自作小説を書いて見るスレat BUN
自作小説を書いて見るスレ - 暇つぶし2ch141:名無し物書き@推敲中?
09/03/21 14:48:18
(@´゚艸゚`)・;'.、フ゜ッ
URLリンク(diary15.cgiboy.com)

142:名無し物書き@推敲中?
09/03/21 15:28:40
>>141
はいはい

143:貧楽亭空財布 ◆7P6S86Mz6c
09/03/22 21:30:41
本当にどうでも良い話だけど
>>134
>血が噴出した周りは血の海と化した

血を強調する気がはやって変な文だし、そこは色合いを強調することで血生臭さを表現した方が良い

>素っ首叩き落とされた野郎のロースの付け根からトマトケチャップが噴出し、
ディック野郎がビクビクと痙攣しながら倒れ込むとそこにはナポリタンが完成した。



144:日本神人
09/03/29 08:12:07
「おいでよ、一緒にいよ」
 高橋は、泣きながら口の中で飴玉を転がす明菜をそっと抱き寄せた。
「おじちゃんは何で私を構ってくれるの?」
「そりゃあ、アキちゃんが好きだからだよ」
「おじちゃんだけだよ、そんなこと言ってくれるの」
 明菜は高橋の腕の中で心底安堵し、甘い息を彼の顔に吐きつけた。その匂いは甘さが口臭にまさった。
その漠然としたかったるさは彼の陰茎を不意に持ち上げ、明菜を更にきつく抱くと同時に刹那の快楽が彼の下半身全体を包み込んだ。
「ごめんね。いじわるしたくなるんだ。君の笑顔と肌の感触は僕を狂わせて仕方がないんだよ」
「よくわかんない」
「つまり、こういうことさ」

145:名無し物書き@推敲中?
09/04/05 12:19:51
「やめて!相手は無敵のキングチャンピオン、ジャンプ・マガジンなのよ!」
「どくんだサンデー」

146:名無し物書き@推敲中?
09/05/26 02:39:40
字書き諸君、日本語入力は何を使ってる?

147:名無し物書き@推敲中?
09/05/26 09:23:49
日本人ならATOK。

月額版は常に最新。

148:名無し物書き@推敲中?
09/05/26 13:37:10
うちもatok、キー配列も効率的にカスタマイズしてある

149:ふみあ
09/05/31 00:31:21
昨日買った花乙の体験版をやっていたら、なぜか無性に女装男子がアホな理由で女子高に飛ばされるモノを書きたくなったので書いてみた。
そしたらものすごい長編になってしまった。
長編になってくると今度はどうしても晒したくなったのでうpすることにした。
ただ文章も拙いし、やっつけ気まぐれで書いたものなので(しかもまだ途中)ちゃんとした投稿サイトに投稿したり、HPにうpできるような代物でもないし、
そもそも題名がまだ決まっていない。
とりあえずここにうpするから、感想をいってくれ。
あと誰かいい題名つけてくれね?
このスレに来るのは初めてなので使い方やマナーが間違っていたら教えてくれ。
とりあえず次にレスするときからからに第一章分だけ載せていくんでよろしく!

150:ふみあ
09/05/31 01:19:00
第一章 悲劇の始まり
1-1曾祖母の葬式にて
>>薫
事の始まりは、足を悪くして長年寝たきりだった曾祖母がこの2月にとうとう天に召されたところまでさかのぼる。
僕の曾祖母は先の戦争のころからずっと曾祖父と共にうちの会社を支えてきた上に、3男2女を育て上げ、挙句、様々な慈善事業をし、
この学校の先代の理事長を務めていたこともあったらしい。
とにかく人望に厚かった人なので、葬式のときには親戚以外にも沢山の弔問客が訪れて、
遠くは外国から遥々知らせを聞いて駆けつけたという人もいたくらいだ。
僕自身曾祖父や曾祖母といえる人が彼女しかいなかったこともあり、曾祖母を慕っていた。
そんなおばあさんの葬式が一通り終了し、涙もさすがに枯れて、気分も落ち着き悲しみから立ち直り始めたころ、
親族会議で曾祖母の遺産相続の分配について話すことになった。尤も、すでに曾祖母は正式な遺言書を顧問弁護士を通じて作成したので、
特に話し合うこともなく遺言書のとうりに進められ、家財や土地は後を継いだ祖父に、その他の金品は兄弟で平等に分け、
相続税の手続きの手順も決め、曾祖母の形見なども孫・曾孫に一通りいきわたった後、弁護士の手塚さんが身の毛もよだつような遺言状の一節を読み上げた。
「…え~、なお、綾小路 智代および浩彬が嫡子、薫は「聖リリカル女学院高等部」へ編入し、卒業す…」
ん?ちょっと待て。手塚さんやいま変なこと言わなかったか?

151:ふみあ
09/05/31 01:20:09
続き
そう思って「ちょっと待ってください!」手塚さんを静止すると。
手塚「何か?」
僕「何かって。何かやないでしょう。僕男ですよ。
なんで女子校に通わんといけないんですか?」
手塚「何故って、故人の遺志ですし。」
 どうも手塚さんは仕事を済ませて早く帰りたかったらしい。訝しい目で、いかにも面倒
くさそうにこう答えたが、こっちはそうも言っていられない。書面一つで人生狂わされて
たまるか。だけどこちらの事情を知ってか知らずか非情にも手塚さんは話を進めていく。
「故人の遺志を尊重して、そこは薫さんも従ってもらいませんと…」
「そりゃ、曾祖母の遺志は尊重したいし、できれば従いたいですよ。そやけど…」
無理だろ、ぶっちゃけ。

152:ふみあ
09/05/31 01:21:03
さらに続き
不毛だ、話が平行線をたどっている。手塚さんによれば遺言書は法的に有効なものであ
り、すでに手続きを済ませているとのこと。要は今更変更など効かないというのだ。
 悲嘆にくれている僕に更に祖父が追い打ちをかけた。
「あのなあ薫。」
「何?おじいちゃん。」
「ずっと黙っていたんだが…、曾おばあちゃん、実はずっとお前のことを女の子やと思い
込んでいたんじゃ。」
「…はい?」
「だからお前のことをずっと女の子やと勘違いしていたんじゃ。」
「いやいや、おじいちゃん。小さい頃ならいざ知らず、この遺言書を曾おばあさんが書い
たの、確かこの間のはずやで?あり得へんでしょう?」
しかし、祖父は沈黙した。無言の同意だった。
「まさか、今の今まで曾おばあちゃん僕のこと女の子やと思い込んでいたんか?!」
そう僕が叫んだ瞬間、僕以外のその場にいた全員が頷いた。

とりあえず1-1終わり
1-2に続くよ

153:ふみあ
09/05/31 14:00:45
1-2曾祖母
>>薫
 僕は小さい頃からチビで、臆病で、女々しい印象の為に、よく女の子に間違われてきた。
中学の時、中高一貫の男子校に通っていたが、女装企画で無理やり女装させられた時も、何人かに、
女に生まれたらよかったのにとか冗談で付き合ってくれとは言われたけど、まさか14年間、いやほぼ15年も
曾祖母がそんな思い違いをしているとは思わなかった。
 いや、待てよ。よく考えたら、思い当たることがないわけではないぞ。僕は少し昔のことを思い出していた。
松江の祖父母の家に家族で帰省して、ついでに曾祖母へ挨拶に出向くたびに、曾祖母は僕にこう言っていた。
「全く薫や、いつ見てもおまえは男っぽいねえ。」
「え、本当? 曾おばあちゃん。」
普段、女々しいとか、女っぽいとか、男らしくしなさいとか言われている身の上としては、この意見は中々貴重で嬉しかった。しかし曾祖母は…
「何喜んでるんやこの子は、もっとしとやかにせんといけへんよ。」
「?」
何故男がしとやかにしなければいけないのか、当時から疑問には思っていたが、男はあま
りやんちゃするより、落ち着いている方がいいのかと勝手に自己完結していた。
 その後も曾祖母は嫁がなんたらとか何か言っていたが、なにぶん年のせいもあってよく聞こえなかったし、
特に重要だとも思えなかった。今ならわかる、あれは嫁の来手がないと言ったのではなく、
嫁の行き先がないと言ったのだと。

続くよ

154:ふみあ
09/05/31 14:01:31
そんなことを思い出しながら、僕はその場にいた全員に問いかけていた。
「みんな…、知ってたん?」
その瞬間全員がまた、「うん!」と答えた。元気よく答えるな!!
「誰も訂正する気あらへんかったの?」と訊くと、その場にいた全員が口々に、
「だって、ばあさん頑固やったからなあ。」「自分の間違いは絶対に認めん人やったしねえ。」
「それに放っておいた方がおもろかったからなあ。」「あ、それ言えてる。www」
こ…こいつら。思わず叫んでしまう。
「笑いごとやあらへんよ。どないすんねん遺言状。マジで女子校に通えっていうの?」
「まあ、それも一興とちゃうか?」「薫ちゃんの女装かわいいもん。」
僕「いつみたねん! んなもん。↑」
「去年薫ちゃんの学校でやってた文化祭。」
「来てたのかよ!」
「それに薫ちゃん、あんた女装趣味があるやろ?」「え! マジで?」
僕「いや、それは…」
「なら問題ないんちゃう? ばれなきゃいいんだし。」
「そういう問題じゃないでしょ!」「お婆ちゃんの思い、反故にする気?!」
「そんな…」
 気のせいか皆の期待に満ちた眼差しが僕に注がれる。どう考えても断れそうな雰囲気ではない。僕はとうとう断念した。
「わかった。行きますよ。行きゃいいんでしょ。」
「よう言うた。それでこそ漢や。」「がんばってね。薫ちゃん。」
この時、実行はしなかったものの、親戚を一人一発ずつ殴ってやろうかと本気で思った。
 かくして僕の東京行きは決定した。

155:ふみあ
09/05/31 14:02:41
1-2終わり1-3に続くよ

156:ふみあ
09/06/01 19:31:26
1-3 Let’s go!女子校ライフ
>>薫
 その後は散々な目にあった。
 学校の友人や教師に相談すれば、こちらも当然のように爆笑され、ともすれば、
「ええやん、うらやましいわ。俺も連れて行けや。」
「ええ人生経験にはなるんちゃうか? 向こうの学校はうちほど進学とかにうるさなさそう
やし、君には合うんちゃうかなあ。」
何よりショックだったのは、いくら僕が優等生ではないとはいえ数少ない友人を除けば、
誰も引き留めてくれなかったことだった。
 走り屋仲間の先輩や知り合いに相談したら、別れを惜しまれたが、なぜか餞別にと車を
もらった。たぶん処分するのが面倒だったんだろうな。もらう僕もどうかと思うが。
 行きつけのショップに、何台か向こうに陸送する手続きを取ってから、ついでに家具や
家電のようなかさばる物も宅配の営業所で輸送してもらう手続きをした。

 3月の末日、母親と共に入学式に出席するため、新幹線の駅へ向かった。駅までは父親が
車で送ってくれた。が、道中ずっと、僕の気分は晴れなかった。
 助手席側から左側のサイドミラーをのぞき込む。そこには、丸い童顔のロングヘアーで、
ややゴスロリ調の黒い丈長のワンピースに白いガーディガン、黒いパンストを履いたかわ
いらしい女の子が助手席に座っているのが見える。ただ変わっているのは、その娘が男物
の黒いスニーカーと銀色の腕時計、そして四角いシルバーフレームの眼鏡を付けているこ
とだ。尤もこれは彼女、もとい僕のささやかな抵抗であるのだが。

続くよ

157:ふみあ
09/06/01 19:33:47
 「なぜ、家を出る時から女装なんだよ。」
と、納得できないので後ろにいる母に尋ねると、
「そりゃ、向こうに着いたらそのまま寮に入る手続きをするためよ。」
「そうかい。」
ふて腐れていると隣でハンドルを握る父が、
「だけどおまえ結構かわいいぞ。もっと自信を持て。」
「いらへんよ、そんな自信。」
「まあな、だけど葵ちゃんが同じ学校の先輩でよかったよ。」
と、後ろにいる母方の従姉である葵お姉ちゃんに話しかける。
「そんな、私こそ、クーちゃんと一緒に通えるなんて夢みたいです。」
 面長で腰まであるロングヘアー、いつもどうりのブラウスにスカートを着て、ニーソを
履いている葵姉ちゃんは一言で表せば、清楚な美人、文武両道で何事も卒なくこなし、か
といってそれを鼻にかけることなく、なお且つ胸もそれなりに大きくグラマラスでスタイ
ルがいい、いわば、マドンナという感じの女性である。

そんな葵姉ちゃんに今度は僕の母が、話しかける。
「葵ちゃん、薫のこと頼むわね。何かあったらビシバシしごいてもかまわないから。」
「わかりました。任してください。智代おばさま。」
 なんだかんだと言っているうちに、駅につき、親父と別れ、一路東京へ向かい、入寮の
手続き、引越しの整理、入学式の準備をし、初めて寮の部屋で一人で床に就くことになっ
た。

1-3終わり、1-4に続くよ

158:ふみあ
09/06/03 02:10:59
1-4なんというか…カオス
>>葵
 朝6時15分頃、私は風紀委員として全学生に起床時間を知らせるために、食堂に向かっ
ていた。
 途中、同じ風紀委員でクラスメイトの雪乃さんと合流した後、集合場所の寮の食堂に向
かうと、すでに他の風紀委員は全員集合して、私たちの到着を待っていた。
「遅れてすみません。」と、風紀委員長に詫びると、
「なに、まだ集合時間にまだ時間があるわ。気にしないで。」と答えられた。

続きます

159:ふみあ
09/06/03 02:12:19
「では、これより本年度初の朝の点呼を行います。今朝の割り振りなのですが…」
と委員長がいつもどうりに活動内容を確認しようとしたとき、
「あのう…」
「どうかしましたか? 葵さん。」
「今日の私の担当、1年生棟に変更していただけないでしょうか。」
「かまいませんが、どうして?」
「いえ、従妹が今年度の新入生として入学したものですから。」
「あら、それはおめでとう。」
「ありがとうございます。」
「もうこちらにお越しになられてるのかしら。」
「ええ、昨日到着して、今日の入学式に出席するんです。」
「じゃあ、こちらで朝を迎えるのは初めてなのね。」
「はい。」
「よろしければ、私も一緒に行っていいかしら。あなたの妹さんに会ってみたいわ。」
「ぜひ。だけど妹じゃなくて従妹ですよ。」
「みたいなものでしょう?」
いたずらっぽく笑う委員長を見ていつも思う。まったくこの人にはかなわない。

