」
と母が訊ねてきたので、
「ええ、現在地とこれからどうするかを教えてほしいって。」
「どうするのこれから?」
「とりあえずこのまま行って、出口を出たところで落ち合うことになりました。」
「そう。」
「しかし、運転中の携帯電話とはあまり感心しないね。」
と春日先輩が割り込んできた。
「そうでしょうか。確かに好ましいとはとは思いませんが、まさかここで止まるわけにはいかないでしょう。ただでさえレーンが狭いうえに路側帯もありませんから。」
「そうかも知れないけれど、誰かに代わりに出てもらうという手もあったんじゃないか?」
「今どこを走っているか正確に伝えられる人が僕以外の誰がいるんです?」
「・・・・・」
「雪乃様、今回は大目に見てもらえませんか? もうこう言う事はしませんから。」
「わかった。今回だけはそうしよう。」
「ありがとうございます。」

269:ふみあ
09/06/29 06:14:11
 目的のランプに近づいたので左ウインカーを出して減速しながら減速車線に入り少し強めにブレーキを踏みながらカーブに合わせてステアリングを切っていく。対向車線の方から来た道と合流した所をやや過ぎたところで左側に車を止め、ハザードを点滅させ、
ブレーキを踏みながらギアをPに入れ、サイドブレーキを掛ける。携帯電話を取り出して電話帳から葵姉ちゃんの携帯に電話を掛ける。
「…もしもし。」
「もしもし、薫です。今到着しました。」
「え、もう?」
「ええ、待ってますので近くに来たらもう一度連絡してもらえないでしょうか?」
「わっかたわ。」
「じゃあ、お願いします。」
と言って一旦電話を切る。
 葵姉ちゃんの様子だとかなりかかりそうだったので、この間に少し休憩することにした。後にいる天城さんに声をかけた。
「祈さん、祈さん。」
「な…なんでしょうか薫さん。」
「少し狭くなると思いますが、シートを倒してもいいでしょうか。」
「え、ええ?」
「じゃ、すみません。」
と言いながら少しだけシートをリクライニングさせる。オーディオの音量を落とし、シートベルトをはずしてシートに体を預け、少しだけ眠ることにした。

270:ふみあ
09/06/29 06:14:54
 突然携帯のアニソンの着メロが車中に響き渡った音で目が覚めた。音の発生源が自分の携帯で、葵姉ちゃんから発信されていることを確かめて通話ボタンを押す。
「もしもし、薫です。」
「もしもし、クーちゃん? 私たちもうすぐそこまで来ているから。」
「わかりました。それじゃあまた。」
と言って、終話ボタンを押しシートを元に戻し、ドラポジをチェックしてからオーディオの音量を上げ、バックミラーを見る。
 しばらくすると後方からカーブを下ってくる白いミニバンが見えてきた。後方を確認してから解錠してドアをあけ、外に出て車の後ろに回り込みながら手を振って合図をする。
 ミニバンは左ウインカーとハザードを点滅させながら僕の車の後ろに停車した。運転席の窓が開き、運転手の男性が「どうも」と言って頭を下げたので、「こちらこそ」と挨拶する。
「これからどうしましょうか。」と男性が訊いてきたので
「こちらとしては道も知りませんので、案内していただければ…」
「では、私が先導するという事で、宜しいでしょうか。」
「お願いします。」
「畏まりました。」
そう言って、男性は窓を閉めたので、こちらも周りに気をつけながら車に乗り込む。
 ドアをロックしブレーキを踏んでギアをPからDに入れ、ハザードを切って右ウインカーを点滅させる。ミラー越しにミニバンが発進したことを確かめてからサイドブレーキを切って、
周囲の安全を確かめてから、ミニバンに続いて車を発進させた。


第三章 完

第三章終了。只今第四章をgdgdと制作中。でき次第適当にうpしようと思います。

271:名無し物書き@推敲中?
09/06/30 21:57:37
おK

272:ふみあ
09/08/06 13:32:43
みんなおひさー\(^o^)/
まだ、第4章できていないけど話の目途が立ったので久しぶりにうpします。
話は次スレから...

273:ふみあ
09/08/06 13:35:17
第四章 4月

4-1 駐車場にて
>>薫
 先にミニバンが駐車して、乗員が全員下りたことを確認してから、シートベルトを外し、ブレーキから足を離して車を少し前進させ、一旦ステアリングを右に切ってから、ギアをRレンジに入れてから左に切り直し、
バックでミニバンの隣の縦列駐車スペースに駐車する。少し前進して、位置を微調整してからもう一度バックで入れ直し、RからPレンジに入れ、サイドブレーキを踏んでからエンジンを切った。
「さあ、着きましたよ。皆さん降りて下さい。」
 他のみんなが下りてから右側に止まっているミニバンを傷つけぬよう注意しながらドアを開け、外に出る。
ドアを閉めてキーについてるドアロックボタンを押す。「ガチャッ」という音と共にハザードが一発点灯し、ドアが開かないことを確認してからみんなが待っている方へ向かう。
「お待たせしました。」

274:ふみあ
09/08/06 13:38:00
 道中ハンドルを握りながらずっと考えていたのだが、僕と母は服を買いに行くとして、後のみんなはどうするのだろう、と考えていると、葛城先輩が葵姉ちゃんに、
「それじゃあ私は雪乃さんと一緒にこの子たちを連れて行きますから、あなたは薫ちゃんと叔母様に付いて行ってあげなさい。」
「ありがとうございます。」
「それでは4時頃にまたここに集合しましょう。皆さん行きましょうか。」
と言っているのが聞こえた。所詮高3から見れば高1など子供も同然かとも思ったが、これが一番いいだろう。僕の買い物に付き合わせるのも悪い気がする。
 とりあえず駐車場の出口で別れて、我々3人は婦人服売り場に直行した。

