04/05/05 21:20
文盲にもわかる名文。
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蠅はうるさい。もう冬だから、陽盛りにしか出て来ないが、布団にあごまで埋めた私の顔まで遊び場にする。
蠅について大発見をした。彼が頬にとまると、私は頬の肉を動かすか、首をちょっと振るかして、
これを追い立てる。飛び立った彼は、すぐ同じところに戻ってくる。また追う。飛び立って、またとまる、
これを三度繰り返すと、彼は諦めて、もう同じ場所には来ないのだ。これはどんな場合でも同じだ。
三度追われると、すっぱり気を変えてしまう、というのが、どの蠅の癖でもあるらしい。
めくらクジラ
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次郎は怪しい気配を察知し振り返り、そして次の刹那、戦慄した。
次郎が目にしたものは、まるで不動明王のような恐ろしい形相をし、
息を荒げ、眼を血走らせ、手に包丁を握り締めて迫って来る太郎の姿であった。
次郎は、恐怖のために全身に滲み出す汗を、感じるよりも先に
生存本能のためか、既に駆け出していた。
追ってくる足音に背筋が凍る思いであり、また、激しい動きのために
呼吸は苦しくて仕方が無いが、足を止めるわけにはいかぬ。
次郎は太腿に走った激痛に、筋肉が悲鳴をあげていることを自覚した。