まだ続くよ

160:ふみあ
09/06/03 02:14:12
>>薫
 朝だ、日が昇り始めて辺りが明るくなり始めたのを確認して、僕はため息をついた。
とりあえずぐるっと周りを見回してみる。
まず南側に大きな開き戸タイプの窓があり、そのそばに机があり、向かい側の東側の壁
沿いに南枕のベッドが置かれ、反対側に本棚が見える。部屋の北側にクローゼットと入口があり、その向こうに玄関とシャワールーム、玄関そばに小さなキッチンらしきものも付いている。だがなぜかトイレが付いていない。これでざっと8畳の1DKといったところだろうか。
 未だ寝起きでぼうっとしている頭で、僕は昨晩の出来事を思い返していた。昨日はほとんど眠れなかった。昨晩こちらの方についた時、無事到着したことを伝えようと、実家や向こうの友達に電話した時にいろいろ恐ろしいことを聞かされたからだ。

まだ続く

161:ふみあ
09/06/03 02:15:26
祖父からは、曾祖母が僕が前にいた学校、つまり中学を中高一貫の私立の男子校ではな
く、普通の公立中学校だと勘違いしていたと聞かされた。確かにうちの学校は地名がその
まま学校名になっているからそう思い違えても不思議ではないが、それと今回の転校とど
ういう関係があるのか問い詰めると、
「うーん、どうやら曾お婆ちゃんはおまえをどうにかして女らしくしたかったようじゃ。
ことに聖リリカルはキリスト教とこの手の教養教育に熱心な…」
もういい。と結局お茶を濁してしまった。曾祖母の公立校への不信と、淑女を育成するた
めの教育が僕にとって必要だという誤った認識が今回の遺言書を書かせた原動力らしい。

続く

162:ふみあ
09/06/03 02:18:13
さらに親友だった多田からは、聖リリカル女学院が、高等・中等・初等・幼稚舎からな
り、さらに名前こそ違うが、同系列の経営の大学まであるかなり規模の大きいマンモス校
だが、大学を除くすべての学校が、BFとなっているという事実を教えてもらった。
「ボーダーフリー? どういうこと?」
と、訊くと、
「うーん、ボーダーフリーというよりも、そもそも試験で一般公募しとらんみたいや。」
「試験をせえへんて?」
「寄付が多かった生徒や、スポーツや芸術なんかの推薦を取ったやつ、将来を嘱望、また
は名家出身の生徒を専ら取っているらしい。ま、後は綾小路みたいにコネがある奴やな。」
「いやな言い方するなよ…。」
「事実だろ。」
「まあ、そうだけど。こんなやり方でやっていけるんか?」
「いけるんとちゃうか、現に相当な生徒が毎年はいっとるんやろ?」
「みたいだけど。」
「まあガンバレや、どうせ連休には帰ってくるんやろ?」
「たぶんね。」
「じゃあその時また一緒に遊ぼうや。」
「ああ、楽しみにしてるよ。じゃ、おやすみ。」
「おやすみ。」
終話スイッチを押す。どっとため息が口から出てきた。

続く

163:ふみあ
09/06/03 02:36:55
 その後、自分のノートPCをネットに繋いで聖リリカル女学院をググッてみると、一応ホ
ームページがあるが、確かに多田の言ったとうり入学試験は大学以外一切行っていないよ
うだった。その代り寄付金、否学校側の説明によれば慈善支援金、なるものの応募フォー
ムがあり、見てみると、
「うわっ! 一口ン千万を10口以上って。なにそれ?」
普通に億超えてるやないか。いや、最低が5億円なら下手したら10憶超える場合も当然あ
るのだろう。慈善と言うレベルじゃないだろ、これ。
 しかもこの支援金の他に正規の授業料や諸経費もしっかりと取っている。額面はだいた
い前の学校と同じくらいのようだ。前の学校 私立高市中学高等学校は基本的に授業料以外
で寄付を取ることはなかった。しかし前年に中学、高校の校舎を新築し、通信環境も一新
したが、僕の知る限り黒字経営だった。
 つまり大規模でないとはいえ、普通の学校が健全な経営が行えるくらいの授業料を取り
ながらさらに何百億もぼったくっているのである。こんな学校の理事長をしていた曾祖母
は果たして人格者だったのか? 今まで抱いていた曾祖母のイメージが崩れていく音を聞き
ながら、PCの電源を切って、床に就いたのだった。

164:ふみあ
09/06/03 02:37:38
正直眠いが、寝れる気がしない。そのうち眠たくもなくなったので少し早いかとも思っ
たが起床することにする。
 とりあえず洗顔をして、歯磨きをし、髭をそる。電動剃刀の音が気になったが、完全防
音ということなので、よほどのことがない限り外に漏れることもなかろう、ついでに手や
足の無駄毛も剃っておく、電動剃刀なんて何に使うのと訊かれたら「無駄毛処理」と答え
るためにね。ついでに眼鏡も洗っておく。
 そのままパジャマを脱ぎ棄て制服に着替える。パット入りのブラとショーツとロングの
ウィッグは昨晩から寝込み対策のためにずっとつけていたので、そのままパンストを履き
制服を着ようとした。
 しかしなんだこの制服は、どうやって着るんだ? なんていうかギャルゲーでお嬢様学校っ
て言ったらたいていこんな感じの制服だよね、と思えるような代物なのである。困った、
ただでさえ女ものの服は構造が分かりづらいのにこれじゃあ。
 僕は制服を手に取ったまま困惑していた。


第一章 完

第一章はこれにて終了。只今第二章を鋭意制作中。できたらうpしようと思う。

165:ふみあ
09/06/14 06:33:12
皆さんお久しぶりです。何とか第二章が完成したので、これから順番にうpしていきます。
というか、この板本当に人がいないのか? 感想が聞きたいので突っ込みたい人や感想を書きたい人はどんどん書いていったください。
あと、題名の方は引き続き募集中、今はとりあえず、「がんばれ男の娘(仮)」で行きます。
では第二章 2-1を次のレスからうpします。

166:ふみあ
09/06/14 06:34:34
第二章 入学式

2-1たぶんデビュー戦
>>薫
 さあどうしたものかと手をこまねいていると、玄関の扉がノックされた。
「クーちゃん起きてる? おはよー。」
「あら、クーちゃんていうの?」
と葵姉ちゃんの声と他にも誰かが話している声が聞こえた。今更ながら自分が下着一枚し
か着ていないことに気づき、とりあえずパジャマを着なおそうとすると、突然鍵が掛かっ
ていたはずの玄関の扉がガチャッと開けられる音が部屋中に響いた。

167:ふみあ
09/06/14 06:35:53
ビクッとして振り向くと、そこには制服を着た葵姉ちゃんが今まさに入ってこようとし
ているところだった。とりあえずシャツだけ羽織ってその場をしのぐことにする。
 葵姉ちゃんは他に二人の女生徒を引き連れていた。一人はいかにも最上級生といった感
じの落ち着いた雰囲気の、腰まである髪をゆるやかにカールさせた背の高い、制服の上に
ピンクのエプロンをした女性。もう一人はポニーテールが愛らしい、おそらく葵姉ちゃん
と同学年の女生徒、こちらも制服を着ている。そして3人とも左腕に風紀と大きくかかれ
た橙色の腕章をつけている。

168:ふみあ
09/06/14 06:36:38
どうやら見回りのついでに寄ったという感じを受けたが、混乱しているのでどういう対
応をとればいいか分からない。とりあえずどうにか「お…おはようございます。」とあいさ
つをすると、エプロンをしたほうの女生徒が、
「ごきげんよう。あなたがクーちゃんね。」
と話しかけてきた。僕が返事する間もなく葵姉ちゃんが猛烈な勢いでしゃべり始める。
「ええ、この娘が私の従姉の薫です。」
「薫ちゃんて言うの? 素敵な名前ね。」
「そんでもって薫、この方が紫苑お姉さま。風紀委員長をされているわ。」
「はじめまして薫ちゃん。葛城 紫苑です。よろしくね。」
と言われて初めて、
「こ..こちらこそ初めまして、綾小路 薫と申します。これから宜しくお願いします。」
と答えると、紫苑さんは少し困ったように笑いながら、
「あら、そんなに畏まらなくていいのよ。」
というと葵姉ちゃんが、
「お姉さま、この子内気というか昔からこうなんです。それと…」
といって、傍らにいるポニーテールを示し、
「彼女は春日 雪乃、風紀委員にして、私のクラスメイトにして一番の親友よ。」
というと、
「春日 雪乃だ。君の話は葵から聞いてるよ。よろしくな。」
「は…はい。」

169:ふみあ
09/06/14 06:37:31
とどうにか返事をすると雪乃さんが、
「ところで君はどうしてそんな恰好をしてるのかな?」
 今更ながら、自分がやや恥ずかしい恰好をしていることを思い出した。仕方ないので、
「制服の着方がわからないんです。」
「ああ、確かにうちの制服変わってるからねえ。でもお家で一度着なかったのかな?」
首を横にフルフルと振る。
「着てこなかったのか。」
今度は縦に振る。

170:ふみあ
09/06/14 06:53:37
さすがに見かねたのか葵姉ちゃんが
「薫、教えてあげる。手挙げて。」
「えぇ! 今着替えんの。」
「当たり前でしょ、文句あるの?」
「だってぇ。」
人前で服を着せてもらえと? 冗談じゃない。
 空気を読んだのか葛城さんと春日さんは、部屋の外に出て行ってしまった。悪いことし
たな。
「じゃあ、手を広げて。」
「教えてくれたら自分でできるよ。」
「まあ、そんなこと言わずに…えい!」
「あぁ!」
 その頃、部屋の外ではこんな会話がなされていたらしい。
「雪乃、あの娘、どう思う?」
「さすが葵の従妹というべきか、可愛い娘だと思いますよ。ただ少し固いかな。」
「初対面だから緊張していたのよ。すぐになれると思うわ。」
まさか二人とも、先ほど出会ったメガネっ娘が実は男だなど露ほどにも疑っていない。

2-1終了 2-2に続きます。
今回第二章は2-8まで、分量にして第一章の2.5倍ぐらいあるけど頑張ってうpするからよろしく。ノシ

171:ふみあ
09/06/15 03:07:34
2-2をうp!

2-2大いなる誤算
>>薫
 胸ポケットに校章が刺繍してある白いブラウスを羽織り、裾に白いラインの入ったシンクのスカートを穿き、黒い革ベルトを締め、チャックのついていない半袖のセーラー服のような、白い襟に紺色のラインが入った赤い上着のようなものを頭からかぶり袖を通す。
「これでいいのかな。」と訊くと、
「ええ、後はネクタイをして、出来上がり。」
「ふつうネクタイしてから上着を着いひん?」
「後からネクタイをシャツの襟に通して、押し込んだ方が皺になりにくいでしょ。」
なるほどねえ。

「これ、お姉ちゃんと色違うんやね。」
「これで学年を区別するのよ。クーちゃんたち一年生は青、私たち二年生は黄緑、
そしてお姉さま方三年生は桜色という風にね。」
「へえ、学年章じゃないんだ。ところでこれ三年間ずっと同じ物を使うの?」
「まさか、来年はクーちゃんも私と同じ黄緑を使うことになるわ。」
「ふーん。じゃあさ、体操服はどうなの?」
「体操服?」
「例えば学年ごとにジャージの色が違うとかさ。」
高市高校は学年ごとにジャージの色が違い、6年間同じ物をずっと使う。だから、毎年新色のジャージがでて、今年の一年生はどんな色のジャージをしているのか、楽しみにしたものだった。だからこっちでもそうなのかと思って聞いてみたのだ。しかし…
「ないわ、みんな同じものを使っているもの。」
「なんだつまんないな。うちの学校がそうやったからこっちでもそうなんかなと思ったのに。」
「うちのって高市?」
「うん、そうだよ。」
「へえ、高市って変わっているのね。」
ここほどじゃないと思うけどな。

172:ふみあ
09/06/15 03:12:10
「でもクーちゃん。うちの学校の体操服、ジャージじゃないわよ。」
「へ?」
「ブルマよ。」
「まさかぁwwww」
「嘘言っても仕方がないでしょう。」
「マジで? 今時ブルマはないでしょう。」
「ここにあるわ。」
「いやいや。」
「でも、男の子ってブルマ好きなんでしょ。」
「どっから仕入れたかは知らんけど訂正しておくよ、葵姉ちゃん。男はブルマが好きなんやない。ブルマを穿いている女の子を見るのが好きなんや。まして自分が穿くなんて…」
「あら、どっちにしてもブルマを穿いている女の子を一杯見れてよかったじゃない。」
「よくないよ。冬どうすんのさ、寒いやん。それにグラウンドで座ったら足が砂で汚れちゃうじゃんか。」
「お風呂でよく洗えばいいでしょう、それくらい。」
「そりゃそうだけど、ブルマやと僕が男やってばれへんかなあ。」
「うーん。」と唸ったと思ったら、葵姉ちゃんはいきなり僕のスカートをめくって、中を確認し始めた。


173:ふみあ
09/06/15 03:13:32
「きゃっ! 何すんだよう。」と思わず叫ぶと、
「きゃって、女の子じゃないんだから。」
「今は女の子なんだい。」
「はいはい、そうだったわね。」
「で、何してたのさ。」
「クーちゃんのあそこ、小さいからそんなに目立たないと思うわよ。」
「さらっと失礼なこといわへんでよ。」
「気にしてるの?」
「そういうわけじゃ。」
「それにそのくらい目立たなきゃたぶん水泳の授業も大丈夫ね。」
「水泳?」
「どうかしたの。」
「水泳の授業ってプール使うの?」
「当たり前でしょ。」
「プール、あるんだ。」
「いや、普通あるでしょ。」
「うちの学校なかったから。」
「高市ってプールないの?!」
まんま信じられないって顔で葵姉ちゃんは驚いた。

174:ふみあ
09/06/15 03:15:01
「だってそもそも土地がないんやで。」
「増やすわけにはいかないの?」
「無理、そもそも正門が大阪外環に面してるし、近くにはR171と外環R170の交差点もある街中にあるもん。近くに歓楽街もあるし。医大と土地を折半してるから。」
「それは、ご愁傷様。」
「ま、その代り娯楽と交通事故には事欠かないけどね。」
「こ…交通事故?」
「しかし困ったなあ。水泳があるとなると着替える時に必然的にマッパになる瞬間があるもんなあ。まあどうにかするか…」
「ちょっとクーちゃん。」
「何?」
「交通事故って?」
「ああ、うちの学校、僕もそうやったけど電車通学が多いんだよ。だけど学校から最寄駅に行くには、阪QでもJRでも外環とR171を越えへんといけへんからさ。交通量が多いから、急いでいて信号無視した時にたまに撥ねられて怪我したり死んだりするやつがいるんや。」
「….(汗)」
「まあ僕も5回くらい10tダンプや路線バスに轢かれそうになったことがあるけどね。」
「….( ゚д゚)」