4-2へ続く...これだけやけに短くてワロタww

275:ふみあ
09/08/07 14:09:06
4-2 帰り道
>>薫
 ガタンッと音を立てながらマークⅡのトランクを閉め、運転席の方へまわってドアを開けて車に乗り込んだ。隣には母親が、後部座席にはなぜか猪瀬と成瀬のコンビが座っている。さっきからキョロキョロ辺りを見回して落ち着きがないので正直うざい。
そんなに僕の車って珍しいのか? 完全自律走行制御補助機能が付いてないくらいでその辺の車とそこまで性能や雰囲気に差があるとは思えないんだが…。
 しかもただ落ち着きがないならいざ知らず、なんかいろいろなことを訊いてくる。例えば、インパネの中央、エアコンの吹き出しの上のダッシュボードに取り付けた3連メーターを指差し、
「これ何?」
「後付けで取り付けた3連メーターです。」
「3連?」
「左から、水温計、油温計、油圧計と3つのメーターが仲良く並んでいるので。」
「水温計って?」
「冷却水の温度を測るための温度計です。」
「油温って?」
「エンジンオイルの温度のことです。」
「油圧は?」
「エンジンオイルがどれだけの力でエンジンの中を流れているかをあらわしたものですね。」

276:ふみあ
09/08/07 14:10:38
こういう事ってある意味常識じゃね? というようなことを聞かれるがままに答えていく。はっきり言って運転に集中できないのでやめて欲しいのだが、やり取りはまだ続く。
「何でこんなものついてるの?」
「何でって、そりゃこれを見れば車に、特にエンジン回りでトラブルが起こった時にすぐにわかりますから。こういう車にはつけている場合が多いんですよ。」
「でもうちの車にはついてないよ。」
「そりゃ、後付けですから(;・∀・)」
 猪瀬とこんなアホらしいやり取りをしていると、何故か天井の辺りを眺めていた成瀬が急にこんなことを訊いてきた。
「ところでこのパイプみたいなのは何なんだ?」
「パイプ? ….ああ、ロールバーことですか。」
 僕の車には乗員変更なしのタイプの6点式の鉄製のロールバーがルーフやピラーに沿って溶接で取り付けられている。無論つけられるところには全て黒いパッドを巻いて、
運転席と助手席のドア下にはBピラーとAピラーに沿ったロールバーに取り付ける形でサイドバーを増設している。


277:ふみあ
09/08/07 14:11:47
「ロールバー?」
「これのことですよ。ロールバーっていうんです。」
「へえ。….何でこんなものつけているの?」
「?」
「わざわざ、室内をせまくする必要もないじゃない。」
「まあ、この方がいざという時安全だと思いましたから。」
「でもいらなくない?」
「買える安全はとりあえず買っておく主義なんです。」
「ふ~ん。わからないな。」
なんか面倒くさい。
 走り始めたら走り始めたで、今度は乗り心地が悪いとぬかしてきた。そりゃ、シャコタンして最低地上高を3cm落して大判ホイールにして
足元を固めているから多少は悪いとは思うけど、エアサス組んでいるからそこまでひどくはないと思うぞ?


278:ふみあ
09/08/07 14:16:26
 また、狭いともぬかしてきやがった。セダンだから頭周りの空間が制限されるのは仕方がないが、この車かなりでかい方だぞ。すると今度は自分ちの車より狭いと言ってきたので、
「あの…、猪瀬さんのお父様はどんな車にお乗りになられているんですか?」
と訊くと
「アルファード。」
と返ってきた。比べる対象がおもいっきり間違っていると思うのは僕だけなのか?
 他にもこんな改造車に乗っていて(法的に)大丈夫なのかとか、ひょっとして不良なのかとか、この手の車に乗っていると一般人から言われそうなことをこれでもかというくらい質問されたが適当に受け流した。

(途中だけど少し長いので次回に持ち越します。続くよ)

279:名無し物書き@推敲中?
09/08/07 14:56:54
ふ~ん

280:ふみあ
09/08/11 09:55:19
>>278つづき

 なんだかんだで寮の前について解散した時にはだいぶ日がかたむていた。少し休憩したかったが、母親が今日中に京都まで帰らなければいけなかったので。そのまま車を出すことにした。
「私も見送りたい」と葵姉ちゃんが言ったので3人で向かうことにした。昼間通った道を辿るように車を走らせていく。夕方のラッシュが始まったのか対向車線が込み始めている。暗くなってきたので車幅灯とフォグランプの他にロービームでヘッドライトをつけると、
ハロゲン色のフォグランプにグラデーションを重ねるようにHID特有の真っ白な光が目の前の路面を照らした。真っ暗になった車内の後ろの方では、先ほどからずっと母親と葵姉ちゃんが何かを話し合っては、時々二人揃って高い笑い声を上げている。車は白い街灯に照らされ
縞縞模様を作り出した道路の上をスピードを出して駆け抜けていく。
 東京駅に着き、駐車場に車を停め、探すのに苦労しながら新幹線の改札に着いた。見送るために券売機で入場券を2枚買おうとすると、母がホームまで上がらなくていい、改札の前で別れようと言い出した。
「別にいいじゃない。荷物もあることだしさ、このまま上まで持って行くから見送らせてよ。葵お姉ちゃんも行くでしょ?」
と、葵姉ちゃんの合意を取りつつ半ば強引にホームまでついて行った。


