10/03/03 16:21:22 q11y2yuT
なんとかデビューできたものの1冊目の売り上げが芳しくなく、
2冊目の結果次第では「次は新ネタで様子を見よう」という話になったので、
とにかく必死に原稿を書いた。
編集と練りに練ったプロットだったが、書けば書くほどに「面白い作品」からは
かけ離れていっているような気がして、命を削る思いで修正を繰り返していた。
締め切りまで2週間と少しといった所で、編集が「打ち合わせをしたい」と言ってきた。
いつもは近所のファミレスで話すんだが、
その日は「込み入った話があるので」と俺の家での打ち合わせを希望してきたので、
原稿の推敲もそこそこに部屋を片付けて待つ事にした。
編集は時間より少し早くやってきて、神妙な面持ちで原稿に目を通すと、
不機嫌そうな表情で「シュレッダーお借りしてもいいですか」と言い放った。
頭を過ぎる最悪の結果を必死で振り払いながら、シュレッダーの電源を入れて明け渡すと、
彼は鞄から取り出した紙束をどんどんシュレッダーにかけた。
呆気に取られる俺。
彼が紙くずを見つめながら独り言のように呟いた。
「2作目の原稿、プロットは良かったものの、正直仕上がりは凡庸で売れそうにないと思っていたんですよ」
同感だった。
「それで、残りの時間でどうにかリカバーできないかと、色々案を練ってきたんですけど……」
なぜか目頭が熱くなった。
「ご自身でここまで昇華されたんですね。余計なお世話でした」
その後、お互いに感謝しあい多少の話し合いをして打ち合わせは終わった。
そしてその本は1冊目よりも売れず、3冊目の話はお流れになった。