「あれ、葵姉ちゃんどうしたの?」
さっきから黙りこくっている葵姉ちゃんに話しかける。
「え、ああどうしたの?」
「いや、葛城さんと春日さんを待たせてるんじゃないの?」
「あ、そうだった!」
といって、葵姉ちゃんは急いで部屋を出ていく。
「クーちゃんもそろそろ準備しなさい。朝食の時間だから。寮の食堂の場所はわかるわよね?」
「うん、一応昨日案内はしてもらったから。」
「じゃあ、一人でも大丈夫ね。朝食は7時からだから急ぎなさい。」
「うん、わかった。」
「じゃあ、また後でね!」
そう言って葵姉ちゃんは部屋を出て行った。
 さて、腹も減ったし言われたとうり朝食にするか。時計と携帯と部屋の鍵とハンカチ、そして財布をポケットに突っ込み、カバンを持って部屋を出た。

2-2終わり、2-3に続きます。

175:ふみあ
09/06/16 04:32:34
2-3食堂にて
>>薫
 学校の寮は学校内の一番北側にあり、東側の1年生棟、西側の2年生棟、南側の3年生棟が真ん中にある大きな十字型の本館を中心に七の字になるように配置され、
正面入り口は本館の南西にエントランスとして設けられており、エントランスの北側、本館一階の本館と1・2年生棟への連絡する廊下の交差するところに大きな食堂がある。
北側の少し飛び出したところまで食堂として機能しているので、学校案内によれば300人が一度に食事をとることが出来るらしい。
 ちなみに、一棟あたりが30世帯×10階建てと半端ない大きさのため、それに見合わせて本館もかなり大きく、食堂以外のリクリエーションもいろいろあるらしい。
 (よくまあこんな広い建物で、たった10人そこらで全員を起こそうとするよなあ)
と、風紀委員の活動に感心したが、後で聞くと長期休暇明けの前後数日間だけで普段はほとんどやってないらしい。とにかく僕はエレベーターホールから食堂に向かっていた。

176:ふみあ
09/06/16 04:33:15
 1階のエレベーターホールや廊下はお嬢様学校の寮のそれに相応しくやたら豪華な造りになっている。だが、一面大理石の床や真紅の絨毯、壁や天井の彫刻やシャンデリアなどは少し高級なホテルや豪邸にはよくある仕様なので特に驚くことはないが、
少し、いやここまでやるかと思うくらいやり過ぎている感がある。しかしながら建築家やデザイナーのセンスや職人の腕が並外れて良かったのか、不思議とそこまで下品には感じない。
 廊下の豪華な雰囲気に共鳴するように左側の壁に並んでいるシックで重厚な扉の群れを抜けしばらく行くと廊下は大きくL字型に折れ曲がったところに出る。角を曲がってしばらく行くと、向こうに本館のエントランス、こちらに本館エレベーターホールと階段、
そして右側に例の食堂が見えるエリアに来る。ちなみに先ほど一年生棟のエレベーターホールから歩いてきた廊下の上、つまり2階以上の共用廊下については普通のマンションと同じような感じになっているがドアのデザインは同じである。ついでに食堂入り口から
エントランスを突っ切ってまっすぐ走る廊下をずっと行くと3年生棟の入口にぶちあたる。

177:ふみあ
09/06/16 04:33:56
 とりあえず予想はしていたが、寮の食堂も食堂というよりホテルか高級フレンチのレストランのでかいやつだと思った方が正しいらしい。金メッキの格子戸に、分厚いガラスがはまった重厚な観音扉の向こう側には仕切りがあるのか薄暗く、
よくわからないが、奥からかすかに光が洩れているし、向かって右側の扉のドアノブには飾り字で「Open」と書かれたプレートが掛っている。
 誰の姿も見えない分不安が募るが、Openというからにはやってはいるのだろう。恐る恐る扉に近づくと、突然人影が現れたと思ったら向かって左の扉が奥の方へ開いた。見ると黒いスラックスに黒の皮靴を履き、白いフォーマルシャツに黒いベストを着た
若いドアマンが「いらっしゃいませ、ようこそ。」と、お辞儀しながら中に通してくれた。

178:ふみあ
09/06/16 04:34:36
 ドアマンがいんのか、本格的だなあと感心していると次はカウンターの奥からドアマンと同じような格好をした、しかし上から黒い燕尾服を着た中年の男性、おそらくここのチーフか何かだろう、が現れ、
「いらっしゃいませ、お早う御座います、お嬢様。お一人でいらっしゃいますか?」
とお辞儀しながら恭しく聞いてきた。

179:ふみあ
09/06/16 04:35:18
「今は一人ですが、中にたぶん連れが待っていると思うんですが。」
と答えると、
「さようですか。それでは御席はその方と相席で構いませんね?」
「ええ、ですけどいない時は一人でお願いします。」
「かしこまりました。ところで今朝の朝食はどのようにいたしましょうか。」
「あの、僕、今日初めてここを利用するので、何があるのかわからないんですが。」
「初めて?」
「僕、今日入学する予定の新入生なので。」
「それは失礼しました。御無礼をお許しください。」
「いえ、そこまでは、ところで朝はどのようなものがあるんですか。」
「当レストランでは朝食に、和食、ブリティッシュ、アメリカン、フレンチ、中華の計5種類をご提供させていただいています。」
「具体的には?」
「和食はご飯に味噌汁と納豆と焼き魚が付きます。」
「ブリティッシュは?」
「ブリティシュは定番のトーストとサラダ及び、ベーコン、ハム、ウインナーエッグの3種類のなかから1品、コーヒーか紅茶のうちいずれかをお選びいただけます。トーストにはバターとジャムをお付けいたします。」

180:ふみあ
09/06/16 04:52:17
「フレンチは?」
「ブリティッシュのトーストがフレンチトーストに変わります。」
「アメリカン?」
「ブリティッシュのトーストがホットケーキ、またはリングドーナツに変わります。」
たぶんそう来ると思ったが、わざわざ三つに分ける必要があるのか?
「中華は?」
「基本的に飲茶のコースとなっております。ただこちらは日によって内容が変わります。」
なぜ中華だけ別扱いなんだ?
「一番人気なのは何ですか?」
「すべてご好評を頂いています。」
いや、答えになってないだろう。

181:ふみあ
09/06/16 04:53:22
「ただ強いて言えば、フレンチや和食の注文が他より若干は多いようです。」
「そうですか。」
 うーんどうしようか、昨日の朝食は思いっきり和食だったから今朝は洋食にするか。
そう考えた僕はチーフに、
「では今朝はフレンチにしようと思います。」
「エッグはベーコン、ハム、ウインナーのうちどれになさいますか。」
「ベーコンで、あとコーヒーをお願いします。」
「左様ですか。では、案内の者を呼びますので暫しお待ちください。」
そう言ってチーフが奥に引っ込んだと思ったら、今度はメイド姿のウエイトレスがやって来た。

182:ふみあ
09/06/16 04:54:12
「いらっしゃいませお嬢様。御席へご案内いたします。」
そう言って中に入りかけたが、
「ところで、お連れの方はおられますか?」
「そうでうね。えーっと、どこだろう。」
 食堂の中はとても広く、きれいにクロスが掛けられた4~6人数用のテーブルが何十台も並んでいる。無論椅子など何脚あるか分からない。
一度に300人はマジで入るかもしれない。もしも、ラッシュ時なら不可能だったろうが、今日は入学式、本日付で入る新入生がほとんどだし、
在校生も今はまだ春休みでほとんどが帰省中である。はっきり言ってガラガラだったから葵姉ちゃんたちはすぐに見つかった。恐らく向こうも同じだったのだろう。
葵姉ちゃんたちが軽く手を振っているのがわかった。とりあえず先ほどのウエイトレスにこう言った。
「いました。つれです。」
「では、あの方たちと相席で構いませんね。」
「はい。」
「では、御案内いたします。」
まずは席に着こう。

2-3終わり、2-4に続く

183:ふみあ
09/06/17 04:30:12
2-4食堂にて その2
>>薫
 「ではこちらの席にどうぞ。」
「ありがとう。」
 とりあえず、4人掛けのうちあいている入口に一番近い席に座る。
「すみません。遅くなりました。」
「こちらこそ、悪いね。先に頂いているよ。」
遅くなった詫びをすると、真正面の春日さんが返事をしてくれた。僕の右側に葛城さん、左隣に葵姉ちゃんが座っている。
 見ると三人とも和食を食べているらしい。
「あれ、皆さん和食なんですね。」
「そうだよ~。」
「日本人なら、朝は御飯と味噌汁だろう。」
「あら、薫さんは和食ではないのですか?」
「僕はフレンチにしました。」
「ああ、そうなんですか。」
「クーちゃんも和食ならみんなそろったのに。」
「僕、昨日の朝食がおもいっきり和食やったから、たまには別のものがいいかなと思って。」
「ふうん。まあいいわ。でも和食も食べてみてね。」
「考えとくよ。」

184:ふみあ
09/06/17 04:30:53
 そこに突然春日さんが会話に割り込んできた。
「ところで薫君。」
「何でしょうか?」
「君は自分のことを呼称するとき『僕』っていう一人称を使うんだな。」
「それがどうかしましたか。」
「僕っていう一人称は普通男の子が使うものだと思うんだが。」
 おそらく彼女はこの時婉曲に僕のことを、女の子、いや淑女らしくないと注意したかったのだろう。だが僕から見れば、一人称こそ『わたし』であるものの、彼女の言葉遣いも相当ボーイッシュに感じる。
それに『僕』という呼称は今の僕に出来る数少ない現況における抵抗手段の一つ、ないしアイデンティティの一つである。簡単に譲るわけにはいかない。

185:ふみあ
09/06/17 04:31:33
「でも、最近は僕みたいに自分のことを『僕』っていう女の子結構いますよ。」
主に二次元にな。ちなみにこういうのを萌えの世界では「僕っ娘」というらしい。
「そうなのかい?」
「そうですよ。」
ていうかあんたのその宝○の男役のような話し方はどうなのさ。
「ふーん、まあいいや。だけど自分のことを「僕」と呼ぶことはここではあまり感心されないだろうね。」
「ここではというと?」
「君も知っているようにここはお嬢様学校として世間に知られ、一流の淑女を要請するための情操教育をおこなっている。」
「らしいですね。よくは知りませんが。」
「当然その分生徒にはそれ相応に振る舞うことを要求される。」
「でしょうね。」
「ここでいう淑女の振る舞いには主に3つの種類があるんだがわかるかい?」

186:ふみあ
09/06/17 04:32:13
いきなり振るか?
「3つというと、行動、服装、喋り方でしょうか?」
「まあ、大体あっているけど、正確には立ち居振る舞い、話し方、知識教養だったかな。」
かなって…、大丈夫かこの人。
「その『話し方』に引っ掛かるということですか。」
「そういうことになる可能性があるということだよ。」
「はあ。」
「君も『僕』っていう一人称が淑女に相応しいとはよもや思わないだろう。」
「そう言われればそうですが。」
「ん?」
「春日先輩のしゃべり方も男性、いえ男役のようなしゃべり方ですよね?」
「君もそう思うのかい。」
「失礼しました。」
「何故謝るんだい。」
「先輩がそこまでお気になされているとは知らなかったし、後輩として出過ぎたマネをしたと思いましたので。」
「律儀というか、やっぱり君相当変わっているねえ。」
「そうでしょうか。」
「そうだよ。で、私の話し方のどこが男ぽかったのかな?」
「そうですね。全体的な雰囲気というのでしょうか、強いて具体的にいえば、文尾を『だろう』とか『だ』で切ったり、僕のことを薫君と呼んだりするところですね。」

187:ふみあ
09/06/17 05:01:16
まさか僕が男だとわかって君付しているわけではないのだろう。
「なるほど、確かにそうかもしれないね。」
微かに笑いながら春日さんはそういった。
「ただ、『先輩』という言葉も、できれば使わない方が無難だね。」
「こちらでは下級生は上級生のことを何て呼んでるんですか。」
「お姉さま、だ。」
ああ、やっぱり。
 そうこう言っているうちにウエイトレスが僕の分の朝食を運んできた。
「フレンチのお嬢様は?」
「あ、僕です。」
「どうぞ。」
「ありがとう。」

188:ふみあ
09/06/17 05:03:01
4席あるうち3席にすでに和食のトレーが置いてあるのだからわざわざ訪ねる必要もなさそうだが、一応聞いておくことがこの店のマニュアルなのだろう。とにかく遅れを取り戻すために急いでかき込むことにする。
 「クーちゃん?」
「何? 葵お姉ちゃん。」
「頬っぺた何かついてる。」
といって、持っていたおしぼりを頬に押し付けてくる。よく見ると3人とも食べ終わり、またはもう食べ終わろうとしているところだった。急がねば。

2-4終わり、2-5に続きます。

189:ふみあ
09/06/18 04:35:54
2-5初登校?
>>薫
「ところでクーちゃん。この後どうするの。」
と、食事を終えて食堂を出てから葵姉ちゃんが訊いてきた。
「どうって、この後ホテルに泊まっているお母さんと合流して9時半からの入学式に出席するけど。」
「と、いうことは今日が初登校となるんだね。」と春日さん。
「ここも一応学校の中ですから、登校というのかはわかりませんけど。」
「確かにここも学校の中だ。登校とは少し違うかも知れないね。」
「すでに学校内にいますからね。強いて言えば建物から建物への移動でしょうか。」
「そういうことになるね。ということは君の初登校は昨日ということになるのかな。」
「そういうことになりますね。」

190:ふみあ
09/06/18 04:36:36
そこに葛城さんが、
「そういえば式は何時に終わるんですか。」
「12時半だそうです。」
「あら結構かかるのね。」と葵姉ちゃん。
「ついでにオリエンテーションも済ませるそうだから。」
「なるほど。」
「じゃあ、終わった後にみんなでどこかに遊びにいきませんか。薫さんに街を案内したいですし。」と葛城さんが言うと。
「お、いいね。」と春日さん。
「そうしましょう。」と葵姉ちゃん。
「お気遣いありがとうございます。」
「どういたしまして。お気になされることはないですよ。」
「ところで、」とずっと気になっていたことを訊く。