281:ふみあ
09/08/11 09:56:32
 ホームにはすでに博多行きの「のぞみ」がすでに入電し、発車の合図を待っていた。
 指定席に一番近い車両のドアまでつくと、僕は荷物を母に渡しながら、
「じゃあね、母さん、気を付けて。」
というと
「あなたも葵ちゃんや学校のみんなに迷惑をかけないように気をつけなさいよ。」
と母が別れ際に釘を刺してきた。
「わかっているよ。心配しなくても大丈夫だから。」
「わかった、わかったって言いながらやったことないでしょ、あなたは。」
「そんなことないって。」
「そうでしょうが、いっつもぼーっとして。もっとしっかりしなさいよ。」
「大丈夫だよ。しっかりするつもりだから。」
「ホントにしっかりしなさいよ。今回はめ外すことがあったらただじゃ済まないんだから。」
「母さん…。それは僕が一番よくわかっているから。きちんとするから。ね、大丈夫だから。ほら、そろそろ新幹線も出る時間だし。」
「ホントにしっかりしなさいよ。後お父さんとお母さんがいないからってさぼるなんてことしないでよ。」
「しません。誓ってしません。(口約束)」
「葵ちゃん、この子すごいヘマをしでかしたり、失礼なことするかもわからないけど、その時は私たちの代わりにこの子のことを叱って頂戴。」
「はい、任せて下さい。おばさま。」
「ホントにお願いね。葵ちゃんだけが、頼りだから。そうだ、5月の連休に薫と一緒に家へ来ない? 歓迎するわ。」
「はい、喜んで。」
「母さん。まだ連休にそっちへ帰れると決まったわけじゃあ…。」
「帰ってこれるでしょう。帰ってきなさい。」
「はい。」
「じゃあ、もうそろそろ汽車もでるからこの辺でね。葵ちゃん、ホントに薫のことお願いね。それじゃあね。」
「さようなら。お気を付けて。」
「父さんと怜にもよろしく。」

282:ふみあ
09/08/11 09:58:59
新幹線のドアがゆっくりと閉まりながら、行く人と見送る人を一枚の扉で隔てて行く。ちなみに怜とは僕の3つ下の弟で今回入れ違いに高市中学に入学して、明後日の入学式に出る予定だそうである。
 ホームの彼方に赤い光の軌跡を名残惜しそうに残しながら、新幹線は暗闇の向こうへ消えていった。さて、帰るか。
 帰りの車の中で葵姉ちゃんは何故かものすごく嬉しくなったのか、やたら普段よりずっとテンションが高かった。理由はあえて考えないことにしている。この分じゃマジで四六時中葵姉ちゃんに監視されそうだ。今更ながら彼女が風紀委員で、
それもかなり皆から信頼されていて、次期風紀委員長に一番近いところにいることを考えても冗談じゃなく可能だろう。
 こちらが人知れず戦々恐々としているのを知ってか知らずか、相変わらず葵姉ちゃんは上機嫌でいる。なんだかよくわからない空気が車内に流れ込んできた。
 やっぱり考えるのはやめよう。

4-2終わり4-3に続く...

283:ふみあ
09/09/04 18:36:46
4-3 新しい学生会長
>>薫
 入学式から2~3日たってから授業が開始された。その間に車第二陣(140マジェスタ後期、160アリスト後期、200クラウンアスリート前期、2代目レクサスIS、W212、
BRレガシィ、Y50フーガGT後期、UA4/5インスパイア前期)が来たが、面倒なので機会があればどこかで追記するかもしれない。
 とりあえず、自己紹介と簡単に授業内容を説明するだけの特に授業とは言えない授業や、オリエンテーション、部活案内などが続いた。
 やはりお嬢様学校だからか、授業にもかなりの部分でどう考えても花嫁修業としか思えない家庭科系や作法系の授業が全体量のかなりの部分をとってたり。部活動も運動部、
文化部共に、一般的なものから金持ち好みのマニアックなものまで多彩な部や同好会があるのはいいのだが、何故か科学・工学系、乗り物系の研究会が一切ない。いや、
辛うじて「生きものクラブ」という同好会があったが…。まあ、基本男しかそういうの興味持たないから仕方がないか。


284:ふみあ
09/09/04 18:40:11
 学校生活のリズムにも慣れてくると、今度は生徒会執行部(学生会)とやらの
会長選挙が行われた。
 会場となったのは入学式でも使用された講堂だった。入学式の時はそれでも大きいかと思ったが、さすがに全校生徒が入るとかなり狭く感じた。
 先日あったオリエンテーションで行われた事前の説明によれば、この学校は学生会会長を中心として副会長以下何人かの役員を中心とし、風紀委員会、学校行事実行委員会、
社会奉仕(ボランティア活動)委員会、クラス委員会といった下部組織がそれを支える形で生徒の自主性に任せて運営されているらしい。生徒会長は全校生徒を代表してこれらの組織と
学生をまとめ上げる立場のため全校生徒による総選挙で、他の役員は生徒会に入った生徒から会長が指名し、残りの委員会の委員長は前任者が所属する委員の中から新任者を指名するらしい。
しかも生徒会には会長の、委員会には委員長の認可を取り付ける必要があるそうな。
 学生会長に関しては一応自由に立候補が出来るらしいが、前任の会長が学生会所属の生徒の中から一人を指名して立候補させるため、大抵その指名された生徒一人か、二人以上でも前任者の推薦を受けている点で
有利であるため大体前任の人が指名した人が当選することがほとんどらしい。そのためか今回も立候補は前任の学生会長から指名された2年生一人だけが出馬し、本日この場で選挙演説をし、所定の紙に学年・クラス・
学生番号・氏名を明記した上で信任の欄に、信任なら○、不信任なら×を書いて選挙を取り仕切る実行委員に提出すればいいらしい。


285:ふみあ
09/09/04 18:42:13
 前にいた学校の高校の生徒会長戦を思い出してみると、大体立候補者本人の演説が5~10分、その立候補者を全力で応援する友人・知人・または後援会の代表など応援演説が1~3人ほど続き全体で長くても10分、
選挙用紙の記入・提出は教室に戻ってから行われた。恐らくそういう段取りであれば、たぶん30分もすれば教室へ戻れるだろう。と、そんなことを暗がりの中で考えていた。
 周りの女生徒達は下級生、上級生を問わず、選挙や候補者の演説に対する期待し、楽しみにしているのか、先ほどからずっと周りでざわざわと互いにそのような言葉を口に出し、会場全体がワクワクするような
ゾクゾクするような、異様なほどの熱気に包まれていた。
 そんな空気を感じながら、なぜ僕はみんながそこまで生徒会長選挙に熱くなれるのか理解に苦しんでいた。確かに生徒会長は重役かも知れないが所詮は学生の下部組織の長にすぎない。上には下から教員、
教頭、校長、理事会、理事長の順番で君臨しているし、これらの組織の意向にはどうしたって避けられまい、結局誰がなっても同じじゃね? と。だから信任か不信任かも、本人の話を聞こうと聞くまいと適当に決めるつもりでいた。


