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私は、作家として、一生、男の魅力とはどんなものかを考えつづけ、私なりに考え
た魅力を書きつづけようと思っている。女に魅力があるように、男には、どの男の中
にも、きわめて魅力的な部分がある。私は資料をよむとき、この男の魅力とはどこか、
と考える。魅力が感じられなければ、どんなにおもしろくても捨ててしまう。
資料をよむたのしみは、男のそういう魅力に接するたのしみである。この魅力は、
現代小説では表現できない。現代というのは、男が魅力を喪失した時代だからである。
私は資料をよみながら、ぼうばくとした「時代」を背景にその男の魅力を置いてみ
せ、美術ずきの者が美術品を鑑賞するような、舌なめずるような楽しさでさまざまに
想像する。このたのしみは、病気になろうがどうしようが、やめられるものではない。
「司馬遼太郎が考えたこと 2」より