191:ふみあ
09/06/18 04:37:16
「講堂ってどこにあるんですか。」
「んーそうだなあ。一言ではいいきれないし。」と春日さん。
「ややこしいところにあるんですか。」
「いや、そういうことではないんだがね。」
「なにせん広いからねえ。」と葵姉ちゃん。
「迷ってしまう可能性もありますからね。」と葛城さん。
「そんなに広いんですか。」
「少なくとも裏の丘の向こうまで一応学校の敷地ですよ。」
「ま…マジで?」
「そういえば去年迷子になってしまった子がいませんでした?」と葵姉ちゃんが言うと、
「ああ、いたねえ。なんて言ったかなあの娘。」と春日さん。
「あの時は大変でしたねえ。」と葛城さんも相槌をうった。
「学校の中で遭難しちゃった人がいらっしゃるんですか?!」と驚くと、
「3日3晩捜索して、見つかった時は相当衰弱されてましたから。」
なんか嫌だな、それ。
「そうなってはいけないから私たちが薫さんを案内して差し上げますね。」
「ありがたいですが、母と一緒に回ることになっているんです。」
「かまいませんよ。薫さんのお母さんにもお会いしたいですし。」
「はあ、じゃあお願いします。」

2-5終わり、2-6に続きます

192:ふみあ
09/06/19 13:19:52
2-6講堂にて
>>薫
 そういうことで僕ら4人は寮を出て僕の母親と合流するために学院の南側にある正門に向かった。途中いくつかの施設や学舎を通過するたびに3人からどういう建物か紹介してもらう。
中でも厳かな雰囲気を放つ礼拝堂ときれいな花が咲き乱れる庭園や温室、5階もある大きな図書館が印象的だった。
 大通りに面した正門に着いた時には寮の玄関を出てからすでに40分以上経過しようとしていた、いくらゆっくり歩いていたとはいえ、ここまでは基本的に一直線だったので、
改めて学校の敷地の広さを思い知らされた。

193:ふみあ
09/06/19 13:27:19
 校門ではすでに母が待っていた。どうやら泊まっていたホテルからこちらに直行してきたらしい。気のせいかいつもよりめかしこんでいるような感じがする。
 母に葛城さんと春日さんを紹介しようとしたが、またしても葵姉ちゃんに先を越されてしまった。
「おはようございます。智代伯母さま。」
「おはよう葵ちゃん。えーと、そちらの方は?」
「こちらは私の先輩で3年生の葛城 紫苑さん。こっちが私の同級生の春日 雪乃さん。紫苑お姉さま雪乃さん、こちらの方が、私の母の妹に当たる人で薫ちゃんのお母様でもある、伯母の智代さんです。」
「はじめまして、薫の母です。いつも姪がお世話になっています。」
「はじめまして、葛城 紫苑と申します。こちらこそいつも葵さんには助けていただいています。」
「はじめまして、春日 雪乃です。よろしくお願いします。」
「こちらこそ、今年は姪と共にムス…メともどもよろしくお願いいたします。」
今絶対息子と言いそうになったな。間違いない。

194:ふみあ
09/06/19 13:28:31
「母さん、葵姉ちゃん達が案内がてら会場まで一緒に行こうと言ってくれているんやけど、かまわんよね?」と母だけに聞こえるように言うと、
「かまへんよ、むしろ良かったやないの。あんた会場の場所分かっているの?」
「なんとなくは。」
「なんとなくじゃあかんやないの。絶対に一緒に行ってもらった方がいわよ。」
「じゃ決定ということで。葛城先輩、母もかまわないそうなので、講堂まで連れて行ってもらいませんか。」と母に同意を取ってから改めてお願いする。
 結局、校門から講堂まで交差点ごとに案内表示やスタッフの人がいてそれほど迷う危険性は少なそうだったが、目の前に現れた建物は度肝を抜くものだった。
 講堂というと普通は体育館のことを表す言葉だと思うのだが、案内されたのは想像していたものとは全く違う、一言でいえば小規模の会議場やコンサートホールのような建物だった。

195:ふみあ
09/06/19 13:29:47
 中の方もエントランスを通り階段を上がるとホールがあり、入ると、一番奥にステージのような演壇があり、それを扇形に囲むように階段状に座席が並んでいて、後ろの方にご親切に2階席までついている。まさに文字どうり講堂だった。
 思わず「すごい。」といってしまった。
「そんなにすごいかい。」と春日さんが訊ねてきた。
「確かに他よりはしょぼいかも知れませんが、学校、それも高等学校にこんな建物があるなんてすごいです。」
「そんなにすごいかな。」
「すごいですよ。僕なんか講堂と聞いて体育館だと思い込んでいたんですから。それにしょぼいといっても、規模が小さいというだけで機能としてはその辺の会議場やコンサートホールよりも上を行っているんじゃないですか? たぶん。」
「さあね、わたしは詳しくないからよくはわからないが、そこまですごくはないだろう?」
「すごいですよ。というより珍しいです。」
「珍しい? 普通にあるものだと思うが。」
「そんなことないですよ、普通の学校にこういう建物はありませんし。」
「だけど、私は講堂というものはどこの学校にもあるときいたけどな。」
「そりゃ、確かにいますけど、普通の学校で講堂といったら体育館のことを指すんです。」
「そうなのかい。」
「大抵体育館の奥にステージを設置するものですから、大抵の屋内行事や演説は体育館で行われることが多いので、体育館のことを講堂と呼ぶ習慣があるんです。」
「ああ、だからさっき君は会場が体育館だと思い込んでいたと言ったんだね。」
「ええ。」

196:ふみあ
09/06/19 13:31:03
 建物の中に入るとすでに入場の案内を始めていた。
「ではみなさん、また後で。」と3人に一時の別れを告げた後、母を促して会場となるホールに入った。

2-6終わり、2-7に続きます。


197:ふみあ
09/06/20 05:49:45
2-7入学式
>>薫
 2階席に設けられた保護者席へ向かった母と別れた後、1階席の生徒席に向かうため生徒用の受付に行く。
「すみません。今度高等部に新しくは入ったものなのですが。」
「はいはい、ちょっと待っていてくださいね。」
応対してくれたのは50歳くらいの、眼鏡をかけた太ったおばさんの事務員だった。彼女と僕を隔てる机の上、彼女の前には灰色のノートパソコンが開いておいてある。
「お名前を言ってもらえるかなぁ。」と訊かれたので
「綾小路 薫と申します。」
「えーと、アヤノコウジ、カオルさんね。」
そういいながら彼女はおもむろにPCのキーボードを叩いていく。
「チョーと待っててねぇ。これ少し時間がかかるのよぉ。」
「はあ。」
しばらく待っていると。
「あ、出てきたわ。綾小路 薫さんやね。15-Fの席になるから。」
「わかりました。どうもありがとうございました。」

198:ふみあ
09/06/20 05:50:26
 入学式のプログラムと座席番号の書いた紙をもらってF-15、F-15と念じながらホールに入ると、相当数の生徒が既に集まっている様子が見渡せた。
 ホール自体の雰囲気はその辺のコンサートホールや会議場とそう大差ない感じである。やや橙のきつい黄色い光を放つ間接照明に音響の良さそうな壁や天井、これでもかとライトアップされたステージには豪華だが厳かなオーラを放つ演壇が真ん中に置かれ、
お約束のようにやや離れたところにグランドピアノが置いてある。ステージの奥の壁には校章旗と日本国旗がならんで掲げられ、その下に『202X年度 第11X回聖リリカル女学院高等部入学式』と達筆に書かれた横断幕が掲げられている。そしてステージからこちらまでずっと緋色の
着地が張られたジャンプ式の折りたたみ椅子の座席が通路の階段に沿って整然と並んでいる。ただ、その通路がど真ん中に一本とホールの壁沿いに2本の計3本しかないことと、扉自体は5つあるのに出口はステージ正面、一階席の一番後ろの列のさらに後ろに設けられたスペース、
今現在僕がいる所だが、の3つと、舞台の袖に設けられた非常口の3か所しかない点だろうか。2階席はよくわからないが真ん中の通路と非常口がなく、扉も2つしかないことを除けば1階と大差ないようである。

199:ふみあ
09/06/20 05:51:06
 見たところ学生は真ん中付近、通路をはさんで二手に分かれて座らされているようである。
 F-15の席はステージから数えて6列目、出口から向かって右側の真ん中の通路側の席だったのですぐに見つかった。が、なぜかそこにはすでに先客がいた。少し小柄だがセミロングの元気の良さそうな娘である。
「あの、すみません。」
「ごきげんよう。なんですか?」
「そこ僕の席なんですけど。」
「え、ここ私の席ですよ。」
「まさか、何番ですか。」
「私の席?」
「ええ。」
他に何がある。
「E-15よ。」
「ここF-15ですよ。Eならひとつ前の席です。」
「あなた何言ってるの。ここにE-15って書いてあるでしょ。」
といって、彼女は眼の前の座席の背もたれのトップに埋め込まれた『E-15』と書かれたプレートを叩いて、さも自分が正しいかのように「えっへん」と胸を張っている。よく見ればプレートの文字が上下逆に書いてあることに気付けたと思うのだが。
「だから私が間違っているというのは間違いよ。他をあたりなさい。」
「ちょっと待ってください。このホールの座席はステージから数えて一番前がA、そこからアルファベット順にTまであるんですよね?」
「それがどうしたの。」
「ということは、あなたの席がEで始まっているんなら、あなたの席は前から5列目ということになりませんか?」
「そうなるわね。」

200:ふみあ
09/06/20 05:51:47
「でもここ前から6列目ですよ。」
「E-15と書いてあるわよ。」
だからそれは己の目の前の席の番号だっつうの。埒が明かないので後ろの席、G-15に座っている娘に声をかける。
「すみません。ちょっといいですか。」
「なんでしょう?」
「ここF-15番ですよね。」
「そうですよ。座席にそう書いてあるでしょう。」
「ありがとう。ほら、やっぱりここF-15ですよ。E-15じゃないですよ。」
と第三者の言質を取った上で言うと。
「わかったわよ。前に移るわよ。ごめんなさいね。」
と謝っているというよりは、ふてぶてしいというか、いかにも譲ってやったわよとでも言いたげな不遜な調子でこう言って、彼女はどうにかその場をどいてくれた。

201:ふみあ
09/06/20 05:52:28
 やれやれ、やっと座れたぞと思いながら席に着くと、今度は左側に人が立っているような気がする。なんだろうと思って目をやると、
僕と同じぐらい小さい、少し長めのおかっぱ頭の、何か言いたげな女の子がそこに立っていた。恐らくF-2から14の間のどこかに彼女の席があって、
僕の足元を通ってそこに行きたいのだろう。
 何も言わずにそっと立ち上がり彼女に一言「どうぞ。」というと、彼女は「あ、ありがとうございます。」と何かあわてたような、
というよりやっと絞り出したようにそれだけ言って僕のそばを通った。

202:ふみあ
09/06/20 06:00:48
あの娘相当人見知りをするんだなあ、となにか微笑ましいものを感じながら座ると、
「さ、さきほどはありがとうございました。」
と言う声が聞こえた。振り返ると隣の席に先ほどの彼女が座っている。
「どういたしまして。気にしないで、全然大したことしてないから。」
この程度で感謝されても困るのでそう断わっておく。
 ステージ上座の方にある非常口の上に備え付けられたLED式のデジタル時計がAM9:30をちょうど指した頃、突然照明が落とされ、ステージの上が明るく照らされる。
「始まったな。」と小声で一人ごちた時、壇上に誰かが上がってくるのが見えた。

203:ふみあ
09/06/20 06:02:03
 「それでは皆様、ただ今から202X年度、第11X回聖リリカル女学院高等部入学式を開始いたします。まずは、当学院理事長、西脇 貞子より祝辞と挨拶を述べさせていただきます。」
という女性の挨拶と共に演壇の前に現れたのは、パープルのスーツに、濃いバイオレットのレンズのサングラス、ご親切に頭の白髪まで淡い紫に染めた。いかにも口うるさそうな胡散臭い70位のおばあさんだった。ふーん、この人が今の理事長か。

204:ふみあ
09/06/21 04:50:34
 壇上に上がった西脇理事長はやや甲高い声で「あー、あー、ただ今マイクのテスト中、本日は晴天なり。皆様聞こえますでしょうか。」と前置きを置くと、同じような感じで祝辞と挨拶を云い始めた。
「えー皆様、わたくしは先ほどご紹介に預かった理事長の西脇 貞子と申します。本日はお日柄もよく、晴天に見舞われ、誠によろしい入学式日和をむかえられ、遠路はるばるお越しくださいました皆様と共に、今日この時を過ごせることを大変喜ばしく思います。
 生徒の皆さん、高等部入学おめでとうございます。保護者の皆様、御息女のご入学誠におめでとうございます。そして御来賓の皆様方、本日はお忙しい中、当学院の入学式にご足労いただき本当にありがとうございます。
 生徒の皆さんは、中等部、中には初等部や幼稚舎からずっと一緒の方がほとんどだと思いますが、高等部から入って来た子達ともども、この3年間でより一層友情を深めるとともに….」
 すまん、正直覚えているのはここまでだ。あとはこんな感じの話が40分も延々と続いただけだった。

205:ふみあ
09/06/21 04:51:14
 「続きまして、学院長島本 和子より挨拶です。」
と紹介されて出てきた学院長は、紺色の僧衣に白いフードをしたシスターだった。歳はおそらく60前ぐらいだろう。西脇理事長のような話に聖書の逸話を交えたような訓話を30分くらいした。
 さらにその後、校歌斉唱をした。尤も歌っていたのは中等部からの繰り上げ組だけで、こちらとしては案内に書いてある校歌の歌詞を眼で追うのに精いっぱいだったのだが。
 続いて新入生の名前が順番に呼ばれた、どうやらこちらから見て真ん中の通路をはさんで左翼の7席×20列に1~3組の生徒が座り、こちら側の右翼の8席×20列に4~6組の生徒が着席させられているようである。

206:ふみあ
09/06/21 04:51:55
 1組から順番に呼ばれ左翼の分が済み、4組の生徒の番になってしばらく経った頃。
「4組40番吉野 あゆみさん。」
「はい。」
と、先ほどひと悶着あったE-15の女子が名前を呼ばれて返事をした。そうか、吉野っていうのか。
 そして、4組が終わり5組目に入ったころ、
「5組 2番天城 祈さん。」
「は、はい。」
と、今度は僕の隣、さっきの女の子の名前が呼ばれた。同じクラスらしい。
 そして続いて、
「5組 3番綾小路 薫さん。」
おっと名前が呼ばれたぞ。
「はい。」
と返事をする。
 そのうち今度は
「5組 11番菊池 静香さん。」
「はい。」
とすぐ後ろから声が上がった。この人も同じクラスらしい。
 6組の45番の人まで名前が呼ばれると、保護者会長からの簡単な挨拶があり、なんだかんだとあった後入学式は終了した。