286:ふみあ
09/09/04 18:43:53
 学校行事実行委員の選挙担当の生徒が舞台の傍らからマイクで、
「全校生徒の皆さん、大変ながらくお待ちしました。ただいまより第11X回生徒会執行部・学生会会長選出選挙を始めます。まずは本選挙立候補者有栖川 麗子の選挙演説です。」
という声と共に舞台がサッとサーチライトで眩しいほど明るく照らされると、それらを跳ね返すかごとく、華奢だが、堂々とした風格と存在感と豪華さをその身から周囲に振りかざすような、
強烈な雰囲気を備えた美少女が、自身に満ちた表情で、猛烈な存在感をにじませながら、しかし静かに舞台袖から舞台上に登場するや否や、爆発したかと思うほど会場を揺らすような歓声が全ての女生徒の口から発せられた。
 遠く離れた舞台上のたった一人の女性から発せられた。すさまじい威圧感と、それを上回るような地鳴りのような歓声に思わず圧倒された僕は、すごいのが来たなあ、前の学校の存在感が希薄な生徒会長とは大違いや、
とただただ感心するしかなかった。このぐらい気迫があれば理事会は無理にしろ、その手前くらいまでならごり押しが効くかも知れない。
 彼女が放つ圧倒的なオーラからは、彼女こそが生徒会長に相応しいとその場にいた全員に感じさせた。また、そもそも今回立候補している生徒は彼女ひとりである。彼女で決まりでいいじゃないかと思ったが、
形式上一応演説をやらないといけないらしい。


287:ふみあ
09/09/04 18:46:31
 彼女が演壇の前に立つと、それまで湧いていた歓声は鳴りを潜め、彼女の放つ存在感だけを残し会場は、今度は異様なほどの緊張感と澄みきった水のような緊張感に包まれた。
 会場全体が完全に沈黙すると、彼女は泉の水のように澄みきった、しかし空間を切り裂くような意志のこもった鋭い声で、しかし穏やかに彼女の演説を始めた。
「ごきげんよう、みなさん。はじめまして、今回学生会会長に立候補した有栖川 麗子と申します。この度は前任者の大原 美千代お姉様の推薦を預かり、僭越ながら皆様の面前で、正々堂々と戦う事を誓い、
皆さんと一緒によりよい学校の環境を創ることをここに所信表明いたします。…」
 その後、彼女は延々30分も、学生会長という重責や、それを全うとする覚悟、己の信念、マニュフェストとそれに懸ける並々ならない意気込みについて熱く語り続けた。
途中何度も運営委員が止めようか止めまいか迷っているのを何度か見かけたが、彼女の尋常ではない気迫に打ちひしがれて結局誰も何も言えなかった。
 投票用紙の所定の欄に氏名などがきちんと書けているかを確認して、信任の所に○を書いたあと、なぜ公開選挙なのか疑問に思いながら回収してきた選対の委員に渡してその場は解散となった。
 その日の昼休みに、全校放送の選挙開示結果速報で彼女の当選確実が真っ先に伝えられたことは言うまでもない。

4-3終了、4-4に続く。気が向いたらまたupします。ノシ

288:名無し物書き@推敲中?
09/09/04 19:01:03
かったるぅ

289:ふみあ
09/10/08 03:25:42
てすと

290:ふみあ
09/10/08 03:28:26
よっしゃああああ、アク禁解除!さっそく載せます。

4-4 生徒会長との邂逅
>>薫
 急がなきゃ、急がなきゃ。くそう、何でこんな日に限って寝坊しちゃうんだろう? まあいい、このまま10分で朝ごはんを終えて出れたら遅刻は回避できるかも…
ん、いや、ちょっと待てよ、なんか忘れてないか? えーと、鍵、携帯、財布、ハンカチ、学生証にMP3ウォークマンはあるな。カバンの中は教科書とノートを昨日のうちに
チェックしてカバンの中に入れてきたから大丈夫なはず、えーと、今日は数Ⅰ・国Ⅰ・家Ⅱ・英Ⅰ・体…ん、体育?
 と、朝食をかきこみながら行儀が悪いのを承知してそばに置いたリュック型の学生鞄の中をチェックしている最中に僕の思考は完全に停止していた。確か今日は5時限に
体育があるはずなのだが、なぜか体操服一式が入った青い布袋が見つからない。やばい、部屋に忘れてきちゃった。
 朝食を食べた後寮の食堂からダッシュして1生棟のエレベーターの所へ向かうが、こんな時に限って9階に止まっていたりする。しかも中々降りて来ない。やっと降りてきたエレベーターに飛び乗り7と閉のボタンを同時に押す。
 何とか部屋にたどり着き体操服を鞄に詰め込んで部屋を出ようとしたときには8時15分になろうとしていた。やばい、このままじゃ確実に遅刻してしまう。ただでさえ誰も遅刻しない校風な上に、鬼婆のような数学教師の顔を思い浮かべると、
何としても遅刻を回避したかった。