2-7終了 2-8に続きます

207:ふみあ
09/06/22 04:21:34
2-8 教室にて
>>薫
 入学式が終わったと思ったらすぐ新入生はクラスごとにそれぞれの教室、新校舎1階の1年生の教室にクラスごとに移動することになった。
 徒歩10分で教室に着くと、クラス番号順に座ることになった。
僕の席は一番廊下側の前から3列目、少し微妙だ。ほんとのことを言うと一番教卓の傍、3列目か4列目の一番前が良かったんだけどな。え、普通後ろじゃないかって。実は後って教壇から丸見えな分さぼりにくいんだよね、寧ろ前の方が案外教師の死角になっている場合が多いのだ。


208:名無し物書き@推敲中?
09/06/22 04:22:20
 まあ、それは置いといて、先生が来るまでの間、早速僕は後ろの人にからまれ、もとい話しかけられていた。
「ねえねえ。」
猪瀬って呼ばれてたよなこいつ。そこそこ良い髪質の肩までの長髪をツインテールにした、いかにもミーハーな感じの、名前の通り猪突猛進というか、直線番長というか、そんな感じの女子生徒だった。
「なんですか。」
とりあえずウッとしいので返事をすると。
「綾小路さんだよね?」
他に誰がいるんだ、番号順に並んでいるだろう! と思って
「そうですが。」
と返事すると。
「珍しい名前だよねえ。綾小路 清麿と親戚だったりするの?」
綾小路 清麿というのは今(202X年現在)ティーンエンジャーを中心とした若い女性に人気があるイケ面俳優、シンガーである。


209:名無し物書き@推敲中?
09/06/22 04:23:10
「まさか、違いますよ。それにあの人のは芸名で、本名は全然違う名前のはずですよ。」
「あれそうだっけ、じゃあひょっとして綾小路グループの?」
「ええ、まあ…祖父が一応総帥をやっています。」
「へえええ、すごおおい! じゃあ深窓のご令嬢?」
「いえ、違いますよ。母も家を出て大学の講師をしているし。父も大学病院に勤める医学者ですから。」
「それでもお嬢様には違いないじゃない。」
おまえ、それ本気で言ってるのかと、思わず相手の顔をじっと見てしまった。はっきり言ってお前が思っているよりずっと給料やすいぞ。これでお嬢様なら親が部長や課長でも令嬢になれるわ! と言いたいのを我慢して。
「ほんとにそんなことないですよ。」
「またまたあ。」
「ほんとにそんなことないですってばア。」
しつこいなと、すこしいらいらしていると。
「そういえばさあ。」
いきなり話題を変えてきた。


210:名無し物書き@推敲中?
09/06/22 04:24:14
「綾小路さんって、見かけによらずハスキーだよね、声が。」
「?!」
「なんていうか、アニメの男の子の声を聞いてるような。」
「そ、そうかな。ははは..」
精いっぱいクールに決めようとしてはいたが、内心は、ひょっとしてバレタのかと、ヒヤヒヤしていた。
「わたしはかっこいいと思うよ。」
「そ、そう。ありがとう。」
良かった。どうやらバレテないらしい。少しほっとする。
 そういえば名前を訊くのを忘れていた。それは向こうも同じだったらしい。
「そういえば綾小路さん、下の名前なんていったけ?」
「薫ですけど、えーとあなたは?」
「わたし、直子、猪瀬 直子ていうの。よろしくね。」
なんて素晴らしいセンスな名前だ。ピッタリにもほどがある。今更自己紹介かよ。
「そういえば天城さんも、珍しいって言えば珍しいよね。」


211:名無し物書き@推敲中?
09/06/22 04:25:23
 こいつまた脈絡もなく話題を変えてきたぞ、しかもターゲットまで変えてきた、まさか自分に振られるとは思わなかったのだろう。哀れな天城さんはただ、
「え、え、えええ。」と困惑しながら繰り返すばかりである。
「天城ってさ、あの天城山の天城? あの演歌の。」
「え、そ、そうで…す。」
「じゃあ、ひょっとして天城さんて、あのアマギ 弥勒と親戚とか?」
 天木 弥勒というのは、今をときめく漫才コンビ『天女』のツッコミを担当し、ボケの早乙女 勝と共に世間で、
一番面白いイケ面漫才師として有名な若手のお笑い芸人である。もっとも僕個人としては、なぜ彼らが世間、特に若い女性から面白いと評されるのかは理解に苦しむのだが。


212:ふみあ
09/06/22 04:33:14
 ま、どっちにしろ親戚ということはないだろう、字が違う。と思ったが。
「あの、ひょっとして天女の天木 弥勒でしょうか?」
「そう、その天木 弥勒!」
「ええ、私の兄です。」
えー!マジで親類かよ、しかも実の兄貴だよ。予想の斜め上いっているよ。そういえば彼の名前は芸名であることをどこかで聞いたことが得るように思う。と、いうことは?
薫「じゃあ、ひょっとして天城さんて…」
直子「アマギ製薬のお嬢さん?!」
祈「は、はい。」
アマギ製薬は最近とある画期的な新薬を開発し、急成長している製薬会社であるとともに、天木 弥勒の実家が経営をしていることでも有名である。


213:ふみあ
09/06/22 04:34:29
 「ひゃあ、信じられない。入学早々いきなりこんな大会社の令嬢と、二人もお近づきになれるなんて。」
と猪瀬は興奮して泣きそうになっている。ここまでとり乱す様子からして、おそらく彼女は推薦で入って来たのだろう。でなければよほど、ミーハーな性格か、令嬢マニアに違いない。

2-8終わり、2-9に続きます。

214:ふみあ
09/06/22 20:38:09
>>208-211
わかると思うけど俺のレス

215:ふみあ
09/06/23 04:40:14
2-9 新しい友達
>>薫
 やはり、猪瀬は特待生だった。本人がそう言ったのだから間違いない。去年のその世界的に有名な芸術祭のジュニアの絵画の部門で金賞だかを取って、それによる推薦で来たのだという。
 天城さんもまた、他の大部分の生徒と同様に中学部からのエレベーター組であり、リリカルには幼稚舎のころから通っているのだという。
 よく見ると、早くももういくつかの、おそらく中学からの友人同士であろうグループが形成されていた。そして大部分がそのどれかに入っている。当然のように少数の高校から入って来たはみ出し組がこちらに引き寄せられていた。
 スポーツ推薦で入って来た25番の成瀬 瑠衣、全中のインターハイで去年短距離の中学生記録を大幅に塗り替えた新星である。もう一人の42番の吉本 麻里亜、彼女は芸術推薦枠だが、猪瀬とは違い、2年前にウィーンで行われたコンクールでいきなり最年少で入賞し、
今や世界中でリサイタルを行っている天才ヴァイオリストである。この二人はメディアに大きく取り上げられたので、この手の世事に疎い僕でも名前と顔だけは知っているし、吉本 麻里亜に至っては、僕自身長くヴァイオリンを習ってきた関係で、買ってきた彼女の
CDが家に何枚かあるはずだった。まさか同じクラスになるとは思わなかった。


216:ふみあ
09/06/23 04:41:30
 おそらく彼女らもよそ者として扱われたのか、有名人なので恐れ多くて誰も近づかなかったのか、はたまた両方なのか、かなり席が離れているにも関わらずこちらの方へやって来た。
 まず、いかにも人見知りをしなさそうな成瀬が
「ヤホー、直子、おひさー。」
「瑠衣! やっぱり同じクラスだったのね。よかったあ。」
 どうやら猪瀬と成瀬は同じ中学だったらしい。どんな中学だったんだ?
「そっちの人たちは?」
と成瀬が訊くと猪瀬は
「新しくできたクラスの友達!」
と嬉しそうに言った。おいおい、いきなり友達かよ。こっちはまだ知り合い程度の認識しかないんだが。まあいい、とりあえず自己紹介だけしとく。


217:ふみあ
09/06/23 04:42:46
「綾小路 薫です。よろしく。」
「あ、天城 祈…と申します。よ..よろしくお願いしま..す。」
「私、成瀬 瑠衣。よろしくー。しかし二人とも固いねえ。もっとリラックス、リラックス♪。」
「そうですか、僕はこれが普通だと思いますが。」
「わ…私もこれが普通..です。」
と、いうよりむしろお前の方が軽すぎるわ!と思っていると今度は猪瀬が、
「瑠衣はね、去年インターハイで新記録を取ったんだよ。」
とすでに誰もが知っていそうなことをいう。しかし天城さんは知らなかったらしく、
「そうなんですか。すごいです。」と感心している。
「すごいだろう。えっへん。」
「ほんとすごいんだよ。」
「すごいです。すごいです。」
と盛り上がっている。
「100メートルの中学生記録を大幅に更新したそうですね。期待の新星として新聞にも載っていましたから、ご活躍のほどは存じています。」と僕が言うと、猪瀬が、
「そうなの、そうなの。それでね…」
だいたい何を言うのか見当がついていたので先手を打たせてもらう。
「おそらく、それを買われてこの学校に推薦で入って来た。ということでしょうか。」
「何でわかったの?!」
「ほー!」
「綾小路さん。…すごい..です。」
「いや、この学校にいるという時点ですぐに予想できることですから(;・`д・´)。」
ていうか、なんで天城さんまで感心しているんだ? そんな尊敬をこめた目で見られても困るんだが。


218:ふみあ
09/06/23 04:46:02
 すると猪瀬がこちらを窺っていた吉本の存在に気が付き。
「あなた、吉本 麻里亜じゃない。あの天才ヴァイオリストの!」
「ええ、そうだけど。」
「やっぱり!」
「ほ、本当だ。すごい! 本物だ!!」
「わ…私、あなたのファンです。サ..サインを頂けませんか?」
どうやら、僕を除く3人は彼女の猛烈なファンだったらしい。それこそ今回最高潮かと思うくらい、テンションを上げてはしゃいでいる。
 吉本の方も、さすがに自覚があるのか、いや満更でもないのか。笑顔でサインに応えていく。ただ、一人だけサインをねだらない僕を訝しく思ったのか。
「あなたは、私のサインはいらないの?」と訊いてきた。
「別に。あなたが世界的にその将来と才能を嘱望され、ご活躍なさっていることはよく存じているし、ヴァイオリンを習っているものとして、あなたの事をとても尊敬しているし、お会いできたことを本当に光栄だと思いますけど、
僕自身はそこまで熱烈なファンではありませんので。それに…」
「それに?」
「今、サインを頂かなくても、頂こうと思えばいつでも頂けるじゃないですか。だって私たちクラスメイト何ですから。」
「それもそうね、あなた面白いわね。名前を聞いていいかしら。」


219:ふみあ
09/06/23 04:47:24
「そう言えば、まだ自己紹介をしていませんでしたね。僕は綾小路 薫と申します。これからよろしく。」
「こちらこそよろしく。吉本 麻里亜よ。そちらの方々は?」
「私、猪瀬 直子。これからよろしくね。麻里亜さん。」
「こちらこそ。そういえばあなた確かこの前の東京世界芸術祭でジュニアの絵画部門で金賞を取ってなかったかしら。」
「そうです。よくご存じですね?」
ホントよく知っているなあと感心していたら。
「私もあの大会の開会式と閉会式の時にゲストとして弾いていたからよく覚えているの。」
ああそうだったのかとも思ったが、普通そんなこと覚えているか? よほど記憶力がいいのか、いや、それだけ猪瀬の作品が印象深いものだったのか。いずれにしろ猪瀬の絵がすごかったということに間違いないだろう。
機会があれば見せてもらおう。


220:ふみあ
09/06/23 06:12:33
 次に成瀬が自己紹介する。
「私は成瀬 瑠衣、よろしくねー。」
「よろしく、あなたの噂も聞いているわ。短距離の中学生記録を塗り替えたんですってね。世界記録じゃないけど大したものだわ。」
「これは、どーも。」
 最後に天城さん。
「わ..私、天城 祈と申します。こ..これから宜しくお願いします。」
「こちらこそよろしく。ひょっとしたらあなた、天女の天木さんの妹さんかしら。」
「そ…そうです。」
知っていることもすごいが、天木 弥勒のことをよく知っている友人か知り合いのような感じで呼んでいたぞ?
「やっぱり、天木さんが妹がこの学校に通っているというような事を言っていたからもしかしてと思って。」
やはり、よほど親しい知り合いのようである。しかし、漫才師とヴァイオリストに接点などあるものなのだろうか? 押し付けがましいが聞いてみる。
「あの…。」
「何、薫さん。」
「麻里亜さんは天女の天木さんと親しいお知り合いなのですか?」
「ええ、以前ある番組でご一緒して、それから親しくさせていただいているわ。」
「へえ、そうなのですか。」

221:ふみあ
09/06/23 06:13:13
なるほど、どういう番組か知らないが、彼女はある意味アイドル視されているから音楽番組だけでなくちょっとしたバラエティ番組にも出演することがあるのだろう。
 そんな感じにいつの間にか仲良くなった我々5人は、担任が来るしばらくの間、取り留めもない雑談をして過ごしていた。


第二章 完

第二章終り、次は第三章をうpします。

222:ふみあ
09/06/24 03:51:06
第3章 お出かけとか

3-1 鈴木先生登場
>>薫
 この教室は、というより校舎はかなり変わっていると思う。
 まず、すごくというより無駄に豪華な造りと設備を備えているのに、全く新しくない。
廊下と教室の仕切りの壁に窓がついていないのはいいとしても、教室の扉が木製の重厚
な外開きの扉なのはどうかと思うし、後者の窓も普通の引き戸タイプではなくアーチ型の、まるでヨーロッパのお城かお屋敷にあるような、いかにも重そうな感じの開くタイプのものだし、
蛍光灯も黒板を照らす二本と、真ん中辺りを照らす、2列ずつ3組並んだもの以外は壁と天井の間のポッドに仕込まれた蛍光灯から照らされる間接照明が使われている。
 教室にかかった黒板も立派なものである。埃一つないピカピカの黒板自体もそうだが、黒板の取り付け枠もよく見ると黒檀てできたレリーフまで掘られている無駄に立派なもののようである。
しかし、そこについているチョーク入れや、黒板消し、チョーク、黒板消し機は至極普通、というより華麗な黒板の雰囲気と相まって余計安っぽく見える。
黒板に金掛けるなら他の備品にもそれなりに金を掛けてやれよ、聖リリカル女学院…。
 クリーム色の壁は、まっ白よりも温かみがあり、上品な感じを受ける。黒板の両側に50Vくらいの大きな液晶テレビが掛けられている。教壇も年季が入った材質の良い、いかにも高級そうな作りなのだが、
なぜ教卓だけその辺の学校に普通にあるありふれたものなんだ? どうもこの学校は中途半端に金をかける高校らしい。


223:ふみあ
09/06/24 03:52:48
 教卓こそ安っぽいが、学生の机は椅子と机が分離した、木製の高そうなものである。すごく古いものであることに目をつぶれば、一体型と違って椅子と机のポジションを自由に調節できる点で背の低い僕にはかなりありがたい。
 校舎が古いためか、教室の後方の天井に2機並んでぶら下がった業務用のエアコンは教室で操作できない。まあ、これは高市でもそうだったので気にはならないが、ここの事務の人は体感温度が人と違うのか、この時期にガンガンに暖房を掛けている。
お蔭で熱いったらありゃしない。窓際の人は窓を開けているが、こちらには開ける窓すらない。地獄だ。
 そうこうしているうちに、廊下を何人かの人が歩いている気配が感じられた。思わず、
「先生が来られたようですね。」
というと。猪瀬と成瀬の、
「え、先生来たの?」
「やばい、私戻るね~。」
という声を皮切りに、三々五々と各々の席に戻り、姿勢を正す。
 ついにその中の一人が教室前方、教壇がある方の扉に誰かが立ったことが足音と、扉の向こうの気配で伝わってくる。
 ついに、扉が開き一人の女性が教室に入って来た。
とたんに教室中の、のけもの組以外の全員が、「キャー」だの「やった、命先生よ。」
「命先生だ。わーい。」「良かったぁ。ミコちんだぁ。」などの黄色い歓声があがった。
 どうやらこの学校は一貫校ではよくあるが、高等部と中等部を同じ先生が兼任しているらしい。そしてその中では、命先生は生徒にかなり人気があり、慕われているらしい。


224:ふみあ
09/06/24 03:54:04
 先生は教壇に登り、教卓の前に立つと、よくとおる声で、
「みんなー、久しぶりー、元気でしたかー?」
と言った、というより叫んだ。て言うか普通自己紹介しね? みんながあなたを知っていること前提で話進めんな、先生!
 そういうことはお構いなく先生の話は進む、
「休み中は楽しかったですか? だけど楽しい休みも今日でおしまい。今日から新学期です。姿勢を正し、張り切っていきましょう!」
「はーい。」(←のけもの以外)
 どうやら先生は、教師としての質よりも、生徒の受けの良さで人気があるらしい。髪が長くて、面長な美人ではあるのだが、身長が低い。恐らく僕より少し高いくらいだろう。僕が大体145cmだから、147か8cmぐらいか。
そんなミニマムサイズ+こういうハッチャけた性格で、生徒から親しまれているのだろう。
 だからと言って、取り残させるのは勘弁したい。他の生徒と一緒になってはしゃいでいる? 天城さんに話しかけた。
「祈さん。祈さん。」
「何でしょうか。薫さん。」
「今、教壇でお話をされている先生は、どなたなんでしょうか?」
「しらないんですか! 薫さん。命先生ですよ(`Д´)。」
「いや、今日が初登校なので、先生のお顔とお名前をよく存じてないんですが(;・∀・)。」
「あ、そうでしたっけ?」
「僕、高等部から編入することになったので。」
「それなら仕方ないですね。彼女は鈴木 命先生。国語の現代国語を教えられています。」
「そうですか、鈴木先生というんですか。へえ。」
僕たちの私語に気がついたのか、鈴木先生が注意してきた。
「そこ、私語は慎みなさい。」
「すみません。気を付けます。」
「よろしい。」


225:ふみあ
09/06/24 03:55:10
はあ、とため息をつきながら席につき、姿勢をただすと、鈴木先生が出欠を取り始めた。
「では、出欠をとります。相田さん。」
「はい。」
「天城さん。」
「は..はい。」
「綾小路..さん?」
「はい。」
「あなた、高校から入ったの?」
「はい。」
「綾小路っていうことは、2年3組の綾小路さんの妹さんかしら。風紀委員の。」
「いえ、妹ではありませんが、従妹です。」
「ということは先代理事長の曾孫さんということになるのかしら。」
「はい。」
「そう、えーと次は、猪瀬さん。」
「はい!」
「元気いいですね。あら、あなたも高校から入って来たのね。しかも特待生?」
「はい。」
「ひょっとして、去年の世東芸で金賞を取った猪瀬さんかしら?」
「はい、おかげさまで金賞が取れました。」
「そう、それはおめでとうございます。そして次は今井さん。」
「はい。」


226:ふみあ
09/06/24 04:02:26
と、点呼がつつがなく進む中、天城さんや、その他僕の周りにいた。4.5人の生徒が身を乗り出してこんなことを聞いてきた。
「綾小路さんは本当に葵様と従姉妹同士なのですか?」
「ええ、葵お姉様のお母様と僕の母が姉妹ですから。お姉様は母方の従姉に当たります。」
人前でお姉ちゃんというのもどうかと思うし、リアル姉妹でもないし、かといってこの状況で呼び捨てにするのもあれなので、柄ではないがお姉様と呼ぶことにした。
 従姉妹同士だと言った瞬間、へえ、とか、えー、とか周りから小さな感嘆のため息がもれている。どうしたものかと思って、
「あの、葵お姉様って、この学校でめちゃくちゃ有名な人だったりするのでしょうか。」
確かに、お姉ちゃんは成績も優秀な生徒で、美人で、マドンナのような雰囲気があるが、この学校でそこまで有名だとも思えない。
「有名も何も、この学校で葵様を知らない人の方が珍しいですわ。」
「風紀委員長の紫苑お姉様のプティ・スールで、次期風紀委員長のナンバーワン候補で、凛々しい雪乃様とのツーショットも素晴らしい。」
「へ、へえ。(;・∀・)」
「将来のエルダー候補の一人ですわ。」
「そ、そうなんだ。」
どちらかというと葵姉ちゃんというよりも葛城先輩や春日先輩の方が有名らしい。


227:ふみあ
09/06/24 04:54:48
 そうこうするうちに、いつの間にか点呼が終わったが、驚いたことがある。
クラスに外国人の生徒が二人もいたのだ。
 一人は父親がIT系の大手企業を経営する華僑の楊 美鈴、そしてイギリスから留学してきた自称伯爵家令嬢のレイラ・A・フォルチュナの2名である。
 ただ、それだけのことであるのだが、一つのクラスに外国人(楊は在日の華僑なので微妙だが)が二人以上いるってその手の学校でない限り、普通そうそうないだろうと思って、珍しいと思った次第である。まあ、ただ単に僕が田舎者だというだけのことかもしれないが。

3-1終了。3-2に続きます。

228:名無し物書き@推敲中?
09/06/25 01:26:09
青森にまで車中泊の旅に行った帰りのこと

携帯のバッテリーがなくなって秋田のとある道の駅によった
夜の10時も越えていたので人もなく店も閉まっていたが
観光客用の案内所だけは灯りがついていたので中に入ってみると
壁際にコンセントがあるのを発見した。

当然、他人のコンセントから無断で電気を借用するのは窃盗罪にあたるので
常識人の俺が充電に使うことはないが、1つだけ解せないことがあって

【ご自由にお取り下さい】

という張り紙が壁に貼っており、その下には観光案内用のパンフレットが並んでいた
しかし、ここで問題なのは
そのご自由にお取り下さいが、その下にあるパンフレットを差して言っているのか
それとも、さらにその下の電気コンセントを差して言っているのか不明だと言う点だ。

俺は悩んだ。
そして状況判断するよしもない事象に対し
悩んでも明確な答えが出るわけないと、無意味な考慮を止め
そして、このような場合は両方を差して言っていると解釈するのが一番自然だと結論を締めくくり
なに気兼ねなく携帯の充電をして待つことにした。

それから5分くらいして、その近所に住むであろうヤンキー風の青年たちが5,6人集まって来た
秋田の田舎で、雨風を凌げて灯りもあり夜に集う場所なんて言ったら、どーせここしかないのだろうと
俺は納得をして一人、部屋の片隅で携帯の充電を待つことにした。
因みにその建物は自動ドアになった入り口が1つだけあり、俺のいるのはその真反対の壁際だった。

充電を待っている間、暇なので彼らの話に耳を傾けていると
どうやら盗んだバイクの代金を巡っての会話であり
先輩らしき青年が後輩らしき青年にその代金の請求をしているという内容だった

229:名無し物書き@推敲中?
09/06/25 01:27:51
・・これは酷い。俺は内心、舌打ちをした。
まっとうな代金の請求ならともかく、盗んだバイクの請求を人に対して行うなんて、なんて酷い輩だ。
それが盗品であっても、金を出して購入した者は、その事実を知らなければ罪に問われない。
しかも正当な売買にあたるために、仮に事件が発覚しても、その品物の所有者としての権利はあるのだという
だから早く17万払えと・・先輩風の青年は後輩風の青年に対して説得していた。

確かにそのバイクはカワサキのゼファーという400ccの中型バイクで、それが盗品とはいえ17万円なら安いものだ
俺でも欲しいくらいだ。いや、何なら俺が買おうか?実家の大阪まで乗って帰るよ
と、思わず話しに割り込みそうにもなったが
それはそれ。常識人の俺は、つぶさに、事の善悪に立ち戻り
いやいや、それでは元の持ち主の立場はどうなる?と、その先輩風の青年を苦々しく見守った。
するとその先輩風の青年は、そんな俺の心を見透かしたかのように、このように付け加えた。
「心配すんな。仮に見つかっても捕まるのは俺だし、バイクの代金の半分くらいは元の持ち主のポストにでも入れとくからよ」

これで決まりだ。
元の持ち主にもチャンと、それ相応の代金が支払われ(若干、市場価格から低いとはいえ)
尚且つ、自らは法に裁かれないとなると、これは完全に合法であり公平な売買ではないか。
迷うことはない。後輩風の青年が支払う意志がないというのであれば、それは不当な収得にもあたる
すみやかに所有権を放棄して、そのバイクを俺に渡せ。
俺は一人でそんな結論に達し、ヤキモキした気持ちで後輩青年の言動を見守った。
すると後輩の方も、先輩の説得に納得したのか代金の支払いに合意し、次の給料の時に支払うということで話がついた。
しかし、その後にその先輩の言った言葉に俺は耳を疑った

「ああ。これで決まりだな。出来るだけ早く払えよ。ところでよ、そこで1つ頼みなんだけど
 金払った後もこのバイク、俺に貸してくれねーか? 俺、今、足がなくてよ。暫くこれ必要なんだわ」

なに~い!!!
これは酷い。金だけ払わせておいて、自分の物にするとは
これは先輩の風上にもおけない。チョッと見直した俺がバカだった。

230:名無し物書き@推敲中?
09/06/25 01:29:47
ええい!もう我慢ならぬ
一層のこと、この傍若無人な若者を警察に通報してやろうかしら
いいや、俺は恐くないぞ。別に警察が来るまでこんな奴ら、いくらでも対抗してやる
こんな気負いとも似た正義感に火をつけられた俺だったが
なにかハッキリとした理由は分らないが、自分もやばいような気がしてやめておいた。
いや、別に自分はバイク盗難なぞに関わっていないので、何も後ろめたい気持ちはなかったが
なにか別件ぽいことで自分にも非があるのではないかという妙な罪悪感に襲われ速やかに、その場を立ち退いた。
見ると携帯のバッテリーが1に増えて大量の迷惑メールを受信していた。

231:名無し物書き@推敲中?
09/06/25 02:50:13

単純で平凡な日々にやられちまえ
単純で平凡な日々にやられちまえ
単純で平凡な日々ってやつは
特別に単純で平凡な日の連続だ
そりゃもう、言葉に出来ないくらいのもんで。

米田だいき



テーブルの中央に置かれた花瓶を避けながら、亜美はこの作文用紙を僕に突きつけた。
なに、と問いかけると、対面に座っているだけの僕に対して不満があるような口調で
「読んで」
とだけ言った。


232:名無し物書き@推敲中?
09/06/25 02:52:49
読み始めると、僕がまだそれを読み終わらない内から「この文章って変でしょ」
と聞いてきた。

僕は少し間を置いてから
「うん、変だね」と返した。
「おかしいでしょ」
「うん、おかしい」
「私、本当に変と思ってるのよ」
「分かってるよ」
と言い返すと、さすがに亜美も静かになって先程の花瓶を見つめ出した。
僕はその沈黙を利用して、だいき君の名前の字を予想した。
きっと、大輝か大毅なのだろう。ただ「大き」と書くのが恥ずかしくて、平仮名で書いてるだけなのだろう、と考えている内に
「やっぱり、変よね」
ともう一度亜美が呟いた。

233:名無し物書き@推敲中?
09/06/25 02:54:53
僕には段々と、彼女が自分の担当クラスの生徒がこの作文を書いたと認めたくないだけなのではないか、と思えてきた。
それは「だって、小学三年生なのよ」という言葉を彼女が必死に食い止めている様に思えたからだ。
だから彼女には、変だ、という表現しか出来ないのだ。

そんな彼女を見て、僕は笑いを吹き出してしまった。彼女は、何で笑うの、と机を叩いた。花瓶が少しぐらついた。

「だって、これはベルギーの有名な詩人のパクりだよ。使っている単語は随分子供向きになっているけどね。だいき君は見栄っ張りな可愛い小学生だ」
と僕が教えると、彼女は大きな溜め息をついた後に少し笑った。


僕はこうやって毎日嘘を増やしている



234:ふみあ
09/06/25 07:09:22
>>227
>>薫
 点呼が終わったあと、鈴木先生がいきなりこんなことを提案した。
「それでは、ここで初めてお友達になる人もいることですから、順番に自己紹介をしましょう。それぞれ自分の出席番号と名前、後は趣味とか得意科目とかをみんなに紹介してください。では、先生からいきますね。」
といって、黒板に大きく鈴木 命と書くと、
「私は鈴木 命。イノチと書いてミコトです。今日から1年間1年5組、つまり皆さんの担任として1年間一緒に頑張ることになりました。担当は現代国語です。趣味は読書と映画鑑賞です。
皆さんこれから1年間一緒に5組を盛り上げていきましょう。では、相田さんからお願いします。」

 うわー、自己紹介か、苦手なんだよなー。下手すると僕が男だとばれる可能性もなくはないわけで、あまりしたくはない。しかし、僕は3番目である。後の人を考えれば、下手な質問攻めにも逢わないだろう。天城さんも自己紹介を終えて、すぐに僕の番が回って来た。
「出席番号3番、綾小路 薫です。得意科目は生物と歴史と数学と現国、趣味は音楽を聴くことと読書、あと車が大好きでよく変わっているね、と言われます。家庭の事情でこの春からこちらに入学することになりました。不束者ですが、皆さんよろしくお願いします。」
 一言も嘘をつくことなく、かといって正体を晒すこともなく簡潔に自己紹介をすることができた自分に呆れつつも感心しながら、周囲からの軽い拍手を受けながら僕は席に着いた。