291:ふみあ
09/10/08 03:30:15
 ふと、机の上に車の鍵が放り投げてあるのが目についた。とたんに僕の中である黒い考えが浮かんだ。背に腹は変えられない、車で行っちゃおうか…始業は8時半だから車なら余裕で間に合うはず…。
 思い立ったら吉日、車のキーを引っ掴むと、そのまま玄関の方へ踵を返し、靴を履いて扉に鍵をかけ、学校へ向かってダッシュした。
 寮のエントランスへ降りると、皆先に登校したのかだれ一人いなかった。そのまま外に出て少し裏手にある駐車場へ向かう。手に取ったキーがアリストのものだったので、そのまま開錠してアリストを発進させた。
 発車してから2分もしない内にもう女子高生の集団に車は追い付いていた。時刻はまだ20分になったところなので十分間に合うだろう。やたら校内が広い分、中を通る道路も充分に広いため、女子高生の集団が歩いていても
車一台くらいが通れる隙間はそこかしこに開いている。ブレーキングをしてゆっくり徐行しながら、僕は彼女らの傍を通過していた。
 しかし、間もなく校舎の入り口に近づいたところで女子高生の山ができていたため完全に停車せざる得なくなった。なぜか他の後から来た女子高生たちも何かを言いながら足を止め、次々とその輪に加わり、
車は完全に周りを囲まれてしまった。

292:ふみあ
09/10/08 03:32:43
 まだ、二週間も通っていないが、前日までこういう事はなかったので、一旦停止措置をすると、窓を開けて上半身を外に出し、箱乗りの要領で前の方を覗いてみたが人が多すぎてよくわからない。周りの会話からはなにか相当な人気者が前にいて、
みんなが集まってきたらしいというようなことがわかったが、さすがにこれ以上ここにると冗談抜きで遅刻しそうだった。ここで、車を乗り捨てることも考えたが、さすがに道のど真ん中に駐車するのも考えものだろう。僕はそんなことを考えながら
ステアリングの真ん中、エンブレムの下に付いているホーンボタンを手のひらでグイッと押した。
 「パアーーーーーーーーーーアァァァァン!!」と威勢のいい音を出しながらクラクションが辺り一面に響き渡ったとたん、その場にいた全員がこちらの方を睨みつけてきた。少し怖かったが、通りたい意思を示すため数回パッシングした。
 露骨に嫌な顔をされたが何人かが車が通れるように道を開けてくれたため、サンキューハザードを点滅させたり頭を下げてお詫びをしたりしながら集団の傍を通過した。


293:ふみあ
09/10/08 03:35:22
 その時、先日見事新しい学生会長になった有栖川先輩と新しく役員になった2年の先輩方がいるのが目についた。どうも集団は彼女たち、というより学生会長が目当てだったらしい。話に聞けば会長は
日本随一を誇る多国籍企業である有栖川コンチェルンの一人娘らしく、学校一であろう名家の令嬢である上に、持前の才色兼備な性格からカルト的な人気を誇っているらしい。どうりでこんなに人が集まるはずだ。
 そんなことに納得しながら横目で彼女たちを見たとたん、かなり機嫌が悪そうに見える会長と目があった。が、一瞬のことだったので特に気にせずそのまま通過した。そのまま校舎そばの適当なところに停車するまで、
フィルムを掛けた運転席側の窓が全開で向こうからも丸見えだったという事に、僕は全然気付いてはいなかった。

4-4終了。4-5に続きます。

294:ふみあ
09/10/09 04:27:52
4-5 なぜか学生会に入ることになってしまった。
>>薫
 車で登校したことについては特に何も言われなかった。というより、生徒によっては実家から車と専属の運転手を取り寄せて通っている人もいるらしくスルーされているようだった。
さすがに自分で乗ってきたのは僕だけらしいが…。
 ただ、何人かのクラスメイトに車から降りてくるところを見られたらしい。車乗ってくることもさることながら、その車がドリ車仕様のVIPカーだったためものすごく奇異な目で見られた。
 ただ、自分でも意外だったが、車を自分だけの更衣室として十分活用できたのは一つの収穫だった。更衣室での着替えだと他の女子に絡まれることで男だとばれそうになったり、
時間差を稼いで人が少なくなった後に急いで着替えるにしろ、何かしらの罪悪感があり、第一授業がプールで行われた時にどうしようかと考えていたので、更衣室に行くふりをして
車の中で着替えればすべての問題が解決できることを発見できたことは本当に良かった。これから体育があるときや着替える必要があるときは車を使う事にした。

295:ふみあ
09/10/09 04:30:17
 その日の終業のホームルームが終わった僕は、特に部活に入っているわけでもないので寮の方へ帰ろうとして、車の元に向かっていた。やや日が傾いてきたせいか、夕陽の光を浴びてアリストは
そのシルバーメタリックの車体を金色に光らせて、朝停めた場所と同じところに止まっていた。
 車の鍵をボタンで押してアンロックして、ドアノブに手を掛け、ドアを開いて乗り込むためサイドバーを片足でまたごうとした時だった。突然とてつもない気迫を纏った何者かに右肩を掴まれた。
「お待ちなさい。」
限りなく澄みきった、しかし容赦を許さない女神のようなその声を耳にして、僕の体はガチガチに硬直していた。
このオーラ、この独特の声の響き。振り返るまでもなく今後ろに立っているのが誰か、嫌でも理解できた。

296:ふみあ
09/10/09 04:31:48
 恐る恐る後ろを振り返ると、そこには僕の肩を掴んだまま仁王立ちしている学生会会長その人がいた。そこはかとなく命の危険を察知つつも、
後ろ背に夕日を浴び、金色に髪を輝かせ、時折吹く風に靡かせながら、堂々として佇むその風格に圧倒され、僕は不覚にもかっこいいと思い、
そしてどうしてよいか分からずしばらく沈黙した。
 先に沈黙を破ったのは会長の方だった。
「あなたがこの車の持ち主かしら?」
「………(゚д゚)(。_。)(゚д゚)(。_。) 」
「名前を訊いても宜しいかしら?」
「……( ゚д゚)ハッ!」
「黙っていては何もわからないわ。お名前はなんていうのかしら。」
最初のやや棘のある感じから、何か柔らかい雰囲気に変化したところで漸く僕は口がきけるようになった。