3-2終了。3-3に続きます。

235:名無し物書き@推敲中?
09/06/25 08:42:02
ラノベ

236:ふみあ
09/06/26 06:20:10
3-3 第一陣到着!
>>薫
 「それでは、今日は、この位にしときましょう。では、瀬川さん。」
「はい、起立。礼。着席。」
一同が起立礼した後、鈴木先生は教室を出て行った。
 自己紹介の後のオリエンテーションは特にやることもなかった。あったことと言えば新学年を迎えての学校からのお知らせと自己啓発と健康診断の案内を書いた何枚かのプリントが着たぐらいで、
後は号令を掛けるクラスの級長、たまたま席の位置的に先生の一番近くにいた、16番の瀬川 湊を決めたぐらいである。
 予定の12時半よりだいぶ早く終わったのでどうしようか思案していると、猪瀬が話しかけてきた。
「薫さん。祈さん。一緒にこれからどこか遊びに行かない?」
「私は…かまいませんけど。」
「ごめんなさい。誘ってくれたのはうれしいんだけど、すでに先約があるので一緒に行くことはできないわ。また今度お誘いしてくれないかしら。」
天城さんは行くつもりのようだが、僕には葵姉ちゃんや母さんと約束があるので、悪いけど今回は断らせてもらった。が、
「あら、先約って?」
「僕の母と、葵お姉様と一緒に出かけることになっているんです。」
というと、猪瀬と天城さんは急に前のめりになりこう言った。
「葵様も来られるんですか。」
「ええ、たぶん葛城先輩と春日先輩も来られるはずですが。」
「紫苑お姉様と雪乃様も来られるんですか?!」
「え、ええ。」
「薫さん。」
「は、はい?」
猪瀬、顔が近い近い。

237:ふみあ
09/06/26 06:21:38
「私たちも御一緒していいかしら?」
「で…できたら私も。」
「ちょっと待って、お母様とお姉様に訊いてみますから(;・`д・´)。」
少し予定外なことになったので、母親の携帯に電話するため、携帯の電源を入れる。恐らく4人とも同じ場所にいるだろう。
 何回かの着信音の後母親が出てきた。

238:ふみあ
09/06/26 06:22:20
「もしもし。」
「もしもし、薫です。お母さん?」
「そうだけど、どうしたの?」
「葵お姉様と、紫苑様と雪乃様そっちにいる?」
「いるけどどうしたん。あなた急に女言葉になって。」
「今、教室からかけているの。」
「ああそうなん。」
「それでみんなはそこにいるの?」
「ええ、いるわよ。」
「実はクラスで友達になった子たちがさ、一緒に行きたいって言っているのだけど、かまわないかしら? って訊いてみて。」
「お母さんはかまわないけど。」
「お母さんがいいならいいけど、一応葵お姉様たちにも訊いてみて、どっちかっていうとそっちが目当てだから。」
と小声で言うと、
「葵ちゃんたちはいいってさ。」
「そう、だったら連れて行くわ。待ち合わせは正門でよかったよね?」
「いいけど。もう終わったんなら待ち合わせの時間、早めようか?」
「ありがとう。10分でいいかしら。」
「かまわないわよ。」
「ありがとう。じゃあそういうことで。じゃあ。」
と言って電話を切ると、

239:ふみあ
09/06/26 06:23:01
「どうだった?」
「いいって、一緒に行きましょう。」
「やった。おーい瑠衣、麻里亜さーん。」
「どうした?」「何かしら直子さん。」
「実は薫さんがね…」
連れて行く人数が増えた。
 その時、急に僕の携帯が鳴った。出てみると、
「綾小路 薫様の携帯ですか?」
「はい、そうですが。」
「ショップ如月の者ですが、お車を届けましたので受け取りを…」
いつも利用している馴染みのカーショップからの電話だった。陸送を頼んでいた車が届いたようである。聞かれたら少しまずいので、その場から席をはずし廊下に出る。
「そうですね。できれば高等部の寮の前で受け取りたいのですが来れますか。」
「さあ、なにぶん車が大きいものでどこまで入れるかわかりませんが、いけるところまで行ってみます。」
「では、寮の前でということで。目印は何かありますか?」
「赤いトレーラーなのですぐにわかると思いますが。」
「そうですか、いつ受け取れますか。」
「もう、目の前まで来てますから、5分もあれば十分ですよ。」
「じゃあこれから取りに行きます。」
「ではお待ちしています。」
「お願いします。」
電話を切った。

240:ふみあ
09/06/26 06:23:42
 天城さんと、猪瀬と成瀬、吉本さんを連れて葵姉ちゃんと合流した後と、葛城先輩が困った顔で待っていた。どうしたのかと思ったが、そばに止めてあったミニバンでとりあえず状況は呑み込めた。どうやらこのミニバンで行くつもりだったらしい。
僕が4人も連れてきたせいで、全員乗り込めなくなったのである。
 葛城先輩が免許持ちだったことも意外だが、逆に僕にとっては好都合となった。
 とりあえず、「ちょっと寮の方に荷物置いてくるけど、一人で行くわ、少し私用があるの」
と言っても怪しまれるのが落ちなので、母親にだけ、
「車が届いたそうだから受け取ってくる。ついでにそっちに回してくる。」というと、
「別にいいけど、あなた大丈夫なの、取ったばかりでしょ。」
「大丈夫だよ。得意だから。」と答えて荷物を置くがてら車を取りに行く。
 寮棟まで戻っていると、すでに寮の玄関へ続く道に入る交差点の傍まで赤いトレーラータイプのキャリアカーが止まっていた。
運転していた店の人は、はじめは僕の姿に驚いていたが、事情を知っているためか、受取証を僕が提示したためか、すぐに車を下ろしてくれた。

241:ふみあ
09/06/26 06:59:30
 今回来たのは、フォグランプが付いた後期型のGT-R34、前期型jzx-100のマークⅡとチェイサーとクレスタ、
後期型の180クラウンアスリート、Y31シーマ、Y31セドリックセダンのVIPブロアム、Y33グロリア アルティマの計8台だった。
 とりあえず目の前の道路に縦列で並べてから、後は一人でできるのでと、トレーラーには帰ってもらった。
 トレーラーが去った後、一台ずつ寮の裏手の駐車できそうなスペースに注射した後、マークⅡのトランクに鞄だけ積んで、シートベルトをしてエンジンを掛けて、
ブレーキを踏みながらギアをDレンジに入れ、パーキングブレーキをはずしたあと、ステアリングを切りながらアクセルを踏み、校門の方に車を回した。
 当然というべきか、20年以上前の古いモデルで、ローダウンにホイールやブレーキを交換、マフラーも左右二本だしにし、ハイマウントストップランプ付きのウイングを付け、
フルエアロにした、ドリ車なのかVIPカーなのかよくわからないシルバーメタリックのハードトップセダンがミニバンの横に並んだとたん、母親以外の全員が目を点にしていた。

242:ふみあ
09/06/26 07:00:29
 葵姉ちゃんが目を丸くしながら、
「クーちゃん、この車は?」
「僕のですけど。」
と言うと、猪瀬が、
「なんか、暴走族の車みたい。」
「せめて走り屋と言っていただけないでしょうか。」
天城さんが、
「兄の車に雰囲気がよく似ています。」
「そうなんですか?」
春日先輩や葛城先輩まで、
「確かに男が乗るような車だね。」
「あまり女の子が乗るような車ではないですね。」
もはや何も言うまい。

243:ふみあ
09/06/26 07:01:30
 そこに成瀬が突っ込んできた。
「ところで薫ちゃん、あんた免許持っているの。」
「AT限定の少年用普通一種なら持っています。」
少年用普通免許とは近年加速する中年以前の若者の車離れを抑止するために2年前に政府が、現時点で15歳以上か、その年の4月時点で15歳以上になる見込みがある児童にも、普通車・普通二輪・原付きの免許をとれるようにした制度のことである。
AT限定しか取れないが、自動車を運転できる人口を、年齢を引き下げることで、需要をかさ上げしようとしたメーカーの思惑は一応成功したといっていいだろう。
 現在僕の車と並んでいるミニバンは、やはり葛城先輩の家の車だった。さっきは気がつかなかったが、よく見ると運転席に正装した運転手が座っている。ということは、都合葛城先輩の家の車に都合6人、こちらに5人乗れるということになる。
「2台で分乗すれば宜しいと思うのですが、順番の組み合わせはどうしましょうか。」
と訊くと葛城先輩が、
「そうですね、まずは皆さんの希望を訊いてみないと。」
 なんだかんだと話し合ったのち、僕の車に僕と母と春日先輩。もう一台に残り全員が乗り込むことになった。
葵姉ちゃんは葛城先輩と姉妹だし、他の連中も元々葛城先輩と葵姉ちゃん狙いのようなものだったので至極妥当だとは思ったが、一人追い出された形となった春日先輩のことが気にかかった。

244:ふみあ
09/06/26 07:02:12
 先輩に、
「向こうの車じゃなくてホントに良かったのですか?」
と訊いてみると、彼女は、
「別に構わないさ、移動の間のことだから。それに君とはもう少し話してみたいしね。それに道がわかる人間が一人はいた方がいいだろう?」
と答えた。
「そうですか…。それもそうですね。じゃあ、向こうの準備もできたようだし、こちらもそろそろ出発しましょうか?」
と言いながら、車に乗り込んでシートベルトを締め、エンジンを掛けようとしたその時、向こうのミニバンの助手席のドアが開いて、天城さんがこちらに駆け寄ってくるのが見えた。
何かトラブルでも起こったのか?
 何のことはない、フル乗車でのミニバンが予想以上に狭かったために天城さんが一人脱落してこちらの車に乗り換えたというだけのことだった。
 結局運転席に僕、助手席に春日先輩、後席左側に母が座り、僕の後ろに天城さんという配置で出発することになった。

3-3終了。3-4に続きます。

245:ふみあ
09/06/27 05:32:33
3-4 ドライブ1
>>薫
 マークⅡのエンジンをかけ、軽くドラポジとミラーのチェックをして、全員が乗り込んだのを確認してから、ロックをし、左後方、左右のサイドミラーとルームミラー、
右後方をチェックした後、右ウインカーを点滅させて、ミニバンの方に合図する。
 ミニバンが発進したのを確認してから、ギアをPからDレンジに入れ、ブレーキから足を離しながらサイドブレーキの解除フックに手をかけた。
「それじゃ、改めて出発しましょう。」と言いながら軽くアクセルを踏み込み、ステアリングを切りながらミニバンの後ろにつく。
 葛城先輩の家のミニバンは、正門を出ると、大通りを左に曲がり、東の方向に進路を取った。
 こちらも周囲の状況を確認しながら左折して次の交差点で信号待ちしているミニバンの後ろに停車する。ギアをNレンジにしてサイドブレーキを踏みながら春日先輩に、
「そういえば僕たち、これからどこに行くつもりなのでしょうか?」
「ん、とりあえず西武の池袋店だけど。」
「百貨店ですか…。」
この街を案内してくれるんじゃなかったのか? 道理でなぜ車が必要になったか疑問に思ったが、都心へ行くとなればそりゃ必要になるだろう。この学校武蔵野台地にあるせいか、都心と比べればだいぶ西の方にある。
近くに駅があるわけでもないし、車があるなしではだいぶ違いそうな立地にあるからな。

246:ふみあ
09/06/27 05:33:14
「しかしなんで百貨店へ?」
と訊くと、母親が、
「あなたの服を買うためよ。」
「はい?」
「今のままじゃ足りないでしょ、私服。」
「そう? 結構ある方だと思うけど。」
「そうでもないわよ、これから夏物だって必要になってくるし。」
「まあ、そうだけど。」
「それにあなた少し心配なところがあるから。外見だけでもきちんとしてないと。」
「ああ、そう。」
気持ちは痛いほどわかるが、口に出すなよ。
 信号が青に変わったので、Dレンジに入れ、サイドブレーキを解除し、前車に合わせてアクセルを踏み込む。
 葛城先輩の家のミニバンはしばらく東の方へ進んだ後、とある国道の大きな交差点で右折レーンに入った。案内標識にはこの方向に高速のランプがあるらしい。
ただでさえも交通量の多い道路なのにみんな高速の方へ行くのか、こちらの右折レーンと対向の左折レーンだけ混んでいるらしく中々進まない。信号の変わり目に行こうとしたが、
ミニバンが行った後僕の番になった時に完全に赤となってしまい、ミニバンと離れ離れになってしまった。

247:ふみあ
09/06/27 05:33:55
 次に信号が青になるまでの間、気になったことを春日先輩に尋ねてみる。
「あの、雪乃様。」
「なんだい急に。」
「西武までの道はご存じだとおっしゃってましたよね?」
「ああ、言ったよ。」
「前の車とはぐれてしまったので、しばらく道案内をお願いしてもよろしいですか。できるだけ自力で頑張りますが。」
「構わないよ。いざとなったら葵や紫苑様と連絡できるようになっているから。」
と春日先輩は笑いながらこう言って、携帯を見せてくれた。
「ならたぶん大丈夫です。すぐ追いつくと思いますから。おっと、青になりましたね。」
 ギアをDに入れて、サイドブレーキを解除する。そのままブレーキを踏みながらクリープでゆっくりと前進する。

248:ふみあ
09/06/27 05:34:36
 予想通りというべきか、只でさえ交通量が多いうえに対向の左折車が列をなしているのでなかなかタイミングがつかめない。どう考えても右折オンリーになるまで待つしかなさそうだったが、
後ろに止まっているガラの悪そうなメルセデスのCクラスが、こちらに対してパッシングしているのがルームミラー越しに見えた。思わず舌打ちをすると、僕以外の全員が驚いてこちらを見てきた。
「何?!」と訊いてきたので、
「いや別に、後ろのベンツがパッシングしてきたものですから。どう見ても今右折できるわけないでしょ、バカって思って。」
 本当は、何煽ってんじゃ、空気読めや馬鹿野郎! と思っていたが口に出すわけにもいかないので黙っておいた。
 その後もベンツは何度もクラクションを鳴らしながらパッシングをしてきた挙句、いざ右折するときにもパッシングしてきたので、
さすがにムカついてきたので、喧嘩売っとんのかこの野郎、そんなに売りたいならその喧嘩買ったっらあ、と思ってしまい、自分以外にも人が乗っているという事実を忘れて、
ステアリングを右に切り交差点を曲がりきったところから、一気にアクセルを踏み込んで車をキックダウンさせ、ベンツを振り切った。
 急に後ろの方に体を押し付けられたためか、加速したとたん悲鳴が車中に響いた。あわててアクセルを緩めて、次の信号が赤だったのでついでに減速して停車する。