297:ふみあ
09/10/09 04:33:10
「いっ、1年5組3番、綾小路 薫とも、もうしまう。は、初めまして…。」
「初めまして、薫。いい名前ね。わたくしのことはご存知かしら。」
「は、はい! よく存じ上げています。こ、この度の選挙、御当選、お、おめでとうございます。」
「そんなに力まなくてもいいわ。少し肩の力を抜きなさい。」
「は、はあ…..。」
 いったいこの人はこんな名も無い新入りの元へ何用で来たのだろう。まさか野暮用ではあるまい。未だパニクっている頭でテンパりながら思案していると、
「薫、今朝あなた、わたくしに対してこの車の警笛を鳴らさなかったかしら?」
この人、ひょっとして今朝のことまだ根にもているのか? 彼女の言葉を聞きながらはっと、今朝の出来事を思い出した僕は、まさかの野暮用に驚きつつもすぐに彼女に対し謝罪と言い訳を始めた。
「すみません。僕、いえ、わたし、麗子様があの場にいらっしゃることを知らなくて。今朝は急いでいたので、つい。やだわたし、本当に失礼なことを。ごめんなさい。本当にすみませんでした。」
と、頭を下げた。今は、僕は女の子として過ごしていることを考慮して、また何かこっちの方が心象が良さそうだったので自分のことを「僕」ではなく、「わたし」と称してみた。
 それでも、ものすごく怒られる事を覚悟していたのだが。以外にも会長は、
「畏まらなくてもいいわ。わたくし、そこまで怒ってはいませんから。」
と言ったので、少し拍子ぬけた。が、
「ただ、申し訳ないというなら、少しわたくしに付き合ってもらえないかしら?」
「……?」
何処へ行くか分からなかったが、申し訳も込めて、取りあえず後部座席の方へ乗ってもらった。


298:ふみあ
09/10/09 04:37:44
 会長に言われるがまま校内にそびえる小高い丘を登っていくと、頂上、行く手の先にこじんまりとした、しかし造りが華奢な、2階建ての洋館が見えてきた。事前に人から聞いた情報では、
通称学生会館と呼ばれ、他の校舎から離れており他の生徒が寄り付かず、そして一番高い所にあるため、学生会部員の詰め所、兼憩いの場になっているらしい。
 建物の前で車を止め、停止措置をし、エンジンを切って車から降り、後ろの扉を開け、会長を車から降ろしてすぐに、会長から「ついてらっしゃい。」と言われて、おとなしくついて行く。
 建物と見事に調和した玄関の扉を開けると廊下と階段があり廊下を真直ぐ行くとキッチンと物置、階段を真直ぐ登って行くと上の階にある執務室に辿り着くようだった。

(長いので一旦ここで切ります。後半へ続きます。)

299:名無し物書き@推敲中?
09/10/10 00:20:08
めんどくせえwww

300:名無し物書き@推敲中?
09/10/10 01:12:51
恋愛小説の陳腐さが日本の小説を糞にしている。
そりゃノーベル文学賞は無理だわ

301:名無し物書き@推敲中?
09/10/10 18:15:15
まだ続くの?
個人的には>>16の続きの話が読みたい

302:ふみあ
09/10/10 21:08:15
>>298

 玄関に入ると、足元にある籠に入ったスリッパに履き替えて、脱いだ靴は其処にある下駄箱に仕舞うように指示された。
その通りに靴を脱ぎスリッパに履き替え、下駄箱に靴を置こうとすると、もう先に何足か靴が収まっていることに気がついた。
 次に会長は階段を上って行き、そのまま突き当たった奥の、見た感じかなり広そうな部屋に入って行った。そのまま僕も続けて
その部屋に通じるドアを開けて部屋に入った。
 まず目に入ったのは向かいと左右に開いた大きな飾り窓だった。そのせいか薄暗い廊下と比べて部屋全体が明るく感じた。
床には赤い、少し古びた絨毯が引いてあり、壁・天井の壁紙の色はベージュ色で、部屋の明るい雰囲気に華を添えている。
そして天井には古びたシャンデリアがぶら下がり、まるで祖父母の家の応接間を彷彿させるような部屋だった。広さも20畳
くらいはあるだろう。2階一杯を使って一部屋を作ったようである。
 何よりも目についたのは、かなり古い骨董そうな大きな長方形のダイニングテーブルと十数脚位の椅子、そしてそこに座る何人かの
生徒だった。皆さっきまでティータイムに興じていたみたいだが、我々、いや会長が部屋に入って来たとたん、急に姿勢を正して部屋に向かいいれた。
 一旦その場にいた全員が会長の方へ向き直り挨拶を交わした後、ほぼ同時に会長についてきた僕の方へ視線が注がれる。中には今朝、あの場にいた
生徒もいたのか、互いにこそこそと耳打ち合う人もいた。しかも全員役員を務める2年生か、引退してある意味OGを気取っている3年生しかいないようである。
非常に気まずい。


303:ふみあ
09/10/10 21:13:10
 その時一人のショートヘアの2年生が、
「その娘どうしたの麗子? ひょっとしてもう妹なんてつくったの? 手が早いわね~。」
と言った。この先輩、会長にため口をきいている?! 麗子様には同級生どころか上級生すらその気品に対し皆敬語を使う
と聞いていたので、僕はこの先輩がよほど親しいのか、ただの無謀な馬鹿なのか、どちらか判断しかねた。
「違うわ、凛。それにここでは会長とお呼びなさいと何度言えばわかるのかしら。」
「はいはい会長さん。別にいいじゃない。あんたとわたしの仲なんだし。で、妹じゃないならなんなのよこの娘?」
どうやら前者だったらしい。
「だから今説明するわ。おほん。皆さん、この娘の名前は綾小路 薫。この春入ったばかりの一年生で、本日から本生徒会執行部で
役員見習いとして入部することになりました。ほら、薫。皆様に挨拶なさい。」


304:ふみあ
09/10/10 21:18:28
 あまりにもサラリと言われたので、一瞬思考が追い付かなかった。生徒会? 入部? 学生会に入れとは一言も…ただ
付き合えって…あれ、もしかしてあれ、学生会に参加せいっていう意味だったの? えっ? えっ? Σ(゚Д゚;エーッ!
 聞いてないと抗議しようかと思ったが、頻りに挨拶を迫る会長の顔に鬼気迫るものを感じたのでなし崩し的に
受け入れてしまった。ええい、ままよ。
「1年5組の綾小路 薫です。これからお願いします。」
 と、挨拶をすると、先ほど凛と呼ばれた2年生が、
「宜しくね、薫ちゃん。わたしは尾添 凛、今期の副会長をやってる麗子の親友。
んで、今そこにいるおさげ眼鏡が会計の朝倉 綾乃で、反対側に座っている貧乳ツインテールが書記の中西 怜。」
と言うと。
「誰が、貧乳ですか! 誰が!」
と中西と呼ばれた先輩が凛先輩に噛みついた。どうやら相当なコンプレックスらしい。
「貧乳でしょ。どう見ても。」
とよせばいいのに凛先輩も煽る。
「私は普通ですよ。皆さんが大きすぎるんです。」
「まあまあ、レイちゃん落ち着いて、リンちゃんも煽らないで」
と、朝倉と呼ばれた先輩がなだめる。すると二人とも喧嘩を止め、
「アヤノンが言うなら…」
「はいはいごめんね。んでそこにいるのが前回役員だった…」
とその時来ていた3年生で前役員をやっていた先輩達を一人ずつ紹介された。

305:ふみあ
09/10/10 21:20:16
一通りその場にいたメンバーを紹介した後に、凛先輩が。
「しかし薫ちゃん。わたしの記憶が確かなら、今朝私たちの傍を車で通らなかったかい? えっ、えっ。」
「はうう、ごめんなさい。」
「ダメだぞ~そんなことしちゃ。まあ、誰も咎めないけどねうちの学校。ところで免許持ってるの?」
「少年用の普通免許ですが持ってます。」
「へえ、見せて見せて。」
「あうう…」
どうしたものか、免許証にはウィッグも化粧もしていない僕の写真が写っている。見られたら僕が男であることがばれてしまう。困ったな。
「ねえねえ、お姉さんに見せて見せて。」
「はうあ….うぅ」
どうしよう。
 その時僕に一計が案じた。そうだ、写真のとこだけ隠して一瞬だけ見せるのはできないか? 免許証には氏名、生年月日、住所、免許一覧と写真以外は性別すら書いてない。
写真さえ隠せればオールOKジャン。善は急げ、早速財布を取り出し、写真だけがうまく隠れるように出した後、「ねっ。」と言いながら少しだけ見せる。すると先輩は、
「お、持っているのか。だったら素直に見せれば良かったのに。」
「は、恥ずかしかったんです。」
「何言っているのそれくらいで、かわいいなあ、もう。」
と言いながらどこぞの親父の如く、いきなり先輩が抱きついてきた。どうやら写真の件はスルーしたらしい。ひとまずホッとしたが、如何せん胸が顔に当たって苦しい。


306:ふみあ
09/10/10 21:36:54
 「うぅん、やっぱ小さい子は抱き心地がいいなあ….ε-(´∀`*)」
とわけのわからぬ事を云いながら先輩はずっと抱きついていたが、急に何かに気がついたのか、離れたと思ったら、後ろにいる怜先輩に向かって、
「怜、喜べ。薫ちゃんも胸がないぞー。」
と叫んだ。先輩、今ここでいう必要がありますか?
 思わず赤くなったとたん、それまでずっと我慢していたのか。麗子先輩が、
「凛、もうそれくらいになさい。薫、今からあなたの仕事を説明するわ。」
と言ったとたん。凛先輩は悪ふざけを止め、再び静寂が訪れた。
 仕事は簡単な役員の補佐と雑用だった。とりあえず放課後になったらここにきて、お茶を入れたり、役員の指示に従って簡単な作業を行う事が当分の仕事だそうである。
 そしてなぜか先輩のことを敬意を込めてお姉様と呼べと言われた。つまり会長なら麗子お姉様。副会長なら凛お姉様という風に。要は尊敬する姉を一途に慕う妹の如く姉にこき使われろ、
というようなことらしい。なぜか凛先輩の何かのつぼにハマったらしく、何度も「薫ちゃん。」「なんですか? 凛お姉様。」「なんでもなーい。」などという不毛なやり取りをさせられたことには閉口したが…。
 とにかく、その日僕は半ばなし崩し的に、学生会の一員になった。

4-5終了。4-6に続きます。
>>301 ごめん、まだ当分続く。正直いつ終わるかわからんOTL

307:名無し物書き@推敲中?
09/10/11 02:36:18
ブログ「イザ」の相模文芸クラブ。
ここに作品がさらされ、批評を求めてる。
他の作品を見るのも、批評するのも有益だ。