249:ふみあ
09/06/27 05:35:19
 何だろう、気まずい、視線が痛い。まず、春日先輩が口を開いた。
「薫君。」
「は、はい(-_-;)。」
「今のは何だったのかな?」
「いやあ、後ろの車がしつこかったので、振り切ろうって思いまして思いっきり加速したのですけど。…ハハハ。」
なんとかそれだけ言うと母が、
「あんた何キロ出せば気が済むの。事故起こしたらシャレじゃすまないのよ。」と呆れ、怒っている。
「ごめんなさい。」と謝ると、天城さんが「怖かったです。」と泣き出しそうになっていたので、
「ごめんね。祈さん。大丈夫だから。ね。」
泣かないで、頼む。
 肝心のベンツはさっき振り切られて戦意喪失してしまったのか、だいぶ距離を取って後ろに止まっている。もちろん煽ってこない。

250:ふみあ
09/06/27 06:05:25
 気を取り直して出発することにする。とりあえずここからランプまでのルートを確認する。
「ここから先はしばらく道のりで行くとして、ランプまでの道順はどうなっているんでしょうか?」
「というと?」
「中央高速のランプだと一方方向の可能性が高いので、高速沿いにどこかで東の方に左折しなきゃいけないかな、って思いまして。」
「いや大丈夫だよ。この道はこのまま自動車専用のバイパスとして高速道路と立体交差しているからね。」
「というとそこのジャンクションで高速の入口に直接入れるんですか。」
「ああ、最近できたんだよ。もうすぐバイパスの入口だよ。」
 見ると、前方に道の真ん中だけ坂になっておりその先が高架になっている。そして入口には自動車専用道の標識が立っていて、車がどんどんそちらに流れている。
しかも高速とのつなぎであるためか、高速並に流れが速い。制限速度は80キロのようである。
 僕は流れに乗るため、みんなに声をかけた。
「今から速度を思い切り上げますから気を付けて下さい。」
「え?」「ちょっと!」「きゃっ」
「上げますよ、いきますよ。」
 右ウインカーを点滅させながら追い越し車線に合流し、加速しながら坂を登って行く。気がついたら100km/hを超えていた。みんな飛ばしているねえ。

251:ふみあ
09/06/27 06:06:07
 結局120km/hまで加速し、周りの車をバンバンと追い越すことになった。
「しかし、走りやすい道ですねえ。ホントに高速道路みたい。どちらかというと新御堂筋かしら。」
思わず感想がもれてしまう。本当にそれは標識が青くなかったら、ちゃんと出入り口に、加減速用の車線と、案内標識、交通情報ラジオを備えた中々のものだった。
しばらく前から、高速道路の補完事業としてこのような規格の自動車専用の一般道が整備されているが、これもその一つだろう。
「だからと言って、少し飛ばし過ぎじゃないかい?」
「そうですよ、少し落とした方が…」
「飛ばし過ぎよ。スピードを落としなさい。」
「そうですか、160くらいなら普通に出しますよ。むしろこれでもゆっくり走っている方ですから。」
「まさか。」
「ホントですよ。そろそろ高速との接続みたいですね。確か新宿方向でしたよね? 4号からC1経由で5号か、C2か、どちらかで行こうと思うので。」
「ああ。そうだね。」
「じゃあここの出口をでて、こう行ってっと。あ、本当に料金所がある。お母さん、ETCで行くけど、いいよね?」
「いいわよ。」
「ありがとう。」
ETCカードを機械に挿入する。

252:ふみあ
09/06/27 06:06:48
 料金所のETCレーンを通過しようとすると、目の前に見かけたことのある車が現れた。
「前の車、紫苑様のお宅のお車ですよね。よかった、追いついた。」
後は、この車の後ろについていけばいいだろう。だが、そう思ったのもつかの間だった。
 合流するときまでは良かったのだが、本線車道を走り屋と暴走族が集団で猛スピードで疾走していたために、ミニバンは減速して一時退避。
僕の方はこの手の合流には慣れていたので、気にせずスピードを上げながらそのまま合流してしまい、またしても離れ離れになったのだ。
「あらら、また逸れちゃいましたね。」
「薫さん。そ..そんな呑気なことを言っている場合ではないような。」
「そうだよ薫君、成り行きとはいえ、この先どうするんだい。」
「別に、このままこの流れに乗っていくしかないでしょう。」
「そうはいっても、このままだと危険だと私は思うのだが。」
「大丈夫ですよ。」
確かに現在180km/h以上を出しているが、カーブでは減速するし、普段からこのくらい出しているので特に問題には思わないのだが。むしろ前を走るローレルのドライバーがよほどうまいのか、
的確な加減速とライン取りで走っているので安心してついていっていられるのだけれど、やはり3人とも怖いらしい。
 料金所を知らせる看板が見え始めたころ、前を走る車が次々とハザードを点滅しながら減速し始めたので僕もそれに倣う。料金所が見え始めると、今度は青と白のレーンで色分けられたETCレーンにレーン変更し、
徐行しながらブースを通過する。

253:ふみあ
09/06/27 06:35:28
 そのまま加速して本線に合流しようとしたが、前方の車が次々とブレーキランプを点灯させて停車していく。平日昼間の首都高の名物、渋滞に巻き込まれたようである。
しかも厄介なことに完全に停止するわけではなく少しずつだが、動いている。
「あーあ、やんなっちゃう。」
思わず不満を漏らす。
「どうせ渋滞になるなら完全に止まってくれればいいのに。」
「少しでも動いていた方がいいやない。」と母が言う。
「同乗だとね、でも運転している分では止まっていた方がいいですよ、休めるから。ブレーキ踏みながらの徐行って神経使うから疲れるんですよ。」
「そういうものなのですか?」と天城さん。
「そういうものですよ。」
と答えた。
 しばらく行くと今度は完全に止まってしまった。車のギアをNに入れ、サイドブレーキを踏み、ステアリングから手を離して姿勢を楽にする。
暫くはこの場所から動けないだろう。少し休むことにした。

3-4終了。3-5に続きます。

254:ふみあ
09/06/28 05:19:33
3-5 首都高でナンパ?
>>???
 「チキショー、完全に止まっちまいやがったジャンよー。」
「ホントパネェ。」
隣の助手席と後席の左側に座った男がグーたら文句を言っている。それを聞いた運転役の男が、
「文句いっても仕方ねえだろう、お前ら。」
と二人をなだめている。
 こんな時間に男3人が一台の車に乗って移動しているのもどうかと思うが、仕事中でもないらしい。3人とも典型的なチャラ男のようである。運転役の男は金髪の短髪で、耳にピアスをした、
黄色い半袖のTシャツにブルージーンズを着て、首にゴールドチェーンのネックレスをしている日焼けした若い男である。この中では一番の二枚目で、このグループのまとめ役のようである。
助手席の男は茶髪にロン毛の、いかにも自分の事をかっこいいと勘違いしたお調子者の三枚目な感じの、赤い半袖のTシャツに白いチノパンを着て、青いジージャンを羽織った若い男で、
後ろに座っているのは黒いTシャツに迷彩のミリタリーズボンをはいた
スキンヘッドに赤いバンダナをした若い男である。
 3人はどうやら八王子から渋谷の方へナンパに行くらしい。その道中で渋滞に巻き込まれてしまったという訳だ。尤も改造されているとはいえ、半分クラッシックカーとなっている
黒いY32のグロリアに乗りたがる女子高生がいるかどうか疑問だし、どこかで車を降りるにしても、とてもじゃないが彼らに女の子をゲットすることができるとは思えないから急ぐ必要ないと思うのだが、
彼らはこの状況に不満を持っていた。なぜ、今俺たちは男3人で渋滞の中こんな狭い車の中に閉じ込められなきゃいけないのか、と。
 もうそろそろイライラも限界に来た頃、ロン毛の男が気晴らしに窓を開けたとき、彼の眼に一台の車、シルバーメタリックの古いマークⅡが映った。どう見ても黒いスモークが張ってある普通の改造車なのだが、
何か違和感がある。男が目を凝らしてスモーク越しに内部を窺って見ると…

255:ふみあ
09/06/28 05:20:14
「おい、見ろよ。あの車。」
と、中を確認した男が仲間に向かって叫んだ。
「なんだどうした。」
「あの100がどうかしたのかよ。」
「よく見ろよ、運転しているの女の子だぜ。」
「マジで、うお! 本当だ。」
「どれどれ….ほう。」
「他にも女の子が乗っているみたいだぜ。」
「本当だ、っておい、オバンが一人乗っているじゃねえか。」
「でもよお、3人も女の子が乗っているぜ。しかも3人とも女子高生らしい。制服着てるぜ。」
「しかも結構かわいくね? やる? やっちゃう?」
「そうだな、さそうか。おい、直哉、声かけろや。」
「おう、任しとけ。」
と、直哉と呼ばれたロン毛男は助手席から身を乗り出した。

256:ふみあ
09/06/28 05:20:55
>>薫
 すごく誰かに見られている、そんな嫌な気配を感じたその時だった。突然運転席の窓をノックする音と振動を感じたので、ドアに肘を掛けて頬杖をついた状態で外を見ると、たまたま並んだ黒いY32から身を乗り出した若い男と目があった。
と思ったら突然その車がクラクションを鳴らしてきた。よく見ると身を乗り出している奴以外に二人の男が乗っているのが見えた。3人ともこちらに手を振ったりクラクションを鳴らしたりしている。
 最初は僕の車に異常があるのか、知らず知らずの内に迷惑をかけたのかと思ったが、警告灯は点いてないし、どうもそういう感じではない。どうやらナンパを仕掛けているようである。関わらない方がいいな、と思ったので天城さんに呼びかけた
「祈さん。祈さん。」
「何でしょうか? 薫さん。」
「絶対にそちらの窓の外を見ないで下さい。」
「?」
「なにも聞かないで、ただ目を合わせなければいいんです。前を向いて。」
「は、はい。」
と、天城さんは少し混乱しながらも従ってくれた。

257:ふみあ
09/06/28 05:21:37
 その時春日先輩が話しかけてきた。
「薫君、何かあったのかい。」
「ええ、どこかの馬の骨がナンパを仕掛けてきたみたいです。」
「ナンパ?」
「隣に並んでさっきからモーションをかけているみたいです。聞こえるでしょう、クラクション。」
「ああ、それでさっきから警笛が何度も鳴っているのか。で、君はどうするつもりなんだい。」
「僕は無視した方が賢明だと思うんです。だから雪乃様もあまり向こうの方を向かないで下さい。」
「わかった。私もその方がいいと思う。」
 その時母親が、
「でも薫、この車に何かあるんじゃないの? その、どこか壊れてるとか、そういう事を教えてくれてるんやないん?」
「それはないわ。どこも壊れてないし。それにあの雰囲気は絶対ナンパよ。」
「そやけどね…」
「言いたいことはわかるわ、お母さん。この車は黒いフィルムを張っているからたぶんあの人たちにはお母さんのこと、見えていないわ。ただ…」
「ただ?」
「保護者がいることをわかった上でやっているとしたら少し厄介ね。」

258:ふみあ
09/06/28 05:22:17
 渋滞が解消することを、今か今かと待っていたが、少しずつ列が動くことはあっても、Y32を振り切れるほどには全然届かないレベルである。未だに隣にくっついているY32からは、
余程諦めが悪いのか、まだチャラ男どもがアプローチをかけている。
 いい加減に諦めろよと呆れつつも頑なに彼らの誘いを断っていると、「ドンッ」という音と共に茶髪ロン毛が車のドアを拳骨で叩いたのが目に入った。
 野郎っ、と怒鳴りかけたが、ここは理性で抑えて右手を左の方へ掌を突き出すように抑止のジェスチャーを取る。左と後ろの方へ口出しをするなと合図してから、
ドアのひんじに付けられた運転席側のパワーウインドウのスイッチをいっぱいに押して窓をあけ、隣の車を睨みつける。
 こっちが振り向くのを待っていたのか、目があったとたんすぐに男どもが、
「Yo Yo、彼女。俺らと遊ばない?」
「楽しいことしようゼイ。」
「かわいがってやるぜ。」
と、この手の定番というか、ありきたりの慣用句を並べ立ててきた。やはりその手の誘いだったようである。

259:ふみあ
09/06/28 05:53:40
 もともとナンパに乗るつもないし、そもそも乗れないので適当に聞き流して文句を言う。
「すみませんが、今私の車を叩いたのはあなたですか?」
と助手席の男に尋ねるとロン毛の男は、
「叩いたって、ヤダなあ、ちょっとノックしただけじゃん。」
「そうそ、全然俺らの熱いアプローチに気づいてクンねえだもん。」
「だからって、そんな何触ったか分からないような手で車に触らないで頂けませんか。それにあなた方のような色男のお誘いに乗るほど、
私お尻の軽い女じゃありませんから、やめて頂きません? はっきり言って迷惑なんです。」
「車叩いた事は謝るからさあ、そう固いこと言わず付き合ってよ。」
「ていうか、この娘ひょっとしていいとこのお嬢じゃね? ね?」
「ピチピチの女子高生でいいとこのお嬢様かよ、こいつぁ悪かねえな。」
「ねぇ彼女ぉ。ひょっとして隣と後ろの娘もお嬢様のお友達ぃ? だったら俺らにも紹介してくれねぇ? 一緒にどっか行こうぜぇ。」
「ごめんなさい。私たち所用があるんです。他の方を当たって頂きません? それにお気づきではないかもしれませんが、保護者も乗っているんです。諦めて下さい。」
「他の人なんてどこにいるのかなぁ。」
「せめて、名前とメアドくらい教えてよ。」
「ババアなんてほっといて楽しいことしようぜ。」
「全力でお断りします。」

260:ふみあ
09/06/28 05:54:22
「そう固いこと言わずにさ、ねぇねぇ。」
「嫌です。」
「そう言わずにさあ。」
「しつこいですよ。」
「ひょっとして彼氏いんの?」
「大丈夫、彼氏よりきもちよくしてやっからさぁ。ヘッヘッヘ。」
「いませんし、そういうの興味ありません。」
「だったらさあ。俺らにつきあってよぅ。」
「いい加減にしないと怒りますよ!」
「うぉっ、怒った顔もかわいくね。」
「キュンってくるう。」
 ダメだこりゃ、少しでも相手をした僕が馬鹿だったと、後悔しながらパワーウインドウのスイッチを思い切り引っ張った時だった。


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