308:名無し物書き@推敲中?
09/10/15 01:42:59
>>301
二年前にうpされた作品だからもう続きはみれないだろ

309:名無し物書き@推敲中?
10/01/07 12:28:06
アク禁解除テスト

310:ふみあ
10/01/07 13:47:17
久しぶりに>>306の続きから

4-6
>>薫
 学生会館へ続く坂道の右カーブの途中から学生会館前の広場に突っ込むように左方向に車の向きを向け、
そのままブレーキを踏みながら建物の前まで突っ切ったところで停車してエンジンを切る。
シートベルト外しながら助手席の上に放り投げてた青色の封筒を手にとり外に出る。20クラウンのドアがロックしたことを確認してから
いつものように玄関の扉に歩み寄り建物の中に入る。
 中に入るとさっきよりも薄暗く、やけに静かなような気がした。決して大きくはないが古い上に重厚な造りをした建物なので物音が響きにくい上に、
日も落ちてきたので気のせいだと思いながら履物を履き替えて階段を上る。
 階段のあるホールにやたら大きく自分の足音がこだまするので、どうやら他の人は今で払っているらしい。そんなことを考えながら
執務室のドアの前に立つと、部屋の中から微かにだが異音がすることに、ふと僕は気がついた。何の音かわからないので
異音の正体を見極めるため僕はドアに聞き耳を立てた。
 扉の向こうからは人の…女の子の「はぁ、はぁ、んん!、あぁ」という感じの喘ぎ声が聞こえてきたので一瞬僕の思考はフリーズした。
固まりながらなお聞いているとさらにもう一つ聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「ふふ、加奈ちゃんったらかわいい声なんか上げて..ほらもっと私にその声を….」
「….んうん、あぁぁ…様..ダメ♡…」


311:ふみあ
10/01/07 13:49:59
 心臓が飛び出そうなところをなんとか堪え、中の二人に気づかれぬようにそっとドアを開け、隙間から覗き見る。残念ながら眼鏡の外だったので大まかな輪郭しか見えなかったものの、
それを尾添先輩と、リボンの色から自分と同学年だとわかる、知らない女の子が百合っぽい情事に耽ってる現場だと確認するのには十分すぎるものだった。
 あの噂は本当だったのか….と感心しながらも、気づかれないようにドアをそっと閉める。残念ながら僕には他人の情事を興奮しながら覗き続けるような真似は出来ないので、
抜き足差し足しながら階段の方へUターンして、一階に降りた。
 階下に降りたのはいいが、どうしようか、車の中でやり過ごそうかと考えていたとき、何故か自分が手ぶらであることにふと気がついた。封筒よ、どこへ行った?

312:ふみあ
10/01/07 13:54:42
 2階までは確かに持って上がった記憶があるので落としたとしたら執務室の前だろうと考え、階段に足をかけようとした時、執務室のドアが開き、こ
ちらに向かってくる足音が聞こえた。急いで階段の下に隠れてやり過ごすことにする。
 一階に降りてきた二人は階段のそばで何やら話している。時折「彼氏」だとか「あいつなんか」とか「気持ちよく」とか聴こえてきたので
恐らく碌な内容ではないと察せられたが良くは聞こえない。それよりよく考えたら今外には僕の車が止まっていることに気がついた。
封筒と車…ああ、詰んだな。
 予想通りか、二人は扉を開けて外に出て行った。恐らく車に気付いただろう。先輩が戻ってくるまでここに隠れていた方がいいかもな。
で、戻ってきた後にさも今まで外に封筒を探しに行っていた振りをして合流する方がいいだろう。

313:ふみあ
10/01/07 13:59:01
 そうこうするうちにすぐに先輩が戻ってきた。そして先輩はそのまま階段の方に目をくれず一階の廊下の方へやってきた。そして階段下のスペースを覗きこみ…
「みーつけた♡」
と言いながら隠れていた僕と目があった。
 先輩と目があったので「こんにちはお姉さま♡」とさも今出会ったかのように下級生らしくなるべくかわいく同じように挨拶を返す。すると先輩は
「何やってるの?薫ちゃん、ひょっとしてかくれんぼ?」
とおそらく当然疑問に思うであろうことを聞いてきた。
「いえ、違うのですが…あ、でも、そうかもしれませんね。私おっちょこちょいのせいかファイルを失くしてしまったみたいで..
確かにここまでは持ってきたはず何ですけれど、ああ…ホントどこへ行っちゃたんだろう。」
と答えながらさも探しているかのように床に手をつきながら動きまわていると、
「それって、ひょっとしてこれのこと?」
と言いながら先輩は僕に先程の青い封筒を差し出してきた。
 呆然としながらそれを受け取ると、先輩は
「見つかってよかったわね、ここではなんだから上でお茶でもしない?」
と言ったので、反射的に「はあ。」と返事をしていた。

続く...

314:ふみあ
10/01/08 14:24:09
続き

 二階に上がり執務室に入ってしばらくした頃になってやっと我に返った。そしてこれからどうするか考えた。やはり、いったん執務室の前に来たものの
車に忘れ物をしたことを思い出して封筒を放って来てしまった、ということにしておくことにした。
 先輩と向き合ってお茶を飲みながら、先輩に
「お姉さま、さっきは本当にありがとうございました。あの封筒、どこで拾ってくださったのですか?」
と聞いてみると、
「ああ、そこの…この部屋の前の廊下のところに落ちてたよ。」
と予想通りの答えが返ってきたので、
「あ、そこに置いて来てしまったんですね。先程執務室の方に来た時車の方に忘れ物をしてしまったのを
思い出して慌てて取りに戻ったんです。私おっちょこちょいだからそのと…」
と言おうとしたが、途中で遮るように
「ねえ、薫ちゃん」
と先輩が意味深な雰囲気で話しかけてきた。
「はい?」
「ひょっとして、見てたんじゃない?」
「ほぇ、何のことですか?」
全身全霊、全力をかけて精一杯とぼける。
「(ΦωΦ)フフフ…何って、わたしたちのこと♡」
「だ、だから何の事を仰ってるんですか?お姉さま。」
「知ってるわよ…わたしたちがしてること、あなたが覗いていたこと。」
「し、知りませんよ。本当に、な、何のことですか?」
やばい、ぼろが出そう、っていうかばれてるじゃん。
「とぼけないで、知ってるのよ。」
「い、いや、ほんともう、なんのことやら…」
顔が紅くなってるのが自分でもわかる。
「あら、ひょっとして見ていて興奮していたの?」
と耳元で先輩が囁いてくる。
「そ、そんなこと…」



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